説明

有水晶体用の眼内レンズ

【課題】 後発白内障の発生を抑制でき、白内障手術後に好適な使用状態を維持することができる有水晶体用の眼内レンズを提供する。
【解決手段】
有水晶体用の眼内レンズは、人眼の網膜に光を集光させるための所定の屈折力を有する光学部を備え、人眼の水晶体の一部を除去することにより形成された空間内に埋植される。また、眼内レンズの最外径は水晶体を保持する人眼の嚢の内径よりも小さく、光学部の径は人眼の縮瞳した瞳孔径よりも大きな径とされる。そして以上のような構成の有水晶体用の眼内レンズは水晶体の一部を除去するために嚢の一部に形成された開口から空間内に注入又は挿入されることで取り付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白内障手術治療に用いられる有水晶体用の眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障治療では、白内障で混濁した水晶体核及び水晶体皮質の細胞(水晶体上皮細胞)等の水晶体組織を白内障乳化吸引技術で取り除いた後、残された水晶体嚢内で眼内レンズを固定支持させる。水晶体組織を除去する方法としては、超音波プローブの超音波振動にて、前嚢側から水晶体組織を破砕(乳化)して吸引除去するものが知られている。また、近年では、フェムト秒パルスレーザビーム等の超短パルスレーザビームを照射して組織を切断する技術が提案されており、これを用いて水晶体のターゲット位置に微小なプラズマを発生させることで、水晶体組織を機械的に切断・破砕することができる。なお、水晶体全体を除去した後の嚢内には、所定の屈折力を有する光学部と、光学部を眼内にて支持するための支持部とから構成された眼内レンズが埋植される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005‐21275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示される眼内レンズを用いる場合は、白内障手術で水晶体全体を取り除くことが必要となるが、水晶体上皮細胞を完全に取り除くことは困難であり、術後に前嚢(水晶体赤道部から前嚢側)に僅かに残ってしまった水晶体上皮細胞から細胞が増殖することで、後嚢が濁りってしまう後発白内障が引き起こされる場合がある。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、後発白内障の発生を抑制することができ、白内障手術後に好適な使用状態を維持できる有水晶体用の眼内レンズを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0007】
(1) 人眼の網膜に光を集光させるための所定の屈折力を有する光学部を備え、人眼の水晶体の一部を除去することにより形成された空間内に埋植される有水晶体用の眼内レンズであって、該眼内レンズの最外径が前記水晶体を保持する前記人眼の嚢の内径よりも小さいことを特徴とする。
(2) (1)に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、前記光学部の径は人眼の縮瞳した瞳孔径よりも大きな径であることを特徴とする。
(3) (2)に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、前記眼内レンズは、前記水晶体の一部を除去するために前記嚢の一部に形成された開口から前記空間内に注入又は挿入されることで取り付けられることを特徴とする。
(4) (3)に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、前記眼内レンズの光学部は、折り曲げ可能な軟性の材料にて形成されていることを特徴とする。
(5) (4)に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、前記眼内レンズの光学部の周縁には、前記水晶体に形成された空間での取り付け位置を定めるための位置決め部材を有することを特徴とする。
(6) (5)に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、前記眼内レンズの最外径は10mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、後発白内障の発生を抑制することができ、白内障手術後に好適な使用状態を維持できる有水晶体用の眼内レンズを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を図面に基づき説明する。本実施形態の眼内レンズは、水晶体を全て取り除くのではなく、視力回復に必要な程度の領域となる水晶体の一部のみを除去させたあと、残存させた水晶体内に形成された所定の空間内に設置するための有水晶体用の眼内レンズである。図1は眼内レンズの構成の説明図であり、図1(a)に眼内レンズ10の正面図、図1(b)に眼内レンズ10の側面図が示されている。
【0010】
図1に示される眼内レンズ10は所定の屈折力を有する光学部11を備える。本実施形態の眼内レンズ10の光学部11は、非含水性(疎水性)または含水性(親水性)の折り曲げ可能な軟性眼内レンズ基材にて形成される。非含水性又は含水性の軟性眼内レンズ基材は、軟質材料となるモノマーを1種類又は数種類配合させ、重合硬化させることにより得ることができる。また、得られる基材の硬度(軟度)を調整するために、軟質材料に硬質材料となるモノマーを適宜配合し、重合硬化させることによって得ることもできる。
【0011】
非含水性の軟質材料となるモノマー(以下、非含水性軟質モノマーと記す)の具体例としては、メチルアクリレート,エチルアクリレート,プロピルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,n−ブチルアクリレート,エチレングリコールフェニルエーテルアクリレート,イソブチルアクリレート,n−デシルアクリレート,シクロヘキシルアクリレート,ヘプチルアクリレート等のアクリル酸エステルが挙げられる。
【0012】
また、含水性の軟質材料となるモノマー(以下、含水性モノマーと記す)の具体例としては、N−ビニルピロリドン、α−メチレン−N−メチルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等のN−ビニルラクタム類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド類等を挙げることができる。また、この他の軟質材料としては、ポリウレタン,シリコーン等が挙げられる。
【0013】
また、硬質材料となるモノマー(以下、硬質モノマーと記す)の具体例としては、メチルメタクリレート,エチルメタクリレート,プロピルメタクリレート,ブチルメタクリレート,イソブチルメタクリレート,2−エチルヘキシルメタクリレート,2−メトキシエチルメタクリレート,2−エトキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0014】
これらの軟質モノマー(非含水性,含水性)、あるいは軟質モノマーと硬質モノマーとの混合物を用いて軟性眼内レンズ基材を得る場合には、必要に応じて架橋剤、重合開始剤が用いられる。架橋剤は具体的にはエチレングリコールジメタクリレート,ジエチレングリコールジメタクリレート,トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリル酸エステルや、その他眼内レンズ基材の形成に架橋剤として使用可能な材料が挙げられる。これらの架橋剤は基材となるモノマーの総重量に対し0.5〜10重量%の範囲で使用される。
【0015】
また、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル,アゾイソブチロバレロニトリル,ベンゾイン,メチルオルソベンゾイルベンゾエート等の眼内レンズ基材の形成に重合開始剤として使用可能な材料が挙げられる。また、この他にベンゾトリアゾール系を始めとする紫外線吸収材を適宜加え、紫外線吸収効果を持たせた眼内レンズ用基材を得ることもできる。以上のような材料が、眼内レンズの光学部用として用いられる場合の基材の弾性率は、好ましくは0.1MPa以上20MPa以下、さらに好ましくは0.5MPa以上5MPa以下のものが好適に用いられる。
【0016】
このような眼内レンズ用基材にて眼内レンズ10は、型枠に前述したモノマー、架橋剤、重合開始剤等を混合した溶液を流し込み、重合硬化させることで得られる。また、重合、硬化した眼内レンズ基材を切除加工して所望する形状を得ることもできる。なお、図1に示される眼内レンズ10の光学部11の形状は、両凸形状となっているが、これに限るものでは無い。平凸形状やメニスカス形状等、眼内レンズとして使用可能な様々な形状に形成される。また、光学部11としては単焦点レンズ以外にも、周知の多焦点レンズ、非球面レンズ、トーリックレンズ、光学部の前面と後面との距離が眼球運動によって変化することで調節力を得るダブルレンズ、又はこれらを組み合わせたものを用いることができる。なお、ここでは上記に示す材料を用いて眼内レンズを折り曲げ可能に形成しているが、眼内レンズを硬質の材料にて形成し、水晶体内に折り曲げずに取り付けるようにしても良い。なお、硬質の眼内レンズ材料としては周知のものが用いられる。
【0017】
又は、光学部としては、液状又はゲル状の物質を変形可能なカプセル(又はバルーン状)部材の内部に充填し、眼球運動にて変形されることによって調節力を得るタイプの眼内レンズが用いられても良い。なお、眼球運動にて変形可能な眼内レンズ材料及び形成方法については、周知のものが用いられる(例えば、特開平4−224746号公報を参照されたい)。これ以外にも、液状又はゲル状の物質を所定の曲面を有するレンズで挟んだ構成の眼内レンズ、ゲル状のフルオプティクスの眼内レンズ等、様々な形状の眼内レンズを用いることができる。
【0018】
また、本実施形態の眼内レンズ10の最外径は、水晶体が取り除かれていないときの嚢の内径よりも小さい径に形成される(例えば、直径10mm以下の径に形成される)。また、光学部11の径は、術眼の瞳孔が縮瞳した状態(2mm程度)における瞳孔径よりも大きな径とされる。なお、夜間時を考慮すれば光学部11の径は8mm程度有していることが好ましい。これにより、後述する眼科手術装置を用いた白内障手術において、眼内レンズ10を水晶体内に挿入(注入)可能な大きさで嚢の一部を除去すると共に、眼内レンズ10の取り付け位置に対応する水晶体組織の中心領域を摘出する。
【0019】
これにより、前嚢から水晶体赤道部に存在する被細胞が接触している皮質が残されることになる。これにより、被細胞の配列が乱されることが抑えられると共に、異物の眼内レンズが上皮細胞と直接接触されることも無くなる。その為、水晶体上皮細胞から増殖する細胞によって引き起こされる後発白内障の発生が抑えられて、眼内レンズの好適な使用状態が維持されるようになる。なお、水晶体組織の一部を除去する場合には、視軸方向(前後方向)に沿って前嚢側から後嚢側までの間にある水晶体組織をできるだけ多く除去することで、眼内レンズ10を用いた患者の見え方を好適に改善できるようになる。また本実施形態では光学部11のみからなる眼内レンズ10を用いているが、これに限るものではなく光学部11の周縁に光学部を水晶体内で支持(保持)するための支持部が設けられた眼内レンズを用いることもできる。このような場合には、光学部及び支持部を含めた眼内レンズ全体の最外径(眼内レンズにおいて一番長い距離)が、嚢の内径よりも小さくなるように形成される。
【0020】
次に、図2に、本実施形態の白内障手術に用いる眼科手術装置(レーザ手術装置)100の概略説明図(ブロック図)を示す。眼科手術装置100は、集光点でブレイクダウンを発生させるパルスレーザ光を出射するレーザ光源110と、レーザ光を導光しターゲット(水晶体組織)に照射するレーザ照射光学系120と、術眼を観察するための観察光学系130、術眼を固定保持するための眼球固定ユニット140と、眼科手術装置100全体の駆動制御を行うための制御部150とを備え、レーザ光源110から照射されたレーザ光により患者の水晶体組織(水晶体核等)を加工・切断する。
【0021】
レーザ光源110は、フェムト秒からピコ秒オーダーのパルス幅のパルスレーザを出射するデバイスが用いられており、レーザの集光点(レーザスポット)でプラズマが発生する(ブレイクダウンを起こす)超短パルスレーザが出射される。これにより、パルスレーザの集光点で、水晶体組織などのターゲット組織が切断される。
【0022】
照射光学系120は、パルスレーザ光のスポット(焦点位置)をターゲット面上で二次元的(XY方向)に走査(偏向)する走査部(光スキャナ)121と、パルスレーザのスポットを光軸方向(Z方向)に移動させる焦点移動部(フォーカスシフタ)122と、レーザの光軸と観察光軸とを合致させるビームスプリッタ123と、レーザをターゲット面に結像させる対物レンズ124とを備える。走査部121と焦点移動部122によってレーザ光のスポットを水晶体内で3次元的に移動する移動光学系が構成される。
【0023】
観察光学系130は、二次元撮像素子を有するカメラ131、照明光を反射し術眼からの反射光を透過する特性を備えるビームスプリッタ132、可視光等で術眼を照明する照明光源133、照明光及び術眼Eからの反射光を導光するレンズ系134、を備える。なお、ここでの図示は省略するがカメラ131によって撮影された術眼の正面像は、観察光学系130に接続されたモニタに表示される。
【0024】
眼球固定ユニット140は、前眼部の強膜に当接する環状形状の吸着リング141、透光性を有するコンタクトレンズ等からなるアプリケータ125を備える。吸着リング141は、図示を略すポンプ等を用いた吸引で眼球を吸い付けて術眼を固定保持する。アプリケータ125は、術眼Eの角膜を圧平して固定保持すると共に、レーザ照射の位置決めをする役割を持つ。
【0025】
制御部150には、レーザ光の照射条件・レーザ光の走査条件を設定するための入力手段151、レーザ照射のトリガ信号を入力するためのフットスイッチ152、各種条件が予め記憶されているメモリ153、などが接続される。
【0026】
以上のような構成により、光源110から照射されたレーザのスポット位置でブレイクダウンが生じると、水晶体組織にスポットサイズ程度の機械的破壊(亀裂等)が起こる。また、走査部121と焦点移動部122の駆動によってレーザのスポット位置が三次元的に移動される。これにより、水晶体組織上に照射されたレーザの各スポット位置が繋げられる。これにより、予め設定されたレーザ照射のパターンに基づき、水晶体組織が三次元的に切断される。
【0027】
なお、眼科手術装置100で切除された水晶体組織は、周知の超音波手術装置の吸引装置で吸引・除去される。なお、超音波手術装置の詳細な説明は、例えば、特開平10−127682号公報を参照されたい。
【0028】
次に、以上のような構成の眼科手術装置100を用いて白内障手術を行った後、上述の有水晶体用の眼内レンズ10を水晶体内に埋植する例を説明する。図3に白内障手術の説明図を示す。なお、図3(a)は水晶体50を正面から見たときの切除予定領域を示した概略図と、この術眼の断面を示した概略図とを並べて示しており、図3(b)は図3(a)で示した切除予定領域内の水晶体が切除・除去されることによって形成された空間内に眼内レンズが設置された状態を示した模式図である。
【0029】
はじめに、術者は入力手段151の操作で手術条件を設定する。なお、手術条件としては、レーザの照射パターン(水晶体等の切断パターン)、レーザの出力値、レーザスポットのサイズ、レーザのパルス幅、照射の繰り返し周波数等がある。また、本実施形態では、図3(a)に示すように、予め既知である眼内レンズ10(光学部11)の形状(寸法)に合わせた円筒形状の切除領域Aが設定される。ここでの切除領域Aは、術眼の瞳孔pの略瞳孔中心を軸として眼内レンズ10の大きさ及び形状に合わせて設定される。更に、切除領域Aの奥行き(視軸方向の距離)は、後嚢を傷つけない距離に設定される。以上のように設定された切除領域Aに対応する水晶体組織の一部のみが除去され、赤道部周辺の水晶体が除去されないため、水晶体上皮細胞の増殖による術後の後発白内障等の発生が好適に抑えられる。また、瞳孔に対応する位置にある白濁した水晶体組織を好適に取り除くことで、眼内レンズによる患者の見え方を好適に改善できるようになる。
【0030】
術者は、患者を手術台等に寝かせ、眼球固定ユニット140で眼球を固定する。フットスイッチ152からのトリガ信号が入力されると、制御部150は、設定されたレーザ手術条件に基づきレーザ光を照射する。また、制御部150は、照射パターンに基づきレーザユニット110、走査部121及び焦点移動部122を制御する。これにより、レーザ光のスポットが、水晶体50の後面から前面に向かって移動するようにレーザ照射が制御されるとする。これにより、切除領域Aに対応する嚢(前嚢)51を含む水晶体組織の一部が切断される。なお、嚢の切除領域は後嚢側であっても良く、水晶体上皮細胞が存在する前嚢から水晶体赤道部の水晶体上皮細胞付近の皮質が一切除去されなくても良い。
【0031】
なお、本実施形態では、水晶体50のターゲット位置に微小なプラズマを照射することで、水晶体組織が機械的に切断、破砕される。その為、設定された切除領域Aに合わせて精度良く水晶体組織が切り取られる。
【0032】
次に、術者は、図示を省略する周知の超音波手術装置を用いて、眼科手術装置100で切除された切除領域A内の水晶体組織を吸引除去する。これにより、図3(b)に示されるように、切除領域Aの水晶体組織が取り除かれて、水晶体50の中心領域に空間(凹部52)が形成される。以上のように切断された水晶体組織の除去が完了したら、術者は周知の眼内レンズ挿入器具(以下、インジェクターと記す)を用いて、眼内レンズを水晶体50に形成された凹部52に取り付ける。
【0033】
図4にインジェクター1の外観斜視図を示す。インジェクター1は、眼内レンズ10を小さく折り畳むための中空状の挿入筒部2(以下、挿入部2と記す)と、挿入部2を先端側に備える中空状の筒部本体3(以下、本体3と記す)と、本体3に対して前後方向に移動可能に取り付けられ,眼内レンズ10を押し出すためのプランジャー4とから構成される。
【0034】
挿入部2は、先端5aを有する略円筒形状の挿入筒5と、眼内レンズ10をインジェクター1内に置くための開口部6と、開口部6を塞ぐための蓋部材7を備える。挿入筒5は先端5aに向けて内径が徐々に小さく(細く)なる領域を有するテーパ形状となっており、挿入筒5を通過する眼内レンズ10は内壁に沿って次第に小さく折り曲げられる。プランジャー4は、本体3から挿入部2の先端まで繋がる通路を軸方向に進退可能に挿通されるようになっている。
【0035】
以上のような構成のインジェクター1の開口部6の位置から眼内レンズ10をインジェクター1の内部(図示を略す載置面上)に置き、蓋部材7を閉じる。そして、先端5aを嚢51に形成された開口の位置から眼内へと挿入して、水晶体内に形成された凹部52の眼内レンズ1の取り付け位置に合わせる。この状態からプランジャー4を押し込むと、眼内レンズ10が先端5aに向けて押され、光学部11が挿入筒5の内壁に沿って次第に小さく折り畳まれる。眼内レンズ10が先端5aから押し出されるようになると、その復元力によって眼内(水晶体50の凹部52の取り付け位置)で元の状態に戻る。そして、必要があれば、術者による取り付け位置の微調節を行う。これにより、図3(b)に示されるように、水晶体50内の凹部52内に眼内レンズ10が取り付けられ、水晶体内で保持されるようになる。
【0036】
つまり、以上のような構成の眼科手術装置を用いて、微小なレーザスポットにて水晶体組織を切断することで、予め設定された切除領域Aの水晶体組織が正確に除去されるようになる。その為、水晶体50に眼内レンズ10の形状に対応した凹部52が形成されて、水晶体内で眼内レンズ10が好適に保持されるようになる。
【0037】
また、以上のように、嚢の組織を含む水晶体組織の一部を取り除き、水晶体内に埋植するタイプの有水晶体用の眼内レンズを取り付けることで、患者眼の見え方を好適に改善できると共に、術後に後発白内障などの疾患を発生させることなく、患者に長期間安定した見え方を提供できるようになる。
【0038】
なお、上記ではインジェクターを用いて水晶体内に眼内レンズ10を取り付けているが、ピンセットなどの把持部材にて眼内レンズを摘んだ状態で、切開創から眼内レンズ10を眼内に挿入させ、水晶体50に形成された凹部52の位置に取り付けるようにしても良い。これ以外にも周知の眼内レンズの取り付け器具を用いて、水晶体内に眼内レンズ10を取り付けることができる。
【0039】
また、上記では眼内レンズの形状に合わせた開口を形成するように嚢を切除しているが、これに限られるものでは無い。少なくとも上述のようなインジェクター又はピンセット等を用いて、折り曲げられた眼内レンズが通過可能な大きさの開口が嚢に形成されれば良い。例えば、インジェクターの先端形状、ピンセットで折り畳まれた眼内レンズの大きさに合わせた径の開口が嚢に形成されれば良い。
【0040】
さらに、上記では水晶体組織の切除領域に対応する前嚢の位置に、眼内レンズを通過させる開口を形成しているが、これに限られるものではない。例えば、術式によっては後嚢側に開口が形成されても良い。また、嚢に形成される開口の位置と水晶体内に形成される空間(眼内レンズの取り付け位置)は一致していなくても、嚢に形成された開口を通過した眼内レンズが水晶体内に形成された空間に取り付け可能な位置関係であれば良い。
【0041】
また、白内障手術治療に用いられる有水晶体用の眼内レンズは以上の構成に限られるものではない。例えば、嚢に形成された開口から水晶体内の空間内に変形可能な柔軟性を有する材料にて形成された弾性部材を入れておき、弾性部材内に所定の光学特性を得ることができる液体又はゲル状の物質を注入して充填させるようにしても良い。このようにすると、眼の動きに連動した調節力を得ることができるようになる。
【0042】
これ以外にも様々な構成の眼内レンズを使用できる。図5に本実施形態の眼内レンズの変用パターンの具体例を示す。例えば、図5(a)に示されるように、光学部の端面(前面及び後面)が所定の屈折力を有する曲面に形成された円筒形状の眼内レンズ10aを用いることができる。この場合の眼内レンズ10aの厚さd(光学部の前面と後面とを接続するコバ部の厚さd)は、水晶体核の厚さ方向の距離に合わせて形成される。そして、超音波手術装置100による白内障手術時に、切除領域Aの奥行き方向の距離を眼内レンズ10aの厚さdに合わせると共に、後嚢を傷つけない距離に設定する。以上のようにすることで、水晶体組織の一部を後嚢に比較的近い位置まで切除したとしても、眼内レンズ10aによって後嚢が抑えつけられるようになり、水晶体の一部を摘出した後の細胞の増殖を好適に抑えることができるようになる。
【0043】
また、図5(b)の眼内レンズ(正面図)に示されるように、光学部11の周縁に所定の弾性を有する柔軟な素材で構成されたリング状の保持部材12が形成されたタイプの有水晶体用の眼内レンズ10bを用いても良い。この場合、水晶体50に設定される切除領域Aを、保持部材12の取り付け位置を含む大きさに設定する。以上のような保持部材12によって、光学部11が水晶体内に形成された空間内でより好適に保持されるようになる。また、リング状の保持部材は水晶体線維細胞が水晶体中心に増殖することを抑制する役割を兼ねても良い。つまり、レンズの形状が残存した水晶体と合致することで、水晶体線維細胞が嚢内の空間に増殖することを抑制しても良い。
【0044】
また、この場合には光学部11として、上述したような弾性部材の内部に液体又はゲル状の内容物が充填された調節性のものを使用しても良い。このようにすると、眼球運動で生じた光学部(凹部52)の変形が保持部材12を介して光学部11に伝達されるようになる。そして、光学部11が水晶体の厚み変化に追従して変形されることで、患者に調節力を与えることができるようになる。
【0045】
また、図5(c)に示されるように、光学部11に支持部13を取り付けたタイプの眼内レンズ10cを水晶体内に埋植しても良い。この場合は、支持部13を含めた眼内レンズ10cの最外径を、水晶体摘出前の嚢の内径よりも小さく形成する。これにより、支持部13によって有水晶体用の眼内レンズ10cが水晶体内で好適に保持されるようになる。また、図5(d)に示すように光学中心に対して対称な支持部14を取り付けると、眼球運動に伴い、水晶体内での光学部11の位置が支持部14を介して前後方向に移動されるようになる。これにより、患者は調節力を得ることができるようになる。なお、以上のような調節性の眼内レンズの支持部は3つ以上設けられていても良い。
【0046】
なお、図1に示すようなコバ厚が薄いタイプの眼内レンズのように、凹部52の深さ方向の距離に対して眼内レンズの厚さが薄い場合は、凹部52での眼内レンズの取り付け位置を定めるための位置決め部材と組み合わせられることが好ましい。ここで、図6(a)に位置決め部材60を備える眼内レンズの例を示す。
【0047】
例えば、位置決め部材60は、凹部52の深さ方向(視軸方向)の距離に対応する長さに形成された円筒部61と、円筒部61の内側で眼内レンズのコバ(又は支持部)を保持するための溝である取付部63とを有する。白内障手術時には、位置決め部材60の形状に合わせて、嚢を含む水晶体組織の一部の除去を行う。そして、ピンセット等を用いて位置決め部材60を嚢の開口から凹部52に取り付ける。そして、インジェクターなどを用いて、取付部63に眼内レンズを取り付けるようにする。又は、予め眼内レンズを取付部63に取り付けた状態で位置決め部材60を凹部52に埋植する。
【0048】
以上のようにすることで、水晶体組織除去後の細胞の増殖を抑えつつ、眼内レンズが薄い場合であっても、水晶体内に形成された空間内の所期の位置で好適に保持できるようになる。なお、円筒部61の外壁によって凹部52の上端(水晶体上皮細胞に対応する位置)が抑えられることが好ましい。これにより、水晶体上皮細胞の増殖がより好適に抑えられる。なお、眼内レンズと嚢(ここでは後嚢)との間に形成される空間に、生体適合性を有する液体を満たすようにしても良い。
【0049】
また、上記では位置決め部材60と眼内レンズとを別部材としているが、位置決め部材60と眼内レンズとが予め一定形成されていても良い。なお、位置決め部材60と組み合わせられる眼内レンズとしては図1、図5に示されるもの以外にも各種の眼内レンズが用いられる。
【0050】
また、水晶体内での眼内レンズの取り付け位置を上記のような位置決め部材を用いて定める以外にも、眼科手術装置を用いて眼内レンズの取り付け位置を定めることができる。例えば、図6(b)に示されるように、切除領域Aにおいて、眼内レンズの取り付け位置のみを眼内レンズの径に合わせて形成し、それ以外の領域を眼内レンズの直径よりも若干狭い径に形成する。これにより、水晶体内に取り付けられた眼内レンズの前後方向に残された水晶体組織によって、眼内レンズが好適に保持されるようになる。このようにすると、トーリックタイプの光学部を有する眼内レンズが使用される場合であっても、眼内レンズが水晶体内の取り付け位置で回転されることなく、安定して保持されるようになる。
【0051】
なお、ここでは水晶体組織によって光学部が直接保持される例が示されている。これ以外にも、図5(b)〜(d)に示すように、光学部に保持部材又は支持部が形成されている場合には、眼科手術装置による手術によって、保持部材又は支持部の取り付け位置が定められるようにしても良い。これにより、保持部材又は支持部によって光学部が水晶体内に形成された空間内の所定位置で好適に保持されるようになる。
【0052】
更には、眼科手術装置100を用いた手術によって、調節性の眼内レンズをより好適に用いることができる。例えば、図7に示されるように、切除領域Aの周囲に複数の放射状の切れ込みBを形成し、眼内に残された水晶体組織と眼内レンズとの接触領域に柔軟性を付与する。これにより、眼球運動によって加えられる調節力が、凹部52に取り付けられた調節性の有水晶体用の眼内レンズに好適に伝達されるようになる。
【0053】
また、眼科手術装置100によって水晶体の核及び皮質等に様々な形状の切れ込みを入れることによって、残された水晶体に柔軟性を持たせ、調節力を高めることができるようになる。また、上述したように後発白内障の発生が抑えられることも伴って、調節性の眼内レンズの効果が長期間持続されるようになる。
【0054】
以上のように、眼科手術装置100による手術方法を利用することで、眼内レンズをより好適に水晶体内で保持させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】眼内レンズの構成の説明図である。
【図2】眼科手術装置の概略説明図(ブロック図)である。
【図3】有水晶体用の眼内レンズを取り付けるための白内障手術の説明図である。
【図4】インジェクターの外観斜視図である。
【図5】有水晶体用の眼内レンズの変用例である。
【図6】有水晶体用の眼内レンズの取り付け方法の変用例である。
【図7】超音波手術装置による有水晶体用の眼内レンズの手術方法の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
10a、10b、10c、10d 有水晶体用の眼内レンズ
60 位置決め部材
100 眼科手術装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人眼の網膜に光を集光させるための所定の屈折力を有する光学部を備え、人眼の水晶体の一部を除去することにより形成された空間内に埋植される有水晶体用の眼内レンズであって、
該眼内レンズの最外径が前記水晶体を保持する前記人眼の嚢の内径よりも小さいことを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、
前記光学部の径は人眼の縮瞳した瞳孔径よりも大きな径であることを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、
前記眼内レンズは、前記水晶体の一部を除去するために前記嚢の一部に形成された開口から前記空間内に注入又は挿入されることで取り付けられることを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。
【請求項4】
請求項3に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、
前記眼内レンズの光学部は、折り曲げ可能な軟性の材料にて形成されていることを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。
【請求項5】
請求項4に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、
前記眼内レンズの光学部の周縁には、前記水晶体に形成された空間での取り付け位置を定めるための位置決め部材を有することを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の有水晶体用の眼内レンズにおいて、
前記眼内レンズの最外径は10mm以下であることを特徴とする有水晶体用の眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−27673(P2013−27673A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167627(P2011−167627)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】