説明

木材をアセチル化する方法およびその産物

木材を圧力下にアセチル化液中に浸漬し、次に木材を制御された条件下に加熱して2通りの別個の発熱反応を開始させることを含む、木材をアセチル化する方法。該方法は、自然耐久性4級または5級を有する大量の商業的サイズの木材を耐久性1級または2級の無類の製品に同時に品質向上させることを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材成分の改質に関し、特に、耐久性、寸法安定性、紫外線に対する安定性および熱伝導性などの望ましい特性を改善するために、アセチル化によって非耐久性の固形の木材種を改質することに関する。一般的には、非耐久性の木材種は、針葉樹由来の軟木、ならびにBRE耐久性4級および5級に記載されているような非耐久性の堅木であると一般に考えられている(以下を参照されたい)。
【背景技術】
【0002】
固形の軟木、固形で非耐久性の堅木および木材薄板(以下、まとめて木材と称する)をアセチル化する利点は、実験室規模で広く研究されており、学術的および商業的刊行物に記載されている。広義には、木材アセチル化により、木材成分中のヒドロキシ基がアセチル基へ変換される。したがって、この化学的改質は、親水性のヒドロキシル基を疎水性のアセチル基に変換する効果を有する。
【0003】
従来技術文献の大部分では、主として実験室での研究のために木材小片の耐久性および寸法安定性の改善に集中しており、商業的意義は低い。耐久性とは本質的に、カビにより惹起されるものなど、自然の腐朽過程に対する木材の耐性であり、一方、寸法安定性は、木材が水または水分により濡らされ、続いて乾燥されるサイクルを経たときの、膨潤および収縮の減少(reduction)として記述することができる。
【0004】
初期の木材アセチル化の研究(非特許文献1)において、ポンデローサマツ、サトウカエデおよびホワイトオークへの浸透を促進するために、無水酢酸をキシレンおよびトルエンなどの希釈剤中に溶解していた。耐久性および寸法安定性の観点から木目浸透(cross−grain penetration)が欠かせない、商業的に使用されるサイズの木材に対してこの技法が適用かのうかどうかについては検討されていない。また、副生物の水流は、分離するのが困難な無水酢酸、酢酸およびキシレンのブレンド混合物である。
【0005】
特許文献1に記載された方法は主として、木材の繊維およびチップのアセチル化を対象としているが、商業的サイズの木材を対象としていない。固形木材について示された例は、実験室規模における非常に小さい片に対する方法の適用だけである。
【0006】
特許文献2では、商業的サイズの固形木材のアセチル化を試みているが、それを行う際には、木材中で発生する反応熱の効果的な制御をせずに、無水酢酸による含浸に依存している。それ故、木材中の温度は、内部亀裂およびタール化を惹起し得るレベルに上昇し、アセチル化された木材の強度を著しく低下させ得る。特許文献2は、アセチル化された木材をスチームで後処理する特徴的なステップにも依存する。本出願人は、これは残留酢酸を除去するのに非常に非効率的であることを見出した。
【0007】
特許文献3は、オーブンで乾燥した木材(これは木材が微量の水分も殆ど含まないことを意味する)のアセチル化に殆ど専ら関係している。この方法は報告された実験で使用された短い木材には適用可能かもしれないが、商業的長さ(例えば2〜4メートル)での強度の乾燥により損傷が生ずることを主な理由として、オーブン乾燥された木材というものは商業界では基本的に知られていない。通常12〜20%の水分を含む商業的サイズの木材に過熱アセチル化液を適用すると、アセチル化液の高温をさらに上昇させる急速な熱の発生が惹起され、木材内部の全体的温度が、木材の内部構造の亀裂およびタール化を惹起し得るレベルに押し上げられる。
【0008】
先行技術に特有の欠点として一般的に、いわゆる「エンベロープ処理」があるが、これは、非特許文献2に例示されている。エンベロープ処理は、木材の表面付近のアセチル化であり、内部の木材は効果的でないレベルのアセチル化で残されるか、または全くアセチル化されない。木材のアセチル化の深さが効果的でないと、アセチル化された木片が鉋掛けされたとき、切り抜かれたとき、または横に切られたときに水分に直接曝され得る。アセチル化された木材では、水分が断面全体中に透過して出入りすることが可能になる。適切にアセチル化された部分では、水分は、保護された細胞壁に遭遇するので、カビの成長を助長するのに利用され得ない。アセチル化が不十分なまたはアセチル化されていない部分では、水分は、細胞壁に付着して、そこで木材を腐朽させるカビを助ける。そのような部分に達する水分により最終的には、木材が内部から外部に向かって腐朽してしまう。
【0009】
他の通常の木材防腐処理には、クロム化ヒ酸銅(CCA)、第四級銅塩、ペンタクロロフェノール、およびクレオソートの使用が含まれるが、アセチル化とは異なって、これらの処理は周囲温度で実施され、発熱反応を伴わない。
【0010】
木材アセチル化に関する出版物は、一般に、得られた木材の基礎化学および性質を扱っている。これらの出版物では、反応器中の全木片において、木片全体にわたって、全木片について一様なアセチル化を得るために、如何にして木材アセチル化反応において体積効率を達成するか、熱の粗雑な適用以外に如何にして反応を開始させるか、発熱反応により発生した熱を如何にして放散させるかについては殆ど指針が提供されず、また、反応器中に積み重ねられた多数の木材片周囲の温度の変化を如何にしてプロファイルするかについての指針は提供されていない。
【0011】
文献および以前の特許文書に現れる業績の多くは、実験室で調製された小さな木材試料の耐久性および寸法安定性に関するにすぎない。これらの研究は、建設産業および商業において通常使用されるようなより大きい木材サイズがアセチル化されるときの、望ましい特性の組込みまたは達成については基本的に触れてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許第213252号
【特許文献2】欧州特許第680810号
【特許文献3】国際特許公開WO2005/077626
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Forest Products Journal,Feb 1964,page 6,Goldstein,Dreher and Cramer
【非特許文献2】文書No AC297「アセチル化された木材防腐剤系のための許容基準(Acceptance Criteria for Acetylated Wood Preservative Systems)」(ICC Evaluation Servicesにより2005年3月1日に発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、木目に対して垂直になされた浸透のみを利用する、無水酢酸による商業的サイズの木材片への均一な浸透および反応熱の管理が解決されるべき技術的問題である。木材内、特に芯における熱の管理に失敗すると、最小でも、アセチル化された木材の強度低下または部分的アセチル化が結果として生じるであろう。最悪の場合、放出されなかった反応熱に起因する木材の完全なタール化が結果として生じるであろう。熱管理は、各木材片の断面全体に均一に適用されなければならないだけでなく、各片の全長に均一に、かつ反応器中の各片に平等に適用されなければならない。
【0015】
木材の耐久性は、細胞壁をカビの成長から保護することにより達成され、それには、ヒドロキシル基のアセチル基への変換が必要である。これは、木材片全体にわたって一様な様式で行わなければならない。
【0016】
寸法安定性は、キルンで乾燥された木材を、細胞壁の弾性限界を超えることなく膨潤させて、その未乾燥の体積に戻すことにより達成される。やはり、これも、木材片全体にわたって一様に行わなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このように、本発明は、
(a)圧力反応容器中で、含水率が6重量%〜20重量%の木材をアセチル化液中に10℃〜120℃の温度で浸漬するステップ、
(b)上記容器中の圧力を10〜300分の間、2〜20バールに上昇させるステップ、
(c)過剰のアセチル化液を上記容器から除去するステップ、
(d)上記容器中に不活性流体を導入して、木材の内部温度が発熱(exotherm)を示し始めるまで該流体を循環および加熱し、発熱が完了するまで木材への熱の供給を制御して、木材の内部温度を170℃未満に保つステップ、
(e)上記循環流体を85℃〜150℃の温度に10〜30分の間加熱して2度目の発熱反応を開始させ、発熱が完了するまで木材への熱の供給を制御して、木材の内部温度を170℃未満に保つステップ、
(f)上記循環流体を除去して、アセチル化された木材を周囲温度まで冷ますステップ
を含む、木材をアセチル化する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(a)において、木材の含水率は、好ましくは12重量%未満であり、望ましくは8重量%未満である。アセチル化液は、60体積%〜95体積%の無水酢酸および5体積%〜40体積%の酢酸を含んでいてよい。上記アセチル化液は80体積%〜92体積%の無水酢酸および8体積%〜20体積%の酢酸を含むことが好ましい。上記アセチル化液の温度は35℃〜55℃であることが望ましい。
【0019】
(b)において、容器中の圧力は、処理されるべき木材の浸透性および寸法に応じて、30〜90分間、10〜15バールに上げられることが好ましい。窒素を用いる加圧が好ましいが、二酸化炭素などの他の不活性ガスを使用してもよい。
【0020】
(c)において、過剰という語は、木材に含浸しなかったアセチル化液を意味する。このアセチル化液は、容器内に存在する圧力、例えば窒素ガスを使用して該液を貯蔵容器中に押し込むことにより、または容器中の窒素の圧力を保ちつつ該液をポンプで出すことにより、圧力容器から除去することができる。
【0021】
(d)において、不活性流体(すなわち、無水酢酸または酢酸と反応しない流体)は、典型的には、20℃〜120℃の温度に加熱されたガス状窒素、ガス状二酸化炭素または燃焼ガス(flue gas)である。発熱の開始、持続および完了は、木材中に置かれた熱電対により検知されかつ監視される。幾つかの例において、ガス状流体、例えば窒素は、不活性でない無水酢酸および/または酢酸で部分的にまたは完全に飽和されていてよい。これは、20%から完全飽和(100%)の範囲にすることができる。
【0022】
(d)および(e)においては、循環流体を冷却して、木材の(熱電対により検知される)内部温度が170℃を超えること、好ましくは155℃を超えないことを避けることが必要であり得る。
【0023】
(e)において、循環流体の好ましい温度は100℃〜135℃であり、好ましい時間は10〜15分である。
【0024】
アセチル化された木材の冷却中に、残留無水酢酸および酢酸副生成物を、例えば真空下での蒸発により除去することができる。
【0025】
幾つかの方法の状況においては、「乾燥した」木材をアセチル化液に浸す前に、まず木材を圧力容器中に導入して、その中の圧力を、木材の浸透性に応じて、例えば、0.05〜0.5バールに10〜300分間、好ましくは30〜120分の間下げることにより、アセチル化されるべき木材の含水率を減少させることが好ましい。真空は、アセチル化液を反応容器に入れることにより解除するのが便利である。
【0026】
本発明は、商業的サイズの木材片のアセチル化により、均一かつ予測可能な特性を有するアセチル化された木材を生ずることにおいて特に価値がある。本発明は、幅が2cm〜30cm、厚さが2cm〜16cm、および長さが1.5メートル〜6.0メートルであり、その幾何学的中心においてアセチルが少なくとも14重量%になるまでアセチル化されるべき木材片に特に適用可能である。上記木材片は、幅が2cm〜10cm、厚さが2cm〜10cm、および長さが1.5メートル〜4.0メートルであることが好ましい。
【0027】
本発明のアセチル化された木材の重要な特徴は、その最初の強度および外観の全てが基本的に保持されるということである。先行技術に記載された木材アセチル化方法では、通常、処理された木材は暗色化したまたは変色した表面を有し、製品の美的外観が著しく損ねられる。本発明においてはそのような結果が起こることは稀であり、たとえ起こったとしても、平削り、サンディングまたはならい削り(profiling)により容易に除去することができる。認められている他の利点としては、優れた湿潤剛性、寸法安定性および機械的作業性がある。
【0028】
アセチル化されるべき木材が、高い含水率、低い浸透性、または高密度を有する場合には、所望のアセチルレベルを達成するために、アセチル化液による2度目の含浸、それに続く2度目のアセチル化が必要になり得る(ステップ(a)〜(f)、原文4頁)。このような場合、無水酢酸および酢酸で未だ部分的に濡れている、本発明による部分的にアセチル化された木材が、予想より多くのアセチル化液を取り込むことが見出されており、それは、浸透を促進するか、または担体流体として作用する炭化水素希釈剤の作用なしで可能である。
【0029】
本発明により、無類の(すなわち、これまで知られておらず、または達成し得なかった)湿潤剛性(弾性係数)および湿潤強度(破壊係数(modular of rupture))を有するアセチル化木材も提供される。ニュージーランドマツ(radiata pine)の場合、アセチル化されていない試料は、およそ10540N/mmの乾燥剛性および6760N/mmオーダーの湿潤剛性を有し、すなわち乾燥剛性から36%の減少があることが見出された。それに対して、アセチル化後の同じマツでは、剛性については10602N/mmおよび9690N/mmという結果が対応し、剛性の減少は10%未満、すなわち8.6%であった(参考文献 BSEN408:2006−British Standards Institute−BSI)。また、アセチル化された木材は、アセチル化されていない木材と比較して、半径方向および接線方向の収縮に関して顕著に改善された寸法安定性を有することもできる(木材の半径方向および接線方向の収縮の測定法は、文書にて十分説明されている)。以下の表1を参照されたい。表では、アセチル化された試料の収縮は非常に小さいものである。
【0030】
【表1】

【0031】
アセチル化された木材片は、開始時の幅が2cm〜30cm、厚さが2cm〜16cm、および長さが1.5メートル〜6.0メートルであることが好ましい。木材片は、開始時の幅が2cm〜10cm、厚さが2cm〜10cm、および長さが1.5メートル〜4.0メートルであることが望ましい。
【0032】
また本発明は、自然耐久性4級または5級を有する商業的サイズの大量の木材を耐久性1級または2級に同時に品質向上させる無類の展望も提供する。英国Garstonのthe Building Research Establishment Ltdにより考案され、BRE Digest 296,1985により刊行された(1998年にDigest 429により更新)、広く認められている「5段階」木材種耐久性格付けを参照のこと。すなわち、
1級は、「高耐久性」と称され、すなわち、25年以上大地に接しても強度または質量の減少が微少である。例:チーク、ニセアカシア。
2級は、「耐久性」と称され、すなわち、15年を超えるが25年未満大地に接しても強度または質量の減少が微少である。例:アメリカンホワイトオーク、ベイスギ。
3級は「中程度に耐久性」と称され、すなわち、10年を超えるが15年未満大地に接しても強度または質量の減少が微少である。例:ヨーロッパカラマツ、サペリ。
4級は「非耐久性」と称され、すなわち、強度または質量の減少が微少であるのは大地に接して5年を超えるが10年未満である。例:ニュージーランドマツ、イエローパイン、ベイマツ。
5級は「腐敗しやすい」と称され、すなわち、強度または質量の減少が微少であるのは大地に接して最大で5年である。例:ポプラ、ヨーロッパブナ。
【0033】
農場栽培された軟質木材の耐久性を改善することにより、本発明のアセチル化木材を、熱帯林の木材、ならびにヒ素、銅、クロムおよびペンタクロロフェノールなどの毒性化学物質で処理された木材の代替とすることができる。商業的利点に加えて、環境に対する利益、すなわち、天然の熱帯性硬質木材の使用の削減、および毒性化学物質を使用する処理の回避、があるのは自明である。
【0034】
本発明の大きな利点は、アセチル化反応で使用されるのと同じ循環不活性流体を使用してアセチル化木材を乾燥することである。上記流体は(ガス状のとき)、酢酸副生成物と残留無水酢酸との混合物が除去される凝縮器を通過させられる。
【0035】
本発明のもう一つの利点は、循環不活性流体から凝縮した液体混合物は水、高沸点木材抽出物および残渣を含まず、したがって費用のかかる回収工程の必要が避けられることである。
【0036】
回収された液体混合物をリサイクルするために、少なくとも2つの選択肢が利用可能である。1つは、液体をフラッシュ蒸留して酸無水物から酢酸を粗分離することである。次に、回収された酢酸はケテン分解装置に供給し、回収された無水酢酸は木材アセチル化工程へ再循環させることができる。
【0037】
第2の選択肢は、回収された液体から酢酸を蒸留して、それを工業銘柄の酸として販売することである。そして、凝縮物中に捕集された未使用の無水酢酸は、木材アセチル化工程へ戻される。
【0038】
本発明では、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用して、アセチル基のケン化から生ずる酢酸イオンの濃度を定量する。これは、通常使用される重量増によるものよりも、アセチル含有率を直接測定することができる。さらに、これは、アセチル化された各木材片の小面積に適用することができる。それに加えて、較正されたフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)および近赤外分光光度計(FTNIR)を、厚さ2mmおよび面積4mm×2mmの木材切片のアセチル含有率を測定するために使用することができる。これにより、微少サイズの箇所のアセチル化の確認が可能になり、かつ個々の木材片を横切るアセチル化の勾配を調べることが可能になる。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は、本発明を例示することのみが意図されている。これらは、少しでも本発明を限定するものと受け取られるべきではない。
【0040】
実施例1
水分11%の約0.4Mの粗く鋸引きされた複数のチリ産ニュージーランドマツ板を、15mmの支え棒(sticker)で垂直および水平に分離した。板は、長さが3.9メートル、厚さが55mm、幅が130mmであり、少しの心材と大半を占める辺材とで構成されていた。木材を、2.5立方メートルの液体の入る圧力反応容器中に充填した。この容器はガス循環ループを備えていた。
【0041】
所望により、板を真空にさらした。本実施例において、真空は0.1〜0.2絶対バールであり、30分間適用した。アセチル化液(90%無水酢酸および10%酢酸、周囲温度)を使用して、真空を解除し、各板を浸漬した。窒素を使用して圧力を10絶対バールに上げ、90分間保った。遊離液体を排出すると木材1キログラム当たり1.5〜1.7キログラムの液体を含有する飽和した板が残った。
【0042】
無水酢酸で飽和した窒素ガスを、アセチル化反応のための加熱媒体として使用した。ガスを無水酢酸で飽和する目的は、アセチル化前および最中に木材表面におけるアセチル化液の蒸発を回避することである。上記循環ループは、4立方メートルの体積を有し、それは、反応器の体積と合わされたとき0.4Mの木材に対しておよそ6立方メートルのガスを提供した。アセチル化サイクルの間、ガス循環ループ中の圧力は、1.1〜1.9絶対バールの間で変化した。
【0043】
循環ガスの温度がおよそ60℃に達すると、無水酢酸と木材中の水分との間の反応および木材のアセチル化が開始した。これは、数枚の板の中に挿入された熱電対により測定される温度の増大する急速な上昇によって証明された。この反応により発生する熱に加えて循環窒素による若干の加熱により木材内部の温度が130℃〜140℃に上昇し、木材のヒドロキシル基と無水酢酸との間の反応が始まった。
【0044】
およそ90分のアセチル化段階中、循環ガスの圧力および温度を制御するために、若干の酢酸−無水酢酸の蒸気を凝縮させることが必要であった。回収された液体は、およそ5%の無水酢酸と95%の酢酸との組成を有した。
【0045】
アセチル化段階の終わりに、より多くの未使用の無水酢酸および副生酢酸が循環ガスから凝縮した。温度を徐々に約130℃に上昇させた。これらの作用が組み合わされて揮発性物質を板の表面に押しやり、それらをガス流中に蒸発させた。回収された液体は全く水を含まず、3%〜4%の無水酢酸と96%〜97%の酢酸とからなっていた。
【0046】
最後に、板を、木材1キログラム当たり約15グラム〜30グラムの酢酸を含有する点まで乾燥した。如何なる表面の欠陥も、平削り、サンディングまたはならい削りにより除去した。
【0047】
系には水が加えられなかったので、未使用の無水酢酸は回収可能であった。
【0048】
アセチル化された板は、表面において20〜21%および芯において18〜20%のアセチル含有率を有することが見出された。
【0049】
実施例2
およそ0.4Mの粗く鋸引きされた12%の水分を含有する複数の南部イエローパインの板を、15mmの支え棒により垂直および水平に分離した。板は、長さ3.9メートル、厚さ40mm、幅140mmであり、少しの心材と辺材とで構成されていた。木材を、2.5Mの液体が入る圧力反応容器中に充填した。この反応容器はガス循環ループを備えていた。
【0050】
所望により、板を真空にさらした。本実施例において、真空は0.1〜0.2絶対バールであり、30分間適用した。アセチル化液(92%無水酢酸および8%酢酸、周囲温度)を使用して、真空を解除し、各板を浸漬した。窒素を使用して圧力を10絶対バールに上げ、60分間保った。遊離液体を排出すると木材1キログラム当たり1.0〜1.2キログラムの液体を含有する飽和した板が残った。
【0051】
無水酢酸蒸気で飽和した窒素ガスを、アセチル化反応のための加熱媒体として使用した。ガスを無水酢酸で飽和する目的は、アセチル化前およびその最中に木材表面におけるアセチル化液の蒸発を回避することである。上記循環ループは、4Mの体積を有し、それは、反応器の体積と合わされたとき0.4Mの木材に対しておよそ6Mのガスを提供した。アセチル化サイクルの間、ガス循環ループ中の圧力は、1.1〜1.9絶対バールの間で変化した。
【0052】
循環ガスの温度がおよそ80℃に達すると、無水酢酸と木材中の水分との間の反応が開始した。これは、数枚の板の中に挿入された熱電対により測定される温度の増大する急速な上昇によって証明された。木材アセチル化による2度目の発熱はおよそ120℃で開始した。この第1の木材アセチル化段階の間、およそ60分、循環ガスのガス圧および温度を制御するために、若干の酢酸および無水酢酸の蒸気を凝縮させることが必要であった。回収された液体は、およそ10%の無水酢酸と90%の酢酸の組成を有した。
【0053】
第1のアセチル化段階の終わりに、若干の未使用の無水酢酸および酢酸副生成物が循環ガスから凝縮した。反応器に真空を適用して、木材から使用したアセチル化液を除去した。この液を反応器から汲み出して、真空を再度適用した。
【0054】
新しく投入したアセチル化液を使用して、真空を解除し、各板を浸漬して、木材に2度目の含浸を行った。組成は91重量%が無水酢酸であり、残余は酢酸であった。窒素の圧力をおよそ10絶対バールにして適用した。60分の間加圧した後、過剰の流体をポンプで反応器から出して、約1絶対バールの圧力で、無水酢酸で飽和した窒素を循環させ始めた。飽和した窒素の温度を、約90℃に上昇した。
【0055】
循環ガス中の圧力の上昇および数枚の板の芯において熱電対により測定された温度の上昇により立証されたように、2度目の木材アセチル化が進行させた後は、循環ガスに熱を追加することはなかった。圧力が1.5〜1.8絶対バールに上昇すると、流体が循環ガスから凝縮して圧力が低下し、かつ/または温度が低下した。凝縮した流体の組成は、30%〜40%が無水酢酸であり、残余は酢酸であった。
【0056】
およそ60分の第2の木材アセチル化段階の後、循環ガスの温度を徐々に130℃に上昇し、循環ガスの副流から液体が凝縮した。
【0057】
これらの作用が組み合わされて揮発性物質を板の表面に押しやり、それらをガス流中に蒸発させた。
【0058】
板のアセチル含有率は、表面での20〜22%から芯での約15〜17%へと変化するものに形成された。
【0059】
さらなる5つの実施例を以下の表に詳細に示す。
【0060】
【表2】


【0061】
0.4Mの木材を使用する2つの実施例および37〜40Mの木材を使用する5つの実施例において、BSEN350−1:1994(BSI)にしたがって測定された耐久性1級を有するアセチル化された木材が得られた。
【0062】
7つの実施例の各々において、試料をオーブン乾燥と90%の湿度との間を循環させたとき、アセチル化された木材は、耐収縮効率により測定された寸法安定性が少なくとも70%の改善を示した。
【0063】
7つの実施例の各々において、アセチル化された木材のUV安定性は、BSEN 927−3:2000(BSI)に記載された16週の加速実験室試験またはBSEN 927−6(BSI)に記載された1年屋外曝露試験において、測定可能な低下を示さなかった。
【0064】
7つの実施例の各々において、アセチル化された木材の熱伝導度は、木目に並行または木目に垂直のいずれかで測定されたとき約40%減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)圧力反応容器中で、含水率が6重量%〜20重量%の木材をアセチル化液中に10℃〜120℃の温度で浸漬するステップ、
(b)前記容器中の圧力を10〜300分の間、2〜20バールに上昇させるステップ、
(c)過剰のアセチル化液を前記容器から除去するステップ、
(d)前記容器中に不活性流体を導入して、前記木材の内部温度が発熱を示し始めるまで該流体を循環および加熱し、発熱が完了するまで前記木材への熱の供給を制御して、前記木材の内部温度を170℃未満に保つステップ、
(e)前記循環流体を85℃〜150℃の温度に10〜30分の間加熱して2度目の発熱反応を開始させ、発熱が完了するまで前記木材への熱の供給を制御して、前記木材の内部温度を170℃未満に保つステップ、
(f)前記循環流体を除去して、アセチル化された木材を周囲温度まで冷ますステップ
を含む、木材をアセチル化する方法。
【請求項2】
前記木材の含水率が12重量%未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記木材の含水率が8重量%未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アセチル化液が、60体積%〜95体積%の無水酢酸および5体積%〜40体積%の酢酸を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アセチル化液が、80体積%〜92体積%の無水酢酸および8〜20体積%の酢酸を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アセチル化液が35℃〜55℃の温度で導入される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応容器中の圧力が、30分〜90分の間、10〜15バールである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記過剰のアセチル化液が、窒素ガスを用いて加圧することにより圧力容器から除去される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記過剰のアセチル化液が、前記容器中の窒素ガスの圧力を保ちつつ、前記圧力容器からポンプにより除去される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(d)における前記不活性流体が、ガス状窒素、ガス状二酸化炭素または燃焼ガスから選択される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記不活性ガスが20℃〜120℃の温度に加熱される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記発熱が前記木材中に置かれた熱電対により検知されかつ監視される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記循環不活性流体を冷却して、前記木材の内部温度が170℃を越えることを回避する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記循環不活性ガスを冷却して、前記木材の内部温度が155℃を越えることを回避する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ガス状窒素が、不活性でない無水酢酸および/または酢酸で部分的にまたは完全に飽和されている、請求項10〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記飽和が20%〜100%である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アセチル化された木材の冷却中に、残留無水酢酸および酢酸副生成物が真空下に蒸発により除去される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記木材の含水率が、アセチル化液中に浸漬される前に減少される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記木材を10〜300分間、0.05〜0.5バールの圧力にさらすことにより、木材の含水率が減少される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記時間が30〜120分である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記木材が、その幾何学的中心においてアセチルが少なくとも14重量%になるまでアセチル化される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
アセチル化液による2度目の含浸に続いて2度目のアセチル化がある、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
幅が2cm〜30cm、厚さが2cm〜16cm、および長さが1.5メートル〜6.0メートルである木材片をアセチル化する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記木材片は、幅が2cm〜10cm、厚さが2cm〜10cm、および長さが1.5メートル〜4.0メートルである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アセチル化された木材が、循環不活性流体(ガス状のとき)を使用して乾燥される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
a)0.27〜0.64の半径方向の収縮比R/R(Rはアセチル化後の半径方向の収縮であり、Rはアセチル化前の収縮である)、および
b)0.26〜0.48の接線方向の収縮比T/T(Tはアセチル化後の接線方向の収縮であり、およびTはアセチル化後の収縮である)
を有するアセチル化された木材。
【請求項27】
前記比R/Rが0.30〜0.58であり、かつ前記比T/Tが0.29〜0.44である、請求項26に記載のアセチル化された木材。
【請求項28】
湿潤後の乾燥剛性の減少が10%未満である、アセチル化された木材。
【請求項29】
前記乾燥剛性の減少が8.6%以上である、請求項28に記載のアセチル化された木材。
【請求項30】
幅が2cm〜30cm、厚さが2cm〜16cm、および長さが1.5メートル〜6.0メートルである、請求項26〜29のいずれか1項に記載のアセチル化された木材片。
【請求項31】
幅が2cm〜10cm、厚さが2cm〜10cm、および長さが1.5メートル〜4.0メートルである、請求項30に記載のアセチル化された木材片。
【請求項32】
幾何学的中心において14重量%〜22重量%までアセチル化された、請求項26から31のいずれか1項に記載のアセチル化された木材。

【公表番号】特表2011−510842(P2011−510842A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544779(P2010−544779)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【国際出願番号】PCT/GB2009/000268
【国際公開番号】WO2009/095687
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(508229035)タイタン ウッド リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Titan Wood Limited
【住所又は居所原語表記】Kensington Centre, 66 Hammersmith Road, London, SW14 8UD, United Kingdom
【Fターム(参考)】