説明

有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法及び改質方法

【課題】 有機繊維コードに対するディップ液の付着量の低減、並びにその付着量の有機繊維コードの長手方向及び日間のばらつきの低減を行う。
【解決手段】 ディップ液34bが収容されたディップ液槽34aと、ディップ液槽34a内を通過することでディップ液34bが付着した有機繊維コード36から過剰なディップ液を絞り取る絞りロール43、ディップ液34bが付着した有機繊維コード36から過剰なディップ液を吸引するバキューム装置45a,45bと、ディップ液の絞り取り及び吸引後の有機繊維コード36の水分率を測定する非接触水分計46と、水分率の測定値と目標水分率との差分値に応じて、バキューム装置45a,45bの吸引力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤコード等に用いられる有機繊維コードに対し、適切な物性及びゴムとの接着性を付与するための接着剤付着コントロール方法及び改質方法に関し、詳細には、接着剤の付着量の節減及びその付着量のコード長手方向及び日間のばらつきの低減を可能にした有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法及び改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤコード等に使用される有機繊維コードに対し、適正な物性及びゴムとの接着性を付与した有機繊維ディップコードの一般的な製造設備は、有機繊維コードを送り出すための送出機構と、送り出された有機繊維コードをディップ液槽中のディップ液に浸漬させてディップ液を付着させるディップ処理装置と、ディップ液が付着した有機繊維コードを乾燥させるドライ(乾燥処理)ゾーンと、乾燥処理を受けた有機繊維コードに熱処理を施す熱処理ゾーンと、熱処理を受けた有機繊維コードを巻き取るための巻取機構とを備えている。
【0003】
ここで、ディップ液は有機繊維コードとゴムとの接着性を確保するために最適な配合を有するレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体/ゴム・ラテックス混合液(RF/L)等である。ラテックスとは、ゴムやプラスチックなどの高分子が乳化剤等により水溶液中に分散されたものであり、このディップ液はゴムに対する接着性を向上させるために用いられる、水を溶媒とした接着剤である。
【0004】
ディップ液槽から出た有機繊維コードは、一定の加圧力を有する絞りロールにより絞られることで、過剰なディップ液が除去されている。ドライゾーンでは有機繊維コードに付着したディップ液を乾燥させる。また、熱処理ゾーンでは、有機繊維コードに付着したディップ液を加熱により有機繊維コードに接着し、さらに所定の熱延伸条件でリラックス処理する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の有機繊維ディップコードの製造装置では、ディップ液の液量、濃度、温度、ディップ液槽内における有機繊維コードの張力(テンション)及び浸漬時間、有機繊維コードの原糸生産時のオイリング量等の多数の変動要因があるため、ディップ液の付着量が有機繊維コードの長手方向及び日間で大きくばらつく。そこで、ディップ液の付着量の目標値を高めに設定することで、接着性を確保しているため、ディップ液を付け過ぎている。このため、ドライゾーン及び熱処理ゾーン中にて有機繊維コードにスケールが付着することによる作業性悪化、及びディップ液の使用量が過剰になることによるコストアップの問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、有機繊維コードに対するディップ液の付着量の低減、並びにその付着量の有機繊維コードの長手方向及び日間のばらつきの低減を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を吸引する工程と、該ディップ液が吸引された有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記吸引する工程における吸引力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法である。
請求項2に係る発明は、有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を絞り取る工程と、該ディップ液が絞り取られた有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記ディップ液を絞り取る工程における絞り取り力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法である。
請求項3に係る発明は、有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を絞り取る工程と、該ディップ液が絞り取られた有機繊維コードから過剰なディップ液を吸引する工程と、前記ディップ液の絞り取り及び吸引後の有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記ディップ液を絞り取る工程における絞り取り力及び前記ディップ液を吸引する工程における吸引力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法である。
請求項4に係る発明は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、請求項1〜3の何れかに1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記乾燥工程を、前記接着剤付与量がコントロールされた有機繊維コードに対するマイクロ波の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法である。
請求項5に係る発明は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、請求項1〜3の何れか1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程を、前記乾燥された有機繊維コードに対する遠赤外線の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法である。
請求項6に係る発明は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、請求項1〜3の何れか1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記乾燥工程を、前記接着剤付与量がコントロールされた有機繊維コードに対するマイクロ波の照射により行うとともに、前記熱処理工程を、前記乾燥された有機繊維コードに対する遠赤外線の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法である。
請求項7に係る発明は、前記有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードを1〜250本にて同時に改質する請求項4〜6の何れか1項記載の有機繊維コードの改質方法である。
【0008】
(作用)
請求項1に係る発明によれば、有機繊維コードをディップ液に浸漬して表面にディップ液を付着させ、付着した過剰なディップ液を吸引し、過剰なディップ液が吸引された有機繊維コードの水分率を測定し、その測定値と水分率の目標値との差異に応じて、有機繊維コードに対するディップ液付着量が目標範囲となるように、ディップ液を吸引するための吸引力をフィードバック制御する。
請求項2に係る発明によれば、有機繊維コードをディップ液に浸漬して表面にディップ液を付着させ、付着した過剰なディップ液を絞り取り、ディップ液が絞り取られた有機繊維コードの水分率を測定し、その測定値と水分率の目標値との差異に応じて、有機繊維コードに対するディップ液付着量が目標範囲となるように、ディップ液を絞り取るための絞り取り力をフィードバック制御する。
請求項3に係る発明によれば、有機繊維コードをディップ液に浸漬して表面にディップ液を付着させ、付着した過剰なディップ液の絞り取り及び吸引を行い、過剰なディップ液の絞り取り及び吸引後の有機繊維コードの水分率を測定し、その測定値と水分率の目標値との差異に応じて、有機繊維コードに対するディップ液付着量が目標範囲となるように、ディップ液を絞り取るための絞り取り力及びディップ液を吸引するための吸引力をフィードバック制御する。
請求項4に係る発明によれば、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法により有機繊維コードの接着剤付着量が目標範囲となるようにコントロールし、次にその有機繊維コードにマイクロ波を照射して乾燥させ、次いで乾燥された有機繊維コードを熱処理により改質する。
請求項5に係る発明によれば、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法により有機繊維コードの接着剤付着量が目標範囲となるようにコントロールし、次にその有機繊維コードを乾燥させ、次いで乾燥された有機繊維コードに遠赤外線を照射して改質する。
請求項6に係る発明によれば、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法により有機繊維コードの接着剤付着量が目標範囲となるようにコントロールし、次に有機繊維コードにマイクロ波を照射して乾燥させ、次いで乾燥された有機繊維コードに遠赤外線を照射して改質する。
請求項7に係る発明によれば、請求項4〜6の何れか1項に記載の方法により、有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードを1〜250本同時に改質する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、過剰なディップ液が除去された有機繊維コードの水分率の測定値が予め定められた目標範囲となるように、過剰なディップ液を除去する装置の最適な条件へフィードバック制御することにより、有機繊維コードに対する過剰な接着剤の付着を防止すると共に、その付着量の有機繊維コードの長手方向及び日間のばらつきを低減することができる。
また、本発明は、特に前記有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードを1〜250本にて同時に改質する際に好適であり、乾燥設備としてマイクロ波等の電磁波により水分乾燥を行う処理装置において特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る有機繊維ディップコードの製造装置におけるディップ処理装置の構成を示す図である。この製造装置は図示されていない生産管理システムからの運転開始指令及び運転終了指令に従って動作の開始及び終了を行う。ここで、ディップ処理装置以外の部分、即ちドライゾーン、及び熱処理ゾーンは一般的なものと同一でもよいが、ドライゾーンとして有機繊維コードにマイクロ波を照射して乾燥させる設備、熱処理ゾーンとして有機繊維コードに遠赤外線を照射して改質する設備を用いることで、それぞれの処理時間を短縮するとともに、処理中の有機繊維コードの特性劣化を抑えることが好適である。
【0011】
本実施形態に係るディップ処理装置34は、ディップ液34bが収容されたディップ液槽34aと、図示されていない送出機構から送り出された有機繊維コード36を搬送するフリーロール41,42,44と、有機繊維コード36に付着した過剰なディップ液を絞り取る絞りロール43とを備えている。フリーロール41は、ディップ液槽34aに対し、有機繊維コード36の搬送方向上流側に配置され、フリーロール42はディップ液槽34a内に配置されている。また、絞りロール43はディップ液槽34aに対し、有機繊維コード36の搬送方向下流側に配置され、フリーロール44は絞りロール43の下流側に配置されている。
【0012】
さらに、本実施形態に係るディップ処理装置34は、フリーロール44に対し、有機繊維コード36の搬送方向下流側において、有機繊維コード36に対向配置された一対のバキューム装置45a,45bと、その下流側のドライゾーンの入口付近において、有機繊維コード36に対向配置された非接触水分計46とを備えている。
【0013】
絞りロール43は、有機繊維コード36の搬送方向上流側から順に直線状に配置された3つのロール43a,43b,43cからなる。また、両端のロール43a,43cはそれぞれエアシリンダ62,63のピストンロッドの進退に連動して、図の矢印(ここでは上下)方向に変位可能に構成されており、その位置に応じて、ロール43a,43cの外周面と中央のロール43bの外周面との間の隙間が変化するため、有機繊維コード36に対する加圧力が変化する。従って、この絞りロール43は、エアシリンダ62,63のピストンロッドを進退位置を変化させることにより、有機繊維コード36に付着した過剰なディップ液34bを絞り取る量を変化させることができる。
【0014】
バキューム装置45a,45bは有機繊維コード36に付着した過剰なディップ液34bを吸引して除去する。また、減圧度を変化させて吸引力を変化させることにより、吸引量を変化させることができる。非接触水分計46は水分量に応じて誘電率が変化する性質を利用して、非接触で有機繊維コード36に付着しているディップ液34bの単位長毎の水分率をオンラインで計測できる。
【0015】
制御装置51は、このディップ処理装置34全体の制御等を行うものであり、CPU52と、メモリ53とを備えている。メモリ53には、有機繊維コード36の接着力を保証するために要求されるディップ液付着量の目標値、目標範囲を示すデータ54、上記有機繊維コード36のディップ液付着量の目標値、目標範囲(データ54の内容)に対応する水分率の目標値、目標範囲を示すデータ55、非接触水分計46による有機繊維コード36の水分率の測定値(水分計46の指示値:以下、水分率データ値と言う)と実施例にて後述する水分率の実測値との対応関係を示すテーブル(後述する図4のグラフに対応)、有機繊維コード36の水分率データ値の目標値、目標範囲を示すデータ57(後述する図4のグラフの縦軸の非接触水分計指示値の目標値、目標範囲に対応)、ドライゾーンの入口付近における有機繊維コード36の水分率データ値を目標値W0に設定するためのバキューム装置45a,45bの減圧度P0並びにエアシリンダ62及び63の空気圧P1を示すテーブル58(図2(a)参照)、非接触水分計46で測定された有機繊維コード36の水分率データ値とその目標範囲との差分値ΔWと、バキューム装置45a,45bの減圧度の増減量ΔP0並びにエアシリンダ62及び63の空気圧の増減量ΔP1との関係を示すテーブル59(図2(b)参照)が格納されている。ここでは、目標値は目標範囲の中央の値である。また、これらのテーブルは、事前に測定等を行った結果に基づいて作成される。
【0016】
以上の構成を有するディップ処理装置34の動作について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。まず、図示されていない生産管理システムから有機繊維ディップコードの製造装置に運転開始指令が入力されると、制御装置51はテーブル58を参照して、ドライゾーンの入口付近における有機繊維コード36の水分率データ値を所要の目標値W0に設定するためのバキューム装置45a,45bの減圧度、エアシリンダ62,63に供給する空気圧P1を読み出し、読み出した値に従って、バキューム装置45a,45bの減圧度P0、エアシリンダ62,63の空気圧P1を設定すると共に、図示されていない各ゾーンのプルロールを駆動する(ステップS1)。この結果、有機繊維コー36は、ディップ液槽34aのディップ液34b中に浸されてディップ液が付着された後、絞りロール43により過剰なディップ液が絞り取られ、さらにバキューム装置45a,45bにより過剰なディップ液が吸引されて除去され、ドライゾーンの入口付近へ搬送される。
【0017】
次いで、ドライゾーンの入口付近に配置された非接触水分計46で計測した有機繊維コード36の水分率データ値が制御装置51に入力される(ステップS2)。制御装置51は、入力された水分率データ値とその目標範囲(図2のデータ57)とを比較し(ステップS3)、目標範囲内であれば(ステップS3でYES)、生産管理システムから運転終了指示が入力されたか否かを判定し(ステップS6)、入力されていなければステップS2に戻る。この場合、バキューム装置45a,45bの減圧度P0、エアシリンダ62,63に供給する空気圧P1は運転開始時(ステップS1)に設定された値に維持される。
【0018】
一方、入力された水分率データ値が目標範囲の下限値より小さい場合は、その下限値からの差分値に対応するバキューム装置45a,45bの減圧度の増減量並びにエアシリンダ62及び63の空気圧の増減量をテーブル59から読み出し、読み出した値に従って、バキューム装置45a,45bの減圧度及びエアシリンダ62及び63の空気圧を制御することにより、バキューム装置45a,45bの吸引力を低下させ、ロール43a,43cの加圧力を低下させる(ステップS4)。これにより、非接触水分計46の位置に到達した有機繊維コード36の水分率が増加する方向に制御される。
【0019】
また、入力された水分率データ値が目標範囲の上限値より大きい場合は、その上限値からの差分値に対応するバキューム装置45a,45bの減圧度の増減量並びにエアシリンダ62及び63の空気圧の増減量をテーブル59から読み出し、読み出した値に従って、バキューム装置45a,45bの減圧度及びエアシリンダ62及び63の空気圧を制御することにより、バキューム装置45a,45bの吸引力を増強し、ロール43a,43cの加圧力を増強する(ステップS5)。これにより、非接触水分計46の位置に到達した有機繊維コード36の水分率が減少する方向に制御される。
【0020】
以上のように過剰なディップ液を除去することで、接着剤の付着量が適切にコントロールされた有機繊維コードは、図示されていないドライゾーンへ送られる。ドライゾーンでは、有機繊維コードに対し、マイクロ波を照射することで、接着剤の乾燥を行うことが好適である。これにより、従来のように熱オーブンを用いる場合よりも1/12〜1/30程度の短時間で行える。また、元の撚コードの強力低下を極力抑えることができるため、タイヤの補強材として適切な物性を備えた高性能の改質コードを効率良く得ることができる。
【0021】
乾燥された有機繊維コードは、図示されていない熱処理ゾーンへ送られる。熱処理ゾーンでは、乾燥された有機繊維コードに対し、遠赤外線を照射することで、上記マイクロ波の使用と同様な効果を得ることができる。特に遠赤外線の照射により熱処理を行うことで、熱処理工程の律速となる接着反応速度を向上させることができるため、処理に要する時間を従来のように熱オーブンを用いる場合よりも1/2〜1/8程度に短縮できる。このため、熱処理時の繊維の劣化に起因するコード物性の低下を抑えることができるとともに、タイヤの補強材として適切な所望の接着性を確実に得ることができる。
【0022】
[実施例]
次に実施例及び比較例について説明する。実施例、比較例(従来例)に用いた有機繊維コードは何れも「ナイロン(登録商標)66、1400dtex、撚り構造、1400dtex/2で撚り数39×39回/10cm(下撚り×上撚り)」である。
【0023】
また、実施例、比較例共に、ドライゾーン31、熱処理ゾーンにおいて、有機繊維コードを加熱する温度、露出時間、張力は、それぞれ、140℃×60秒×0.727g/dtex、235℃×30秒×0.727g/dtex、235℃×30秒×0.727g/dtexとした。
【0024】
さらに、CPU52が下記の式[1]を用いて、有機繊維コード反の接着力を保証するために要求される接着剤固形分付着量S(%)の目標範囲から、乾燥前の有機繊維コードの水分率W(%)の目標範囲を算出し、データ55としてメモリ53に格納した。なお、この式において、Ds(%)はディップ液中の固形分濃度である。
W(%)=S(1−Ds)/(Ds+S)・・・式[1]
【0025】
また、非接触水分計46として、アドバンステクノロジー社のプロセス水分計ST-2200Aを使用し、予めサンプリングした有機繊維コード反に対する非接触水分計46の指示値と、その有機繊維コード反の水分率の実測値(乾燥前と、125℃×30分乾燥後との質量差)とから、図4に示すような非接触水分計46の指示値(水分率データ値)と有機繊維コードの水分率との対応関係を示すデータ56をメモリ53に格納し、さらに水分率の目標値及び目標範囲(データ55)に対応する非接触水分計46の指示値の目標値及び目標範囲を示すデータ57を作成し、メモリ53に格納した。
【0026】
そして、非接触水分計46の指示値とその目標範囲(図2のデータ57)との差分値に応じてバキューム装置45a,45bの減圧度を制御した。
【0027】
実施例及び比較例の評価方法は以下のとおりであり、評価結果を表1に示す。
【表1】

1)接着剤付着量
化学繊維タイヤコード試験方法JIS L1017-1995(7.15項)に則り、資料コードの乾燥後の質量を計測し、その後蟻酸で溶解させ、濾過残渣質量を計測し、それらの質量差から、付着量を算出した。
2)接着力
有機繊維ディップコードをゴム中に埋没させ、所定の温度・圧力下で加硫し、その後ゴムから引き抜くときに要する力を接着力とした。値は比較例を100とする指数(INDEX)で表示したものである。
【0028】
表1より、20ロットを評価した結果、接着剤付着量の平均値は5.9%から5.0%になり、約15%低下している。また、ばらつき(標準偏差)は0.43から0.25となり、約42%低下している。さらに、接着力は同等以上であり、コスト指数は2%程度低下している。これにより、接着剤の付着量のばらつきの低減、接着剤の付着量の低減(適正化)及びそれによるコストの低下が実証された。
【0029】
なお、以上の実施形態では、非接触水分計46の指示値とその目標範囲との差分値に応じてバキューム装置45a,45bの吸引力及び絞りロール43の絞り力を制御しているが、本発明がこの制御方法に限定されないことは言うまでもない。例えば、非接触水分計46の指示値に対応する水分率(図4のグラフの横軸の値)を算出し、その算出値とその目標範囲との差分値に応じて制御してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る有機繊維ディップコード反の製造装置におけるディップ処理装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態におけるコード水分率とバキューム装置の減圧度及びエアシリンダの空気圧との対応関係のテーブルである。
【図3】本発明の実施形態に係るディップ処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施例における非接触水分計の指示値と有機繊維コードの水分率との対応関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0031】
34a・・・ディップ液槽、34b・・・ディップ液、41,42,44・・・フリーロール、43・・・絞りロール、45a,45b・・・バキューム装置、46・・・非接触水分計、51・・・制御装置、62,63・・・エアシリンダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を吸引する工程と、該ディップ液が吸引された有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記吸引する工程における吸引力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法。
【請求項2】
有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を絞り取る工程と、該ディップ液が絞り取られた有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記ディップ液を絞り取る工程における絞り取り力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法。
【請求項3】
有機繊維コードをディップ液に浸漬し、該有機繊維コードに該ディップ液を付着させる工程と、該ディップ液が付着した有機繊維コードから過剰なディップ液を絞り取る工程と、該ディップ液が絞り取られた有機繊維コードから過剰なディップ液を吸引する工程と、前記ディップ液の絞り取り及び吸引後の有機繊維コードの水分率を測定する工程とを備え、該水分率の測定値と該水分率の目標値との差異に応じて前記ディップ液を絞り取る工程における絞り取り力及び前記ディップ液を吸引する工程における吸引力を制御することを特徴とする有機繊維コードの接着剤付着量コントロール方法。
【請求項4】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、
請求項1〜3の何れかに1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記乾燥工程を、前記接着剤付与量がコントロールされた有機繊維コードに対するマイクロ波の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法。
【請求項5】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程を、前記乾燥された有機繊維コードに対する遠赤外線の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法。
【請求項6】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法において、
請求項1〜3の何れか1項記載の方法により前記有機繊維コードの接着剤付着量をコントロール工程と、該接着剤付着量がコントロールされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、該乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含み、前記乾燥工程を、前記接着剤付与量がコントロールされた有機繊維コードに対するマイクロ波の照射により行うとともに、前記熱処理工程を、前記乾燥された有機繊維コードに対する遠赤外線の照射により行うことを特徴とする有機繊維コードの改質方法。
【請求項7】
前記有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードの1〜250本にて同時に改質する請求項4〜6の何れか1項記載の有機繊維コードの改質方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−138329(P2007−138329A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332779(P2005−332779)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】