説明

杭基礎の施工方法

【課題】グラウトの漏出を確実に防止すると共に、工期の短縮化や施工コストの低減化を図る。
【解決手段】本発明に係る杭基礎の施工方法は、下端内周に沿ってパッキン21が設けられた接合管17を、打設した基礎杭10の上端部に被嵌し、基礎杭10の外面にパッキン21を接触させ、接合管17と基礎杭10との隙間22の下端面を閉塞する工程と、隙間の22パッキン21の上方に一層目部分29のグラウトを充填する工程と、一層目部分29のグラウトの凝固後、前記一層目部分29のグラウトの上方に二層目部分のグラウトを充填する工程とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸水域にモノパイル式基礎を構築する場合等に用いられる杭基礎の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境にやさしいクリーンなエネルギー源として風力発電が注目されており、洋上にも風力発電所が設置されている。この洋上風力発電所では、風車のタワーを支持するために沿岸水域の海底に基礎が構築される。この基礎工事の施工過程において、例えば、内管と外管等、2部材間に形成された空隙部に、モルタルなどの経時硬化性材料を充填することが行われることがあり、この場合、経時硬化性材料が空隙部から海中に漏洩しないように配慮することが求められる。
【0003】
従来のこの種の漏洩防止技術としては、例えば、外管の内面に上下に間隔を置いて固着したシール材把持用突設部材の間でシール材を把持し、シール材が内管の外表面に密接することで、内管と外管の間に充填する経時硬化性材料の漏洩を防止するための装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−288766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の漏洩防止装置では、内管と外管との間に充填する経時硬化性材料の量が多いとシール材が捲れて充填材である経時硬化性材料が下方に漏れ出すおそれがあった。
【0006】
また、外管の内面に上下に間隔を置いて固着したシール材把持用突設部材の間でシール材を把持させる必要があり、部品点数が増え、施工に手間が掛かるため、工期の短縮化や施工コストの低減化が図り難いといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記した各課題を解決すべくなされたものであり、充填材の漏出を確実に防止することができると共に、工期の短縮化や施工コストの低減化が可能な杭基礎の施工方法において使用される接合管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明に係る杭基礎の施工方法は、下端内周に沿ってパッキンが設けられた接合管を、打設した基礎杭の上端部に被嵌し、該基礎杭の外面に前記パッキンを接触させ、前記接合管と前記基礎杭との隙間の下端面を閉塞する工程と、前記隙間のパッキンの上方に一層目部分のグラウトを充填する工程と、前記一層目部分のグラウトの凝固後、前記一層目部分のグラウトの上方に二層目部分のグラウトを充填する工程とを備えていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る杭基礎の施工方法において、前記一層目部分のグラウトは前記パッキンの上方20cmの高さまで充填するのが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る杭基礎の施工方法において、前記一層目部分のグラウトが接触する前記基礎杭の外面と前記接合管の内面の少なくともいずれか一方の面は凹凸状に形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充填材であるグラウトの漏出を確実に防止することができると共に、工期の短縮化や施工コストの低減化を図ることができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される仮導枠を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法の一工程を示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される本導枠を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される接続管を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される接続管を示す底面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される接続管の下端部分を示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される接続管を示す平面図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を用いるモノパイル式基礎施工方法において使用される仮導枠を示す平面図、図2は同モノパイル式基礎施工方法の一工程を示す側面図、図3は同モノパイル式基礎施工方法において使用される本導枠を示す平面図、図4は同モノパイル式基礎施工方法の次の一工程、図5は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図6は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図7は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図8は同モノパイル式基礎施工方法において使用される接続管を示す側面図、図9は同接続管を示す底面図、図10は同接続管の下端部分を示す側面図、図11は同接続管を示す平面図、図12は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図、図13は同モノパイル式基礎施工方法のさらに次の一工程を示す側面図である。なお、以下の説明では、本発明の実施の形態に係る杭基礎の施工方法を洋上風力発電所のモノパイル式基礎施工方法に使用した場合について例示して説明する。
【0014】
先ず、準備作業として、陸上において仮導枠1の組立てを行う。この仮導枠1は、図1に示されているように、H鋼2を箱型に接合することにより形成されており、例えば、外径寸法が8.0m×8.0m×8.0mの立方体形状を成している。この仮導枠1の中央には直方体形状の基礎杭打設空間3が形成され、基礎杭打設空間3の周囲の四隅にはそれぞれ直方体形状の導杭打設空間4a,4b,4c,4dが形成されている。
【0015】
次に、図2に示すように、沿岸陸地に設置した第1のクローラクレーン5(例えば、450t)を使用して、この仮導枠1を吊り上げ、沿岸水域の海底の所定位置に設置する。この時、海底が平坦でない場合には、海底と仮導枠1との間にH鋼等を介装して仮導枠1が水平姿勢となるようにレベル調整する。
【0016】
そして、この仮導枠1を目安にして所要箇所(例えば、図1の黒丸部分)にH鋼(例えば、H−300)を海底に打込み、障害物の探査を行った後、第1のクローラクレーン5を使用して仮導枠1の導杭打設空間4a,4b,4c,4dにそれぞれ導杭6a,6b,6c,6d(例えば、φ800mmの鋼管)を建込み、油圧バイブロハンマ7で各導杭6a,6b,6c,6dを打設する。
【0017】
次に、沿岸陸地に設置した第2のクローラクレーン8(例えば、750t)を使用して、仮導枠1を吊り上げ、海底から撤去する。そして、図3に示すように、この仮導枠1の各導杭打設空間4a,4b,4c,4dの上部を横切るように鋼材26(例えば、H−400)をそれぞれ掛け渡すと共に、基礎杭打設空間3に臨む部分の上部にローラ27を取り付け、下部にガイド(図示省略)を取り付けることにより、仮導枠1を本導枠9に加工し直す。その後、図4に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、本導枠9を吊り上げ、導杭6a,6b,6c,6dの上に各鋼材26を載せ、振れ止め用専用金具で導杭6a,6b,6c,6dを各鋼材26に固定して、本導枠9を前記海底の所定位置に設置する。
【0018】
次に、図5に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、基礎杭10(例えば、φ3500mmの鋼管)を吊り上げ、本導枠9の中央の基礎杭打設空間3に建込む。この時、本導枠9の基礎杭打設空間3に臨む部分にはローラ27及び前記ガイドが取り付けられているため、基礎杭10の建込み作業を容易且つ円滑に行うことができる。
【0019】
次に、図6に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、基礎杭10にヤットコ14を載せ、さらにヤットコ14に第1の油圧ハンマー15を載せて、基礎杭10を打設する。その後、本導枠9を吊り上げ、海底から撤去すると共に、海側の2本の導杭6a,6bを引き抜く。なお、この時、陸側の2本の導杭6c,6dは、風力発電所の完成後にメンテナンスで使用する管理橋(図示せず)の基礎として利用するため、引き抜かずに残しておく。
【0020】
次に、図7に示すように、第2のクローラクレーン8を使用して、打設した基礎杭10の上端部に接合管17を被嵌する。この接合管17は、鋼管製であり、図8〜図11に示されているように、基礎杭10の上端部に被嵌される円筒形状の下側部分18(例えば、φ3800mm)と、下側部分18から基礎上に固定される風車のタワー(図示せず)の直径(例えば、φ4200mm)まで拡幅される上側部分19とにより構成されている。そして、接合管17の内面であって下側部分18と上側部分19との間には、例えばH鋼(H−400)から成るレベル調整部20が3個放射状に突設されているため、基礎杭10の上端部に接合管17を被嵌する際に、このレベル調整部20と基礎杭10の上端面との間に鉄板等を介装することにより接合管17を水平に取り付けることができる。
【0021】
図10に良く示されているように、接合管17の下側部分18の下端には、その内周に沿って弾性を有する環状の(例えば、ゴム製)パッキン21が、フランジ状の固定部材29で挟持することにより取り付けられており、接合管17を基礎杭10の上端部に被嵌する際に、パッキン21の内周部が基礎杭10の外面に沿って上方に屈曲し、基礎杭10と接合管17との隙間22の下端面をパッキン21が閉塞するようになっている(図10の二点鎖線部分を参照)。
【0022】
また、接合管17の下側部分18の内面には、ガイド23が突設されており、ガイド23の内側端部24は湾曲して形成されている。そして、このガイド23の内側端部が、接合管17を基礎杭10の上端部に被嵌する際に基礎杭10の外面に接触することにより、接合管17の基礎杭10への被嵌作業を円滑且つ確実に行うことができるようになる。
【0023】
次に、図12に示すように、第1のクローラクレーン5を使用して、陸上で組立てた歩廊橋30を陸上と接合管17上に設置した作業構台31との間に掛け渡す。そして、この歩廊橋30上にグラウトホースを配管し、陸上で錬り混ぜたグラウト(例えば、水中不分離性高流動無収縮モルタル)を、先ず、接合管17と基礎杭10との隙間22のパッキン21の上方20cm程度の高さの一層目部分29までホース28を介して充填する(図13参照)。その後、作業員が棒状のゲージ(図示省略)を隙間22に上方から挿入すると、そのゲージの下端が一層目部分29のグラウトに接触した時にゲージに対して抵抗が掛かるため、作業員はその抵抗を感じた時の前記ゲージの挿入深さを測定することによりグラウトの充填位置を把握することができる。
【0024】
一層部分29のグラウトの充填から所定時間(例えば、9時間以上)経過し、該グラウトが凝固したのを確認後、接合管17と基礎杭10との隙間22の一層目部分29の上方にさらに二層目のグラウトを充填する。この時、一層目部分29のグラウトは既に凝固しており、基礎杭10と接合管17との隙間22の下端面はパッキン21及び一層目部分29のグラウトにより確実に閉塞されているため、隙間22の下端からグラウトが海中に漏出することはない。なお、この場合、一層目部分29のグラウトが接触する基礎杭10の外面と接合管17の内面の少なくともいずれか一方の面は凹凸状に形成されているのが好ましく、これにより、一層目部分29のグラウトと基礎杭10又は接合管17との摩擦力が増大するため、グラウトの漏出をより確実に防止することができる。
【0025】
次に、陸上にコンクリートポンプ車を設置し、歩廊橋30上に配設したコンクリート配管を介して、基礎杭10及び接合管17の中に生コンを打設する。この時、図8及び図11に示されているように、接合管17の上側部分19の上端には内周に沿ってフランジ部25が内鍔状に形成されているため、生コンの打設はこのフランジ部25から所定長(例えば80cm程度)下方のレベルまでとする。これにより、その後に前記風車のタワーを接合管17のフランジ部25にボルト等の締結具で接続する際の作業スペースを形成することができるため、前記風車のタワーの接続作業を容易且つ円滑に行なうことができるようになる。
【0026】
最後に、基礎杭10と陸側の2本の導杭6c,6dについて、電気防食を行い、モノパイル式基礎の施工を完了する。
【0027】
このように本発明の実施の形態に係るモノパイル式基礎施工方法によれば、接合管17と基礎杭10との隙間22にグラウトを二回に分けて充填しているため、例え、この隙間22が均一に形成されていなくとも、グラウトが隙間22の下端面から海中に漏出することはない。したがって、施工管理がし易くなり、工期の短縮化が可能となる。
【0028】
また、仮導枠1や本導枠9を使用して導杭6a,6b,6c,6dや基礎杭10を打設しているため、導杭6a,6b,6c,6dや基礎杭10の打設時に個々に測量することなく、高精度の施工を効率的に行うことができる。したがって、工期の短縮化を図ることができると共に、施工品質の向上を図ることができる。
【0029】
さらに、陸上に設置したクローラクレーンを使用して施工を行うことができるため、天候や海象の影響を受け難く、工程の管理が容易となり、工期の短縮化が可能となる。さらに、水深の浅い場所にも施工することができると共に、高価な大型クレーン船をリースする必要がないため、施工コストの低減化を図ることができる。
【0030】
なお、上記した実施の形態では、仮導枠1を使用して導杭6a,6b,6c,6dを打設した後、仮導枠1を本導枠9に加工し直した上で基礎杭10を打設しているが、本発明はこの形態に限定されるものではなく、仮導枠1を使用せずに最初から本導枠9を使用して導杭6a,6b,6c,6dと基礎杭10を打設してもよい。
【0031】
また、仮導枠1や本導枠9の平面形状は上記した正方形に限定されるものではなく、例えば、三角形や六角形等の多角形、或いは円形とすることもできる。
【0032】
さらに、上記した実施の形態では、本発明を洋上風力発電所の基礎工事に適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は他の構造物の基礎工事に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 基礎杭
17 接合管
21 パッキン
22 隙間
29 一層目部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端内周に沿ってパッキンが設けられた接合管を、打設した基礎杭の上端部に被嵌し、該基礎杭の外面に前記パッキンを接触させ、前記接合管と前記基礎杭との隙間の下端面を閉塞する工程と、
前記隙間のパッキンの上方に一層目部分のグラウトを充填する工程と、
前記一層目部分のグラウトの凝固後、前記一層目部分のグラウトの上方に二層目部分のグラウトを充填する工程と、
を備えていることを特徴とする杭基礎の施工方法。
【請求項2】
前記一層目部分のグラウトは前記パッキンの上方20cmの高さまで充填する請求項1に記載の杭基礎の施工方法。
【請求項3】
前記一層目部分のグラウトが接触する前記基礎杭の外面と前記接合管の内面の少なくともいずれか一方の面は凹凸状に形成されている請求項1又は2に記載の杭基礎の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−149182(P2011−149182A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10523(P2010−10523)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】