説明

木杢パネル構造体の製造方法及び木杢パネル構造体

【課題】切断面において接着剤が露出しないことで見栄えが向上された木杢パネル構造体の製造方法及び木杢パネル構造体を得る。
【解決手段】木杢パネル構造体12の基材14には、木杢シート24が接着される接着面20から基材凸部18が形成される。木杢シート24の縁部が基材凸部18と対向するように、木杢シート24は接着剤22で接着面20に接着される。カットラインCLで切断した場合に、切断面には基材凸部18が存在しており、接着剤22が露出しないので、見栄えが向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装部品等として用いられる木杢パネル構造体を製造するための木杢パネル構造体の製造方法及び木杢パネル構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内装用の木杢パネル構造体として、特許文献1には、合成樹脂基板の上面に木杢シートを接着し、その上面側に透明合成樹脂層を射出成形により接合した複合成形品及びその製造方法が記載されている。
【0003】
ところで、このような木杢パネル構造体では、自動車内に配置されたときの周辺部材の形状等に合わせて、木杢パネル構造体を所定のカットラインで切断し、周縁部分を切除する必要が生じることがある。特許文献1に記載の構造では、木杢シートが合成樹脂基板の縁部近傍まで及んでおり、切断位置によっては、切断面において合成樹脂基板と木杢シートとの間の接着剤が露出するため、見栄えが低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−103667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、切断面において接着剤が露出しないことで見栄えが向上された木杢パネル構造体の製造方法及び木杢パネル構造体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、木杢パネル構造体を構成する基材に、木杢シートが接着される接着面から基材凸部を立設し、前記木杢シートの縁部を前記基材凸部の内側面に対向させて、木杢シートを前記接着面に接着剤により接着する接着工程と、前記木杢シート及び前記基材凸部を覆うように塗布膜を塗布する塗布工程と、前記基材凸部で前記基材及び前記塗布膜を切断する切断工程と、を有する。
【0007】
この木杢パネル構造体の製造方法では、基材に基材凸部が形成されており、接着工程では、木杢シートの縁部を基材凸部の内側面に対向させて、木杢シートを接着面に接着剤により接着する。すなわち、木杢シートの縁部及び接着剤が、基材凸部によって覆い隠される。その後、塗布工程により木杢シート及び凸部を覆うように塗布膜を塗布し、さらに切断工程により、基材凸部で基材及び塗布膜を切断すると、切断面には基材凸部が存在しており、基材(接着面)と木杢シートとの間の接着剤が露出しない。これにより、接着剤が切断面において露出している構造のものと比較して、木杢パネル構造体の見栄えが向上する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記基材凸部を前記接着面の周囲の全周にわたって形成することで基材凸部の内側に凹部を構成し、前記接着工程において前記木杢シートを前記凹部に嵌め込んで前記接着面に接着する。
【0009】
基材凸部が接着面の周囲の全周にわたって形成されているので、接着剤を露出させることのない切断位置も接着面の全周にわたることになり、切断位置の自由度が高くなる。また、接着工程では、基材凸部の内側に構成された凹部に木杢シートを嵌め込むことで、木杢シートを基材の接着面に接着する際の作業性が高くなる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記接着工程において、前記木杢シートの縁部の少なくとも一部を前記基材凸部の内側面に接触させて木杢シートを前記接着面に接着する。
【0011】
このように、木杢シートの縁部の少なくとも一部を基材凸部の内側面に接触させることで木杢シートを基材に対し容易に位置決めして接着できる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、木杢パネル構造体を構成する基材と、前記基材に設定された接着面に接着剤により接着される木杢シートと、前記基材の前記接着面から、前記木杢シートの縁部と対向するように立設された基材凸部と、前記木杢シート及び前記基材凸部を覆うように塗布された塗布膜と、を有する。
【0013】
この木杢パネル構造体では、基材凸部が木杢シートの縁部と対向するように立設されている。そして、木杢シートが接着剤により接着面に接着されている。さらに、木杢シートと基材凸部を覆うように塗布膜が塗布されている。木杢シートの縁部及び接着剤は基材凸部によって覆い隠されているので、請求項5に記載のように、基材凸部で基材及び塗布膜が切断された木杢パネル構造体では、切断面には基材凸部が存在しており、基材(接着面)と木杢シートとの間の接着剤が露出しない。これにより、接着剤が切断面において露出している構造のものと比較して、木杢パネル構造体の見栄えが向上する。なお、木杢パネル構造体としては、基材凸部で切断する前段階の状態で用いることも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記構成としたので、木杢パネル構造体の切断面において接着剤が露出しないことで見栄えが向上される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態の木杢パネル構造体を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態の木杢パネル構造体を示す図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の木杢パネル構造体を製造する工程を図2と同様の断面で(A)〜(C)へと順に示す工程図である。
【図4】本発明の一実施形態の木杢パネル構造体を所定のカットラインで切断した状態を図2と同様の断面で示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1には、本発明の一実施形態の木杢パネル構造体12の全体構成が示されている。また、図2には、この木杢パネル構造体12が、図1のII−II線断面図にて示されている。さらに、図3には、木杢パネル構造体12を製造する工程が(A)〜(C)へと順に示されている。
【0017】
図2に示すように、木杢パネル構造体12は、自動車の車室内の所定位置に取り付けられる基材14を有している。本実施形態では、基材14として略板状に形成された基材本体16を有するものを挙げているが、車室内の取付位置の構造等に対応させて、湾曲あるいは屈曲した形状であってもよい。さらには、たとえば空調装置の気体排出口に対応させて、板厚方向に貫通する開口が形成された構造であってもよい。
【0018】
基材本体16の車室内側の面は接着面20とされている。この接着面20には、接着剤22によって木杢シート24が接着される。接着面20は、基材本体16の車室内側の面の全域にわたっては形成されておらず、その外縁部分を除いた部分とされている。そして、外縁部分、すなわち接着面20以外の部位からは、接着面20から立ち上がる方向に基材凸部18が形成されており、基材本体16と基材凸部18とで、基材14が構成されている。基材凸部18の突出高さH1は、接着剤22と木杢シート24とを併せた厚さT1と略一致しており、基材凸部18の頂面18Tが木杢シート24の表面24Sと略面一になる。
【0019】
ここで、本実施形態の木杢パネル構造体12では、車室内の所定位置に取り付けられた状態で、その周囲の部材との関係等で、所定のカットラインCLで切断し、カットラインCLよりも外側部分を切除して使用することが想定されている。基材凸部18は、少なくとも、想定されるカットラインCLに沿った部分には位置するように形成されている。特に本実施形態では、基材凸部18が、外縁部分の全周にわたって形成されており(実質的に、カットラインCL以外の部分にも基材凸部18が形成されていてもよい)、基材凸部18の内側に、基材凸部18の突出端よりも凹んだ凹部26(図3(A)参照)が構成されている。
【0020】
そして、図3(B)からも分かるように、接着面20に対し接着剤22により、木杢シート24が接着されている。接着剤22は、接着面20に塗布されていてもよいし、木杢シート24の裏面(接着面20と対向する面)に塗布されていてもよい。
【0021】
さらに、少なくとも木杢シート24と基材凸部18とを覆うように、透明な樹脂材料を塗布することで、クリア層28(塗布膜)が形成されている。本実施形態では特に、基材14の裏面14Bを除く全面にクリア層28が形成されている。
【0022】
また、本実施形態の木杢パネル構造体12では、前述したように、車室内の所定位置に取り付けられた状態で周囲の部材との関係等により、所定のカットラインCLで切断されることがある。このとき、基材凸部18は少なくともカットラインCLに沿った範囲で形成されているので、切断面12Cには基材14(基材凸部18)及びクリア層28のみが露出し、接着剤22は露出しない。
【0023】
なお、図1に示すように、木杢パネル構造体12には、所定位置から、車体への取付用とされる部材(位置決め片12Lや係合片12K等)が形成されている。
【0024】
次に、本実施形態の木杢パネル構造体12の製造方法、及び木杢パネル構造体12の作用を説明する。
【0025】
まず、図3(A)に示すように、板状の基材本体16に対し、基材凸部18が立設された基材14を成形する。本実施形態では特に、基材凸部18が基材本体16の外縁部分の全周にわたって形成されている。
【0026】
この基材14の接着面20に、図3(B)に示すように、接着剤22を用いて木杢シート24を接着する(接着工程)。接着剤22は、接着面20に塗布してもよいし、木杢シート24の基材本体16との対向面に塗布してもよい。いずれであっても、接着面20の全域に接着剤を塗布して接着することで、接着力の均一化が図られ、木杢シート24の接着面20からの不用意な剥がれや浮き上がりが抑制される。
【0027】
また、木杢シート24を接着するときには、木杢シート24の外周の縁部を基材凸部18の内側面18Uに接触させることで、木杢シート24を基材14に対し位置決めできる。特に本実施形態では、基材凸部18が基材本体16の外縁部分の全周にわたって形成され、その内側に凹部26が構成されている。この凹部26に、木杢シート24を嵌め込むように収容することで、実質的に木杢シート24の縁部が全周にわたって基材凸部18に接触し、位置決めされることになる。
【0028】
なお、木杢シート24の縁部の全周を基材凸部18に接触させる(嵌め込むこと)が難しい場合もある。この場合であっても、たとえば木杢シート24の非平行な2辺を基材凸部18の内側面18Uに接触させれば、木杢シート24の縁部の1辺のみを基材凸部18の内側面18Uに接触させた構成と比較して、より確実な位置決めが可能になる。
【0029】
次に、図3(C)に示すように、透明な樹脂材料を基材凸部18の外側面18S、頂面18Tから木杢シート24にかけて塗布し(塗布方法は特に限定されず、スプレー塗布等を用いることができ、さらに、インジェクション成形によってもよい)、クリア層28を形成する(塗布工程)。このクリア層28により、木杢パネル構造体12の表面に所望の光沢が付与される。
【0030】
なお、基材14の裏面14Bには、所定のマスキング等を施すことでクリア層28が形成されないようにし、樹脂材料の低減化が図られている。かかる観点からは、基材凸部18の外側面18Sにもクリア層28を設けないようにすることも可能であるが、この場合には、外側面18Sにもマスキングを施す必要があり、作業工程が増加する。本発明では、クリア層28を形成しない部分を基材14の裏面14Bのみとすることで、作業の簡素化と使用材料の低減化を両立させている。
【0031】
この状態で、木杢シート24は基材14に対し、所定の位置で位置決めされて取り付けられている。したがって、このように木杢シート24が位置決めされていない(換言すれば、木杢シート24の位置が木杢パネル構造体12のそれぞれにおいて、ばらついている可能性がある)構造のものと比較して、見栄えが向上している。
【0032】
このようにして得られた木杢パネル構造体12は、それ以上の加工や処理を施すことなく、車室内の所定位置に取り付けられ、内装部品として用いられることが可能である。ただし、木杢パネル構造体12の周囲の部材との関係等によっては、所定のカットラインCL(図2参照)で切断し、カットラインCLよりも外側部分を切除して使用することがある。
【0033】
この場合には、図4に示すように、カットラインCLの位置で、基材14及びクリア層28を切断する(切断工程)。このとき、基材凸部18は、少なくとも、想定されるカットラインCLに沿った部分に位置して形成されているので、切断面12Cには基材14及びクリア層28のみが露出し、接着剤22は露出しない。接着剤22が見えないので、切断面12Cから接着剤22が露出する(接着剤22が見えてしまう)構成と比較して、見栄えが向上する。
【0034】
しかも、接着剤22が切断面12Cから露出しないことで、接着剤22の空気との接触も抑制できる。これにより、接着剤22の劣化(接着力の低下)を抑制できるので、接着剤22の剥離を抑制でき、さらには、木杢シート24の剥離を抑制できる。
【0035】
本実施形態では、基材凸部18が、基材本体16の外縁部分の全周にわたって形成されているので、図2に示したように基材本体16の特定の辺に沿ったカットラインCLだけでなく、基材本体16の他の辺に沿ったカットラインで切断する場合でも切断面から接着剤22が露出しなくなる。すなわち、全周にわたる基材凸部18を形成すると、接着剤22を露出させないようにできる切断位置の制限が少なくなるので、切断位置の自由度が高くなり、汎用性に優れた木杢パネル構造体となる。
【0036】
なお、一般的には、木杢パネル構造体12の切断位置は、木杢パネル構造体12が取り付けられる車種や取付位置に応じて一意に決まることもあり、必要な部分にのみ(たとえば、基材本体16の特定の1辺あるいは2辺に沿った位置にのみ)基材凸部18を形成することで、基材本体16の構造を簡素化してもよい。このように、必要な部分にのみ基材凸部18を形成した基材本体16であっても、木杢シート24の接着時に基材凸部18の内側面18Uに接触させることで、木杢シート24を基材本体16に対し位置決めすることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
12 木杢パネル構造体
12C 切断面
14 基材
18 基材凸部
20 接着面
22 接着剤
24 木杢シート
26 凹部
28 クリア層
CL カットライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木杢パネル構造体を構成する基材に、木杢シートが接着される接着面から基材凸部を立設し、
前記木杢シートの縁部を前記基材凸部の内側面に対向させて、木杢シートを前記接着面に接着剤により接着する接着工程と、
前記木杢シート及び前記基材凸部を覆うように塗布膜を塗布する塗布工程と、
前記基材凸部で前記基材及び前記塗布膜を切断する切断工程と、
を有する木杢パネル構造体の製造方法。
【請求項2】
前記基材凸部を前記接着面の周囲の全周にわたって形成することで基材凸部の内側に凹部を構成し、
前記接着工程において前記木杢シートを前記凹部に嵌め込んで前記接着面に接着する請求項1に記載の木杢パネル構造体の製造方法。
【請求項3】
前記接着工程において、前記木杢シートの縁部の少なくとも一部を前記基材凸部の内側面に接触させて木杢シートを前記接着面に接着する請求項1又は請求項2に記載の木杢パネル構造体の製造方法。
【請求項4】
木杢パネル構造体を構成する基材と、
前記基材に設定された接着面に接着剤により接着される木杢シートと、
前記基材の前記接着面から、前記木杢シートの縁部と対向するように立設された基材凸部と、
前記木杢シート及び前記基材凸部を覆うように塗布された塗布膜と、
を有する木杢パネル構造体。
【請求項5】
前記基材凸部で前記基材及び前記塗布膜が切断されている請求項4に記載の木杢パネル構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−98554(P2011−98554A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256423(P2009−256423)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】