説明

有機複合被覆鋼板

【構成】この発明に係る有機複合被覆鋼板は、亜鉛又は亜鉛系合金めっき層が施された鋼板と、該鋼板のめっき層上に形成され、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量を有するクロメ−ト処理層と、クロメ−ト処理層上に厚さ0.1乃至5μmの範囲で形成された樹脂皮膜とを具備し、樹脂皮膜が、固形分換算で、(A)エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂40〜98重量%、(B)シリカ微粒子1〜40重量%、(C)有機潤滑剤1〜30%からなり、かつ上記(B)および(C)の合計が60重量%以下である複合化樹脂を主成分とする。
【効果】良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れ、かつ潤滑性及び成形性に優れた有機複合被覆鋼板を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、亜鉛系めっきが施された鋼板の上にクロメ−ト処理層及び樹脂皮膜を形成した有機複合被覆鋼板に関する。このような有機複合被覆鋼板は、主に家電製品又は建材等に用いられる。
【0002】
【従来の技術】亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板(以下、亜鉛系めっき鋼板と略記する)は、耐食性に優れていることから、各種の産業分野において広く使用されている。特に、家電製品の用途においては、従来塗装して使用していた部材を無塗装のまま適用するものが増加しており、そのため無塗装での耐食性はもちろんのこと、無塗装での良好な外観が要求される。
【0003】耐食性に関しては、一次防錆としての一般のクロメ−ト処理に代えて、塩水噴霧試験で白錆発生時間が100時間程度の耐食クロメ−ト処理を施すことにより、ある程度要求が満たされている。しかしながら、これらクロメ−ト処理鋼板が未塗装状態で保管される場合、特に高温・湿潤環境下に保管される場合、表面が部分的にあるいは全体に亘って経時的に黒っぽく変色する、いわゆる黒変現象が発生することがあり、外観的に商品価値を著しく損なうといった問題が生じる。
【0004】黒変は、初期の腐食現象と考えられており、保管中に水分や酸素がクロメ−ト処理被膜を通し、めっき表層において酸化物、水酸化物あるいは水和酸化物等を生成して、可視光を吸収・散乱しやすい形態になることが黒く見える原因と考えられている。この反応は、亜鉛めっき層中に微量残存する鉛、アルミニウム等が亜鉛のアノ−ド化を促進することによって生じたり、めっき層表層に付着した異物又は不純物(例えば、SO4 2-やCl- 等のめっき浴成分、クロメ−ト浴中の不純物イオン、あるいは油分)の不均一な付着によって一層促進される。
【0005】このような現象を考慮して、亜鉛系めっき鋼板の耐黒変性を向上させるため、めっき層中の不純物の濃度管理や、めっき後の表面の洗浄強化等を行っているが、必ずしも十分な効果が得られていない。
【0006】このような背景において、めっき又はクロメ−ト処理の観点から黒変を防止するという要求に答えるべく、特開昭60−63385号公報、特開昭60−77988号公報、特開平2−8374号公報等のいくつかの技術が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】これら先行技術は、めっき層を安定化させることにより、黒変反応を促進する反応型クロメート処理層の不均一を抑制するものや、クロメート処理層又はめっき層とクロメート処理層とを改良することによって黒変を抑制しようとするものであり、比較的マイルドな保管状態においては効果が認められる。しかし、高温湿潤の厳しい環境下では黒変抑制効果は不十分であり、耐黒変性やクロム溶出に伴う耐退色性と耐食性とを同時に満足することができない。
【0008】さらに、これらの技術における鋼板は、皮膜に潤滑性がないため、スリット加工、運搬あるいは成形加工等の工程において皮膜表面に疵が付きやすく、その部分での耐食性劣化を回避することができなかった。
【0009】一方、亜鉛系めっき鋼板として、例えば特開平3−136840号公報、特開平2−48941号公報のようなクロメ−ト処理層の上に樹脂層を設けた技術も提案されているが、これらは耐黒変性の改善を目的とするものはなく、また実際に試験すると耐黒変性が悪いのが実情である。
【0010】この発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れ、かつ潤滑性及び成形性に優れた有機複合被覆鋼板を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段及び作用】本願発明者らは、亜鉛系めっき鋼板における上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、亜鉛系めっき鋼板のめっき層上に、クロメート処理層を形成し、その上に樹脂皮膜層を形成した有機複合被覆鋼板において、樹脂被覆層として、特定の厚さを有し、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂と、シリカ微粒子と、有機系潤滑剤とからなる複合化樹脂を用いることにより、良好な耐食性を維持しつつ、その分子構造に起因したバリヤ効果によって黒変性が向上し、かつ潤滑性も向上することを見出した。
【0012】本発明は、本願発明者らのこのような知見に基づいてなされたものであり、亜鉛又は亜鉛系合金めっき層が施された鋼板と、該鋼板のめっき層上に形成され、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量を有するクロメ−ト処理層と、クロメ−ト処理層上に厚さ0.1乃至5μmの範囲で形成された樹脂皮膜とを具備する有機複合被覆鋼板であって、前記樹脂皮膜が固形分換算で、(A)エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂40〜98重量%(B)シリカ微粒子1〜40重量%(C)有機潤滑剤1〜30%からなり、かつ上記(B)および(C)の合計が60重量%以下である複合化樹脂を主成分とすることを特徴とする有機複合被覆鋼板を提供するものである。
【0013】以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】本発明の有機複合被覆鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面にクロメート処理層が形成され、その上に複合化樹脂の皮膜が形成されたものである。
【0015】上記亜鉛系めっき鋼板としては、黒変発生が特に懸念される電気純亜鉛めっき鋼板、及び電気めっき法又は溶融めっき法によってめっき層が形成された他の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板が挙げられる。
【0016】上記クロメート処理層を形成するクロメート処理としては、反応型、塗布型、電解型等公知のクロメート処理によればよいが、クロム付着量が金属クロム換算で1〜200mg/m2 であるクロメート層を形成する必要がある。付着量が1mg/m2 未満では耐食性が不十分であり、また200mg/m2 を超えると、その量に見合った耐食性向上効果を得ることができないのみならず、鋼板の変形を伴う曲げ加工などが施された場合に、クロメート処理層の凝集破壊が発生しやすくなる。
【0017】クロメート処理層のより好ましい付着量は、金属クロム換算で、鋼板片面当たり10〜100mg/m2 の範囲内である。
【0018】具体的例を挙げるならば、先ず反応型クロメート処理液の組成としては、金属クロム換算で1〜100g/lの水溶性クロム化合物と、0.2〜20g/lの硫酸とを主成分とするものが挙げられ、かつ全クロム中の3価クロムの含有量が50重量%以下、このましくは20〜35重量%以下であって、必要に応じてこれらに適量の金属イオン、例えばZn2+、Co2+,Fe3+等と他の鉱酸例えばリン酸、フッ酸等を加えたものであってもよい。
【0019】塗布型クロメート処理液の具体例としては、上記反応型クロメート処理と同様の組成の液中に、分子中に多量のカルボキシル基を含有する水溶性でかつ上記反応型クロメート処理液と同様の組成の液中に、分子中に多量のカルボキシル基を含有する水溶性でかつ上記反応型クロメート処理液と同様の組成の液と相溶性のある有機高分子樹脂を添加し、pHを2.0〜3.5に調整したものが挙げられる。この有機高分子としては、平均分子量1000〜500000であることが好ましい。その添加量は一般に樹脂分に換算して0.02〜30g/lの範囲である。
【0020】いずれにしても、第1層としてのクロメート層の付着量は、上述したように、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の範囲であればよい。
【0021】本発明において、上層として形成される樹脂皮膜の主成分は、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸、及び必要に応じてその他の共重合体との共重合体を主鎖の基本構造とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂である。前記エチレン系アイオノマー樹脂は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の含有量が好ましくは3〜40モル%の、エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸と必要に応じて使用されるその他の共重合体成分との共重合体のカルボキシル基のうち60〜80%を特定のイオンやイオン化合物で中和した高分子である。
【0022】ここで、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量が40モル%を超えると、親水性が高くなり、皮膜としての耐黒変性及び耐食性が低下しやすいため好ましくない。また、その量が3モル%未満になると、下地である鋼板側との付着力が低下し、望ましい皮膜が得られにくい。より好ましいα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の量は10〜25モル%である。
【0023】α,β−エチレン性不飽和カルボン酸には、アクリル酸、メタクリル酸、フマ−ル酸、イタコン酸、マレイン酸等があるが、特に厳しい環境における耐黒変性、耐食性等の品質に着目すると、メタクリル酸が特に優れている。
【0024】共重合体の分子量としては、通常、重量平均分子量1万〜20万のものが好ましく、5万〜15万のものが特に好ましい。
【0025】また、カルボン酸の中和に用いられるイオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、及びマグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の金属イオン、遷移金属の水酸化物等の金属化合物イオンの他に、有機アミンと遷移金属との錯イオンがあるが、皮膜の耐黒変性、耐食性あるいは薬液安定性の点からナトリウムイオンが特に好ましい。
【0026】中和度としては、低い皮膜乾燥温度例えばめっき製造ラインでのインライン処理を想定すると80℃レベルの低い温度においても良好な耐黒変性、耐食性を得る観点から、60〜80%の範囲とする。60%未満では耐黒変性が不十分であり、80%を超えると粘度が高くなって薬液安定性が低下し、さらに吸湿性が高くなるため耐黒変性、耐食性が低下する。
【0027】本発明においては、樹脂層を構成する樹脂がイオン架橋構造を有しているため、皮膜特性の劣化の原因になり得る乳化剤を用いることなく水分散型の塗液にすることが可能であり、容易に鋼板表面へ薄膜コーティングすることができる。乾燥された被膜は、下地と強く密着し、かつ化学的に安定であるため、このような皮膜が形成された鋼板は優れた耐黒変性及び耐食性を示す。また、この鋼板は強固に樹脂皮膜が形成されていることから、疵が発生しにくい。
【0028】上記複合化樹脂は、シリカ微粒子あるいはシラン化合物とシリカ微粒子を複合化することにより耐食性を飛躍的に向上させることができる。
【0029】本発明で用いるシリカとしては、一次粒子径が5〜50nm、二次粒子径が500nm以下の超微細な無定形のシリカ粒子を好適である。一次粒子径が50nmを超えると乾燥後皮膜にクラックが入ってしまうため、緻密な皮膜を形成しがたく、耐蝕性が劣化しやすい。シリカ微粒子は、粒子表面にシラノール基を有しており、市場ヘの供給形態によって例えば以下の3種類に分類され、いずれも本発明に適用することができる。
【0030】(1)シリカ微粉末一般に乾式シリカと称され、一次粒子径が50nm以下のものであり、四塩化ケイ素の燃焼によって製造される。このシリカ微粉末は水分散液又は有機溶剤分散液のいずれかの形態で使用される。
【0031】(2)有機溶剤分散性シリカいわゆるオルガノシリカゾルであって、例えば米国特許第2,285,449号に記載されている製造方法によって有機溶剤に分散されたものが挙げられる。すなわち、コロイダルシリカ水分散液における水を有機溶剤で置換したシリカゾルであって、メタノール、イソプロパノール、ブチルセロソルブなどのアルコール類を分散媒体にしたものが特に有用である。
【0032】(3)水分散性シリカいわゆるコロイダルシリカであって、水ガラスの脱ナトリウム(イオン交換法、酸分解法、解膠法などによる)によって製造され、一次粒子径が5〜50nmである。この水分散性シリカは通常水性分散液として供給される。
【0033】本発明において、樹脂皮膜の主成分である複合化樹脂中に占めるシリカ微粒子の割合は、耐食性及び皮膜の可撓性の点から、1〜40重量%の範囲である。1重量%未満の場合は耐食性が低下する。また、40重量%を超えると耐食性向上効果は認められず、また、樹脂液が増粘しすぎてコーティングしにくくなるため皮膜形成が不完全となり、耐食性及び耐黒変性が低下する。
【0034】本発明においては、上記シリカとクロム酸塩化合物などのクロム化合物を併用して、合計50重量%以下の範囲で添加してもよい。この場合のクロム化合物としては、無水クロム酸(CrO3 )、クロム酸ストロンチウム(SrCrO4 )、クロム酸バリウム(BaCrO4 )、クロム酸鉛(PbCrO4 )、塩基性クロム酸亜鉛(ZnCrO4 ・4Zn(OH)2 )等の6価クロム化合物及びクロム酸クロム化合物などを適用することができる。
【0035】また、本発明では、潤滑性を付与するために上記複合化樹脂には必須成分として有機系潤滑剤が含有される。有機系潤滑剤としては、平均粒径20μm委ksの樹脂微粉末、例えばポリイオレフィン系樹脂粉末が有効である。ポリオレフィン系樹脂微粉末は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のオレフィン系炭化水素の重合体からなるものであればいずれでもよいし、これらを組み合わせて用いてもよい。また上記ポリイオレフィン系樹脂粉末は、品質上の観点から重量平均分子量が500から5000のものが好ましい。重量平均分子量が5000を超えると潤滑性が低下する傾向になる。また、500未満では樹脂皮膜の表面にべとつきが生じ、コイル貯蔵時等においてブロッキングを生じることがあり好ましくない。上記ポリオレフィン系樹脂微粉末のほかに、フッ素系樹脂、例えばポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ六フッ化プロピレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等の微粉末を使用してもよいし、上記ポリオレフィン系樹脂粉末と組み合わせて用いてもよい。
【0036】上記有機系潤滑剤のかわりに、グラファイト、二硫化モリブデン等の無機系の固体潤滑剤を用いることも考えられるが、この場合には樹脂液との相溶性が不十分で貯蔵安定性に乏しく、また皮膜形成後の潤滑性も劣るので好ましくない。
【0037】有機系潤滑剤の添加量は、樹脂皮膜の主成分である複合化樹脂に対して1〜30重量%の範囲である。30重量%を超えると樹脂皮膜の強度が低下しやすくなる。好ましい範囲は2〜15重量%である。
【0038】上記シリカ微粒子及び有機系潤滑剤の合計量は複合化樹脂に対して60重量%以下である必要がある。これは、60重量%を超えると樹脂皮膜の主成分である複合化樹脂のもつ下地との密着力が低下し、耐黒変性が低下してしまうからである。以上のシリカ微粒子及び有機系潤滑剤の含有量の制限から、本発明のエチレン系アイオノマー樹脂の複合化樹脂に対する割合は必然的に40〜98重量%となる。
【0039】本発明では、樹脂皮膜の防錆性をより向上させるために、前記エチレン系アイオノマー樹脂と反応せしめられる、分子中のケイ素原子1個に対して2個乃至4個のアルコキシ基、アリルオキシ基、又はアリールオキシ基が結合したシラン化合物を皮膜に加えることができる。これらの化合物の縮合物も前記アイオノマー樹脂との反応に使用することができ、上記シラン化合物及びこれらの化合物の縮合物(以下、反応性シランと略称する。)としては、具体的には以下の(1)及び(2)の一般式で示される構造を有するものが挙げられる。
【0040】(1)一般式
【化1】


(R1 はアルコキシ基を含有してもよい炭素数1〜8のアルキル基、アリル基、又はアリール基、mは0〜11の整数を表す)により示されるテトラアルキル(又はテトラアリール、若しくはテトラアリル)オルトシリケート又はこれらのオルトシリケート類の縮合物であるポリシリケート類である。具体的には例えばメチルオルトシリケート、エチルオルトシリケート、n−プロピルオルトシリケート、n−ブチルオルトシリケート、n−オクチルオルトシリケート、フェニルオルトシリケート、ベンジルオルトシリケート、フェネチルオルトシリケート、アリルオルトシリケート、メタアリルオルトシリケートなどがあり、さらにこれらのオルトシリケート類の脱水縮合によって生成されるポリシリケート類も用いられる。
【0041】(2)一般式(R2 3-n −Si−(OR1 n+1(R1 は上記(1)の一般式のR1 と同様に定義され、R2 は炭素数1〜8の置換されていてもよいアルキル基、アリル基、アリール基、ビニル基を表し、nは1又は2を表す。)で表されるシラン化合物である。
【0042】上記R2 であるアルキル基としては、メチル基、エチル基、γ−クロロプロピル基、γ−アミノプロピル基、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ−メタクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。
【0043】具体的には例えば、ジビニルエトキシシラン、ジビニル−β−メトキシエトキシシラン、ジ(γ−グリシドキシプロプピル)ジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス−β−メトキシエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。いずれにしても、反応性シラン中のアルコキシ基など珪素原子にエーテル結合された加水分解性基が特定条件下で加水分解反応によってシラノール基とアルコールとが生成するものであれば、本発明の反応性シランとして使用することができる。
【0044】また、反応性シランの使用割合は、エチレン系アイオノマー樹脂、シリカ微粒子及び有機系潤滑剤の固形分合計100重量部に対して0.5〜15重量部であることが反応促進効果の点及び系の安定性の点から好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。0.5〜15重量部から外れると耐食性が劣る傾向がある。
【0045】本発明における複合化樹脂の合成方法は特に限定されるものではないが、通常、以下の方法が採用される。先ず、エチレン系アイオノマー樹脂をアルコール系溶媒などの親水性溶剤又は水を主体とした溶媒に溶解又は分散させて固形分40重量%以下とし、これを攪拌しながらシリカ粒子及び有機系潤滑剤を添加し、さらに必要であれば反応性シランを添加する。次いで、必要に応じて塩基性加水分解触媒(金属水酸化物、アンモニア、アミン類)や水を添加して反応を生じさせる。
【0046】本発明における複合化樹脂を製造するに際して、反応性シランを用いる場合には、先ず、反応性シランを加水分解してシラノール基を生成することが必須条件であり、上記混合液を10℃以上沸点以下の温度で反応させることによって加水分解、縮合反応により複合化樹脂とすることができる。強靭な被膜を得る観点からは、混合液の温度を50℃以上、及び溶媒又は水の沸点以下にして連続的に加熱することが望ましく、具体的には50〜90℃で加熱することによって両成分を充分に結合させることができる。
【0047】さらに、上記複合化樹脂に導電性物質を混合して導電性を付与することもでき、それによって電気溶接性、電気泳動塗装性、さらには被膜のアース性等を改善することができる。このような導電性物質としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、銅、鉛、錫などの金属粉末及びそれらの合金粉末、アルニウムドープ酸化亜鉛粉末、酸化錫−酸化チタン、酸化錫−硫酸バリウム、酸化ニッケル−アルミナなどの半導体酸化物などが挙げられる。
【0048】また、上記複合化樹脂に対し、特公昭55−41711号公報に記載されたようなチタン、ジルコニウム、アルミニウムなどのキレート化合物を、又は特公昭57−30867号公報及び特公昭55−62971号公報に記載のような酸素酸塩類、金属塩類等を併用することによって、硬化性を向上させることができる。また、着色顔料(例えば、縮合多環系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料等)、着色染料(例えば、アゾ系染料、アゾ系金属錯塩染料等)を添加して、着色皮膜を形成することもできる。
【0049】本発明における樹脂皮膜の厚さは0.1〜5μmの範囲、好ましくは0.3〜3μmの範囲である。0.1μm未満では耐黒変性に対するバリヤ効果を期待することができないばかりか、耐蝕性が不十分であり、さらに皮膜の潤滑性が得られず、ハンドリング等による擦傷の発生を防止することができない。また、5μmを超えると、厳しい加工を受けた際に皮膜剥離を招きやすくなるため好ましくない。
【0050】樹脂皮膜の形成は、例えば以下の方法によって行うことができる。すなわち、先ず、上記複合化樹脂を主成分とする組成物の塗液を、ロールコーター、カ−テンロ−ルコ−タ−、あるいはスプレ−等の公知の塗布方法によって塗布するか、又は上記塗液中に亜鉛めっき鋼板を浸漬して、ロ−ルや空気吹き付けにより付着量をコントロ−ルして膜を形成し、次いでこれを乾燥させるといった方法である。乾燥は常温で行っても構わないが、通常、熱風炉や誘導加熱装置等により鋼板の温度が約60℃以上、好ましくは80〜200℃になるように加熱することによってなされる。
【0051】
【実施例】以下、比較例と対比しつつこの発明の実施例について説明する。なお、以下の説明中「部」及び「%」は、特に明記している場合(モル%、中和度)を除き、重量基準による。
【0052】(複合化樹脂の合成例)まず、ベース樹脂の合成法から述べる。メタクリル酸含有量が20モル%のエチレン−メタクリル酸共重合体を水酸化ナトリウムで中和度70%に中和した樹脂を、170℃に維持された実効容積18リットルのホモミキサーに、上記樹脂の溶融物を4kg/hrの流量で、また水を18リットル/hrの流量でそれぞれ供給し、強力攪拌して水分散型樹脂液を製造する一方、液面を一定に保つようにこの水分散型樹脂液を連続的に抜き出した。その結果、乳化剤を含まない固形分20.4%の水分散型樹脂液Aを得た。また、共重合体の種類、中和金属イオン、中和度の異なる樹脂液も基本的に同様な条件で合成した。なお、比較例に使用する樹脂として中和度が本発明外である樹脂及び乳化剤を含む樹脂も合成した。なお樹脂については、後述する表1、2に明示した。
【0053】そして、これらの樹脂にシリカ微粒子及び有機系潤滑剤、さらに必要に応じてシラン化合物等の各種添加剤を加えて複合化樹脂組成物を得た。以下に一例を示す。
【0054】樹脂A100部をフラスコ中に装入し、常温で十分に攪拌しながら、ヒュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、商品名アエロジル300、一次粒径7nm)4.1部を約10分間に徐々に加えた。添加終了後、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名KBM503)1.0部を攪拌下で滴下混合し、ついで85℃に加熱してその温度で2時間保持して反応させ、さらに有機潤滑剤として、分子量1500のポリエチレン微粉末(粒径0.6μm)を2.0部加えて十分に攪拌し、本発明例の複合化樹脂組成物を得た。
【0055】(実施例1〜41)板厚0.8mm、めっき量20g/m2 の電気亜鉛めっき鋼板のめっき層上に、反応型クロメ−ト処理又は塗布型クロメ−ト処理を施した後乾燥して、付着量10〜200mg/m2 のクロメート処理層を形成した。次いで、クロメート処理層上に、前記合成例で合成した各種複合化樹脂組成物の水分散型樹脂液をロールコーターによって塗布した。その後熱風乾燥炉によって鋼板の温度が80℃に到達するまで加熱して塗液を乾燥させ、樹脂皮膜を形成した。各実施例における条件を表1、2に示す。
【0056】(比較例1〜26)実施例と同一の電気亜鉛めっき鋼板を用い、めっき層上に反応型クロメート処理により付着量40g/m2 のクロメート処理層を形成した。クロメート層上に、本発明の範囲外の各種樹脂皮膜を表3に示す条件で形成した。
【0057】なお、表1〜3中のクロメート付着量は、金属クロム換算量を表示し、また、樹脂皮膜中のシリカ含有量は、樹脂、シリカ及び潤滑剤の合計を100%とした場合の%で表示する。
【0058】また、樹脂の種類の欄の記号は以下のとおりである。
【0059】A:エチレン−メタクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度70%(合成例の樹脂A)
B:エチレン−メタクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度60%C:エチレン−メタクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度80%D:エチレン−アクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度70%E:エチレン−アクリル酸共重合体、Zn中和アイオノマ−、中和度70%F:エチレン−フマル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度70%G:エチレン−マレイン酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度70%H:エチレン−イタコン酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度70%I:エチレン−メタクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度52%J:エチレン−メタクリル酸共重合体、Na中和アイオノマ−、中和度85%K:エチレン−アクリル酸共重合体(乳化剤あり)
L:アクリル樹脂エマルジョン(乳化剤あり)
M:エポキシ樹脂エマルジョン(乳化剤あり)
N:水溶性ウレタン樹脂(乳化剤あり)
O:酢酸ビニル−アクリル酸共重合体(乳化剤あり)
P:エチレン−酢酸ビニル共重合体(乳化剤あり)
なお、上記K〜Pはいずれも水性塗布液にするために乳化剤を用いた。
【0060】また、シリカの種類の欄の記号は以下のとおりである。
【0061】A:ヒュームドシリカ(粒径7nm)
B:ヒュームドシリカ(粒径15nm)
C:コロイダルシリカ(粒径10nm)
潤滑剤の含有量は、樹脂、シリカ及び潤滑剤の合計を100%とした場合の%で表示した。また、潤滑剤の種類の欄の記号は以下のとおりである。
【0062】A:ポリエチレン(分子量1500,粒径0.6μm,密度0.92g/cm3;合成例で使用した潤滑剤)
B:直鎖状炭化水素(分子量500,粒径15μm,密度0.95g/cm3
C:ポリエチレン(分子量3000,粒径2μm,密度0.94g/cm3
D:ポリエチレン(分子量5000,粒径3μm,密度0.97g/cm3
E:ポリプロピレン(分子量10000,粒径15μm,密度0.90g/cm3
F:ポリフッ化エチレン(粒径0.5μm)
G:二硫化モリブデンこのようにして得られたな実施例及び比較例の有機複合被覆鋼板について、耐黒変性、耐食性、潤滑性及び成形性を以下に示す試験によって評価した。その結果を表1、表2に併記する。
【0063】(1)耐黒変性50℃,95%RHの高温湿潤環境に60日間放置し、試験前後のL値(JIS Z8730 6.3.2(1980),ハンターの色差式における明度指数)の変化から耐黒変性を評価した。評価基準は以下の通りである。
【0064】◎: L値変化が1未満○: L値変化が1〜3Δ: L値変化が3〜5×: L値変化が5を超える。
【0065】(2)耐食性JIS Z2371に基づく塩水噴霧試験を実施し、240時間後の白錆発生面積率を測定し、耐食性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0066】◎: 10%未満○: 10%以上30%未満Δ: 30%以上50%未満×: 50%以上。
【0067】(3)潤滑性引張り試験機によって、面圧:50kg/cm2 、引抜き速度:100mm/分の条件で、平板状の試験片を引き抜き、その際の動摩擦係数を調べて潤滑性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0068】◎: 動摩擦係数0.10未満○: 動摩擦係数0.10〜0.15Δ: 動摩擦係数0.15〜0.25×: 動摩擦係数0.25以上。
【0069】(4)成形性ポンチ径50mm、ブランク径100mm、ダイス径52.40mm、しわ押え力1トン、無塗油の条件で円筒成形した際の外観を目視で検査して評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0070】◎: 変化なし○: 疵・変色等が僅かに発生Δ: 疵・変色等が激しく発生×: 成形できず。
【0071】
【表1】


【表2】


【表3】


表1、2から明らかなように、実施例1〜41では、いずれも良好な耐黒変性、耐食性、潤滑性及び成形性を示した。
【0072】これに対して、表3から明らかなように、比較例1〜26では耐黒変性、耐食性、潤滑性及び成形性の全てを同時に満足することはできなかった。すなわち、比較例1,2はシリカも潤滑剤も含まないため、耐食性、潤滑性、成形性とも劣る。比較例3は潤滑剤を含まないため潤滑性及び成形性に劣る。比較例4はシリカを含まないため耐食性に劣る。比較例5,6は樹脂皮膜の膜厚が適切な範囲を外れており、耐黒変性、耐食性、潤滑性、又は成形性が劣る。比較例7,8はシリカ含有率が少なく耐食性が劣る。比較例9,10は潤滑剤の含有率が少ないが、その種類が本願発明の範囲外であるため、潤滑性が劣る。比較例11〜18はベース樹脂の種類が本発明の範囲外であり、さらにシリカ、潤滑剤を含まないため、耐黒変性、耐食性、潤滑性が劣る。比較例19〜26はシリカ、潤滑剤を含有するため、耐食性、潤滑性には優れるが、ベース樹脂の種類が本発明の範囲外であるため、耐黒変性に劣る。
【0073】図1は、実施例1〜3及び比較例19,20について横軸に中和度をとり、縦軸に耐黒変性の程度をとって、ベース樹脂の中和度と耐黒変性との関係を示す図である。この図から明らかなように、中和度60〜80%において特に優れた耐黒変性を示すことが確認された。
【0074】また、樹脂皮膜の膜厚が耐黒変性に及ぼす影響については、実施例16,22,23と比較例5,6から、膜厚が0.05μmと本発明に規定する値よりも小さい場合には耐食性及び耐黒変性が劣り、膜厚が7.0μmと本発明に規定する値よりも大きいと成形性が劣ることが確認された。
【0075】さらに、ベース樹脂については、上述したように中和度が60〜80%のエチレン系アイオノマー樹脂以外のベース樹脂を使用した場合には、比較例11〜26のように耐黒変性が劣るが、エチレン系アイオノマー樹脂をベース樹脂にすることにより、実施例1〜41のように良好な耐黒変性が得られる。しかも、同じエチレン系アイオノマー樹脂であっても、メタクリル酸以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸を共重合体成分とした実施例31〜35に比較して、メタクリル酸を用いた実施例1〜30,36〜41が特に優れた耐黒変性を示すことが確認された。
【0076】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、良好な耐食性を維持しつつ、耐黒変性に優れ、かつ潤滑性及び成形性に優れた有機複合被覆鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ベース樹脂の中和度と耐黒変性との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 亜鉛又は亜鉛系合金めっき層が施された鋼板と、該鋼板のめっき層上に形成され、金属クロム換算で1〜200mg/m2 の付着量を有するクロメ−ト処理層と、クロメ−ト処理層上に厚さ0.1乃至5μmの範囲で形成された樹脂皮膜とを具備する有機複合被覆鋼板であって、前記樹脂皮膜が、固形分換算で、(A)エチレンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを主鎖成分とし、カルボキシル基の60〜80%を金属イオンで中和したエチレン系アイオノマー樹脂40〜98重量%(B)シリカ微粒子1〜40重量%(C)有機潤滑剤1〜30%からなり、かつ上記(B)および(C)の合計が60重量%以下である複合化樹脂を主成分とすることを特徴とする有機複合被覆鋼板。
【請求項2】 前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸がメタクリル酸であることを特徴とする請求項1に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項3】 前記樹脂皮膜が、分子中に1個の珪素原子と2〜4個のシリルエーテル結合を有するシラン化合物及び/又はその縮合物をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機複合被覆鋼板。
【請求項4】 前記有機潤滑剤が、重量平均分子量500〜5000のオレフィン系樹脂微粒子であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の有機複合被覆鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開平8−39725
【公開日】平成8年(1996)2月13日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−181359
【出願日】平成6年(1994)8月2日
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)