説明

有機EL装置及び電子機器

【課題】有機EL装置の封止性能を損なうことなく狭額縁化を図る構造を提供する。
【解決手段】本発明の有機EL装置1は、複数の有機EL素子が形成されてなる素子基板10と、素子基板10と対向して設けられ、複数の有機EL素子の周囲を囲む閉じた枠状のシール材30を介して素子基板10と接着された封止基板20と、を備える有機EL装置1であって、封止基板20のシール材30に囲まれた領域に、封止基板20を貫通して開口された封止口21が少なくとも1ヶ所設けられ、封止口21内が、ガラスフリットを溶融または軟化させて形成された封止部材22によって塞がれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electro-Luminescent)装置の構造には、外気や水分の侵入が有機EL素子の劣化、寿命の低下の原因となることから、有機EL素子を封止する技術の開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、有機EL素子を封止する技術としては、有機EL素子と、有機EL素子を囲むように設けられた閉じた枠状のシール材とが、2枚の基板で挟持される構成が知られている。しかしながら、この構成にすると2枚の基板を貼り合わせる時、シール材が閉じた枠状に配置されるとともにシール材が押し潰されるので、2枚の基板で挟まれた部分が与圧となる。これにより、シール切れ等の接着不良が生じ、有機EL素子の封止が不十分となる問題点がある。
【0004】
このような問題点を解決するための技術が検討されており、例えば特許文献1では、有機EL素子を囲むように少なくとも1ヶ所の開口部を有するシール材を配置し、2枚の基板で挟持している。そして、外部から開口部に新たにシール材を配置することで開口部を塞いでいる。これにより、開口部からガスが抜けて2枚の基板で挟まれた部分が与圧とならないようにし、シール切れを起こすことなく有機EL素子の封止を可能にしている。
【特許文献1】特開2003−133060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図8は、特許文献1に記載の有機EL装置1000を示した平面概略図である。本図は、素子基板1010を含む素子基板1010上に設けられた各構成要素を封止基板1020(一点鎖線部)の側から見た図である。有機EL装置1000は、互いに対向する一対の基板間に、有機EL素子1015と、有機EL素子1015を囲むように配置されたシール材1030とが挟持される構成となっている。基板1010,1020は、1ヶ所の開口部を有する枠状のシール材1030によって貼り合わされている。シール材1030の開口部は、外部から新たなシール材1040が配置されることにより塞がれている。
【0006】
次に、特許文献1とは異なる従来の有機EL装置を一例に挙げ、その製造方法について図9を用いて説明する。図9は、従来の有機EL装置2000を示した断面概略図である。有機EL装置2000は、互いに対向する一対の基板間に、有機EL素子2015と、有機EL素子2015を囲むように配置されたシール材2030とが挟持される構成となっている。このシール材2030は、特許文献1のシール材1030とは異なり、図示はしないが閉じた枠状に設けられている。本製造方法は、一対の基板2010,2020を貼り合わせる時の内圧を外圧よりも下げて行う、いわゆる減圧封止を用いて封止している。一対の基板間の内圧が外圧よりも小さくなることにより、基板2020は有機EL素子2015が設けられた側(内側)に弓なりに変形している。
【0007】
このように、特許文献1及び従来の有機EL装置の一対の基板間には、有機EL素子を囲んで封止するシール材が形成されている。しかしながら、特許文献1のような封止構造では、開口部を塞ぐためのエリアが必要となり、狭額縁化を図ることが困難となる。また、開口部を塞ぐために新たなシール材が別体に形成されるので、開口部の封止性能が劣る場合がある。一方、従来の封止方法では、基板が内側に弓なりに変形することに加え、内圧と外圧の差により基板とシール材の界面から外気や水分が内部に侵入しやすくなることから、封止性能が損なわれる場合がある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、有機EL装置の封止性能を損なうことなく狭額縁化を図る構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の有機EL装置は、複数の有機EL素子が形成されてなる素子基板と、前記素子基板と対向して設けられ、前記複数の有機EL素子の周囲を囲む閉じた枠状のシール材を介して前記素子基板と接着された封止基板と、を備える有機EL装置であって、前記封止基板の前記シール材に囲まれた領域に、前記封止基板を貫通して開口された封止口が少なくとも1ヶ所設けられ、前記封止口内が、ガラスフリットを溶融または軟化させて形成された封止部材によって塞がれていることを特徴とする。
この構成によれば、封止基板に設けられた封止口は、ガラスフリットが加熱により溶融または軟化して封止基板と一体的に結合することによって塞がれるので、外気や水分が内部に侵入することを防ぐことができる。また、封止基板にガス抜き穴としての封止口が設けられるので、予めシール材にガス抜き穴としての開口部を設ける必要がない。これにより、特許文献1のように開口部を塞ぐための新たなシール材を形成する必要がないので、狭額縁化を図ることができる。したがって、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った有機EL装置が得られる。
【0010】
本発明においては、前記封止口が、前記複数の有機EL素子が配置されてなる表示領域と前記シール材の形成領域との間に設けられていることが望ましい。
この構成によれば、封止口が非表示領域に設けられるので、有機EL装置がトップエミッション型の場合であっても対応可能である。
【0011】
本発明においては、前記素子基板と前記封止基板とが空隙を介して対向配置されていることが望ましい。
この構成によれば、封止基板の封止口と素子基板上に設けられた有機EL素子が空隙を介して離間しているので、封止基板の封止口内をガラスフリットで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板上に設けられた有機EL素子に及ぶことを防ぐことができる。したがって、有機EL素子に熱的ストレスのない、信頼性に優れた高品質の有機EL装置が得られる。
【0012】
本発明においては、前記封止基板の前記素子基板と対向する面には、凹部が形成されていることが望ましい。
この構成によれば、封止基板が凹形状を有しているので、封止基板の封止口と素子基板上に設けられた有機EL素子が空隙を介して十分に離間する。これにより、封止基板の封止口内をガラスフリットで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板上に設けられた有機EL素子に及ぶことを確実に防ぐことができる。
【0013】
本発明においては、前記封止口は平面視円形状であり、前記封止口の径が0.5〜1mmの範囲内となっていることが望ましい。
本願発明者は、封止口の径を0.5〜1mmの範囲内とすることで、封止口が1ヶ所のみでも十分に内部のガス抜きができることを見出した。また、封止口内にガラスフリットを配置する際に、ガラスフリットの粘度を高くすることで、封止口内からガラスフリットが素子基板上に滴り落ちることなく封止口を確実に塞ぐことができる。また、表示領域とシール材の形成領域との間に、封止口を確実に開口させることができるので、新たに封止口を開口させるためのスペースを設ける必要がない。したがって、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った有機EL装置が得られる。
【0014】
本発明においては、前記封止基板の前記素子基板と対向する面に乾燥剤が設けられ、前記乾燥剤が前記封止口を除く部分に配置されていることが望ましい。
この構成によれば、乾燥剤が封止口を除く部分に配置されるので、封止基板の封止口内をガラスフリットで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板上に設けられた有機EL素子に及ぶことを防ぐことができる。また、乾燥剤が封止口から外部に滴り落ちることはない。したがって、信頼性に優れた高品質の有機EL装置が得られる。
【0015】
本発明の電子機器は、前述した本発明の有機EL装置を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、上述した有機EL装置を備えているため、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った高信頼性かつ高性能な電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。かかる実施の形態は、本発明の一態様を示すものであり、この発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等が異なっている。
【0017】
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、前記XYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。この際、水平面内における所定方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。本実施形態の場合、X軸方向を走査線の延在方向、Y軸方向をデータ線の延在方向、Z軸方向を観察者による有機EL装置の観察方向としている。
【0018】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る有機EL装置1の全体構成を図1〜図3を参照して説明する。図1は、有機EL装置1の平面概略図である。図2は、素子基板10を含む素子基板10上に設けられた各構成要素を封止基板20の側から見た平面概略図である。また、図3は、図1のA−A線に沿う断面概略図である。なお、有機EL装置1の各構成部材における有機EL素子側(素子層15側)を内側と呼び、その反対側を外側と呼ぶことにする。
【0019】
図1〜3に示すように、有機EL装置1は、素子基板10と、素子基板10上に設けられた複数の有機EL素子を含む素子層15と、素子基板10に対向して素子層15を囲む平面視閉じた枠状のシール材30を介して設けられた封止基板20と、を備えている。素子基板10の一辺には、フレキシブル基板50が設けられている。
【0020】
素子基板10はガラスや石英、プラスチック等から形成され、その上には複数の有機EL素子を含む素子層15が形成されている。本実施形態の場合、有機EL装置1は、素子層15で発光した光を素子基板10とは反対側に射出させるトップエミッション型のものである。そのため、素子基板10の材料としては、透明基板及び不透明基板のいずれを用いることもできる。
【0021】
素子層15を構成する有機EL素子は、画素電極(陽極)と、光透過性を有する共通電極(陰極)との間に有機機能層が挟持された構造を有している。有機機能層は有機発光層を含んで構成され、有機発光層以外に、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層等が必要に応じて設けられる。また、有機EL素子は、RGBの三つの有機材料を塗り分けて三種の有機発光素子、例えば赤色光を発生する有機発光素子、緑色光を発生する有機発光素子、青色光を発生する有機発光素子を有している。
【0022】
素子基板10上には、薄膜トランジスタ(TFT)等の画素スイッチング素子及び各種の配線を含む回路層が設けられている(図示略)。この回路層上に、画素スイッチング素子と接続された画素電極と、画素電極上に設けられた有機機能層と、有機機能層上に設けられた共通電極とからなる有機EL素子が形成されている。
【0023】
素子基板10の中央部には、複数の有機EL素子を含む素子層15が設けられ、表示領域Lとなっている。表示領域Lには、X軸方向に延びる複数の走査線71とY軸方向に延びる複数のデータ線72とが平面視格子状に設けられている。走査線71とデータ線72との交差部には、赤色、緑色又は青色のいずれかの色に対応したサブ画素が設けられている。それぞれのサブ画素には、画素電極と画素スイッチング素子が形成されており、1サブ画素毎に1つの有機EL素子が配置されている。素子基板10上には、このようなサブ画素がマトリクス状に配置されており、これら複数のサブ画素によって、平面視矩形状の表示領域Lが形成されている。なお、表示領域L外に相当する領域を非表示領域Mとする。
【0024】
非表示領域Mにおける素子基板10上には、走査線駆動回路81,82及びシール材30が設けられている。走査線駆動回路81,82は、X軸方向に延在する複数の走査線71に接続されている。また、走査線駆動回路81,82は、素子基板10のフレキシブル基板50が設けられた一辺に隣接する2辺に沿うように延在して設けられている。そして、走査線駆動回路81,82の一方の端部は、不図示の引き回し配線を介してフレキシブル基板50に接続されている。
【0025】
シール材30は、走査線駆動回路81,82の外側に配置され、素子基板10の周囲を囲むように平面視枠状に設けられている。また、シール材30の形成領域と表示領域Lとの間の距離は、1mm程度離れている。シール材30の形成材料は、例えば、アクリルやエポキシ等の樹脂材料を用いることができる。
【0026】
また、シール材30には、例えば、樹脂やガラス等から形成された略球形状のギャップ剤(図示略)が含まれている。ギャップ剤は、その直径が素子基板10と封止基板20との間の距離(セルギャップ)と略同じ寸法になるように形成されている。これにより、セルギャップが所定の寸法とされ、封止空間(空隙)60が形成されている。
【0027】
封止空間60には充填剤を配置することもできるが、本実施形態では、封止空間60には、むしろ充填材を入れない方がよい。すなわち、素子基板10と封止基板20との間に充填材を入れない方が、後述する製造方法で、封止基板20の封止口21内をガラスフリット22aを溶融または軟化させて封止部材22で塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板10上に設けられた有機EL素子に及ぶことを防ぐことができるので好適である。
【0028】
素子基板10の素子層15が形成された側には、シール材30を介して封止基板20が設けられている。封止基板20は透明ガラスから形成されている。表示領域Lとシール材30の形成領域との間には、封止基板20を貫通して開口された封止口21が1ヶ所のみ設けられている。本実施形態の封止口21は、素子基板10上に設けられた走査線駆動回路81に平面視で一部重なるように設けられている。
【0029】
封止口21の形状は平面視円形となっている。また、封止口21の径は、0.5〜1mmの範囲内に設定することが望ましい。封止口21の径を0.5〜1mmの範囲内に設定することで、封止口が1ヶ所のみでも十分に内部(封止空間60)のガス抜きができる。また、表示領域Lとシール材30の形成領域との間の距離は、1mm程度離れているので、封止口21を確実に配置することができる。
【0030】
封止口21内は、封止基板20の構成材料の透明ガラスよりも低い温度で溶融または軟化する低融点ガラスからなるガラスフリット22aにより形成される封止部材22で塞がれている。具体的には、ガラスフリット22aは、後述するレーザ光(照射源)90により加熱されることによって溶融または軟化して封止基板20と一体化された封止部材22となることで封止口21を塞ぐようになる。
【0031】
また、封止部材22の素子層15の形成された側は、レーザ光90により加熱されることによって溶融または軟化したガラスフリット22aの粘性により、突起形状を有している。上述のように、素子基板10と封止基板20との間には封止空間60が形成されており、封止基板20の封止口21と素子基板10上に設けられた素子層15が離間している。このため、封止部材22が突起形状を有していても素子基板10上の素子層15に接触する等の問題は生じることがない。
【0032】
また、封止口21の径を0.5〜1mmの範囲内に設定しているので、封止口21内にガラスフリット22aを配置する際に、ガラスフリット22aの粘度を高くすることで、封止口21内からガラスフリット22aが素子基板10上に滴り落ちることなく封止口21を確実に塞ぐことができる。
【0033】
ガラスフリット22aを構成する低融点ガラスは、従来公知のものを用いることができる。低融点ガラスとしては、例えば、B−PbOやB−ZnO等のはんだガラスを用いることができる。また、低融点ガラスは、被接着材料(封止基板20)よりも熱膨張係数の小さいものを選択するのがよい。低融点ガラスの熱膨張係数が小さい方が、ガラスフリット22aを構成する低融点ガラスに温度差があっても熱応力が小さくなるので、急激な温度変化に耐えることができる。
【0034】
封止基板20の素子層15が配置された側には、乾燥剤25が配置されている。乾燥剤25は、表示領域L全体に重なる位置に均一の厚さで形成されている。なお、本実施形態はトップエミッション型であることから、乾燥剤25は透明なものを用いる。透明な乾燥剤25としては、封止空間60において所望の乾燥機能(吸湿機能)を有していれば特に限定されないが、例えば、シリカゲルを用いることができる。
【0035】
(有機EL装置の製造方法)
次に、本実施形態における有機EL装置1の製造方法の一例を説明する。図4(a)〜図4(c)は、有機EL装置1の製造プロセスを順を追って示す工程図、図5は、有機EL装置1の製造プロセスのフローチャートである。なお、以下の説明では便宜上、走査線駆動回路81,82の図示を省略する。
【0036】
図4(a)に示すように、素子基板10と封止基板20とを形成する。先ず、ガラス等の絶縁材料からなる素子基板10上に画素スイッチング素子及び各種の配線を含む回路層を形成し、その上にアクリルやポリイミド等の樹脂材料からなる平坦化層を形成する。次に平坦化層上にパターニングによって陽極を形成し、陽極の一部が露出するように開口部を有した窒化珪素等からなる無機絶縁層からなる隔壁を形成する。次に、隔壁に囲まれた開口部に、例えば、蒸着法により、先ず陽極を成膜し、次いで有機機能層を正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の順に成膜し、そして有機機能層及び隔壁上に陰極を成膜し、有機EL素子を含む素子層15を形成する(図5中のステップS1,S3)。なお、素子層15の形成は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行う。
【0037】
次に、素子基板10上の素子層15を囲む位置に、例えば、ディスペンス描画法やスクリーン印刷法を用いて、アクリルやエポキシ等の樹脂材料からなるシール材の形成材料30aを塗布する(図5中のステップS5)。このとき、シール材の形成材料30aは、図示はしないが閉じた枠状に塗布される。シール材の形成材料30aには、例えば、樹脂やガラス等から形成された略球形状のギャップ剤(図示略)が含まれている。ギャップ剤は、その直径が基板のセルギャップと略同じ寸法になるように形成されている。なお、シール材の形成材料30aの塗布は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で行う。
【0038】
一方、透明ガラスからなる封止基板20に封止口21を開ける。このとき、封止口21の開口位置は、表示領域Lとシール材30の形成領域との間に重なる位置とする。封止口21の開口方法としては、例えば、エッチング、サンドブラスト、ダイヤモンドドリルを用いて封止基板20を貫通することによって開口させることができる(図5中のステップS2,S4)。
【0039】
次に、封止基板20上に透明な乾燥剤25を配置する(図5中のステップS6)。透明な乾燥剤25は、表示領域L全体に重なる位置に、均一の厚さになるように形成する。透明な乾燥剤25の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば、封止基板20上に塗布を用いてベタ状の液状膜を成膜し、その後乾燥して硬化させる方法がある。このときの塗布液としては、例えば、ゾルゲル法で作られたシリカゲルと、セピオライト等の無機繊維と、親水性共重合ポリエステル等の高分子と、を含有する液状組成物を用いることができる。
【0040】
次に、図4(b)に示すように、素子基板10と封止基板20とを貼り合わせる(図5中のステップS7)。具体的には、先ず、シール材の形成材料30aが塗布された素子基板10に、シール材の形成材料30aの硬化反応を開始させる目的で紫外線照射を行う。これにより、シール材の形成材料30aが反応し、徐々に粘度が向上する。
【0041】
次に、素子基板10の素子層15が形成された面と、封止基板20の透明な乾燥剤25が配置された面とを対向させ、シール材の形成材料30aを介して素子基板10と封止基板20とを貼り合せる。このとき、貼り合わせた素子基板10と封止基板20とのアライメント位置の微調整を行いながら、素子基板10と封止基板20の双方を接近させていく。具体的には、素子基板10と封止基板20とを面方向(XY方向)に相対移動させ、素子層15と透明な乾燥剤25との対向位置を調整する。このように、アライメント位置精度をしながら最終的な位置合わせを行う。
【0042】
次に、素子基板10と封止基板20とを圧着する。次に、圧着して貼り合わせた素子基板10と封止基板20とを大気中で加熱する。具体的には、素子基板10と封止基板20とを貼り合わせた状態で、大気中において所定の温度で加熱することで、前述した硬化反応が開始したシール材の形成材料30aを熱硬化させ、シール材30を形成する(図5中のステップS8)。
【0043】
次に、封止基板20に開口された封止口21内に、低融点ガラスからなるガラスフリット22aを配置する(図5中のステップS9)。低融点ガラスとしては、例えば、B−PbOやB−ZnO等のはんだガラスを用いることができる。また、低融点ガラスは、被接着材料(封止基板20)よりも熱膨張係数の小さいものを選択する。
【0044】
次に、図4(c)に示すように、封止口21内にレーザ光90を照射し、ガラスフリット22aを加熱する(図5中のステップS10)。なお、良好な結合を行うには、ガラスフリット22aが被接着材料(封止基板20)をよく濡らすことが必要なので、ガラスフリット22aを加熱する温度を低融点ガラスの軟化点以上に設定することが好ましい。なお、ガラスフリット22aが効率よくレーザ光90を吸収して溶融あるいは軟化するようにするため、炭素粉末等の粉末状の光吸収物質を予めガラスフリット22aに混入させておくのがよい。
【0045】
そして、レーザ光90により照射・加熱されたガラスフリット22aは、溶融または軟化して封止基板20と一体化した封止部材22になって、封止口21を塞ぐようになる(図5中のステップS11)。なお、封止部材22と封止基板20との結合は、大気中または窒素ガス等の不活性ガス雰囲気のいずれでも行うことができる。以上により、上述した本発明の有機EL装置1を形成することができる。
【0046】
本実施形態の有機EL装置1によれば、封止基板20に設けられた封止口21は、ガラスフリット22aが加熱により溶融または軟化して封止基板20と一体的に結合することによって塞がれるので、外気や水分が内部に侵入することを防ぐことができる。また、封止基板20にガス抜き穴としての封止口21が設けられるので、予めシール材30にガス抜き穴としての開口部を設ける必要がない。これにより、特許文献1のように開口部を塞ぐための新たなシール材1040を形成する必要がないので、狭額縁化を図ることができる。したがって、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った有機EL装置1が得られる。
【0047】
また、この構成によれば、封止口21が非表示領域Mに設けられるので、有機EL装置1がトップエミッション型の場合であっても対応可能である。
【0048】
また、この構成によれば、封止基板20の封止口21と素子基板10上に設けられた有機EL素子が空隙60を介して離間しているので、封止基板20の封止口21内をガラスフリット22aで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板10上に設けられた有機EL素子に及ぶことを防ぐことができる。したがって、有機EL素子に熱的ストレスのない、信頼性に優れた高品質の有機EL装置1が得られる。
【0049】
本願発明者は、封止口21の径を0.5〜1mmの範囲内とすることで、封止口21が1ヶ所のみでも十分に内部(封止空間60)のガス抜きができることを見出した。また、封止口21内にガラスフリット22aを配置する際に、ガラスフリット22aの粘度を高くすることで、封止口21内からガラスフリット22aが素子基板10上に滴り落ちることなく封止口21を確実に塞ぐことができる。また、表示領域Lとシール材30の形成領域との間に、封止口21を確実に開口させることができるので、新たに封止口21を開口させるためのスペースを設ける必要がない。したがって、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った有機EL装置1が得られる。
【0050】
また、この構成によれば、乾燥剤25が封止口を除く部分に配置されるので、封止基板20の封止口21内をガラスフリット22aで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板10上に設けられた有機EL素子に及ぶことを防ぐことができる。また、乾燥剤25が封止口21から外部に滴り落ちることはない。したがって、信頼性に優れた高品質の有機EL装置1が得られる。
【0051】
また、本実施形態の製造方法によれば、レーザ光90のスポット径(ビームスポット径)を所定の径に設定することで、封止口21内を部分的に的確に加熱し、封止部材22によって確実に塞ぐことができる。また、レーザ光90照射の加熱による熱が全てガラスフリット22aに吸収されるので、素子基板10上に設けられた有機EL素子に及ぶことはない。したがって、有機EL素子に熱的ストレスのない、信頼性に優れた高品質の有機EL装置1が得られる。
【0052】
(第2実施形態)
続いて、本発明の有機EL装置に係る第2実施形態について説明する。図6は本実施形態に係る有機EL装置2の断面概略図である。本実施形態に係る有機EL装置2は、封止基板40が凹形状を有している点で、第1実施形態の板状の封止基板20と異なる。本図は、図3に対応した、有機EL装置2の断面概略を示した図となっている。図3と同様の要素には同一の記号を付し、詳細な説明を省略する。
【0053】
本実施形態に係る有機EL装置2は、封止基板40の素子層15が配置された側と素子基板10との間で封止空間60を形成するように凹形状を有している。封止部材22は、封止基板40の凹形状の底部40bに設けられている。シール材30は、封止基板40の凹形状の外側の突起部40aに設けられ、封止基板40と素子基板10とが貼り合わされている。これにより、封止基板40は素子基板10との間で、シール材30のZ方向の厚さに加え、凹形状のZ方向の深さが加わるので、封止空間60は第1実施形態よりもZ方向で大きく形成されている。
【0054】
本実施形態の有機EL装置2によれば、封止基板20が凹形状を有しているので、封止基板20の封止口21と素子基板10上に設けられた有機EL素子が空隙60を介して十分に離間する。これにより、封止基板20の封止口21内をガラスフリット22aで塞ぐ際の加熱の影響が、素子基板10上に設けられた有機EL素子に及ぶことを確実に防ぐことができる。
【0055】
なお、本実施形態の封止口21は、素子基板10上の走査線駆動回路81と一部重なるように設けられているが、これに限らない。例えば、素子基板10上の走査線駆動回路81が配置されていない領域に設けてもよい。すなわち、封止口21は、表示領域Lとシール材30の形成領域との間に設けられてさえいればよい。
【0056】
なお、本実施形態の封止口21は、1ヶ所のみ設けられているがこれに限らない。例えば、必要に応じて2箇所以上の複数個所に封止口21を設けてもよい。すなわち、封止口21は、表示領域Lとシール材30の形成領域との間に、少なくとも1ヶ所設けられていればよい。
【0057】
なお、本実施形態のガラスフリット22aにはんだガラスを用いているが、これに限らない。例えば、低融点ガラスの粉末と樹脂バインダとが混合されてなるペースト状のガラスペーストを用いてもよい。
【0058】
(電子機器)
次に、本発明に係る電子機器について、携帯電話を例に挙げて説明する。図7は、携帯電話600の全体構成を示す斜視図である。携帯電話600は、筺体601、複数の操作ボタンが設けられた操作部602、画像や動画、文字等を表示する表示部603を有する。表示部603には、本発明に係る有機EL装置1が搭載される。
このように、封止性能を損なうことなく狭額縁化を図った有機EL装置1を備えているので、高信頼性かつ高性能な電子機器(携帯電話)600を得ることができる。
【0059】
なお、電子機器としては、上記携帯電話600以外にも、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)、およびエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、ワードプロセッサ、テレビ、ビューファインダ型またはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルなどを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の有機EL装置の平面概略図である。
【図2】素子基板の封止基板と対向する側の平面概略図である。
【図3】図1に示したA−A線に沿った断面概略図である。
【図4】有機EL装置の製造プロセスを順を追って示す工程図である。
【図5】有機EL装置の製造プロセスのフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る有機EL装置の断面概略図である。
【図7】電子機器の一例である携帯電話の概略構成図である。
【図8】特許文献1に記載の有機EL装置を示した平面概略図である。
【図9】従来の有機EL装置を示した断面概略図である。
【符号の説明】
【0061】
1,2…有機EL装置、10…素子基板、20…封止基板、21…封止口、22…封止部材、22a…ガラスフリット、25…乾燥剤、30…シール材、40…封止基板、60…封止空間(空隙)、600…携帯電話(電子機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有機EL素子が形成されてなる素子基板と、前記素子基板と対向して設けられ、前記複数の有機EL素子の周囲を囲む閉じた枠状のシール材を介して前記素子基板と接着された封止基板と、を備える有機EL装置であって、
前記封止基板の前記シール材に囲まれた領域に、前記封止基板を貫通して開口された封止口が少なくとも1ヶ所設けられ、
前記封止口内が、ガラスフリットを溶融または軟化させて形成された封止部材によって塞がれていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記封止口が、前記複数の有機EL素子が配置されてなる表示領域と前記シール材の形成領域との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記素子基板と前記封止基板とが空隙を介して対向配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記封止基板の前記素子基板と対向する面には、凹部が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記封止口は平面視円形状であり、前記封止口の径が0.5〜1mmの範囲内となっていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記封止基板の前記素子基板と対向する面に乾燥剤が設けられ、前記乾燥剤が前記封止口を除く部分に配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機EL装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−135213(P2010−135213A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311032(P2008−311032)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】