杭基礎の損傷割合推定方法、及び、杭基礎の損傷割合推定システム
【課題】地震等による被災後に、迅速に且つ低コストにて杭の損傷状況を把握する。
【解決手段】複数種類の振動を杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて振動により杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、振動により杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて傾斜角度と損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された損傷対応情報と、に基づいて被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有する。
【解決手段】複数種類の振動を杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて振動により杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、振動により杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて傾斜角度と損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された損傷対応情報と、に基づいて被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎の損傷割合推定方法、及び、杭基礎の損傷割合推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により被災した建物を支持する杭基礎の損傷状況を目視することは、杭が地盤や厚い基礎盤の下に存在するため困難である。このため、従来では重機などにより地盤を掘削したり、杭の上部にある構造体を一部解体したりして、ボアホールカメラ等による確認が行われている。また、建物の建設段階において杭の中にセンサーを設置して外部の収録装置と接続し、被災後にセンサーの信号を収録装置にて観測することにより、杭の損傷状態を診断する場合もある(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【非特許文献1】石井清、外2名,「炭素繊維束センサの開発と性能評価−杭の健全性モニタリング手法の開発(その1)−」,建築学会構造系論文集 No.557,2002年7月,p.129
【非特許文献2】稲田裕、外3名,「炭素繊維束センサの杭の損傷検知に対する性能評価−杭の健全性モニタリング手法の開発(その2)−」,建築学会構造系論文集 No.563,2003年1月,p.91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、建物を支持する杭基礎の損傷状況を診断するために、地盤を掘削したり杭の上部にある構造体を一部解体したりすると、重機の搬入など大がかりな工事が必要となり、多大な時間と多額の費用を費やすことになる。また、杭の中にセンサーを設置して外部の収録装置と接続して被災後にセンサーの信号を収録装置にて観測すると、装置の設置や維持に多額の費用が費やされると共に、既存の建物には適用できないという課題があった。
【0004】
本発明では、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地震等による被災後に、迅速に且つ低コストにて杭の損傷状況を把握することが可能な杭基礎の杭損傷割合推定方法、及び、杭基礎の損傷割合推定システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法である。
【0009】
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、建物の一部を解体したり地盤を掘削することなく、被災した杭基礎を実測しコンピュータにて処理することにより、杭基礎の損傷割合を推定し、被災した杭基礎の損傷状況を把握することが可能である。このため、建物の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎の損傷状況を把握することが可能である。さらに、杭基礎の損傷割合を推定する際に用いる杭基礎モデルは、推定対象の杭基礎をモデリングしたものなので、より精度良く杭基礎の損傷割合を推定することが可能である。
【0010】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記杭損傷情報として前記杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有していることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、前記杭損傷情報は、杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有しているので、具体性が高く比較的詳細な情報に基づいて、信頼性の高い杭基礎の損傷割合を推定することが可能である。
【0011】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記損傷割合は、前記損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭の損傷度合い毎の数とを乗じて前記杭基礎が有する杭の総数で除して求められる前記損傷度合い毎の値の総和であることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、杭基礎の損傷割合をより精度良く推定することが可能である。
【0012】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記傾斜角度は、前記損傷度合いに基づいて求められる前記杭の上端の沈下量と、前記振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定されることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、杭基礎の傾斜角度を容易に算定することが可能である。
【0013】
また、建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定システムであって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報を記憶する記憶部と、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎に算定して前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システムである。
このような杭基礎の損傷割合推定システムによれば、被災した杭基礎に則した杭基礎の損傷対応情報が生成されるので、被災した杭基礎の損傷状況に対応した、より精度の良い損傷対応情報を得ることが可能である。
【0014】
かかる杭基礎の損傷割合推定システムであって、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有することが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定システムによれば、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度に基づいて、杭基礎の損傷割合が推定されるので、被災した杭基礎の損傷状況をより精度良く把握することが可能である。
【0015】
===杭基礎の杭損傷割合推定方法の一実施形態===
図1は、本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法の対象となる杭基礎の一例を説明するための図である。図2は、本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法を実現するために用いられるコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【0016】
本実施形態の杭基礎の損傷割合推定方法は、建物15を支える複数の杭12及び基礎スラブ16を有する杭基礎10の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎10の損傷割合推定方法である。まず、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎10に与えた際に当該振動により生じる各杭12の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎10がモデリングされた杭基礎モデル11に基づいて、前記振動により前記基礎スラブ16が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎10に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎10を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎10の損傷割合を推定するステップと、を有している。
【0017】
そして、この杭基礎の損傷割合推定方法は、例えば、図2に示すような、前記杭損傷情報を記憶するための記憶部としてのメモリ7と、前記損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有する杭基礎の損傷割合推定システムとしてのコンピュータ3と、を有するコンピュータシステム1により実現される。すなわち、本実施形態の杭基礎の損傷割合推定システムは、ハードディスクを備えたコンピュータシステム1であり、ハードディスクは、杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合を算定するためのプログラム、損傷対応情報を生成するためのプログラム、被災した杭基礎の損傷割合を推定するためのプログラムと、算出結果等が記憶されるメモリ7である。尚、前記各プログラムは、各種機能を実現するためのコードから構成されている。
【0018】
コンピュータが有するCPU5は、各プログラムに従って被災した杭基礎10の損傷割合を推定する。このコンピュータシステム1のコンピュータ3は、損傷対応情報生成部、及び、損傷割合推定部に相当する。
【0019】
また、このコンピュータシステム1は、杭基礎の損傷割合の推定を希望する者が、杭損傷情報設定したり、実測傾斜角度等を入力する際に用いる入力部8と、算定結果、推定結果等、杭基礎の損傷割合の推定を希望する者に情報を報知するための表示部9とを備えている。表示部にはGUI(グラフィックユーザーインタフェース)を利用した画面を表示することも可能である。以下に、杭基礎の損傷状況推定方法について詳述する。
【0020】
<杭基礎のモデリング>
図3は、本実施形態において損傷割合の推定対象となる杭基礎のモデルを示す図である。図4は、図3のB矢視図である。
【0021】
本実施形態における杭基礎の損傷状況推定方法では、最初に損傷割合の推定対象となる、建物15を支える杭基礎10をモデリングする。すなわち、図3に示すように杭基礎10を、その構造に基づいて線のみにて表現するワイヤーフレームモデルを形成する。本実施形態では、損傷の原因となる地震による振動は、図中の矢印Aの方向に杭基礎10が変位するように作用するものとする。そして、以下では、図3における矢印Bの方向から見たモデルにて説明する。
【0022】
図3に示すように本実施形態の杭基礎10は、建物15を支持する複数の支持部に各々独立してフーチングY1,Y2,Y3,Y4が設けられている。そして、各フーチングY1〜Y4は振動の方向と交差する方向に沿って4列に配置されている。図4において、最も右に位置する列の各フーチングY4にはそれぞれ1本の杭12が設けられ、その他の3列のフーチングY1,Y2,Y3には、2〜4本の杭12が設けられている。本実施形態の杭基礎10は66本の杭12を有している。
【0023】
<各杭の損傷レベルを設定する>
本実施形態においては、図3に示すA方向の振動によりフーチングY4の上部が最も損傷を受けた例を想定し、最も右側に位置する列のフーチングY4から、最も左に位置する列のフーチングY1に向かって損傷が小さくなっている場合について各杭12の損傷レベルを設定する。このとき、複数種類の大きさの異なる14種類の振動を設定し、各振動を与えた際の各杭12の損傷状況が段階的に変化するように各杭12の損傷レベルを設定する。以下の説明においては、複数のフーチングY4が振動の方向と交差する方向に並べられた列を第4フーチング列といい、同様にフーチングY3の列を第3フーチング列、フーチングY2の列を第2フーチング列、フーチングY1の列を第1フーチング列という。
【0024】
図5は、大きさの異なる14種類の振動を受けた際における各杭の損傷状態が設定された表である。図5において、各杭の損傷度合い(損傷度)を○、◇、△、×の4種類に分類して設定している。すなわち、これらの○、◇、△、×は、損傷度を4段階に定義し、損傷度1は、近寄らないと見えにくい程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2mm以下)、損傷度2は、肉眼ではっきりと見えるひび割れ(ひび割れ幅0.2mm〜1mm程度)、損傷度3は、比較的大きなひび割れが生じているが、コンクリートの剥落は極わずか(ひび割れ幅1mm〜2mm程度)、損傷度4は、鉄骨が曲がり、内部コンクリートも崩れ落ち、一見して柱の高さ方向の変形が生じているとわかる、という状態が定義されている。本実施形態では、損傷度1を○、損傷度2を◇、損傷度3を△、損傷度4を×として示す。また、以下の説明においては、損傷度1の杭を健全杭、損傷度2の杭を降伏杭、損傷度3の杭を終局杭、損傷度4の杭を破壊杭という。
【0025】
そして、杭基礎の損傷状況として、さらに詳細な設定がなされている。図6は、杭基礎の損傷状況をさらに詳細に設定した情報を示す図である。図示するように、14種類の大きさの異なる振動毎に、66本の杭12のうちの何本が損傷度いくつの損傷を受けているかが設定されている。例えば、最も振動が小さい第1振動レベルでは、66本すべての杭12が損傷度1の健全杭であり、2番目に振動が小さい第2振動レベルでは、66本有する杭12のうち4本の杭が、損傷度2の降伏杭となる損傷を受けているように設定されている。そして、振動が大きくなるにしたがい、順次損傷を受けている杭12の数及び損傷度が高い杭12の数が増えるように設定され、最も振動が大きな第14振動レベルでは、66本有する杭12のうち19本の杭が、損傷度3の終局杭となり、47本が、損傷度4の破壊杭となる損傷を受けているように設定されている。これらの設定された情報が、14種類の大きさの異なる振動を与えた際の杭基礎の損傷状況を示す杭損傷情報とに相当する。また、この杭損傷情報は、損傷情報を推定する処理を実行する前に予めコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0026】
<杭基礎の損傷割合と杭基礎の傾斜角度との算定>
杭基礎10の損傷割合と杭基礎10の傾斜角度との算定は、杭基礎10の損傷割合を推定する者が、杭基礎10の損傷割合を推定する機能を実現するためのプログラムが記憶されたメモリ7を有するコンピュータ3の入力部8から、上記設定条件を入力することにより実行される。
【0027】
・杭基礎の損傷割合の算定
杭基礎10の損傷割合は、杭基礎10が有する杭12の総数、損傷度合い毎の杭12の本数、損傷度合いに対応付けられた係数、に基づく関数を用いて、コンピュータ3にて算出される。すなわち、コンピュータ3のメモリ7には、損傷度合いに対応付けられた係数を用いた、杭基礎10の損傷割合Dを算出するための関数が記憶されている。杭基礎10の損傷割合Dを算出するための式は、式1にて表される。
D=ΣDi=D1+D2+D3+D4・・・(式1)
【0028】
ここで、D1は、損傷度1に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度1の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D2は、損傷度2に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度2の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D3は、損傷度3に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度3の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D4は、損傷度4に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度4の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。すなわち、杭基礎10の損傷割合Dは、損傷度1の杭12による損傷割合D1と、損傷度2の杭12による損傷割合D2と、損傷度3の杭12による損傷割合D3と、損傷度4の杭12による損傷割合D4との総和である。これら損傷割合D1、D2、D3、D4はそれぞれ(式2)〜(式5)にて示される。
D1=10B1/N ・・・(式2)
D2=26B2/N ・・・(式3)
D3=30B3/N ・・・(式4)
D4=1000B4/N ・・・(式5)
ここで、損傷度合いに応じて重み付けするために損傷度合いに対応付けられた係数は、損傷度1では「10」、損傷度2では「26」、損傷度3では「30」、損傷度4では「1000」である。
【0029】
コンピュータ3は、杭基礎10が有する杭12の総数N、各振動のレベル毎に設定された損傷度合い毎の杭12の本数Bが、入力部8から入力されることにより、所定のプログラムを実行して(式1)に基づき杭基礎10の損傷割合を算定する。
【0030】
・杭基礎の傾斜角度の算定
杭基礎10の傾斜角度を算定する際には、まず杭基礎10を等価なモデルに置換する。図7は、本実施形態の杭基礎を、振動による杭基礎の傾斜角度を求めるためにモデル化した概念を示す図である。図8Aは、杭の質点系モデルにおける応答変位法による被害の推定結果を示す図である。図8Bは、杭の質点系モデルにおける杭の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を示す図である。図8Cは、杭の質点系モデルにおける曲げモーメントと軸力との関係を示す図である。図9は、各振動レベルに対する、モデル化した杭基礎に基づいて得られた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合との対応を示す図である。図10は、得られた傾斜角度と杭基礎の損傷割合とを対応付けたグラフである。
【0031】
本実施形態においては、図7に示すように、基礎は等価な基礎梁(梁要素)に置換し、杭12及び地盤は群杭効果を考慮した杭頭地盤ばねを杭本数で除した剛性をもつ杭ばね(ばね要素)に置換する。このとき、損傷度1(健全杭)、損傷度2(降伏杭)、損傷度3(終局杭)、損傷度4(破壊杭)のそれぞれに対する杭頭等価曲げ剛性を、杭12の質点系モデルから求める。すなわち、図8Bの杭12の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を参考として、損傷度1の杭頭等価曲げ剛性をEI、損傷度2の杭頭等価曲げ剛性をEI/3、損傷度3の杭頭等価曲げ剛性をEI/15、損傷度4の杭頭等価曲げ剛性をEI/1000と設定した杭基礎モデルに置換する。そして設定された杭頭等価曲げ剛性は、損傷度と対応付けられてコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0032】
置換した杭基礎モデルにおいて、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重を設定する。本実施形態では、各杭12に均等に荷重が作用するように設計されていると仮定し、建物15の全重量Wを杭12の総数N(ここでは66本)で除し、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4が有する杭12の数Niを乗じた荷重を各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重Wiとしている。すなわち、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重Wiは、(式6)にて示される。
Wi=(W/N)×Ni ・・・(式6)
このように、各フーチングに固定荷重Wiが作用したとして、各損傷度における杭上端の沈下量を求める。
【0033】
そして、各振動レベルの振動が作用した場合に生じうる杭基礎10の傾斜角度は、置換した杭基礎モデルに基づいて求められた杭上端の沈下量と、当該振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定される。本実施形態の例では、振動による変位方向における杭間距離は、振動による変位方向において第1フーチングY1と同じ位相に位置する杭12y1b(図4)と、第4フーチングY4と同じ位相に位置する杭12y4(図4)との間隔が用いられる。このようにして求められた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合は、図9に示すように各振動レベルに対応付けられ、これらの結果から、本実施形態の杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係が図10に示すようなグラフとして生成される。
【0034】
杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフは、例えば地震により被災した杭基礎10が傾いたときに、この傾き角度に基づいて杭基礎10の損傷割合を推定し、杭基礎の損傷状態を把握するために用いられる。このグラフを示す情報は、損傷対応情報としてコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0035】
<被災した杭基礎の傾斜角度の実測>
地震等により建物15が被災した際に、建物15の下に位置する杭基礎10の傾斜角度は、杭基礎10を実測した値に基づいて求める。被災した杭基礎10の傾斜を求める際には、振動が作用する方向に沿って間隔を隔てた2地点に標尺と呼ばれる物差しを立て、その中間部に水平に置いた水準儀で標尺の目盛を読み取ることにより、読み取った目盛の差から高さの差(比高)を測定する、所謂三角測量を実施し、2地点の間隔と、測定した比高から杭基礎10の傾斜角度を求めても良い。
【0036】
しかしながら、被災現場の状況によって三角測量する場所が確保できない場合には、水準器を用いても良い。ここで水準器とは、例えば透明な筒状をなす2つの容器(例えばペットボトル)を用い、2つのペットボトルを長さ50mのビニルホース(例えば内径3mm)でつなぎ、互いのペットボトル内を連通させる。2つのペットボトルの蓋からは鉛直上に目盛が設けられたアクリルパイプ(例えば内径20mm)を立設させて、アクリルパイプとペットボトル内とを連通させておく。これら2本のペットボトルを、振動より変位する方向に沿って間隔を隔てた2地点に配置し、2本のペットボトル内とアクリルパイプ内に水を注入する。そして、2本のアクリルパイプ内の水位差と2本のペットボトル間の距離とから杭基礎10の傾斜角度を求めても良い。ここで、実測された値に基づく杭基礎10の傾斜角度を実測傾斜角度θとする。
【0037】
<実測傾斜角度と損傷対応情報とに基づく杭基礎の損傷割合の推定>
次に、実測傾斜角度と生成された損傷対応情報とに基づいて、杭基礎10の損傷割合を推定する。
【0038】
本実施形態においては、コンピュータ3内にインストールされたアプリケーションプログラムにより杭基礎10の損傷割合が推定される。すなわち、コンピュータ3が有する表示部9の表示画面に設定されたGUI(グラフィックユーザーインタフェース)により、実測傾斜角度を入力することにより、コンピュータ3がメモリ7に記憶されている損傷対応情報に基づいて杭基礎10の損傷割合を推定する処理を実行する。
【0039】
コンピュータ3のメモリ7には、損傷対応情報として、杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフの情報が記憶されている。この情報には、各振動レベルにおける損傷割合と傾斜角度とを対応付けたグラフ上の座標と、損傷割合と傾斜角度との相関を示す関数が記憶されている。ここで、損傷割合と傾斜角度との相関を示す関数は、例えば(式7)にて示されるものとする。
y=15ln(x)+152 ・・・・(式7)
このため、GUIを用いて実測傾斜角度が入力されると、実測傾斜角度が損傷割合と傾斜角度との相関を示す(式7)に代入されて、被災した杭基礎10の損傷状態が推定される。図11は、被災した杭基礎の損傷割合の推定方法を示す図である。図示するように、例えば実測傾斜角度θが0.01024(rad)であったとする。この場合には、0.01024が(式7)に代入されて、杭基礎10の損傷割合として「83」が求められる。このとき、コンピュータ3の表示部9には、推定された損傷割合「83」と、図11に示すグラフが表示される。また、推定された損傷割合は、図9の情報に照らし合わせると第12振動レベルに相当する。このため、参考となる損傷状況として、第12振動レベルに対応付けて設定された杭12の損傷状況が表示部9に表示されても良い。すなわち、コンピュータ3の操作者等は、この画面を見ることにより、推定された被災した杭基礎10の損傷割合を知ると共に、杭12の損傷状況を把握することが可能である。
【0040】
上述した杭基礎10の損傷割合推定方法は、例えば、次の手順にて実行される。図12は、杭基礎の損傷割合推定方法の手順を示すフロー図である。
【0041】
まず、損傷割合の推定対象となる杭基礎10をモデリングする(S100)。次に、複数種類の振動を設定し、各振動を与えた際の各杭12の損傷レベルを設定する(S101)。そして、設定された損傷レベルに基づいて、傾斜角度と損傷割合とを算定し、損傷対応情報を生成する(S102)。その後、被災した杭基礎10を実測した実測傾斜角度と生成した損傷対応情報とに基づいて杭基礎10の損傷割合を推定する(S103)。このとき、被災した杭基礎10の実測は、杭基礎10の損傷割合を推定する前であれば、いずれのタイミングにて実行してもよい。
【0042】
本実施形態の杭基礎10の損傷割合推定方法によれば、建物15の一部を解体したり地盤を掘削することなく、被災した杭基礎10を実測しコンピュータ3にて処理することにより、杭基礎10の損傷割合を推定し、被災した杭基礎10の損傷状況を比較的高い精度にて把握することが可能である。このため、建物15の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎10の損傷状況を把握することが可能である。さらに、杭基礎10の損傷割合を推定する際に用いる杭基礎モデルは、推定対象の杭基礎10をモデリングしたものなので、より精度良く杭基礎10の損傷割合を推定することが可能である。
【0043】
また、杭基礎10の損傷割合を推定する際に基となる杭損傷情報は、杭基礎10が有する杭12の総数Nに対する損傷した杭12の数Bと、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有しているので、具体性が高く比較的詳細な情報に基づいて、信頼性の高い杭基礎10の損傷割合を推定することが可能である。
【0044】
また、損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭12の損傷度合い毎の数とを乗じて杭基礎10が有する杭の総数Nで除して求められる損傷度合い毎の値の総和として、損傷割合を容易に算定することが可能である。
【0045】
また、損傷度合いに基づいて求められる杭12の上端の沈下量と、振動による変位方向における杭間距離とに基づいて、杭基礎10の傾斜角度を容易に算定することが可能である。
【0046】
また、本実施形態の杭基礎10の損傷割合推定システムによれば、コンピュータ3により被災した杭基礎10に則した杭基礎10の損傷対応情報が生成されるので、被災した杭基礎10の損傷状況に対応した、より精度の良い損傷対応情報を得ることが可能である。また、建物15の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎10の損傷状況を把握することが可能な、杭基礎10の損傷割合推定システムを提供することが可能である。
【0047】
さらに、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度に基づいて、杭基礎10の損傷割合が推定されるので、被災した杭基礎の損傷状況をより精度良く把握することが可能である。
【0048】
本実施形態においては、杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフの情報である損傷対応情報と、実測傾斜角度とに基づいて、杭基礎の損傷割合を推定する処理をコンピュータ3が実行する例について説明したが、コンピュータ3にて出力された損傷対応情報に基づいて、作業者が杭基礎の損傷割合を推定しても良い。この場合には、コンピュータ3は損傷割合推定部を有していない構成となる。
【0049】
また、傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフに、経験にも基づいて閾値を設定し、被災後に実施する調査の重要度を判定できる構成としても良い。例えば図11に示すように、損傷割合が「40未満」であって場合には「調査不要」、損傷割合が「40以上70未満」であった場合には「適切な時期に調査」、損傷割合が「70以上」の場合には「早急に調査」という判断基準を設定しておいても良い。
【0050】
本発明の発明者は、兵庫県南部地震で被災した4階建て集合住宅の損傷割合を推定すると共に、地盤を掘削して目視にて被災状況を確認する従来の方法にて求めた傾斜角度と損傷割合とを、上述した方法にて求めた、各振動レベルにおける損傷割合と傾斜角度とを対応付けたグラフ上にプロットした。その結果、傾斜角度は0.01124(rad)損傷割合は「80」であり、プロットした点が損傷割合と傾斜角度との相関を示し(式7)にて示されるライン上に位置することから、本実施形態における杭基礎の損傷割合推定方法の信頼性が高いことを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法の対象となる杭基礎の一例を説明するための図である。
【図2】本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法を実現するために用いられるコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【図3】本実施形態において損傷割合の推定対象となる杭基礎のモデルを示す図である。
【図4】図3のB矢視図である。
【図5】大きさの異なる14種類の振動を受けた際における各杭の損傷状態が設定された表である。
【図6】杭基礎の損傷状況をさらに詳細に設定した情報を示す図である。
【図7】本実施形態の杭基礎を、振動による杭基礎の傾斜角度を求めるためにモデル化した概念を示す図である。
【図8】図8Aは、杭の質点系モデルにおける応答変位法による被害の推定結果を示す図である。図8Bは、杭の質点系モデルにおける杭の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を示す図である。図8Cは、杭の質点系モデルにおける曲げモーメントと軸力との関係を示す図である。
【図9】各振動レベルに対する、モデル化した杭基礎に基づいて得られた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合との対応を示す図である。
【図10】得られた傾斜角度と杭基礎の損傷割合とを対応付けたグラフである。
【図11】被災した杭基礎の損傷割合の推定方法を示す図である。
【図12】杭基礎の損傷割合推定方法の手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0052】
1 コンピュータシステム 3 コンピュータ
7 メモリ 8 入力部
9 表示部 10 杭基礎
11 モデル 12 杭
12y1a〜c 杭 12y2a〜c 杭
12y3a〜c 杭 12y4 杭
15 建物 16 基礎スラブ
B 損傷度合い毎の杭の本数 D,D1,D2,D3,D4 損傷割合
N 杭基礎が有する杭の総数 W 建物の全重量
Wi 各フーチングに作用する固定荷重 Y1,Y2,Y3,Y4 フーチング
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎の損傷割合推定方法、及び、杭基礎の損傷割合推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等により被災した建物を支持する杭基礎の損傷状況を目視することは、杭が地盤や厚い基礎盤の下に存在するため困難である。このため、従来では重機などにより地盤を掘削したり、杭の上部にある構造体を一部解体したりして、ボアホールカメラ等による確認が行われている。また、建物の建設段階において杭の中にセンサーを設置して外部の収録装置と接続し、被災後にセンサーの信号を収録装置にて観測することにより、杭の損傷状態を診断する場合もある(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【非特許文献1】石井清、外2名,「炭素繊維束センサの開発と性能評価−杭の健全性モニタリング手法の開発(その1)−」,建築学会構造系論文集 No.557,2002年7月,p.129
【非特許文献2】稲田裕、外3名,「炭素繊維束センサの杭の損傷検知に対する性能評価−杭の健全性モニタリング手法の開発(その2)−」,建築学会構造系論文集 No.563,2003年1月,p.91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、建物を支持する杭基礎の損傷状況を診断するために、地盤を掘削したり杭の上部にある構造体を一部解体したりすると、重機の搬入など大がかりな工事が必要となり、多大な時間と多額の費用を費やすことになる。また、杭の中にセンサーを設置して外部の収録装置と接続して被災後にセンサーの信号を収録装置にて観測すると、装置の設置や維持に多額の費用が費やされると共に、既存の建物には適用できないという課題があった。
【0004】
本発明では、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、地震等による被災後に、迅速に且つ低コストにて杭の損傷状況を把握することが可能な杭基礎の杭損傷割合推定方法、及び、杭基礎の損傷割合推定システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための主たる発明は、建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法である。
【0009】
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、建物の一部を解体したり地盤を掘削することなく、被災した杭基礎を実測しコンピュータにて処理することにより、杭基礎の損傷割合を推定し、被災した杭基礎の損傷状況を把握することが可能である。このため、建物の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎の損傷状況を把握することが可能である。さらに、杭基礎の損傷割合を推定する際に用いる杭基礎モデルは、推定対象の杭基礎をモデリングしたものなので、より精度良く杭基礎の損傷割合を推定することが可能である。
【0010】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記杭損傷情報として前記杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有していることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、前記杭損傷情報は、杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有しているので、具体性が高く比較的詳細な情報に基づいて、信頼性の高い杭基礎の損傷割合を推定することが可能である。
【0011】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記損傷割合は、前記損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭の損傷度合い毎の数とを乗じて前記杭基礎が有する杭の総数で除して求められる前記損傷度合い毎の値の総和であることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、杭基礎の損傷割合をより精度良く推定することが可能である。
【0012】
かかる杭基礎の損傷割合推定方法であって、前記傾斜角度は、前記損傷度合いに基づいて求められる前記杭の上端の沈下量と、前記振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定されることが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定方法によれば、杭基礎の傾斜角度を容易に算定することが可能である。
【0013】
また、建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定システムであって、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報を記憶する記憶部と、前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎に算定して前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システムである。
このような杭基礎の損傷割合推定システムによれば、被災した杭基礎に則した杭基礎の損傷対応情報が生成されるので、被災した杭基礎の損傷状況に対応した、より精度の良い損傷対応情報を得ることが可能である。
【0014】
かかる杭基礎の損傷割合推定システムであって、被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有することが望ましい。
このような杭基礎の損傷割合推定システムによれば、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度に基づいて、杭基礎の損傷割合が推定されるので、被災した杭基礎の損傷状況をより精度良く把握することが可能である。
【0015】
===杭基礎の杭損傷割合推定方法の一実施形態===
図1は、本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法の対象となる杭基礎の一例を説明するための図である。図2は、本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法を実現するために用いられるコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【0016】
本実施形態の杭基礎の損傷割合推定方法は、建物15を支える複数の杭12及び基礎スラブ16を有する杭基礎10の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎10の損傷割合推定方法である。まず、大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎10に与えた際に当該振動により生じる各杭12の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、前記損傷割合の推定対象である杭基礎10がモデリングされた杭基礎モデル11に基づいて、前記振動により前記基礎スラブ16が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎10に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、被災した前記杭基礎10を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎10の損傷割合を推定するステップと、を有している。
【0017】
そして、この杭基礎の損傷割合推定方法は、例えば、図2に示すような、前記杭損傷情報を記憶するための記憶部としてのメモリ7と、前記損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有する杭基礎の損傷割合推定システムとしてのコンピュータ3と、を有するコンピュータシステム1により実現される。すなわち、本実施形態の杭基礎の損傷割合推定システムは、ハードディスクを備えたコンピュータシステム1であり、ハードディスクは、杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合を算定するためのプログラム、損傷対応情報を生成するためのプログラム、被災した杭基礎の損傷割合を推定するためのプログラムと、算出結果等が記憶されるメモリ7である。尚、前記各プログラムは、各種機能を実現するためのコードから構成されている。
【0018】
コンピュータが有するCPU5は、各プログラムに従って被災した杭基礎10の損傷割合を推定する。このコンピュータシステム1のコンピュータ3は、損傷対応情報生成部、及び、損傷割合推定部に相当する。
【0019】
また、このコンピュータシステム1は、杭基礎の損傷割合の推定を希望する者が、杭損傷情報設定したり、実測傾斜角度等を入力する際に用いる入力部8と、算定結果、推定結果等、杭基礎の損傷割合の推定を希望する者に情報を報知するための表示部9とを備えている。表示部にはGUI(グラフィックユーザーインタフェース)を利用した画面を表示することも可能である。以下に、杭基礎の損傷状況推定方法について詳述する。
【0020】
<杭基礎のモデリング>
図3は、本実施形態において損傷割合の推定対象となる杭基礎のモデルを示す図である。図4は、図3のB矢視図である。
【0021】
本実施形態における杭基礎の損傷状況推定方法では、最初に損傷割合の推定対象となる、建物15を支える杭基礎10をモデリングする。すなわち、図3に示すように杭基礎10を、その構造に基づいて線のみにて表現するワイヤーフレームモデルを形成する。本実施形態では、損傷の原因となる地震による振動は、図中の矢印Aの方向に杭基礎10が変位するように作用するものとする。そして、以下では、図3における矢印Bの方向から見たモデルにて説明する。
【0022】
図3に示すように本実施形態の杭基礎10は、建物15を支持する複数の支持部に各々独立してフーチングY1,Y2,Y3,Y4が設けられている。そして、各フーチングY1〜Y4は振動の方向と交差する方向に沿って4列に配置されている。図4において、最も右に位置する列の各フーチングY4にはそれぞれ1本の杭12が設けられ、その他の3列のフーチングY1,Y2,Y3には、2〜4本の杭12が設けられている。本実施形態の杭基礎10は66本の杭12を有している。
【0023】
<各杭の損傷レベルを設定する>
本実施形態においては、図3に示すA方向の振動によりフーチングY4の上部が最も損傷を受けた例を想定し、最も右側に位置する列のフーチングY4から、最も左に位置する列のフーチングY1に向かって損傷が小さくなっている場合について各杭12の損傷レベルを設定する。このとき、複数種類の大きさの異なる14種類の振動を設定し、各振動を与えた際の各杭12の損傷状況が段階的に変化するように各杭12の損傷レベルを設定する。以下の説明においては、複数のフーチングY4が振動の方向と交差する方向に並べられた列を第4フーチング列といい、同様にフーチングY3の列を第3フーチング列、フーチングY2の列を第2フーチング列、フーチングY1の列を第1フーチング列という。
【0024】
図5は、大きさの異なる14種類の振動を受けた際における各杭の損傷状態が設定された表である。図5において、各杭の損傷度合い(損傷度)を○、◇、△、×の4種類に分類して設定している。すなわち、これらの○、◇、△、×は、損傷度を4段階に定義し、損傷度1は、近寄らないと見えにくい程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2mm以下)、損傷度2は、肉眼ではっきりと見えるひび割れ(ひび割れ幅0.2mm〜1mm程度)、損傷度3は、比較的大きなひび割れが生じているが、コンクリートの剥落は極わずか(ひび割れ幅1mm〜2mm程度)、損傷度4は、鉄骨が曲がり、内部コンクリートも崩れ落ち、一見して柱の高さ方向の変形が生じているとわかる、という状態が定義されている。本実施形態では、損傷度1を○、損傷度2を◇、損傷度3を△、損傷度4を×として示す。また、以下の説明においては、損傷度1の杭を健全杭、損傷度2の杭を降伏杭、損傷度3の杭を終局杭、損傷度4の杭を破壊杭という。
【0025】
そして、杭基礎の損傷状況として、さらに詳細な設定がなされている。図6は、杭基礎の損傷状況をさらに詳細に設定した情報を示す図である。図示するように、14種類の大きさの異なる振動毎に、66本の杭12のうちの何本が損傷度いくつの損傷を受けているかが設定されている。例えば、最も振動が小さい第1振動レベルでは、66本すべての杭12が損傷度1の健全杭であり、2番目に振動が小さい第2振動レベルでは、66本有する杭12のうち4本の杭が、損傷度2の降伏杭となる損傷を受けているように設定されている。そして、振動が大きくなるにしたがい、順次損傷を受けている杭12の数及び損傷度が高い杭12の数が増えるように設定され、最も振動が大きな第14振動レベルでは、66本有する杭12のうち19本の杭が、損傷度3の終局杭となり、47本が、損傷度4の破壊杭となる損傷を受けているように設定されている。これらの設定された情報が、14種類の大きさの異なる振動を与えた際の杭基礎の損傷状況を示す杭損傷情報とに相当する。また、この杭損傷情報は、損傷情報を推定する処理を実行する前に予めコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0026】
<杭基礎の損傷割合と杭基礎の傾斜角度との算定>
杭基礎10の損傷割合と杭基礎10の傾斜角度との算定は、杭基礎10の損傷割合を推定する者が、杭基礎10の損傷割合を推定する機能を実現するためのプログラムが記憶されたメモリ7を有するコンピュータ3の入力部8から、上記設定条件を入力することにより実行される。
【0027】
・杭基礎の損傷割合の算定
杭基礎10の損傷割合は、杭基礎10が有する杭12の総数、損傷度合い毎の杭12の本数、損傷度合いに対応付けられた係数、に基づく関数を用いて、コンピュータ3にて算出される。すなわち、コンピュータ3のメモリ7には、損傷度合いに対応付けられた係数を用いた、杭基礎10の損傷割合Dを算出するための関数が記憶されている。杭基礎10の損傷割合Dを算出するための式は、式1にて表される。
D=ΣDi=D1+D2+D3+D4・・・(式1)
【0028】
ここで、D1は、損傷度1に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度1の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D2は、損傷度2に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度2の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D3は、損傷度3に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度3の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。D4は、損傷度4に対応付けられた、杭基礎10に対する損傷度4の杭12による損傷割合を算出するための関係式である。すなわち、杭基礎10の損傷割合Dは、損傷度1の杭12による損傷割合D1と、損傷度2の杭12による損傷割合D2と、損傷度3の杭12による損傷割合D3と、損傷度4の杭12による損傷割合D4との総和である。これら損傷割合D1、D2、D3、D4はそれぞれ(式2)〜(式5)にて示される。
D1=10B1/N ・・・(式2)
D2=26B2/N ・・・(式3)
D3=30B3/N ・・・(式4)
D4=1000B4/N ・・・(式5)
ここで、損傷度合いに応じて重み付けするために損傷度合いに対応付けられた係数は、損傷度1では「10」、損傷度2では「26」、損傷度3では「30」、損傷度4では「1000」である。
【0029】
コンピュータ3は、杭基礎10が有する杭12の総数N、各振動のレベル毎に設定された損傷度合い毎の杭12の本数Bが、入力部8から入力されることにより、所定のプログラムを実行して(式1)に基づき杭基礎10の損傷割合を算定する。
【0030】
・杭基礎の傾斜角度の算定
杭基礎10の傾斜角度を算定する際には、まず杭基礎10を等価なモデルに置換する。図7は、本実施形態の杭基礎を、振動による杭基礎の傾斜角度を求めるためにモデル化した概念を示す図である。図8Aは、杭の質点系モデルにおける応答変位法による被害の推定結果を示す図である。図8Bは、杭の質点系モデルにおける杭の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を示す図である。図8Cは、杭の質点系モデルにおける曲げモーメントと軸力との関係を示す図である。図9は、各振動レベルに対する、モデル化した杭基礎に基づいて得られた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合との対応を示す図である。図10は、得られた傾斜角度と杭基礎の損傷割合とを対応付けたグラフである。
【0031】
本実施形態においては、図7に示すように、基礎は等価な基礎梁(梁要素)に置換し、杭12及び地盤は群杭効果を考慮した杭頭地盤ばねを杭本数で除した剛性をもつ杭ばね(ばね要素)に置換する。このとき、損傷度1(健全杭)、損傷度2(降伏杭)、損傷度3(終局杭)、損傷度4(破壊杭)のそれぞれに対する杭頭等価曲げ剛性を、杭12の質点系モデルから求める。すなわち、図8Bの杭12の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を参考として、損傷度1の杭頭等価曲げ剛性をEI、損傷度2の杭頭等価曲げ剛性をEI/3、損傷度3の杭頭等価曲げ剛性をEI/15、損傷度4の杭頭等価曲げ剛性をEI/1000と設定した杭基礎モデルに置換する。そして設定された杭頭等価曲げ剛性は、損傷度と対応付けられてコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0032】
置換した杭基礎モデルにおいて、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重を設定する。本実施形態では、各杭12に均等に荷重が作用するように設計されていると仮定し、建物15の全重量Wを杭12の総数N(ここでは66本)で除し、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4が有する杭12の数Niを乗じた荷重を各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重Wiとしている。すなわち、各フーチングY1、Y2,Y3,Y4に作用する固定荷重Wiは、(式6)にて示される。
Wi=(W/N)×Ni ・・・(式6)
このように、各フーチングに固定荷重Wiが作用したとして、各損傷度における杭上端の沈下量を求める。
【0033】
そして、各振動レベルの振動が作用した場合に生じうる杭基礎10の傾斜角度は、置換した杭基礎モデルに基づいて求められた杭上端の沈下量と、当該振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定される。本実施形態の例では、振動による変位方向における杭間距離は、振動による変位方向において第1フーチングY1と同じ位相に位置する杭12y1b(図4)と、第4フーチングY4と同じ位相に位置する杭12y4(図4)との間隔が用いられる。このようにして求められた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合は、図9に示すように各振動レベルに対応付けられ、これらの結果から、本実施形態の杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係が図10に示すようなグラフとして生成される。
【0034】
杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフは、例えば地震により被災した杭基礎10が傾いたときに、この傾き角度に基づいて杭基礎10の損傷割合を推定し、杭基礎の損傷状態を把握するために用いられる。このグラフを示す情報は、損傷対応情報としてコンピュータ3のメモリ7に記憶されている。
【0035】
<被災した杭基礎の傾斜角度の実測>
地震等により建物15が被災した際に、建物15の下に位置する杭基礎10の傾斜角度は、杭基礎10を実測した値に基づいて求める。被災した杭基礎10の傾斜を求める際には、振動が作用する方向に沿って間隔を隔てた2地点に標尺と呼ばれる物差しを立て、その中間部に水平に置いた水準儀で標尺の目盛を読み取ることにより、読み取った目盛の差から高さの差(比高)を測定する、所謂三角測量を実施し、2地点の間隔と、測定した比高から杭基礎10の傾斜角度を求めても良い。
【0036】
しかしながら、被災現場の状況によって三角測量する場所が確保できない場合には、水準器を用いても良い。ここで水準器とは、例えば透明な筒状をなす2つの容器(例えばペットボトル)を用い、2つのペットボトルを長さ50mのビニルホース(例えば内径3mm)でつなぎ、互いのペットボトル内を連通させる。2つのペットボトルの蓋からは鉛直上に目盛が設けられたアクリルパイプ(例えば内径20mm)を立設させて、アクリルパイプとペットボトル内とを連通させておく。これら2本のペットボトルを、振動より変位する方向に沿って間隔を隔てた2地点に配置し、2本のペットボトル内とアクリルパイプ内に水を注入する。そして、2本のアクリルパイプ内の水位差と2本のペットボトル間の距離とから杭基礎10の傾斜角度を求めても良い。ここで、実測された値に基づく杭基礎10の傾斜角度を実測傾斜角度θとする。
【0037】
<実測傾斜角度と損傷対応情報とに基づく杭基礎の損傷割合の推定>
次に、実測傾斜角度と生成された損傷対応情報とに基づいて、杭基礎10の損傷割合を推定する。
【0038】
本実施形態においては、コンピュータ3内にインストールされたアプリケーションプログラムにより杭基礎10の損傷割合が推定される。すなわち、コンピュータ3が有する表示部9の表示画面に設定されたGUI(グラフィックユーザーインタフェース)により、実測傾斜角度を入力することにより、コンピュータ3がメモリ7に記憶されている損傷対応情報に基づいて杭基礎10の損傷割合を推定する処理を実行する。
【0039】
コンピュータ3のメモリ7には、損傷対応情報として、杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフの情報が記憶されている。この情報には、各振動レベルにおける損傷割合と傾斜角度とを対応付けたグラフ上の座標と、損傷割合と傾斜角度との相関を示す関数が記憶されている。ここで、損傷割合と傾斜角度との相関を示す関数は、例えば(式7)にて示されるものとする。
y=15ln(x)+152 ・・・・(式7)
このため、GUIを用いて実測傾斜角度が入力されると、実測傾斜角度が損傷割合と傾斜角度との相関を示す(式7)に代入されて、被災した杭基礎10の損傷状態が推定される。図11は、被災した杭基礎の損傷割合の推定方法を示す図である。図示するように、例えば実測傾斜角度θが0.01024(rad)であったとする。この場合には、0.01024が(式7)に代入されて、杭基礎10の損傷割合として「83」が求められる。このとき、コンピュータ3の表示部9には、推定された損傷割合「83」と、図11に示すグラフが表示される。また、推定された損傷割合は、図9の情報に照らし合わせると第12振動レベルに相当する。このため、参考となる損傷状況として、第12振動レベルに対応付けて設定された杭12の損傷状況が表示部9に表示されても良い。すなわち、コンピュータ3の操作者等は、この画面を見ることにより、推定された被災した杭基礎10の損傷割合を知ると共に、杭12の損傷状況を把握することが可能である。
【0040】
上述した杭基礎10の損傷割合推定方法は、例えば、次の手順にて実行される。図12は、杭基礎の損傷割合推定方法の手順を示すフロー図である。
【0041】
まず、損傷割合の推定対象となる杭基礎10をモデリングする(S100)。次に、複数種類の振動を設定し、各振動を与えた際の各杭12の損傷レベルを設定する(S101)。そして、設定された損傷レベルに基づいて、傾斜角度と損傷割合とを算定し、損傷対応情報を生成する(S102)。その後、被災した杭基礎10を実測した実測傾斜角度と生成した損傷対応情報とに基づいて杭基礎10の損傷割合を推定する(S103)。このとき、被災した杭基礎10の実測は、杭基礎10の損傷割合を推定する前であれば、いずれのタイミングにて実行してもよい。
【0042】
本実施形態の杭基礎10の損傷割合推定方法によれば、建物15の一部を解体したり地盤を掘削することなく、被災した杭基礎10を実測しコンピュータ3にて処理することにより、杭基礎10の損傷割合を推定し、被災した杭基礎10の損傷状況を比較的高い精度にて把握することが可能である。このため、建物15の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎10の損傷状況を把握することが可能である。さらに、杭基礎10の損傷割合を推定する際に用いる杭基礎モデルは、推定対象の杭基礎10をモデリングしたものなので、より精度良く杭基礎10の損傷割合を推定することが可能である。
【0043】
また、杭基礎10の損傷割合を推定する際に基となる杭損傷情報は、杭基礎10が有する杭12の総数Nに対する損傷した杭12の数Bと、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有しているので、具体性が高く比較的詳細な情報に基づいて、信頼性の高い杭基礎10の損傷割合を推定することが可能である。
【0044】
また、損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭12の損傷度合い毎の数とを乗じて杭基礎10が有する杭の総数Nで除して求められる損傷度合い毎の値の総和として、損傷割合を容易に算定することが可能である。
【0045】
また、損傷度合いに基づいて求められる杭12の上端の沈下量と、振動による変位方向における杭間距離とに基づいて、杭基礎10の傾斜角度を容易に算定することが可能である。
【0046】
また、本実施形態の杭基礎10の損傷割合推定システムによれば、コンピュータ3により被災した杭基礎10に則した杭基礎10の損傷対応情報が生成されるので、被災した杭基礎10の損傷状況に対応した、より精度の良い損傷対応情報を得ることが可能である。また、建物15の一部を解体したり地盤を掘削する手間も費用も要しないため、迅速且つ低コストにて杭基礎10の損傷状況を把握することが可能な、杭基礎10の損傷割合推定システムを提供することが可能である。
【0047】
さらに、被災した杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度に基づいて、杭基礎10の損傷割合が推定されるので、被災した杭基礎の損傷状況をより精度良く把握することが可能である。
【0048】
本実施形態においては、杭基礎10における傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフの情報である損傷対応情報と、実測傾斜角度とに基づいて、杭基礎の損傷割合を推定する処理をコンピュータ3が実行する例について説明したが、コンピュータ3にて出力された損傷対応情報に基づいて、作業者が杭基礎の損傷割合を推定しても良い。この場合には、コンピュータ3は損傷割合推定部を有していない構成となる。
【0049】
また、傾斜角度と損傷割合との対応関係を示すグラフに、経験にも基づいて閾値を設定し、被災後に実施する調査の重要度を判定できる構成としても良い。例えば図11に示すように、損傷割合が「40未満」であって場合には「調査不要」、損傷割合が「40以上70未満」であった場合には「適切な時期に調査」、損傷割合が「70以上」の場合には「早急に調査」という判断基準を設定しておいても良い。
【0050】
本発明の発明者は、兵庫県南部地震で被災した4階建て集合住宅の損傷割合を推定すると共に、地盤を掘削して目視にて被災状況を確認する従来の方法にて求めた傾斜角度と損傷割合とを、上述した方法にて求めた、各振動レベルにおける損傷割合と傾斜角度とを対応付けたグラフ上にプロットした。その結果、傾斜角度は0.01124(rad)損傷割合は「80」であり、プロットした点が損傷割合と傾斜角度との相関を示し(式7)にて示されるライン上に位置することから、本実施形態における杭基礎の損傷割合推定方法の信頼性が高いことを確認している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法の対象となる杭基礎の一例を説明するための図である。
【図2】本実施形態の杭基礎の杭損傷割合推定方法を実現するために用いられるコンピュータシステムの一例を示すブロック図である。
【図3】本実施形態において損傷割合の推定対象となる杭基礎のモデルを示す図である。
【図4】図3のB矢視図である。
【図5】大きさの異なる14種類の振動を受けた際における各杭の損傷状態が設定された表である。
【図6】杭基礎の損傷状況をさらに詳細に設定した情報を示す図である。
【図7】本実施形態の杭基礎を、振動による杭基礎の傾斜角度を求めるためにモデル化した概念を示す図である。
【図8】図8Aは、杭の質点系モデルにおける応答変位法による被害の推定結果を示す図である。図8Bは、杭の質点系モデルにおける杭の曲率と振動による曲げモーメントとの関係を示す図である。図8Cは、杭の質点系モデルにおける曲げモーメントと軸力との関係を示す図である。
【図9】各振動レベルに対する、モデル化した杭基礎に基づいて得られた傾斜角度及び杭基礎の損傷割合との対応を示す図である。
【図10】得られた傾斜角度と杭基礎の損傷割合とを対応付けたグラフである。
【図11】被災した杭基礎の損傷割合の推定方法を示す図である。
【図12】杭基礎の損傷割合推定方法の手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0052】
1 コンピュータシステム 3 コンピュータ
7 メモリ 8 入力部
9 表示部 10 杭基礎
11 モデル 12 杭
12y1a〜c 杭 12y2a〜c 杭
12y3a〜c 杭 12y4 杭
15 建物 16 基礎スラブ
B 損傷度合い毎の杭の本数 D,D1,D2,D3,D4 損傷割合
N 杭基礎が有する杭の総数 W 建物の全重量
Wi 各フーチングに作用する固定荷重 Y1,Y2,Y3,Y4 フーチング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、
大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、
前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、
被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、
を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記杭損傷情報は、前記杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有していることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記損傷割合は、前記損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭の損傷度合い毎の数とを乗じて前記杭基礎が有する杭の総数で除して求められる前記損傷度合い毎の値の総和であることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記傾斜角度は、前記損傷度合いに基づいて求められる前記杭の上端の沈下量と、前記振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定されることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項5】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定システムであって、
大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報を記憶する記憶部と、
前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎に算定して前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、
を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システム。
【請求項6】
請求項5に記載の杭基礎の損傷割合推定システムであって、
被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システム。
【請求項1】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定方法であって、
大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報に基づいて、
前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて、前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎にコンピュータに算定させて前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成させるステップと、
被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定するステップと、
を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記杭損傷情報は、前記杭基礎が有する杭の総数に対する損傷した杭の数と、損傷した杭の損傷度合いを示す情報を有していることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記損傷割合は、前記損傷度合いに応じて重み付けするために各々の損傷度合いに対応付けられた係数と損傷した杭の損傷度合い毎の数とを乗じて前記杭基礎が有する杭の総数で除して求められる前記損傷度合い毎の値の総和であることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項4】
請求項2に記載の杭基礎の損傷割合推定方法であって、
前記傾斜角度は、前記損傷度合いに基づいて求められる前記杭の上端の沈下量と、前記振動による変位方向における杭間距離とに基づいて算定されることを特徴とする杭基礎の損傷割合推定方法。
【請求項5】
建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定システムであって、
大きさが異なる複数種類の振動を前記杭基礎に与えた際に当該振動により生じる各杭の損傷が前記振動の大きさに応じて段階的に変化するように設定された杭損傷情報を記憶する記憶部と、
前記損傷割合の推定対象である杭基礎がモデリングされた杭基礎モデルに基づいて前記振動により前記杭基礎が傾斜しうる傾斜角度と、前記振動により前記杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを、前記各振動の大きさ毎に算定して前記傾斜角度と前記損傷割合とを対応付けた損傷対応情報を生成する損傷対応情報生成部と、
を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システム。
【請求項6】
請求項5に記載の杭基礎の損傷割合推定システムであって、
被災した前記杭基礎を実測した値に基づく実測傾斜角度と、生成された前記損傷対応情報と、に基づいて前記被災した杭基礎の損傷割合を推定する損傷割合推定部を有することを特徴とする杭基礎の損傷割合推定システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−39879(P2007−39879A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221960(P2005−221960)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
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