説明

有機酸生成方法、有機酸生成装置及び排水処理設備

【課題】 有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を提供する。
【解決手段】 汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法として、汚泥の発酵によって発生するメタンに関する情報を取得し、取得したメタンに関する情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを制御する方法を採用する。この方法によれば、上記情報に基づき発酵汚泥のpHを制御することで、生成する有機酸とメタンに変化する有機酸との収支を最適化することができ、有機酸の生成率が最大化される。このように、有機酸の生成率を最大化するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法、有機酸生成装置及び排水処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川や海、湖沼などの富栄養化による藻類やアオコの異常発生を防止すべく、生物処理法による生物的な下水の脱窒あるいは脱リン処理が行われており、この生物処理法で用いられる有機物を得るために、下水汚泥を嫌気的に発酵させる方法が知られている。このような下水汚泥を原料とした有機酸発酵処理で有機酸を生成させ、生成された有機酸を生物処理法の有機源として有効利用することができる。
【0003】
このような汚泥の有機酸発酵処理において、生物処理法で用いられる有機酸の生成率を高めるためには、発酵中における汚泥の温度を適正化することが必要であり、下記非特許文献1には、予め定めた一定温度下において下水汚泥の発酵を効率よく行う旨が記載されている。
【非特許文献1】前凝集と担体を用いた下水高度処理システムの実用化に関する調査研究,「2001年度 下水道新技術研究所年報」,財団法人 下水道新技術推進機構,2002年10月,2/2巻,P131−136
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機酸の原料である下水汚泥の温度は、夏期には高くなり冬期には低くなるといったように、季節や天候の影響を受けて変化する。よって、非特許文献1の方法においては、発酵中の下水汚泥を一定温度に維持するために、導入される下水汚泥の温度に応じて発酵槽内を加温したり冷却したりする必要があるので、加温や冷却に係るエネルギーを大量に要する。
【0005】
そこで、本発明は、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、汚泥の有機酸発酵において、酸生成菌が汚泥を有機酸に変化させる有機酸発酵反応と同時に、生成した有機酸をメタン菌がメタンガスに変化させるメタン発酵反応も進行しており、これらの反応の活性のバランスが、最終的な有機酸の生成率に影響を与えていることを見出した。例えば、有機酸発酵反応の活性(酸生成活性)とメタン発酵反応の活性(メタン生成活性)とのバランスが変化し、メタン生成活性が相対的に高くなると、有機酸発酵反応により生成した有機酸が、メタン発酵反応によってメタンに変化する量が増加し、最終的な有機酸の生成率が少なくなってしまうということが判明した。
【0007】
そして、本発明者らは、上記のような酸生成活性やメタン生成活性は、発酵中の汚泥のpHに依存するので、このpHを調整することで上記酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを調整できることを見出した。また、メタン生成活性は、メタン発酵反応によって発生するメタンの量に関係するので、発生するメタンに関する情報をモニタすることで、メタン生成活性の度合いを検知することができ、有機酸の生成率を高めるには、その情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを調整すればよいことを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明の有機酸生成方法は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法であって、汚泥の発酵によって発生するメタンに関する情報を取得し、取得したメタンに関する情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の有機酸生成装置は、汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成装置であって、汚泥の発酵によって発生するメタンに関する情報を取得するメタン情報取得手段と、メタン情報取得手段で取得したメタンに関する情報に基づいて、発酵中の汚泥のpHを調整するpH調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
この有機酸生成方法、有機酸生成装置においては、メタン発酵反応によってメタンに変化する量が増減した場合には、発酵によって発生するメタンが増減する。このとき、発酵中の汚泥のpH制御において、上記発生するメタンに関する情報が取得され、その情報に基づいて、発酵中における汚泥のpHが調整される。そして、この情報に基づくpH調整によって、有機酸発酵反応により生成する有機酸の量とメタン発酵反応によってメタンガスに変化してしまう有機酸の量との収支を最適化でき、最終的な有機酸の生成率が最大化される。このように、有機酸の生成率を最大化するための制御において、汚泥の加温や冷却のためのエネルギーを要しないので、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーを節約することができる。
【0011】
ここで、上記作用を効果的に奏するため、メタンに関する情報として、汚泥の発酵によって発生するガスの総量と、発生するガスにおけるメタンガスの濃度と、を取得してもよい。
【0012】
また、上記作用を効果的に奏するために、pH制御におけるpHの目標値は、発酵中の汚泥で発生するメタンガスの濃度から算出したメタン生成量に対応して設定されていることが好ましい。
【0013】
また、上記作用を効果的に奏するため、pHの目標値は、具体的には、発酵汚泥で発生する酢酸のうち、メタン化するモル比が10%以上の場合には、4以上5以下であり、発酵汚泥で発生する酢酸のうち、メタン化するモル比が10%未満の場合には、5以上6.5以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の排水処理設備は、上記の有機酸生成装置を備え、有機酸生成装置で生成される有機酸を用いて排水の処理を行うことを特徴とする。この排水処理設備では、大量のエネルギーを要することなく上記有機酸生成装置から、排水の脱窒あるいは脱リン処理に必要な有機酸が効率よく得られるので、排水の処理が効率よく行われつつ、エネルギーを節約することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、有機酸の生成率を向上しつつ、エネルギーの節約を図ることができる有機酸生成方法、有機酸生成装置及びこれを用いた排水処理設備を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る有機酸生成装置を備えた排水処理設備の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1に示す排水処理設備100は、下水処理場に採用されているもので、下水に対して、生物的窒素除去及び生物的リン除去を含む高度処理を行う設備である。図に示すように、排水処理設備100は、最初沈殿池3、生物処理槽5、最終沈殿池7と共に有機酸生成装置1を備えている。
【0018】
排水処理設備100には、下水処理場の図示しない沈砂池で比較的粒径が大きい固形物が沈降分離され、布、空き缶、ビニール類等の篩渣がスクリーンにて除去され、ポンプ井よりポンプアップされた流入下水が、ラインL1を通じて導入される。ラインL1からの流入下水は、最初沈殿池3に導入され、重力沈降により最初沈殿池3の底部に沈降する生汚泥とそれ以外の上澄み液とに分離される。ここで分離された生汚泥は図示しない汚泥掻寄機で汚泥溜まり部3aに掻き寄せられて、一部はラインL11を通じて有機酸生成装置1に送られ、残りは、余剰汚泥とともに図示しない汚泥処理槽に送られて処理される。上澄み液は被処理水としてラインL2を通じて生物処理槽5に送られる。詳細は後述するが、有機酸生成装置1は、この生汚泥を発酵処理し、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった有機酸を含んだ発酵液をラインL20から排出する。
【0019】
生物処理槽5は、嫌気―無酸素―好気法による生物処理を行う処理槽であり、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cをこの順に備えている。ラインL2から嫌気槽5aに導入された被処理水は、嫌気槽5a、無酸素槽5b、好気槽5cの順に送られながら、それぞれの槽で嫌気性処理、無酸素処理、好気性処理が行われた後、ラインL3を通じて最終沈殿池7に送られる。このとき、ラインL20を通じて、有機酸生成装置1から有機酸を含む発酵液が嫌気槽5aに供給されることで、生物処理槽5における被処理水の脱窒反応あるいは脱リン反応が促進されることになる。また、好気槽5cには、散気装置5dが設けられており、送風機5eから送り込まれた空気により好気槽5c内の被処理水を曝気する。また、好気槽5cの滞留液は、循環ポンプ5fによりラインL4を通じて無酸素槽5bに送られ、循環導入されている。ここで、ラインL20から発酵液が無酸素槽5bに供給されてもよい。
【0020】
最終沈殿池7に送られた生物処理水は、浮遊する活性汚泥を沈降分離させた後、ラインL5を通じて排出され、図示しない設備において三次処理や滅菌処理が行われた後、河川等に放流される。沈降した活性汚泥は、活性汚泥溜まり部7aからラインL6を通じて排出され、図示しない設備における汚泥処理工程を経て処理される。
【0021】
上記の有機酸生成装置1について、更に詳細に説明する。有機酸生成装置1は、上述の通り、流入下水から分離された生汚泥を原料とし、生汚泥中の有機物を酸生成菌によって嫌気的に発酵させて、有機酸を得る装置である。原料となる生汚泥は、ラインL11を通じて装置1に導入され、まず汚泥貯留槽23に一旦貯留され、汚泥貯留槽23に設けられた汚泥撹拌機25によって撹拌される。撹拌されて均一な汚泥濃度となった生汚泥は、汚泥供給ポンプP1によってラインL12を通じて酸発酵槽27に送られる。なお、この汚泥貯留槽23は無くてもよく、ラインL11からの生汚泥が直接酸発酵槽27に導入されてもよい。また、汚泥貯留槽23に導入される生汚泥の汚泥濃度が低すぎる場合には、別途汚泥濃縮槽で前濃縮した後に汚泥貯留槽23又は酸発酵槽27に導入することが好ましい。
【0022】
酸発酵槽27は、導入された生汚泥を発酵処理し有機酸を生成させる槽であり、槽内に滞留する発酵汚泥Sを撹拌する酸発酵攪拌機29、発酵汚泥SのpHを測定するpHセンサ31、槽内で発生するメタンガスを排出させるガス排出管34及び槽内に酸性剤(例えば、塩酸)又はアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム)を投入して発酵汚泥SのpHを調整するpH調整装置35を備えている。また、ガス排出管34には、このガス排出管34を通過する排ガスの流量を測定する流量計(メタン情報取得手段)41、及びその排ガス中のメタンガス濃度を測定する濃度センサ(メタン情報取得手段)43が設けられている。
【0023】
pHセンサ31、pH調整装置35、流量計41、及び濃度センサ43は、制御装置39に接続されており、pHセンサ31からのpH情報、流量計41からのガス流量情報及び濃度センサ43からのメタン濃度情報が制御装置39で処理され、処理された情報に基づいて、pH調整装置35を動作させて槽内のpHが調整される。従って、制御装置39及びpH調整装置35により、メタンに関する情報に基づいて発酵中の汚泥のpHを調整するpH調整手段が構成されている。そして、酸発酵槽27内の発酵汚泥Sでは、調整されたpH条件下において、酸生成菌が発酵汚泥S中の有機物を分解して有機酸を生成する有機酸発酵反応が進行する。そして、この有機酸発酵反応によって生成した有機酸を含む発酵汚泥が、ラインL13を通じて濃縮槽43に送られる。
【0024】
濃縮槽43は円形断面をなしており、槽の下部で回転する掻き寄せブレード47aを有する掻寄機47を備えている。ラインL13を通じて濃縮槽43に導入された発酵汚泥は、掻き寄せブレード47aの回転による重力沈降によって固液分離される。この固液分離によって重力沈降した固体成分の一部は、濃縮汚泥としてラインL16を通じてポンプP2によって酸発酵槽27に返送されて再び発酵処理される。上記重力沈降した固体成分の残りは、余剰汚泥としてラインL17を通じて設備100外に排出され、酸発酵槽27で発生する発酵残渣と一緒に、図示しない設備によって脱水、焼却、灰処分等の処理が行われる。一方、濃縮槽43で上澄みとして分離された発酵液はラインL14を通じて発酵液貯留槽49へ送られ、この発酵液貯留槽49内で一旦貯留された後、ラインL20を通じて、有機酸を含む発酵液として排出される。そして、前述のとおり、ラインL20を通じて排出されたこの発酵液は、嫌気−無酸素−好気法の有機源として生物処理槽5に供給される。
【0025】
このような有機酸生成装置1においては、生物処理槽5での被処理水の脱リン処理、脱窒処理を効率よく行わせるために、有機酸の生成率を向上することが必要である。この装置1において、発酵汚泥Sには、酸生成菌ばかりでなくメタン菌も含まれているので、発酵汚泥S中では、酸生成菌が汚泥を有機酸に変化させる有機酸発酵反応と、生成した有機酸をメタン菌がメタンガスに変化させるメタン発酵反応とが同時に進行する。このため、有機酸の生成率を向上するためには、有機酸発酵反応の活性(酸生成活性)とメタン発酵反応の活性(メタン生成活性)とのバランスを調整し、有機酸発酵反応で生成される有機酸の量と、メタン発酵反応で消費される有機酸の量との収支において、出来るだけ前者の有機酸の量を多く、後者の有機酸の量を少なくすることが好ましい。
【0026】
ここで、図2に示すように、黒丸印で示す酸生成活性や四角印で示すメタン生成活性の度合いは、発酵汚泥SのpHに依存し、発酵汚泥SのpHを変化させることによって、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを変化させることができる。これを利用し、有機酸生成装置1では、発酵汚泥SのpHを調整することで、酸生成活性とメタン生成活性とのバランスを調整し、上記の有機酸の量の収支を最適化するようにしている。
【0027】
そして、有機酸生成装置1では、発酵汚泥SのpH制御におけるpH目標値を、発酵汚泥Sで発生するメタンガスの濃度から算出したメタン生成量を基準にして決定している。すなわち、ガス排出ライン34を通過するメタンガスの濃度から算出したメタン生成量が所定量以上の場合には発酵汚泥SのpH目標値を比較的低く、所定量未満の場合にはpH目標値を比較的高くしてpH制御を行うことにしている。発酵汚泥Sでは、有機酸としての酢酸が発生し、その酢酸の一部がメタンへと変化するが、本発明者らによる種々の実験によれば、発酵汚泥Sで発生する酢酸のうち、メタン化する酢酸のモル比(以下「メタン発生率」と称する)が10%以上の場合には上記pH目標値を4以上5以下の値とし、10%未満の場合にはpH目標値を5以上6.5以下の値として、発酵汚泥SのpH制御を行うことが、有機酸の生成率を向上する上で好ましいことが判明した。
【0028】
以下、有機酸生成装置1における、発酵汚泥SのpH制御について図3のフロー図を参照し説明する。
【0029】
まず、酸発酵槽27の流量計41によって、ガス排出管34を通過するすべてのガス(メタンガス、炭酸ガス等を含む)の流量が測定され(S302)、濃度センサ43によってそのガス中のメタンガス濃度が測定される(S304)。そして、流量計41からの流量情報及び濃度センサ43からの濃度情報が制御装置39に入力され、制御装置39は、これらの情報から、メタン生成量及びメタンのモル数を算出する。また、有機酸生成装置1の設計値により定められる生成酢酸量から酢酸のモル数が求められる。そして、上記のメタンのモル数と酢酸のモル数との比率、すなわち、計算式「メタン発生率=メタンのモル数/酢酸のモル数」によって、メタン発生率を算出する(S306)。算出したメタン発生率が予め設定されている10%以上の場合には発酵汚泥SのpH制御におけるpH目標値として4以上5以下の値を選択し、算出したメタン発生率が予め設定されている10%未満の場合にはpH目標値として5以上6.5以下の値を選択する(S308)。
【0030】
次に、pHセンサ31で発酵汚泥SのpHが測定され(S310)、制御装置39に測定pH値情報が入力される。制御装置39は、この測定pH値と選択した上記pH目標値とを大小比較し(S312,S314)、測定pH値が目標値と同じ場合には、操作を行わず、そのまま処理を終了する。この大小比較において、測定pH値が目標値よりも大きい場合には、制御装置39がpH調整装置35に駆動信号を送信し、駆動信号を受けたpH調整装置35から酸発酵槽27内に酸性剤が投入される(S318)。逆に、測定pH値が目標値よりも小さい場合には、制御装置39がpH調整装置35に駆動信号を送信し、駆動信号を受けたpH調整装置35から酸発酵槽27内にアルカリ剤が投入される(S316)。
【0031】
以上のようなpH制御を行う有機酸生成装置1においては、発酵汚泥S中でメタン発酵反応が活発になると、メタン菌によってメタンに変化する有機酸が増加し、ガス排出管34を通過するメタンガスが増加する。そして制御装置39等によってモニタされたメタン発生率が10%以上となった場合には、pH目標値として4以上5以下の値が選択され、発酵汚泥SがそのpHに制御される。このようなpH条件下では、図2に示すように、メタン生成活性が低いので、ガス排出管34を通過するメタンガスが減少する。
【0032】
このとき、発酵汚泥S中ではメタン菌の増殖が抑えられ、発酵汚泥S中のメタン菌がウォッシュアウト(洗出)される。そして、発生するメタンガスが更に減少し、メタン発生率が10%未満となった場合には、pH目標値として5以上6.5以下の値が選択され、発酵汚泥SがそのpHに制御される。このようなpH条件下では、図2に示すように、酸生成活性が高い状態となる一方で、メタン生成活性も高くなるものの有機酸をメタンガスに変化させるメタン菌自体が上記pH4以上5以下の制御により少ない状態となっている。よって、有機酸が多く生成されながら、メタンガスに変化する有機酸が少ない状態となる。以上を繰り返すことにより、メタン菌のウォッシュアウト(洗出)が間欠的に行われながら酸生成活性が高い状態に保たれるので、有機酸の生成率を向上することができる。
【0033】
このように、酸発酵槽27で発生するメタンガスをモニタし、そのメタンガスの量によってpH制御の目標値を設定して発酵汚泥SのpHを制御するので、メタン発酵反応が多くなったタイミング、又は少なくなったタイミングに合わせて発酵汚泥SのpHを調整することができ、有機酸の生成量を大きくすることができる。そして、このような制御を行う有機酸発酵処理によれば、発酵汚泥Sを加温したり冷却したりする必要がないので、エネルギーを節約することができる。また、酸発酵槽27に加温装置や冷却装置を設ける必要がないので、設備のコストダウンを図ることができる。
【0034】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、濃度センサ43は、ガス排出管34を通過するガスのメタンガス濃度を測定しているが、濃度センサ43は、酸発酵槽27における発酵汚泥Sの上方の空間に溜まったガスのメタンガス濃度を測定してもよい。
【0035】
また、実施形態では、最初沈殿池3からの生汚泥を有機酸生成装置1に導入しているが、最終沈殿池7からの汚泥を有機酸生成装置1に導入し有機酸の原料としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る有機酸生成装置を適用した排水処理設備の実施形態を示す概略図である。
【図2】発酵汚泥の温度が30℃の場合において、発酵汚泥のpHと酸生成活性及びメタン生成活性との関係を示す線図である。
【図3】発酵汚泥のpH制御を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0037】
1…有機酸生成装置、27…酸発酵槽、35…pH調整装置(pH調整手段)、39…制御装置(pH調整手段)、41…流量計(メタン情報取得手段)、43…濃度センサ(メタン情報取得手段)、100…排水処理設備、S…発酵汚泥(発酵中の汚泥)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成方法であって、
前記汚泥の発酵によって発生するメタンに関する情報を取得し、取得した前記メタンに関する情報に基づいて発酵中の前記汚泥のpHを制御することを特徴とする有機酸生成方法。
【請求項2】
前記メタンに関する情報として、
前記汚泥の発酵によって発生するガスの総量と、前記発生するガスにおけるメタンガスの濃度と、を取得することを特徴とする請求項1に記載の有機酸生成方法。
【請求項3】
前記pH制御における前記pHの目標値は、発酵中の前記汚泥で発生するメタンガスの濃度から算出したメタン生成量に対応して設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機酸生成方法。
【請求項4】
前記pHの目標値は、
発酵汚泥で発生する酢酸のうち、メタン化するモル比が10%以上の場合には、4以上5以下であり、
発酵汚泥で発生する酢酸のうち、メタン化するモル比が10%未満の場合には、5以上6.5以下であることを特徴とする請求項3に記載の有機酸生成方法。
【請求項5】
汚泥を嫌気的に発酵させて有機酸を生成させる有機酸生成装置であって、
前記汚泥の発酵によって発生するメタンに関する情報を取得するメタン情報取得手段と、
前記メタン情報取得手段で取得した前記メタンに関する情報に基づいて、発酵中の前記汚泥のpHを調整するpH調整手段と、を備えたことを特徴とする有機酸生成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の有機酸生成装置を備え、前記有機酸生成装置で生成される前記有機酸を用いて排水の処理を行うことを特徴とする排水処理設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297263(P2006−297263A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121381(P2005−121381)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】