説明

有機酸の中和方法

【課題】梅酢などの酸味の強い有機酸含有物を、当該含有物中のポリフェノールやアミノ酸などの有用な成分の変性を生じさせずに、有効に中和する方法を提供する。
【解決手段】酸味の強い有機酸含有物を強アルカリを用いて中和する際に、強アルカリと例えば、食品添加物又は食品として通常使われている糖アルコールとの混合溶液を用いて、酸味の強い有機酸含有物を中和すると、他成分の変性を生じさせずに、有機酸を中和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸の中和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物抽出物などの植物由来物質には、人の健康に貢献するものが多い。例えば、梅には、ピロリ菌の活動を抑制する働き(例えば、特許文献1参照)、血糖値の上昇を抑制する働き(例えば、特許文献2参照)などの機能を有することが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。梅を食塩で処理した際に得られる梅酢においても、これらの機能を有する成分を含んでいる。しかし、梅酢および梅干のいずれも、クエン酸などの有機酸を豊富に含み、すっぱい。このように、酸味を有する植物由来物質は、有機酸を豊富に含み、有機酸は、唾液の分泌を促進する。また、体内で一部塩類となり、機能的に作用する。
【0003】
酸味の強い有機酸含有物は、健康に寄与する物質である。しかし、その酸味のため、充分に食用にされないという問題がある。また、酸味の強い有機酸含有物を、直接、頻繁に摂取すると、歯表面に対する悪影響も存在する。このため、酸味の強い有機酸含有物を、効果的に摂取することが重要である。
【0004】
例えば、酸味の強い有機酸含有物を濃縮し、カプセル状にして摂取する方法がある。しかし、この場合、酸味の強い有機酸含有物は、唾液による中和過程を経ず、直接胃に達する。このため、酸味の強い有機酸含有物の胃壁に対する影響が懸念される。
【0005】
また、酸味の強い有機酸含有物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強アルカリを用いて中和する方法がある。酸味の強い有機酸含有物には、通常有機酸以外に、ポリフェノールやアミノ酸などを含む。強アルカリによる酸の中和は、発熱を伴う激しい反応である。このため、ポリフェノールやアミノ酸などの有用な成分を変性し、変色や不快な味を生ずるという問題がある。一方、充分に希釈した強アルカリを用いて中和することも考えられる。しかし、この場合には、中和に用いるためには、多量のアルカリ水溶液を必要とする。このため、有機酸含有物の中和物も希釈されてしまうという問題がある。また、他成分の変性を完全に防ぐことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4081678号公報
【特許文献2】特許第4403457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、酸味の強い有機酸含有物を、他成分の変性を生じさせずに、有効に中和する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、酸味の強い有機酸含有物を強アルカリを用いて中和する際に、強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を用いて、酸味の強い有機酸含有物を中和すると、他成分の変性を生じさせずに、有機酸を中和することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の請求項1に記載の有機酸の中和方法は、強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を、有機酸含有物に添加して有機酸を中和するものである。
【0010】
強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を用いて、有機酸を中和すると、他成分の変性を防ぐ機構は明確ではない。しかし、糖アルコールは、分子内に水酸基を多く含む分子である。このため、強アルカリが他成分が変性することを緩和していると考えられる。
【0011】
請求項2に記載の有機酸の中和方法は、前記強アルカリが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択される1種以上の金属の水酸化物である。
【0012】
請求項3に記載の有機酸の中和方法は、前記糖アルコールが、エリトリトール、グリセリン、ポリグリシトール、イソマルト(パラチニット)、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルトトリイトール、オリゴ糖アルコール、還元水飴である。
【0013】
請求項4に記載の有機酸の中和方法は、前記有機酸含有物が、食品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、酸味の強い有機酸含有物を強アルカリを用いて中和する際に、強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を用いて、酸味の強い有機酸含有物を中和する。この結果、酸味の強い有機酸含有物を、他成分の変性を生じさせずに、有効に中和することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の有機酸の中和方法は、強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を、有機酸含有物に添加して有機酸を中和する。
【0017】
[強アルカリ]
本発明の有機酸の中和方法に用いる強アルカリとしては、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。これらの強アルカリは、通常水酸化物などの塩の状態で、水に溶解して用いる。また、梅酢のように、高ナトリウムの場合は、カリウム塩を用いることで、有機酸含有物のカリウム濃度を増加させておくとよい。これにより、食品等に用いた場合に、ナトリウムの排出を迅速に行うことができる。
【0018】
強アルカリ塩の添加濃度は、特に制限はなく、中和対象である有機酸含有物のpH、および糖アルコールとの混合が良好に行えるなどの条件を勘案して適宜選択することができる。例えば、20〜50重量%程度であればよい。
【0019】
[糖アルコール]
本発明の有機酸の中和方法に用いる糖アルコールは、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されて生成する糖の一種である。広義にはポリヒドロキシシクロアルカンであるシクリトール(cyclitol)も含む。また、アルドースの還元によって生じた糖アルコールは特にアルジトールという。糖アルコールとしては、特に制限はされないが、例えば、トリトール(C(OH)):グリセリン、テトリトール(C(OH)):エリトリトール、D−トレイトール、L−トレイトール、ペンチトール(C(OH)):D−アラビトール、L−アラビニトール、キシリトール、リビトール(アドニトール)、リボフラビン、ヘキシトール(C(OH)):D−イジトー
ル、ガラクチトール(ダルシトール)、D−グルシトール(ソルビトール)、マンニトール、ヘプチトール(C(OH)):ボレミトール、ペルセイトール、オクチトール(C10(OH)):D−エリトロ−D−ガラクト−オクチトールなどが挙げられる。特に食品に用いる場合は、好ましい糖アルコールとして、食品添加物又は食品として用いられる糖アルコールが挙げられる。例えば、エリトリトール、グリセリン、ポリグリシトール(Hydrogenated starch hydrosylate、HSH)、イソマルト(パラチニット)、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルトトリイトール、オリゴ糖アルコール、還元水飴などが挙げられる。
【0020】
これらの糖アルコールは、単独で用いてもよく、二種類以上の糖アルコールを併用してもよい。
【0021】
糖アルコールは、水溶液にして、強アルカリと混合する。混合比は、特に制限されない。例えば、強アルカリ塩水溶液と同重量%同士の水溶液を混合してもよい。
【0022】
[有機酸含有物]
本発明の処理対象である有機酸含有物は、有機酸を含むものであれば特に制限はない。例えば、梅酢、梅肉エキスなどの梅成分抽出物や、レモンなどの果汁などが挙げられる。これらのものに限られず、強アルカリの存在によって、有機酸以外の成分が変性等の作用を受けるものを含む有機酸含有物であれば、食品等に限らずに化粧品、飼料や肥料など広く適用することができる。
【0023】
[中和]
本発明の有機酸の中和方法において、「中和」とはpHを7にすることに限られず、有機酸含有物のpHを上げることをいう。例えば梅酢は、通常pH2以下である。このpHを4程度にすると、酸味を感じず、摂取することができる。
【0024】
中和は、例えば強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を、有機酸含有物に添加して行う。混合溶液と有機酸含有物との混合割合は、特に制限されないが、例えば、処理前の有機酸含有物に対して、中和後の有機酸含有物が1.5〜2.5倍(重量比)になるように、混合溶液を添加すればよい。中和後の有機酸含有物が1.5倍未満で混用溶液を添加すれば、効率の良い中和が行えない。一方、中和後の有機酸含有物が2.5倍より大きくなるように混合溶液を添加すれば、得られる中和物の量が増え、実用的ではない。混合溶液中の強アルカリの濃度は、中和対象の有機酸の濃度により適宜選択すればよい。
【0025】
本発明の有機酸の中和方法を食品に用いれば、他の有効成分の変性を抑制して、有機酸を中和する。これにより、有効成分の機能を残したままで、摂取しやすい状態とすることができる。また、クエン酸などの有機酸はアルカリと塩を作っても、体内で遊離の有機酸と同様の効果を奏することが知られている。したがって、中和物は何ら不利益をもたらさない。また、有機酸含有物に対して、例えば添加するナトリウム、カリウムの比率を調整することで、天然物由来の有機酸含有物に高尿酸血症治療の機能等の新規な機能を付加することもできる。
【0026】
本発明の有機酸の中和方法の処理対象は、食品等に限られず、広く強アルカリの存在によって、有機酸以外の成分が変性等の作用を受ける成分を有する有機酸含有物の中和に広く適用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものでは
ない。
【0028】
(実施例1)
水酸化カリウム48重量%、水溶液11.5重量%とD−ソルビトール液11.5重量%(三菱商事フードテック株式会社製 商品名「ソルビット」、濃度70重量%)とを混合し、スタラーで撹拌した。この混合溶液に梅酢エキス((株)紀州ほそ川製 商品名「梅BX70」、酸度42%)77重量%を加えて、撹拌を行い、中和反応を行った。中和前の梅酢エキスのpHは1.40で、中和後のpHは2.90であった。
【0029】
(比較例1)
水酸化カリウム水溶液11.5重量%と梅酢エキス77重量%((株)紀州ほそ川製、商品名「梅BX70」、酸度42%)を加えて、撹拌を行い、中和反応を行った。その後、この溶液にD−ソルビトール液11.5重量%(三菱商事フードテック株式会社製 商品名「ソルビット」、濃度70重量%)を加え、撹拌をした。中和前の梅酢エキスのpHは、1.40で、中和後のpHは2.90であった。
【0030】
[評価]
上記実施例1と比較例1で作製した梅酢エキスの中和物を用いて、官能試験を行った。官能試験は、官能試験の訓練を受けた者1名で行い、味の変化を調べた。実施例1の梅酢エキスの中和物は後味に嫌味がなくなるなど味質が改善していた。一方、比較例1の梅酢エキスの中和物は後味に嫌味があるなど、味質が劣っていた。
【0031】
(実施例2)
(糖アルコールの検討)
糖アルコールを変えた以外は、上記実施例1と同様にして、梅酢エキスの中和物を得た。用いた糖アルコールは、ソルビトール、還元麦芽水飴(三菱商事フードテック株式会社製商品名「アマルティS」、濃度70重量%に調整)、還元水飴[組成:直鎖オリゴ糖アルコール、マルトトリイトール、マルチトール、ソルビトール](三菱商事フードテック株式会社製 商品名「PO−30」濃度70重量%)、還元水飴[組成:マルトトリイトール、マルチトール、ソルビトール、分岐オリゴ糖アルコール](三菱商事フードテック株式会社製、商品名「PO−300」)、トレハロース(株式会社 林原商事製、商品名「トレハ」に水を加えて70重量%に調整)を用い、比較例として砂糖70重量%溶液を用いた。
【0032】
上記実施例と同様に官能試験を行った。味質は、優れている順にソルビット>PO−30=PO−300=アマルティS>トレハロース>砂糖であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強アルカリと糖アルコールとの混合溶液を、有機酸含有物に添加して有機酸を中和することを特徴とする有機酸の中和方法。
【請求項2】
前記強アルカリが、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選択される1種以上の金属の水酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の有機酸の中和方法。
【請求項3】
前記糖アルコールが、エリトリトール、グリセリン、ポリグリシトール、イソマルト(パラチニット)、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルトトリイトール、オリゴ糖アルコール、還元水飴であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機酸の中和方法。
【請求項4】
有機酸含有物が、食品である、請求項1〜3のいずれかに記載の有機酸の中和方法。