説明

有機金属アミド化合物及びその製造方法、アミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料

【課題】熱的に不安定であり、水素を取り出しやすい新規な有機金属アミド化合物及びその製造方法、これを用いたアミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料を提供すること。
【解決手段】(R)pMで表される有機金属化合物とアンモニアとを反応させることにより得られる、(R)mx(NHy)n(但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。Mは、金属元素。mは、1以上4以下の自然数。nは、1以上4以下の自然数。x、yは、それぞれ、1以上2以下の自然数。)で表される組成を有する有機金属アミド化合物及びその製造方法、これを含むアミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、アミド化合物複合体に含まれる水素を放出させることにより得られる水素貯蔵材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属アミド化合物及びその製造方法、アミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料に関し、さらに詳しくは、他の材料と組み合わせて用いることによって水素を放出することが可能な新規な有機金属アミド化合物及びその製造方法、このような有機金属アミド化合物を用いたアミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、このようなアミド化合物複合体から水素を放出することにより得られる水素貯蔵材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出による地球の温暖化等の環境問題や、石油資源の枯渇等のエネルギー問題から、クリーンな代替エネルギーとして水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーの実用化に向けて、水素を安全、かつ、効率的に貯蔵、輸送する技術の開発が重要となる。水素の貯蔵方法にはいくつかの候補があるが、中でも可逆的に水素を貯蔵・放出することのできる水素貯蔵材料を用いる方法は、最も安全に水素を貯蔵・輸送する手段と考えられており、燃料電池車に搭載する水素貯蔵媒体として期待されている。
【0003】
水素貯蔵材料としては、活性炭、フラーレン、ナノチューブ等の炭素材料や、LaNi、TiFe等の水素吸蔵合金が知られている。これらの内、水素吸蔵合金は、炭素材料に比べて単位体積当たりの水素密度が高いので、水素を貯蔵・輸送するための水素貯蔵材料として有望視されている。
しかしながら、LaNi5、TiFe等の水素吸蔵合金は、La、Ni、Ti等の希少金属を含んでいるため、その資源確保が困難であり、コストも高いという問題がある。また、従来の水素吸蔵合金は、合金自体の重量が大きいために、単位重量当たりの水素密度が小さい、すなわち、大量の水素を貯蔵するためには極めて重い合金を必要とするという問題がある。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、軽元素を含む水素貯蔵材料の開発が試みられている。これまでに開発されている軽元素を含む水素貯蔵材料としては、
(1) LiNH2、LiBH4等のリチウム(Li)を含む錯体水素化物(例えば、特許文献1、非特許文献1等参照)、
(2) NaAlH4等のナトリウム(Na)を含む錯体水素化物、
(3) Mg(NH2)2等のマグネシウム(Mg)を含む錯体水素化物、
などが知られている。
また、単相の金属間化合物ではなく、複数の相を複合化させることによって、水素吸蔵量を増大させたり、あるいは、水素の吸蔵・放出温度を低下させる試みがなされている。軽元素を含み、かつ、複数の相の複合体からなる水素貯蔵材料としては、LiNH2+LiH、LiBH4+MgH2などが知られている。
また、非特許文献2には、LiNH2+LiHの複合体が分解して水素を放出する際の反応メカニズムが提案されている。同文献には、LiNH2の分解によってNH3が放出され、放出されたNH3がLiHと速やかに反応し、水素が生成すると考えられる点、及び、複合体が相対的に低温で水素を放出するのは、LiHとLiNH2との間の相互作用によると考えられる点、が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、Li3N及びMg3Nの混合物と水素とを反応させることにより、LiHとMg(NH2)2の混合物を得る水素貯蔵方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、(Mg1-xx)(NH2)2±y(Mは、アルカリ元素及びアルカリ土類元素から選ばれる一種以上、0≦x≦0.75、0≦y≦0.75)で表されるマグネシウム系水素貯蔵材料が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特表2002−526658号公報
【特許文献2】特開2006−8446号公報
【特許文献3】特開2005−279438号公報
【非特許文献1】P.Chen、他4名、"Interaction of hydrogen with metal nitrides and imides"、「Nature」、2002年、vol.420/21、p.302-304
【非特許文献2】T.Ichikawa et al., J.Phys.Chem.B, 2004, 108, 7887-7892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軽元素を含む錯体水素化物は、相対的に重量が軽く、資源確保も比較的容易であり、相対的に低コストである。しかしながら、従来知られている錯体水素化物は、熱的に過度に安定であり、水素を取り出しにくいという欠点をもつ。
また、アミド系水素貯蔵材料の製造方法としては、従来、金属水素化物の粉末を所定の温度に加熱した状態でアンモニアガスと反応させる方法、あるいは、室温においてアンモニアガス圧力下でミリング処理する方法などが知られている。しかしながら、金属水素化物とアンモニアガスとを反応させる方法では、反応速度が遅いために、金属アミドを生成する時間が長くなる。一方、ミリング処理する方法では、製造時間の短縮が可能であるが、この方法では、大量合成の場合に収率が低下する。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、熱的に不安定であり、水素を取り出しやすい新規な有機金属アミド化合物及びその製造方法、これを用いたアミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、反応速度が速く、かつ収率も高い有機金属アミド化合物の製造方法、これを用いたアミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る有機金属アミド化合物は、次の(1)式で表される組成を有するものからなる。
(R)mx(NHy)n ・・・(1)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
mは、1以上4以下の自然数。
nは、1以上4以下の自然数。
x、yは、それぞれ、1以上2以下の自然数。
また、本発明に係るアミド化合物複合体は、本発明に係る有機金属アミド化合物を含むものからなる。この場合、アミド化合物複合体は、金属水素化物をさらに含むものが好ましい。
さらに、本発明に係る水素貯蔵材料は、本発明に係るアミド化合物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させることにより得られるものからなる。
【0010】
本発明に係る有機金属アミド化合物の製造方法は、次の(2)式で表される有機金属化合物とアンモニアとを反応させ、本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体を得る第1反応工程を備えている。
(R)pM ・・・(2)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
pは、1以上4以下の自然数。
【0011】
さらに、本発明に係るアミド化合物複合体の製造方法の1番目は、本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体と、第2成分とを混合する混合工程を備えている。
また、本発明に係るアミド化合物複合体の製造方法の2番目は、
本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体を、加圧容器中でアンモニアと反応させる第2反応工程と、
前記第2反応工程で得られた固体と、第2成分とを混合する混合工程と
を備えている。
この場合、第2成分は、金属水素化物が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
(2)式で表される有機金属化合物は、アンモニアとの反応性が高い。特に、これらを有機溶媒中で反応させると、両者の反応が促進され、短時間で有機金属アミド化合物を含む固体が得られる。しかも、生成物は、固体として沈殿するので、回収が容易であり、収率も高い。さらに、得られた有機金属アミド化合物は、熱的に不安定であり、分解温度が低い。そのため、これを適当な第2成分(特に、金属水素化物)と組み合わせて用いると、相対的に低温において相対的に多量の水素を放出することが可能なアミド化合物複合体となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る有機金属アミド化合物は、次の(1)式で表される組成を有するものからなる。
(R)mx(NHy)n ・・・(1)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
mは、1以上4以下の自然数。
nは、1以上4以下の自然数。
x、yは、それぞれ、1以上2以下の自然数。
【0014】
Rとしては、
(1) n−ブチル基、メチル基、エチル基、アリル基などの直鎖アルキル基、
(2) sec−ブチル基、t−ブチル基などの分岐アルキル基、
(3) ベンジル基、フェニル基、シクロペンタジエン基などの芳香族基、
などがある。
金属元素Mに複数個のRが結合している場合、各Rは、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
また、金属元素Mの種類は、特に限定されるものではないが、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Zn、Al、Pb、Sn、Ga、Si、B、Ge、及びInからなる群から選ばれる1種以上が好適である。有機金属アミド化合物に複数個の金属元素Mが含まれる場合、各金属元素Mは、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
【0015】
(1)式で表される有機金属アミド化合物としては、
n−ブチルマグネシウムアミド(C47MgNH2)、Me3GaNH2(t−Bu)、Me3InNH2(t−Bu)などがある。
【0016】
次に、本発明に係るアミド化合物複合体及び水素貯蔵材料について説明する。
本発明に係るアミド化合物複合体は、本発明に係る有機金属アミド化合物を含むものからなる。本発明において、「アミド化合物複合体」というときは、貯蔵した水素を放出することができるものをいう。
また、本発明に係る水素貯蔵材料は、本発明に係るアミド化合物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させることにより得られたものからなる。水素貯蔵材料は、水素を再吸蔵することができるものでも良い。
【0017】
有機金属アミド化合物は、後述するように、加圧容器中でアンモニアと反応させると、有機金属アミド化合物の全部又は一部が金属アミドとなる。本発明に係るアミド化合物複合体は、有機金属アミド化合物を含み、金属アミドを含まないものであっても良く、あるいは、有機金属アミド化合物と金属アミドの双方を含むものでも良い。また、アミド化合物複合体に金属アミドが含まれる場合、金属アミドは、有機金属アミド化合物をアンモニアと反応させることにより得られるものであっても良く、あるいは、別個に製造された金属アミドでも良い。
このような金属アミドとしては、具体的には、
(1) LiNH2、NaNH2などのアルカリ金属アミド、
(2) Mg(NH2)2、Ba(NH2)2、Ca(NH2)2、Sr(NH2)2、Be(NH2)2などのアルカリ土類金属アミド、
などがある。
【0018】
有機金属アミド化合物及び金属アミドは、いずれも、分解によってアンモニアを放出する。従って、有機金属アミド化合物を含むアミド化合物複合体から多量の水素を取り出すためには、放出されたアンモニアをトラップし、これを水素に分解する材料と組み合わせて用いるのが好ましい。このような作用を有する材料としては、金属水素化物がある。
有機金属アミド化合物と組み合わせて用いる金属水素化物としては、
(1) LiH、NaHなどのアルカリ金属水素化物、
(2) MgH2、CaH2などのアルカリ土類金属水素化物、
(3) LiAlH4、NaAlH4などのアラネート、
などがある。
なお、有機金属アミド化合物及び/又は金属アミドに含まれる金属元素と、金属水素化物に含まれる金属元素は、同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。
【0019】
有機金属アミド化合物と金属水素化物の比率は、有機金属アミド化合物の種類、金属アミドの有無等に応じて、最適な比率を選択する。一般に、有機金属アミド化合物(及び金属アミド)から放出されるすべてのアンモニアをトラップするのに必要かつ十分な量(以下、これを「化学量論量」という)の金属水素化物を添加すると、理想的には、最大の水素放出量が得られる。
実際には、金属水素化物の量は、化学量論量より多少ずれていても良い。但し、金属水素化物の量が過剰になると、有機金属アミド化合物(及び金属アミド)との反応に消費されない金属水素化物が増加し、水素放出量が減少する。一方、有機金属アミド化合物(及び金属アミド)が過剰になると、アンモニアの発生量が増加する。従って、金属水素化物の量は、化学量論量に近い方が好ましい。
【0020】
次に、本発明に係る有機金属アミド化合物の製造方法について説明する。
本発明に係る有機金属アミド化合物の製造方法は、次の(2)式で表される有機金属化合物とアンモニアとを反応させ、本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体を得る第1反応工程を備えている。
(R)pM ・・・(2)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
pは、1以上4以下の自然数。
なお、(2)式で表される有機金属化合物に含まれる有機基(R)及び金属元素(M)については、上述した通りであるので、詳細な説明は省略する。
【0021】
(2)式で表される有機金属化合物としては、具体的には、
ジn−ブチルマグネシウム((C47)2Mg)、ジエチルマグネシウム((C25)2Mg)などがある。
【0022】
有機金属化合物とアンモニアとを反応させる方法は、特に限定されるものではないが、第1の有機溶媒中で両者を反応させる方法が特に好適である。第1の有機溶媒中で両者を反応させると、反応が促進されるだけでなく、生成物が固体として沈殿するので、回収が容易であり、収率が高いという特徴がある。
第1の有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、非プロトン性極性溶媒などがある。これらは、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0023】
脂肪族炭化水素としては、具体的には、ヘキサン、ヘプタンなどがある。
芳香族炭化水素としては、具体的には、脱水トルエン、脱水キシレンなどがある。
エーテル系炭化水素としては、具体的には、脱水ジオキサン、脱水テトラハイドロフランなどがある。
非プロトン性極性溶媒としては、具体的には、アセトニトリル、DMSO、DMFなどがある。
【0024】
第1の有機溶媒を用いた有機金属化合物とアンモニアとの反応は、第1の有機溶媒中に有機金属化合物を溶解させ、溶液中にアンモニアガスを吹き込むことにより行う。アンモニアガスとの反応条件は、特に限定されるものではなく、有機金属化合物の種類、第1の有機溶媒の種類等に応じて、最適な条件を選択する。
有機金属化合物とアンモニアの反応は発熱反応であるので、アンモニアガスは、少なくとも発熱が起こらなくなるまで吹き込めばよい。また、反応を完了させるために、発熱が起こらなくなった後、室温及び/又は加熱還流下でさらにアンモニアの吹き込みを続行しても良い。
溶液中にアンモニアガスを吹き込むと、溶液中に固体が沈殿する。得られた固体は、有機金属アミド系化合物のみからなる場合と、有機金属アミド系化合物と金属アミドの混合物からなる場合がある。
【0025】
次に,本発明に係るアミド化合物複合体の製造方法について説明する。
本発明の第1の実施の形態に係るアミド化合物複合体の製造方法は、本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体と、第2成分とを混合する混合工程を備えている。
「有機金属アミド化合物を含む固体」は、有機金属アミド化合物のみからなるものでも良く、あるいは、有機金属アミド化合物と他の材料(例えば、金属アミド)との混合物であっても良い。
また、「有機金属アミド化合物を含む固体」は、上述したように、(2)式で表される有機金属化合物とアンモニアとを反応させることにより得られる固体であっても良く、あるいは、他の方法により得られる固体であっても良い。特に、前者は、微細な粉末が高収率で得られるので、出発原料として好適である。
【0026】
「第2成分」とは、有機金属アミド化合物又は金属アミドが放出するアンモニアをトラップし、これを水素に分解する作用を有する材料をいう。このような作用を有する材料としては、金属水素化物がある。
なお、有機金属アミド化合物と組み合わせて用いる金属水素化物の種類、配合比率等については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0027】
有機金属アミド化合物を含む固体と第2成分の混合方法としては、
(1) 固体状態のまま、機械的に混合粉砕する第1の方法、
(2) 両者を第2の有機溶媒中で混合する第2の方法、
がある。特に、第2の方法は、材料の回収が容易であり、収率も高いので、混合方法として好適である。
【0028】
混合に用いる第2の有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、非プロトン性極性溶媒などがある。これらは、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。第2の有機溶媒に関するその他の点は、第1の有機溶媒と同様であるので、説明を省略する。
第2の有機溶媒を用いて混合する場合において、混合終了後に第2の有機溶媒を除去すれば、本発明に係るアミド化合物複合体が得られる。
【0029】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るアミド化合物複合体の製造方法について説明する。本発明の第2の実施の形態に係るアミド化合物複合体の製造方法は、第2反応工程と、混合工程とを備えている。
第2反応工程は、本発明に係る有機金属アミド化合物を含む固体を、加圧容器中でアンモニアと反応させる工程である。
有機金属アミド化合物を含む固体を加圧容器中でアンモニアと反応させると、固体中に含まれる有機金属アミド化合物の全部又は一部が金属アミドとなる。反応条件は、特に限定されるものではなく、有機金属アミド化合物の種類に応じて、最適な条件を選択する。一般に、アンモニアの圧力が高くなるほど、及び/又は、反応温度が高くなるほど、金属アミドへの変換が促進される。
なお、「有機金属アミド化合物を含む固体」の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0030】
混合工程は、第2反応工程で得られた固体と、第2成分とを混合する工程である。
「第2成分」の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
第2反応工程で得られた固体と第2成分の混合方法としては、
(1) 固体状態のまま、機械的に混合粉砕する第1の方法、
(2) 両者を第3の有機溶媒中で混合する第2の方法、
がある。特に、第2の方法は、材料の回収が容易であり、収率も高いので混合方法として特に好適である。
【0031】
混合に用いる第3の有機溶媒としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、非プロトン性極性溶媒などがある。これらは、それぞれ、単独で用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。第3の有機溶媒に関するその他の点は、第1の有機溶媒と同様であるので、説明を省略する。
第3の有機溶媒を用いて混合する場合において、混合終了後に第3の有機溶媒を除去すれば、本発明に係るアミド化合物複合体が得られる。
【0032】
次に、本発明に係る有機金属アミド化合物及びその製造方法、アミド化合物複合体及びその製造方法、並びに、水素貯蔵材料の作用について説明する。
(2)式で表される有機金属化合物は、アンモニアとの反応性が高い。特に、これらを第1の有機溶媒中で反応させると、両者の反応が促進され、短時間で有機金属アミド化合物を含む固体が得られる。しかも、生成物は、固体として沈殿するので、回収が容易であり、収率も高い。さらに、得られた有機金属アミド化合物は、熱的に不安定であり、分解温度が低い。そのため、これを適当な第2成分(特に、金属水素化物)と組み合わせて用いると、相対的に低温において相対的に多量の水素を放出することが可能なアミド化合物複合体となる。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
市販のジn−ブチルマグネシウム/ヘプタン溶液(1M)100mLを500mLの4つ口フラスコにいれ、脱水ジオキサン100mLを加えて10℃以下に冷却した。20℃以下で、マグネチックスターラーで攪拌しながら、溶液にアンモニアガスを吹き込み、反応させた。アンモニアガスを吹き込むにつれて、白色の沈殿が生成した。アンモニアガスを吹き込んでも発熱が起こらなくなったのを確認してから、室温で1時間、さらに加熱還流下で2時間、アンモニアガスを吹き込みながら攪拌した。
溶液を室温に戻し、グローブボックス内で沈殿をろ過、乾燥させることにより、ほぼ白色の固体7.2gを得た。生成物の収量及びラマン分光分析により、生成物は、n−ブチルマグネシウムアミド及びマグネシウムジアミドの混合物と考えられる。図1に、得られた生成物のラマンスペクトルを示す。
さらにこの生成物3.5gをオートクレーブ中で、アンモニアガス加圧下(7.5kg/cm2(0.735MPa))、340℃で120時間反応させることにより、マグネシウムジアミド2.8gを得た。図2に、得られたマグネシウムジアミドのX線回折プロファイルを示す。
【0034】
(実施例2)
市販のジn−ブチルマグネシウム/ヘプタン溶液(1M)100mLを500mLの4つ口フラスコにいれ、脱水トルエン250mLを加えて0℃以下に冷却した。10℃以下で、マグネチックスターラーで攪拌しながら、溶液にアンモニアガスを吹き込み、反応させた。アンモニアガスを吹き込むにつれて、白色の沈殿が生成した。アンモニアガスを吹き込んでも発熱が起こらなくなったのを確認してから、室温で1時間、さらに加熱還流下で2時間、アンモニアガスを吹き込みながら攪拌した。
溶液を室温に戻し、グローブボックス内で沈殿をろ過、乾燥させることにより、ほぼ白色の固体7.3gを得た。
さらに、この化合物3.5gをオートクレーブ中で、アンモニアガス加圧下(7.0kg/cm2(0.686MPa))、340℃で120時間反応させることにより、マグネシウムジアミド2.8gを得た。
【0035】
(実施例3)
市販のジn−ブチルマグネシウム/ヘプタン溶液(1M)100mLを500mLの4つ口フラスコにいれ、脱水キシレン250mLを加えて0℃以下に冷却した。10℃以下で、マグネチックスターラーで攪拌しながら、溶液にアンモニアガスを吹き込み、反応させた。アンモニアガスを吹き込むにつれて、白色の沈殿が生成した。アンモニアガスを吹き込んでも発熱が起こらなくなったのを確認してから、室温で1時間、さらに加熱還流下で2時間、アンモニアガスを吹き込みながら攪拌した。
溶液を室温に戻し、グローブボックス内で沈殿をろ過、乾燥させることにより、ほぼ白色の固体であるn−ブチルマグネシウムアミド及びマグネシウムジアミドの混合物7.7gを得た。
図3に、本実施例で得られた混合物の熱分解特性を示す。図3より、本実施例で得られた混合物は、約350Kから分解し始めることがわかる。
【0036】
(実施例4)
市販のジn−ブチルマグネシウム/ヘプタン溶液(1M)100mLを500mLの4つ口フラスコにいれ、脱水テトラハイドロフラン150mLを加えて0℃以下に冷却した。10℃以下で、マグネチックスターラーで攪拌しながら、溶液にアンモニアガスを吹き込み、反応させた。アンモニアガスを吹き込むにつれて、白色の沈殿が生成した。アンモニアガスを吹き込んでも発熱が起こらなくなったのを確認してから、室温で1時間、さらに加熱還流下で2時間、アンモニアガスを吹き込みながら攪拌した。
溶液を室温に戻し、グローブボックス内で沈殿をろ過、乾燥させることにより、ほぼ白色の固体であるn−ブチルマグネシウムアミド及びマグネシウムジアミドの混合物6.1gを得た。
【0037】
(実施例5)
市販のジn−ブチルマグネシウム/ヘプタン溶液(1M)100mLを500mLの4つ口フラスコにいれ、脱水テトラハイドロフラン150mLを加えて0℃以下に冷却した。10℃以下で、マグネチックスターラーで攪拌しながら、溶液にアンモニアガスを吹き込み、反応させた。アンモニアガスを吹き込むにつれて、白色の沈殿が生成した。アンモニアガスを吹き込んでも発熱が起こらなくなったのを確認してから、室温で1時間、さらに加熱還流下で2時間、アンモニアガスを吹き込みながら攪拌した。
その後溶液を室温に戻し、溶液にアルゴンガスを吹き込んで過剰のアンモニアを除去した後、LiHを投入してさらに1時間攪拌した。グローブボックス内で沈殿をろ過、乾燥させることにより、固体であるn−ブチルマグネシウムアミド、マグネシウムジアミド、及びLiHの混合物を得た。
【0038】
(比較例1)
グローブボックス内で市販のMgH2をMo容器に入れ、さらにそのMo容器を加圧容器に入れた。容器内を1時間真空排気し、その後アンモニアガス加圧下(7.5〜8.5kg/cm2(0.735〜0.833MPa))、330℃で280時間反応させることによりマグネシウムジアミド1gを得た。
【0039】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る有機金属アミド化合物及びその製造方法は、アミド化合物複合体の製造に用いられる原料及びその製造方法として用いることができる。
本発明に係るアミド化合物複合体及びその製造方法は、燃料電池システム用の水素貯蔵手段、超高純度水素製造装置、ケミカル式ヒートポンプ、アクチュエータ、金属−水素蓄電池用の水素貯蔵体等に用いられる水素貯蔵媒体及びその製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】ジn−ブチルマグネシウムと常圧のアンモニアとを溶媒中で反応させることにより得られる生成物のラマンスペクトルである。
【図2】ジn−ブチルマグネシウムと常圧のアンモニアとを溶媒中で反応させ、さらに加圧されたアンモニアと反応させることにより得られる生成物のX線回折プロファイルである。
【図3】実施例3で得られた混合物の熱分解特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(1)式で表される組成を有する有機金属アミド化合物。
(R)mx(NHy)n ・・・(1)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
mは、1以上4以下の自然数。
nは、1以上4以下の自然数。
x、yは、それぞれ、1以上2以下の自然数。
【請求項2】
前記Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Zn、Al、Pb、Sn、Ga、Si、B、Ge、及びInからなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の有機金属アミド化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機金属アミド化合物を含むアミド化合物複合体。
【請求項4】
金属水素化物をさらに含む請求項3に記載のアミド化合物複合体。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のアミド化合物複合体に含まれる水素の全部又は一部を放出させることにより得られる水素貯蔵材料。
【請求項6】
次の(2)式で表される有機金属化合物とアンモニアとを反応させ、請求項1に記載の有機金属アミド化合物を含む固体を得る第1反応工程を備えた有機金属アミド化合物の製造方法。
(R)pM ・・・(2)
但し、Rは、炭素数1から10の直鎖アルキル基、分岐アルキル基、及び芳香族基からなる群から選ばれるいずれか1以上の有機基。
Mは、金属元素。
pは、1以上4以下の自然数。
【請求項7】
前記Mは、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、Zn、Al、Pb、Sn、Ga、Si、B、Ge、及びInからなる群から選ばれる1種以上である請求項6に記載の有機金属アミド化合物の製造方法。
【請求項8】
前記第1反応工程は、第1の有機溶媒中で前記有機金属化合物と前記アンモニアとを反応させるものである請求項6又は7に記載の有機金属アミド化合物の製造方法。
【請求項9】
前記第1の有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれるいずれか1以上である請求項8に記載の有機金属アミド化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の有機金属アミド化合物を含む固体と、第2成分とを混合する混合工程を備えたアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項11】
前記第2成分は、金属水素化物である請求項10に記載のアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程は、前記有機金属アミド化合物を含む固体と、前記第2成分とを第2の有機溶媒中で混合するものである請求項10又は11に記載のアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項13】
前記第2の有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれるいずれか1以上である請求項12に記載のアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の有機金属アミド化合物を含む固体を、加圧容器中でアンモニアと反応させる第2反応工程と、
前記第2反応工程で得られた固体と、第2成分とを混合する混合工程と
を備えたアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項15】
前記第2成分は、金属水素化物である請求項14に記載のアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項16】
前記混合工程は、前記第2反応工程で得られた固体と、前記第2成分とを、第3の有機溶媒中で混合するものである請求項14又は15に記載のアミド化合物複合体の製造方法。
【請求項17】
前記第3の有機溶媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル系炭化水素、及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれるいずれか1以上である請求項16に記載のアミド化合物複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−13503(P2008−13503A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187276(P2006−187276)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】