説明

有機金属錯体を用いる薄膜の製造方法

【目的】 優れた電気的特性を有し、かつ再現性の良い均一な薄膜を気相成長法によって容易に成膜することができる薄膜の製造方法の提供。
【構成】 まず、恒温槽3内にあって、トリス−ジピバロイルメタナトイリジウムが1g充填された原料容器2(SUS316製、 100℃の恒温に保持)に、不活性キャリアーガス4(アルゴンガス)を、フローメーター5を経て流量を 200ml/min に調節して導入し、このガス4に上記有機金属錯体1を同伴、昇華させる。次いで、このガスを熱分解炉6内に設けられ内部に基板9を載置した石英反応管7(ヒーター8によって 500℃に加熱保持されている)に導入させ、基板9上への金属薄膜の成膜を行う(1時間)。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、気相成長法によって薄膜を製造する方法に関し、さらに詳しくは、電極材料等として有用な特定組成を有する金属薄膜を製造することができるIrとβ−ジケトン系有機化合物との錯体を用いる薄膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】単結晶薄膜や多結晶薄膜の形成方法としては、ドライプロセスとウエットプロセスといった2種類の方法があるが、一般にウエットプロセスと比べてドライプロセスによって形成された薄膜のほうが品質面で優れるため、ドライプロセスが多用されているのが現状である。
【0003】上記ドライプロセスには、真空蒸着法、イオンプレーティング法およびスパッタリング法等の物理的成膜法と、化学的気相蒸着法(CVD法)等の化学的成膜法とがあるが、中でもCVD法は、成膜速度の制御が容易である上、成膜を高真空下で行う必要がなく、しかも高速成膜が可能であることなどから量産向きであるため広く用いられている。
【0004】このようなCVD法においては、有機金属錯体の蒸気を分解させて金属薄膜を形成する場合、熱CVD法、光CVD法またはプラズマCVD法などが採用され、原料化合物としては、一般的に有機部分(配位子)がジピバロイルメタン、ヘキサフルオロアセチルアセトン等である1,3-ジケトン系有機金属錯体が使用されてきた。
【0005】一方、有機金属錯体としてIrまたはIr化合物の錯体は蒸気圧が高く、熱安定性に優れたものが知られていないためCVD法によるIr薄膜またはIr化合物薄膜の作製ができず、従来はスパッタリング法や真空蒸着法等を用いなければならなかったので、(1)成膜を高真空下で行わなければならず、設備が高価である、(2)成長速度が遅いので高速成膜が難しい、(3)均質な薄膜が得られない、等の問題を有していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述従来技術の問題点を解決し、蒸気圧が高く、熱安定性に優れた有機金属錯体を用いることによって再現性の良い均一な薄膜を容易に成膜することができる薄膜の製造方法を提供することを目的する。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、金属としてのIrとβ−ジケトン系有機化合物との錯体の物性測定をしたところ、高昇華性であっていずれも低、中温(250 ℃以下)でかなりの蒸気圧を示し、かつ蒸発温度(昇華温度)と分解温度がはっきり離れており、不活性ガスに同伴される錯体量が従来品よりも多いため、高速成膜が可能でその上成膜された膜の特性も優れていることを見いだし、本発明を提出することができた。
【0008】すなわち、本発明は、気相成長法による薄膜の製造方法であって、化2で示されるIrとβ−ジケトン系有機化合物との錯体を原料として用いることを特徴とする有機金属錯体を用いる薄膜の製造方法を提供するものである。
【0009】
【化2】


(ただし、式中RおよびR´は−CH3 、−CF3 、−C25 、−C25、−C37 、−C37 および−C(CH33 からなる群より選ばれたいずれかの基を表す。)
【0010】
【作用】本発明において使用するβ−ジケトン系有機金属錯体としては、β−ジケトンとIrの無機酸塩(ハロゲン化物、硝酸塩等)とを反応させて得た錯体を用いる。
【0011】本発明における製造法の一例として、熱CVD法の概略を模式的に図示した図1を参照して、本発明方法を説明する。
【0012】恒温槽3内にあって、上記のようにして得られた有機金属錯体1が充填された原料容器2(50〜 250℃の恒温に保持)に、不活性キャリアーガス4をフローメーター5を経て流量を 5〜 500ml/min に調節して導入し、有機金属錯体の原料を同伴、昇華させ、熱分解炉6内に設けられた石英反応管7に導入し、ヒーター8によって所定の温度( 250〜 750℃)に加熱保持されている基板9上で、有機金属錯体を熱分解し、金属薄膜を生成させる。
【0013】なお、原料容器2から熱分解炉6までの配管は、凝縮を防ぐために保温層10または加熱保温手段により50〜 250℃に保温維持した。また、図中11は冷却トラップ、12はバルブ、13はロータリーポンプである。なお、矢印は昇華した有機金属錯体が移送される方向あるいは分解ガスの排出方向を示している。
【0014】本発明法に用いられる上記β−ジケトン系有機金属錯体は、高昇華性で昇華温度と分解温度とがかなり離れており、不活性ガスに同伴される錯体量が従来品よりも多く、かつ成膜された膜が均質で不純物の混入もないので、β−ジケトン系有機金属錯体を原料化合物として使用すれば優れた膜特性、高速成膜の両方を満足させることができる。
【0015】なお、本発明で使用する有機錯体としては実施例に示すものの他下記の表1に示す錯体を用いることもできることを確認している。
【0016】
【表1】


以下、実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0017】
【実施例1】図1に示す熱CVD法の概略を示す模式図にしたがって本発明の実施例を説明する。
【0018】まずトリス−ジピバロイルメタナトイリジウム1gを原料容器2(ガラス製90℃の恒温に保持)に充填した後、この容器2内にアルゴンガス4を 100ml/min導入し、このガスにトリス−ジピバロイルメタナトイリジウムを同伴させ、熱分解炉6に導いた。
【0019】一方、熱分解炉6の石英反応管7に設置しておいたシリコン基板9はヒーター8により 500℃に加熱されており、原料容器から熱分解炉6までの配管は 120℃に保温した。このような条件下で30分間薄膜化を行ったところ、厚さ2800オングストロ−ムの均一なIr薄膜が得られた。
【0020】
【実施例2】トリス−ジピバロイルメタナトイリジウムに代えてトリス 1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロアセチルアセトナトイリジウムを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で成膜したところ、30分後に厚さ3200オングストロームの均一なIr薄膜が得られた。
【0021】
【発明の効果】上述のように本発明法において使用するIr有機錯体は蒸気圧が高く、熱安定性に優れているので、高い昇華性を有する上、昇華温度と分解温度とが明らかに離れているため、速い成膜速度で、均質かつ再現性に優れた薄膜を得ることができる
【図面の簡単な説明】
【図1】熱CVD法の概略を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1‥‥‥有機金属錯体
2‥‥‥原料容器
3‥‥‥恒温槽
4‥‥‥不活性キャリヤーガス
5‥‥‥フローメーター
6‥‥‥熱分解炉
7‥‥‥石英反応管
8‥‥‥ヒーター
9‥‥‥基板
10‥‥保温層
11‥‥冷却トラップ
12‥‥バルブ
13‥‥ロータリーポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 気相成長法による薄膜の製造方法であって、化1で示されるIrとβ−ジケトン系有機化合物との錯体を原料として用いることを特徴とする有機金属錯体を用いる薄膜の製造方法。
【化1】


(ただし、式中RおよびR´は−CH3 、−CF3 、−C25 、−C25、−C37 、−C37 および−C(CH33 からなる群より選ばれたいずれかの基を表す。)

【図1】
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