説明

有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法および分析装置

【課題】 有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量する分析法および分析装置を提供する。
【解決手段】 有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法は、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を、ガスクロマトグラフを用いて定量分析する方法であって、前記原料に分解処理を施し、前記原料に含まれる前記有機金属化合物を分解する分解工程と、前記分解処理された前記原料中の不純物を、ガスクロマトグラフによって測定する測定工程とを含み、前記分解工程において、前記有機金属化合物を、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部と分離カラムとの間で、金属、および炭化水素ガスまたは水素ガスに分解することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機金属化合物は、化学気相蒸着法により化合物半導体薄膜を形成する原料として使用されている。化合物半導体薄膜は、発光ダイオードのような電子材料に用いられる。電子材料は、ごく微量の不純物の存在により性能が著しく低下することから、有機金属化合物を含む原料は、純度が高い必要がある。そのため、純度の高い原料を製造する方法と共に、製造した有機金属化合物を含む原料中に含まれる不純物を定量する分析方法の確立が必要である。
【0003】
有機金属化合物を含む原料中に含まれる不純物として、特に問題となるのは、有機シリコン化合物である。有機シリコン化合物由来のシリコン元素が化合物半導体膜中に混入することにより、p型半導体中のホールキャリアが相殺され、たとえば、発光ダイオードの発光強度が低下する等の問題が発生する。有機シリコン化合物の中でも特に、テトラメチルシランは、有機金属化合物を含む原料の製造過程で不可避的に混入する化合物であり、その正確な定量法が求められている。
【0004】
有機金属化合物を含む原料中に含まれる不純物の分析法としては、一般的に、有機金属化合物を含む原料をトルエン、ヘキサン、キシレン等の有機溶媒で希釈した溶液を、水中もしくは酸水溶液中に滴下し、加水分解によって有機金属化合物を安定な物質に変換し、水相および有機相に溶解した不純物を検出して分析する手法が用いられている。有機金属化合物は反応性が高いため、有機金属化合物を含む原料を直接分析することは、取り扱いに危険性が伴い、また分析装置に悪影響を与える恐れがあるからである。
【0005】
しかしながら上記の手法では、加水分解時に発生する反応熱等により、テトラメチルシランのような低沸点成分が揮発、散逸してしまうので、正確な定量ができない。揮発性成分をより正確に定量するために、加水分解槽の下流に有機溶媒を入れた捕集管を設置し、揮発性成分を有機溶媒に溶解させ、捕集する方法が用いられるが、この方法では揮発性成分を完全に捕集することは困難である。
【0006】
上記のような問題を解決するために、特許文献1には、不活性ガスの送気により気相中の不純物を冷却下の捕集トラップで捕集する方法が開示されている。しかしこの方法では、捕集効率を高めるためにトラップ管を細くする必要があり、その結果、加水分解液から揮発した水が低温に冷却されたトラップ管内で固結して、トラップ管が閉塞する恐れがあり、危険性が高いという問題がある。
【0007】
また、非特許文献1には、有機金属化合物を含む原料を、加水分解処理を行わずにキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフで直接分離し、分析する手法が開示されている。しかしながらこの手法では、有機金属化合物によって分離カラム内の液相が分解されるので、一度分析に使用したカラムを繰り返し使用できないという問題がある。
【0008】
そこで、非特許文献2には、有機金属化合物との反応性が低いポリスチレンービニルベンゼンを固定相とした多孔質層オープンチューブラー(PLOT)型キャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフィ法が開示されている。しかしながら上記のカラムでは、検出感度が低いという問題がある。
【0009】
また、非特許文献3には、有機金属化合物との反応性を示さない炭化水素系の液相を用いた充填カラムによるガスクロマトグラフィ分析法が開示されている。しかしながら、充填カラムを使用するガスクロマトグラフィは、試料の分離能がそれほど高くないため、高感度の分析には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−10939号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ボー、外3名(Baugh et al.)、「ジーシー/エムエス・アナリセス・オブ・トリメチル・ガリウム・アンド・トリメチル・アルミニウム」(G.c./m.s. analyses of trimethyl gallium and trimethyl aluminium)、ケムトロニクス(Chemtronics)、(英国)、1987年、第2巻、p.93−97
【非特許文献2】グラント、外3名(Grant et al.)、「ジーシー/エムエス・アナリセス・オブ・エム・オー・ヴィー・ピー・イー・プリカーサーズ・アンド・キャラクタリゼーション・オブ・インピュリティーズ・イン・トリメチルインジウム・トリメチルアルミナム・アンド・ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム」(GC/MS analyses of MOVPE precursors and characterization of impurities in trimethylindium,trimethylaluminum and bis(cyclopentadienyl)magnesium)、ジャーナル・オブ・クリスタル・グロウス(Journal of Crystal Growth)、(蘭国)、2003年、第248巻、p.82−85
【非特許文献3】イワノワ、外3名(Ivanova et al.)、「ダイレクト・ガス‐クロマトグラフィック・アナリシス・オブ・コマーシャル・サンプルズ・オブ・トリメチルアルミニウム」(Direct gas-chromatographic analysis of commercial samples of trimethylaluminum)、ジュルナル・アナリティチェスコイ・キミイ(Zhurnal Analiticheskoi Khimii)、(露国)、1991年、第46巻、p.1621−1624
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量する分析法および分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を、ガスクロマトグラフを用いて定量分析する方法であって、
前記原料に分解処理を施し、前記原料に含まれる前記有機金属化合物を分解する分解工程と、
前記分解処理された前記原料中の不純物を、ガスクロマトグラフによって測定する測定工程とを含み、
前記分解工程において、前記有機金属化合物を、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部と分離カラムとの間で、金属、および炭化水素ガスまたは水素ガスに分解することを特徴とする有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法である。
【0014】
また本発明は、前記有機金属化合物は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムセスキクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、ジメチル亜鉛、およびジエチル亜鉛のうちのいずれか1種であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記有機金属化合物を含む原料中の不純物は、有機シリコン化合物であることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記有機金属化合物の分解は、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部の直後に接続されたガラスインサート部分、または、分離カラムの手前に接続されたガラス製のプレカラム部分の少なくともどちらか一方で行われることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記ガラスインサート部分には、ガラスウールが充填され、
前記有機金属化合物の分解は、前記ガラスインサート内に充填された前記ガラスウールとの接触により行われることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記ガラスウールは、有機シリコン化合物による不活性化処理を施されていないことを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記ガラス製のプレカラム部分の内壁は、不活性化処理を施されておらず、
前記有機金属化合物の分解は、前記内壁との接触により行われることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、前記分離カラムは、アルミナを固定相に含む多孔質層オープンチューブラー型カラムであることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、前記に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法を用いて、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を定量することを特徴とする分析装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を、ガスクロマトグラフを用いて定量分析する方法であって、前記原料に分解処理を施し、前記原料に含まれる前記有機金属化合物を分解する分解工程と、前記分解処理された前記原料中の不純物を、ガスクロマトグラフによって測定する測定工程とを含む。また、前記分解工程において、前記有機金属化合物を、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部と分離カラムとの間で、金属、および炭化水素ガスまたは水素ガスに分解するので、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量することができる。
【0023】
また本発明によれば、前記有機金属化合物は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムセスキクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、ジメチル亜鉛、およびジエチル亜鉛のうちのいずれか1種であるので、化合物半導体薄膜を形成する原料中の不純物を高感度に検出、定量することができる。
【0024】
また本発明によれば、前記有機金属化合物中の不純物は、有機シリコン化合物であるので、電子材料の性能に大きく影響する、化合物半導体薄膜の原料中の不純物を高感度に検出、定量することができる。
【0025】
また本発明によれば、前記有機金属化合物の分解は、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部の直後に接続されたガラスインサート部分、または、分離カラムの手前に接続されたガラス製のプレカラム部分の少なくともどちらか一方で行われるので、有機金属化合物が分離カラム中に導入されることを防ぎ、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量することができる。
【0026】
また本発明によれば、前記ガラスインサート部分には、ガラスウールが充填され、前記有機金属化合物の分解は、前記ガラスインサート内に充填された前記ガラスウールとの接触により行われるので、有機金属化合物が分離カラム中に導入されることを防ぎ、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量することができる。
【0027】
また本発明によれば、前記ガラスウールは、有機シリコン化合物による不活性化処理を施されていないので、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分をより正確に検出、定量することができる。
【0028】
また本発明によれば、前記ガラス製のプレカラム部分の内壁は、不活性化処理を施されておらず、前記有機金属化合物の分解は、前記内壁との接触により行われるので、有機金属化合物が分離カラム中に導入されることを防ぎ、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量することができる。
【0029】
また本発明によれば、前記分離カラムは、アルミナを固定相に含む多孔質層オープンチューブラー型カラムであるので、分離カラムの劣化を防ぎ、有機金属化合物を含む原料中の揮発性不純物成分をより正確に検出、定量することができる。
【0030】
また本発明によれば、前記に記載の有機金属化合物中の不純物定量分析法を用いて有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を定量する分析装置であるので、有機金属化合物を含む原料中に含まれる揮発性不純物成分を散逸することなく、また高感度に検出、定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ガスクロマトグラフ100の構成を概略的に示す模式図である。
【図2】実施例1で得たガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、ガスクロマトグラフ100の構成を概略的に示す模式図である。本実施形態は、たとえば、ガスクロマトグラフ100を用いて行われる。ガスクロマトグラフ100は、キャリアガス源1、キャリアガス流量制御部2、試料導入部3、分離カラム4、カラムオーブン5、検出器6、レコーダ7、およびインサート8を備える。
【0033】
ガスクロマトグラフィによる試料の分析は、以下のようにして行われる。シリンジ等によって試料導入部3からインサート8を通って、装置内に導入された試料は、気化され、キャリアガス源1から供給されるキャリアガスによって、カラムオーブン5中で温度が制御された分離カラム4へ移動する。試料中の各成分は分離カラム4内で分離され、分離された各成分は、検出器6によって検出される。検出結果は、レコーダ7に記録される。
【0034】
本発明の実施形態における、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度の定量分析は、試料である有機金属化合物を含む原料を有機溶媒で希釈し、試料の希釈溶液を、試料導入部3を通じてガスクロマトグラフ100内部に導入した後、試料中に含まれる有機金属化合物を、試料導入部3と分離カラム4との間で、分解した後、分離カラム4で分離して行う。
【0035】
原料中に含まれる有機金属化合物としては、たとえば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムセスキクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等が挙げられる。これらの有機金属化合物を含む原料は、特に半導体分野において化学気相蒸着法により化合物半導体薄膜を形成する原料として用いられるものである。
【0036】
上記のような有機金属化合物を含む原料中に含まれる不純物として、たとえば、金属、酸素、塩素、有機シリコン化合物等が挙げられる。上記の不純物のうち、特に問題となるのは、半導体の性能に著しく影響する有機シリコン化合物である。有機シリコン化合物としては、たとえば、テトラメチルシラン、エチルトリメチルシラン、メチルトリエチルシラン、テトラエチルシラン等が挙げられる。上記の有機シリコン化合物のうち、テトラメチルシランは、有機金属化合物を含む原料の製造過程で不可避的に混入する化合物であるので、試料中の含量を正確に定量する必要がある。
【0037】
有機金属化合物を含む原料の希釈に用いる有機溶媒としては、有機金属化合物との反応性を示さない炭化水素系溶媒であり、その沸点が分離カラム4の耐熱温度以下であることが好ましく、また、ガスクロマトグラムにおけるピーク位置が、試料中に含まれる不純物成分のピーク位置と重ならないものが好ましい。このような有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、およびヘプタン等が挙げられる。
【0038】
有機金属化合物を含む原料の希釈は、たとえば、試料充填容器、希釈容器、および溶媒の計量容器を備えた系内で行う。前記の系内をアルゴン等の不活性ガスで置換した後、有機金属化合物を含む原料を試料充填容器から希釈容器へと圧送し、所定量の有機溶媒を溶媒計量容器から有機金属化合物を含む原料が入った希釈容器内へと流し込み、充分に混合することで希釈する。または、不活性ガスで置換したグローブボックス内で、有機金属化合物を含む原料および有機溶媒を秤量して、希釈することもできる。
【0039】
希釈した有機金属化合物を含む原料の濃度は、0.1vol%以上30vol%以下が好ましい。希釈溶液中の原料の濃度が低いと不純物の検出感度が低下する。また、希釈溶液中の有機金属化合物の濃度が高いと、分析操作に危険が伴うおそれや、試料を十分に分解できないおそれがある。
【0040】
希釈した有機金属化合物を含む原料の分解処理は、ガラスウールを用いる方法、分解用のカラムを用いる方法、または、これらの方法を同時に用いることによって行われる。
【0041】
有機金属化合物を含む原料の分解処理によって、原料中の有機金属化合物が分解される。有機金属化合物の分解とは、有機金属化合物の構成成分である、金属、および、メタン、エタン、エチレンなどの可燃性炭化水素ガス、水素ガス、ならびに有機金属化合物の酸化を経てメタノール、エタノール等のアルコール等を生成する分解反応のことである。有機金属化合物を含む原料中に含まれる不純物である有機シリコン化合物は、安定な物質であるので、上記の分解反応によって分解されない。
【0042】
ガラスウールを用いる方法では、ガスクロマトグラフ100の試料導入部3の直後に接続したインサート8にガラスウールを充填し、有機金属化合物とガラスウールとを接触させることで有機金属化合物の分解を行う。
【0043】
通常のガスクロマトグラフィ分析では、インサート8に充填するガラスウールとして、ジメチルジクロロシランやトリメチルクロロシラン等の有機シリコン化合物により不活性化処理を施したガラスウールが用いられるが、このようなガラスウールを用いると、不活性化処理に用いられた化合物と有機金属化合物とが反応し、分析試料中に含まれる不純物と同一の構造、またはよく似た構造の有機シリコン化合物が生成するおそれがある。このことから、本実施形態では、不活性化処理を施していないガラスウールを用いることが好ましい。また、ガラスウールを充填するインサート8も同様に、不活性化処理を施していないガラス、またはガラス以外の、たとえばテフロン(登録商標)を用いることが好ましい。
【0044】
分解用のカラムを用いる方法では、インサート8と分離カラム4との間に、プレカラムを接続し、有機金属化合物をプレカラムの内壁に接触させることで有機金属化合物の分解を行う。
【0045】
プレカラムの材質は、有機金属化合物を分解させやすい材質であることが好ましい。有機金属化合物を分解させやすい材質としては、ケイ素系化合物が好ましく、ケイ素系化合物のうち、ガラスがより好ましい。プレカラムとしては、液相等が塗布されていないガラスカラムを用いることができる。
【0046】
プレカラムは、有機金属化合物とプレカラムの内壁との接触効率を高めるために、内径が小さいことが好ましく、また長さが長いことが好ましい。具体的には内径が0.05mm以上0.3mm以下、長さが5m以上30m以下であることが好ましい。プレカラムの形状がこのような範囲であると、有機金属化合物の分解を好適に行うことができる。
【0047】
上記のような方法によって分解された有機金属化合物の各成分および不純物のうち、気化した成分は、分離カラム4によって分離される。
【0048】
通常のガスクロマトグラフィ分析では、分離カラム4として、ポリシロキサンやエチレングリコールをカラム内壁に塗布したカラム(内壁塗布オープンチューブラー:WCOT型カラム)が広く用いられるが、WCOT型カラムに有機金属化合物を導入した場合、カラム内壁の塗布物と有機金属化合物との反応が起こり、その結果カラムが著しく劣化する。本実施形態においては、特に高濃度の有機金属化合物を含む原料を分析する場合、未分解の有機金属化合物が分離カラムに導入されるおそれがあるので、分離カラムの劣化を避けるため、WCOT型カラムは使用しないことが好ましい。本実施形態においては、分離カラム4として、多孔質層オープンチューブラー(PLOT)型カラムを用いることができる。PLOT型カラムを用いた場合、微量の有機金属化合物がカラム内に導入されても、カラムが大きく損なわれることはない。
【0049】
PLOT型カラムとしては、固定相として高分子ポリマー、モレキュラーシーブス等を含むものが挙げられるが、アルミナを固定相に含むものが、検出感度の点で好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例および比較例に示す不純物濃度は、有機金属化合物を含む原料の重量に対する、原料中に含まれる不純物の重量の割合(原料中に含まれる不純物の重量/有機金属化合物を含む原料の重量)を算出し、ppmで表した。
【0051】
(実施例1)
トリメチルアルミニウムを含む原料9.6mlにトルエンを加えて全体量を102.0mlとし、約10vol%希釈溶液を作製した。ガスクロマトグラフ100として、Agilent:6890 MSD5973(商品名、アジレント社製)を用い、分離カラム4として、HP−PLOT−AL/KCL(商品名、アジレント社製、内径0.25mm、長さ30m、膜厚5μm)を用い、試料導入部3と分離カラム4との間に、ガラスウールを充填したガラス製のインサート8を接続した。希釈溶液2μLをマイクロシリンジで秤量し、上記のガスクロマトグラフ100に導入し、分析して、試料中のテトラメチルシランを定量した。図2は、実施例1で得たガスクロマトグラムである。希釈前のトリメチルアルミニウムを含む原料中に含まれていたテトラメチルシランの濃度は、19ppmであった。
【0052】
(実施例2)
テトラメチルシランを0.1重量ppm含有するトルエン溶液を作製し、実施例1と同様のガスクロマトグラフ100を用いて分析した。ピークの高さがS/N比の3倍となる濃度を定量限界として分析した結果、実施例1のガスクロマトグラフ100を用いたテトラメチルシランの定量限界は、0.01ppmであった。
【0053】
(比較例1)
トリメチルアルミニウムを含む原料14.0mlにキシレンを加えて全体量を168.0mlとし、約8vol%希釈溶液を作製した。この希釈溶液を、−5℃から−20℃に冷却した18重量%塩酸80ml中に滴下して、加水分解を行った。希釈溶液の滴下後、約1時間撹拌を続け、加水分解反応を完了させた。加水分解反応中に発生したガスは、キシレン30mLを入れたガス吸収溶液中に回収した。加水分解反応完了後、加水分解溶液とガス吸収溶液とを混合し、分液ロートにて有機溶媒相を分離した。有機溶媒相中に溶解しているテトラメチルシラン濃度を、実施例1と同様のガスクロマトグラフ100を用いて分析した。その結果、加水分解前のトリメチルアルミニウムを含む原料中に含まれていたテトラメチルシランの濃度は、6.8ppmであった。
【0054】
また、トリメチルアルミニウムを含む原料中に含まれている不純物としてエチルトリメチルシランの濃度についても分析した。エチルトリメチルシランの分析結果は、実施例1と同様の方法で分析した場合の濃度が0.5ppmであったのに対し、比較例1と同様の方法で分析した場合の濃度は、0.4ppmであった。濃度の差はわずかであるが実施例1の方法の方が高い値を示した。テトラメチルシランに比べて比較例の方法で得た値と大きな差がないのは、エチルトリメチルシランの沸点がテトラメチルシランの沸点と比べ高いためだと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
1 キャリアガス源
2 キャリアガス流量制御部
3 試料導入部
4 分離カラム
5 カラムオーブン
6 検出器
7 レコーダ
8 インサート
100 ガスクロマトグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を、ガスクロマトグラフを用いて定量分析する方法であって、
前記原料に分解処理を施し、前記原料に含まれる前記有機金属化合物を分解する分解工程と、
前記分解処理された前記原料中の不純物を、ガスクロマトグラフによって測定する測定工程とを含み、
前記分解工程において、前記有機金属化合物を、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部と分離カラムとの間で、金属、および炭化水素ガスまたは水素ガスに分解することを特徴とする有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項2】
前記有機金属化合物は、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリメチルアルミニウムセスキクロライド、ジメチルアルミニウムクロライド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、ジメチル亜鉛、およびジエチル亜鉛のうちのいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項3】
前記有機金属化合物を含む原料中の不純物は、有機シリコン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項4】
前記有機金属化合物の分解は、前記ガスクロマトグラフ内の、試料導入部の直後に接続されたガラスインサート部分、または、分離カラムの手前に接続されたガラス製のプレカラム部分の少なくともどちらか一方で行われることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項5】
前記ガラスインサート部分には、ガラスウールが充填され、
前記有機金属化合物の分解は、前記ガラスインサート内に充填された前記ガラスウールとの接触により行われることを特徴とする請求項4に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項6】
前記ガラスウールは、有機シリコン化合物による不活性化処理を施されていないことを特徴とする請求項5に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項7】
前記ガラス製のプレカラム部分の内壁は、不活性化処理を施されておらず、
前記有機金属化合物の分解は、前記内壁との接触により行われることを特徴とする請求項4に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項8】
前記分離カラムは、アルミナを固定相に含む多孔質層オープンチューブラー型カラムであることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の有機金属化合物を含む原料中の不純物定量分析法を用いて、有機金属化合物を含む原料中の不純物濃度を定量することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−208943(P2011−208943A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73844(P2010−73844)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)