説明

有機電解液電池用セパレータとその製造方法及びこれを組み込んだ有機電解液電池

本発明の有機電解液電池用セパレータは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る湿熱ゲル化樹脂と、他の繊維を含む不織布で構成され、前記他の繊維は前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物で固定されており、ASTMF31686に準拠して測定される不織布の平均孔径が0.3μm以上5μm以下の範囲にあり、且つ最大孔径が3μm以上20μm以下の範囲を満たす。これにより、湿熱ゲル化樹脂で不織布を構成する他の繊維を固定でき、所望の平均孔径及び最大孔径を得ることができ、安全性が高く、短絡が少なく、電池特性が高い有機電解液電池を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、有機電解液電池、特にリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる不織布で構成される電池用セパレータ及びこれを組み込んだ有機電解液電池に関する。
【背景技術】
近年のIT(インフォメーション・テクノロジー)化、及び資源、環境に対する問題からアルカリ二次電池及び有機電解液二次電池に代表される二次電池の開発が盛んに行われている。特に、有機電解液を用いるリチウムイオン二次電池は、高電圧、高容量、高出力でありながら質量が軽いため、製品の小型軽量化等の要求に伴い大きな市場を築いている。さらに、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(PEV)のバッテリーとしても開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な複合金属酸化物からなる正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な炭素材料等からなる負極と、セパレータと、有機電解液とからなる。特に、リチウムイオン二次電池において、電池性能を向上させるためにリチウムと他の金属とを電解液の存在下で電気化学的に合金化させた電極を用いることがある。しかし、この合金化させた電極は、合金化の際にリチウム合金が微粉末化し、この微粉末化した合金がセパレータを通り抜け、もう一方の電極に達し短絡を引き起こす(以下、微粉末短絡という)という問題がある。このため、微粉末短絡を防止するために、特に孔径の小さいセパレータが要求されている。一方、電池の充放電を繰り返すうちに前記微粉末が電極上に針状に成長し、ついにはセパレータを突き破り短絡を生じさせる(以下、デンドライト短絡という)という問題もある。したがって、セパレータには、突き破りに対する耐強力(以下、突き刺し強力という)の大きいシートが要求されている。
さらに、二次電池の電池寿命を決定する要因の1つとして、電池体積当たりの電極枚数又は電極総面積があり、電極の厚みを薄くするとともにセパレータの厚みも薄くして電極枚数又は電極総面積を増やして電池寿命の向上が図られている。そのため、セパレータは厚みの薄いものも要求されている。
そして、これらを同時に満たすものとして現在は微多孔膜が使用されている。しかし、微多孔膜は、製造工程が複雑であり高価である。そのため、微多孔膜に代わる安価で、且つ突き刺し強力と厚みを同時に満たす不織布の検討がなされている。
有機電解液電池用のセパレータに用いられる不織布として種々の検討がなされてきた。例えば下記特許文献1及び下記特許文献2には、メルトブロー法により孔径を小さくした不織布が提案されている。特に特許文献1では、最大孔径30μm以下、具体的にはポリプロピレンとポリエチレンの複合メルトブローにより製造された最大孔径25μmの不織布が提案されている。
またメルトブロー法以外のものとして、例えば下記特許文献3には、細繊度のポリエチレンテレフタレート繊維を用いて、最大孔径を9μmとした湿式不織布が提案されている。さらに、分割型複合繊維を含有する湿式不織布を用いた有機電解液電池用のセパレータとしては、例えば下記特許文献4には、エチレン−ビニルアルコール共重合体を少なくとも1成分とした分割型複合繊維と、熱融着繊維を混合し、分割型複合繊維を分割した湿式不織布に、ポリアルキレン変性ポリシロキサンを化学結合によって担持させた非水電解液電池用セパレータが提案されている。下記特許文献5には、分割型複合繊維を分割させた板状極細繊維を主体として構成される湿式不織布からなる非水電解液電池用セパレータが提案されている。
一方下記特許文献6〜9には、エチレン−ビニルアルコール共重合体を湿熱接着した不織布からなるセパレータが提案されている。
[特許文献1]特開平7−138866号公報(請求項2)
[特許文献2]特開2000−123815号公報
[特許文献3]特開2002−151037号公報(第6頁、実施例1及び2)
[特許文献4]特開2000−285895号公報
[特許文献5]特開2001−283821号公報
[特許文献6]特開平3−257755号公報
[特許文献7]特開昭63−235558号公報
[特許文献8]特開平5−109397号公報
[特許文献9]特開平8−138645号公報
しかし、上記の電池セパレータには以下の問題がある。まず、特許文献1に開示されるメルトブロー不織布は、ポリオレフィン繊維で形成されているが製法上繊維が未延伸であるため、単繊維強力が低い。そのため、電池の組立時に破れ易く、たとえ組み立てられたとしても突き刺し強力が低いため、デンドライト短絡防止性に劣る。また、特許文献2では、ポリフェニレンサルファイドを用いて不織布の強力を向上させて、電池の組立時の不良発生に対して改善を図っている。しかしながら、ポリフェニレンサルファイドは高価であるため、コストダウンには寄与していない。特許文献3のセパレータは最大孔径が9μmであり、ある程度の微粉末短絡防止性は有しているが、平均孔径については検討されておらず十分ではなかった。また、構成繊維同士を熱接着させて不織布を形成する場合、バインダー樹脂の融点近傍以上の温度で実施する必要があるが、この温度ではバインダー繊維の熱溶融に伴う熱収縮が発生することによって不織布自体の熱収縮を引き起こし、不織布生産時の歩留まり(以下、「歩留まり」という)が悪い、不織布目付、厚み等にバラツキが生じやすい、あるいは孔径のムラが大きくなる等のため、電解液が均一に保持できず、あるいは微粉末短絡、デンドライト短絡が共に生じやすく、電池の不良品率(以下、単に「電池の不良品率」という場合がある)が悪いという問題があった。また、不織布の孔径及び厚みを減少させるため、熱ロール等による加圧接着を実施した場合、不織布の表面は融着の多い密な状態となり、内部は融着の少ない粗な状態となり易いことも電池の不良品率を悪くする一因でもあった。さらに、電解液保持性が均一でなくなるため、電池の内部抵抗が大きくなるという問題もあった。特許文献4のセパレータは、分割型複合繊維を含有する12〜14g/mという低目付で一定の厚みを有する湿式不織布を一旦作製した後、ポリアルキレン変性ポリシロキサン水溶液に含浸して不織布の細孔径を小さくしようと試みている。しかしながら、このような低目付の不織布は、不織布の平均孔径及び最大孔径を均一にすることは困難であり、孔径のばらつきが大きい不織布となり、ひいては安定した突き刺し強力が得られなかった。さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体を少なくとも1成分とした分割型複合繊維と、熱融着繊維を混合した湿式不織布を用い、熱融着繊維が接着力を発現する温度まで加工温度を上げて乾式で熱カレンダー処理を施すため、熱融着繊維のみの接着力に依存しており、突き刺し強力が不十分であった。特許文献5のセパレータは、ポリプロピレン/ポリエステル、ナイロン66/ポリエステル、及びポリプロピレン/ポリエチレンの2成分からなる分割型複合繊維を分割させて板状極細繊維を発現させた後、低融点成分の融点よりも低い温度で乾式にて熱カレンダー処理を施したのみである。そのため、不織布の平均孔径及び最大孔径を均一にすることは困難であり、孔径のばらつきが大きい不織布となるため、安定した突き刺し強力が得られなかった。また、特許文献6〜9では湿熱接着繊維を使用したセパレータが開示されているが、いずれもアルカリ電池用のセパレータを目的としたものであり、有機電解液電池に要求されるような孔径の小さいセパレータを得ることは困難である。
【発明の開示】
本発明はかかる実情に鑑みなされたものであって、有機電解液電池用セパレータとして提案されている不織布に代わり、安価に製造が可能であるとともにセパレータの生産における歩留まりに優れ、且つ電解液保持性に優れ、電池に組み込んだときの微粉末短絡及びデンドライト短絡を防止する(電池の不良品率の小さい)ことができる不織布で構成される有機電解液電池用セパレータを提供することを目的とする。さらに、安全性に優れ、短絡が少なく、電池特性に優れた有機電解液電池を提供することを目的とする。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂(以下、「湿熱ゲル化樹脂」という。)と、他の繊維を含む不織布で構成され、前記他の繊維は記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物(以下、「ゲル化物」という。)で固定されており、ASTM F 316 86に準拠して測定される不織布の平均孔径が0.3μm以上5μm以下の範囲にあり、且つ最大孔径が3μm以上20μm以下の範囲を満たすことを特徴とする。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、以下の方法で製造することができる。すなわち、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂(以下、「湿熱ゲル化樹脂」という。)が繊維表面の少なくとも一部に存在している湿熱ゲル化繊維と、他の繊維を含む有機電解液電池用セパレータの製造方法であって、少なくとも下記の工程を含むことを特徴とする。
A.湿熱ゲル化繊維と、他の繊維を含む不織シートを作製する工程。
B.前記不織シートを親水処理する工程。
C.前記親水処理された不織シート(以下、「親水不織シート」という。)に水分を付与して、含水シートにする工程。
D.前記含水シートを、前記湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度以上、前記湿熱ゲル化樹脂の[融点−20℃]以下の範囲内にある温度に設定された熱処理機で湿熱処理(以下、「ゲル加工」という。)して、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させるとともに、ゲル化した湿熱ゲル化樹脂によって他の繊維を固定する工程。
本発明の有機電解液電池は、前記セパレータを組み込むことにより得られる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施例において使用した不織布表面の接触角を測定する方法を示す断面図。
図2は、本発明の実施例1で得られた不織シート表面の200倍のSEM顕微鏡写真。
図3A〜Dは、本発明の実施例1で得られた電池セパレータ表面の200倍のSEM顕微鏡写真。
図4は本発明の実施例1で得られた電池セパレータ断面の500倍のSEM顕微鏡写真。
図5A〜Bは本発明の実施例5で得られた不織シート表面の300倍のSEM顕微鏡写真、図5C〜Dは同300倍の断面写真である。
図6A〜Bは本発明の実施例5で得られた電池セパレータ表面の300倍のSEM顕微鏡写真、図6C〜Dは同1000倍の断面写真である。
1:ガラス板,2:試料,3:純水,
【発明を実施するための最良の形態】
本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、微粉末短絡に優れた不織布からなるセパレータを得るには、孔径を単に小さくするだけではなく、平均孔径と最大孔径のそれぞれの範囲を適正化すればよいことを着想した。そのためには、不織布を熱加工して細孔径化する時の収縮を小さく、バインダー樹脂を不織布の厚み方向へも略均一に固定させるとよいことが判明した。このような不織布を得るのに、特定の熱加工方法を用いて、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させて他の繊維を固定することによって、目付及び厚みムラが小さくなり、さらに突き刺し強力が大きく、突き刺し強力のバラツキが抑制されるため、セパレータの生産における歩留まりに優れ、且つ電池の不良品率の低い、特にデンドライト短絡防止性にも優れたセパレータが得られることが判明し、さらに従来の微多孔膜に比べ安価なセパレータが得られることを見出した。以下、本発明の有機電解液電池用セパレータについて詳細に説明する。
孔径の小さい不織布を得ようとする場合、熱を加えて軟化又は溶融した樹脂を熱ロール等の熱圧着手段により一定の圧力以上で押し拡げて繊維間空隙を埋める方法が用いられる。しかし、従来の熱溶融性樹脂は、該熱溶融性樹脂の融点以上に加熱する必要があり、前記熱溶融性樹脂の溶融に伴う熱収縮によって不織布の寸法変化が大きくなってしまう。その結果、歩留まりが悪くなる、あるいは目付、厚み、孔径、突き刺し強力等のバラツキが大きくなるため、電池の不良品率、特に短絡防止性が悪かった。また、熱ロール等を使用した場合、不織布の表面は融着の多い密な状態となり、内部は融着の少ない粗な状態となり易く、電解液保持性が均一になりにくいため、電池の不良品率を悪くする一因となり易かった。
そこで、本発明においては、従来の熱溶融性樹脂の代わりに、水分存在下でゲル化膨潤する湿熱ゲル化樹脂を用い、前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱によってゲル化したゲル化物で、不織布を構成する他の繊維を固定して、平均孔径と最大孔径の範囲を適正化した。不織布を構成する他の繊維をゲル化物で固定することによって、セパレータの突き刺し強力が大きくなり、電池組み立て時にセパレータが破れにくく、デンドライト短絡防止性に優れたものとなる。さらに、平均孔径と最大孔径の範囲を適正化することで微粉末短絡防止性に優れたものとなる。本発明でいうゲル化物とは、湿熱ゲル化樹脂が湿熱によってゲル化したのち固化した樹脂(固化物)のことを示し、本発明の有機電解液電池用セパレータは、セパレータを構成する他の繊維がこのゲル化物で固定されている。
また、本発明の有機電解液電池用セパレータを製造する際に、前記湿熱ゲル化樹脂を不織シート内に均一に分散させることによって、平均孔径と最大孔径の範囲が適正化しやすくなる。また、ゲル加工前に、前記不織シート内に均一に水分を保持させることによって、前記不織シート内に存在する湿熱ゲル化樹脂を略均一にゲル化させることが可能となり、より均一に、構成する繊維間をゲル化物で固定させることが可能となる。そのため、平均孔径と最大孔径の範囲が適正化しやすくなる。さらに、ゲル加工を水分存在下で、湿熱ゲル化樹脂のゲル化温度以上、湿熱ゲル化樹脂の[融点−20℃]以下の範囲内にある温度で実施することによって、前記湿熱ゲル化樹脂及び構成する他の繊維が実質的に収縮しない温度で加工することが可能になり、前記湿熱ゲル化樹脂及び構成する他の繊維の溶融に伴う収縮現象が発現しにくくなる。そのため、不織布加工時の寸法変化が小さく、目付及び厚み等のバラツキの小さい、ひいては歩留まりに優れ、電池の不良品率の小さいセパレータを得ることができる。
特に、このような性質の湿熱ゲル化樹脂を使用し、熱ロール等によって高圧力下で加工すると、湿熱により不織シート全体の湿熱ゲル化樹脂が瞬時にゲル化しながら押し拡げられて不織シート内に浸透させることができる。そのため、不織布を構成する繊維をゲル化物で不織布の平面方向及び厚み方向いずれにおいても略均一に固定させることが可能となる。その結果、引張強力、突き刺し強力が大きく、不織布の平均孔径と最大孔径の範囲が適正化され、突き刺し強力のバラツキの小さいセパレータを得ることができる。
なお、ここでいう不織シートとは、ウェブ及び不織布のことを示し、ゲル加工するまでの形態を示す。ウェブとは、カードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄造ウェブ等の構成繊維同士が接合していないものを示す。また、不織布は、前記ウェブを熱接着等による接着処理や、水流交絡、ニードルパンチ等の絡合処理等を施し、構成繊維同士が接合したものを示す。以下においても同様である。
本発明の有機電解液電池用セパレータに使用する、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る樹脂(湿熱ゲル化樹脂)とは、水分存在下で、60℃以上の温度でゲル化膨潤しゲル化物となって不織布を構成する他の繊維を固定可能な樹脂のことを示す。電池は様々な環境下で使用されるため、60℃未満でゲル化してしまうと、電池での安定性が悪くなる。このような性質を持つ樹脂であればどのようなものでも良いが、中でも特定の組成をもつエチレン−ビニルアルコール共重合体が、湿熱ゲル加工性、耐水性及び不織布加工時の寸法安定性の点で特に好ましい。
エチレン−ビニルアルコール共重合体とは、エチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化することによって得られる共重合体である。その鹸化度は、95%以上であることが好ましい。より好ましい鹸化度の下限は、98%である。鹸化度が95%未満であると、繊維化の際、曳糸性が悪くなる傾向にある。また、低温でもゲル化しやすくなるため、繊維製造及び不織布加工工程でトラブルが発生し易くなる。さらに、電池に組み込んだとき、電解液中での化学的安定性が悪く、あるいは高温下での安定性が悪くなる。
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体におけるエチレン含有率は、20モル%以上50モル%以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましいエチレン含有量の下限は、25モル%である。より好ましいエチレン含有量の上限は、45モル%である。エチレン含有率が20モル%未満であると、曳糸性が悪く、また軟化しやすくなるため、繊維製造及び不織布加工工程でトラブルが発生し易くなる。さらに、電池に組み込んだとき、電解液中での化学的安定性が悪く、あるいは高温下での安定性が悪くなる。一方、エチレン含有率が50モル%を超えると、湿熱ゲル化温度が高くなり、所望の平均孔径及び最大孔径を得るには、加工温度を融点近傍まで上げざるを得なくなり、その結果不織布の寸法安定性に悪影響を及す可能性がある。
湿熱ゲル化樹脂の形態としては、パウダー、エマルジョン、フィルム、湿熱ゲル化樹脂を含む単一繊維、湿熱ゲル化樹脂と他の樹脂とを組み合わせた複合繊維などいずれであっても構わない。不織布の製造工程性の点からして、湿熱ゲル化樹脂は繊維形態であることが好ましい。その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等こだわらない。繊維製造の容易さからして、円形であることが好ましい。また、複合繊維の場合、その複合形態は、同心円鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、分割型、海島型等何れであっても構わない。複合繊維としたとき、湿熱ゲル化樹脂のゲル加工時に、湿熱ゲル化樹脂は織維表面の少なくとも一部を占めていることが重要である。特に、湿熱ゲル化樹脂と、湿熱ゲル化樹脂以外の他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる分割型複合繊維であることが好ましい。その断面形状は、放射状型、櫛型、碁盤型、層状型等互いが独立して存在しているものが、分割性の点で好ましい。
そして、前記湿熱ゲル化樹脂と、他の樹脂との分割型複合繊維である場合、その他の樹脂は、湿熱ゲル化樹脂と相溶性の良いものであっても構わないが、非相溶性の樹脂が好ましい。なぜならば、非相溶性の樹脂であれば、剥離分割が可能であるため、湿熱ゲル化樹脂を含む湿熱ゲル化繊維は極細繊維化されて、より均一な構成繊維間の固定を可能とし、平均孔径及び最大孔径の範囲の適正化に寄与するからである。他の樹脂としては、湿熱ゲル化樹脂と非相溶性の樹脂であれば特にこだわらないが、中でもポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、また、それらの共重合体等が好ましく、特にポリプロピレンが繊維製造及び電池電解液に対する安定性の点から好ましい。
前記湿熱ゲル化樹脂は、セパレータ全体に対して10mass%以上50mass%以下の範囲内で含まれていることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化樹脂の含有率の下限は、15mass%である。さらにより好ましい含有率の下限は、20mass%である。より好ましい含有率の上限は、45mass%である。さらにより好ましい含有率の上限は、40mass%である。最も好ましい含有率の上限は、35mass%である。湿熱ゲル化樹脂の含有率が10mass%未満であると、ゲル加工してもゲル化物が不織布内に均一に拡がり、構成する繊維間に十分に浸透することが困難となる。その結果、平均孔径と最大孔径の範囲が適正化しにくくなり、突き刺し強力にバラツキが生じ易くなる傾向にある。特に、最大孔径を小さくすることが困難となる。さらに、不織布を構成する他の繊維の固定箇所が少なくなるため、突き刺し強力も小さくなる可能性がある。一方、湿熱ゲル化樹脂の含有率が50mass%を超えると、不織布表面がフィルム化し易くなり、電解液保持性が低下し、電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。さらに、ゲル加工の際、湿熱ゲル化樹脂がロール等へ粘着し易くなり、不織布製造工程性が悪くなる傾向にある。
本発明の電池用セパレータに使用する不織布を構成する他の繊維において、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の繊維径は、15μm以下であることが好ましい。より好ましい繊維径の上限は14μmである。さらに好ましい繊維径の上限は13μmである。一方、他の繊維の繊維径の下限は、不織布製造工程が可能な範囲であればよく特に限定しないが、特に湿式抄紙の場合の繊維の分散性を考慮すると1μm以上であることが好ましい。他の繊維の繊維径が15μmを超えると、湿熱ゲル化樹脂でゲル化しても不織布の平均孔径及び最大孔径を適正化するのが困難となり、その結果、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。なお、本発明でいう繊維径とは、繊維断面において、その断面形状が円形であるときは、その直径を指す。その断面形状が非円形であるときは、短軸方向の最大厚みのことを指す。繊維断面が非円形である場合の短軸方向の最大厚みとは、前記繊維を前記繊維の長軸方向を水平面に平行に自然状態で静置した場合の垂直方向の最大高さのことであり、自然状態とは静置した繊維に重力以外何ら外力が加えられていない場合と仮定したことを示す。ただし、上記方法でも算出が困難な場合、繊維の繊度を測定し、その繊度を有する円形断面と仮定して円形の直径を繊維径とみなすことができる。
前記湿熱ゲル化樹脂を除く不織布を構成する他の繊維の平均繊維径は、10μm以下であることが好ましい。より好ましい平均繊維径の上限は、9μmである。さらにより好ましい平均繊維径の上限は、8μmである。一方、他の繊維の平均繊維径の下限は、不織布製造が可能な範囲であればよく特に限定されない。繊維製造上の安定性の理由から1μm以上であることが好ましい。平均繊維径が10μmを超えると、セパレータの平均孔径及び最大孔径を所望の範囲とすることが困難となる。その結果、微粉末短絡等が発生しやすくなる傾向にある。
また、本発明の有機電解液電池用セパレータに使用する不織布を構成する繊維において、湿熱ゲル化樹脂を繊維表面の一部とする湿熱ゲル化繊維を含む繊維の繊維径は、15μm以下であることが好ましい。より好ましい繊維径の上限は、14μmである。さらにより好ましい繊維径の上限は、13μmである。本不織布を構成する全繊維がこの範囲であることが好ましい。前記繊維径が15μmを超えると、ゲル加工したとき、不織布の平均孔径及び最大孔径を所望の範囲とすることが困難となるからである。一方、繊維径の下限は、不織布製造工程が可能な範囲であればよく、特に限定しないが、特に湿式抄紙の場合の繊維分散性を考慮すると1μm以上が好ましい。
特に、平均孔径及び最大孔径を所望の範囲とするためには、湿熱ゲル化樹脂が繊維である場合、湿熱ゲル化繊維の繊維径は小さいことが好ましく、6μm以下であることが好ましい。より好ましい湿熱ゲル化繊維の上限は、5μmである。さらにより好ましい湿熱ゲル化繊維の上限は、4μmである。湿熱ゲル化繊維の繊維径を6μm以下とすることにより、湿熱ゲル化繊維がゲル化物となしたときに必要以上に繊維間の空隙を閉塞することなく膜状に拡がって他の繊維を固定することができる。湿熱ゲル化繊維の繊維径の下限は、特に限定されるものではないが、繊維製造上の安定性の理由から1μm以上であることが好ましい。このような極細繊維を得るには、例えば、前記湿熱ゲル化樹脂と非相溶性の樹脂との分割型複合繊維とし、分割発現させて得ることが好ましい。例えば、8〜24分割程度の分割型紡糸ノズルを使用して0.5〜3dtex程度の分割型複合繊維を得て、分割発現させるとよい。
また、湿熱ゲル化樹脂が繊維である場合、前記不織布を構成する全ての繊維の平均繊維径は10μm以下であることが重要である。より好ましい平均繊維径の上限は、9μmである。さらにより好ましい平均繊維径の上限は、8μmである。一方、全ての繊維の平均繊維径の下限は、不織布製造が可能な範囲であればよく特に限定されない。繊維製造上の安定性の理由から1μm以上であることが好ましい。平均繊維径が10μmを超えると、ゲル加工したとき、不織布の平均孔径及び最大孔径を所望の範囲とすることが困難となる。その結果、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。
また、本発明の有機電解液電池用セパレータを構成する他の繊維には、不織布の突き刺し強力を大きくしてデンドライト短絡防止性をより高める目的で、単繊維強度が4.5cN/dtex以上の高強度繊維を含むことが好ましい。前記高強度繊維の単繊維強度は、5cN/dtex以上がより好ましく、更に好ましくは5.5cN/dtex以上である。単繊維強度が4.5cN/dtex未満であると、突き刺し強力の向上に寄与しにくくなり、デンドライト短絡が発生しやすい傾向にある。また、前記高強力繊維の融点は、湿熱ゲル化樹脂の融点よりも20℃低い温度以上であることが好ましい。より好ましい高強力繊維の融点は、湿熱ゲル化樹脂の融点よりも15℃低い温度以上である。高強力繊維の融点の上限は、特に限定されるものではない。例えば、高強力繊維がポリオレフィン系繊維である場合、250℃以下であることが好ましい。高強力繊維の融点が湿熱ゲル化樹脂の融点よりも20℃低い温度未満であると、ゲル加工の際に前記高強力繊維を構成する樹脂の軟化又は溶融に伴う収縮が発生し易くなる傾向にあり、不織布の目付、厚み、孔径等のムラが発生し易い。その結果、セパレータの歩留まりが低下する、あるいは微粉末短絡、デンドライト短絡が発生する可能性がある。
前記高強度繊維を構成する樹脂は、上記の性質を有するものから選ばれ、ポリプロピレン、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール、カーボン等、何れでも良い。上記樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂が、湿熱ゲル化樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用した場合に取り扱い性に優れるとともに、所望の電池特性が得られる点で、好ましい。特に、ポリプロピレンは、繊維製造、電解液安定性、コスト等の点からも好ましい。また高強度繊維の繊維形態は、単一繊維及び複合繊維等いずれであってもかまわない。その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等こだわらない。繊維製造の容易さからして、断面形状は円形であることが好ましい。また、高強度繊維を複合繊維形態とした場合、その断面形状は、同心円鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、海島型、分割型等何れであっても構わない。
前記高強度繊維の不織布に占める割合は、湿熱ゲル化樹脂を100質量部とした場合、5質量部以上250質量部以下の範囲で含むことが好ましい。より好ましい添加量の下限は、10質量部である。さらにより好ましい添加量の下限は、20質量部である。より好ましい添加量の上限は、220質量部である。さらにより好ましい添加量の上限は、200質量部である。高強度繊維の添加量が5質量部未満であると、突き刺し強力の向上に寄与しにくく、デンドライト短絡が発生しやすくなる傾向にある。高強度繊維の添加量が250質量部を超えると、湿熱ゲル化樹脂の割合が少なくなり、孔径を小さくすることが困難となり、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。
また、本発明の有機電解液電池用セパレータは、ゲル化物によって不織布を構成する繊維を固定しているため、湿熱ではゲル化しない他の熱溶融性繊維は含まなくても構わないが、不織布製造工程の簡便化、又は、不織布の引張強力向上の目的等で添加しても構わない。熱溶融性繊維を添加する場合、好ましい添加量は、湿熱ゲル化樹脂を100質量部とした場合、10質量部以上300質量部以下の範囲で含むことが好ましい。より好ましい添加量の下限は、20質量部である。さらにより好ましい添加量の下限は、30質量部である。より好ましい添加量の上限は、250質量部である。さらにより好ましい添加量の上限は、200質量部である。熱溶融性繊維の添加量が10質量部未満であると、添加による効果が認められにくい。一方、熱溶融性繊維の添加量が300質量部を超えると、湿熱ゲル化樹脂の割合が少なくなるので、不織布の孔径の低減が困難となり、その結果微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。
前記熱溶融性繊維は、水分存在下でゲル化せず融点(融解ピーク温度)付近で溶融し、繊維間を結合させる働きをする繊維を指し、湿熱ゲル化樹脂と区別するものである。そして、湿熱ゲル化樹脂がゲル化してゲル化物となす温度(以下、ゲル加工温度という)では、実質的に収縮しない繊維であることが好ましい。ここで、実質的に収縮しないとは、ゲル加工の際の不織布面積収縮率が5%未満となるような繊維を示す。なお、上記のように熱溶融性繊維を定義したのは、水分を含んだ不織シートをゲル加工した場合、熱処理機の設定温度を100℃以上にしたときに実温度は設定温度よりも低くなる傾向にあり、実温度(ゲル加工温度)を正確に測定するのが困難な場合があるためであり、ゲル加工温度とは区別して表現し、ゲル加工温度では実質的に収縮しないとした。
前記熱溶融性繊維に用いる樹脂は、特に限定されないが、電解液安定性の点からポリオレフィン系の樹脂を用いるのが好ましい。熱溶融性繊維の繊維形態は、単一繊維及び複合繊維等が挙げられるが、特に鞘が低融点樹脂、芯が鞘樹脂よりも高融点である樹脂で構成された鞘芯型複合繊維を使用することが好ましい。例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン/エチレン−アクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン/エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。芯樹脂と鞘樹脂の好ましい割合は、芯樹脂:鞘樹脂=30:70〜70:30(容積比)程度が好ましい。繊維断面形状は、同心円鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、海島型等何れであっても構わないが、同心円鞘芯型が特に好ましい。
本発明の不織布における具体的な構成繊維としては、繊維断面において前記湿熱ゲル化樹脂とその他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる前記湿熱ゲル化繊維を発現し得る分割型複合繊維を100質量部としたとき、他の繊維として、単繊維強度が4.5cN/dtex以上の高強度繊維を10質量部以上200質量部以下の範囲内で含み、前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化して他の繊維を固定する温度では実質的に収縮しない熱溶融性繊維を10質量部以上200質量部以下の範囲内で含むことが、所望の電池特性を得るのに最も効果的である。より好ましい範囲は、前記分割型複合繊維を100質量部としたとき、前記高強度繊維を12.5質量部以上75質量部以下の範囲内で含み、前記熱溶融性繊維を12.5質量部以上100質量部以下の範囲内で含むことである。
また、本発明に用いる不織布には、上記で述べた繊維以外の繊維も含んでいても構わない。この場合の繊維形態も、単一繊維、複合繊維等のいずれであってもかまわない。その断面形状は、円形、中空、異型、楕円形、星形、偏平形等こだわらない。繊維製造の容易さからして、断面形状は円形であることが好ましい。また、複合繊維形態である場合は、同心円鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、海島型、分割型等何れであっても構わない。また、樹脂もいずれでも構わないが、ポリオレフィン系が電解液安定性の点から特に好ましい。
また前記繊維へは必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、顔料、可塑剤、親水化剤などの添加剤を適宜添加しても良い。
加えて、前記不織布を構成する湿熱ゲル化樹脂又は湿熱ゲル化繊維、及び他の繊維以外に、不織布の平均孔径及び最大孔径を小さくするのに、合成パルプを添加することが好ましい。合成パルプとは、繊維表面が多数に分枝された、いわゆるフィブリル化された天然パルプ様の合成樹脂からなる繊維状物であり、本発明では、前記他の繊維とは区別して表現することとする。合成パルプを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。合成パルプの平均繊維長は、0.5mm以上2mm以下の範囲内にあることが好ましい。合成パルプの平均繊維長は、合成パルプの形態を表す指標として用いられるものであり、平均繊維長が0.5mm未満であると、不織シートを湿式抄紙法で作製した時、抄紙工程で脱落する合成パルプ量が多くなる可能性がある。平均繊維長が2mmを超えると、湿式抄紙時の分散性が低下する可能性がある。上記を満たす合成パルプとしては、例えば、三井化学社製、商品名「SWP」EST−8、E400等が挙げられる。
前記合成パルプは、前記不織布において湿熱ゲル化樹脂100質量部とした場合、10質量部以上200質量部以下の範囲内で含むことが好ましい。より好ましい添加量の下限は、20質量部である。より好ましい添加量の上限は、150質量部である。合成パルプの添加量が10質量部未満であると、添加による効果が認められにくい。一方、合成パルプの添加量が200質量部を超えると、湿熱ゲル化樹脂の割合が少なくなるので、突き刺し強力が低下する可能性がある。
具体的には、前記不織布は、繊維断面において前記湿熱ゲル化樹脂とその他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる前記湿熱ゲル化繊維を発現し得る分割型複合繊維を100質量部としたとき、他の繊維として、前記高強度繊維を6.25質量部以上120質量部以下の範囲内で含み、前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化して他の繊維を固定する温度では実質的に収縮しない熱溶融性繊維を12.5質量部以上120質量部以下の範囲内で含み、加えて前記合成パルプを6.25質量部以上120質量部以下の範囲内で含むことが、所望の電池特性を得る、及び厚みを低減化する点で最も効果的である。さらに好ましい範囲は、前記分割型複合繊維を100質量部としたとき、前記高強度繊維を7質量部以上100質量部以下の範囲内で含み、前記熱溶融性繊維を15質量部以上115質量部以下の範囲内で含み、加えて前記合成パルプを15質量部以上100質量部以下の範囲内で含むことである。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、その平均孔径が0.3μm以上5μm以下の範囲内であり、且つ最大孔径が3μm以上20μm以下の範囲内であることが必要である。より好ましい平均孔径の下限は、0.4μmである。さらにより好ましい平均孔径の下限は、0.5μmである。より好ましい平均孔径の上限は、4.5μmである。さらにより好ましい平均孔径の上限は、4μmである。一方、より好ましい最大孔径の下限は、4μmである。さらにより好ましい最大孔径の下限は5μmである。より好ましい最大孔径の上限は、15μmである。さらにより好ましい最大孔径の上限は、13μmである。最も好ましい最大孔径の上限は、10μmである。これらを同時に満たすことによって、微粉末短絡防止性及びデンドライト短絡防止性に優れたセパレータを得ることができるのである。平均孔径が0.3μm未満、又は最大孔径が3μm未満であると、電解液保持性が悪くなり、電池の内部抵抗が大きくなる傾向にある。一方、平均孔径が5μmを超える、又は最大孔径が20μmを超えると、微粉末短絡、及びデンドライト短絡が発生する傾向にある。
本発明の有機電解液電池用セパレータにおいて、湿熱ゲル化樹脂のゲル加工による加工後の不織布の平均孔径をXとし、ゲル加工前の不織シートの平均孔径をXとしたとき、下記式で得られる値を平均孔径低下率(%)としたとき、平均孔径低下率は、60%以上であることが好ましい。
平均孔径低下率(%)={(X−X)/X}×100
前記平均孔径低下率は、湿熱ゲル化樹脂を含む不織シート(ゲル加工前の出発材料)をゲル加工したときに、湿熱ゲル化樹脂がどの程度押し拡げられてゲル化物を形成したか、そのゲル化度合いの指標である。より好ましい平均孔径低下率の下限は、70%である。平均孔径低下率の上限は、95%であることが好ましい。平均孔径低下率が60%未満であると、湿熱ゲル化樹脂が十分に、略均一にゲル化しておらず、所望の突き刺し強力が得られない可能性がある。平均孔径低下率が95%を超えると、セパレータの空隙が小さくなり、その結果、電解液通過性が低下し、電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、湿熱ゲル化樹脂が湿熱によってゲル化しながら押し拡げられて不織布を構成する繊維間を埋めながらゲル化物となって他の繊維が固定される。その際、ゲル化物は膜状となって、不織布表面を部分的に被覆するとよい。この膜状の不織布全表面に対する割合(膜状度)は、40%以上90%以下の範囲内にあることが好ましい。膜状度のより好ましい下限は、45%である。さらにより好ましい膜状度の下限は、50%である。膜状度の好ましい上限は、80%である。さらにより好ましい膜状度の上限は、70%である。この膜状度は、ゲル化物の拡がり度合い、つまり、繊維間への浸透度を表す指標であり、この値が大きいほどこのゲル化物が不織布表面及び内部に略均一に拡がっていることを示す。膜状度が40%未満であると、ゲル化物の繊維間への浸透が不十分であるため平均孔径と最大孔径の範囲が適正化しにくく、特に最大孔径が大きくなる傾向にあり、その結果、微粉末短絡が生じやすくなる可能性がある。一方、膜状度が90%を超えると、不織布がフィルム化されて孔が存在しない領域が大きくなり易く、その結果、電解液通過性が悪くなり、電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。
特に、本発明のように平均孔径と最大孔径の範囲が適正化されたセパレータを得るには、ゲル加工の際、不織シート全体に存在する湿熱ゲル化樹脂をより均一にゲル化させることが重要である。そのためには、ゲル加工前に水分を不織シート内部まで全体に均一に付与させることが重要であり、不織シートがより均一な水濡れ性を有していることが重要である。上述した水濡れ性を表す指標としては、脱塩水による接触角が挙げられる。接触角が小さいほど水に濡れやすいため、不織シートにより均一に水分を付与することができる。具体的には、ゲル加工前の脱塩水による不織シート表面の接触角が脱塩水滴下5秒後、60度以下であることが好ましい。より好ましい接触角は、55度以下である。さらにより好ましい接触角は、50度以下である。脱塩水による不織シート表面の接触角が60度を超えると、この水濡れ性が不足しやすくなるため、均一に水分を付与させることが困難となるからである。
本発明のセパレータにポリオレフィン樹脂のような疎水性を示す繊維を使用した場合は、この水濡れ性が不足しやすく均一に水分を付与させることが困難となる。そのため、不織シートに親水処理を施すことが好ましい。親水処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、電子線処理、フッ素雰囲気に晒す処理(以下、フッ素処理という。)、グラフト処理、スルホン化処理及び界面活性剤処理等が挙げられる。
例えば、コロナ放電処理であれば、不織シートの両面にそれぞれ1〜20回処理するとよく、処理した総放電量が0.05〜10kW・分/mの範囲で処理するとよい。フッ素処理であれば、不織シートに不活性ガスで希釈したフッ素ガスと、酸素ガスや亜硫酸ガス等との混合ガスに接触させ親水基を導入する方法が挙げられる。グラフト重合処理であれば、ビニルモノマーと重合開始剤とを含む溶液中に不織シートを浸漬して加熱する方法、不織シートにビニルモノマーを塗布した後に放射線を照射する方法等を用いるとよく、さらに、ビニルモノマー溶液と不織シートとを接触させる前に、紫外線照射、コロナ放電、プラズマ放電などにより、不織シート表面を改質処理すれば、効率的にグラフト重合でき好ましい。スルホン化処理としては、濃硫酸処理、発煙硫酸処理、クロロスルホン酸処理、無水硫酸処理などが挙げられる。界面活性剤処理であれば、親水性能を有するアニオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤の溶液中に不織シートを浸漬し、あるいは塗布して付着させる方法等がある。なお、上述した親水処理は、ゲル加工後の不織布に施しても全く構わない。処理方法は、上述したいかなる方法であっても、また、二種以上組み合わせても構わない。
前記親水処理のうち、特にフッ素処理は、ゲル加工時に不織シート内部までより均一に水分を付与させることができ、好ましい。さらに、フッ素処理は、樹脂表面のより深くまで親水基を導入させることができるため、ゲル加工後にも親水性の低下が小さく、ゲル加工後も不織布の親水性を保つことができる。フッ素処理の具体的な条件としては、フッ素処理での混合ガス中のフッ素の濃度は、0.01〜80体積%の範囲が好ましい。より好ましいフッ素の濃度の下限は、0.1体積%である。さらにより好ましいフッ素の濃度の下限は、0.5体積%である。より好ましいフッ素の濃度の上限は、30体積%である。さらにより好ましいフッ素の濃度の上限は、10体積%である。また、反応温度は10℃以上50℃以下の範囲内にあることが好ましい。また、反応時間は特に限定されないが、1秒以上30分以下の範囲にあることが好ましい。
また、本発明で得られた有機電解液電池用セパレータにおいて脱塩水による前記不織布表面の接触角も脱塩水滴下5秒後、60度以下であることが好ましい。より好ましい接触角は55度以下である。さらに好ましい接触角は50度以下である。この接触角は、ゲル加工による濡れ性の低下度合いを表す指標となる。ゲル加工後の接触角も60度以下に維持できるような親水処理が、本発明のゲル加工前の不織シートの内部まで均一に水分を付与することができるため好ましい。このようなゲル加工後の接触角も60度以下に維持できるような親水処理は上述したように、フッ素処理が挙げられるが、同様な効果を有する処理方法であればどのような方法であっても構わない。
本発明の有機電解液電池用セパレータの突き刺し強力は、2N以上であることが好ましい。より好ましい突き刺し強力の下限は、2.2Nである。この突き刺し強力はデンドライト短絡防止性の程度を表す代用特性であり、この値が大きいほどデンドライト短絡が発生しにくいことを示す。そして、この突き刺し強力が2N未満であるとデンドライト短絡が発生しやすくなる。また、突き刺し強力の標準偏差は1.1N以下であることが好ましい。より好ましくは1N以下であり、さらに好ましくは0.9N以下である。この突き刺し強力の標準偏差は、突き刺し強力のバラツキを表す指標であり、この値が大きいほど部分的に突き刺し強力の小さい部分が存在するためデンドライト短絡が発生しやすくなる。そして、この標準偏差が1.1Nを超えると、前述したようにデンドライト短絡が発生しやすくなる傾向にある。
前記不織布の突き刺し強力及びその標準偏差から下記式で算出される突き刺し強力のバラツキ指数が、0.165以下であることが好ましい。
突き刺し強力のバラツキ指数=標準偏差/突き刺し強力
前記バラツキ指数は、前記標準偏差を突き刺し強力の平均値を基準として算出されるものであり、数値が小さいほど平均値に近い、すなわちバラツキが小さいことを示す指標である。本発明のように、湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化させ、押し拡げられたゲル化物により他の繊維を固定することにより達成されるパラメータである。
本発明の有機電解液電池用セパレータの厚みは、15μm以上80μm以下の範囲内であることが好ましい。より好ましい厚み下限は、20μmである。さらにより好ましい厚みの下限は、25μmである。より好ましい厚みの上限は、70μmである。さらにより好ましい厚みの上限は、60μmである。セパレータの厚みが15μm未満であると、セパレータの孔径、特に最大孔径が大きくなる傾向にあり、微粉末短絡防止性及びデンドライト短絡防止性が低下する可能性がある。一方、セパレータの厚みが80μmを超えると、電解液通過性が悪くなり、電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。また、電池体積当たりの電極板数が減少することになるため、電池性能も劣る傾向にある。
また本発明の有機電解液電池用セパレータにおける不織布の比容積は、1.2cm/g以上2.5cm/g以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい比容積の下限は1.3cm/gである。さらにより好ましい比容積の下限は、1.4cm/gである。より好ましい比容積の上限は2.3cm/gである。さらにより好ましい比容積の上限は、2.1cm/gである。比容積が1.2cm/g未満であると、不織布が緻密になりすぎて電解液保持性が悪くなり、その結果電池の内部抵抗が上昇する可能性がある。一方、比容積が2.5cm/gを超えると、不織布の嵩が大きくなりすぎ、セパレータの孔径を小さくすることが困難となり、その結果、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。
本発明の有機電解液電池用セパレータにおける不織布の目付は、10g/m以上50g/m以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい不織布の目付の下限は、15g/mである。さらにより好ましい不織布の目付の下限は、20g/mである。より好ましい不織布の目付の上限は、45g/mである。さらにより好ましい不織布の目付の上限は、40g/mである。不織布の目付が上記した範囲を外れると、目的とするセパレータの厚み及び孔径を得るのが困難となるからである。
次に、本発明の有機電解液電池用セパレータを製造方法で示しながら説明する。まず、湿熱ゲル化樹脂が繊維形態である場合は、湿熱ゲル化繊維と他の繊維を準備し、公知の方法で不織シートを作製される。前記不織シートの平均繊維径は、10μm以下であることが好ましい。理由については、前述したとおりである。
次いで、前記不織シートは、必要に応じて前述した親水処理により親水不織シートとすることができる。不織シート又は前記親水不織シートに水分を付与して、含水シートが作製される。本発明のセパレータを得るには、湿熱ゲル化樹脂の内部まで水分を吸収させる必要はなく、その周囲に水分が付着している状態であればよい。このような状態にある含水シートを下記の方法で加熱体に挟持すれば、瞬間的に発生する水蒸気は加熱体により不織シート内に封じ込められ、湿熱ゲル化樹脂を瞬時に、不織シート内部までゲル化させることができる。
親水不織シートに付与される水分率は、20mass%以上300mass%以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい水分率の下限は、30mass%である。さらにより好ましい水分率の下限は、40mass%である。より好ましい水分率の上限は、200mass%である。さらにより好ましい水分率の上限は、150mass%である。水分率が20mass%未満であると、湿熱ゲル化繊維のゲル化が十分に起こらず、構成繊維間へゲル化物を浸透させにくくなる傾向にあり、平均孔径と最大孔径の範囲の適正化に寄与するのが困難となる可能性がある。一方、水分率が300mass%を超えると、ゲル加工の際、不織シート表面と内部に均一に熱がかかりにくくなる傾向にあり、不織布表面のみがフィルム化する可能性がある。その結果、得られるセパレータの厚み方向のゲル化度合いは、均一でなくなり、構成する他の繊維の固定が不均一となり、厚み方向の孔径ムラが大きくなる可能性がある。この水分の付与方法としては、スプレー、水槽へのディッピング等いずれであっても構わない。
そして、前記含水シートは、前記湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度以上、前記湿熱ゲル化樹脂の[融点−20℃]以下の範囲内にある温度に設定された熱処理機で湿熱処理(ゲル加工)されることにより、湿熱ゲル化樹脂がゲル化するとともに、ゲル化した湿熱ゲル化樹脂によって他の繊維が固定されて、有機電解液電池用セパレータを得ることができる。ゲル加工時の設定温度は、60℃以上、湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃以下が好ましい。より好ましい設定温度の下限は、80℃である。さらにより好ましい設定温度の下限は、85℃である。より好ましい設定温度の上限は140℃である。さらにより好ましい設定温度の上限は、135℃である。ゲル加工の設定温度が80℃未満であると、十分にゲル化させることが困難であり、構成する他の繊維の固定が十分でなく、あるいは平均孔径と最大孔径の範囲を適正化することが難しくなる可能性がある。一方、ゲル加工の設定温度が湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃を超えると、ゲル加工に熱ロールを使用した場合、ロールに前記湿熱ゲル化樹脂が粘着しやすい、あるいは不織布に収縮が発生し寸法安定性が悪くなる等して、歩留まりが低下しやすく、電池の不良品率が大きくなりやすくなる傾向にある。なお、ゲル加工の温度を設定温度としたのは、水分を含んだ不織シートをゲル加工した場合、熱処理機の設定温度を100℃以上にしたとき、まず不織シート内の水分が蒸発する。そのとき湿熱ゲル化樹脂のゲル化が進行するので、ゲル加工の実温度は設定温度よりも低くなる傾向にある。そのため、厳密にゲル加工温度を特定するのが困難な場合があるからである。したがって、他の繊維の融点が熱処理機の設定温度よりも低い場合でも、実質的に溶融しない、あるいは実質的に収縮しないことがあり、ゲル加工温度は他の繊維が実質的に収縮しない温度で処理することが好ましい。
前記ゲル加工は、熱ロール、熱プレス等の加圧加工であることが好ましい。加圧加工によれば、湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化したときに、ゲル化物が押し拡げられて繊維間に浸透し易く、平均孔径及び最大孔径を適正化することができる。特に、加圧加工が熱ロールによる加圧加工であると、生産性に優れるのでより好ましい。
前記熱ロールの線圧は、350N/cm以上10000N/cm以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい線圧の下限は、400N/cmである。より好ましい線圧の上限は、9000N/cmである。線圧が350N/cm未満であると、湿熱ゲル化樹脂を不織布内部まで十分に浸透させることが難しく、また、不織布表面のゲル化物を膜状化させにくくなる。その結果、平均孔径と最大孔径の範囲の適正化に寄与しにくく、微粉末短絡が生じやすくなる傾向にある。一方、線圧が10000N/cmを超えると、圧力が大きすぎるため、繊維の切断が起こりやすく、貫通孔が孔きやすくなり、その結果、微粉末短絡が生じやすくなる、あるいはセパレータの突き刺し強力が低下する可能性がある。また、ゲル加工時熱ロールへの湿熱ゲル化樹脂による粘着が発生する場合、必要に応じて界面活性剤等の離型剤等を使用しても構わない。また、ゲル加工後の不織布に本発明の効果を損なわない範囲で、油剤、糊剤等を添加しても構わない。
一方、湿熱ゲル化樹脂が繊維形態以外のパウダー、エマルジョン等である場合、例えば、一旦不織シートを作製しておいて、含水シートとする際に湿熱ゲル化樹脂を付着させることによっても得ることができる。
さらに、本発明の有機電解液電池用セパレータの製造方法について、具体的な一例を示す。まず、湿熱ゲル化繊維と他の繊維を準備し、公知の方法で平均繊維径が10μm以下の不織シートを作製する。前記不織シートの形態としては、カード法、エアレイ法に代表される乾式ウェブ又は乾式不織布、湿式抄造法による湿式ウェブ又は湿式不織布が挙げられるが、より均一な不織布を得るためには湿式抄造法による湿式ウェブ又は湿式不織布(以下、湿式不織シートという)が好ましい。
前記湿式不織シートに用いられる繊維の繊維長は、1mm以上20mm以下の範囲内にあることが好ましい。より好ましい繊維長の下限は、2mmである。さらにより好ましい繊維長の下限は、3mmである。より好ましい繊維長の上限は、15mmである。さらにより好ましい繊維長の上限は、12mmである。繊維長が1mm未満であると、突き刺し強力に劣り、その結果、デンドライト短絡が発生しやすくなる傾向にある。また、繊維長が20mmを超えると、スラリー中における繊維の分散性が悪くなり、地合の均一な不織布を得ることが困難となる。その結果、特に最大孔径が大きくなりやすく、微粉末短絡が発生しやすくなる傾向にある。
湿式不織シートの場合は、通常の方法で行えば良く、それぞれの繊維を所望の範囲となるように混合して、0.01〜0.6mass%の濃度になるように水に分散させ、スラリーを調整する。このとき少量の分散剤を加えても良い。スラリーを構成する繊維として、剥離分割型の分割型複合繊維を使用する場合、スラリーの離解、叩解処理時に前記繊維を分割発現させておくと、抄紙したときに分割発現した繊維が不織布中により均一に分散されるので、ゲル加工したときにゲル化物が略均一に押し拡げられて、より緻密で平均孔径と最大孔径が適正化された突き刺し強力のバラツキが小さいセパレータを得ることができる。特に、湿熱ゲル化樹脂を含む分割型複合繊維を使用して、スラリーの離解、叩解処理時に前記繊維を分割発現させておくと、抄紙したときに極細繊維化した湿熱ゲル化繊維を不織布中により均一に分散させることができる。これにより、湿熱ゲル化繊維がゲル化したときに、押し拡げられながら繊維間に浸透しゲル化物となって構成する繊維を略均一に固定することができ、より平均孔径と最大孔径が適正化され、突き刺し強力が大きく、突き刺し強力のバラツキが小さいセパレータが得やすくなる。その結果、微粉末短絡防止性及びデンドライト短絡防止性により優れたセパレータを得ることができる。前記スラリーは短網式、円網式、長網式あるいはそれらを組み合わせた抄紙機等を用いて所望の目付に抄紙される。
また、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲で、ウェブ又は不織布へ水流交絡処理を施しても構わない。水流交絡処理を施すことによって、構成繊維に分割型複合繊維を用いる場合に分割を促進させる、並びに繊維同士の交絡度を高めることができる。
次いで、前記湿式不織シートは、前述した親水処理により親水不織シートが作製される。この親水不織シートに水分率20mass%以上300mass%以下の範囲内で水分を付与して、含水シートが作製される。そして、60℃以上、湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃の温度以下に加熱した熱ロールにより、線圧350N/cm以上10000N/cm以下の範囲内の圧力でゲル加工することが好ましい。かかる処理によって、前記セパレータの平均孔径と最大孔径の範囲を適正化し、また、突き刺し強力のバラツキを小さくすることができ、好ましい。
なお、本発明に用いられる不織布は、単独で使用する以外に、必要に応じて他のシート、例えば微多孔膜、他の不織布等を積層して使用することができる。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、水分存在下で加熱することによってゲル化し得る性質を有する樹脂が湿熱ゲル化して形成されるゲル化物で不織布を構成する他の繊維を固定することにより、所望の平均孔径及び最大孔径を得ることができ、安全性に優れ、短絡が少なく、電池特性に優れた有機電解液電池が得ることができる。さらに、上記した構成を採ることにより、不織布を熱加工した時の収縮がほとんどなく、不織布の寸法変化がほとんどないため、平均孔径と最大孔径の範囲が適正化され、突き刺し強力が大きく、突き刺し強力のバラツキが小さいセパレータを得ることができ、ひいては、歩留まりに優れ、電池の不良品率の小さい、特に短絡防止性に優れた有機電解液電池用セパレータを安価に提供することができる。
本発明の有機電解液電池用セパレータは、前記湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を含む不織シートを、含水させて湿熱ゲル化樹脂がゲル化する温度以上湿熱ゲル化樹脂の[融点−20℃]以下の範囲内でゲル加工する製造方法を採ることにより、所望の平均孔径及び最大孔径を満足するセパレータを得ることができる。前記湿熱ゲル化樹脂と他の繊維を含む不織シートをゲル加工の前に親水処理することにより、不織シート全体が均一に水分を保持することができ、ひいては略均一に湿熱ゲル化樹脂をゲル化することができる。さらに、ゲル加工として加熱加圧加工を採ることによって、略均一に分散した前記湿熱ゲル化樹脂がゲル化し押し拡げられ、ゲル化物となって構成する他の繊維を不織布内部まで略均一に固定することができる。
【実施例】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。なお融点、単繊維繊度、単繊維強度、厚み、突き刺し強力、突き刺し強力の標準偏差、平均孔径、最大孔径、不織布表面の膜状度、不織布表面の接触角、及び不織布面積収縮率(以下、「加工時収縮率」という)は以下の方法により測定した。
(1)融点:JIS K 7121(DSC法)に準じ測定した。
(2)単繊維繊度:JIS L 1013に準じて測定した。
(3)単繊維強度:JIS L 1015に準じ、引張試験機を用いて、試料の掴み間隔を20mmとし、繊維が切断したときの荷重値を測定し単繊維強度とした。
(4)厚み:175kpa荷重(JIS−B−7502に準じたマイクロメーターによる測定)により、3枚の試料のそれぞれ異なる10箇所で厚みを測定し、計30箇所の平均値を求めた。
(5)突き刺し強力:カトーテック社製「KES−G5 ハンディー圧縮試験機」を用いて、縦30mm、横100mmの大きさに裁断した不織布を準備し、試料の上に縦46mm、横86mm、厚み7mmのアルミ板の中央部に直径11mmの孔を有する押さえ板を載置した後、先端部が1mmφの球状部、軸の部分が底面直径2.2mm、高さ18.7mmの円錐状になった針を、2mm/秒の速度で押さえ板の孔の中央に垂直に突き刺した時の最大荷重(N)を測定し、突き刺し強力とした。なお、この突き刺し強力は4枚の試料のそれぞれ異なる15箇所で厚みを測定し、計60箇所の平均値とした。
(6)突き刺し強力の標準偏差:上記で測定したn=60の標準偏差を求めた。
(7)平均孔径・最大孔径:パームポロメータ(Porous Materials Inc.製)を使用し、ASTM F 316 86に準じ、バブルポイント法によって測定した。
(8)不織布表面の膜状度:不織布の任意の10箇所の表面を200倍の倍率で電子顕微鏡にて撮影する。例えば、図3A〜Dに示すように、該不織布表面において、各繊維が隣接する繊維同士が連続して固定されている面積の不織布全面積に対する百分率を算出した。
(9)不織シート表面の接触角:協和界面化学社製、接触角計(洗浄度評価システム)、型式:CA−X150を用いて、図1に示すように、ガラス板1の上に、縦1cm,横5cmの試料2をのせてテープで固定する。次に、試料2の上にマイクロシリンジで正確に純水3を2マイクロリットル滴下する。5秒間放置後、図1で示す水滴の直径a及び高さhを測定する。前記直径a及び高さhから、次の算式を用いて接触角θを求める。
tan(θ/2)=h/(a/2)
(10)加工時収縮率(%):下記式の通り算出する。
[1−(ゲル加工後不織布面積/ゲル加工前不織シート面積]×100
(11)電池特性
[短絡性]
E6型電池(15cm×15cmの角型タイプ)に正極と負極の間にセパレータを80枚積層して電池に組み込み、リチウムイオン二次電池を作製した。電解液注入前にメガ電気抵抗計にて抵抗計の表示が∞で無い場合に短絡ありとし、∞を示した場合に短絡なしと判定した。
[安全性]
E6型電池(15cm×15cmの角型タイプ)に正極と負極の間にセパレータを80枚積層して電池に組み込み、電気容量39.11Ah(0.5C定電流放電時)のリチウムイオン二次電池を作製した。まず、充電電流10A、上限設定電圧20Vの条件で充電を開始し、過充電時における電池のガスの吹き出し状態及び電池パックの破損状況を観察し、評価した。
[自己放電量]
E6型電池(15cm×15cmの角型タイプ)に正極と負極の間にセパレータを80枚積層して電池に組み込み、リチウムイオン二次電池を作製した。
得られた電池に、所定電圧(開始時電圧)に充電後、25℃恒温槽内に4週間放置し、4週間後の電圧を測定し、その差を自己放電量とした。
[電気容量・出力特性]
E6型電池(15cm×15cmの角型タイプ)に正極と負極の間にセパレータを80枚積層しそ電池に組み込み、0.5Cの定電流定電圧充放電時、電気容量が42.41Ahのリチウムイオン二次電池を作製した。1.0C、4.0C、6.0Cで定電流定電圧充放電時の取り出せた電気容量、及び42.41Ahを100%としたときの各定格容量で取り出せた電気容量の割合(出力特性)を求めた。そして、6.0C時における出力特性が80%以上を合格とした。
実施例及び比較例に用いられる繊維原料を以下のとおり準備した。
[繊維1]
第一成分を湿熱ゲル化樹脂として、エチレン含有量38モル%、鹸化度99%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH、日本合成化学社製、ソアノールK3835BN、融点170℃)を使用し、第二成分をポリプロピレン(PP、日本ポリケム社製、SA03B、融点163℃)とし、公知の方法によって溶融紡糸し、150℃の空気中にて3倍に延伸した、放射状の16分割断面形状を有し、第一成分/第二成分の面積比が50/50、繊維長6mmの分割型複合繊維を準備した。
[繊維2]
第一成分を高密度ポリエチレン(HDPE、日本ポリケム社製、HE490、融点132℃)、第二成分をポリプロピレン(日本ポリケム社製、SA03B、融点163℃)であって、公知の方法によって溶融紡糸し、90℃の温水中にて5倍に延伸した、放射状の16分割断面形状を有し、第一成分/第二成分の面積比が50/50、繊維長6mmの分割型複合繊維を準備した。
[繊維3]
鞘成分を高密度ポリエチレン(日本ポリケム社製、HE490、融点132℃)、芯成分をポリプロピレン(日本ポリケム社製、SA03B、融点163℃)とし、公知の方法によって溶融紡糸し、90℃の温水中にて4倍に延伸した、芯成分/鞘成分の面積比が50/50、繊維長10mmの同芯円鞘芯型複合繊維を準備した。
[繊維4]
ポリプロピレン(日本ポリケム社製、SA03B、融点163℃)を公知の方法によって溶融紡糸し、150℃の空気中にて3倍に延伸した、単繊維強度5.8cN/dtex、繊維長10mmの丸断面ポリプロピレン単一繊維を準備した。
[合成パルプ]
合成パルプとして、ポリエチレン製合成パルプ(三井化学社製、商品名SWP EST−8)を準備した。
【実施例1】
繊度1.4dtexの繊維1を50mass%(分割後短軸厚み、PP2.57μm、EVOH2.66μm)、0.8dtexの繊維3を30mass%(繊維径10.3μm)、0.6dtexの繊維4を20mass%(繊維径8.37μm)混合して、0.5mass%の濃度になるように水分散スラリーを調製した。得られた水分散スラリーを、円網式湿式抄紙機及び短網式湿式抄紙機からそれぞれ目付15g/mの湿式抄紙ウェブを作製して抄き合わせた。次いでシリンダードライヤー機を用いて135℃で熱処理し、乾燥させるとともに、繊維1の湿熱ゲル化樹脂及び繊維4の鞘成分により仮接着させ、目付30g/mの湿式不織シートをロールにて巻き取った。得られた湿式不織シートにおいて、繊維1はほぼ100%分割し、不織布中に略均一に分散していた。なお分割率は、不織布の長手方向が断面となるように束ねて1mm径の穴のあいた金属プレートに通し、電子顕微鏡を用いて400倍に拡大して、分割された繊維の割合を算出して求めた。
次いで、前記湿式不織シートを、ガス組成がフッ素1体積%、酸素73体積%、窒素26体積%からなる混合ガスを処理器に導入し、室温(25℃)において1分間処理した。その後、60℃の湯で洗浄し、熱風乾燥機で70℃にて乾燥し、親水不織シートとした。得られた親水不織シートの脱塩水による接触角は0度であった。また、得られた不織シート表面の200倍のSEM顕微鏡写真を図2に示す。
前記親水不織シートに水分を前記シートに対してスプレーにて100mass%含浸させ、130℃に加熱した一対のプレーンロールからなる熱ロールにて線圧500N/cm、加工速度3.3m/分の条件下でゲル加工を施し、本発明の有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は、6.08μm、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、7.22μmであった。得られたセパレータ表面の200倍のSEM顕微鏡写真を図3A〜Dに示す。図3Aにおいては、中央右から下方にかけて皮膜状に見える部分が、膜状のゲル化物である。同様に図3Bにおいては、中央部の上下方向、図3Cにおいては、左側部分、図3Dにおいては、左側部分と右斜め上部分が、それぞれ膜状のゲル化物である。図4には得られた電池セパレータの断面500倍のSEM顕微鏡写真を示す。
【実施例2】
繊維3を1.2dtelx(繊維径13.1μm)、繊維4を1.2dtex(繊維径13.0μm)とした以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は、7.81μmであった。また、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、9.52μmであった。
【実施例3】
繊維1を3.3dtex(分割後短軸厚み、PP3.96μm、EVOH4.06μm)とした以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は6.78μmであった。また、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、7.68μmであった。
【実施例4】
繊度1.4dtelxの繊維1を70mass%(分割後短軸厚み、PP2.57μm、EVOH2.66μm)、0.8dtexの繊維3を30mass%(繊維径10.3μm)に変更した以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は、4.92μmであった。また、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、6.13μmであった。
【実施例5】
繊度1.2dtexの繊維1を50mass%(分割後短軸厚み、PP2.2μm、EVOH2.28μm)、0.8dtexの繊維3を30mass%(繊維径10.3μm)、0.6dtexの繊維4を20mass%(繊維径8.37μm)混合して、0.5mass%の濃度になるように水分散スラリーを調製した。得られた水分散スラリーを、円網式湿式抄紙機及び短網式湿式抄紙機からそれぞれ目付12.5g/mの湿式抄紙ウェブを作製して抄き合わせた。次いでシリンダードライヤー機を用いて130℃で熱処理し、乾燥させるとともに、繊維1の湿熱ゲル化樹脂及び繊維4の鞘成分により仮接着させ、目付25g/mの湿式不織シートをロールにて巻き取った。得られた湿式不織シートにおいて、繊維1はほぼ100%分割し、不織布中に略均一に分散していた。
次いで、前記湿式不織シートを、ガス組成がフッ素1体積%、酸素73体積%、窒素26体積%からなる混合ガスを処理器に導入し、室温(25℃)において1分間処理した。その後、60℃のイオン交換水で洗浄し、熱風乾燥機で70℃にて乾燥し、親水不織シートとした。得られた親水不織シートの脱塩水による接触角は0度であった。
前記親水不織シートに水分を前記シートに対してスプレーにて100mass%含浸させ、90℃に加熱した一対のプレーンロールからなる熱ロールにて線圧8000N/cm、加工速度7m/分の条件下でゲル加工を施し、さらに上記と同条件で厚み調整を施して、本発明の有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は、5.88μm、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、7.09μmであった。
得られた不織シート表面の300倍のSEM顕微鏡写真を図5A〜Bに示し、同300倍の断面写真を図5C〜Dに示す。また、得られたセパレータ表面の300倍のSEM顕微鏡写真を図6A〜Bに示し、同1000倍の断面写真を図6C〜Dに示す。
【実施例6】
繊度1.2dtexの繊維1を50mass%(分割後短軸厚み、PP2.2μm、EVOH2.28μm)、0.8dtexの繊維3を20mass%(繊維径10.3μm)、0.6dtexの繊維4を10mass%(繊維径8.37μm)、及び合成パルプを20mass%混合した以外は、実施例5と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径(合成パルプを除く)は、5.02μm、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維(合成パルプを除く)の平均繊維径は、6.27μmであった。
[比較例1]
水分を含浸させなかった以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得たが、厚み加工時に収縮しロール巻き取りが困難であった。
[比較例2]
繊維3を2.0dtex(繊維径16.8μm)、繊維4を2.0dtex(繊維径16.6μm)とした以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は9.66μmであった。また、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、11.99μmであった。
[比較例3]
繊度1.4dtexの繊維1を20mass%(分割後短軸厚み、PP2.57μm、EVOH2.66μm)、0.8dtexの繊維3を50mass%(繊維径10.3μm)、0.6dtexの繊維4を30mass%(繊径8.37μm)とした以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得た。得られたセパレータのゲル加工前不織シートの平均繊維径は、8.51μmであった。また、湿熱ゲル化樹脂を除く他の繊維の平均繊維径は、9.16μmであった。
[比較例4]
ゲル厚み加工前に親水化処理を施さなかった以外は、実施例1と同様の処理をし、有機電解液電池用セパレータを得たが、ゲル加工前の脱塩水による接触角が105度であったため、水分が均等に浸透せず均一にゲル化できなかった。
[比較例5]
繊維1を、繊度1.4dtexの繊維2(分割後短軸厚み、PP2.57μm、HDPE2.70μm)に変更し、熱ロール加工は水分を付与させず130℃にて実施したが、厚み加工時不織布の収縮が大きく、ロール巻き取りが不可能であった。
実施例1〜6、及び比較例1〜5の電池セパレータの物性を表1〜3に示す。



表1〜3から明らかな通り、実施例1〜6のいずれにおいても、良好なゲル加工性を維持しながら、孔径が小さく、平均孔径と最大孔径の範囲が適正化され、突き刺し強力の標準偏差及びゲル化物の膜状度の割合が所望の範囲である不織布が得られることが確認できた。これを用いたセパレータは、電池の不良品率が低く、短絡が発生しなかった。実施例5は、熱ロールの線圧を8000N/cmまで上げることにより、厚みが35μmまで低減することができた。実施例6は、合成パルプを添加することにより、さらに厚みを30μmまで低減することができ、最大孔径も10μm以下まで緻密にすることができた。
一方、比較例1では、水分を含浸させなかったため湿熱ゲル化樹脂がゲル化せずセパレータの孔径及び厚みが低減できなかった。また、水分を付与させていないため熱ロールの温度が直接不織布にかかり、その結果、繊維3の鞘樹脂の融点以上となったため不織布の収縮も大きかった。これをセパレータとして用いると微粉末短絡が発生した。比較例2では、繊維径が大きいため孔径が小さくならなかったため、セパレータとして用いると、微粉末短絡が発生した。比較例3では、湿熱ゲル化樹脂の含有率が少なかったため、湿熱ゲル化樹脂が十分に繊維間へ拡がらず孔径、特に最大孔径が小さくならなかった。これをセパレータとして用いると微粉末短絡が発生した。また、比較例4では、ゲル厚み加工前に親水処理を施さなかったため、不織布に水分を均一に付与することができず最大孔径が小さくならず、また突き刺し強力バラツキが大きくなった。これをセパレータとして用いると微粉末短絡が発生した。比較例5では、湿熱ゲル化樹脂を使用しなかったために、厚み加工時、不織布の収縮が大きくロールへの巻き取りが不可能であった。
実施例1及び比較例4のリチウムイオン二次電池の物性を表4に示す。

電池の短絡性において、実施例1は、電解液注入前にメガ電気抵抗計にて抵抗を測定したところ、表示が∞を示し、短絡は見られなかった。一方、比較例4は、抵抗を測定したところ、表示が∞を示しておらず、短絡が発生していた。
電池の安全性において、実施例1は、充電量の増大とともにセル電圧が直線的に上昇していき、電気容量の155%の過充電時にセル底面より少量の分解ガスが発生したが、その他の異常は見られなかった。さらに165%の過充電時、分解ガスの吹き出しが停止して、試験終了とした。電池内には、電池として再度機能するに足る電解液が保持されており、電池の異常な破裂が起こることなく、安全に電池の停止が行われることが確認された。一方、比較例4は、電池内のセパレータの閉塞を起こす前に充電が継続して行われ、電池パックの限界まで内圧が上昇し、急激にガス、電解液の噴出が発生し、爆発した。
電池の自己放電量、電気容量・出力特性において、実施例1はいずれも満足いく値が得られ、電池特性の優れたものであった。一方、比較例4は、電池作製する前に短絡が生じ、電池を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明の有機電解液電池用セパレータは、有機電解液電池、特にリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。本発明の有機電解液電池は、一般民生用、ハイブリッド自動車(HEV)及び電気自動車(PEV)等の二次電池として用いることができる。
【図1】

【図2】



【図4】






【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分存在下で加熱することによってゲル化し得る湿熱ゲル化樹脂と、他の繊維を含む不織布で構成され、
前記他の繊維は前記湿熱ゲル化樹脂が湿熱ゲル化したゲル化物で固定されており、
ASTM F 316 86に準拠して測定される不織布の平均孔径が0.3μm以上5μm以下の範囲にあり、且つ最大孔径が3μm以上20μm以下の範囲を満たす有機電解液電池用セパレータ。
【請求項2】
前記湿熱ゲル化樹脂が、当該樹脂を繊維表面の少なくとも一部に存在させた湿熱ゲル化繊維である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項3】
前記湿熱ゲル化樹脂の不織布に占める割合が、10mass%以上50mass%以下の範囲内にある請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項4】
前記湿熱ゲル化樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項5】
前記他の繊維の繊維径が、15μm以下である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項6】
前記不織布を構成する他の繊維の平均繊維径が、10μm以下である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項7】
前記不織布を構成する湿熱ゲル化樹脂以外の繊維が、オレフィン系繊維である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項8】
前記他の繊維が、単繊維強度が4.5cN/dtex以上の高強度繊維を、湿熱ゲル化樹脂100質量部とした場合、5質量部以上250質量部以下の範囲内で含む請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項9】
前記他の繊維が、前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化して他の繊維を固定する温度では実質的に収縮しない熱溶融性繊維を、前記湿熱ゲル化樹脂100質量部に対して、10質量部以上300質量部以下の範囲内で含む請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項10】
前記不織布が、他の繊維以外にさらに合成パルプを含む請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項11】
前記合成パルプが、湿熱ゲル化樹脂100質量部とした場合、10質量部以上200質量部以下の範囲内で含む請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項12】
前記湿熱ゲル化繊維と他の繊維を含む平均繊維径が、10μm以下である請求項2に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項13】
前記湿熱ゲル化繊維の繊維径が、1μm以上6μm以下の範囲内にある請求項2に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項14】
前記湿熱ゲル化繊維が、繊維断面において前記湿熱ゲル化樹脂とその他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる分割型複合繊維を分割して発現した繊維である請求項13に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項15】
前記不織布が、繊維断面において前記湿熱ゲル化樹脂とその他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる前記湿熱ゲル化繊維を発現し得る分割型複合繊維を100質量部としたとき、
他の繊維として、単繊維強度が4.5cN/dtex以上の高強度繊維を10質量部以上200質量部以下の範囲内で含み、
前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化して他の繊維を固定する温度では実質的に収縮しない熱溶融性繊維を10質量部以上200質量部以下の範囲内で含む請求項14に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項16】
前記不織布が、繊維断面において前記湿熱ゲル化樹脂とその他の樹脂とが相互に隣接して配置されてなる前記湿熱ゲル化繊維を発現し得る分割型複合繊維を100質量部としたとき、
他の繊維として、単繊維強度が4.5cN/dtex以上の高強度繊維を6.25質量部以上120質量部以下の範囲内で含み、
前記湿熱ゲル化樹脂を湿熱ゲル化して他の繊維を固定する温度では実質的に収縮しない熱溶融性繊維を12.5質量部以上120質量部以下の範囲内で含み、
前記合成パルプを6.25質量部以上120質量部以下の範囲内で含む請求項14に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項17】
前記不織布を構成する繊維が、繊維長1mm以上20mm以下の範囲内にある短繊維であり、前記不織布が、前記短繊維を湿式抄紙した湿式不織布である請求項2に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項18】
前記分割型複合繊維が、湿式抄紙段階で分割して湿熱ゲル化繊維を発現し、湿熱ゲル化繊維が不織布中に略均一に存在している請求項17に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項19】
前記不織布の表面が、膜状のゲル化物で部分的に被覆されている請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項20】
前記膜状のゲル化物の不織布全表面に対する面積割合が、40%以上90%以下の範囲内にある請求項19に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項21】
脱塩水を滴下したときの不織布表面における接触角が、脱塩水滴下5秒後、60度以下である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項22】
前記不織布の突き刺し強力が2N以上であり、且つその標準偏差が1.1N以下の範囲である請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項23】
前記不織布の突き刺し強力及びその標準偏差から下記式で算出される突き刺し強力のバラツキ指数が、0.165以下である請求項22に記載の有機電解液電池用セパレータ。
突き刺し強力のバラツキ指数=標準偏差/突き刺し強力
【請求項24】
前記セパレータの厚みが、15μm以上80μm以下の範囲内にあり、前記不織布の比容積が、1.2cm/g以上2.5cm/g以下の範囲内にある請求項1に記載の有機電解液電池用セパレータ。
【請求項25】
水分存在下で加熱することによってゲル化し得る湿熱ゲル化樹脂が繊維表面の少なくとも一部に存在している湿熱ゲル化繊維と、他の繊維を含む不織布で構成される有機電解液電池用セパレータの製造方法であって、少なくとも下記の工程を含む有機電解液電池用セパレータの製造方法。
A.湿熱ゲル化繊維と、他の繊維を含む不織シートを作製する工程。
B.前記不織シートを親水処理する工程。
C.前記親水処理された不織シートに水分を付与して、含水シートにする工程。
D.前記含水シートを、前記湿熱ゲル化樹脂のゲル化する温度以上、前記湿熱ゲル化樹脂の融点−20℃以下の範囲内にある温度に設定された熱処理機で湿熱処理してゲル加工し、湿熱ゲル化樹脂をゲル化させるとともに、ゲル化した湿熱ゲル化樹脂によって他の繊維を固定する工程。
【請求項26】
前記不織シートの平均繊維径が10μm以下である請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項27】
前記親水処理された不織シートに付与される水分率が、20mass%以上300mass%以下の範囲内にある請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項28】
前記親水処理された不織シート表面の脱塩水滴下5秒後の接触角が、60度以下である請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項29】
前記親水処理が、フッ素ガス雰囲気に晒す処理である請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項30】
前記ゲル加工が、加圧加工である請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項31】
前記ゲル加工が、熱ロールによる加圧加工であり、前記熱ロールの線圧が、350N/cm以上10000N/cmの範囲である請求項25に記載の有機電解液電池用セパレータの製造方法。
【請求項32】
請求項1に記載のセパレータを組み込んだ有機電解液電池。

【国際公開番号】WO2004/038833
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546454(P2004−546454)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013520
【国際出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】