説明

有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法

【課題】電解液などに含まれる膠またはゼラチンなどの有機高分子成分の分子量分布を精度良く測定することができる、有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法を提供する。
【解決手段】有機高分子成分の分子量分布測定装置は、試料溶液から有機高分子成分を捕集する有機高分子成分捕集部としての固相カートリッジ5と、この有機高分子成分捕集部から溶出によって分離された有機高分子成分の溶出液を計量して回収する計量回収部としてのサンプルループ20と、この計量回収部によって回収された一定容積の有機高分子成分の溶出液を分子量に応じて順次分離する有機高分子成分分離部としてのサイズ排除カラム21と、この有機高分子成分分離部から分子量に応じて順次分離された有機高分子成分の溶出液の所定の特性を順次検出して、その特性の検出値に基づいて有機高分子成分の分子量分布を得る検出部としての検出器22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法に関し、特に、金属精錬やメッキの電解液に含まれる膠またはゼラチンなどの有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製錬やメッキの電解液には、結晶成長を制御して製品の機械強度や外観を良好にするために、膠(にかわ)やゼラチンが添加されている。このような電解液中の膠やゼラチンは、遊離酸、熱および電解の影響によって次第に分解して分子量が低下する。膠やゼラチンの分子量と電着状態に及ぼす効果との間には関連があり、膠やゼラチンの分解が進行するとその効果が失われる。したがって、膠やゼラチンの効果を一定に保つためには、電解液中の膠やゼラチンの分子量分布を測定して、適切な添加条件を決定する必要がある。
【0003】
膠やゼラチンの分子量分布を測定する代表的な方法として、サイズ排除クロマトグラフィが知られている。このようなサイズ排除クロマトグラフィによって電解液試料中の膠やゼラチンの分子量分布を測定する場合には、電解液が高濃度の無機塩類を含有するために、電解液試料をクロマトグラフ装置に直接導入すると、妨害が大きく、また、カラムを劣化させるなどの問題がある。そのため、電解液試料をクロマトグラフ装置に導入する前に、無機塩類を効果的に除去する必要がある。また、電解液試料の主成分に対して膠やゼラチンの濃度は1000分の1程度と低いので、膠やゼラチンの分子量分布を精度良く測定するためには、膠やゼラチンを濃縮するのが望ましい。
【0004】
このようなサイズ排除クロマトグラフィを利用する分子量分布測定装置として、カラムスイッチング法を併用した高速液体クロマトグラフィによって電解液中に含有されている膠やゼラチンの濃度と分子量分布を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、試料に含まれるタンパク質や膠やゼラチンなどの有機高分子成分を樹脂に吸着させて試料から分離し、これをゲル拡散クロマトグラフィに導いて分析する一連の操作を流れ分析方法に基づいて行う方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−337081号公報(段落番号0010)
【特許文献2】特開2002−296260号公報(段落番号0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2の方法では、分子量分画した膠やゼラチンを定量することによって膠やゼラチンの分子量分布を測定しているが、定量値の正確さに欠けるという問題がある。これは、膠やゼラチンの検出感度が分子量間で必ずしも一定ではないにもかかわらず、その影響が定量計算に反映されていないためである。また、特許文献1の方法では、分析過程における試料溶液が移動相によって希釈されるため、検出時のSN比が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、電解液などに含まれる膠またはゼラチンなどの有機高分子成分の分子量分布を精度良く測定することができる、有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による有機高分子成分の分子量分布測定装置は、試料溶液から有機高分子成分を捕集する有機高分子成分捕集部と、この有機高分子成分捕集部から溶出によって分離された有機高分子成分の溶出液を計量して回収する計量回収部と、この計量回収部によって回収された一定容積の有機高分子成分の溶出液を分子量に応じて順次分離する有機高分子成分分離部と、この有機高分子成分分離部から分子量に応じて順次分離された有機高分子成分の溶出液の所定の特性を順次検出して、その特性の検出値に基づいて有機高分子成分の分子量分布を得る検出部とを備えたことを特徴とする。この有機高分子成分の分子量分布測定装置において、有機高分子成分分離部がサイズ排除カラムであるのが好ましく、計量回収部がサンプルループのような一定容積の流路であるのが好ましい。また、有機高分子成分捕集部が、試料溶液から有機高分子成分を捕集し且つ溶出によって有機高分子成分を分離する固相抽出剤を有するのが好ましく、固相抽出剤が炭素数18のアルキル基を有し且つ細孔径が50nmの固相抽出剤であるのがさらに好ましい。
【0009】
また、本発明による有機高分子成分の分子量分布測定方法は、試料溶液から有機高分子成分を捕集する工程と、この捕集された有機高分子成分を溶出液として分離する工程と、この分離された有機高分子成分の溶出液を計量して回収する工程と、この回収された一定容積の有機高分子成分の溶出液を分子量に応じて順次分離する工程と、この分子量に応じて順次分離された有機高分子成分の溶出液の所定の特性を順次検出して、その特性の検出値に基づいて有機高分子成分の分子量分布を得る工程とを備えたことを特徴とする。この有機高分子成分の分子量分布測定方法は、有機高分子成分の異なる分子量の複数の標準試料を用意し、これらの標準試料の濃度を段階的に変えた溶液を標準溶液として使用して、有機高分子成分の分子量別に各々の標準試料の濃度と検出値の関係を示す検量線を作成し、これらの検量線に基づいて有機高分子成分の濃度と分子量の関係から分子量分布を求めて、有機高分子成分を分子量別に定量する工程を備えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解液などに含まれる膠またはゼラチンなどの有機高分子成分の分子量分布を精度良く測定することができる、有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法を提供することができる。
【0011】
特に、サンプルループのような一定容積の流路などからなる計量回収部を設けることによって、固相抽出剤を充填した固相カートリッジのような有機高分子成分捕集部からの有機高分子成分の溶出液を計量して、その溶出液を希釈してサイズ排除カラムのような有機高分子成分分離部に供給するために必要な溶媒の量を最小限にすることができる。また、有機高分子成分捕集部からの有機高分子成分を溶出させるために使用する溶離液と、有機高分子成分と共に有機高分子成分分離部に導入する移動相とが同一の組成である必要がなくなり、それぞれ異なる組成の溶離液と移動相を選択することができる。
【0012】
また、有機高分子成分の溶出液の所定の特性の検出値と濃度の関係を示す検量線に基づいて有機高分子成分の分子量分布を求めるようにすれば、有機高分子成分の分子量分布を精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明による有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施の形態の有機高分子成分の分子量分布測定装置は、膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を含む試料溶液の前処理を行う図1に示す前処理部と、この前処理部によって前処理された試料溶液から膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を回収、分離および検出する図2に示す回収・分離・検出部とから構成されている。
【0015】
図1に示す前処理部では、固相抽出剤を充填した固相カートリッジ5の上部が配管6に着脱可能に接続されるようになっており、この配管6がポンプ4を介して配管7に接続され、この配管7が有機溶媒を入れた容器1と水を入れた容器2と試料溶液を入れた容器3のいずれかに挿入可能になっている。なお、固相カートリッジ5に充填する固相抽出剤としては、有機高分子成分として膠またはゼラチンを捕集するために使用する場合には、炭素数18のアルキル基を有し且つ細孔径が50nmの固相抽出剤を使用するのが好ましい。また、固相カートリッジ5に充填する固相抽出剤の重量は、固相抽出剤に保持させる有機高分子成分の絶対量に応じて決定すればよく、固相抽出剤の重量を増加させれば、固相抽出剤が保持する有機高分子成分の重量も増加する。また、ポンプ4としては、電解液のような試料溶液中の成分が流路に沈積した場合にも配管の交換を容易に行うことができる点から、ペリスタルティックポンプを使用するのが好ましい。
【0016】
図2に示す回収・分離・検出部では、図1に示す前処理部による前処理後の有機高分子成分を保持している固相抽出剤を充填した固相カートリッジ5の上部の入口側に配管13が着脱可能に接続され、固相カートリッジ5の下部の出口側に配管14が着脱可能に接続されるようになっている。なお、固相カートリッジ5への配管13の接続には、固相カートリッジ専用品として市販されているアダプタを使用することができ、固相カートリッジ5への配管14の接続には、メス型のルアーアダプタを使用することができる。また、配管13は、三方バルブ12によって切り替え可能にポンプ9またはポンプ11に接続されるようになっており、これらのポンプ9およびポンプ11がそれぞれ洗浄液を入れた容器8と溶離液を入れた容器10に挿入された配管に接続されている。一方、配管14は、六方バルブ15の一つのポートに接続されている。この六方バルブ15は、図2においてポート同士が実線で示すように接続される位置と破線で示すように接続される位置との間で切り替えられるようになっている。ポート同士が実線で示すように接続される位置では、配管14がサンプルループ20を介してドレイン16に接続されるようになっている。一方、ポート同士が破線で示すように接続される位置では、配管14がドレイン16に接続されるとともに、移動相を入れた容器17がポンプ18、サンプルインジェクタ19、サンプルループ20、サイズ排除カラム21を介して検出器22に接続されるようになっている。
【0017】
このような構成の本実施の形態の有機高分子成分の分子量分布測定装置を使用して、有機高分子成分の分子量分布を測定する方法について説明する。
【0018】
まず、図1に示す前処理部において、固相抽出剤を充填した固相カートリッジ5の上部に配管6を接続するとともに、有機溶媒を入れた容器1に配管7を挿入し、ポンプ4によって有機溶媒を固相カートリッジ5に通液する。容器1に入れる有機溶媒は、試料溶液が固相抽出剤に浸透するのを容易にする作用をし、この有機溶媒として低級アルコールやアセトニトリルなどを使用することができる。次に、水を入れた容器2に配管7を挿入し、ポンプ4によって水を固相カートリッジ5に通液して、固相抽出剤に残留する有機溶媒を洗浄する。次に、試料溶液を入れた容器3に配管7を挿入し、ポンプ4によって試料溶液を固相カートリッジ5に通液して、固相カートリッジ5に充填した固相抽出剤に有機高分子成分を保持させる。なお、固相カートリッジ5に通液する試料溶液の量は、検出に不足しない程度の有機高分子成分を含む試料溶液の量を予備実験により確認することによって決定すればよい。試料溶液の量を増加することによって有機高分子成分の濃縮率を向上させることができるので、試料溶液中の有機高分子成分の濃度が低くても十分な検出強度を得ることができる。
【0019】
次に、このようにして有機高分子成分を保持した固相抽出剤が充填されている固相カートリッジ5を前処理部の配管6から外して、固相カートリッジ5の上部の入口側に配管13を接続するとともに、固相カートリッジ5の下部の出口側に配管14を接続する。
【0020】
次に、三方バルブ12を図2においてポート同士が実線で示すように接続される位置にして配管13をポンプ9に接続するとともに、六方バルブ15を図2においてポート同士が実線で示すように接続される位置にし、容器8に入れた洗浄液をポンプ9によって固相カートリッジ5に流して夾雑成分を洗い流し、洗液をドレイン16から排出する。この洗浄液としては、固相カートリッジ5に充填された固相抽出剤に保持された有機高分子成分が溶離しないような組成であればよく、例えば、有機溶媒を含まない緩衝液を使用することができる。なお、試料溶液として電解液を使用する場合には、金属成分の加水分解による析出を避けるために、洗浄液のpHが酸性〜中性であるのが好ましい。
【0021】
次に、三方バルブ12を図2においてポート同士が破線で示すように接続される位置に切り替えて配管13をポンプ11に接続し、容器10に入れた溶離液をポンプ11によって固相カートリッジ5に流して有機高分子成分を溶出させる。この溶離液としては、例えば、アセトニトリルや低級アルコールなどの有機溶媒を20〜50%含む緩衝液を使用することができる。
【0022】
この固相カートリッジ5からの溶出液は、配管14と(図2においてポート同士が実線で示すように接続されている)六方バルブ15を通過し、サンプルループ20に導かれる。溶出した有機高分子成分をサンプルループ20に回収し終えた時点で、六方バルブ15を図2においてポート同士が破線で示すように接続される位置に切り替えて、容器17に入れた移動相をポンプ18によって六方バルブ15を介してサイズ排除カラム21に流すと、サンプルループ20に回収された有機高分子成分が移動相と共にサイズ排除カラム21に導入され、有機高分子成分が分子量に応じて分離される。なお、サンプルループ20の容積は、有機高分子成分の溶出に必要な溶離液の容積を予備実験により確認し、この予備実験によって確認された容積と同じ容積にすればよい。また、サイズ排除カラム21としては、目的とする分子量範囲を分離可能なサイズ排除カラムであればよく、例えば、排除限界分子量が10万〜100万のサイズ排除カラムを使用することができる。また、移動相としては、通常のタンパク質分離用の移動相を使用することができる。
【0023】
このサイズ排除カラム21からの流出液は、検出器22に導かれて、有機高分子成分の検出が連続的に行われる。検出器22としては、光学的な検出器や屈折率による検出器を使用することができ、例えば、波長205〜220nmの紫外吸収による吸光度測定装置を使用することができる。
【0024】
検出器22による測定結果は、サイズ排除カラム21の保持時間を横軸、検出強度を縦軸として、クロマトグラムに表される。このクロマトグラム上に表された有機高分子成分のピークを横軸方向に微小間隔で分割し、分割された各々の領域についてピーク面積を算出する。サイズ排除クロマトグラフィでは、クロマトグラムの横軸が分子量に関連付けられるので、分子量ごとのピーク面積を求めることができる。なお、クロマトグラムの分割幅を細かくするほど良好な近似になり、精密な分子量分布を得ることができる。
【0025】
サイズ排除クロマトグラフィにおいて分子量の決定に使用する分子量較正曲線は、既知の分子量の標準試料をサイズ排除カラムへ注入して、サイズ排除カラムの保持時間と分子量の関係から作成することができる。本実施の形態の有機高分子成分の分子量分布測定装置では、図2に示す回収・分離・検出部において、六方バルブ15を図2においてポート同士が実線で示すように接続される位置に切り替えた後、既知の分子量の標準試料をサンプルインジェクタ19から注入し、クロマトグラムのピークの保持時間を横軸、分子量の常用対数を縦軸として、標準試料の測定結果をプロットした点を補間して分子量較正曲線を得ることができる。この標準試料としては、サイズ排除クロマトグラフィ用に市販されているタンパク質標準試料を水溶液にして使用することができる。
【0026】
次に、分子量別の有機高分子成分の検量線の作成方法および定量計算の手順について説明する。検量線の作成に用いる標準試料としては、分子量が異なる市販の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を使用するか、分析対象の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分自体から調製することができる。
【0027】
市販の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を使用する場合には、測定しようとする分子量範囲を網羅するような異なる分子量の数種の試料を用意すればよい。各々の試料の分子量分布が狭いほど、より正確に分子量を補正することができる。
【0028】
また、分析対象の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分自体から標準試料を調製する場合には、次のような方法によって調整することができる。まず、膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を水溶液とし、この水溶液に塩酸などの酸を添加して加熱によって分解を促進させる。酸の濃度や加熱温度を変化させれば、様々な分子量の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を生成させることができる。続いて、分画分子量が異なる数種類の限外ろ過膜によって、膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を分子量分画する。最初に分画分子量が大きい限外ろ過膜によってろ過し、得られたろ液を順次分画分子量が小さい限外ろ過膜によってろ過する。このようなろ過を行った後、ろ過膜上で2〜3回水洗して、添加した酸を除去する。水洗後にろ過膜上に残っている濃縮液から溶媒を蒸発させ、固体状の膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を得る。溶媒を蒸発させる際に強く加熱すると、膠またはゼラチンなどの有機高分子成分が分解するため、凍結乾燥によって溶媒を除去するのが好ましい。
【0029】
このようにして用意された標準試料の分子量を測定するために、六方バルブ15を図2においてポート同士が実線で示すように接続される位置に切り替えた後、標準試料の水溶液をサンプルインジェクタ19からサイズ排除カラム21に注入し、クロマトグラムのピークの保持時間と分子量較正曲線からピークの分子量を求める。
【0030】
次に、定量計算を行うための検量線を作成するために、標準試料の濃度を段階的に変えた溶液を標準溶液として、上述した本実施の形態の有機高分子成分の分子量分布測定方法による分子量分布測定を行う。標準試料は、適当な水系溶媒に溶解して使用すればよいが、実試料と主成分濃度が同じとなるように調製すれば、試料溶液の組成の相違に起因する分析結果への影響を軽減することができる。膠またはゼラチンなどの有機高分子成分を添加しない標準溶液の測定をブランク測定とし、その他のクロマトグラムから差し引いてバックグラウンドを補正する。補正したクロマトグラムからピーク面積を求め、濃度とピーク面積の関係から検量線を作成する。
【0031】
このようにして全ての標準試料について得られた検量線の勾配と標準試料の分子量よって散布図を作成し、プロットした点を補間して関係線を決定する。この関係線は、一連の標準試料の分子量範囲に含まれるそれぞれの分子量における検量線の傾きを与える。なお、各々の標準試料について、直線の検量線が得られることが前提になるため、直線関係が得られる濃度範囲を確認しておく。
【0032】
また、実試料のクロマトグラムについても、上述したブランク測定の結果を差し引いてバックグラウンドを補正する。このように補正したクロマトグラムを横軸で分割し、分子量ごとのピーク面積を算出する。それぞれのピーク面積について、C=S/Aによって濃度を算出する。なお、この式において、Cは有機高分子成分の濃度(mg/L)、Sはピーク面積(吸光度・秒)、Aは検量線の傾き(吸光度・秒・L/mg)である。
【0033】
このようにして算出した有機高分子成分の濃度と分子量の関係をグラフにすることによって分子量分布を求めることができる。
【0034】
なお、図1に示す前処理部の代わりとして、図3に示すように、吸引ポンプ23を介して排気管24が接続された減圧容器25内に排液容器26を収容し、流量調整弁27を介して固相カートリッジ5の下部の出口側に接続された配管28を減圧容器25の外部から排液容器26に挿入して、固相カートリッジ5の出口側を吸引ポンプ23で減圧状態にしながら、それぞれ所要量の有機溶媒、水および試料溶液を固相カートリッジ5に注入して上端まで通液してもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明による有機高分子成分の分子量分布測定装置およびその測定方法の実施例について詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
上述した実施の形態の有機高分子成分の分子量分布測定装置の固相カートリッジ5に、固相抽出剤として炭素数18のアルキル基を有するシリカゲル(粒径40μm、細孔径50nm)50mgを充填し、この固相カートリッジ5を配管6に接続した。このように接続した固相カートリッジ5に、有機溶媒としてアセトニトリル1mLを通液した後、水1mLを通液してコンディショニングをし、その後、pH7.0のリン酸緩衝液に膠を溶解して濃度0.5g/Lに調製した膠溶液試料2mLを通液した。次に、洗浄液としてのpH7.0のリン酸緩衝液1mLで固相カートリッジ5を洗浄した後、アセトニトリル40%とpH7.0リン酸緩衝液60%からなる溶離液1mLを固相カートリッジ5に通液して膠を溶出し、10mLのメスフラスコに回収した。得られた溶出液を水で希釈して液量10mLとした溶液0.8mLを、サンプルインジェクタ19によって内径15mm、長さ200mm、排除限界分子量70万のサイズ排除カラム21に注入し、波長210nmの光の吸収を測定してクロマトグラムを作成した。得られたクロマトグラムの横軸を分子量に換算したグラフを図4に示す。また、pH7.0のリン酸緩衝液に膠を溶解して濃度0.1g/Lに調製した膠溶液試料0.8mLをサイズ排除カラム21に直接注入し、波長210nmの光の吸収を測定してクロマトグラムを作成した。得られたクロマトグラムの横軸を分子量に換算したグラフを図5に示す。図5のピーク面積に対する図4のピーク面積の比率から求めた膠の回収率は93%であった。
【0037】
[比較例1]
固相抽出剤として無極性のスチレン−ジビニルベンゼン樹脂(粒径74〜147μm、細孔径9nm)50mgを充填した固相カートリッジ5を使用した以外は実施例1と同様の測定を行った。その測定結果を図6に示す。図5のピーク面積に対する図6のピーク面積の比率から求めた膠の回収率は44%であった。この比較例と実施例1との比較により、固相カートリッジ5に充填する固相抽出剤としてスチレン−ジビニルベンゼン樹脂を使用すると、膠の回収率が低く、特に分子量1万以上の膠に対する回収能力が劣ることがわかる。
【0038】
[比較例2]
固相抽出剤として炭素数8のアルキル基を有するシリカゲル(粒径40μm、細孔径6nm)50mgを充填した固相カートリッジ5を使用した以外は実施例1と同様の測定を行った。その測定結果を図7に示す。図5のピーク面積に対する図7のピーク面積の比率から求めた膠の回収率は17%であった。この比較例と実施例1との比較により、固相カートリッジ5に充填する固相抽出剤として炭素数8のアルキル基を有するシリカゲルを使用すると、回収能力が劣ることがわかる。
【0039】
[実施例2]
予め分子量を測定した膠の標準試料の濃度を段階的に変えて銅電解液(銅40g/L、ニッケル40g/L、硫酸200g/L)に添加して、検量線用の試料溶液を調製した。この試料溶液10mLを使用して、図1および図2に示す分子量分布測定装置によって膠の分子量分布測定を行った。なお、実施例1と同様の固相カートリッジ5とサイズ排除カラム21を使用した。また、固相カートリッジ5の洗浄液として0.01モル/Lのリン酸緩衝液(pH2.5)を使用し、溶離液としてアセトニトリル40%を含む0.01モル/Lのリン酸緩衝(pH7.0)を使用した。また、サイズ排除カラム21の移動相として、塩化ナトリウム0.2モル/Lを含む0.01モル/Lのリン酸緩衝液を使用した。サンプルループ20の容積は、0.6mLとし、ポンプ4およびポンプ9としてペリスタルティックポンプを使用し、ポンプ11およびポンプ18としてダプルプランジャーポンプを使用した。また、検出は、波長210nmの吸光度測定により行い、ブランク測定として膠を含まない銅電解液を同一条件で測定した。また、銅電解液のクロマトグラムからブランク測定のクロマトグラムを差し引いて補正した後、ピーク面積から検量線を作成した。この検量線の作成は、分子量が異なるそれぞれの膠の標準試料について行った。膠の標準試料の分子量と検量線の傾きをグラフにして図8の関係線を得た。この図から膠の検出感度が分子量により変化するのがわかる。
【0040】
[実施例3]
実施例2と同様の方法により、銅電解液(銅40g/L、ニッケル40g/L、硫酸200g/L)に膠2mg/Lを添加した試料10mLを使用して、膠の分子量分布を測定した。膠を添加した直後(0時間後)と、50℃で2時間加熱した後の試料について測定を行い、その測定結果について実施例2の関係線を使用して面積を濃度に換算して求めた分子量分布を図9および図10に示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による分子量分布測定装置の実施の形態の前処理部の構成図である。
【図2】本発明による分子量分布測定装置の実施の形態の回収・分離・検出部の構成図である。
【図3】図1の前処理部に代えて使用可能な前処理部の構成図である。
【図4】図1および図2に示す本発明による分子量分布測定装置の実施の形態を使用して膠の溶出液を得た場合の実施例1の測定結果を示す図である。
【図5】図1および図2に示す本発明による分子量分布測定装置の実施の形態のサイズ排除カラム21に膠の溶液を直接注入した場合の実施例1の測定結果を示す図である。
【図6】比較例1の測定結果を示す図である。
【図7】比較例2の測定結果を示す図である。
【図8】実施例2により得られた関係線を示す図である。
【図9】実施例3の膠の添加直後の測定結果を示す図である。
【図10】実施例3の膠の添加して2時間加熱後の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1…容器(有機溶媒)、2…容器(水)、3…容器(試料溶液)、4…ポンプ、5…固相カートリッジ、6…配管、7…配管、8…容器(洗浄液)、9…ポンプ、10…容器(溶離液)、11…ポンプ、12…三方バルブ、13…配管、14…配管、15…六方バルブ、16…ドレイン、17…容器(移動相)、18…ポンプ、19…サンプルインジェクタ、20…サンプルループ、21…サイズ排除カラム、22…検出器、23…吸引ポンプ、24…排気管、25…減圧容器、26…排液容器、27…流量調整弁、28…配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液から有機高分子成分を捕集する有機高分子成分捕集部と、この有機高分子成分捕集部から溶出によって分離された有機高分子成分の溶出液を計量して回収する計量回収部と、この計量回収部によって回収された一定容積の有機高分子成分の溶出液を分子量に応じて順次分離する有機高分子成分分離部と、この有機高分子成分分離部から分子量に応じて順次分離された有機高分子成分の溶出液の所定の特性を順次検出して、その特性の検出値に基づいて有機高分子成分の分子量分布を得る検出部とを備えたことを特徴とする、有機高分子成分の分子量分布測定装置。
【請求項2】
前記有機高分子成分分離部がサイズ排除カラムであることを特徴とする、請求項1に記載の分子量分布測定装置。
【請求項3】
前記計量回収部が一定容積の流路であることを特徴とする、請求項1または2に記載の有機高分子成分の分子量分布測定装置。
【請求項4】
前記有機高分子成分捕集部が、試料溶液から有機高分子成分を捕集し且つ溶出によって有機高分子成分を分離する固相抽出剤を有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の有機高分子成分の分子量分布測定装置。
【請求項5】
前記固相抽出剤が炭素数18のアルキル基を有し且つ細孔径が50nmの固相抽出剤であることを特徴とする、請求項4に記載の有機高分子成分の分子量分布測定装置。
【請求項6】
試料溶液から有機高分子成分を捕集する工程と、この捕集された有機高分子成分を溶出液として分離する工程と、この分離された有機高分子成分の溶出液を計量して回収する工程と、この回収された一定容積の有機高分子成分の溶出液を分子量に応じて順次分離する工程と、この分子量に応じて順次分離された有機高分子成分の溶出液の所定の特性を順次検出して、その特性の検出値に基づいて有機高分子成分の分子量分布を得る工程とを備えたことを特徴とする、有機高分子成分の分子量分布測定方法。
【請求項7】
前記有機高分子成分の異なる分子量の複数の標準試料を用意し、これらの標準試料の濃度を段階的に変えた溶液を標準溶液として使用して、前記有機高分子成分の分子量別に各々の標準試料の濃度と前記検出値の関係を示す検量線を作成し、これらの検量線に基づいて前記有機高分子成分の濃度と分子量の関係から分子量分布を求めて、前記有機高分子成分を分子量別に定量する工程を備えたことを特徴とする、請求項6に記載の有機高分子成分の分子量分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−241274(P2008−241274A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78201(P2007−78201)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(507027162)DOWAテクノロジー株式会社 (11)