説明

材料試験機

【課題】 電力を消費しない安価な構成でありながら、つかみ具により強い把持力で試験片を把持することができる材料試験機を提供する。
【解決手段】 上チャック部1と手動油圧ポンプ8とは、管路41により接続されている。そして、管路41における上チャック部1と手動油圧ポンプ8との間の位置には、アキュムレータ9が配設されている。引張試験を実行するときには、オペレータがつかみ歯ホルダー12を移動させて試験片の端部をつかみ歯により把持する。しかる後、オペレータが各手動油圧ポンプ8を操作して、油圧シリンダ機構に高圧の作動油を供給する。これにより、試験片の端部は、つかみ歯によりさらに大きな把持力で把持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片に対して引張力を負荷して引張試験を行う材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような材料試験機においては、試験片の両端を一対のつかみ具により把持するとともに、これらのつかみ具間の距離を変更することにより、試験片に対して引張力を付与する構成となっている。そして、このような材料試験機に使用されるつかみ具としては、特許文献1に記載されたように、ネジを手動で回転させることによりつかみ歯を移動させて試験片を把持するつかみ具や、特許文献2に記載されたように、油圧ポンプから供給される作動油を利用してつかみ歯を移動させるつかみ具が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−340759号公報
【特許文献2】特開平11−271198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたように、ネジを手動で回転させることによりつかみ歯を移動させて試験片を把持するつかみ具を使用する場合には、ネジを回転させる力が不足し、つかみ歯による試験片の把持力が弱くならざるを得ないことから、試験開始時に試験片がつかみ歯から外れてしまう場合がある。また、試験片の破断試験を行う場合には、破断時には引張力とは逆方向を向く力が生ずることになり、試験片の破断ショックが大きい場合には、つかみ歯の損傷が生じたり、試験片がつかみ具から脱落したりする現象が生ずる。
【0005】
一方、特許文献2に記載されたように、油圧ポンプから供給される作動油を利用してつかみ歯を移動させるつかみ具を使用する場合には、このような問題は生じないが、駆動源となる油圧ポンプのコストが極めて高額となり、また、油圧ポンプによる消費電力も大きなものとなるという問題が生ずる。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、電力を消費しない安価な構成でありながら、つかみ具により強い把持力で試験片を把持することができる材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、試験片に対して引張力を負荷して引張試験を行う材料試験機において、負荷軸方向に対して傾斜するテーパー状の摺動面が形成されるとともに前記摺動面とは逆側につかみ歯が配設された一対のつかみ歯ホルダーと、前記つかみ歯ホルダーにおける各摺動面と各々当接する一対のテーパー状の案内面が対向配置されたチャックフレームとを備え、前記一対のつかみ歯ホルダーを負荷軸方向に移動させることにより、一対のつかみ歯間の間隔を変更するつかみ具と、前記一対のつかみ歯ホルダーを押圧することにより、前記一対のつかみ歯を、それらが互いに近接する方向に付勢するピストン部材と、当該ピストン部材を囲むシリンダ部材とを備えた油圧シリンダ機構と、前記油圧シリンダ機構におけるシリンダ部材の内部に作動油を供給するための管路と、前記管路に接続された手動油圧ポンプと、前記管路における前記油圧シリンダ機構と前記手動油圧ポンプとの間の位置に配設されたアキュムレータとを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記一対のつかみ歯ホルダーを、前記負荷軸方向に往復移動させる移動機構を備える。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記移動機構は、前記一対のつかみ歯ホルダーに形成されたラックと噛合するピニオン軸と、前記ピニオン軸を回転させるハンドルとを備える。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、電力を消費しない安価な構成でありながら、手動油圧ポンプの作用により、つかみ具によって強い把持力で試験片を把持することが可能となる。また、試験片の破断ショックをアキュムレータにより吸収することが可能となる。
【0011】
請求項2および請求項3に記載の発明によれば、移動機構により試験片を一対のつかみ歯で把持した後に、手動ポンプの作用によりその把持力をより強力なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明に係る材料試験機の要部を示す正面図である。
【図2】この発明に係る材料試験機の要部を示す平面図である。
【図3】作動油の供給経路を示す概要図である。
【図4】上チャック部1の縦断面概要図である。
【図5】上チャック部1の横断面概要図である。
【図6】上チャック部1の水平断面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はこの発明に係る材料試験機の要部を示す正面図であり、図2はその平面図である。
【0014】
この材料試験機は、後述するつかみ具10を各々内蔵した上チャック部1と下チャック部2とを備える。上チャック部1は、クロスヘッド3に固定されている。このクロスヘッド3の両端部は、左右一対のカバー6内に配設されたねじ棹と螺合しており、これら一対のねじ棹の回転に伴って昇降する。また、クロスヘッド3には、試験片に負荷された試験力を測定するためのロードセル7が配設されている。一方、下チャック部2は、基台5上に設置されたテーブル4に固定されている。
【0015】
この材料試験機においては、上チャック部1におけるつかみ具10と下チャック部2におけるつかみ具10とにより試験片の両端を把持した状態でクロスヘッド3を上昇させることにより、試験片に対して引張力を負荷して引張試験を行う。そのときの引張力は、ロードセル7により測定される。
【0016】
図2に示すように、この材料試験機は一対の手動油圧ポンプ8を備える。図1および図2に示すように、各手動油圧ポンプ8は、管路41により、一対のアキュムレータ9を介して上チャック部1および下チャック部2と、各々、接続されている。ここで、手動油圧ポンプ8は、例えば、足踏み式のペダルを備え、オペレータの操作により所定圧力の作動油を供給する構成を有するポンプである。
【0017】
図3は、作動油の供給経路を示す概要図である。
【0018】
上述したように、上チャック部1と手動油圧ポンプ8とは、管路41により接続されている。そして、管路41における上チャック部1と手動油圧ポンプ8との間の位置には、アキュムレータ9が配設されている。なお、図3においては上チャック部1に着目しているが、図1および図2に示すように、下チャック部2と手動油圧ポンプ8とは、管路41により接続されており、この管路41における下チャック部2と手動油圧ポンプ8との間の位置にも、アキュムレータ9が配設されている。
【0019】
図4は上チャック部1の縦断面概要図、図5は上チャック部1の横断面概要図、図6は上チャック部1の水平断面概要図である。なお、下チャック部2も、この上チャック部1と同様の構成を有する。
【0020】
この上チャック部1は、上チャック部1から下チャック部2に至る負荷軸方向に対して傾斜するテーパー状の摺動面21が形成されるとともに、この摺動面21とは逆側につかみ歯11が配設された一対のつかみ歯ホルダー12と、このつかみ歯ホルダー12における各摺動面21と各々当接する一対のテーパー状の案内面22が対向配置されたチャックフレーム13とを備えたつかみ具10を有する。このつかみ具10においては、一対のつかみ歯ホルダー12を負荷軸方向に移動させた場合に、つかみ歯ホルダー12の摺動面21とチャックフレーム13の案内面22とが摺動することにより、一対のつかみ歯11間の間隔が変更される。
【0021】
また、この上チャック部1は、一対のつかみ歯ホルダー12を押圧することにより、一対のつかみ歯11を、それらが互いに近接する方向に付勢するピストン部材24と、このピストン部材24を囲むシリンダ部材25とを備えた油圧シリンダ機構26を備える。この油圧シリンダ機構26におけるシリンダ部材25の内部は、上述した管路41を介して作動油を供給するための配管31と連結されている。この配管31から高圧の作動油を供給した場合には、ピストン部材24が下方に押圧され、一対のつかみ歯ホルダー12が下方に移動する。また、シリンダ部材25におけるピストン部材24との当接部より下方の空間は、空気抜き用の配管32と連結されている。
【0022】
上述したつかみ具10と油圧シリンダ機構26とは、上チャック部1の本体20内に配置されている。そして、この上チャック部1は、上述したように、クロスヘッド3に固定されている。
【0023】
図5および図6に示すように、一対のつかみ歯ホルダー12には、ラック33が形成されている。そして、一対のつかみ歯ホルダー12の裏面側には、ラック33と噛合するピニオン部が形成されたピニオン軸34が、本体20に対して回転可能に支持されている。そして、このピニオン軸34の一端には、ハンドル35が付設されている。このため、このハンドル35を操作してピニオン軸34を回転させた場合には、一対のつかみ歯ホルダー12が負荷軸方向に移動する。そして、このつかみ歯ホルダー12の移動に伴って、つかみ歯ホルダー12の摺動面21とチャックフレーム13の案内面22とが摺動することにより、一対のつかみ歯11間の間隔が変更される。これらのラック33、ピニオン軸34およびハンドル35は、一対のつかみ歯ホルダー12を負荷軸方向に往復移動させる移動機構として機能する。
【0024】
以上のような構成を有する材料試験機において引張試験を実行するときには、最初に、オペレータが上チャック部1および下チャック部2におけるハンドル35を操作して、試験片の両端が上チャック部1のつかみ具10としたチャック部2のつかみ具10とにより把持された状態とする。この状態においては、試験片の端部は、一対のつかみ歯11により、一定の把持力で把持されている。
【0025】
次に、オペレータが各手動油圧ポンプ8を操作して、各油圧シリンダ機構26に高圧の作動油を供給する。これにより、各油圧シリンダ機構26のピストン24が一対のつかみ歯ホルダー12を押圧する。このため、試験片の端部は、一対のつかみ歯11により、さらに大きな把持力で把持されることになる。
【0026】
この状態で引張試験を実行する。このときには、試験片は強い把持力で一対のつかみ歯11により把持されており、試験開始時に試験片がつかみ歯11から外れることはない。また、材料試験の実行中に試験片が細くなった場合においても、アキュムレータ9の作用により油圧シリンダ機構26のピストン24が一対のつかみ歯ホルダー12を押圧し続けることから、試験中に試験片がつかみ歯11から外れることはない。さらに、試験片の破断試験を行う場合に、試験片の破断時には引張力とは逆方向を向く力が生じた場合においても、この力をアキュムレータ9の作用で吸収することが可能となる。このため、試験片の破断ショックが大きい場合においても、つかみ歯11に損傷が生じたり、試験片がつかみ歯11から脱落したりする現象を未然に防止することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 上チャック部
2 下チャック部
3 クロスヘッド
4 テーブル
5 基台
6 カバー
7 ロードセル
8 手動油圧ポンプ
9 アキュムレータ
10 つかみ具
11 つかみ歯
12 つかみ歯ホルダー
13 チャックフレーム
21 摺動面
22 案内面
24 ピストン部材
25 シリンダ部材
26 油圧シリンダ機構
31 配管
32 配管
33 ラック
34 ピニオン軸
35 ハンドル
41 管路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片に対して引張力を負荷して引張試験を行う材料試験機において、
負荷軸方向に対して傾斜するテーパー状の摺動面が形成されるとともに前記摺動面とは逆側につかみ歯が配設された一対のつかみ歯ホルダーと、前記つかみ歯ホルダーにおける各摺動面と各々当接する一対のテーパー状の案内面が対向配置されたチャックフレームとを備え、前記一対のつかみ歯ホルダーを負荷軸方向に移動させることにより、一対のつかみ歯間の間隔を変更するつかみ具と、
前記一対のつかみ歯ホルダーを押圧することにより、前記一対のつかみ歯を、それらが互いに近接する方向に付勢するピストン部材と、当該ピストン部材を囲むシリンダ部材とを備えた油圧シリンダ機構と、
前記油圧シリンダ機構におけるシリンダ部材の内部に作動油を供給するための管路と、
前記管路に接続された手動油圧ポンプと、
前記管路における前記油圧シリンダ機構と前記手動油圧ポンプとの間の位置に配設されたアキュムレータと、
を備えたことを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記一対のつかみ歯ホルダーを、前記負荷軸方向に往復移動させる移動機構を備える材料試験機。
【請求項3】
請求項2に記載の材料試験機において、
前記移動機構は、
前記一対のつかみ歯ホルダーに形成されたラックと噛合するピニオン軸と、
前記ピニオン軸を回転させるハンドルと、
を備える材料試験機。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−242173(P2012−242173A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110604(P2011−110604)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】