説明

木質ボード

【課題】木質ボードから発生するホルムアルデヒド放散量が十分に低く、且つ、熱圧工程時に熱板へ木質材料の付着がない非ホルムアルデヒド系バインダー組成物を使用した木質ボードを提供する。
【解決手段】木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られる木質ボードであって、前記バインダーが以下に定義する共重合体と当該共重合体100重量部当り0.5〜5重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤、及び好ましくはヒドラジド系架橋剤を含有して成る木質ボード。
ここで用いる共重合体とは以下のようなものである。
芳香族系ビニルモノマー(a)、カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)、カルボニル基含有ビニルモノマー(c)から誘導され、上記の各成分の使用比率(a):(b):(c)が40〜85:10〜40:0.5〜20(重量比)であり、しかも、ガラス転移温度が30〜100℃である共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質ボードに関し、詳しくは、ホルムアルデヒドの放散量が少なく、建築内外装、家具、木工などの居住環境に適した木質ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
住宅用木質建材として、合板、パーティクルボード、MDF(中質繊維板)等の木質ボードが使用されており、これらのバインダーとしてはアミノ樹脂やフェノール樹脂の様なホルマリン系バインダーを使用している。このような場合、木質建材から遊離または分解によって発生するホルムアルデヒドが空気中に放散され、環境や健康に害を与え、化学物質に過敏に反応するシックハウス症候群の原因となり、社会問題が惹起される。
【0003】
また、資源の有効利用、資源リサイクルの観点から、木質ボードの原料として、リサイクルチップや建築木質廃材の利用が求められているが、ホルムアルデヒドが残存している原料の使用のため、木質ボードからのホルムアルデヒド放散量がより増加する傾向にある。
【0004】
一方、木質ボードから放散されるホルムアルデヒドの量を抑制するため、バインダーとして、例えば、有機イソシアネート系バインダーやアクリル系バインダーの様な非ホルムアルデヒド系バインダーが提案されている(特許文献1及び2)。
【0005】
しかしながら、上記の様なバインダーを使用した場合、バインダーと混合された木質材料が金属性の熱板に付着するという問題があり、製造工程上、大きな障害になっている。その障害を解決するために、内部離型剤をバインダーに添加する方法、外部離型剤を熱板へ直接塗布する方法、離型剤およびバインダーを使用しない木質材料のみを表層にフォーミングして成型する方法がある。
【0006】
しかしながら、上記の方法は、離型が十分でなく生産性が落ちる等の問題があり、満足できる方法とは言えない。特に、アクリル系バインダーにおいては、例えば、スチレン−アクリル共重合体中のカルボキシル基や水酸基の含有量を一定の割合にしなければ、木質材料の熱板への付着は抑えられないため、バインダーの反応をコントロールしなければならない欠点がある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−100114号公報
【特許文献2】特開2005−125737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実状に鑑みなされたものであり、その目的は、木質ボードから発生するホルムアルデヒド放散量が十分に低く、且つ、熱圧工程時に熱板へ木質材料の付着がない非ホルムアルデヒド系バインダー組成物を使用した木質ボードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の第1の要旨は、木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られる木質ボードであって、前記バインダーが以下に定義する共重合体と当該共重合体100重量部当り0.5〜5重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤を含有して成ることを特徴とする木質ボードに存する。
【0010】
(共重合体の定義)
芳香族系ビニルモノマー(a)、カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトンアクリレート、アセトニルアクリレート、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテートの群から選択されるカルボニル基含有ビニルモノマー(c)から誘導され、上記の各成分の使用比率(a):(b):(c)が40〜85:10〜40:0.5〜20(重量比)であり、しかも、ガラス転移温度が30〜100℃である共重合体。
【0011】
そして、本発明の第2の要旨は、木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られ、1又は2以上の芯層と表裏層とから成る多層で構成される木質ボードであって、少なくとも表裏層に使用するバインダーが上記に定義する共重合体と当該共重合体100重量部当り0.5〜5重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤から成ることを特徴とする木質ボードに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の木質ボードは、バインダーとして非ホルムアルデヒド系バインダーを使用しているため、ホルムアルデヒドの放散量が十分に低く、しかも、その製造工程において、金属性の熱板への木質材料の付着が防止され、層内剥離(以下、パンクと称する)の発生がなく、しかも、表面の平滑性が優れているため、従来の木質ボードで要求されるサンディング工程を必要とせずに生産性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の木質ボードは、木質材料と後述する特定のバインダーとから成る。そして、本発明の木質ボードは、単層と多層の2つの態様を包含し、多層ボードの場合は1又は2以上の芯層と表裏層とから成り、少なくとも表裏層に後述するバインダーを使用する。本発明の好ましい態様においては、上記の特定のバインダーは、カルボニル基含有ビニルモノマー(c)の架橋剤としてヒドラジド系架橋剤を含有し、また、芯層のバインダーとしてはイソシアネート化合物を使用する。先ず、本発明で使用する各材料成分について説明する。
【0014】
木質材料としては、特に限定されず、リサイクル材が混合されていない新材、リサイクル材を含む混合材の何れであってもよい。リサイクル材としては、建築廃材、合板製造工場やパーティクルボード製造工場、MDF製造工場などから排出される製品廃材、型枠用合板などのホルマリン系バインダーを使用した木質リサイクル材、ホルマリン系バインダーを使用していない木質リサイクル材などが挙げられる。これら木質材料は、一般的にはパーティクルボード用の削片(木質チップ)やMDF用の繊維状に加工されて使用される。
【0015】
本発明において、バインダーは、特定の共重合体と当該共重合体100重量部当り0.5〜5重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤から成る。斯かるバインダーは、通常、水性樹脂エマルジョンとして製造され、そのまま、本発明の木質ボードの製造に使用されるが、加熱圧縮工程においてその大部分が除去される。
【0016】
上記の特定の共重合体は、以下に説明する、芳香族系ビニルモノマー(a)、カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)、カルボニル基含有ビニルモノマー(c)から誘導される。この共重合体の重量平均分子量は、通常5,000〜200,000、好ましくは10,000〜100,000である。
【0017】
芳香族系ビニルモノマー(a)としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノスチレン、N,N−ジエチルーp−アミノメチルスチレン、ビニルピリジン、ビニルキシレン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。特に、重合が容易であることから、スチレンが好ましい。
【0018】
カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)としては、
例えば、不飽和カルボン酸、その酸無水物、エステル等が挙げられ、そのアルキル鎖は、直鎖状、分岐状、環状の何れであってもよい。脂肪族ビニルモノマー(b)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜22のアルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等の環状アルキル鎖を有する(メタ)アクリル酸エステル;ヒドロキシエチルアクリレート等のエステル鎖にヘテロ原子を含む(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中ではアクリル酸および/またはアクリル酸エステルが好ましい。
【0019】
カルボニル基含有ビニルモノマー(c)は、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトンアクリレート、アセトニルアクリレート、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテートの群から選択される1種または2種以上であるが、重合の容易性などから、ジアセトンアクリルアミド及びビニルメチルケトンが好ましく、ジアセトンアクリルアミドが特に好ましい。
【0020】
また、アニオン系乳化剤としては、例えば、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等のアニオン系汎用乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルリン酸エステル等のアニオン系反応性乳化剤が挙げられる。一方、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0021】
前記のアニオン系乳化剤とノニオン系乳化剤とは併用することが出来、この場合、アニオン系乳化剤とノニオン系乳化剤の使用比率は、前者に対する後者の重量比率として、通常100/5〜100/100、好ましくは100/10〜100/500である。なお、本発明においては、乳化分散能力を有する低分子化合物のオリゴマー、ポリビニルアルコール及びその変性物を前記乳化剤と併用することが出来る。
【0022】
上記の乳化剤の使用割合は、共重合体100重量部当たり、0.5〜5重量部、好ましくは1〜3重量部である。乳化剤の使用割合が0.5重量部未満の場合は、乳化力が不足して木質材料に対するバインダーの均一付着性が低下し、5重量部を超える場合は、得られる木質ボードの耐水性が低下する傾向にある。
【0023】
前記の共重合体と乳化剤から成るバインダーは、前記の重合成分を原料とする乳化重合により水性エマルジョンとして製造される。斯かる乳化重合は、常法に従い例えば次の様に行うことが出来る。すなわち、予め、適量の水と乳化剤を仕込んだ反応容器内に、前記の重合成分、重合開始剤などを各種の方法(一括添加、分割添加、連続添加など)で仕込み、撹拌下の乳化状態で所定の温度および時間重合させる。
【0024】
本発明においては、上記の様にして共重合体を製造する際、芳香族系ビニルモノマー(a)、カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)、カルボニル基含有ビニルモノマー(c)の使用比率(a):(b):(c)が40〜85:10〜40:0.5〜20(重量比(但し全体を100とする))でなければならず、その理由は次の通りである。
【0025】
すなわち、芳香族系ビニルモノマー(a)が40重量%未満の場合は木質材料が熱板に著しく付着し易くなり、85重量%を超える場合は共重合体を得る際の乳化重合の安定性が低下する。脂肪族ビニルモノマー(b)が10重量%未満の場合は乳化重合が不安定となってエマルジョンが得にくくなり、更に、バインダーとしての接着力も不足する。一方、脂肪族ビニルモノマー(b)が40重量%を超える場合は得られる木質ボードの耐水性が低下する。カルボニル基含有ビニルモノマー(c)が0.5重量%未満の場合は架橋不足のために木質材料が熱板に付着し易くなり、20重量%を超える場合は
架橋が過度に速くなるために木質材料と混合した際にゲル化する。
【0026】
上記の使用比率(a):(b):(c)の好ましい範囲は、50〜85:15〜30:1〜10(重量比)である。
【0027】
また、本発明においては、上記の様にして製造される共重合体のガラス転移温度(Tg)が30〜100℃でなければならない。Tgが30℃未満の場合は、共重合体が熱板に付着し、Tgが100℃を超える場合は、バインダーとして機能せずに木質ボードが成形できなくなる。Tgの好ましい範囲は30〜80℃である。
【0028】
ヒドラジド系架橋剤は、分子中に二個以上のヒドラジド基を有する化合物であり、カルボニル基含有ビニルモノマーの架橋剤として作用し、バインダーに適度な剛性を付与することにより、熱板へのチップ付着を抑制する効果を発揮する。ヒドラジド系架橋剤の具体例としては、カルボジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ジヒドラジド等が挙げられる。これらの中ではアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。ヒドラジド系架橋剤の使用割合は、前述の共重合体中のカルボニル基1当量あたりのヒドラジド基の当量として、通常0.1〜3当量、好ましくは0.5〜2当量である。架橋剤の使用量が0.1当量未満の場合は、架橋が不足し、架橋剤の添加による効果が十分に得られない。一方、架橋剤の使用量が3当量を超える場合は、増量に見合う効果の増大は得られないばかりか、ゲル化が起こり易くなる。
【0029】
イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族、芳香族、脂環式イソシアネート類およびポリイソシアネート類などが挙げられる。これらの中では、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)が好ましい。
【0030】
本発明の木質ボードにおける、前述の共重合体と乳化剤、及び必要に応じてヒドラジド系架橋剤を含有するバインダーの割合は、木質材料に対する割合として、通常2〜20重量%、好ましくは3〜16重量%、更に好ましくは4〜14重量%である。上限を超える場合は、得られる木質ボードの性能が頭打ちとなり、コストのみが上昇する。下限を下回る場合は、バインダーの量が不十分となり、十分な接着強度の木質ボードを得ることが困難である。
【0031】
1又は2以上の芯層と表裏層とから成る多層で構成される木質ボード(多層木質ボード)の場合、芯層に使用するバインダーとしては接着強度の観点からイソシアネート化合物が好ましく、その使用割合は、上記と同様の範囲である。そして、多層で構成される木質ボードの場合、表裏層には、緻密層を形成するため、芯層に使用する木質材料より小粒径の木質材料が使用される。一般に、表裏層に使用する木質材料の平均粒径は0.1〜0.5mmであり、芯層に使用する木質材料の平均粒径は0.5〜2mmである。表裏層の厚さ比率は、芯層に対する割合として、それぞれ、10〜30%である。なお、単層または多層の木質ボードの厚さは、使用目的により任意に選択されるが、その一例は5〜50mmである。
【0032】
本発明の木質ボードは、木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られる。加熱圧縮は、熱プレスで一定時間加熱加圧処理することにより行われる。この場合、必要に応じ、有効な添加剤を混合してよい。例えば、代表的には、撥水剤、湿潤剤、耐水化剤が挙げられる。撥水剤は、熱板との離型性を向上させるために使用され、湿潤剤は、フォーミング時の粉塵やフォーミングマットの崩れ防止、熱圧成型時のフォーミングマットの一定厚みになるまでの時間を短縮するために使用され、耐水化剤は、寸法安定性や耐水強度を向上させるために使用される。その他、難燃剤、防虫剤、防腐剤、消泡剤などをバインダーに混合してもよい。
【0033】
上記の撥水剤としては、例えば、アクリル系ワックス、ポリエチレン系ワックス、パラフィン系ワックス等が挙げられ、湿潤剤としては、尿素、グリセリンやポリプロピレングリコール等のポリオール類、酢酸ビニルエマルジョン、ポリビニルアルコール等が挙げられ、耐水化剤としては、グリオキザール、硼砂、メチロールメラミン、エポキシアミド等が挙げられる。
【0034】
さらに、硬化性やボード強度の向上のために、尿素樹脂、メラミン樹脂などのホルマリン系バインダーを混合したり、木質材料からのホルムアルデヒドを抑制するために、尿素、亜硫酸塩、ヒドラジド化合物などのホルムアルデヒド捕捉剤を、木質材料および/またはバインダーに添加してもよいし、得られた木質ボードに塗布または含浸してもよい。
【0035】
バインダーと混合する際の木質材料の含水率は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。10重量%を超える場合は、十分な強度を有する木質ボードを得ることが困難である。因に、木質ボードにおける含水率は、反り防止の観点から、5重量%以上である。
【0036】
木質材料にバインダーを混合した後、通常、ボード状にフォーミングし、プリプレス後、熱プレスで一定時間加熱加圧(すなわち熱圧成形)することにより木質ボードを製造する。上記のフォーミングとプリプレスは、例えば、コンベアの一端に加圧ロールを配置した設備を使用して次の様に行うことが出来る。すなわち、コンベアの他端から木質材料とバインダーの混合物をコンベア上に散布した後に均し板などで平滑化処理してフォーミングし、加圧ロールでプリプレスする。また、熱プレスの温度は、通常100℃〜220℃、好ましくは130〜200℃、圧力は、通常1〜4MPa、好ましくは2〜3MPaである。プレス時間は製品ボード厚さによって異なり、製品ボード1mm当たり、通常5秒〜30秒である。前述の共重合体と乳化剤から成り且つ必要に応じてヒドラジド系架橋剤を含有するバインダーは、スチレン−アクリル共重合体中のカルボキシル基や水酸基の含有量を反応中でコントロールしなくても、木質材料の熱板への付着を抑えることが出来る。
【0037】
多層木質ボードの場合は、各層毎に木質材料とバインダーの混合物を調製し、上記と同様の設備を使用し、フォーミング、プリプレス及び熱プレスを行う。すなわち、先ず、コンベアの他端から表裏用の木質材料とバインダーの混合物をコンベア上に散布した後に均し板などで平滑化処理してフォーミングし、次いで、その上に芯層用の木質材料とバインダーの混合物を散布して上記と同様にフォーミングし、更に、その上に表裏層用の木質材料とバインダーの混合物を散布して上記と同様にフォーミングし、その後、プリプレスと熱プレスを順次に行う。
【0038】
本発明の木質ボードは、バインダー中にホルマリンを含有していない非ホルムアルデヒド系バインダーを使用しているため、ホルムアルデヒドの放散する量が十分に低く、その製造工程において、離型剤の使用がなくても熱板への木質材料の付着がなく、パンク品の発生も生じないので製品価値を落とすことがない。更に、表面の平滑性が優れていることから、サンディング工程を必要としないため、生産性および生産収率を向上することが出来る。また、その優れた平滑性から、合板やMDF等をボードの片面や両面に貼って美観を良くすることが行われているが、本発明の木質ボードはその様な二次的な加工をする必要がない。また、塩ビシートや紙などを貼って化粧した場合でも、その面に凹凸を生じることはないため、化粧面の仕上がりが、非常に良好である。これらのことから、本発明の木質ボードは、建築用、家具・建具、電気機器用などの分野に好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の水性樹脂エマルジョンの製造において使用した各成分の略語の意味は次の表1に示す通りである。
【0040】
【表1】

【0041】
製造例1(水性樹脂エマルジョン1(以後EM1)の製造):
後述の表2に示すモノマー比(1)の比率で混合されたモノマー:500g、乳化剤:「ES 70」7.5gと「N−200」2gの混合乳化剤、イオン交換水:200gを混合し、プレエマルジョンを作成した。攪拌機・還流冷却器・温度計・滴下漏斗を備えた反応容器に、イオン交換水:250g、乳化剤「ES 70」:2gを仕込んで、75℃まで加熱した。重合開始剤KPS:2.5gおよびSBS:0.2gをイオン交換水に各々溶かして、反応容器に添加し、上記プレエマルジョンを3時間かけて連続滴下し、重合反応を行なった。更に、滴下終了後に、80℃までに昇温後、KPS:0.5gを水に溶かしたものを添加し、3時間熟成させた。冷却後、水性樹脂エマルジョン(以後EM 1)を得た。粘度は40mPa・s、pHは2.4、固形分濃度は50.2重量%であった。
【0042】
製造例2(水性樹脂エマルジョン2(以後EM2)の製造):
製造例1において、混合乳化剤に代えて、「ES−70」10gを使用した以外は、製造例1と同様にして、水性樹脂エマルジョン2(以後EM2)を得た。粘度は30mPa・s、pHは2.5、固形分濃度は50.5重量%であった。
【0043】
製造例3(水性樹脂エマルジョン2(以後EM3)の製造):
製造例1において、モノマーの比率を表2のモノマー比(2)に変更した以外は、製造例1と同様にして、水性樹脂エマルジョン3(以後EM3)を得た。粘度は25mPa・s、pHは2.3、固形分濃度は50.2重量%であった。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1:
製造例1で得たEM1を使用し、カルボニル基の架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジド(日本化成(株)製、以下「ADH」と略記する)の20重量%水溶液をEM1の固形分100重量部あたり25.7重量部(EM1中のカルボニル基1当量あたり約1当量)配合してバインダーとした。これを、非ホルムアルデヒド系バインダーとして、表3に示す条件で、単層パーティクルボードを製造し、熱板への付着状態を観察した。結果を表4に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
比較例1:
実施例1において、非ホルムアルデヒド系バインダーとして、製造例3で得たEM3をそのまま使用した以外は、実施例1と同様にして、単層パーティクルボードを製造した。熱板への付着状態を観察した結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
実施例2:
表裏層用バインダーとして実施例1と同様にADHを配合したEM1を使用し、芯層用バインダーとしてジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を使用し、表5に示す条件で、3層パーティクルボードを製造し、木質チップの熱板への付着状態を観察し、得られた木質ボードの物性を以下のJIS記載の方法に準じて測定した。結果を表6に示す。また、木質ボード表面の平滑性を測定し、参考値として市販のMDFの平滑性も測定した。結果を表7に示す。なお、測定方法は次の通りである。
【0050】
(1)ホルムアルデヒド放散量:JIS A 1460に準拠
(2)ボード性能:JIS A 5908に準拠
(3)平滑性試験:表面粗さ試験(東京精密社製の表面粗さ測定器「handy surf E−30A」を使用)
【0051】
【表5】

【0052】
実施例3:
実施例2において、表裏層用バインダーとして製造例2で得たEM2を使用した以外は、実施例2と同様にして、3層パーティクルボードを製造し、実施例2と同様に評価し、結果を表6及び表7に示す。
【0053】
比較例2:
実施例2において、表裏層用バインダーとして製造例3で得たEM3を使用した以外は、実施例2と同様にして3層パーティクルボードを製造した。得られた木質ボードの物性および平滑性の測定結果を表6及び表7に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
【表7】

【0056】
表6の評価結果からも明らかな様に、本発明で使用する非ホルムアルデヒド系バインダーでは、熱板への付着は見られなかった。一方、表7に示す様に、熱板の付着が見られた比較例2の表面をサンディングしたものと比較しても、表面の平滑性は優れていた。サンディングをしていない実施例2のボード表面は、市販のMDFと比較しても、遜色ない結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られる木質ボードであって、前記バインダーが以下に定義する共重合体と当該共重合体100重量部当り0.5〜5重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤を含有して成ることを特徴とする木質ボード。
(共重合体の定義)
芳香族系ビニルモノマー(a)、カルボキシル基またはその誘導体基を有する脂肪族ビニルモノマー(b)、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトンアクリレート、アセトニルアクリレート、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアセテートの群から選択されるカルボニル基含有ビニルモノマー(c)から誘導され、上記の各成分の使用比率(a):(b):(c)が40〜85:10〜40:0.5〜20(重量比)であり、しかも、ガラス転移温度が30〜100℃である共重合体。
【請求項2】
木質材料とバインダーとの加熱圧縮によって得られ、1又は2以上の芯層と表裏層とから成る多層で構成される木質ボードであって、少なくとも表裏層に使用するバインダーが上記に定義する共重合体と当該共重合体100重量部当り1〜3重量部のアニオン及び/又はノニオン系の乳化剤から成ることを特徴とする木質ボード。
【請求項3】
バインダーを構成する共重合体において芳香族系ビニルモノマー(a)がスチレン、脂肪族ビニルモノマー(b)がアクリル酸またはアクリル酸エステル、カルボニル基含有ビニルモノマー(c)がダイアセトンアクリルアミドである請求項1又は2に記載の木質ボード。
【請求項4】
バインダーが、更に上記の共重合体中のカルボニル基1当量あたり、ヒドラジド基が0.1〜3当量となる様に
ヒドラジド系架橋剤を含有する請求項1〜3の何れかに記載の木質ボード。
【請求項5】
ヒドラジド系架橋剤が、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、コハク酸ヒドラジドの群から選ばれる何れかの1種または2種以上である請求項4に記載の木質ボード。
【請求項6】
芯層に使用するバインダーがイソシアネート化合物である請求項2に記載の木質ボード。

【公開番号】特開2007−320180(P2007−320180A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153364(P2006−153364)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】