説明

未硬化の自立型硬化性有機組成物から歯科用装具を製造する方法

本発明は、未硬化の自立型硬化性有機組成物から構成される歯科用ミルブランクを特徴とする。本発明は、歯科用装具を製造する方法も提供する。その方法は、未硬化歯科用ミルブランクを未硬化成形品に機械加工する工程と、次いで、その成形品を少なくとも一部硬化する工程と、を含む。その成形品は、硬化工程の間に更なる機械加工工程を用いて、または用いず、複数の工程で硬化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工手順による歯科用および歯科矯正用装具の製造で使用するのに適している硬化性歯科用ミルブランク(mill blank)に関する。
【背景技術】
【0002】
適合するように特別に作られた補綴物(つまり、義歯)はしばしば、歯の構造の代用品として使用されている。一般的な歯科補綴物の例としては、修復材、換歯、インレー、オンレー、ベニア、全部鋳造冠および部分鋳造冠、ブリッジ、インプラント、ポスト等が挙げられる。現在、歯科学における大部分の補綴物は、歯科医師によって手作業で作製されるか、またはかかる作製をすることができる特殊な装置を有する歯科技工所によって製造される。
【0003】
歯科補綴物を作製するために使用される材料としては、一般に、金、セラミック、アマルガム、磁器、および複合材が挙げられる。充填などの歯科修復作業では、アマルガムが、寿命が長く、コストが低いことから人気のある選択肢である。アマルガムはまた、患者との一回のセッション中に歯科充填物を適合させ、かつ作製する能力を歯科医師に提供する。しかしながら、アマルガムの審美的価値は、その色が天然歯の色と大きく異なることから、かなり低い。大きなインレーおよび充填物の場合には、金が使用されることが多い。しかしながら、アマルガムと同様に、金充填物は、天然歯の色と大きく異なる。したがって、歯科医師は次第に、セラミックまたはポリマー−セラミック複合材料に方向転換している。というのは、これらの材料は、天然歯の色とよく調和することができるからである。
【0004】
手作業による歯科補綴物を作製する従来の手順には一般に、患者が歯科医と少なくとも2回のセッションを持つことが必要である。最初に、エラストマー材料を使用して歯列の印象を採得し、その印象から模型が作製されて、歯列が再現される。次いで、金属、セラミックまたは複合材料を使用して、模型から補綴物が作製される。次いで、適切な適合および快適さのために一連の工程が続く。この作製プロセスは、非常に長く(1〜2日間)、大きな労働力を要し、高度な技術および熟練が必要である。代替方法としては、医師は、より速い焼結金属システムを選択することが可能であるが、かかる手順はやはり、大きな労働力を要し、かなり複雑である。
【0005】
近年、技術の進歩によって、最小限の人間労働で補綴物を作製することができるコンピュータ自動化機械装置が提供され、作業時間が劇的に減少した。コンピュータ自動化が、光学、デジタル化装置、CAD/CAM(コンピュータ援用設計/コンピュータ援用機械加工)および機械切削加工器具と組み合わされる、この技術はしばしば、「デジタル歯科学」と呼ばれる。かかるコンピュータ化機械加工プロセスでは、従来の手作業の手順よりも高い速度および低い労力要求条件で、必要な修復物の正確に近い形状およびモフォロジーを、切断、切削加工、および研磨することによって歯科補綴物が作製される。
【0006】
CAD/CAM装置を使用した歯科補綴物の作製は一般に、「ミルブランク」、補綴物がそれから切断または切り分けられる材料のソリッドブロックの使用を含む。ミルブランクは一般に、セラミック材料で製造されている。VITAセレイ(CELAY)(登録商標)磁器ブランクVita Mark II Vitablocks(登録商標)およびVITA IN−CERAM(登録商標)セラミックブランク(Vita Zahn Fabrik社から入手可能;ドイツ,バートゼッキンゲン(Bad Sackingen,Germany))などの、市販されている種々のミルブランクがある。機械加工可能な雲母入りセラミックブランク(例えば、Corning MACOR(登録商標)ブランクおよびデンツプライ・ダイコア(Dentsply DICOR)(登録商標)ブランク)もまた市販されている。
【0007】
【特許文献1】国際公開第03/015720号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/26197 A2号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5,403,188号明細書
【特許文献4】米国特許第6,057,383号明細書
【特許文献5】米国特許第4,837,732号明細書
【特許文献6】米国特許第4,575,805号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セラミックミルブランクの機械加工から生じる不利点は、これらの材料が非常に硬く、その結果機械加工時間が長くなり、器具に高度の摩耗が生じることである。したがって、かかるブランクを機械加工するコストは非常に高い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、実質的に未硬化、自立型(self−supporting)、硬化性有機組成物を含有する歯科用ミルブランクを特徴とする。(歯科用ミルブランクは、本明細書において「ミルブランク」、「未硬化ミルブランク」、および「未硬化歯科用ミルブランク」とも呼ばれる)。一般に、ミルブランクは、室温で、切削加工するのに十分な硬さを有するワックス状複合材料で製造される。本発明のミルブランクは、未硬化材料で構成されていることから、それは一般に、硬化複合材で製造されたセラミックミルブランクまたはミルブランクよりも軟らかい。したがって、歯科用装具を作成するために、未硬化有機組成物で製造されたミルブランクを使用することによって、ブランクを加工するために使用される機械加工器具がさらされる摩耗は少なく、その結果、器具の耐用年数が長くなり、コストがかなり低減される。さらに、歯科用装具をより速い機械加工時間で製造することができる。
【0010】
本発明の歯科用ミルブランクは、未硬化複合材料を含む様々な硬化性または重合性材料で製造される。一実施形態において、ミルブランクは、重合性樹脂システムと、任意の充填材システムと、開始剤システムと、を含有する。ミルブランクは、1種または複数種の粘度調整剤および/または界面活性剤システムも含有し得る。
【0011】
重合性樹脂システムは、例えば、1種または複数種のポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリチオエーテル、ポリアリールアルキレン、ポリシラン、ポリアミド、ポリウレタン、またはその組み合わせを含み得る、結晶質成分を含有し得る。あるいは、結晶質成分は非高分子材料であることができる。結晶質成分は任意に、樹枝状、高分岐、または星形構造を有する。
【0012】
所望の場合には、結晶質成分は、重合および/または架橋のための部位を提供するために1種または複数種の反応性基を含み得る。一般に、結晶質成分は、第1級ヒドロキシル末端基を含有する、飽和、直鎖状、脂肪族ポリエステルポリオールを含み、そのヒドロキシル末端基は、重合性不飽和官能基を導入するために修飾される。
【0013】
かかる結晶質成分が存在しない、または反応性基を含有しない場合には、かかる反応部位は、エチレン性不飽和成分などの他の樹脂成分によって提供される。したがって、特定の実施形態では、樹脂システムは、少なくとも1種類のエチレン性不飽和成分を含有する。エチレン性不飽和成分は、モノ−、ジ−もしくはポリアクリレート、およびメタクリレート、不飽和アミド、ビニル化合物(ビニルオキシ化合物を含む)、ならびに、その組み合わせからなる群から選択することができる。このエチレン性不飽和成分は結晶質成分であることができるが、特定の好ましい実施形態では、非晶質である。
【0014】
一般に、樹脂システムの総量は、約10〜約100重量%、さらに一般的には約20〜90%、またさらに一般的には約40〜約70%である。
【0015】
充填材システムにおいて使用される充填材は、樹脂システム中に組み込むための多種多様な従来の充填材から選択することができる。一般に、充填材システムは、医療用途に使用される組成物中で使用するのに適している1種または複数種の従来の材料、例えば歯科用修復組成物で現在使用されている充填材を含有する。したがって、本発明の組成物において使用される充填材システムは、樹脂システム中に組み込まれ、一般に樹脂システムの結晶質成分と混合される。
【0016】
充填材は、本質的に粒状または繊維状である。一般に、充填材システムの少なくとも一部は、縦横比またはアスペクト比20:1以下、さらに一般的には10:1以下を有すると一般に定義される、粒状充填材を含む。充填材システムが繊維を含有する場合、繊維は一般に、組成物の全重量を基準にして、20重量%未満の量で存在する。一実施形態において、充填材システムは、ナノ範囲の粒子(つまり、200nm未満の平均初期直径(average primary diameter)を有する粒子)を含有する無機材料を含む。
【0017】
開始剤システムは一般に、樹脂システムの硬化(例えば、重合および/または架橋)に適した1種または複数種の開始剤を含有する。開始剤は好ましくは、ラジカル開始剤であり、それは、様々な方法で、例えば熱および/または放射線によって活性化される。好ましくは、開始剤システムは、1種または複数種の光開始剤を含有する。
【0018】
他の態様において、本発明は、歯科用装具を製造する方法を提供し、その方法は、実質的に未硬化の歯科用ミルブランクを未硬化成形品に機械加工し、次いでその成形品を少なくとも一部硬化して、硬化歯科用装具を提供することを含む。成形品は、硬化工程の間に更なる機械加工工程を含む、または含まない複数の工程で硬化される。その後の硬化工程は任意に、最初の硬化工程と異なる条件下で行われる。例えば、後の硬化工程は、開始の方式、つまり光対熱の点から;または硬化が起こる(オートクレーブ内で)温度および圧力の点から;または環境、例えば酸素が欠乏している環境の点等から、最初の硬化工程と異なる。
【0019】
一部の実施形態において、この方法はさらに、硬化された歯科用装具を加工する工程を含む。かかる加工は、例えば硬化歯科用装具の表面処理、トリミング、研磨、コーティング、下塗り、着色、または艶出しを含み得る。
【0020】
さらに他の実施形態において、機械加工工程は、例えばCAD/CAM装置などのコンピュータ制御切削加工装置を使用して、歯科用ミルブランクを切削加工することを含む。
【0021】
本発明の歯科用ミルブランクおよびそれに関連する方法は、例えば、クラウンおよびブリッジ、インレー、オンレー、ベニア、インプラント、インプラント支持構造、義歯、および人工歯などの歯科用修復物および歯科補綴物、ならびに歯科印象トレイ、歯科矯正器(例えば、保定装置、ナイトガード、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、舌保定装置、開口器(bite opener)、ポジショナー等)、歯の複製(tooth facsimile)またはスプリント、顎顔面補綴、および他の特注製作される構造を含む、様々な歯科用装具の作製に使用することができる。
【0022】
本発明の歯科用ミルブランクおよびそれに関連する方法を使用することによって、特注の歯科用補綴物を短時間で、機械加工器具の摩耗が少なく、作製することが可能であり、その結果器具の寿命が長くなり、機械加工のコストが低くなる。安価な小さな機械ならびに安価な切断器具を使用することも可能である。
【0023】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らかであるだろう。
【0024】
定義
「自立型(self−supporting)」とは、有機組成物が寸法安定性であり、それ自体の自立構造で立っている(つまり、包装または容器の支持なく)場合に、室温(つまり、約20℃〜約25℃)で約2週間、著しく変形することなくその形(例えば、歯科用ミルブランク)を維持することを意味する。一般に、この組成物は、室温で少なくとも約1ヶ月間、さらに一般的には少なくとも約6ヶ月間寸法安定性である。好ましくは、この組成物は、室温を超える温度、さらに好ましくは約40℃まで、よりさらに好ましくは約60℃までの温度で寸法安定性である。この定義は、開始剤システムを活性化する条件の非存在下、および重力以外の外力の非存在下で当てはまる。一実施形態において、本発明のミルブランクは、切削加工または機械加工の力に耐えるために、組成物を硬化または部分硬化する必要がないことを意味する、「切削加工可能な自立型」である組成物で製造される。
【0025】
「歯科用装具」とは、いずれかの歯科用または歯科矯正用の装置、修復物、物品、または補綴具を意味する。装具は、患者の口腔内にすぐに導入できる完成装具であるか、または使用前にさらに加工にかけられる、予備成形された、または完成に近い歯科用または歯科矯正用物品であることができる。
【0026】
「機械加工(machining)」とは、機械によって材料を切削加工、切断、カービング(carving)、または成形することを意味する。
【0027】
「切削加工(milling)」とは、研磨、磨き、制御蒸発(controlled vaporization)、放電加工(EDM)、ウォータージェットまたはレーザーによる切断、または材料を切断、除去、成形またはカービングする他のいずれかの方法を意味する。
【0028】
「歯科用ミルブランク」とは、その材料から、歯科用または歯科矯正器または装具を切断、カービング、または切削加工することができる材料のソリッドブロックを意味する。
【0029】
「複合材料」とは、少なくとも部分的に、重合性(または重合された)樹脂または1種または複数種の充填材粒子、重合開始剤、またはいずれかの望ましい補助剤を含有する、硬化性(または硬化された)組成物を意味する。本発明において使用される複合材料は一般に、その重合が、熱、光、放射線、eビーム、マイクロ波、または化学反応などの様々な手段によって開始される組成物である。
【0030】
「樹脂システム」とは、そのそれぞれが、1種または複数種のモノマー、重合性オリゴマー、および/または重合性ポリマーを含み得る、1種または複数種の硬化性樹脂を意味する。樹脂システムは、1種または複数種の結晶質成分を含み得る。
【0031】
「充填材システム」とは、医療用または歯科用組成物で使用するのに適している1種または複数種の充填材を意味する。
【0032】
「開始剤システム」とは、樹脂システムを硬化するのに適している1種または複数種の開始剤を意味する。
【0033】
「結晶質成分」とは、示差走査熱量測定(DSC)によって組成物において測定される場合に、その成分が20℃以上で結晶融点を示すことを意味する。観察される吸熱のピーク温度は、結晶融点とみなされる。その結晶相は、多重格子を含み、その格子において、成分は配座を呈し、成分がそれから構成される隣接化学部位において非常に規則正しいレジストリ(registry)が存在する。格子内の充填配置(近距離秩序配向)は、その化学的側面および幾何学的側面の両方において非常に規則的である。結晶質成分は、高分子または非高分子であることができ、重合性または非重合性であることができる。一般に、結晶質成分は、10,000未満、さらに一般に5,000未満の分子量を有する場合には非高分子であるとみなされる。
【0034】
「硬化」とは、いずれかの手段による、例えば、熱、光、放射線、eビーム、マイクロ波、化学反応、またはその組み合わせによる、物品(例えば、硬化性組成物を含有する物品)の硬化または部分硬化を意味する。「実質的に未硬化の」という表現は、偶発的または意図的な硬化メカニズムによるものであろうとなかろうと、10%未満、一般に5%未満、さらに一般的には1%未満の程度に組成物が硬化していることを意味する。硬化の程度は、例えば、IR顕微鏡法、FTIR、または硬度、レオロジー等の物理的作用の測定など、公知の標準技術によって測定することができる。好ましくは、硬化の程度は、例えば、FTIRにより測定される、反応する架橋性部位のパーセンテージを決定することによって測定される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、歯科用装具を作製するのに有用な未硬化の歯科用ミルブランクを提供する。未硬化ミルブランクは一般に、周囲温度で固体のワックス状コンシステンシーを有し、貯蔵、運送、取り扱い、および種々の加工工程中にその寸法安定性を維持するのに十分な構造的および機械的完全性を有する。
【0036】
本発明の歯科用ミルブランクは、Karimらによって(特許文献1)(「Hardenable Self−Supporting Structures and Methods」)に記載されている種類の歯科用組成物から製造することができる。これらの組成物は一般に、未硬化の硬化性樹脂システム;繊維およびナノ範囲の充填材を含み得る任意の充填材システム;開始剤システム;および任意に、粘度調整剤および/または表面活性剤システムを含有する。
【0037】
代替方法として、歯科用ミルブランクは、例えば(特許文献2)(「Wax−Like Polymerizable Dental Material,Method,and Shaped Product」);(特許文献3)(「Dental Crowns and Bridges From Semi−Thermoplastic Molding Compositions Having Heat−Stable Custom Shape Memory」);(特許文献4)(「Dental Material Based on Polymerizable Waxes」);に記載の種類の歯科用複合材などの他のワックス状複合材料から製造することができ、文献それぞれの全体が本明細書に援用される。
【0038】
一般に、ミルブランクの動的弾性率は、広範囲にわたって異なる。さらに、ミルブランクは一般に、不粘着性である。好ましくは、Rheometrics RDA II動的機械分析器(ニュージャージー州ピスカタウェイのレオメトリック・サイエンティフィック社(Rheometric Scientific,Piscataway,NJ))により測定される、室温での動的弾性率(つまり、弾性率)G’は、振動数約0.005Hzで少なくとも約200キロパスカル(kPa)、さらに好ましくは少なくとも約500kPa、最も好ましくは少なくとも約1000kPaである。動的弾性率を測定する試験方法は、例えば、(特許文献1)に記載されている。
【0039】
本発明のミルブランクは、着色剤、香味、殺菌薬、芳香、安定剤、および粘度調整剤など、口腔環境で使用するのに適している任意の添加剤を含有することができる。他の適切な任意の添加剤としては、蛍光および/または乳光を付与する薬剤が挙げられる。
【0040】
複合材料のブランクは、円柱、棒、立方体、多面体、卵形体、および板などの所望の形状またはサイズで製造することができる。ミルブランクに使用される組成物は、スピードミキサー(例えば、(特許文献1)に記載される)、シグマブレードミキサー、遊星形ミキサー等の様々な方法でブレンドすることができる。ミルブランク自体は、成形、射出成形、圧縮成形、熱成形、プレス成形、圧延等の様々な方法で、このブレンド組成物から製造することができる。
【0041】
本発明の未硬化ミルブランクは、最終形状または最終形状に近い歯科用装具を得るために、様々な削減(reductive)プロセスによって容易に機械加工することができる。削減プロセスとしては、切削加工、切断、スカイビング、研削加工、旋盤加工、研磨、サンディング等が挙げられる。続いて、最終形状または最終形状に近い成形品を硬化させ(組成物における樹脂システムを硬化させることによって)、歯科用装具完成品が得られる。
【0042】
本発明のミルブランクを切削加工する種々の手段を用いて、適合するように特別に作られた歯科用補綴物および所望の形状およびモフォロジーを有する他の装具を作製することができる。手持ち式の器具または装置を使用して手作業でブランクを切削加工することは可能であるが、好ましくは、補綴物は、動力機械、電動式機械、およびコンピュータ制御切削加工装置などの機械によって切削加工される。補綴物を作製し、本発明の複合材料の全特典を達成するのに好ましい装置は、ブランクを切削加工することができるCAD/CAM装置である。かかるコンピュータ援用切削加工機械の例としては、シーメンス社(Siemens)によって供給されているセレック(CEREC)2(登録商標)機械(Sirona Dental Systems社から入手可能;ドイツ,ベンスハイム(Bensheim,Germany));VITAセレイ(CELAY)(登録商標)(Vita Zahn Fabrik社から入手可能;ドイツ,バートゼッキンゲン(Bad Sackingen,Germany));PRO−CAM(登録商標)(Intra−Tech Dental Products,テキサス州ダラス(Dallas,Tex.));プロセラ・オールセラム(PROCERA ALLCERAM)(登録商標)(ノーベル・バイオケアUSA社(Nobel Biocare USA,Inc.)から入手可能;イリノイ州ウェストモント(Westmont,Ill.))が挙げられる。(特許文献5)(Brandestiniら)および(特許文献6)(Moermannら)にも、歯科用補綴物を作製するためのコンピュータ援用切削加工機械の技術が開示されている。
【0043】
CAD/CAM切削加工装置を使用することによって、補綴物を効率的かつ正確に作製することができる。切削加工中、接触領域は乾燥しているか、あるいは潤滑剤でフラッシングしてもよい。代替方法としては、接触領域を空気またはガス流でフラッシングしてもよい。適切な潤滑剤は、当技術分野でよく知られており、水、オイル、グリセリン、エチレングリコール、およびシリコーンが挙げられる。CAD/CAM切削加工装置を使用した特定の方法において、その後の硬化工程中に生じるであろう物品の収縮を補うため、または少なくとも一部補うために、機械加工によって作製される成形品の電子画像は拡大される。
【0044】
ミルブランクを機械加工した後、最終的な形状または最終的な形状に近い物品が硬化され、硬化歯科用装具が製造される。硬化は、一工程で行われるか、複数の硬化工程が存在する場合もある。複数の硬化工程が行われる場合、硬化工程の間に更なる機械加工工程を行い、物品をさらに成形し、切削加工することが望ましい。硬化工程のうち1つまたは複数が、規定の温度、圧力、電磁放射等の制御環境下にて行われる。これらのパラメーターは、所望の通りに、異なる硬化工程または固める工程の間で変化させることができる。適切な硬化方法は、ミルブランクにおいて使用される開始剤システムに依存するだろう。
【0045】
硬化プロセスが完了し、硬化された歯科用装具が作製されたら、1つまたは複数の更なる加工工程が、硬化工程後に行われる。これは、トリミング、研磨、コーティング、下塗り、着色、艶出し等の、様々な表面処理または他の処理工程のいずれかを含み得る。同様に、上述のように、複数の工程で硬化を行うことができ、特定の加工工程は、その間に行われる。未硬化ミルブランクの機械加工は、プレス成形、成形などの「形成」方法(任意に、加熱と組み合わせて)、続いて硬化も含み得る。
【0046】
様々な歯科用装具が未硬化ミルブランクから作製される。その例としては、限定されないが、歯科矯正器、ブリッジ、クラウン、保隙装置、換歯、義歯、ポスト、ジャケット、インレー、オンレー、ベニア、前装、咬合局面、支台、インプラント、インプラント支持構造、およびスプリントが挙げられる。
【0047】
本発明に従って作製される歯科用補綴物は、従来のセメントまたは接着剤、またはガラスイオノマー、樹脂セメント、リン酸亜鉛、ポリカルボン酸亜鉛、コンポマー、もしくは樹脂改質ガラスなどの他の適切な手段を用いて、歯または骨構造に取り付けることができる。さらに、修復、補正、または審美的向上などの種々の目的のために、切削加工された補綴物に材料を任意に添加することができる。その更なる材料は、1種または複数種の異なる形状または色の材料である。添加される材料は、複合材、セラミック、または金属である。
【0048】
本発明の利点は、未硬化のワックス状ミルブランクが、従来の硬化複合材ミルブランクまたはセラミックミルブランクと比較して機械加工がかなり速く、容易であり、かつ作製された物品を硬化した後、高強度の歯科用装具がさらに得られることである。安価な器具を使用して、より軟らかい未硬化ミルブランクを機械加工することができる。さらに、機械加工時間は短くなり、その結果、目的の装具は、速く、低コストで作製することができる。上記の利点から、本発明のミルブランクは、暫間補綴(temporaries)の製造に、または種々の歯科または歯科矯正処置に用いられる原寸模型に使用することもできるが、永久的な補綴物用途にも使用することができる。
【0049】
上記の説明は、本発明の歯科用ミルブランクおよび方法の説明を提供する。本発明は、本明細書に開示される実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの代替の実施形態を行うことができることは理解されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)実質的に未硬化の自立型硬化性有機組成物を含有する歯科用ミルブランクを提供する工程と;
(b)前記ミルブランクを未硬化成形品に機械加工する工程と;
(c)前記成形品を少なくとも一部硬化し、硬化歯科用装具を提供する工程と;
を含む、歯科用装具を製造する方法。
【請求項2】
前記有機組成物が、実質的に未硬化の複合材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合材料が、重合性樹脂システムおよび開始剤システムを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複合材料が、充填材システムをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記重合性樹脂システムが、結晶質成分を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記結晶質成分が、非高分子である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶質成分が、1種または複数種のポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリチオエーテル、ポリアリールアルキレン、ポリシラン、ポリアミド、ポリウレタン、またはその組み合わせを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記結晶質成分が、第一級ヒドロキシル末端基を含有する、飽和、直鎖状、脂肪族ポリエステルポリオールを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒドロキシル末端基が修飾されて、重合性不飽和官能基が導入される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記結晶質成分が、樹枝状、高分岐または星形構造を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記重合性樹脂システムが、少なくとも1種類のエチレン性不飽和成分を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記エチレン性不飽和成分が、モノ−、ジ−もしくはポリアクリレート、およびメタクリレート、不飽和アミド、ビニル化合物、ならびに、その組み合わせから選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記充填材システムの少なくとも一部が、粒状充填材を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記充填材システムが、ナノ範囲の粒子を含む無機材料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記開始剤システムが、ラジカル開始剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
前記開始剤システムが、光開始剤または熱開始剤を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
前記ミルブランクが、粘度調整剤をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項18】
前記ミルブランクが、界面活性剤システムをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項19】
前記歯科用装具が、クラウン、インレー、オンレー、ブリッジ、ベニア、歯科矯正器、顎顔面補綴、歯の複製、または歯のスプリントである、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記硬化された歯科用装具を加工する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記加工が、前記硬化された歯科用装具の表面処理、トリミング、研磨、コーティング、下塗り、着色、または艶出しを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記機械加工が、コンピュータ制御切削加工装置を使用して、ミルブランクを切削加工する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記コンピュータ制御切削加工装置が、CAD/CAM装置を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第2の機械加工工程が、前記硬化工程後に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
第2の硬化工程が、前記第2の機械加工工程後に行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記第2の硬化工程が、最初の硬化工程と異なる条件下で行われる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
(a)実質的に未硬化の自立型硬化性有機組成物を含有する歯科用ミルブランクを提供する工程と;
(b)前記ミルブランクを予備成形物品に機械加工する工程と;
(c)前記予備成形物品を少なくとも一部硬化し、一部硬化された物品を提供する工程と;
(d)前記一部硬化された物品を機械加工して、成形品を形成する工程と;
(e)前記成形品を少なくとも一部硬化して、硬化歯科用装具を提供する工程と;
を含む、歯科用装具を製造する方法。
【請求項28】
実質的に未硬化の自立型硬化性有機組成物を含む、歯科用ミルブランク。
【請求項29】
前記有機組成物が、実質的に未硬化の複合材料を含む、請求項28に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項30】
前記複合材料が、重合性樹脂システムおよび開始剤システムを含む、請求項29に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項31】
前記複合材料が、充填材システムをさらに含む、請求項30に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項32】
前記重合性樹脂システムが、結晶質成分を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項33】
前記結晶質成分が、非高分子である、請求項32に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項34】
前記結晶質成分が、1種または複数種のポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリチオエーテル、ポリアリールアルキレン、ポリシラン、ポリアミド、ポリウレタン、またはその組み合わせを含む、請求項32に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項35】
前記結晶質成分が、第一級ヒドロキシル末端基を含有する、飽和、直鎖状、脂肪族ポリエステルポリオールを含む、請求項34に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項36】
前記ヒドロキシル末端基が修飾されて、重合性不飽和官能基が導入される、請求項35に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項37】
前記結晶質成分が、樹枝状、高分岐または星形構造を有する、請求項32に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項38】
前記重合性樹脂システムが、少なくとも1種類のエチレン性不飽和成分を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項39】
前記エチレン性不飽和成分が、モノ−、ジ−もしくはポリアクリレート、およびメタクリレート、不飽和アミド、ビニル化合物、ならびに、その組み合わせから選択される、請求項38に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項40】
前記充填材システムの少なくとも一部が、粒状充填材を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項41】
前記充填材システムが、ナノ範囲の粒子を含む無機材料を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項42】
前記開始剤システムが、ラジカル開始剤を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項43】
前記開始剤システムが、光開始剤または熱開始剤を含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項44】
粘度調整剤をさらに含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。
【請求項45】
界面活性剤システムをさらに含む、請求項31に記載の歯科用ミルブランク。


【公表番号】特表2007−516784(P2007−516784A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547164(P2006−547164)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/042459
【国際公開番号】WO2005/065572
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)