説明

木質系バイオマスチップの前処理方法及び前処理装置

【課題】木チップの組織に含まれる脂質、デンプンを硬化させることなく、組成変成を抑制して、水蒸気による膨潤を効率的に行い、酸処理を効率的に行える木質系バイオマスチップの前処理装置を提供する。
【解決手段】木質系バイオマスチップを投入するホッパー1を一側に設けた横型筒状のエクスクルーダ2を有し、該エクスクルーダ2は、木質系バイオマスチップを攪拌混合しながら前記一側から他側に搬送するスクリュー20を備え、該搬送過程で木質系バイオマスチップを100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温するための水蒸気を供給する水蒸気供給手段を有し、前記酸処理装置4は、竪型筒状構造をなし、前記膨潤処理装置の他側から排出された木質系バイオマスチップを導入して酸と向流接触させて処理する構造を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材などの生物資源(バイオマス)のチップを原料にして新エネルギーとして注目されているエタノールを製造する前処理方法及び前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止策の一環として、エタノールへの関心が高まっており、2003年8月に二酸化炭素の排出量の少ないE3ガソリン(エタノールを3%含有したガソリン)の使用が許可され、2006年4月にはアルコールの製造販売が自由化されようとしている。
【0003】
一方、従来、アルコールの製造原料は石油などの化石資源に依存していたが、化石資源は有限資源であり、代替資源の開発が望まれている。
【0004】
このような背景で、アルコール製造の原料として、生物資源(バイオマス)、特に木材チップのような木質系バイオマスが注目されている。樹木は炭酸同化作用によって二酸化炭素を消費し、酸素を発生させる生態系で貴重な存在であるが、樹木需要が少ないと計画的に植樹することも減少する。しかし、木質系バイオマスの需要が増大すれば計画的な植樹も可能になり、生態系の維持のみならず、地球温暖化防止に多いに寄与するものと思われる。
【0005】
従来、木質系バイオマス原料を糖化する手法として、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1に記載の方法は、木材チップを水蒸気で加熱処理して、竪型反応器で0.5%希硫酸と向流接触反応させて糖化する方法である。
【特許文献1】特開昭60−98999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水蒸気による加熱処理をおこなう場合、最初から高温にすると、膨潤がうまくいかず、膨潤阻害が生じ、木チップの組織に含まれる脂質、デンプンが硬化する問題がある。そのため希硫酸による酸処理をおこなっても糖化が十分出ない欠点があった。特許文献1には、上記のような重大な問題点についての認識がなく、また解決手段について開示がない。
【0007】
本発明の課題は、木チップの組織に含まれる脂質、デンプンを硬化させることなく、組成変成を抑制して、水蒸気による膨潤を効率的に行い、酸処理を効率的に行える木質系バイオマスチップの前処理方法及び前処理装置を提供することにある。
【0008】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0010】
(請求項1)
木質系バイオマスチップを糖化と発酵によりエタノールを製造する前処理方法において、
前記木質系バイオマスチップを膨潤処理する工程と、希硫酸で酸処理する工程を有し、前記膨潤処理する工程で、100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温することを特徴とする木質系バイオマスチップの前処理方法。
【0011】
(請求項2)
前記膨潤処理する工程における温度上昇速度が、5〜30℃/分の範囲であることを特徴とする請求項1記載の木質系バイオマスチップの前処理方法。
【0012】
(請求項3)
木質系バイオマスチップの径が、3cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質系バイオマスチップの前処理方法。
【0013】
(請求項4)
木質系バイオマスチップを水蒸気により膨潤する膨潤処理装置と膨潤処理された前記木質系バイオマスチップを酸処理する酸処理装置からなる木質系バイオマスチップの前処理装置において、
前記膨潤処理装置は、前記木質系バイオマスチップを投入するホッパーを一側に設けた横型筒状のエクスクルーダを有し、該エクスクルーダは、木質系バイオマスチップを攪拌混合しながら前記一側から他側に搬送するスクリューを備え、該搬送過程で木質系バイオマスチップを100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温するための水蒸気を供給する水蒸気供給手段を有し、
前記酸処理装置は、竪型筒状構造をなし、前記膨潤処理装置の他側から排出された木質系バイオマスチップを導入して酸と向流接触させて処理する構造を有していることを特徴とする木質系バイオマスチップの前処理装置。
【0014】
(請求項5)
前記スクリューは、回転軸を有し、該回転軸は中空円筒部材により構成されており、表面に所定間隔に蒸気孔が複数設けられていることを特徴とする請求項4記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【0015】
(請求項6)
前記膨潤処理装置の他側に、水蒸気室が設けられ、該水蒸気室内で前記回転軸の中空部端が開放され、該中空部に水蒸気が供給可能な構造であることを特徴とする請求項5記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【0016】
(請求項7)
木質系バイオマスチップの径が、3cm以下であることを特徴とする請求項4、5又は6記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【0017】
(請求項8)
前記木質系バイオマスチップを100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温する手段が、蒸気孔から吐出する水蒸気の吐出量を制御する手段又は蒸気温度を変化させる手段から選ばれることを特徴とする請求項4、5、6又は7記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、木チップの組織に含まれる脂質、デンプンを硬化させることなく、組成変成を抑制して、水蒸気による膨潤を効率的に行い、酸処理を効率的に行える木質系バイオマスチップの前処理方法及び前処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明の木質系バイオマスチップの前処理方法を実施するための装置の一例を示す概略断面図である。
【0021】
同図において、1は木材チップTを投入するためのホッパーである。木材チップは樹木や廃材木質材などを3cm以下、好ましくは2cm以下、より好ましくは1cm以下に破砕して得られた木片であり、本発明ではこれを木質系バイオマスチップと称する。
【0022】
2は横型円筒状のエクスクルーダであり、前記ホッパー1が一端(図面上左端)に固定されている。内部にはスクリュー20が設けられ、スクリュー20は回転用モータ21に軸止されており、所定回転数に設定された回転用モータ21の回転駆動力に応じて、エクスクルーダ2内のチップTを前方(図面上右方向)に搬送する。22は軸受けである。
【0023】
スクリュー20は軸200と搬送羽根201からなり、軸200は中空円筒部材により形成され、表面には水蒸気を排出するための蒸気孔202が複数形成されている。蒸気孔202は図2に示すように列状に所定間隔で複数形成することができる。
【0024】
3は水蒸気室であり、水蒸気室3は例えば図示のようにスクリュー20の軸200の端部(図面上右端の部位)を包持しつつエクスクルーダ2の端部(図面上右端)に固定される。軸200の中空筒内部の端部(図面上右端)は蒸気室3内に開放しており、中空内部に水蒸気が供給されるように構成されている。
【0025】
ホッパー1から投入されたチップTは、スクリュー20の回動によって、図面上左側から右側に向かって搬送される。
【0026】
本発明では、チップTの搬送過程で、チップTを膨潤処理する。膨潤処理する工程では、100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温する。
【0027】
上記のような複数の蒸気孔202から供給される蒸気が搬送過程のチップTに均一に接触し、チップTを加熱処理して膨潤する。かかる膨潤によってチップTの分解対象となるヘミセルロースなどが表面に露出するようになるので、後段の酸処理による酸化(ヘミセルロースからキシロースへの酸化など)が容易になる効果がある。
【0028】
本発明において、「徐々に水蒸気加温する」というのは、エクスクルーダ2のチップTの投入口付近で100℃の加温から開始し、徐々に温度を上昇し、エクスクルーダ2の最後の部位で150℃まで加温するようにすることを意味している。
【0029】
徐々に加温することにより、木チップの組織に含まれる脂質、デンプンが硬化したり、あるいは粘性を増加させることなく、組成変成を抑制して、水蒸気による膨潤を効率的に行うことができる。
【0030】
温度上昇速度は、5〜30℃/分の範囲で上昇させていくことが好ましく、この範囲で比例的に上昇させてもよいし、階段状に上昇させてもよい。
【0031】
徐々に温度を上昇させる手段は、蒸気孔から吐出する水蒸気の吐出量を制御する手段又は蒸気温度を蒸気孔毎に変化させる手段から選ばれる。
【0032】
蒸気孔から吐出する水蒸気の吐出量を制御する手段としては、図示しないが、蒸気孔の径をエクスクルーダ2の一側(図面上左側)より他側(図面上右側)の方に向かって大きくするような手法が挙げられる。蒸気温度を変化させる手段としては、供給する蒸気温度を時間の経過に応じて変化させる手法である。
【0033】
次に、膨潤処理されたチップTは、酸処理装置4に送られる。酸処理装置4は竪型の処理装置本体400を備えている。処理装置本体400はチップTを受け入れるための入口部401がエクスクルーダ2のチップTの出口部203と連結管204で連結されている。
【0034】
402はスクリューフィーダであり、モータ403に連結されており、モータ403の回動によってスクリューフィーダ402が回動しながら、受け入れられたチップTを下方に移送する。
【0035】
処理装置本体400内には、0.1〜20%の希硫酸が装填されており、膨潤されたチップTを酸化分解して糖化処理する。希硫酸は処理装置本体400の下部に設けられた入口404から入り、上部の出口405から糖化液と共に排出される。
【0036】
酸処理装置4での酸処理はバッチ式の運転で行われ、チップTは処理装置本体400に投入され、所定時間の酸処理が終了したら、使用済みチップTはチップ受槽5に送る。
【0037】
本発明では、酸処理の前に膨潤処理が施されているので、チップTの分解対象となるヘミセルロースなどが表面に露出し、例えばヘミセルロースからキシロースへの酸化などが容易になる効果がある。
【0038】
使用済みチップTが排出されたら、再度処理装置本体400内にエクスクルーダ2で膨潤処理されたチップTを受け入れて酸処理する。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の形態に限定されず、例えば、図3に示すような形態を採用することもできる。図3の形態は水蒸気をエクスクルーダ2内に供給する際に、エクスクルーダ2の外周に複数の水蒸気供給口205を設け、供給口205の各々に水蒸気管206が接続されている。なお、図3において、図1と同一符号の部位は同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0040】
このような態様によっても図1の態様よりも、効率的には若干劣るものの本発明の目的は達成しえる。
【0041】
上記のようにして糖化されて得られた糖化液は、通常の処理に従って発酵することにより、エタノールを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の木質系バイオマスチップの前処理方法を実施するための装置の一例を示す概略断面図
【図2】エクスクルーダの軸の一態様を示す要部斜視図
【図3】本発明の木質系バイオマスチップの前処理方法を実施するための装置の他の例を示す概略図(酸処理装置を除く)
【符号の説明】
【0043】
1:ホッパー
2:エクスクルーダ
20:スクリュー
21:回転用モータ
22:軸受け
200:軸
201:搬送羽根
202:蒸気孔
203:出口部
204:連結管
205:水蒸気供給口
206:水蒸気管
3:水蒸気室
4:酸処理装置
400:処理装置本体
401:入口部
402:スクリューフィーダ
403:モータ
404:入口
405:出口
5:チップ受槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質系バイオマスチップを糖化と発酵によりエタノールを製造する前処理方法において、
前記木質系バイオマスチップを膨潤処理する工程と、希硫酸で酸処理する工程を有し、前記膨潤処理する工程で、100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温することを特徴とする木質系バイオマスチップの前処理方法。
【請求項2】
前記膨潤処理する工程における温度上昇速度が、5〜30℃/分の範囲であることを特徴とする請求項1記載の木質系バイオマスチップの前処理方法。
【請求項3】
木質系バイオマスチップの径が、3cm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質系バイオマスチップの前処理方法。
【請求項4】
木質系バイオマスチップを水蒸気により膨潤する膨潤処理装置と膨潤処理された前記木質系バイオマスチップを酸処理する酸処理装置からなる木質系バイオマスチップの前処理装置において、
前記膨潤処理装置は、前記木質系バイオマスチップを投入するホッパーを一側に設けた横型筒状のエクスクルーダを有し、該エクスクルーダは、木質系バイオマスチップを攪拌混合しながら前記一側から他側に搬送するスクリューを備え、該搬送過程で木質系バイオマスチップを100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温するための水蒸気を供給する水蒸気供給手段を有し、
前記酸処理装置は、竪型筒状構造をなし、前記膨潤処理装置の他側から排出された木質系バイオマスチップを導入して酸と向流接触させて処理する構造を有していることを特徴とする木質系バイオマスチップの前処理装置。
【請求項5】
前記スクリューは、回転軸を有し、該回転軸は中空円筒部材により構成されており、表面に所定間隔に蒸気孔が複数設けられていることを特徴とする請求項4記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【請求項6】
前記膨潤処理装置の他側に、水蒸気室が設けられ、該水蒸気室内で前記回転軸の中空部端が開放され、該中空部に水蒸気が供給可能な構造であることを特徴とする請求項5記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【請求項7】
木質系バイオマスチップの径が、3cm以下であることを特徴とする請求項4、5又は6記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。
【請求項8】
前記木質系バイオマスチップを100℃〜150℃の間で徐々に水蒸気加温する手段が、蒸気孔から吐出する水蒸気の吐出量を制御する手段又は蒸気温度を変化させる手段から選ばれることを特徴とする請求項4、5、6又は7記載の木質系バイオマスチップの前処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−202518(P2007−202518A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27699(P2006−27699)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】