説明

有機酸を用いた澱粉系素材の改質方法及び改質澱粉素材

【課題】乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加して機能が改質された、機能性食品素材の製造方法と、該製造方法によって得られた澱粉系食品素材を提供する。
【解決手段】原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加して、その機能性を改変する工程からなる澱粉系食品素材の機能性の改質方法、また、原料の澱粉系食品素材の特性を、焙焼によって改質させて、特定の機能性を付加した澱粉系食品素材を製造する方法であって、原料の澱粉系食品素材を、有機酸とともに焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加した機能性食品素材を製造する方法、及びその澱粉系食品素材。
【効果】乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加した澱粉系食品素材を製造し、提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、澱粉系食品素材に有機酸を混合して焙焼し、該澱粉系食品素材に有用な機能性を付加した新規な澱粉系食品素材に関するものであり、更に詳しくは、原料の澱粉系食品素材に各種の有機酸を混合して所定の温度で焙焼し、また、有機酸の種類を選択することにより、乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性を持つ澱粉系食品素材に改質する方法、改質された澱粉系食品素材の製造方法、及びその澱粉系食品素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、澱粉を加熱処理することによって、デキストリンとしたり、該澱粉を温水中で処理して、一部難消化性の澱粉として利用したり、或いは、澱粉に加圧−減圧処理を施して、難消化性の澱粉としたりする事例がみられるように、澱粉の本来の特性を人為的に改質して、その加工製品を製造する方法が種々知られている。
【0003】
乳化性の澱粉関連技術については、例えば、穀物調製品の製造方法として、穀物粒に、乳化剤溶液を付着させた後、加圧蒸煮して、α化し、次いで、テンパリングした後、厚目に圧扁し、これを、乾燥した後、焙焼する、穀物調製品の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、この方法は、工程が複雑であり、しかも、乳化剤を使用して、穀物粒を製造するものであり、主原料として、澱粉又は澱粉を含む穀粉を用い、副原料として、有機酸を用いる、本発明の方法とは、本質的に異なるものである。
【0005】
トウモロコシ澱粉又はタピオカ澱粉に、油脂加工を施した、フライ食品用のバッター調製用製品が知られているが、本製品は、微量の植物性油脂類を澱粉に混合し、乾燥させて製造したものである(非特許文献1)。
【0006】
モチトウモロコシ澱粉を、水酸化ナトリウムの存在下において、オクテニルコハク酸無水物で処理し、親油性を持たせた加工澱粉である、オクテニルコハク酸デンプンナトリウムは、糊化温度は、やや低く、粘性が高く、保存安定性も高く、乳化能を持つ製品として知られている。
【0007】
ナノ単位の保存・安定剤である商品名Nova SOLは、化学的な補助剤なしでも、安定なエマルションになり、安全な保存・安定剤として、使用可能であることが知られている(非特許文献2)。また、フルーツプレパレーション用シロップに、米澱粉を含有する、シロップ中でのフルーツの分散性に優れたフルーツのシュリンク抑制方法が提案されている(特許文献2)。
【0008】
この他、乳化剤、乳化安定剤としては、ローカスト粉末、ペクチン粉末、アラビアガム粉末、グアーガム粉末、キサンタンガム粉末、ジェランガム粉末、ゼラチン粉末、寒天粉末、アルギン酸、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリペースト、レシチンペースト、卵黄レシチンペースト等があり、これらは、用途に合わせて、適宜利用されている。
【0009】
溶解性の澱粉としては、デキストリンが知られており、焙焼デキストリンは、数%の水を含む澱粉を、酸の存在下又は非存在下に、加熱して、得られるものである。その加熱条件は、酸を添加しないで焙焼する場合は、135〜218℃で、10〜20時間の加熱処理、酸を添加する場合は、79〜121℃で、3〜8時間の加熱処理、加水分解程度を高める場合は、酸を添加して、150〜220℃で、6〜18時間の加熱処理が必要とされる。
【0010】
本発明の方法で製造される澱粉系食品素材と類似性のある製品としては、各種の製品が知られている。例えば、焙焼デキストリンがあり、焙焼度合いにより、白色デキストリンと黄色デキストリンがある。また、無酸又はアルカリ添加の状態で焙焼し、加水分解したブリティッシュガムもある。
【0011】
白色デキストリンとしては、可溶性澱粉と呼ばれる、低分解物より、90%近い冷水可溶性成分のものまである。黄色デキストリンは、白色デキストリンの加水分解程度を更に高めたものであり、黄色に変化し、冷水可溶性成分は、98%以上となったものである。ブリティッシュガムは、酸焙焼法によるデキストリンと比べ、分子量の大きい高分岐状分子構造のものである。
【0012】
酵素変性デキストリンは、マルトデキストリンと総称され、澱粉を酵素を用いて、高温液化法により加水分解したものである。酸分解でんぷんは、澱粉を無機酸又は有機酸で処理し、可溶性としたもので、冷水には溶解せず、加熱により低粘度の糊液となるので、Thin Boiling Starchとも呼ばれる。
【0013】
更に、最近、加工澱粉として、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロビル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン及びリン酸架橋デンプンが食品衛生法第10条に基づく添加物として指定することは、差し支えない、とされている。これらの加工澱粉は、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊料、乳化剤への用途がある。
【0014】
抗酸化性の澱粉関連素材としては、抗酸化性多糖類があり、抗酸化活性を持つ低メトキシペクチンが、豆モヤシ胚軸多糖類から得られている(非特許文献3)。抗酸化性成分部分を持つ高分子素材であれば、その分解により、潜在化していた部分が顕在化して、抗酸化性を持つ素材に変換できることは予想できる。
【0015】
抗酸化性に関連するものとして、グルコサミンとアミノ酸、糖質及び有機酸との褐変反応により生成した褐変物質について、抗酸化性及びその性状を報告した例がある(非特許文献4)。これは、遊離グルコサミンに、アミノ酸、糖質及び有機酸を添加して、37℃と100℃、液状で反応させたものであり、アミノ酸:L−リジン、DL−アラニン、L−ロイシン、グリシン、レメチオニン、L−グルタミン酸;糖質:D−キシロース、D−グルコース、D−マルトース、D−ガラクトース、D−サッカロース;有機酸:L−アスコルビン酸、コハク酸、クエン酸、シュウ酸、を用いている。
【0016】
褐変物質の調製は、遊離グルコサミン0.1Mと、0.05Mのアミノ酸、糖及び有機酸を、それぞれ加え、蒸留水に溶解後、褐色容器に入れ、37℃のインキュベーターで、30日間放置褐変させている。同様の濃度に調製した溶液を、100℃、60分間加熱褐変させたものについて、抗酸化性を、ワールブルグ検圧装置により、酸素吸収量を測定して求め、酸素吸収量の値が小さいもので、抗酸化性があるとしている。
【0017】
抗酸化性については、37℃で30日間及び100℃で60分間、加熱褐変させた試料の抗酸化性は、30日間放置では、アミノ酸添加区のロイシン区、グルタミン酸区、糖添加区のグルコース区、キシロース区及びすべての有機酸添加区に、明らかな抗酸化性が認められた。一方、100℃、60分間加熱では、30分間加熱時に、グルコース区、コハク酸区、クエン酸区、シュウ酸区で、酸化を促進し(抗酸化とは逆)、この現象は、有機酸添加区で、顕著に表れたが、以後は、すべての添加区で、抗酸化性が認められた。
【0018】
特に、アスコルビン酸区、グルコース区が顕著であった。更に、37℃、30日間放置の有機酸添加区では、全試料区とも効果的な効力を示したが、100℃、60分間加熱では、アスコルビン酸区のみに強い抗酸化性が認められ、逆に、アミノ酸及び糖添加区では、強い抗酸化性を示すものが多かった。
【0019】
このように、反応条件により、抗酸化性の出現は多様に変化し、特に、成分の組合せ、温度条件が抗酸化性発現には大きく影響し、これらは、実験することにより見出せるものである。また、この例では、溶液状での反応であるが、粉末状での反応(焙焼)で、抗酸化性の発現がどのようになるかは予想することはできない。また、グルコサミン褐変物質を添加したビスケット及びいわしの開き干しの保存中の過酸化物価の変化に関する、当該褐変物質の利用についての報告もある(非特許文献5)。
【0020】
このように、従来、乳化性、溶解性、抗酸化性を持つ澱粉関連製品の製造方法、類似製品は、極めて多いが、これらの方法は、工程が複雑であったり、目的とする機能を付加できない場合が多々あり、いずれも、その方法や、得られる製品も、原料に比較して、十分な優位性がないのが実情である。
【0021】
【特許文献1】特許第3168549号公報
【特許文献2】特許第4000173号公報
【非特許文献1】フードケミカル、4月号、2008年、食品化学新聞社
【非特許文献2】ジャパンフードサイエンス、Vol.46(5)、2007、日本食品出版株式会社
【非特許文献3】日本食品科学工学会誌、Vol.54(6)、pp.247−252(2007)
【非特許文献4】小柳津 周、日本食品工業学会誌、第35巻、第12号、pp.846−850(1988年)
【非特許文献5】小柳津 周、栄養学雑誌、Vol.46(1)、pp.35−40(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、簡便な方法で、原料の澱粉系食品素材の特性を人為的に変換、改質させて機能性を付加した加工製品の澱粉系食品素材を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、有機酸の種類により、付与できる機能性を大きく変換、改質できることを初めて見出し、また、油脂の添加を必要としないで、乳化性を有する澱粉系食品素材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加して、その機能性を改質する工程からなり、上記原料の澱粉系食品素材が、澱粉、小麦粉、米粉、又は糖質素材であることを特徴とする澱粉系食品素材の機能性の改質方法。
(2)原料として澱粉系食品素材を用い、焙焼し、その機能性を改質させて特定の機能性を付加した機能性澱粉系食品素材を製造する方法であって、1)原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性を付加した機能性澱粉系食品素材を製造する工程からなり、2)上記原料の澱粉系食品素材が、澱粉、小麦粉、米粉、又は糖質素材であることを特徴とする機能性澱粉系食品素材の製造方法。
(3)上記澱粉系食品素材が、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、キャッサバ澱粉、サゴ澱粉、米粉、又は小麦粉である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)上記有機酸が、クエン酸、L−酒石酸、DL−リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、乳酸、フィチン酸、コハク酸、又はアスコルビン酸である、前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5)原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合し、又は混合しながら、平板又は回転式で焙焼する、前記(1)から(4)のいずれかに記載の方法。
(6)焙焼温度が、120〜300℃である、前記(1)から(5)のいずれかに記載の方法。
(7)有機酸の混合割合が、澱粉系食品素材に対して、5〜40重量%である、前記(1)から(6)のいずれかに記載の方法。
(8)有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、又はアジピン酸であり、乳化性を付加した乳化性澱粉素材を製造する、前記(2)に記載の方法。
(9)有機酸が、酒石酸、フマル酸であり、溶解性澱粉素材を製造する、前記(2)に記載の方法。
(10)有機酸が、酒石酸、又はイタコン酸であり、抗酸化性澱粉素材を製造する、前記(2)に記載の方法。
(11)原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼し、その特性を改質した機能性澱粉系食品素材であって、焙焼により、溶解性、及び/又は抗酸化性が人為的に付加された機能性澱粉系食品素材。
(12)上記澱粉系食品素材が、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、キャッサバ澱粉、サゴ澱粉、米粉、又は小麦粉であり、上記有機酸が、クエン酸、L−酒石酸、DL−リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、乳酸、フィチン酸、コハク酸、又はアスコルビン酸である、前記(11)に記載の機能性澱粉系食品素材。
【0024】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、澱粉系食品素材の機能性を改質する方法であって、原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加して、その機能性を改質する工程からなり、上記原料の澱粉系食品素材が、澱粉、小麦粉、米粉、又は糖質素材であることを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明は、原料の澱粉系食品素材の特性を人為的に変換、改質させて、特定の機能性を付加した機能性食品素材を製造する方法であって、該方法は、原料の澱粉系食品素材を、有機酸の存在下で焙焼して、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加した機能性食品素材を製造する工程から構成される。
【0026】
本発明では、上記原料の澱粉系食品素材が、各種澱粉、小麦粉、又は米粉であることが好ましい。しかし、本発明は、澱粉の種類には限定されず、穀粉でも、澱粉含有量が80%以上であれば、本発明の方法を適用することができ、更に、これらの素材を混合して使用することもできる。
【0027】
また、本発明は、原料の澱粉系食品素材の特性を人為的に変換、改質させて、特定の機能性を付加した加工製品の澱粉系食品素材であって、原料の澱粉系食品素材に、有機酸を混合して、焙焼して、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加したことを特徴とするものである。本発明では、有機酸の種類は、限定されることなく、本発明の方法を適用することができ、更に、有機酸を2種以上混合して使用することも適宜可能である。
【0028】
本発明では、原料の澱粉系食品素材に、有機酸の一種であるクエン酸、リンゴ酸、アジピン酸の何れかを混合して、焙焼し、それにより、乳化性澱粉素材を製造することが好適である。この他の有機酸を用いた場合でも、乳化性能を示すものもあるが、その乳化能は、これらの3種の有機酸を用いた場合より低い。
【0029】
本発明では、原料の澱粉系食品素材に、有機酸の一種である酒石酸、フマル酸の何れかを混合して、焙焼し、それにより、溶解性澱粉素材を製造することが好適である。食品添加物用の酒石酸としては、DL型、L型があるが、何れでも使用することができる。
【0030】
本発明は、原料の澱粉系食品素材に、有機酸の一種である酒石酸、イタコン酸、フィチン酸の何れかを混合して、焙焼し、それにより、抗酸化性澱粉素材を製造することが好適である。この他の有機酸を用いた場合でも、抗酸化性を示すものもあるが、その抗酸化能は、これらの3種の有機酸を用いた場合より低い。
【0031】
本発明では、例えば、レモン果汁、ライム果汁等、有機酸を含む果汁や、果実を使用することもでき、例えば、米粉と組み合わせて、乳化性食品素材を製造することができる。しかし、このような、単一成分でない天然由来の素材の焙焼の場合は、通常の170℃の焙焼温度より、10〜20℃低い温度で焙焼しないと、着色が強くなる。この場合、ハイドロサルファイトのような脱色剤を用いれば、着色を低減することが可能である。
【0032】
ここで、上記試料を焙焼する際の焙焼温度は、120〜500℃が好ましく、特に、150〜300℃がより好ましい。焙焼温度が120℃未満であると、上述の機能性の付加ができず、一方、焙焼温度が500℃を超えると、素材が分解してしまうので、いずれも好ましくない。また、焙焼工程においては、通常の物質の変化速度は、10℃上昇ごとに2倍となるので、目的の素材に応じて、その製造条件として、好ましい焙焼温度と焙焼時間を、適宜設定することが求められる。
【0033】
焙焼の際には、原料の澱粉系食品素材を、例えば、回転ドラム内で、有機酸溶液と混合しながら処理したり、各素材をよく攪拌混合して、パンに広げて処理することが好ましい。この他、本発明では、高温を維持できる適宜の装置で、同様に焙焼することができ、焙焼方法は、特に制限されるものではない。
【0034】
次に、加工製品の澱粉系食品素材(試料)の乳化性、溶解性及び抗酸化性の評価の方法について説明する。本発明においては、加工製品の乳化性、溶解性、及び抗酸化性は、以下の手順により評価する。尚、着色油は、アスタキサンチン−オキアミ色素1%含有製品(マリン大王製)500mgを、市販サラダ油5mLに混合攪拌した溶液のことを意味する。本着色油は、室温放置で、1ヶ月以上安定である。
【0035】
(乳化性の評価方法)
(1)試料300mgを、10mLバイアルに秤取り、水5mLを加えて、沸騰水浴中で、5分間、加熱溶解処理する。
(2)これに、着色油100μLを加えて、手動で、1分間、振盪攪拌する。
(3)着色油の橙色の分散程度を観察して、++:全体によく着色、+:局部的に着色、±:僅かに着色、−:表面に着色油が浮遊している、の4段階で評価する。
【0036】
(溶解性の評価方法)
(1)試料300mgを秤取り、水5mLを加えて、室温で、手動で、1分間、振盪攪拌して、室温溶解性を観察する。
(2)次に、沸騰水浴中で、5分間、振盪攪拌して、高温溶解性を観察して、−:透明に溶解、±:僅かに混濁、+:かなり混濁、++:著しく混濁又は沈殿部分残存、の4段階で評価する。
(3)また、高温溶解処理した後、一夜、室温放置後の溶液状態も、観察する。
【0037】
(抗酸化性の評価方法)
(1)DPPH−EtOH溶液(1液)の調製:
2,2−Diphenyl−1−picryl−hydrazyl(SIGMA製)、FW 394市販試薬(暗所凍結保存)約4mgを、10mLバイアルに取り、2mMとなるように、計算量の99.5%エタノールを加えて(DPPH 3.94mg/5mL99.5%エタノールで2mM)、振盪して、溶解する。尚、暗所凍結保存しておけば、2,3ヶ月は使用できる。
【0038】
(2)0.1M 酢酸緩衝液−50%エタノール溶液(2液)の調製:
0.2M 酢酸緩衝液(pH 5.0)と99.5%エタノールを当量混合して、0.1M 酢酸緩衝液−50%エタノール溶液を調製する。尚、室温で数ヶ月使用できる。3.1mMビタミンC水溶液を調製し、凍結保存しておき、室温で融解して使用する。尚、2、3ヶ月は使用できる。
【0039】
(3)測定:
呈色尺度は、ビタミンC 1mM水溶液の、0、25、50、100μLを、2.4、2.375、2.35、2.3mLの2液に加え、1液100μLと混合して、発色させ、呈色尺度、0:−、25:2+、50:4+、100:6+、として評価する。試料の呈色度が、この中間に位置すれば、+、3+、5+とし、計算により、ビタミンCとしての含有率を求める。
【0040】
液体試料の場合は、100μLを用いるが、固形試料の場合は、25mgを秤取り、2.3mLの2液に溶解し、1液100μLを加えて、発色させ、その呈色度を、呈色尺度と比較して、大凡の含有率を求める。なお、pHにより、呈色度は変化するので、pHチェックを行い、比較する一連の試験では、同一pHにする。尚、塩基サイドでは、呈色が変化しやすい。
【0041】
本発明において、乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性澱粉素材とは、上記評価方法を用いて測定された乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性を有する素材を意味するものとして定義される。本発明の方法により製造される製品は、有機酸の種類を選択することにより、室温で溶解し、しかも、ヨウ素澱粉反応の呈色が、blueから、purple−brownを示すほどの長鎖の分子を残すもので、しかも、室温でゲル化しない等の特性を有するものである。本発明では、有機酸を、加水分解の触媒作用的に用いたものではなく、主原料の澱粉系素材に対して、副素材として用いたものである点が、従来の可溶性澱粉の製造法とは本質的に異なっている。
【0042】
本発明の製品は、従来の加工澱粉とは本質的に異なり、食品原料を用い、煮る・焼くという調理手法を用いて製造されるものであり、食品扱いが可能なものであり、従来の加工澱粉等のような「加工」の文字を付記しない、「でん粉」、「でんぷん」、「澱粉」、「デンプン」等と表示することができる。
【0043】
本発明の抗酸化性澱粉素材は、特に、これまでにない新素材であり、これに関連する素材としては、メラノイジンがあげられる。メラノイジンは、糖質とアミノ酸を高温処理することにより生成する有色成分であるが、脱色しても、その抗酸化能は、残存することが知られている。
【0044】
本発明の方法で生成する成分は、澱粉と有機酸の複合体、或いは有機酸の存在下で澱粉から生成する成分と予想され、メラノイジンとは異なる、これまでにない特殊な一群の成分からなるものと予想される。本発明では、有機酸を使用し、かつ有機酸の種類を選択することにより、抗酸化性澱粉素材を製造することを可能にしたものである。
【0045】
本発明は、基本的には、澱粉又は穀粉の各単独乃至は1種類以上に、有機酸類(食品添加物)、すなわち、クエン酸、L−酒石酸、DL−リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、乳酸、フィチン酸、コハク酸又はアスコルビン酸の1種類以上を混合して、焙焼し、乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性を付加した澱粉又は穀粉を製造するものである。
【0046】
本発明では、有機酸と糖質を焙焼してできた素材を、全体としてOAB糖と呼称する。そして、例えば、有機酸がクエン酸で、糖質が澱粉の場合は、クエン酸OAB澱粉と呼称する(Organic Acid Baking Saccharide、Saccharide baked with organic acid)。
【0047】
OAB澱粉は、「いつでも・どこでも・簡単利用−安全・高機能・適正価格」な製品であり、製品の特性は、製造法から見ても安全性に優れ、機能性が付与されていて、しかも、経済性にも優れており、また、保存性に優れ、取り扱いも容易であることから、何時でも、何処でも、簡単に利用できる利点を有するものである。
【0048】
本発明者らは、先に、原料の粉末状の食品素材の特性を人為的に変換させて、特定の機能性を付加した加工製品の粉末状の機能性食品素材を製造する方法を開発した。この方法は、原料の粉末状の食品素材を、該粉末を構成する粒子の分離状態を保持しながら、大気中で加熱処理することにより、粉末状の難消化性、乳化性乃至抗酸化性を付加した機能性食品素材を製造する工程から構成される。
【0049】
それにより、上記原料の粉末状の食品素材が、小麦粉、米粉又は糖質素材粉末であることを特徴とする加工製品の粉末状の機能性食品素材の製造方法及びその製品として、糖質と糖質以外の食品成分を混合して、大気中で高温処理することで、当該機能性素材を製造する方法及びその素材を開発した。
【0050】
この中で、水、有機酸、又は油脂を混合して高温処理する、各種製品の製造方法を提案しているが、乳化性澱粉、溶解性澱粉、抗酸化性澱粉については、その製造条件では、有機酸を特定していない。更に、この方法では、例えば、乳化性の澱粉を製造する場合、澱粉+有機酸+水に、油脂も添加することを必須としている。
【0051】
本発明は、有機酸の種類を選択することにより、抗酸化性素材を製造できるという新規知見に基づいて開発されたものである。本発明により、初めて、有機酸と澱粉系糖質で、粉末状を保持して、焙焼により、抗酸化性澱粉系素材を作製できることが確認された。溶液状、懸濁状、糊、或いはケーキ状の反応系では、焙焼により、試料が固化し、抗酸化性の発現も小さく、しかも粉砕が困難となり、利用し難い状態になる。本発明は、有機酸を介在させせることで、これらの問題を解消し得たものである。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)原料の澱粉系食品素材を、有機酸の存在下で、焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性の機能を付加した加工製品の澱粉系食品素材を製造することができる。
(2)例えば、各種澱粉系食品素材から乳化性を付加した澱粉系食品素材を製造することが可能であり、また、その製造方法は、極めて簡便で、低コストな工程からなる。
(3)本発明の製品は、例えば、溶解性と抗酸化性を兼ね備えた製品として、健康志向食品等に適宜利用可能である。
(4)本発明の製品は、その抗酸化性を利用して、例えば、酸化防止、着色防止、食品の品質劣化防止、不快臭の低減等の食品の高付加価値化に適宜利用可能である。
(5)本発明の製品は、その乳化性を利用して、例えば、液状食品、練り食品、パン類、めん類、菓子類等へ適宜利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
本実施例では、クエン酸、水、澱粉の混合系で、焙焼するのみで、乳化性澱粉素材を製造した。得られた製品は、乳化能、及び味質に優れていることが判明した。尚、本発明者らが、先に開発した乳化性食品素材の製造法では、クエン酸、水、澱粉及びサラダ油の混合系で、高温処理していた。
【0055】
[乳化性]
以下の1〜9の組成の試料を、170℃で30min焙焼した。ただし、8の試料は、室温で30min放置した。CSは、コーンスターチである。尚、溶解+CSは、CSを溶解したことを意味する。
1.クエン酸100mg+水300μLで溶解+CS 1g
2.クエン酸200mg+水300μLで溶解+CS 1g
3.クエン酸300mg+水300μLで溶解+CS 1g
4.クエン酸100mg+水600μLで溶解+CS 1g
5.クエン酸1g+水500μLで溶解+CS 1g
6.サラダ油100μL+CS 1g
7.サラダ油400μL+CS 1g
8.サラダ油100μL+CS 1g
9.クエン酸100mg+水300μLで溶解+CS 1g+サラダ油100μL(LS)
【0056】
焙焼又は放置の処理前の10〜20mLの試料を、ミニビーカー中でよく攪拌混合したときの観察結果を以下に示す。数値は、上記1〜9の試料を示す。
1:粉末状、2:粉末状、3:最初は揺変性(チキソトロピー、Thixotropie)で、攪拌を続行すると粉末状、4:揺変性、5:揺変性、6:サラサラ粉末状、7:ややべたつく(この量がサラダ油添加の限度)、8:粉末状、9:粉末状
【0057】
図1に、焙焼又は放置の処理をした試料を示す。また、焙焼又は放置の処理後の外観観察と味質評価の結果を以下に示す。数値は、上記1〜9の試料を示す。
1:僅かに黄白色 酸味あり、2:僅かに黄白色 酸味は極弱い、3:僅かに黄褐色 酸味あるが1より弱い、4:干ばつ田状で僅かに黄白色 酸味あり、5:黒褐色固体 破砕困難、6:僅かに黄白色 油臭あり、7:僅かに黄色 油臭あり、ややべたつく、8:白色 無味、9:白色 無味(LS:1と同じ)
【0058】
焙焼又は放置の処理をした各試料300mgを秤取り、水5mLと着色油100μLを加えて、沸騰水浴中で時々攪拌しながら溶解処理した。図2に、その結果を示す。
【0059】
乳化性について、−、±、+、++、の4段階評価を行った。その結果を以下に示す。
1:+、2:++、3:+、4:±、5:−、6:++、7:−、8:++、9(LS):+
【0060】
1とLSは、類似様相、2は全体によく分散、3は下層が分散、6も全体によく分散、8は分散しているがゲル状、その他は分散不良、であった。
【0061】
この実験結果から、クエン酸を混合して焙焼することにより、油脂混合の場合と同様の乳化性が付加されることが実証された。有機酸の混合比率は、澱粉系粉末に対して、10〜30%が好ましく、また、水分が、澱粉系粉末に対して、50%以上では、乳化能は劣ることが判明した。また、味質には劣るが、油脂を混合して焙焼しても、乳化性澱粉が製造できることも判明した。
【0062】
コーンスターチ、ワキシーコーンスターチのみを、170℃、30分間、焙焼した場合は、やや混濁するものの、溶解し、液状では、着色油は、分散しないが、ゲル化すると、均一に分散する。焙焼しない場合も、同様である。ハイアミロースコーンスターチを同様に焙焼した場合は、コーンスターチよりも劣るものの、乳化性は認められる。
【0063】
2の乳化性澱粉を、α−アミラーゼで処理すると、乳化能は消失することから、乳化能は、糊化部分にあり、この部分が、酵素により水解除去されて、乳化能が消失するものと考えられる。澱粉粒の糊化部分が、油脂成分を吸着して、分散するものと考えられるが、この他の有機酸との複合体も関与している可能性はある。
【実施例2】
【0064】
クエン酸20gに、水30gを加えて溶解し、この中に、コーンスターチ100gを加えてよく混合し、パンに敷いて、180℃、20分間焙焼して、薄茶色の乳化性を付加した乳化能+の粉末を得た。同様にして、焙焼手段としてブリキで作製したミニ回転ドラムを用いて、手動回転で焙焼し、同様の結果を得た。
【実施例3】
【0065】
クエン酸20gに、水30gを加えて溶解し、この中に、コーンスターチ100gを加えて、よく混合し、パンに敷いて、170℃、30分間焙焼して、極薄茶色の乳化性粉末を得た。
【実施例4】
【0066】
レモン6倍濃縮透明果汁(磐田化学工業製、果香、20060710、酸度27%以上(30%))と澱粉系素材として、1.ホワイトフェザー(小麦粉、日東富士製粉製)、2.上新粉(米粉、日の本穀粉製)を用い、1の1gに、レモン果汁600μLを添加すると、軟らかい塊になり、400μL添加すると、パサパサの塊・麺生地に近く、200μL添加すると、粉末状を保持できた。
【0067】
また、2には、200μLを添加して、撹拌混合(粉末状)した。150℃、60分焙焼後では、400μL以上では、黒茶色の硬い塊、黒茶色小石状となり、破砕が困難で、乳化性は測定不能であった。1の200μLでは、白褐色粉末状、2の200μLでは、1の200μLより白い薄い褐色粉末状で、何れも乳化性は+であった。
【実施例5】
【0068】
小麦粉(富士製粉製)100gに、レモン果汁粉末(ポッカ製)20gを加え、水30gとともに混合して、パンに敷いて、150℃、60分間焙焼し、褐色の粉末を得た。この粉末1gを秤取り、一方、市販還元剤ハイドロサルファイトで1%水溶液を調製し、その300μLを、前記粉末に加えて、混合し、105℃で30分間乾燥して、薄茶色に脱色した、乳化性+の粉末を得た。
【実施例6】
【0069】
[溶解性]
本実施例で用いた有機酸自体の特性については、表1に、有機酸単独での溶解性と有機酸溶液のpHを、また、有機酸200mg+水300μLでコーンスターチ1gを溶解し、液状有機酸は、400μL+水100μL+コーンスターチ1gを攪拌混合し、170℃−30minで焙焼して調製した調製試料の呈色と調製試料の味質を、それぞれ示した。
【0070】
【表1】

【0071】
各有機酸の10%濃度での溶解性は、4、5、6、11は室温では溶解しにくく、沸騰水浴中5分間加熱で、4、6、11は溶解するが、5は溶解し難かった。室温2日間、放置後、5、6は結晶が晶出、11は僅かに晶出した。pHを測定し、不溶分があるものについては、母液のpHを測定した。
【0072】
各種有機酸200mgに、水300μLを加えて溶解又は懸濁し、コーンスターチ1gを混合して、170℃−30分焙焼した。この300mgをとり、水5mLを加えて、室温で手動振盪し、室温での溶解度を観察した。その外観を図3に示す。
【0073】
溶解性の評価は、−、±、+、++、の4段階で行った。その結果を以下に示す。
1:++、2:−、3:++、4:++、5:±、6:++、7:+、8:+、9:+、12:+
【0074】
沸騰水浴中で5分間加熱処理した直後の溶解性を観察した。その外観を図4に示す。
溶解性の評価は、−、±、+、++、の4段階で行った。その結果を以下に示す。
1:++、2:−、3:++、4:++、5:−、6:++、7:−、8:−、9:−、12:+
【0075】
加熱溶解後、室温で放置し、一夜後の溶解性を観察した。その外観を図5に示す。溶解性の評価は、−、±、+、++の4段階で行った。その結果を以下に示す。12は、ゲル化していた。フィチン酸は、黒色固形で殆ど不溶性で、コハク酸は、1のクエン酸と同等であった。
1:++、2:−、3:++、4:++、5:++、6:++、7:++、8:++、9:+、12:+
【実施例7】
【0076】
L−酒石酸20gに、水30gを加えて溶解し、この中にハイアミロースコーンスターチ(日本食品化工製)100gを加えて、よく混合し、パンに敷いて、170℃、30分間焙焼して、白黄色の粉末を得た。無焙焼試料に比較して、糊化が容易となった。この他の糊化し難い澱粉でも、糊化がより容易となるものと推測される。
【実施例8】
【0077】
[抗酸化性]
以下の試験区の試料の抗酸化性を調べた。
1.クエン酸 2.L−酒石酸 3.DL−リンゴ酸 4.イタコン酸 5.フマル酸 6.アジピン酸 7.グルコノデルタラクトン 8.グルコン酸(50%液) 9.乳酸(50%液) 10.Ref(コーンスターチのみ)
【0078】
各試験区の試料25mgをとり、2液2.3mLを加えて、手動振盪し、これに、1液100μLを加えて手動振盪して、抗酸化性を調べた。その結果を図6に示す。Blankは、0調製1時間後(0:1mM ビタミンC)で、試料の数値は、0:0調製、25:25μL、50:50μL、100:100μL、を示す。呈色尺度は、0:−、25:2+、50:4+、100:6+、により評価した。
【0079】
抗酸化能の評価は、−、+の程度で示した。その結果を以下に示す。尚、フィチン酸は2と同程度、コハク酸は1と同程度の抗酸化性が認められた。
1:+、2:5+、3:+、4:2+、5:+、6:+、7:+、8:+、9:−、12:−
【実施例9】
【0080】
L−酒石酸200mgを、水300μLで溶解し、コーンスターチ1gを加えて混合し、180℃で30分間焙焼して、茶色の粉末を得た。本粉末の抗酸化能は、ビタミンCの0.1%であった。170℃30分間焙焼の試料と比較すると、本粉末の抗酸化能は、約2倍の増強である。コーンスターチでも、茶色にまで焙焼すれば、抗酸化能は僅かであるが出現するので、この他の有機酸存在下での澱粉系素材の焙焼程度を強めることにより、抗酸化能は強まるものと推測される。
【0081】
また、ハイドロサルファイトでの脱色でも、抗酸化能の損失はほとんど認められなかった。クエン酸OAB澱粉を、重炭酸ソーダで中和し、沸騰水中で加熱溶解処理した後、α−アミラーゼ±グルコアミラーゼを作用させて、不溶物を遠沈分離することで、抗酸化能がより強い部分を得ることも可能であった。
【実施例10】
【0082】
アスコルビン酸100mgとL−酒石酸100mgを混合し、水300μLで溶解し、コーンスターチ1gを加えて、混合し、170℃30分間焙焼して、抗酸化能を有し、高溶解性の薄黄色粉末を得た。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上詳述したように、本発明は、有機酸を用いた澱粉系素材の改質方法及び改質澱粉素材に係るものであり、本発明により、原料の澱粉系食品素材を、有機酸の存在下で、焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性の機能を付加した加工製品を製造することができる。例えば、各種澱粉から乳化性を付与した澱粉素材を製造することが可能であり、また、その製造方法は、極めて簡便で、低コストである。本発明の製品は、例えば、溶解性と抗酸化性を兼ね備えた製品として、健康志向食品等に利用可能である。本発明の製品は、その抗酸化性を利用して、酸化防止、着色防止、食品の品質劣化防止、不快臭の低減等の食品の高付加価値化に利用できる。本発明の製品は、その乳化性を利用して、液状食品、練り食品、パン類、めん類、菓子類等へ利用できる。本発明は、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性の機能を付加した澱粉系食品素材を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1の焙焼又は処理後の試料の外観を示す。
【図2】各試料の乳化性を示す。
【図3】各試料の室温での溶解性を示す。
【図4】各試料の加熱後の溶解性を示す。
【図5】各試料の加熱溶解後、室温で放置後の溶解性を示す。
【図6】各試料の抗酸化性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性及び/又は抗酸化性を付加して、その機能性を改質する工程からなり、上記原料の澱粉系食品素材が、澱粉、小麦粉、米粉、又は糖質素材であることを特徴とする澱粉系食品素材の機能性の改質方法。
【請求項2】
原料として澱粉系食品素材を用い、焙焼し、その機能性を改質させて特定の機能性を付加した機能性澱粉系食品素材を製造する方法であって、1)原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼することにより、乳化性、溶解性、及び/又は抗酸化性を付加した機能性澱粉系食品素材を製造する工程からなり、2)上記原料の澱粉系食品素材が、澱粉、小麦粉、米粉、又は糖質素材であることを特徴とする機能性澱粉系食品素材の製造方法。
【請求項3】
上記澱粉系食品素材が、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、キャッサバ澱粉、サゴ澱粉、米粉、又は小麦粉である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記有機酸が、クエン酸、L−酒石酸、DL−リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、乳酸、フィチン酸、コハク酸、又はアスコルビン酸である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合し、又は混合しながら、平板又は回転式で焙焼する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
焙焼温度が、120〜300℃である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
有機酸の混合割合が、澱粉系食品素材に対して、5〜40重量%である、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、又はアジピン酸であり、乳化性を付加した乳化性澱粉素材を製造する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
有機酸が、酒石酸、フマル酸であり、溶解性澱粉素材を製造する、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
有機酸が、酒石酸、又はイタコン酸であり、抗酸化性澱粉素材を製造する、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
原料の澱粉系食品素材を、有機酸を混合して焙焼し、その特性を改質した機能性澱粉系食品素材であって、焙焼により、溶解性、及び/又は抗酸化性が人為的に付加された機能性澱粉系食品素材。
【請求項12】
上記澱粉系食品素材が、トウモロコシ澱粉、米澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、キャッサバ澱粉、サゴ澱粉、米粉、又は小麦粉であり、上記有機酸が、クエン酸、L−酒石酸、DL−リンゴ酸、イタコン酸、フマル酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、乳酸、フィチン酸、コハク酸、又はアスコルビン酸である、請求項11に記載の機能性澱粉系食品素材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−11756(P2010−11756A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172838(P2008−172838)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(302046621)
【出願人】(307020947)社団法人菓子・食品新素材技術センター (1)
【出願人】(591062331)磐田化学工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】