説明

木造建築物

【課題】木材によるトラスの下弦材から上弦材までの高さを充分に大きくして長い支間の荷重を支持するとともに、下弦材の高さと上弦材の高さとの間の空間を上層階の空間として有効に利用することができる木造建築物を提供する。
【解決手段】長い支間となる1階の支持柱7a,7b間に木材からなるトラスを架け渡すものとし、1階の天井より上方で2階の床を支持する第1の横架材8と、複数の2階部分の柱17と、2階部分の柱17間に架け渡された第2の横架材18と、2階の柱間に設けられた斜材16とをトラス構造とし、2階に作用する荷重を支持する。トラスの支間中央部には柱間に斜材が設けられず空間が形成され、この空間を2階の廊下として活用する。また、斜材が設けられる部分は居室間の隔壁とする。3階部分の柱27、斜材26及び3階の天井より上方に配置される第3の横架材28も、一連のトラス構造に含むこともできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、柱の間隔を大きくして広い空間が形成された下層階と、この下層階の上にトラス構造によって支持される上層階とを有する木造建築物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造建築物は森林資源が豊富なわが国では風土に馴染むだけでなく、資材としての木材の消費を促進することになり、森林を保護することにも繋がる。このため、環境保護や森林保護の目的から、公共施設や高齢者が集う高齢者施設を木造で建設することが望まれることがある。このような多数の人が集まる施設では、集会室、ホール、食堂、娯楽室等として広い空間を確保することが求められる。また、このような多数の人が集まる空間は下層階に設けられることが多い。したがって、このような木造建築物では、柱の間隔を大きくして設けられた空間の上に構造部材を架け渡し、上層階の荷重を支持する必要がある。
【0003】
支間の長い構造部材で上層階の荷重や屋根を支持するときには、構造部材としてトラス構造が採用されることがある。例えば特許文献1に、木材からなる複数の柱材と木材からなる複数の梁材とを組み合わせるとともに筋交(斜材)を用いてトラス構造とした横架体及びこの横架体を用いた建築物が記載されている。
この建築物は、複数の柱と梁とを組み合わせて箱状に形成された壁体間に、横架体が架設されたものである。また、横架体は、木材からなる複数の柱と梁とを組み合わせ、この柱と梁との接合部と、この接合部の対角にある柱と梁との接合部とを、ターンバックル付き鉄筋ブレースで連結してトラス構造としている。これにより、2つの壁体間の長い支間に作用する荷重を支持するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−284918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなトラス構造を有する横架体は長い支間に作用する荷重を支持するために必然的に上側の梁材(上弦材)と下側の梁材(下弦材)との間隔つまりトラスの高さが大きくなる。そして、柱と梁とで形成される枠内にブレース(斜材)が配置され、このブレースが支間の方向の立面内及びこれと直角となる方向の立面内に用いられている。このために、トラスの上弦材の高さから下弦材の高さまでの空間を利用することができず、下弦材から上弦材までの高さが大きくなると、建築物内の空間の利用効率が悪くなってしまう。
【0006】
本願発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トラスの下弦材から上弦材までの高さ、つまりトラスの高さを充分に大きくして、長い支間に作用する荷重を支持するとともに、下弦材の高さから上弦材の高さまでの空間を上層階の空間として有効に利用することが可能となる木造建築物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、 下層階に、上層階を支持する支持柱の間隔が大きい空間を有し、 前記下層階の天井より上方で前記上層階の床より下方において前記支持柱間に架け渡された木製の第1の横架材と、該第1の横架材上に立設された複数の木製の柱と、前記上層階の天井より上方で前記柱間に架け渡された木製の第2の横架材と、前記柱間の前記第1の横架材と前記第2の横架材との間に設けられた木製の斜材と、がトラス構造として前記空間上の前記上層階に作用する荷重を支持するものであることを特徴とする木造建築物を提供する。
【0008】
この木造建築物は、上層階の床より下方に架け渡された第1の横架材を下弦材とし、上層階の天井より上方に架け渡された第2の横架材を上弦材としてトラス構造が形成されるので、トラスの下弦材から上弦材までの高さを充分に大きくして、長い支間の荷重を支持することができる。そして、トラスの下弦材より上方で上弦材より下方に形成された空間を上層階の空間として有効に利用することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の木造建築物において、 前記トラス構造の支間の中央付近に設けられた2つの前記柱間は、前記斜材を設けずに2つの前記柱と前記第1の横架材と前記第2の横架材とで囲まれた内側が開放されて、前記上層階の廊下となっており、 前記廊下の両側には仕切壁で仕切られた複数の居室が設けられ、前記第1の横架材上に立設された前記柱と前記斜材とは、前記居室間の仕切壁内に設けられたものとする。
【0010】
この木造建築物では、トラス構造の中央部分には斜材が設けられていないが、支間の中央部分では大きなせん断力が作用しないので、斜材を設けることなく上層階に作用する荷重を支持することができる。そして、この斜材がない領域をトラスの面を横切るように連続した空間つまり廊下として利用することができる。また、トラスの斜材が設けられた範囲は居室間の隔壁とし、トラスの下弦材の高さより上方で上弦材の高さより下方の空間を居室として有効に利用することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の木造建築物において、 前記トラスの支間の中央付近における前記柱の間隔が端部付近の柱の間隔よりも広くなっているものとする。
【0012】
この木造建築物は、せん断力が強く作用するトラスの端部付近で柱の間隔を狭くしているので、斜材に作用する力が支間の中央付近と端部付近とで差が大きくなるのを抑制し、部材の寸法や接合部の構造が中央付近と端部付近とで大きく異なるのを回避することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1、請求項2又は請求項3に記載の木造建築物において、 前記上層階の上に第2の上層階が構築され、 前記第2の横架材上に立設された複数の木製の上部柱と、前記第2の上層階の天井より上方で前記上部柱間に架け渡された木製の第3の横架材と、前記上部柱間の前記第2の横架材と前記第3の横架材との間に設けられた木製の斜材とが、前記第1の横架材と、前記第2の横架材と、前記第1の横架材と前記第2の横架材との間に設けられた柱及び斜材とともに、一連のトラス構造として前記上層階及び前記第2の上層階に作用する荷重を支持するものとする。
【0014】
このような構成によりトラスを高くすることができ、トラスの各部材に作用する力を過大とすることなく、支持柱間の上層階及び第2の上層階に作用する大きな荷重を支持することが可能となる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の木造建築物において、 前記第1の横架材と前記第2の横架材、又は前記第1の横架材、前記第2の横架材及び第3の横架材は、複数の木材を前記支持柱間の1箇所又は複数の箇所で、端面を対向させて接続したものであり、 該接続部分は、端面間の間隔を増大又は縮小するように調整可能となっているものとする。
【0016】
このような構成により、トラス構造として架設するときに各横架材の高さ方向の位置を調整することができる。つまり、下側の横架材の接続部分では対向する端面の間隔を縮小し、上側の横架材の接続部分では端面の間隔を拡大することによって横架材の支間中央部の位置が高くなるように変形させることができる。また、荷重が作用してたわみが生じたときに、これを補正するために接続部分における端面の間隔を調整することができる。さらに、トラスの架設後長時間が経過し、持続荷重の作用によって徐々に生じたたわみ変形(クリープによる変形)に対しても、同様に接続部分の調整により補正することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本願発明に係る木造建築物は、トラスの下弦材である横架材から上弦材である他の横架材までの高さを充分に大きくして、長い支間の荷重を支持することができるとともに、下弦材と上弦材との間の空間を上層階の空間として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明の一実施形態である木造建築物の1階の一部を示す平面図である。
【図2】図1に示す1階部分の階上となる2階の一部を示す平面図である。
【図3】図1示す木造建築物の構造部材としてトラスが用いられた部分(図1及び図2中に示すA―A線)の断面図である。
【図4】図3に示すトラスの一部を拡大して示す側面図及び平面図である。
【図5】図3及び図4に示すトラスの接合部分を示す側面図及び平面図である。
【図6】横架材の接続部分を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
図1は本願発明の一実施形態である木造建築物の1階の一部を示す平面図、図2は図1に示す部分の上層階を示す平面図、図3は図1及び図2中に示すA―A線における断面図である。
この木造建築物は、柱の間隔が長い広い空間を備えた下層階としての1階と、この1階の広い空間上に上層階である2階と、第2の上層階である3階とがある3階建てとなっており、高齢者施設として用いられるものである。この建築物の平面形状はほぼ長方形となっており、南面に玄関(図示しない)が設けられ、奥行き方向(南北方向)が短く(約13m)、東西に長く(約47m)建てられている。
【0020】
上記建築物の1階には、建物の中心部に東西方向の廊下1が設けられ、この廊下1の両側に玄関(図示せず)、事務室、食品庫、厨房等が設けられている。そして、この廊下の東側の突き当たりに食堂2として用いられるホールが設けられている。この食堂2は、隣接する手洗室3とパントリー4との間には隔壁が設けられているが、これらの隔壁より東側は、北側の外壁面から南側の外壁面まで柱のない広い空間となっている。
手洗い室3とパントリー4との隔壁部分には柱を立設し、上層階の荷重を支持するものとなっているが、これより東側の部分では北側の外壁5に沿った位置と南側の外壁6に沿った位置とに支持柱7a,7bを立設し、これらの間の長い支間に南北方向へ架け渡した構造部材10によって上層階の荷重を支持するものとなっている。
【0021】
一方、2階は、図2に示すように建物の中央部分に東西方向の廊下11が設けられており、この廊下11は建築物の東西方向の一方端から他方端まで連続している。そして、廊下11をはさんで南側と北側とにそれぞれ複数の居室12が配置されている。また、2階部分は建物の周囲に避難通路を兼ねたバルコニー9が設けられている。
上記食堂2の上部となる2階部分は、廊下11とその両側に設けられた6つの居室となっている。また、3階は2階とほぼ同じ間取りで廊下と複数の居室とが設けられている。
【0022】
食堂2の上に架設され、長い支間となる構造部材10は、木部材を組み合わせたトラス構造として2階部分及び3階部分の荷重を支持できるものとなっている。
上記トラスは、図3に示すように食堂2の北側と南側との外壁に沿って立設された支持柱7a,7bで支持され、これらの間に架け渡されている。そして、構造部材10としてこのトラスが架け渡される平面上の位置は、2階及び3階では居室12と居室12との隔壁12aが設けられる位置となっている。
なお、食堂の東側の外壁2a、手洗室3及びパントリー4の隔壁3a,4aが設けられた位置では、1階部分に立設された複数の柱で横架材が支持され、この上に2階部分の柱を立設するとともに、1階部分及び2階部分の柱間に筋交い又は面材を固定して水平力に抵抗する通常の軸組構造が採用されている。
【0023】
上記トラスは、図3に示すように、第1の横架材8と、第1の横架材8上に所定間隔で立設された複数の2階部分の柱17と、これら柱17の上に架け渡された第2の横架材18と、2階部分の柱17、第1の横架材8及び第2の横架材18で囲まれた枠内に設けられた斜材16と、を含むものである。そして、第2の横架材18上に立設された複数の3階部分の柱(上部柱)27と、これら柱27の上に架け渡された第3の横架材28と、3階部分の柱27間に配置された斜材26も、一連のトラス構造を形成するように連結されている。つまり、第1の横架材8は下弦材、第2の横架材18は中間弦材、第3の横架材28は上弦材となり、2階部分の柱17及び3階部分の柱27は垂直材となって2階部分の斜材16及び3階部分の斜材26とともにトラス構造を構成している。したがって、本実施の形態ではトラスの高さつまり下弦材から上弦材までの間隔が約5.0mとなっている。
なお、上記斜材16,26には主に圧縮力が作用するように支間中央部側から端部がわにかけて下方へ傾斜して配置され、いわゆるハウトラスを構成するものとなっている。
【0024】
2階部分の柱17及び3階部分の柱27が立設される間隔は、トラスの支間の中央付近が端部付近よりも広くなっている。一般に、2つの支点間に支持された梁又はトラスでは、支点付近でせん断力が強く作用することから、主にせん断力に抵抗する斜材16,26の負荷が端部付近において過大とならないようにしている。また、支間中央部はせん断力が強く作用しないために、支間中央部に立設された2本の2柱間(柱17aと17bの間、柱27aと柱27bの間)には斜材が設けられていない。この部分では、主に下弦材である第1の横架材8、中間弦材である第2の横架材18及び上弦材である第3の横架材の曲げ剛性で荷重に抵抗するものとなっている。
このように、支間中央部の2階部分に立設された2本の柱17a,17b間及び3階部分に立設された2本の柱27a,27b間には斜材が配置されず、これらの間が開放されている。これにより、トラスの中央部の開放された空間を2階の廊下11及び3階の廊下21として活用されている。また、廊下11,21の両側の斜材16,26が設けられた部分は隣り合った居室12の隔壁12aとすることができる。
【0025】
2階の床は、図4に示すように、第1の横架材8に床根太13を支持させ、この上に床材(図示せず)を配置して形成される。また、1階の天井は第1の横架材8の下側で、第1の横架材8又は床根太13から吊り支持される。一方、2階の天井は第2の横架材18の下側に形成され、同様に第2の横架材18又はこの第2の横架材18に支持された床根太23に吊り支持される。また、3階の床は2階の床と同様に、第2の横架材18に支持された床根太23上に形成され、3階の天井も2階の天井と同様に、第3の横架材28の下側に吊り支持される。したがって、トラスの下弦材である第1の横架材8の高さと中間弦材である第2の横架材18の高さとの間及び中間弦材の高さと上弦材である第3の横架材28の高さとの間に廊下及び居室を設けることが可能となり、トラス間が2階及び3階の居室として有効に利用されている。
【0026】
次に、上記トラスを構成する木部材の接合構造について説明する。
図5は、横架材と柱と斜材とが接合される格点における接合構造を示すものであり、2階の床の下側に配置される第1の横架材8とこの上に立設される2階部分の柱17と2階部分の斜材16との接合部を例として示すものである。
図5に示すように、第1の横架材8の2階部分の柱17及び斜材16と接合される位置には第1のスクリュー部材31及び第2のスクリュー部材32が鉛直方向にねじ込まれている。第1のスクリュー部材31及び第2のスクリュー部材32は、第1の横架材8の軸線方向に所定の間隔を開けてねじ込まれ、それぞれは第1の横架材8の幅方向に2本が配置されている。また、柱17には、下端から鉛直方向に第3のスクリュー部材33がねじ込まれており、この第3のスクリュー部材33も2本が平行に配置されるとともに、この第3のスクリュー部材33の軸線の位置が上記第1のスクリュー部材31の軸線位置とほぼ一致するものとなっている。さらに、斜材16にも端面から軸線方向に第4のスクリュー部材34がねじ込まれている。
【0027】
これらのスクリュー部材31,32,33,34のそれぞれには端面から軸線方向にネジ穴が穿設されており、第1のスクリュー部材31と第2のスクリュー部材32に設けられたネジ穴にねじ込んだボルト37,38により、第1の横架材8の上面に斜材接合金具35が固定されている。また、第1のスクリュー部材31にねじ込んだボルトは、柱接合金具36を斜材接合金具35とともに第1の横架材8に固定するものとなっている。
【0028】
斜材接合金具35は、第1の横架材8の上面と当接する水平板部35aと、2階部分の柱17の側面と当接する柱当接部35bと、上記水平板部35aから上方に突出した鉛直板部35cとを有している。水平板部35aには第1のスクリュー部材31及び第2のスクリュー部材32の端面と対向する位置に孔が開削されている。そして、この孔に挿通したボルト37,38が第1のスクリュー部材31及び第2のスクリュー部材32に設けられたボルト穴にねじ込まれ、締め付けて斜材接合金具35が第1の横架材8に固定されている。また、上記ボルト37,38の他に複数のラグスクリュー40が、水平板部35aに開削された孔に挿通して第1の横架材8にねじ込まれている。
一方、柱当接部35bに形成された孔にもラグスクリュー41が挿通され、2階部分の柱17の側面にねじ込んで固定されている。
【0029】
第1のスクリュー部材31にねじ込んだボルト37によって固定される柱接合金具36は、斜材接合金具35上に当接される第1の当接板と、柱17の下端面に当接される第2の当接板と、これを連結する側板とを有するものである。第1の当接板は、第1のスクリュー部材31にねじ込むボルト37を挿通するための下孔が設けられており、この下孔が第1のスクリュー部材31と対応する位置で斜材接合金具35の水平板部35aの上面に当接される。そして、ボルト37を重ね合わされた第1の当接板と斜材接合金具の水平板部35aとに貫通させ、第1のスクリュー部材31のネジ穴にねじ込んで柱接合金具36及び斜材接合金具35を第1の横架材8に固定している。第2の当接板に設けられた上孔に挿通したボルト39は柱17にねじ込まれた第3のスクリュー部材33のボルト孔に下側からねじ込まれ、柱接合金具36が柱17の下端に固定される。これにより、柱接合金具36及び斜材接合金具35を介して第1の横架材8と柱17とが接合されている。
【0030】
斜材16の下端には斜材受け金具42が取り付けられており、この斜材受け金具42を介して斜材16が斜材接合金具35に固定される。斜材受け金具42は、斜材の端面に当接される斜材受け板42aと、この斜材受け板42aから下方へほぼ垂直に突き出した斜材接合板42bとを備えるものである。斜材受け板42aには、斜材にねじ込まれた第4のスクリュー部材34の端面と対向する位置にボルト孔が設けられており、この孔に挿通したボルト43を第4のスクリュー部材34のボルト孔にねじ込むことによって斜材受け金具42が斜材16に固定されている。また、これとともにラグスクリュー44が斜材受け板42aに設けられた小孔に挿通して斜材16の軸線方向にねじ込まれる。
なお、上記ボルト孔の近傍では斜材接合板42bに切り欠き42cが設けられており、この切り欠きが設けられた部分からボルト43をボルト孔に挿通し、締め付けることができるものとなっている。
【0031】
上記斜材受け金具42の斜材接合板42bは、斜材接合金具35の鉛直板部35cと重ね合わされ、これらの双方を貫通するボルト孔に挿通したボルト45によって斜材受け金具42が斜材接合金具35に固定される。これにより、斜材16が斜材受け金具42及び斜材接合金具35を介して第1の横架材8及び柱17と接合される。
【0032】
以上に説明した接合構造は、斜材16及び柱17の下端を横架材8に接合するものであるが、斜材16及び柱17の上端を横架材18に接合する部分は、同様の構造を上下を逆にして用いることができる。また、柱のみを横架材に接合する部分では、横架材にねじ込んだ鉛直方向のスクリュー部材と柱の軸線方向にねじ込んだスクリュー部材と柱接合金具とを用いて同様に接合することができる。
【0033】
上記トラスを構成する横架材、つまり第1の横架材8、第2の横架材18又は第3の横架材28は、一本の連続した木材を用いても良いが、全長が長くなるために複数本の木材を軸線方向に接続して用いることができる。
木材を軸線方向に接続する構造には、例えば図4及び図6に示す構造を採用することができる。
【0034】
この横架材の接続構造は、接合して横架材とする二つの木材80a,80bの端面から軸線方向にねじ込まれたスクリュー部材51,52と、一方の木材80aにねじ込んだスクリュー部材51に固定される接続金具53と、この接続金具53を固定するためのボルト54と、他方の横架材80bにねじ込んだスクリュー部材52のネジ穴に螺合される頭なしボルト55と、この頭なしボルト55とねじり合わされる3つのナット56,57,58と、二つの木材の側面に取り付けられる鋼プレート59と、を用いるものである。
【0035】
スクリュー部材51,52は、双方の木材80a,80bの端面からねじ込んだときに軸線の位置がほぼ一致するように、接続するそれぞれの木材に4本ずつがねじ込まれている。そして、それぞれのスクリュー部材51,52には端面から軸線方向にボルト穴が設けられている。接続金具53は、柱17と横架材8との接合に用いられた柱接合金具36と同じ形態のものを用いることができ、当接板53aに設けられた孔に挿通したボルト54を一方の木材80aにねじ込んだスクリュー部材51のボルト穴にねじ込んで固定されている。他方の木材80bにねじ込まれたスクリュー部材52のボルト穴には、頭なしボルト55がねじ込まれ、この頭なしボルト55と螺合された第1のナット56がスクリュー部材52の端面に当接して締め付けられる。また、頭なしボルト55には第2のナット57及び第3のナット58が螺合されており、接続金具53の当接板53bに設けられた孔に上記頭なしボルト55が挿通され、第2のナット57と第3のナット58との間に接続金具の当接板53bを挟み込んで頭なしボルト55に対する位置が固定されるものとなっている。したがって、第2のナット57と第3のナット58の位置を調整することによって接続する木材の対向する端面の間隔を調整することが可能となっている。
【0036】
上記鋼プレート59は、二つの木材の双方にわたって両側面に当接され、ビス60で固定するものである。これらの鋼プレート59を固定する時期は、上記木材の端面の間隔を調整した後とすることができ、調整が不要である場合には接続後直ちに取り付けることができる。
これらの鋼プレート59を取り付けることにより、接続部分に作用するせん断力に対して補強することができる。なお、ボルト54、55と接続金具53とによって充分な強度を有する場合には、上記鋼プレート59は不要となる。
【0037】
上記のような構造によって、図3に示すようにトラスを構成する第1の横架材8,第2の横架材18及び第3の横架材28が支間の中央部で接続されている。そして、これらの接続部で対向する端面の間隔を調整することにより、トラスのたわみ量の調整又はトラスの高さ方向の位置の調整が可能となる。つまり、第1の横架材8、第2の横架材18及び第3の横架材28の接続部において、対向する端面の間隔を、上方の横架材で下方の横架材より増大することによって、トラスの中央部を上昇させることができる。なお、下方の横架材は端面の間隔を縮小するものであってもよい。また、逆に下方の横架材で上方の横架材より端面の間隔を増大することによって、トラスの中央部を下降させることができる。
【0038】
このような調整は、架設する前のトラスを予め組み立てたときに行うことができ、トラスを架設した後に行うこともできる。架設後の調整を行うときには、接続部に大きな負荷が作用しないようにトラスをジャッキ等で仮支持するのが望ましい。また、年月の経過とともにトラスのたわみが増大したときにも、鋼プレート59を取り外して上記接続部の端面の間隔を調整することによってたわみを低減することができる。
なお、本実施の形態では、1つの横架材の接続に4個の接続金具を使用し、接続する木材の双方の端面からは4本ずつのスクリュー部材をねじ込む構造としたが、これらの数は4個に限定されるものではないし、適宜に他の構造を採用して設計することもできる。また、接続する位置は、本実施の形態ではトラスの支間の中央部としたが、これ以外の位置とすることもでき、複数の接続部を設けても良い。
【0039】
以上に説明した実施の形態の木造建築物では、第1の横架材8、第2の横架材18、第3の横架材28、2階部分の柱17、2階部分の斜材16、3階部分の柱27及び3階部分の斜材26を1連のトラスとしたが、第1の横架材8を下弦材、第2の横架材18を上弦材として、これらと2階部分の柱17及び2階部分の斜材16とでトラス構造を形成するものであっても良い。このような構造とするときには3階部分の柱27はトラスの上弦材の上に支持されて立ち上げられ、第3の横架材28を支持するとともに、第3の横架材28に作用する水平力に対しては、斜材26が筋交いとして抵抗するものとなる。そして、第3の横架材28は、大きな軸力が作用しない部材として架設される。
【0040】
また、本発明はその他の点についても上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で他の形態として実施することもできる。
例えば、本実施の形態の木造建築物は3階建ての高齢者施設であるが、2階建てであってもよく高齢者施設に限定されるものでもない。また、木造建築物の間取りや大きさも本実施の形態に限定されるものではなく、上層階に架設されたトラスの間及びトラスの斜材のない空間を上層階の空間として活用できるとともに、トラスで長い支間に作用する荷重を支持できる構成であれば、他の形態のトラスを採用することもできる。部材の接合部の構造も、接合される各部材の少なくとも軸力とせん断力が互いに伝達される構造であれば、他の構造を採用することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1:1階の廊下、 2:食堂、 3:手洗室、 4:パントリー、 5:北側の外壁、 6:南側の外壁、 7a,7b:トラスを支持する1階部分の支持柱、 8:第1の横架材、 9:バルコニー、 10:構造部材(トラス) 11:2階の廊下、 12:2階の居室、 13:床根太、 16:2階部分の斜材、 17:2階部分の柱、 18:第2の横架材、 21:3階の廊下、 23:床根太、 26:3階部分の斜材、 27:3階部分の柱、 28:第3の横架材、
31:第1のスクリュー部材、 32:第2のスクリュー部材、 33:第3のスクリュー部材、 34:第4のスクリュー部材、 35:斜材接合金具、 35a:水平板部、 35b:柱当接部、 35c:鉛直板部、 36:柱接合金具、 37,38,39:ボルト、 40,41:ラグスクリュー、 42:斜材受け金具、 42a:斜材受け板、 42b:斜材接合板、 42c:斜材接合板の切り欠き、 43:ボルト、 44:ラグスクリュー、 45:ボルト、
51,52:スクリュー部材、 53:接続金具、 54:ボルト、 55:頭なしボルト、 56,57,58:ナット、 59:鋼プレート、 60:ビス、 80a,80b:横架材を構成する木材











【特許請求の範囲】
【請求項1】
下層階に、上層階を支持する支持柱の間隔が大きい空間を有し、
前記下層階の天井より上方で前記上層階の床より下方において前記支持柱間に架け渡された木製の第1の横架材と、該第1の横架材上に立設された複数の木製の柱と、前記上層階の天井より上方で前記柱間に架け渡された木製の第2の横架材と、前記柱間の前記第1の横架材と前記第2の横架材との間に設けられた木製の斜材と、がトラス構造として前記空間上の前記上層階に作用する荷重を支持するものであることを特徴とする木造建築物。
【請求項2】
前記トラス構造の支間の中央付近に設けられた2つの前記柱間は、前記斜材を設けずに2つの前記柱と前記第1の横架材と前記第2の横架材とで囲まれた内側が開放されて、前記上層階の廊下となっており、
前記廊下の両側には仕切壁で仕切られた複数の居室が設けられ、前記第1の横架材上に立設された前記柱と前記斜材とは、前記居室間の仕切壁内に設けられたものであることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物。
【請求項3】
前記トラスの支間の中央付近における前記柱の間隔が端部付近の柱の間隔よりも広くなっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の木造建築物。
【請求項4】
前記上層階の上に第2の上層階が構築され、
前記第2の横架材上に立設された複数の木製の上部柱と、前記第2の上層階の天井より上方で前記上部柱間に架け渡された木製の第3の横架材と、前記上部柱間の前記第2の横架材と前記第3の横架材との間に設けられた木製の斜材とが、前記第1の横架材と、前記第2の横架材と、前記第1の横架材と前記第2の横架材との間に設けられた柱及び斜材とともに、一連のトラス構造として前記上層階及び前記第2の上層階に作用する荷重を支持するものであることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3に記載の木造建築物。
【請求項5】
前記第1の横架材と前記第2の横架材、又は前記第1の横架材、前記第2の横架材及び第3の横架材は、複数の木材を前記支持柱間の1箇所又は複数の箇所で、端面を対向させて接続したものであり、
該接続部分は、端面間の間隔を増大又は縮小するように調整可能となっていることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の木造建築物。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136881(P2012−136881A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290555(P2010−290555)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)