説明

有機酸生成方法、有機酸生成装置及び排水処理設備

【課題】 有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を提供する。
【解決手段】 汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法として、発酵汚泥Sの温度を測定し、測定した温度に基づいて発酵中の汚泥のpHを制御する方法を採用する。この方法によれば、発酵汚泥のpHを、温度に対応した最適のpHに制御することができ、有機酸の生成率が最大化される。このように、有機酸の生成率を最大化するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法、有機酸生成装置及び排水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や海、湖沼などの富栄養化による藻類やアオコの異常発生を防止すべく、生物処理法による下水の脱窒あるいは脱リン処理が行われており、この生物処理法で用いられる有機物を得るために、下水汚泥を嫌気的に発酵させる方法が知られている。このような下水汚泥を原料とした有機酸発酵処理で有機酸を生成させ、生成された有機酸を生物処理法の有機源として有効利用することができる。
【0003】
このような汚泥の有機酸発酵処理において、生物処理法で用いられる有機酸の生成率を高めるためには、発酵中における汚泥の温度を適正化することが必要であり、下記非特許文献1には、予め定めた一定温度下において下水汚泥の発酵を効率よく行う旨が記載されている。
【非特許文献1】前凝集と担体を用いた下水高度処理システムの実用化に関する調査研究,「2001年度 下水道新技術研究所年報」,財団法人 下水道新技術推進機構,2002年10月,2/2巻,P131−136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機酸の原料である下水汚泥の温度は、夏期には高くなり冬期には低くなるといったように、季節や天候の影響を受けて変化する。よって、非特許文献1の方法においては、発酵中の下水汚泥を一定温度に維持するために、導入される下水汚泥の温度に応じて発酵槽内を加温したり冷却したりする必要があるので、加温や冷却に係るエネルギーを大量に要する。
【0005】
そこで、本発明は、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、汚泥の有機酸発酵において、酸生成菌が汚泥を有機酸に変化させる有機酸発酵反応と同時に、生成した有機酸をメタン菌がメタンガスに変化させるメタン発酵反応も進行しており、これらの反応の活性が発酵中の汚泥の温度を主体とした諸条件に左右されることで、最終的な有機酸の生成率に影響を与えていることを見出した。例えば、汚泥の温度が高い場合には、有機酸発酵反応の活性(酸生成活性)も高いが、メタン発酵反応の活性(メタン生成活性)も高いので、有機酸発酵反応により生成した有機酸が、メタン発酵反応によってメタンガスへと変化してしまい、最終的な有機酸の生成率が小さくなってしまうということが判明した。
【0007】
そして、本発明者らは、上記のような酸生成活性やメタン生成活性は、汚泥の温度ばかりでなく、発酵中の汚泥のpHにも依存するので、このpHを調整することで上記酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを最適化し有機酸の生成率を最大化できることを見出した。そして、この活性のバランスを最適化するための発酵中の汚泥のpHは、汚泥の温度によって異なることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明の有機酸生成方法は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法であって、汚泥の温度に関する情報を取得し、取得した温度に関する情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機酸生成装置は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成装置であって、汚泥の温度に関する情報を取得する温度情報取得手段と、温度情報取得手段で取得した温度に関する情報に基づいて、発酵中の汚泥のpHを調整するpH調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この有機酸生成方法、有機酸生成装置によれば、発酵中の汚泥のpH制御において、汚泥の温度に関する情報が取得され、発酵中における汚泥のpHを、上記情報に基づき汚泥の温度に対応した最適のpHに制御することができる。これにより、汚泥の温度が変化した場合に、発酵中の汚泥のpHの調整によって、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適なものに調整される。そして、有機酸発酵反応により生成する有機酸の量とメタン発酵反応によってメタンガスに変化してしまう有機酸の量との収支が最適化され、最終的な有機酸の生成率が最大化される。このように、有機酸の生成率を最大化するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しないので、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーを節約することができる。
【0011】
また、本発明の有機酸生成方法では、pH制御におけるpHの目標値は、汚泥の所定の温度範囲に対応して設定されていることが好ましい。この場合、汚泥の所定の温度範囲に対応した目標値になるように、発酵中の汚泥のpHが制御されて、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適なものにされる。
【0012】
また、上記作用を効果的に奏するため、pHの目標値は、汚泥の温度が20℃以下の場合は、5以上7以下であり、汚泥の温度が20℃より高く30℃以下の場合は、4.5以上5.5以下であり、汚泥の温度が30℃より高い場合は、4以上5以下であることが好ましい。このように、汚泥の所定の温度範囲に対応させて、具体的に発酵中の汚泥のpHを以上のような値に調整することで、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適なものにされる。
【0013】
また、本発明の有機酸生成方法では、上述のpH制御と、汚泥の温度に関わらず発酵中の汚泥のpHを5以上7以下の値で一定に制御する一定pH制御と、を交互に行うことが好ましい。
【0014】
この有機酸生成方法では、上述の温度に基づいたpH制御において、発酵中の汚泥のpHが調整されて酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適なものとされる。このようなpH制御が行われている間は、発酵におけるメタン生成活性が比較的小さくなっており、メタン菌の増殖が抑えられている。そして、この温度に基づいたpH制御の終了時には、汚泥中のメタン菌は少ない状態となっている。
【0015】
このような状態から一定pH制御に移行し、発酵中の汚泥のpHが5以上7以下に維持されるので、発酵中の汚泥においては、酸生成活性が高い状態となる一方で、メタン生成活性も高くなるものの有機酸をメタンガスに変化させるメタン菌自体が少ない状態となっている。よって、一定pH制御に移行した直後は、有機酸が多く生成されながら、メタンガスに変化する有機酸が少ない状態となる。その後、この一定pH制御を継続し、メタン菌が徐々に増加することでメタンガスに変化する有機酸が徐々に多くなって来たところで、再び上述の温度に基づいたpH制御に移行し、メタン菌の増殖が抑えられることでメタン菌がウォッシュアウトされる。以上のように上述の温度に基づいたpH制御と一定pH制御とを交互に繰り返すことにより、メタン菌のウォッシュアウトが間欠的に行われながら酸生成活性が高い状態に保たれるので、有機酸の生成率を向上することができる。
【0016】
また、本発明の排水処理設備は、上記の有機酸生成装置を備え、有機酸生成装置で生成される有機酸を用いて排水の処理を行うことを特徴とする。この排水処理設備では、大量のエネルギーを要することなく上記有機酸生成装置から、排水の脱窒あるいは脱リン処理に必要な有機酸が効率よく得られるので、排水の処理が効率よく行われつつ、エネルギーを節約することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る有機酸生成装置を備えた排水処理設備の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1に示す排水処理設備100は、下水処理場に採用されているもので、下水に対して、生物的窒素除去及び生物的リン除去を含む高度処理を行う設備である。図に示すように、排水処理設備100は、最初沈殿池3、生物処理槽5、最終沈殿池7と共に有機酸生成装置1を備えている。
【0020】
排水処理設備100には、下水処理場の図示しない沈砂池で比較的粒径が大きい固形物が沈降分離され、布、空き缶、ビニール類等の篩渣がスクリーンにて除去され、ポンプ井よりポンプアップされた流入下水が、ラインL1を通じて導入される。ラインL1からの流入下水は、最初沈殿池3に導入され、重力沈降により最初沈殿池3の底部に沈降する生汚泥とそれ以外の上澄み液とに分離される。ここで分離された生汚泥は図示しない汚泥掻寄機で汚泥溜まり部3aに掻き寄せられて、一部はラインL11を通じて有機酸生成装置1に送られ、残りは、余剰汚泥とともに図示しない汚泥処理槽に送られて処理される。上澄み液は被処理水としてラインL2を通じて生物処理槽5に送られる。詳細は後述するが、有機酸生成装置1は、この生汚泥を発酵処理し、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸を含んだ発酵液をラインL20から排出する。
【0021】
生物処理槽5は、嫌気―無酸素―好気法による生物処理を行う処理槽であり、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cをこの順に備えている。ラインL2から嫌気槽5aに導入された上澄み液である被処理水は、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cの順に送られながら、それぞれの槽で嫌気性処理、無酸素処理、好気性処理が行われた後、ラインL3を通じて最終沈殿池7に送られる。このとき、ラインL20を通じて、有機酸生成装置1から有機酸を含む発酵液が嫌気槽5aに供給されることで、生物処理槽5における被処理水の脱窒反応あるいは脱リン反応が促進されることになる。また、好気槽5cには、散気装置5dが設けられており、送風機5eから送り込まれた空気により好気槽5c内の被処理水を曝気する。また、好気槽5cの滞留液は、循環ポンプ5fによりラインL4を通じて無酸素槽5bに送られ、循環導入されている。ここで、ラインL20から発酵液が無酸素槽5bに供給されてもよい。
【0022】
最終沈殿池7に送られた生物処理水は、浮遊する活性汚泥を沈降分離させた後、ラインL5を通じて排出され、図示しない設備において三次処理や滅菌処理が行われた後、河川等に放流される。沈降した活性汚泥は、活性汚泥溜まり部7aからラインL6を通じて排出され、図示しない設備における汚泥処理工程を経て処理される。
【0023】
上記の有機酸生成装置1について、更に詳細に説明する。有機酸生成装置1は、上述の通り、流入下水から分離された生汚泥を原料とし、生汚泥中の有機物を酸生成菌によって嫌気的に発酵させて、有機酸を得る装置である。原料となる生汚泥は、ラインL11を通じて装置1に導入され、まず汚泥貯留槽23に一旦貯留され、汚泥貯留槽23に設けられた汚泥撹拌機25によって撹拌される。撹拌されて均一な汚泥濃度となった生汚泥は、汚泥供給ポンプP1によってラインL12を通じて酸発酵槽27に送られる。なお、この汚泥貯留槽23は無くてもよく、ラインL11からの生汚泥が直接酸発酵槽27に導入されてもよい。また、汚泥貯留槽23に導入される生汚泥の汚泥濃度が低すぎる場合には、別途汚泥濃縮槽で前濃縮した後に汚泥貯留槽23又は酸発酵槽27に導入することが好ましい。
【0024】
酸発酵槽27は、導入された生汚泥を発酵処理し有機酸を生成させる槽であり、槽内に滞留する発酵汚泥Sを撹拌する酸発酵攪拌機29、発酵汚泥SのpHを測定するpHセンサ31、発酵汚泥Sの温度を測定する温度センサ(温度情報取得手段)33、及び槽内に酸性剤(例えば、塩酸)又はアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム)を投入して発酵汚泥SのpHを調整するpH調整装置35を備えている。pHセンサ31、温度センサ33及びpH調整装置35は、制御装置39に接続されており、pHセンサ31からのpH情報及び温度センサ33からの温度情報が制御装置39で処理され、処理された情報に基づいて、pH調整装置35を動作させて槽内のpHが調整される。従って、制御装置39及びpH調整装置35により、温度情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを調整するpH調整手段が構成されている。そして、酸発酵槽27内の発酵汚泥Sでは、調整されたpH条件下において、酸生成菌が発酵汚泥S中の有機物を分解して有機酸を生成する有機酸発酵反応が進行する。そして、この有機酸発酵反応によって生成した有機酸を含む発酵汚泥が、ラインL13を通じて濃縮槽43に送られる。
【0025】
濃縮槽43は円形断面をなしており、槽の下部で回転する掻き寄せブレード47aを有する掻寄機47を備えている。ラインL13を通じて濃縮槽43に導入された発酵汚泥は、掻き寄せブレード47aの回転による重力沈降によって固液分離される。この固液分離によって重力沈降した固体成分の一部は、濃縮汚泥としてラインL16を通じてポンプP2によって酸発酵槽27に返送されて再び発酵処理される。上記重力沈降した固体成分の残りは、余剰汚泥としてラインL17を通じて設備100外に排出され、酸発酵槽27で発生する発酵残渣と一緒に、図示しない設備によって脱水、焼却、灰処分等の処理が行われる。一方、濃縮槽43で上澄みとして分離された発酵液はラインL14を通じて発酵液貯留槽49へ送られ、この発酵液貯留槽49内で一旦貯留された後、ラインL20を通じて、有機酸を含む発酵液として排出される。そして、前述のとおり、ラインL20を通じて排出されたこの発酵液は、嫌気−無酸素−好気法の有機源として生物処理槽5に供給される。
【0026】
このような有機酸生成装置1においては、生物処理槽5での被処理水の脱リン処理、脱窒処理を効率よく行わせるために、有機酸の生成率を向上することが必要である。この装置1において、発酵汚泥Sには、酸生成菌ばかりでなくメタン菌も含まれているので、発酵汚泥S中では、酸生成菌が汚泥を有機酸に変化させる有機酸発酵反応と、生成した有機酸をメタン菌がメタンガスに変化させるメタン発酵反応とが同時に進行する。このため、有機酸の生成率を向上するためには、有機酸発酵反応の活性(酸生成活性)とメタン発酵反応の活性(メタン生成活性)とのバランスを調整し、有機酸発酵反応で生成される有機酸の量と、メタン発酵反応で消費される有機酸の量との収支において、出来るだけ前者の有機酸の量を多く、後者の有機酸の量を少なくすることが好ましい。
【0027】
上記のような酸生成活性やメタン生成活性の度合いは、図2に示すように、発酵汚泥Sの温度に依存し、発酵汚泥Sの温度が変化すれば、黒丸印で示す酸生成活性と四角印で示すメタン生成活性とのバランスが変化する。例えば、図2に示す、発酵汚泥SのpHが6.5の場合において、発酵汚泥Sの温度が20℃のときは、酸生成活性の値がある程度高い約0.7でありメタン生成活性の約0.4との差が比較的大きいので、最終的な有機酸の生成率は高い状態である。一方、発酵汚泥Sの温度が30℃になれば、酸生成活性及びメタン生成活性が双方とも高く、約0.95とほとんど差がないので、有機酸発酵反応により生成された有機酸は多いものの、その有機酸の多くがメタンガスに変化してしまい、最終的な有機酸の生成率は低い状態である。
【0028】
この考察に基づけば、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを最適化(酸生成活性を出来るだけ高く、メタン生成活性を出来るだけ低く)するために、発酵汚泥Sの温度を一定に制御(例えば、20℃一定に制御)することが考えられるが、このような制御を行うためには、季節や天候によって酸発酵槽27内を加温したり、冷却したりする必要があるので、大きなエネルギーを要することになる。
【0029】
しかしながら、図3に示すように、黒丸印で示す酸生成活性や四角印で示すメタン生成活性の度合いは、発酵汚泥の温度だけでなく発酵汚泥SのpHにも依存し、発酵汚泥SのpHが変化することによっても、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを変化させることができる。従って、有機酸生成装置1では、汚泥の加温や冷却に伴うエネルギーを要しないように、発酵汚泥Sの温度は特に調整せず、発酵汚泥Sの温度に基づいたpH目標値を選択し、発酵汚泥SのpHをその目標値に制御することで、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを最適化するようにしている。
【0030】
例えば、図3に示す、発酵汚泥Sの温度が30℃の場合にあっては、発酵汚泥SのpHが約6.5以下の範囲において、pHが低くなるほど酸生成活性及びメタン生成活性が共に低くなるが、メタン生成活性の方が酸生成活性よりも値が小さいので、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを最適にするpHが、このpH6.5以下の範囲に存在することになる。より具体的には、メタン生成活性が酸生成活性より所定レベル低くなるように、すなわち、発酵汚泥SのpHの目標値を4.5以上5.5以下の値にして制御すれば、メタン生成活性に比べて酸生成活性が大きく上回るような最適なバランスとされ、有機酸の生成量を大きくすることができる。
【0031】
このような、活性のバランスを最適にするようなpHは、発酵汚泥Sの温度によって変化し、温度が下がるにつれて活性の線図が図示右側におおむねシフトするので、上記pH制御における目標値は、発酵汚泥Sの温度範囲に対応して予め設定されている。具体的には、発酵汚泥Sの温度が20℃以下の場合の目標値は5以上7以下、発酵汚泥Sの温度が20℃より高く30℃以下の場合の目標値は4.5以上5.5以下、発酵汚泥Sの温度が30℃より高い場合の目標値は4以上5以下、の値に設定されている。このようなpH値を制御の目標値とすることで、上記活性のバランスが最適になるようなpH制御を、各温度範囲において行うことができる。
【0032】
以下、有機酸生成装置1において、上記のように酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを最適化するための発酵汚泥SのpH制御について図4のフロー図を参照し説明する。
【0033】
まず、酸発酵槽27の温度センサ33で発酵汚泥Sの温度が測定され(S402)、制御装置39に温度の情報が入力される。情報が入力された制御装置39は、その測定温度に対応する目標値を選択する(S404)。すなわち、測定温度が20℃以下の場合はpH5以上7以下の値が、測定温度が20℃より高く30℃以下の場合はpH4.5以上5.5以下の値が、測定温度が30℃より高いの場合はpH4以上5以下の値が目標値として選択される。
【0034】
次に、pHセンサ31で発酵汚泥SのpHが測定され(S406)、制御装置39に測定pH値の情報が入力される。制御装置39は、この測定pH値と選択した上記目標値とを大小比較し(S408,S410)、測定pH値が目標値と同じ場合には、操作を行わず、そのまま処理を終了する。この大小比較において、測定pH値が目標値よりも大きい場合には、制御装置39がpH調整装置35に駆動信号を送信し、駆動信号を受けたpH調整装置35から酸発酵槽27内に酸性剤が投入される(S412)。逆に、測定pH値が目標値よりも小さい場合には、制御装置39がpH調整装置35に駆動信号を送信し、駆動信号を受けたpH調整装置35から酸発酵槽27内にアルカリ剤が投入される(S414)。
【0035】
このように、発酵汚泥Sの温度に対応した値を目標値として、発酵汚泥SのpH制御が行われるので、発酵汚泥Sの温度が変化した場合、その変化に追従して目標値とすべきpH値が選択される。そして、選択されたpH値を制御の目標値として発酵汚泥SのpHが制御され、メタン生成活性に比べて酸生成活性ができるだけ大きく上回るような最適なバランスとされるので、有機酸の生成量を大きくすることができる。そして、このような制御を行う有機酸発酵処理によれば、発酵汚泥Sを加温したり冷却したりする必要がないので、エネルギーを節約することができる。また、酸発酵槽27に加温装置や冷却装置を設ける必要がないので、設備のコストダウンを図ることができる。
【0036】
また、図5に示すように、有機酸生成装置1においては、上述したようなpH制御(以下「温度追従pH制御」)と、発酵汚泥SのpHを一定に制御する一定pH制御とを交互に行ってもよい。このとき、温度追従pH制御を行う期間は、酸発酵槽27の水力学的滞留時間(HRT)の2〜4倍の時間とすることが好ましい。図5は、発酵汚泥Sの温度が30℃より高い場合に、30日周期で、7日間の温度追従pH制御を行い、それ以外の日は一定pH制御として、有機酸生成装置1の運転を行った場合の例を示している。
【0037】
一定pH制御の期間においては、発酵汚泥Sの温度に関わらず、発酵汚泥SのpHが5以上7以下の値(ここでは、pH5.5)で一定に制御する。すなわち、制御装置39は、pHセンサ31から得られた測定pH値が5.5よりも大きければ、pH調整装置35に駆動信号を送信して、酸性剤を酸発酵槽27内に投入させ、5.5よりも小さければ、同様にアルカリ剤を投入させる。温度追従pH制御の期間においては、発酵汚泥Sが30℃より高い温度であるから、発酵汚泥のpHは4.8とされている。
【0038】
このような有機酸生成方法の、温度追従pH制御において、この7日間は、発酵汚泥SのpHが温度に対応して調整され、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスが最適なものとされる。このような温度追従pH制御が行われている間は、酸生成活性がある程度高く、メタン生成活性が低い状態となっている。このようにメタン生成活性が比較的低いためメタン菌の増殖が抑えられている。そして、この温度追従pH制御の終了時(7日後)には、発酵汚泥S中のメタン菌は少ない状態となっている。
【0039】
このような状態から一定pH制御に移行し、発酵汚泥SのpHが5.5に一定に制御されるので、酸生成活性及びメタン生成活性が双方とも高い状態となる。このとき、発酵汚泥Sにおいては、酸生成活性が高い状態となる一方で、メタン生成活性は高いもののメタン菌自体が少ない状態となっておりメタン発酵反応が抑制された状態となる。従って、一定pH制御に移行した直後は、有機酸が多く生成しながら、メタンガスに変化する有機酸が少ない状態となる。その後、この一定pH制御を継続し、メタン菌が徐々に増加してメタンガスに変化する有機酸が徐々に多くなって来たところで、再び温度追従pH制御に移行し、メタン菌の増殖が抑えられることでメタン菌がウォッシュアウト(洗出)される。以上のように、温度追従pH制御と一定pH制御とを交互に繰り返すことにより、メタン菌のウォッシュアウト(洗出)が間欠的に行われながら、一定pH制御により酸生成活性が高い状態に保たれるので、有機酸の生成率を向上することができる。なお、一定pH制御と温度追従pH制御との移行時においては、徐々にpHを変化させてもよく、段階的にpHを変化させてもよい。
【0040】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、温度センサ33を酸発酵槽27に設けて発酵汚泥の温度を測定しているが、図6に示す有機酸生成装置2のように、汚泥貯留槽23に温度センサ33を設け、酸発酵槽27に導入される前の生汚泥の温度を測定してもよい。なお、図6において、図1と同一又は同等の構成要素には同一の符号を付している。
【0041】
また、実施形態では、最初沈殿池3からの生汚泥を有機酸生成装置1に導入しているが、最終沈殿池7からの汚泥を有機酸生成装置1に導入し有機酸の原料としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る有機酸生成装置を適用した排水処理設備の実施形態を示す概略図である。
【図2】発酵汚泥のpHが6.5の場合において、発酵汚泥の温度と酸生成活性及びメタン生成活性との関係を示す線図である。
【図3】発酵汚泥の温度が30℃の場合において、発酵汚泥のpHと酸生成活性及びメタン生成活性との関係を示す線図である。
【図4】発酵汚泥のpH制御を示すフロー図である。
【図5】発酵汚泥の他のpH制御の方法を説明する線図である。
【図6】有機酸生成装置の変形例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0043】
1,2…有機酸生成装置、27…酸発酵槽、33…温度センサ(温度情報取得手段)、35…pH調整装置(pH調整手段)、39…制御装置(pH調整手段)、100…排水処理設備、S…発酵汚泥(発酵中の汚泥)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法であって、
前記汚泥の温度に関する情報を取得し、取得した前記温度に関する情報に基づいて発酵中の前記汚泥のpHを制御することを特徴とする有機酸生成方法。
【請求項2】
前記pH制御における前記pHの目標値は、前記汚泥の所定の温度範囲に対応して設定されていることを特徴とする請求項1に記載の有機酸生成方法。
【請求項3】
前記pHの目標値は、
前記汚泥の温度が20℃以下の場合は、5以上7以下であり、
前記汚泥の温度が20℃より高く30℃以下の場合は、4.5以上5.5以下であり、
前記汚泥の温度が30℃より高い場合は、4以上5以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機酸生成方法。
【請求項4】
前記pH制御と、
前記汚泥の温度に関わらず発酵中の前記汚泥のpHを5以上7以下の値で一定に制御する一定pH制御と、を交互に行うことを特徴とする請求項3に記載の有機酸生成方法。
【請求項5】
汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成装置であって、
前記汚泥の温度に関する情報を取得する温度情報取得手段と、
前記温度情報取得手段で取得した前記温度に関する情報に基づいて、発酵中の前記汚泥のpHを調整するpH調整手段と、を備えたことを特徴とする有機酸生成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の有機酸生成装置を備え、前記有機酸生成装置で生成される前記有機酸を用いて排水の処理を行うことを特徴とする排水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−297262(P2006−297262A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121376(P2005−121376)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】