説明

未熟児用肌着

【課題】本発明は、機能や安全面を最優先としつつ、点滴チューブのジョイントを外さなくても着替えることができるようにして感染症を起こす原因を減らすとともに、製作コストもかからない未熟児用肌着の技術提供を目的とするものである。
【解決手段】前身頃と該前身頃と同一形状の裏身頃と同一略扇形状の左右の袖と係止具とから構成し、前記裏身頃の左右の袖山と前記左右の袖の略扇形状を形成する腕方向の一辺を其々縫製し、該左右いずれか一方の袖の腕方向他辺を前記前身頃の左右いずれかの袖山と縫製し、前記前身頃及び裏身頃の両脇部に其々紐体による係止具を設け、縫製されていない前記前身頃袖山上部と縫製されていない前記袖の腕方向他辺上部にボタン及びボタン穴による係止具又は其々紐体による係止具を設けた未熟児用肌着とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未熟児用の肌着に関し、詳しくは袖を通さずに着衣及び脱衣が可能な未熟児用肌着に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全国的な出生率は低下しているにも関わらず、未熟児の出生率は増加傾向にある。これは、妊娠高血圧症候群、子宮筋腫などの産科的な理由により、発育不全の赤ちゃんを母体から外に出してあげた方が大きく育つだろうと医師が判断する場合があることや、クラミジアなどの感染症がある場合、あるいは女性の喫煙率の増加や飲酒、ストレス、過労など生活環境面等で発育不全が増えていることなど様々な理由によるものである。
【0003】
しかし、ここ十数年で未熟児医療は大きく進歩し、未熟児の生存率は著しく向上しており、我が国においても300g台の赤ちゃんの救命に成功している。一般的には、2000g以上の体重があれば、ほぼ後遺症もなく成長することができると言われている。しかし、1500g未満の極小低出生体重児や1000g未満の超低出生体重児では、保育器での体温管理、人工呼吸器を用いた呼吸管理、点滴や管からの栄養管理等、特別な治療を必要とする。
【0004】
なお、本書面における「未熟児」の意味は、医学的診断名である「低出生体重児」や「早産児」等を含む身体の機能が未熟なまま生まれてきた赤ちゃんのことを総称する用語として、以下、単に「未熟児」という。
【0005】
日本では、超未熟児として生まれた1000gの赤ちゃんが着られる30サイズや、保育器から出てからコットで着る40サイズの肌着がまだ全く普及していない。従って、未熟児で生まれると手も細く、また点滴などがついていて、小さなサイズの袖付きの肌着を着せるのは困難なため、現状のNICU(新生児特定集中治療室:Neonatal
Intensive Care Unit)では、あえてブカブカの肌着を着せるしかないのが現状である。親の立場からすると、小さく産んでしまったという申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、肌着ですら身体にあったサイズがないという、非常につらい現実を受けざるを得ない状況がある。そこで、未熟児用の着替えさせ易い肌着が求められている。
【0006】
また、医療従事者の立場からすると、点滴などがついている場合はできるだけ、感染症を引き起こさないよう、着替え時などに細心の気を配る必要もある。これは、未熟児の赤ちゃんは点滴や管から栄養管理されるため、通常の袖のある肌着を着替えさせる場合、脱衣前に点滴チューブのジョイントを外し、着衣後に繋ぐという作業を行うことが必要となり、このときジョイント部が他のものに触れると感染症を起こす原因になるからである。また、未熟児の中には、肌着の着替えでさえ体力的に負担になる場合もあり、骨格形成も未熟であるため、腕を袖に通す際に脱臼しやすいという問題もある。さらには、肌の色をこまめにチェックする必要もある。そこで、腕を袖に通さず、点滴チューブのジョイントを外さなくても容易に着替えが可能で、捲るだけで肌色チェックができる未熟児用肌着が求められている。
【0007】
これらの問題に鑑み、従来より種々の技術が提案されている。未熟児用ではないが、例えば、肌着の前身衣と後身衣に肩部稜線から裾回りへバイアステープを縦方向に縫いつけ、このバイアステープに前身衣の適度な位置に点滴用薬液ボトルポケットを形成して、前身衣と後身衣のバイアステープにより重さを分散して点滴用薬液ボトルを保持することを特徴とする自己点滴用肌着において、前記肌着が襟口から袖口へ肩部稜線に沿って開くことができるように分離部分が形成されており、該分離部分には面ファスナー、ホック、ボタン等の着脱自在の固着部材が設けられていることを特徴とする自己点滴用肌着、及び、前記前身衣が襟口から裾回りへ胸中心部を開くことができるように分離部分が形成されており、該分離部分には面ファスナー、ホック、ボタン等の着脱自在の固着部材が設けられていることを特徴とする自己点滴用肌着がある(特許文献1参照)。しかし、係る考案は、全体形状が人型の一般的形状を有しておりコストがかかる。また、係る考案は、点滴用薬液ボトルを肌着に保持させるためのものであり、点滴用薬液ボトルを肌着に保持できず、点滴用チューブを肌着から外部に出さなければならない未熟児用には適さない。
【0008】
また、肌着の両側面にファスナーを取り付けることにより、病院に通院して治療を受けている患者さんたちが、肌着を脱がずに簡単に腕や脚が出せる肌着の技術も提案されている(特許文献2参照)。しかし、係る技術では、腕や足などの部分的に肌を露出させることしかできず、全身を露出できない。
【0009】
なお、マジックテープ(登録商標)のような面ファスナーは、剥離時に大きな音を発生するため、未熟児を不安にさせてしまうので、未熟児用の肌着に用いる係止具としては不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】登録実用新案第3040359号
【特許文献2】特開2009−249742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、機能や安全面を最優先としつつ、点滴チューブのジョイントを外さなくても容易に着替えることができるようにして感染症を起こす原因を減らすとともに、製作コストもかからない未熟児用肌着の技術提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本願発明は、略台形状の前身頃と、該前身頃と同一形状の裏身頃と、同一略扇形状の左右の袖と、係止具とから構成し、前記裏身頃の左右の袖山と前記左右の袖の略扇形状を形成する腕方向の一辺を其々縫製し、該左右いずれか一方の袖の腕方向他辺を前記前身頃の左右いずれかの袖山と縫製し、前記前身頃及び裏身頃の両脇部に其々紐体による係止具を設け、縫製されていない前記前身頃袖山上部と縫製されていない前記袖の腕方向他辺上部にボタン及びボタン穴による係止具又は其々紐体による係止具を設けたことを特徴とする未熟児用肌着とした。
【0013】
また、本願発明は、前記未熟児用肌着を構成する前身頃と裏身頃と左右の袖の縁部を、伸縮しない一本以上の糸と、伸縮性を有する一本以上の糸でかがり縫いしていることを特徴とする未熟児用肌着とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る未熟児用肌着によれば、首がすわっていない赤ちゃんや、身体がどんなに小さい赤ちゃんでも肌着の上に寝かせるだけで、簡単に着替えることができるといった優れた効果を発揮する。
【0015】
また、本発明に係る未熟児用肌着によれば、点滴や管が身体に入っている赤ちゃんでも点滴チューブのジョイントを外さずに着替えさせることができるため、感染症などのリスクを回避しつつ、衛生的で、しかも簡単に着せることができるといった優れた効果を発揮する。
【0016】
また、本発明に係る未熟児用肌着によれば、看護士さん等も着せ替えに手間取ることがないので、多忙な医療従事者の労力軽減や時間の節約などにも資するといった優れた効果を発揮する。より具体的に説明すると、細心の注意を払う未熟児の着替えにおいて、袖を通す肌着の場合では通常一分程度は要するのに対し、本発明に係る未熟児用肌着によれば、着せるのも脱がせるのも其々十秒とかからない。
【0017】
また、本発明に係る未熟児用肌着によれば、前身頃と裏身頃が左右対称の同一形状であり、左右の袖も左右対称の同一形状であり、平面の状態の肌着から肩と脇の三箇所をとめるだけで立体的な肌着が完成するため、製作コストを抑えることができ、また、型紙や裁断及び縫製等、製作が容易であるという優れた効果を発揮する。
【0018】
また、本発明に係る未熟児用肌着によれば、点滴の漏れや肌の色を確認する時は、肌着の係止具を外さなくても裾をめくるだけで簡単にチェックすることができるため、従来の肌着に比べて、非常に管理しやすいという優れた効果を発揮する。
【0019】
また、本発明に係る未熟児用肌着によれば、縫製されていない他辺をもつ側の袖は、係止具を外さなくても簡単にめくれるため、注射なども容易にできるという優れた効果を発揮する。
【0020】
また、請求項2に係る本発明の未熟児用肌着によれば、布の端がほつれないようにしつつ、伸縮性を持たせることで、未熟児の赤ちゃんにも優しい肌着を提供できるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる未熟児用肌着の全体構成を示す平面図である。
【図2】本発明にかかる未熟児用肌着の使用状態を示す説明斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る未熟児用肌着は、前身頃と裏身頃と左右の袖との平面状態から、肩と脇の三箇所をとめるだけで、立体的な肌着が完成する点を最大の特徴とする。以下、本発明の実施の形態を、添付の図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、本発明にかかる未熟児用肌着10の全体構成を示す平面図である。
【0024】
未熟児用肌着10は、略台形状の前身頃30と該前身頃30と同一形状の裏身頃20と同一略扇形状の左右の袖40・50と係止具60とから構成され、裏身頃20の左右の袖山と左右の袖40・50の略扇形状を形成する腕方向の一辺が其々縫製され、左右いずれか一方の袖40・50の腕方向他辺を前身頃30の左右いずれかの袖山と縫製して平面的な一枚の布状体を形成し、これに、前身頃30及び裏身頃20の両脇部に其々紐体による係止具60を設け、さらに、縫製されていない前身頃30の袖山上部と、縫製されていない袖40・50の腕方向他辺上部にボタン70及びボタン穴80による係止具又は其々紐体による係止具60を設けて成る。なお、前身頃30と裏身頃20と左右の袖40・50とを、一枚生地から図1の形状に裁断し、これに係止具を設ける構成を採用しても同一の効果を得ることができる。
【0025】
未熟児用肌着10に使用される前身頃30と裏身頃20と袖40・50の素材は特に限定されるものではないが、未熟児110が口に入れても安全で、適度な吸水性及び保湿性を有し、肌に刺激の少ない素材を用いる。例えば、コットン(木綿:cotton)100%等が考えられるが、更に望ましくは農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で、農薬や化学肥料を使わないで生産されたオーガニック・コットン(有機栽培綿:organic cotton)を使用するとより安全である。
【0026】
略台形状の前身頃30と裏身頃20とを完全同一にすれば製作コストを抑えられるが、前身頃30の襟の部分の開口面積を裏身頃20より大きくすることで首回りを楽にしてあげることも有効である。
【0027】
紐体による係止具60の素材も前記同様にコットン等を用いるが、係止具としての伸縮に対する強さが必要となるので、スムース織りされた生地を用いるのが望ましい。
【0028】
図1では、縫製されていない前身頃30袖山上部と縫製されていない袖40・50の腕方向他辺上部にボタン70及びボタン穴80による係止具を用いた場合を示しているが、ボタン70及びボタン穴80による係止具ではなく、紐体による係止具60を設ける構成でも良い(図示なし)。ボタン70及びボタン穴80による係止具を設ける構成を採用する場合は、仰向け寝の時に医療従事者が脱がせ易くなり、紐体による係止具60を設ける構成を採用する場合は、うつ伏せ寝の時に硬いボタンによる痛みを回避できる。
【0029】
図2は、本発明にかかる未熟児用肌着の使用状態を示す説明斜視図であり、図2(a)は着用状態を示し、図2(b)は体の前面を露出させた状態を示している。
【0030】
図2(a)に示すように、胸や腕に取り付けられる点滴チューブ90や管などは、大きな隙間を通じて外部に出ているため、未熟児110が多少動いたり、未熟児用肌着10を引っ張っても自由度が大きいので、外れにくく安全である。また、図示はしていないが、係止具を一箇所も外さなくても、図の例では右袖は自由に開くことができるため、点滴針の状態チェックや右腕への注射は可能である。また、聴診器を当てて心音や呼吸音を聞く場合は、ボタン70を外すだけで胸部が大きく開口するため、容易に診察できる。さらに、腹部の診察では、図の例では右脇部の係止具60を外すだけで腹部を大きく開口させることができる。
【0031】
そして、三箇所の係止具を全て外せば、図2(b)に示すように、全身を露出させることができ、この場合において点滴チューブ90のジョイント100や管等を外す必要はない。
【実施例2】
【0032】
つぎに、本発明に係る未熟児用肌着10の第二の実施例について説明する。発明に係る未熟児用肌着10の第二の実施例では、未熟児用肌着10を構成する前身頃30と裏身頃20と左右の袖40・50の縁部を、伸縮しない一本以上の糸と、伸縮性を有する一本以上の糸でかがり縫いしている構成を採用している。
【0033】
かがり縫いに用いる糸がすべて伸縮しない糸であると、縁部が固くなり過ぎ、すべて伸縮性を有する糸であると、伸びやすくなってしまうからである。係るかがり縫いにはロックミシンを用い、例えば、伸縮性を有する一本以上の糸には、ウーリー糸を用い、伸縮しない二本以上の糸にはスパン糸を用いる。より具体的には、前身頃30と裏身頃20と左右の袖40・50の縁部を、ウーリー糸とスパン糸が交互、又は複数のスパン糸の合間にウーリー糸でかがり縫いをする。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、未熟児用のみならず、乳幼児や児童、若しくは大人の入院患者や被介護者等、幅広い医療の分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 未熟児用肌着
20 裏身頃
30 前身頃
40 袖
50 袖
60 係止具
70 ボタン
80 ボタン穴
90 点滴チューブ
100 ジョイント
110 未熟児




【特許請求の範囲】
【請求項1】
略台形状の前身頃と、該前身頃と同一形状の裏身頃と、同一略扇形状の左右の袖と、係止具と、から成る未熟児用肌着であって、
前記裏身頃の左右の袖山と前記左右の袖の略扇形状を形成する腕方向の一辺を其々縫製し、
該左右いずれか一方の袖の腕方向他辺を前記前身頃の左右いずれかの袖山と縫製し、
前記前身頃及び裏身頃の両脇部に其々紐体による係止具を設け、
縫製されていない前記前身頃袖山上部と縫製されていない前記袖の腕方向他辺上部にボタン及びボタン穴による係止具又は其々紐体による係止具を設けたことを特徴とする未熟児用肌着。
【請求項2】
前記未熟児用肌着を構成する前身頃と裏身頃と左右の袖の縁部を、伸縮しない一本以上の糸と、伸縮性を有する一本以上の糸でかがり縫いしていることを特徴とする請求項1に記載の未熟児用肌着。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−208305(P2011−208305A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76405(P2010−76405)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【特許番号】特許第4630385号(P4630385)
【特許公報発行日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(510086969)
【Fターム(参考)】