説明

有機薄膜太陽電池の製造方法

【課題】透明電極における腐食を低下させ、優れた電気特性と耐久性が得られる有機薄膜太陽電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】透明電極上にバッファー層を形成する工程において、バッファー層中のドーパント濃度を5.0×1021cm−3以下とし最適化することで、透明電極の腐食を防ぎ、優れた電気特性と耐久性を有する有機薄膜太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜太陽電池技術に関し、詳しくは、対向する電極間に、少なくとも異なる種類の有機材料の接合による電荷分離層、もしくは活性層を有する有機薄膜太陽電池において、スズドープ酸化インジウム(ITO)電極などの透明電極である該対向電極の少なくとも一方の表面に製膜され、活性層からITO電極へのホール注入促進、ITO表面の凹凸緩和等の役割を果たす、導電性高分子からなるバッファー層の製造方法とそれを用いて作製した有機薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池は、フレキシブル基板上に製膜が可能であり、材料の選択によっては半透明とすることも可能であり、曲面に設置でき、製作に際して素子形状の自由度が高く、比較的軽量である等の特徴を有する。携帯用電子機器の電源や、系統電力以外の分散電源、建材や装飾物と一体化して家屋の内装に用いるなど、その特色を生かした用途から市場が開けることが予測されている。変換効率が10%程度となれば、系統電力用途への適用も考えられる。
【0003】
有機薄膜太陽電池は、少なくとも、透明電極、異なる種類の有機半導体材料の接合による電荷分離層、透明であってもよい対向電極とから成る。
【0004】
有機半導体材料としては、例えば電子供与性のπ共役化合物であるp型半導体としてポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ(2−メトキシ−5−(3,7−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO−PPV)等が、電子受容性のπ共役化合物であるn型半導体としてフラーレン、フェニルC61酪酸メチルエステル(PCBM)等が用いられる。これら2種の材料は混合して塗布された後、熱処理され、互いに相分離された状態で広い面積に渡ってp/n接合を形成する、バルクへテロ接合構造を活性層中に形成する。p又はn型半導体のどちらか一方を粒径が数nm〜数10nm以下の無機半導体微粒子またはナノワイヤとすることもできる。n型無機半導体微粒子としては、例えば、金属酸化物であるTiO、SnO、ITO等がある。ナノワイヤとしては、例えばエッチング等の手段により形成したSi、TiO、Al、ZnO等がある。
【0005】
透明電極としては、例えばITO、フッ素ドープSnO等が用いられるが、透明性、導電率等の点から、ITOやフッ素ドープSnOが好適である。これらの透明電極は、各種のガラス基板や、ポリエチレンテレフタレート等の透明樹脂基板上に製膜して用いることができる。
【0006】
対向電極としては、例えばAl、Au、Agなど金属の蒸着あるいはスパッタ膜、SUS基板などを用いることができる。
【0007】
透明電極から入射した光は活性層に吸収され、励起子を生じる。励起子は、活性層中の異種材料の接合により生じる内蔵電界により分離し、ホールおよび電子として活性層中を移動、電極界面に到達し、電極から外部の負荷に取り出されることにより仕事を行う。
【0008】
逆方向へのホール移動を阻止するために、活性層と対向電極との間にホールブロッキング層を設けることもあり、これにはアモルファス酸化チタン薄膜や、LiF薄膜などが用いられる。
【0009】
活性層から電極への電荷取り出しの促進、あるいは、逆方向への電子移動の阻止を目的として、透明電極と活性層との間に導電性高分子から成るバッファー層を設けることがある。
【0010】
特に透明電極としてITOを採用する場合、ITO表面の仕事関数が洗浄などの状態に依存して一定とならないことから、電極に対する意図しない電荷注入障壁が生じ、抵抗成分の増大を招く。
【0011】
また、活性層膜厚が薄いことから、ITO表面に直接活性層を製膜すると、ITO表面の凹凸により短絡の頻度が高まる。
【0012】
活性層膜厚は、キャリアの拡散長を大幅に越えて厚くすることはできないため、バルクへテロ接合を形成した場合であっても、一般に100nm以下程度となる。初期的に短絡を生じさせずにITO上に直接活性層を製膜可能であった場合であっても、長期的には、ITOからの酸素およびインジウム原子の脱離が生じ、それらが活性層に拡散することによって電気的なトラップとなり、太陽電池の特性劣化の一因となる可能性がある。そのような理由から、ITO表面に平滑、かつ、適切な仕事関数を有するバッファー層を設ける必要がある。
【0013】
特許文献1、非特許文献1〜6には、バッファー層としてPEDOT:PSS(3,4−エチレンオキシチオフェン:ポリ4−スチレンスルホネート)が主に用いられており、電気特性に優れていることが開示されている。
しかしながら、バッファー層としてPEDOT:PSSを用いることで、電気特性には優れるが、ドーパント濃度が大きいため、電極を腐食させ、耐久性に劣る欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−146981号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M.P.de Jong,et al.,Appl.Phys. Lett.77,2255−2257,(2000)
【非特許文献2】G.Greczynski,et al.,J.Elec.Spectr.&Rel.Phenom.,121,1−17,(2001)
【非特許文献3】A.W.Denier van der Gon et al.,Organic Electronics,3,111−118,(2002)
【非特許文献4】K.Kawano et al.,Solar Energy Materials&Solar Cells,90,3520−3530,(2006)
【非特許文献5】Habiba Bejbouji,et al,Solar Energy Materials & Solar Cells,94,176-181,(2010)
【非特許文献6】S.A.Cartar,et al.,Appl.Phys.Lett.,70,2067−2069,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ドーパント濃度を小さくすることで、電極における腐食を低下させ、優れた電気特性と熱耐久性が得られる有機薄膜太陽電池の製造方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の課題に鑑みてなされたものであり、PEDOT:PSSに代わる導電性高分子材料を開発し、高耐久性を有する有機薄膜太陽電池を見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0019】
第一の発明は、透明電極上にバッファー層を形成する工程(A)と、バッファー層上に活性層を形成する工程(B)とを含有する有機薄膜太陽電池の製造方法において、
透明電極上に導電性高分子を形成する工程(A)が
透明電極上に重合性モノマーを電解重合させて導電性高分子からなるバッファー層を形成させる工程と、
バッファー層を電解還元して、脱ドープさせる工程と、
を含有することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法である。
【0020】
第二の発明は、バッファー層中のドーパント濃度が5.0×1021cm−3未満であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法である。
【0021】
第三の発明は、重合性モノマーがピロール又はアニリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法を用いることで、バッファー層中のドーパント濃度が最適になり、導電率を維持したまま、遊離した酸による有機薄膜太陽電池の電極劣化を防ぐことができ、耐久性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願発明の有機薄膜太陽電池の製造方法について説明する。
【0024】
本発明の実施形態として、有機薄膜太陽電池の構造を図1に示す。
【0025】
有機薄膜太陽電池は、少なくとも、透明電極、活性層から電極への電荷取り出しの促進、あるいは、逆方向への電荷移動の阻止を目的として、透明電極表面に導電性高分子から成るバッファー層、透明であってもよい対向電極とから成る。バッファー層上に異なる種類の有機半導体材料の接合による電荷分離層からなる活性層、対向電極への正孔移動を抑制するホールブロック層を有してもよい。
【0026】
透明導電性基板上にバッファー層を形成する工程(A)と、バッファー層上に活性層を形成する工程(B)とを有する有機薄膜太陽電池の製造方法において、透明導電性基板上に導電性高分子を形成する工程(A)が重合性モノマーを電解重合させて導電性高分子からなるバッファー層を形成させる工程と、バッファー層を電解還元して、脱ドープさせる工程と、を含有することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法である。
【0027】
まず、透明導電性基板上にバッファー層を形成する工程(A)について説明する。
【0028】
本願発明の透明電極上にバッファー層を形成する工程(A)は、透明電極に下記一般式(1)で表される化合物を被覆する工程と、重合性モノマーを電解重合させて導電性高分子からなるバッファー層を形成させる工程と、バッファー層を電解還元して、脱ドープさせる工程と、を含有することを特徴とする。
【0029】
透明電極を構成する材料は、透明な導電性の材料であれば特に制限は無いが、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(SnO−Sb)、フッ素ドープ酸化スズ(SnO−F)、スズドープ酸化インジウム(In−Sn)等に代表される、酸化スズや酸化インジウムに原子価の異なる陽イオン若しくは陰イオンをドープしたものが好適に用いられる。
【0030】
バッファー層について説明する。
【0031】
本発明に使用するバッファー層には塗布または電解重合により形成された導電性高分子層を使用することができる。前記導電性高分子層は、導電性高分子を構成するモノマー、電解質の役割を兼ねるドーパント、溶媒等を含む電解液中に透明導電膜付きガラス基板およびSUS、Pt等の対向電極を浸漬し、適切な電圧を印加することにより、モノマーを透明導電膜上に電解重合して、形成することができる。
【0032】
重合性モノマーとしては、チオフェン、カルバゾール、ベンゼン、フェニレンビニレン、アニリン、ピロールまたはその誘導体に代表される芳香族環状化合物を用いることができ、電解重合によりポリマーを形成し、自立膜としての形態を維持できるものが好ましい。
有機薄膜太陽電池の電気特性が向上する点より、ピロールとアニリンが特に好ましく挙げられる。
【0033】
ドーパントとなる化合物としては、上記重合性モノマーの種類により適するドーパントは異なるが、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン類、ヘキサフロロリン、ヘキサフロロヒ素、ヘキサフロロアンチモン、テトラフロロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン類、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン類、カンファースルホン酸イオン等の環状スルホン酸イオン類、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノスルホン酸イオン類、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンジスルホン酸イオン類、2−ナフタレンスルホン酸、1,7−ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1〜4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換イオン類もしくは無置換イオン類、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン類、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等の置換または無置換の芳香族スルホン酸イオン類、ビスサルチレートホウ素、ビスカテコレートホウ素等のホウ素化合物イオン類、モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオン類が挙げられる。
【0034】
ケトン類、エステル類、アルコール類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、セルソルブ類、含チッ素化合物や、プロトン酸である、塩酸、硫酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸、ヘキサフルオロホウ酸などの無機酸類、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スチレンスルホン酸及びそのポリマーなどの有機スルホン酸、フタル酸、シュウ酸、マレイン酸、ピルビン酸、マロン酸、サリチル酸、クエン酸、フマル酸、アクリル酸及びそのポリマー、ビスサルチレートホウ素酸、または含フッ素スルホン酸系であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)イミドアニオン及び/またはトリス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチドアニオン、環状パーフルオロアルキレンジスルホンイミドアニオン等が挙げられる。
ドーパントとなる化合物は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0035】
本発明のバッファー層は、電解又は塗布により作製されるものであり、バッファー層内に存在するドーパント濃度を電解還元によりコントロールすることで、バッファー層としての導電率を維持しながら、ドーパント濃度に由来する導電性高分子の透過率をコントロールすることができる。
【0036】
バッファー層内に存在するドーパント濃度を最適化することにより、導電性高分子バッファー層から遊離するドーパント濃度を最小限に抑えることで、遊離したドーパント由来のSOイオンや、SO2−イオン等によるITO電極等の透明電極の腐食を防ぐことができるのである。
【0037】
電解重合に使用する電解液は、重合性モノマー、ドーパントとなる支持電解質、溶媒等を含むものである。
【0038】
電解重合の方法としては、例えば、透明電極であるITO基板を前記電解液中に浸漬させ、補助電極を導電性高分子層に接触または近傍に配置し、補助電極を陽極として外部陰極との間で電解重合させる方法等を挙げることができる。
【0039】
バッファー層の膜厚は、透明電極表面全体をバッファー層が均一に覆う必要があることを考慮すると100nm以下程度が好ましく挙げられ、高い光透過率が必要であることを考慮する点より、1〜50nmがより好ましく挙げられる。
【0040】
電解重合により作製されたバッファー層の光透過率はできるだけ高いことが好ましく、70〜100%であれば実用的に使用することができる。
【0041】
電解重合により作製されたバッファー層に対し、電解重合時と逆極性の電界を印加してバッファー層を還元し、ドーパントを該高分子層から脱離させる、すなわち電解還元することにより、バッファー層内におけるドーパント濃度を調整することができる。このとき、バッファー層内のドーパント濃度は、電解還元時に通電する電気量により調整が可能である。
【0042】
電解重合により作製されたバッファー層に対し、電解重合時と逆極性の電界を印加してバッファー層を還元し、ドーパントをバッファー層から脱離させる、すなわち電解還元することにより、バッファー層内におけるドーパント濃度を調整することができる。このとき、バッファー層内のドーパント濃度は、電解還元時に通電する電気量により調整が可能である。
【0043】
バッファー層におけるドーパント濃度は、5.0×1021cm−3以下が好ましく、1.0×1021cm−3以下がより好ましく、5.0×1020cm−3以下が特に好ましく挙げられる。
ドーパント濃度が5.0×1021cm−3超では、腐食してしまい、電気特性と長期安定性に劣る欠点がある。
【0044】
バッファー層上に活性層を形成する工程(B)について説明する。
【0045】
バッファー層に隣接して異なる種類の有機半導体材料の接合による電荷分離層である活性層を形成する。この層は、電子供与性のπ共役化合物であるp型半導体と、電子受容性の共役化合物であるn型半導体によって構成されている。これら2種の材料は混合して塗布された後、熱処理され、互いに相分離された状態で広い面積に渡ってp/n接合を形成するバルクへテロ接合構造を活性層中に形成する。このバルクへテロ接合層は、p型有機半導体材料とn型半導体材料とを溶媒中で配合し、配合液を塗布する等の公知の手法により形成することができる。
【0046】
バルクヘテロ接合層に用いる共役高分子は、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)等のポリチオフェン誘導体、ポリ−2−メトキシ−5−(3’,7’−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン(MDMO−PPV)等のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)(PFO)等のポリフルオレン誘導体等可視域に光吸収領域を有する共役高分子であることが好ましい。
【0047】
バルクヘテロ接合層に用いる電子受容分子は例えば[6,6]−フェニル−C61ブチルカルボン酸メチルエステル(PCBM)等のフラーレン誘導体、ペリレン誘導体等が挙げられる。一般にこれら電子受容分子は溶媒に難溶性である場合が多いため、適当な置換基を導入して溶媒に対する可溶性を付与する場合が多い。
【0048】
これら共役高分子と電子受容分子を双方が溶解可能な溶媒に適切な濃度に調節して溶液を作製する。溶媒としてはトルエン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等が使用される。共役高分子と電子受容分子の混合比や溶液濃度はバルクヘテロ接合界面を構築する相分離構造を決定するパラメータとして重要であり、塗布条件等も考慮されて決定する。こうして得られたバルクヘテロ接合層を構築する混合溶液はスピンコート、ディップコート、ドクターブレード法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ダイコート等の方法によって製膜することができる。
【0049】
電荷分離層と対向電極との間には、電荷分離層にて発生する正孔が対向電極側へ移動し、金属電極界面にて金属からの自由電子と結合して失活することを防ぐことを目的としてホールブロック層が形成される。
ホールブロック層にはLi、Cs、Ba、Ca等のアルカリ金属、アルカリ土類金属、もしくはそれらの合金として、Ca/Al、LiF/Ca、LiF/Al、BaF/Ca等が挙げられる。更には耐湿性向上を目的に、TiO、ZnO、Nb、ZrO、SnO、WO、In、Al等のゾルゲル法によって製膜される金属酸化物薄膜を用いることができる。なお、ゾルゲル法にて金属酸化物薄膜を製膜する場合、金属−酸素比率が化学量論比通りにならない場合があるが、こうした金属酸化膜もバッファー層として好適に用いることができる。
【0050】
次に対向電極について説明する。
【0051】
対向電極としては、例えばAl、Au、Ag等の金属の蒸着膜あるいはスパッタ膜、SUS基板、Ti基板、SUS、Ti等の金属メッシュ、Ag、Au粒子と樹脂バインダ等から成る金属ペーストを用いた印刷による皮膜等を用いることができる。このとき、活性層からの電子の取り出しを阻害しないように、適切な仕事関数を有するものを使用することが好ましい。
【0052】
太陽電池特性を次のように求めることができる。ソーラーシミュレーター(K−0205、分光計器株式会社製)を用いて、AM1.5条件(光強度100mWcm−2)下で、ソースメータ(Keithley Instruments社製2400型)を用いて、減圧下、2端子法にて電流−電圧特性を測定し、開放端電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)、曲線因子(FF)、変換効率(η)を求めた。なお、光電変換効率は下式(1)によって算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
また、バッファー層中のドーパント濃度を次のようにして求めた。
【0055】
ドーパント層中でのドーパント分子の存在状態(化学状態、存在量)について、X線光電子分光法分析による解析手法がE.T.Kang et al,“Photoelectron spectroscopy of conductive polymers”,pp121〜181 in H.S.Nalwa Eds., HANDBOOK OF ORGANIC CONDUCTIVE MOLECULES AND POLYMERS Volume3 Conductive Polymers:Spectroscopy and Physical Properties,JOHN WILEY and SONS,(1999),p134に報告されている。
【0056】
X線光電子分光法とは、超高真空中で試料にX線を照射し、試料を構成する原子の内殻から放出されてくる光電子の運動エネルギーとその数をエネルギーアナライザーで測定する分析法である。
通常、原子を構成している電子は核から一定の強さの束縛を受けているので、X線を当てたときに放出される光電子の運動エネルギーは、(励起光のエネルギー)−(束縛エネルギー)となる。しかしながら、特に原子が化合物や結晶格子を形成しているような別の束縛を受けている状態においては、自由な状態と比較するとその運動エネルギー値に僅かな変化である化学シフトが確認できる。X線光電子分光法ではこの化学シフトが、原子が置かれている束縛状態によって異なることを利用して各元素の化学状態を知ることができ、また光電子数を測定することによって試料表面近傍の元素存在比を特定することができる。
【0057】
X線光電子分光法を利用して、バッファー層に適用したポリマーがポリピロールであり、ドーパントがスルホン酸を有する化合物の場合、負に帯電した硫黄の状態を定量することにより、これをドーパント濃度として置き換えて考えることができる。
【0058】
この際、例えばドーパントをNa塩として電解液に加えて電解重合を行い、バッファー層を形成した場合、ドーパントがNa塩のまま残留しないよう、バッファー層形成後、バッファー層を充分に洗浄する必要がある。
【0059】
ドーパント濃度は、バッファー層の容量−電圧特性を調べることによっても知ることができる。
【0060】
ITO基板上に、以下に述べる実施例に記載の方法にてバッファー層を製膜した。バッファー層表面にAlを抵抗加熱蒸着法にて直接100nm蒸着し、これをキャリア密度測定用のテストセルとした。このテストセルについて、LCRメータ(例えばAgilent Technology社製E4980A)を用いて容量(C)−電圧(V)特性を測定し、所謂モット−ショットキープロット(Vに対するC−2のプロット)を作図した。モット−ショットキープロットの傾きより、キャリア密度Nを求めた。傾きの解析的な表式はS.M.Sze and Kwok K.NG,“Physics of semiconductor devices 3rd ed,”,Wiley−Interscience,(2007)の85頁に記載されている。それを次式(2)として引用する。右辺の符号は対象となるキャリアの符号により異なる。
【0061】
【数2】

ここで、qは電気素量、εはバッファー層の誘電率である。
【0062】
上記方法は、特にX線光電子分光法によるドーパント濃度の判別が、スペクトルの重なり合い等の理由で困難な場合に有効である。
【0063】
上記有機薄膜太陽電池の製造方法を用いることで、電気特性と耐久性に優れた有機薄膜太陽電池を得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
本願に係る実施形態に基づき、以下のとおり有機薄膜太陽電池を作製した。ソーダ硝子(板厚0.7mm)にITO薄膜をスパッタ法により形成し、該ITOのパターニング処理をフォトリソグラフィー法により行ったITO薄膜付きガラス基板(ITO膜厚145±10nm、シート抵抗15Ω/□、東京三容真空社製)の洗浄を、アセトン、IPAをこの順に用いた超音波洗浄及びIPA蒸気を用いた蒸気洗浄により行い、その後更に該ITO表面のUV−O処理を30分行い、ホットプレートを用いて120℃、10分間乾燥した。
【0066】
イオン交換水65.8gにアントラキノン−2−ナトリウム(東京化成社製)0.36g、使用直前に蒸留し、不活性雰囲気下で保管したピロール0.9gを溶解させて作製した電解液中に該ITO基板を浸漬し、これを陽極として電解重合を行った。電解重合条件は、電流密度0.16mAcm−2、通電時間20秒とし、室温にてバッファー層を形成した。
【0067】
該バッファー層に対し、電解重合時と逆極性となるよう電気的接続を行い、かつ、電解液に重合性モノマーを含まない他は重合に用いた電解液と同様に調製した電解液と交換してドーパント濃度の調整を行った。この際の印加電圧は−8V,電流密度は0.16mAcm−2にて20秒行った。
【0068】
上記のようにして製膜したバッファー層が付着したITO基板を水及びアセトンをこの順番に用いて超音波洗浄し、電解重合液を良く洗い落とした後、120℃、10分の乾燥を減圧下にて行った。
【0069】
次に、ポリ−3−ヘキシルチオフェン(P3HT)と[6,6]−フェニル−C61ブチルカルボン酸メチルエステル(PCBM)の質量比が4:1となるよう、また、全固形分濃度が12.5mg/mlとなるよう両者をクロロベンゼンに溶解させた溶液を作製し、活性層塗布液とした。窒素置換したグローブボックス中にて、該活性層塗布液を、スピンコーター(MIKASA製)を用いて1000rpm、20秒の条件で該バッファー層表面に塗布し、更に、同じグローブボックス中で160℃、10分の条件で加熱乾燥を行った。
【0070】
次いでこの基板に対し、ホールブロック層となるTiO層をゾルゲル法により活性層上に形成し、乾燥を行った。ゾルゲル法によるTiO層の製膜は、A.Hayakawa,et.al.”High performance polythiophene/fullerene bulk−heterojunction solar cell with a TiOx hole blocking layer”,Appl.Phys.Lett.90,pp163517(2007)に記載の方法に従って行った。
【0071】
更に、電極金属としてAlを抵抗加熱式蒸着機によりホールブロック層上に100nm蒸着し、対向電極の形成を行い太陽電池素子とした。素子の有効面積は、ITO電極と金属電極のパターニング部分とが重なりあう面積であり、その広さは6mmであった。
【0072】
この有機薄膜太陽電池の電流電圧特性を測定したところ、短絡電流密度4.5mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.44、光電変換効率1.0%を得た。
【0073】
バッファー層中のドーパント濃度の測定を次のように行った。バッファー層製膜および乾燥終了までで素子作成工程を中断した素子を作成し、この素子を試料として、その表面についてX線光電子分光測定を行った。Kratos analytical社製AXIS−HSをX線光電子分光装置としてを用い、単色化Al・Kα線(1486.6eV)を励起光源とし、パスエネルギー40eV、ステップエネルギー0.1eV、光電子取り込み角90°にて光電子スペクトル(Narrow scan)を測定した。測定の際、電子銃によるチャージアップ中和を行った。光電子スペクトル(wide scan)からNaは膜表面に存在しないことを確認した。
S2pの光電子ピークのピーク面積から、バッファー層を構成する導電性高分子の比重を1.3として計算すると、バッファー層中のドーパント濃度は4.6×1021cm−3であった。
【0074】
(実施例2)
実施例1において、アントラキノン−2−ナトリウム塩の添加量を0.18gにした以外は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、その特性を評価した。
該太陽電池の電流電圧特性を測定したところ、短絡電流密度4.5mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.44、光電変換効率1.2%を得た。
バッファー層中のドーパント濃度を実施例1と同様にして測定した結果、3.5×1021cm−3であった。
【0075】
(実施例3)
実施例1において、アントラキノン−2−ナトリウムの添加量を0.09gにした以外は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、その特性を評価した。
該有機薄膜太陽電池の特性は、短絡電流密度4.5mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.44、光電変換効率1.4%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は2.9×1021cm−3であった。
【0076】
(実施例4)
実施例1において、逆電解による脱ドープ時の時間を60秒にした以外は実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、その特性を評価した。
該有機薄膜太陽電池の特性は、短絡電流密度4.9mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.48、光電変換効率1.2%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は1.8×1021cm−3であった。
【0077】
(実施例5)
実施例1において、逆電解による脱ドープ時の時間を120秒にした以外は実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、その特性を評価した。
該有機薄膜太陽電池の特性は、短絡電流密度4.0mAcm−2、開放電圧0.52V、曲線因子0.48、光電変換効率1.0%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は9.9×1020cm−3であった。
【0078】
(実施例6)
実施例1において、用いるモノマーをピロールに代えてアニリンとし、ドーパントをアントラキノン−2−スルホン酸Na塩に代えてドデシルベンゼンスルホン酸とし、ポリアニリンから成るバッファー層を製膜して用いるほかは実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池を作製し、その特性を評価した。
該有機薄膜太陽電池の特性は、短絡電流密度8.3mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.48、光電変換効率2.0%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は4.9×1021cm−3であった。
【0079】
(比較例1)
PEDOT:PSS水分散液であるBaytron P AI 4083をスピンコーター(MIKASA社製)にて5000rpm、20秒にて塗布し、空気中にて120℃、10分間乾燥してバッファー層を形成し、電解重合によるバッファー層を形成しないほかは実施例1と同様にして太陽電池を作製し、特性を評価した。
【0080】
該太陽電池の特性は、短絡電流密度9.5mAcm−2、開放電圧0.6V、曲線因子0.35、光電変換効率2.0%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は3.1×1022cm−3であった。
【0081】
(比較例2)
電解還元によるドーパント密度の調整を行わないほかは実施例1と同様にして太陽電池セルを作製し、特性を評価した。該太陽電池の特性は、短絡電流密度6.0mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.33、光電変換効率1.0%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は6.0×1021cm−3であった。
【0082】
(比較例3)
電解還元によるドーパント密度の調整を行わないほかは実施例6と同様にして太陽電池セルを作製し、特性を評価した。該太陽電池の特性は、短絡電流密度6.0mAcm−2、開放電圧0.5V、曲線因子0.33、光電変換効率1.0%であった。
バッファー層中のドーパント濃度は6.8×1021cm−3であった。
【0083】
上記実施例1〜6および比較例1〜3について、光電変換効率の経時変化を0〜500時間の範囲において測定を行い、初期特性で規格化した結果を図2と表1に示す。保存性試験は、500時間後、初期値で規格した変換効率が1以上であることが好ましく挙げられる。経時変化の評価は、評価対象セルを暗中、室温、大気中に放置し、適当な時間間隔をおいて太陽電池特性を評価することにより行った。
【0084】
実施例1〜6の結果および比較例1〜3の結果を表1にまとめる。
【0085】
【表1】

【0086】
表1及び図2より、比較例1〜3より、実施例1〜6の方が、有機薄膜太陽電池における電気特性、耐久性が優れていることがわかる。
以上より、導電性高分子のバッファー層内のドーパント含有率を5.0×1021cm−3以下にコントロールすることが、セルの寿命向上に寄与することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】有機薄膜太陽電池の層構成を表す模式図
【図2】有機薄膜太陽電池の保存試験結果(変換効率の経時変化を示すグラフ)
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の有機薄膜太陽電池の製造方法より得られた有機薄膜太陽電池は、各種用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極上にバッファー層を形成する工程(A)と、バッファー層上に活性層を形成する工程(B)とを含有する有機薄膜太陽電池の製造方法において、
透明電極上に導電性高分子を形成する工程(A)が
透明電極上に重合性モノマーを電解重合させて導電性高分子からなるバッファー層を形成させる工程と、
バッファー層を電解還元して、脱ドープさせる工程と、
を含有することを特徴とする有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
バッファー層中のドーパント濃度が5.0×1021cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
重合性モノマーがピロール又はアニリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−238735(P2011−238735A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108130(P2010−108130)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】