説明

木材用塗料組成物

【課題】溶剤が油性である油性木材保護塗料において、揮発時に刺激臭〜悪臭の発生する芳香族系溶剤等が用いられている場合であっても、溶剤置換の手間を必要とせずに、その刺激臭〜悪臭がしない状態となり、かつ、さわやかな香気が感じられる木材用塗料組成物を提供し、塗装環境を改善する。
【解決手段】合成樹脂、添加剤を配合し、トルエン、キシレン等の刺激臭〜悪臭のある溶剤成分を含有する油性溶剤を用いた木材用塗料組成物において、溶剤成分としてリモネンが該組成物の全重量中5重量%以上(好ましくは5〜30重量%)配合されてなる木材用塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、木材保護塗料に関し、特に、木材の防腐、防カビ等のために用いられる油性溶剤の木材保護塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材保護塗料は、住宅、建築物および家具などに木目や木肌を活かした半透明の着色と防腐および防カビを目的とした塗装に広く一般に使用されている。その木材保護塗料は溶剤が水性又は油性である2種類の商品が、ホームセンターなどで販売されている。
【0003】
溶剤が水性の木材保護塗料は、消防法上の非危険物に該当するので安全性は高く、成分として、石油系の溶剤を含有しないので刺激臭〜悪臭はしないという利点がある。しかし、水性のためカビが生え易い、顔料の沈殿防止に使用する増粘剤の影響で木材の内部への浸透性が悪い、また、冬場など気温が低い時に造膜し難い、さらには、塗装後に短時間で降雨があった場合には塗膜が流れるといった性能面での問題がある。
【0004】
逆に、溶剤が油性の木材保護塗料は、性能面での問題はなく非常に塗り易く木材保護塗料の主流にはなっている。しかし、木材保護塗料の油性溶剤は、一般に、芳香族系、脂肪族系およびナフテン系溶剤を含む石油系溶剤であって、トルエン、キシレンなどの刺激臭〜悪臭のある芳香族系溶剤等を含有していることから、塗装時や塗装後に石油系溶剤等が揮発した時に刺激臭〜悪臭が漂うため、塗装時にマスクが必要になったり、ご近所にも迷惑になることが懸念され、塗装環境への悪影響が問題視されている。
【0005】
一方、刺激臭〜悪臭のあるキシレン、トルエン等の芳香族系塗料溶剤に代わる溶剤として植物系溶剤(リモネン等)の30〜70重量%を用いた溶剤型塗料組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この場合、植物性溶剤(リモネン等)と共に使用される溶剤は低臭の脂肪族系溶剤及び又はアルコール系溶剤に限定され(例えば、特許文献1の段落0006参照)、刺激臭〜悪臭のある芳香族系溶剤等を含まないことを前提にしている。
【0006】
しかるに、油性の木材保護塗料は、キシレンやトルエンといった刺激臭〜悪臭のある芳香族系溶剤等が一般的に使用されているため、該芳香族系溶剤等に代えて植物系溶剤を使用するにしても、芳香族系溶剤等の植物系溶剤への溶剤置換に多大の手間とコストを必要とする。事実、前記公知の溶剤型樹脂塗料組成物の場合、市販のアルキド樹脂塗料の減圧蒸留と減圧蒸留後のリモネン添加を合計5度繰り返して、塗料中の溶剤成分をリモネンに置換している(例えば、特許文献1実施例参照)。
【特許文献1】特開2004−26892号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、溶剤が油性である油性木材保護塗料において、揮発時に刺激臭〜悪臭を発生する芳香族系溶剤等が用いられている場合であっても、前記溶剤置換の手間を必要とせずに、その刺激臭〜悪臭がしないか、殆どしない状態となり、かつ、さわやかな香気が感じられる木材用塗料組成物を提供し、塗装環境を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、一般的に、塗料用の溶剤としては用いられていない植物系溶剤のリモネンに着目し、このリモネンの影響を、溶剤が油性であるアクリル樹脂塗料等の油性木材保護塗料を用い、鋭意研究を重ねた結果、意外にも油性溶剤を置換することなく、単に油性溶剤にリモネンを所定量添加して用いただけで、芳香族系を含む油性溶剤が揮発した時の刺激臭〜悪臭がしないか、殆どせず、さらにはさわやかな香気が感じられる塗料組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明のうち第1の発明は、合成樹脂、添加剤を配合し、トルエン、キシレン等の刺激臭〜悪臭のある溶剤成分を含有する油性溶剤を用いた木材用塗料組成物において、溶剤成分としてリモネンが該組成物の全重量中5重量%以上配合されていることを特徴とする木材用塗料組成物である。刺激臭〜悪臭のある溶剤成分としては一般に、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤が例示されるが、他の溶剤であってもよい。なお、ここで、「刺激臭〜悪臭のある」とは、刺激臭及び/又は悪臭が感じられるの意味である(以下、同じ。)。
【0010】
溶剤成分は、塗膜形成成分である合成樹脂の溶解、希釈に用い、木材保護塗料を薄く塗装するのに不可欠なものであるが、本発明の木材用塗料組成物においては、通常の油性溶剤の他にリモネンが該組成物の全重量中5重量%以上配合されている。
【0011】
ここでリモネンとしては、天然には、ミカン油、オレンジ油などの柑橘類全般に含まれるd体のリモネン、ハッカ油などに含まれるl体、橙花油、杉油などに含まれるd/l体のジペンテンの3種類が存在するが、いずれも使用できる。また、合成品を用いてもよいのはもちろんである。
【0012】
リモネンの市販品としては、日米礦油(株)製の「商品名NK−1100」、日本テルペン化学(株)製の「商品名D−リモネン」、ヤスハラケミカル(株)製の「商品名D−リモネン」、また、ジペンテンの市販品としては、日本テルペン化学(株)製の「商品名ジペンテンT」が挙げられる。これらの構造は、スチレンモノマーに似ているのでスチロール樹脂を溶解する性質があるが、特に、柑橘類から採取されるリモネンは、発泡スチロールの減容に安全な溶剤として使用されている実績があり、かつ柑橘系のさわやかな香気を有しているので、本発明において好適に使用できる。
【0013】
本発明において、リモネンの好ましい配合割合は、木材保護塗料組成物の全重量中、5〜30重量%であり(第2発明)、より好ましくは、10〜20重量%とするのが良い。5重量%未満では前期油性溶剤の揮発による刺激臭〜悪臭を少なくする効果が得られず、30重量%を超えると柑橘系等の香気が強くなりすぎると感じられる場合もあり、また、コストが高くなりすぎるからである。
【0014】
リモネン以外の溶剤成分としては、アルキド樹脂塗料等の油性木材保護塗料に一般に用いられている油性溶剤が挙げられる。これらの油性溶剤は、相溶性のあるナフテン系、脂肪族系および芳香族系溶剤の二種以上を含む石油系溶剤が一般的であり、芳香族系溶剤が一部含まれている場合が多い。リモネンと石油系溶剤等の油性溶剤の合計の好ましい配合割合は、木材用塗料組成物の全重量中、60〜90重量%であり、より好ましくは、70〜85重量%とするのが良い。
【0015】
本発明に用いる合成樹脂としては、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニール樹脂等が例示されるが、アクリル樹脂を用いるのが好ましい。アクリル樹脂等の合成樹脂は、塗膜形成成分であり、木材保護塗料で塗装された木材の表面を保護する機能を有する。作業性とコストの面からは、1液の常温乾燥タイプとして用いるのが好ましい。アクリル樹脂等の合成樹脂の好ましい配合割合は、木材用塗料組成物の全重量中、10〜30重量%であり、より好ましくは、10〜20重量%とするのが良い。
【0016】
本発明に用いる添加剤の1つは、撥水剤である。撥水剤は、木材の表面に撥水性を付与するものであればよいが、具体的には、ポリエチレンワックス、パラフィンワックスおよび酸化ポリオレフィンワックスなどが例示される。好ましいのは、パラフィンワックスであり、融点が30〜70℃、好ましくは30〜50℃のものを選択すると良い。撥水剤の好ましい配合割合は、木材用塗料組成物の全重量中、0.5〜3重量%である。3重量%を超えても、撥水効果の向上はほとんどなく、0.5重量%未満では撥水効果が不十分となるからである。なお、撥水剤は、より好ましくは1〜2重量%の範囲内で含有されているのが良い。
【0017】
また、本発明に用いる添加剤の1つは、着色剤である。着色剤は、木材を好みの色に着色するものであり、具体的には、カーボンブラック、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの無機系、有機系の顔料が例示される。これらの着色剤は、単独または2種以上併用することができる。着色剤の好ましい配合割合は、木材用塗料組成物の全重量中、0.5〜5重量%であり、より好ましくは、1〜3重量%とするのが良い。ただし、着色剤の配合割合は0重量%にして、木材保護塗料の色相をクリヤーにしてもよい。
【0018】
また、本発明に用いる添加剤の1つは、防蟻防腐剤である。防蟻防腐剤は、木材に防蟻防腐防カビ性を付与する防蟻防腐剤であり、具体的には、有機ヨード系化合物、トリアゾール系化合物、スルファミド系化合物、四級アンモニウム化合物などの防腐防カビ剤と、ピレスロイド系化合物、ネオニコチノイド系化合物などの防虫剤が例示される。これらは、単独または2種以上併用することができる。防蟻防腐剤の好ましい配合割合は、木材保護塗料の全重量中、1〜5重量%であり、より好ましくは、2〜3重量%とするのが良い。
【0019】
さらに、本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば、分散剤、紫外線吸収剤、タレ止め剤、沈降防止剤、消泡剤、つや消し剤などの公知の添加剤を添加することができる。なお、以上の各種添加剤は、単独で用いても良く、または2種以上を混合して用いても良い。
【発明の効果】
【0020】
上記の通り、第1発明によれば、油性の木材保護塗料に含有されている芳香族系溶剤等が揮発した時の刺激臭〜悪臭を感じられないか、ほとんど感じられなくしつつ、柑橘系等のさわやかな香気が感じられる木材用塗料組成物を提供でき、塗装環境を著しく改善することができる。なお、この組成物の塗装後の塗膜物性は、従来の塗料の塗膜物性をそのまま維持することができる。
【0021】
また、第2発明によれば、上記芳香族系溶剤等揮発時の刺激臭〜悪臭を感じられないか、ほとんど感じられないようにしつつ、発揮されるリモネンの香りを好ましい範囲に調整でき、かつリモネンの多量使用によるコスト高を招かないメリットを有する。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を、更に、具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
表1に示す実施例1の配合成分と配合量において、(1)着色剤として「カーボンブラックMA100の0.3重量部、タロックスLL−XLOの0.9重量部、タロックスR−516−Lの0.8重量部」、アクリル樹脂溶液として「ヒタロイド1152の6重量部」、石油系溶剤として「ミネラルスピリットA(脂肪族系溶剤であるが、30重量%程度のキシレン等の芳香族系溶剤を含む。以下同じ。)の2重量部」をディスパーでプレミックスした後、サンドミルを用いて分散し、ミルベース10重量部を得、(2)別途、撥水剤として「パラフィンワックス115の1重量部」と溶剤として「ミネラルスピリットAの9重量部」をディスパーで混合してワックス液10重量部を得た。(3)最後に、アクリル樹脂溶液として「ヒタロイド1152の20重量部」、植物系溶剤として「NK−1100(d−リモネン)の5重量部」、石油系溶剤として「テクリーンN20(ナフテン系である。以下同じ。)の52重量部」をディスパーで攪拌しながら、前記(1)のミルベース10重量部、前記(2)のワックス液10重量部、および防蟻防腐剤として「ホートキシンCTFの3重量部」を添加し、混合して木材用塗料組成物(100重量部、塗装後の外観はオーク色)を調整した。
【0024】
(実施例2〜実施例6および比較例1、比較例2)
実施例2〜実施例6および比較例1、比較例2の配合成分と配合量は表1に示す通りであり、植物系溶剤NK−1100および石油系溶剤テクリーンN20以外の配合成分の配合量は実施例1と同じである。これらの組成物は、次の様に調整して得た。すなわち、実施例1の(1)、(2)の工程を経た後、実施例1の(3)の工程において、植物系溶剤NK−1100および石油系溶剤テクリーンN20の配合割合をそれぞれ表1に示す配合量に変更して、実施例1と同様の操作で実施例2〜実施例6および比較例1、比較例2の木材用塗料組成物(100重量部、塗装後の外観はオーク色)を調整した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1〜実施例6及び比較例1、比較例2の木材用塗料組成物の性能評価を次のようにして行った。
【0027】
1.試験片の作製
実施例1〜実施例6および比較例1、比較例2で得られた木材用塗料組成物を柾目の杉板(長さ450mm、幅90mm、面積4.05dm2)に幅30mmの試験用刷毛を用いて、1dm2当たり0.7mL塗布し、室温で2時間乾燥させた後、再度1dm2当たり0.7mL塗布して試験片とした。
【0028】
2.性能評価1
実施例1〜実施例6および比較例1、比較例2の試験片を、室温で2時間乾燥させた後、それらの外観、透明感、撥水性および乾燥性について比較して評価した。いずれも差が認められず同等の結果であった。これは、リモネンを従来の溶剤に配合しても、何ら塗膜物性に影響を与えず、従来の塗料の塗膜物性を維持することを示している。
【0029】
3.性能評価2
実施例1〜実施例6および比較例1、比較例2の試験片を、室温で2時間乾燥させている間に刺激臭〜悪臭と香気を官能検査し、次の5段階で評価した。その結果を表1に示す。
・5点:芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はしない、さわやかな柑橘系の香気が感じられかつ残存香りが1〜2日で消失する。
・4点:芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はしない、軽いさわやかな柑橘系の香気が感じられかつ残存香りが1〜2日で消失する。
・3点:芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はしない、柑橘系の香気が強く感じられかつ残存香りが3日以上と長期に亘る。
・2点:芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はほとんどしない、僅かに柑橘系の香気が感じられる。
・1点:芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭がし、かつ残存臭気が3日以上と長期に亘る。
【0030】
塗装環境改善の指標となる上記の点数評価は、芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はしないか殆どしないとされる2点〜5点が好ましく、さらに柑橘系の香気がさわやかであるとされる4点、5点がより好ましい。すなわち、実施例1、実施例5及び実施例6は、芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭はしないか、殆どしないので従来の塗装環境改善の点で好ましく、実施例2〜実施例4は、さらに柑橘系の香気がさわやかと感じられるようになっているので、より好ましいことを示している。これに対し、リモネンが配合されていない比較例1やリモネンの配合量が5重量%未満である比較例2では、芳香族系溶剤の刺激臭〜悪臭が明確に感じられ、さらに残存する臭気も長期に亘るので、従来の塗装環境が改善されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂、添加剤を配合し、トルエン、キシレン等の刺激臭〜悪臭のある溶剤成分を含有する油性溶剤を用いた木材用塗料組成物において、溶剤成分としてリモネンが該組成物の全重量中5重量%以上配合されていることを特徴とする木材用塗料組成物。
【請求項2】
前記リモネンが前記組成物の全重量中5〜30重量%配合されていることを特徴とする請求項1に記載の木材用塗料組成物。

【公開番号】特開2009−167310(P2009−167310A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7613(P2008−7613)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591282766)南海化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】