説明

杭打台船

【課題】所望の位置に容易に杭体を打設することができる杭打台船を提供する。
【解決手段】水上を移動可能な台船本体2と、台船本体2に設けられて杭体11を水底地盤に打設するときに杭体11の水平方向の位置を所定の位置に保持するとともに杭体11を上下方向に相対移動可能に保持する杭体保持部3と、を備える杭打台船1において、台船本体2は、杭体保持部3を水平方向にガイド可能な第1ガイド部5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底地盤に杭体を打設する際に使用する杭打台船に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水底地盤に鋼管杭などの杭体を打設する場合、その位置精度を向上させるために、事前に導杭、導枠などの導材を施工し、この導材に基づいて杭体を打ち込むことが一般的である。
また、水深が深い、水底の軟弱地盤層が厚いなどの理由で導杭が打ち込めない場合は、台船本体に杭体を支持可能なパイルキーパーが取り付けられた杭打台船を使用して、杭体を所望の位置に打ち込む方法が知られている(例えば特許文献1および2参照)。
このような杭打台船には、複数のパイルキーパーを備えて複数の杭体を同時に支持するものや、1つの杭体を上下2段で支持するパイルキーパーを備えるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−63684号公報
【特許文献2】特開2006−299724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の杭打台船では、パイルキーパーは台船に固定されていて、台船に対するパイルキーパーの位置は微調整程度しかできないため、パイルキーパーの位置と杭体を打設する位置とが異なる場合には、杭打台船を移動させる必要があり、手間や時間がかかっている。
特に、杭体が多数打設され、杭体どうしの間隔が一定でない場合は、杭打台船に複数のパイルキーパーが設けられていても、杭体を打設する毎に杭打台船を移動させる必要があり、工期に影響を及ぼしている。
また、従来の杭打台船は、スパッドを打設したり、アンカーを4方向に張ったりすることで海上に固定されているため、杭打台船を移動させるにはスパッドやアンカーの設置作業および外し作業が必要となり、手間と時間がかかっている。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、所望の位置に容易に杭体を打設することができる杭打台船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る杭打台船は、水上を移動可能な台船本体と、該台船本体に設けられて杭体を水底地盤に打設するときに前記杭体の水平方向の位置を所定の位置に保持するとともに、該杭体を上下方向に相対移動可能に保持する杭体保持部と、を備える杭打台船において、前記台船本体は、前記杭体保持部を水平方向にガイド可能な第1ガイド部を備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明では、杭体保持部が台船本体に対して水平方向に移動可能となるため、杭体保持部をガイド部に沿って移動させれば、杭打台船を移動させずに打設する杭体を容易に所望の位置に保持することができる。
そして、杭体保持部は、杭体を水底地盤に打設するときに杭体の水平方向の位置を所定の位置に保持するとともに、杭体を上下方向に相対移動可能に保持しているため、杭体を打設位置に確実に打設することができる。
【0008】
また、本発明に係る杭打台船では、前記第1ガイド部は、前記杭体保持部を一の水平方向にガイド可能に構成され、前記杭体保持部は、前記一の水平方向に交差する他の水平方向に移動可能に構成されていることが好ましい。
このように構成されることにより、打設される杭体の位置を精度よく調整することができる。
【0009】
また、本発明に係る杭打台船では、既に打設された既設杭体に着脱可能に構成され、該既設杭体に装着されたときに該既設杭体に対して水平方向の相対移動が拘束されるとともに、該既設杭体を上下方向に相対移動可能に保持する既設杭体保持部を備え、前記台船本体は、前記既設杭体保持部を水平方向にガイド可能な第2ガイド部を備えていることが好ましい。
このように、既設杭体に着脱可能な既設杭体保持部を備えていることにより、台船本体の水平方向の位置を容易に、かつ確実に固定することができる。そして、既設杭体保持部は台船本体に対して水平方向に移動可能となるため、台船本体の位置を容易に調整することができる。
また、既設杭体保持部は、既設杭体を上下方向に相対移動可能に保持していることにより、例えば海のように水位変動がある場合であっても、変動する水位に合わせて杭打台船は上下方向のみに移動し、水平方向には移動しない。したがって、所望の位置に容易に杭体を打設することができる。
【0010】
また、本発明に係る杭打台船では、前記第2ガイド部は、前記既設杭体保持部を一の水平方向にガイド可能に構成され、前記既設杭体保持部は、前記一の水平方向に交差する他の水平方向に移動可能に構成されていることが好ましい。
このように構成されることにより、杭打台船の位置を精度よく調整することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、杭体保持部が台船本体に対して水平方向に移動可能となるため、杭体保持部をガイド部に沿って移動させれば、杭打台船を移動させずに打設する杭体を容易に所望の位置に保持することができる。
そして、杭体保持部は、杭体を水底地盤に打設するときに杭体の水平方向の位置を所定の位置に保持するとともに、杭体を上下方向に相対移動可能に保持しているため、杭体を打設位置に確実に打設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による杭打台船の一例を示す平面図である。
【図2】図1のA方向矢視図である。
【図3】図1のB方向矢視図である。
【図4】本発明の実施形態による杭打台船の移動時の様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態による杭打台船について、図1乃至図4に基づいて説明する。
図1乃至図3に示すように、本実施形態による杭打台船1は、平面視で杭打台船1の四隅から放射方向に張られた4本の係留アンカー付きロープをそれぞれ繰り出したり、巻き上げたりすることで、水上を移動可能な台船本体2と、該台船本体2に設けられて杭体11を水底地盤に打設するときに該杭体11の水平方向の位置を所定の位置に保持する杭体保持部3と、既に打設された既設杭体12を保持可能な既設杭体保持部4(図1および図3参照)と、を備えている。
【0014】
図1に示すように、台船本体2は、平面視において一方の辺が他方の辺よりも長い略長方形状に形成されている。なお、台船本体2は、平面視において略長方形状以外に形成されていてもよい。
そして、台船本体2の上部には、台船本体2の長手方向(図1の矢印Cの方向)に延在し杭体保持部3がスライド可能な一対の第1レール51,51を備える第1ガイド部5と、長手方向に延在し既設杭体保持部4がスライド可能な一対の第2レール61,61を備える第2ガイド部6と、が設けられている。
【0015】
一対の第1レール51,51は、台船本体2の長手方向の略全長にわたって延在している。本実施形態では、1台の杭体保持部3が第1レール51,51に沿って移動可能に設置されている。
一対の第2レール61,61は、第1レール51よりも短く形成され、台船本体2の長手方向の略両端側にそれぞれ設けられている。本実施形態では、台船本体2の長手方向の略両端側にそれぞれ設けられた第2レール61,61にそれぞれ1台ずつ計2台の既設杭体保持部4が第2レール61,61に沿って移動可能に設置されている。
【0016】
杭体保持部3は、第1レール51,51上を走行する第1走行部31と、杭体11を保持する第1保持部32と、第1走行部31と第1保持部32とを連結する第1連結部33とを備えている。
第1連結部33に連結された第1保持部32は、台船本体2の外縁部2aよりも外方に位置するように構成されている。
【0017】
第1走行部31は、走行の駆動源となる油圧ユニット35を備えている。
【0018】
第1保持部32は、杭体11を側方から囲繞することで杭体11の水平方向の位置を保持している。なお、第1保持部32は、囲繞した杭体11の上下方向の移動を拘束しないように構成されている。
本実施形態では、第1保持部32は、一対の回転囲繞部材36,36と、第1連結部33に固定され両端部にそれぞれ回転囲繞部材36が接続された固定囲繞部材37と、を備えている。
【0019】
この一対の回転囲繞部材36,36は、それぞれ固定囲繞部材37側となる一方の端部36aまたは一方の端部36a近傍を中心として水平面内において回転可能に構成されている。
そして、一対の回転囲繞部材36,36は、回転して他方の端部36bどうしが近づくことで固定囲繞部材37とともに杭体11を囲繞し、他方の端部36bが互いに離間することで杭体11から離れるように構成されている。
また、第1保持部32には、一対の回転囲繞部材36,36を回転させるためのシリンダ38が取り付けられている。
【0020】
第1連結部33は、第1レール51,51と直交する方向に延在する部材で、一方の端部33a側が第1保持部32と連結され、他方の端部33b側が第1走行部31第1保持部32と連結されている。そして、第1連結部33は、延在方向に伸縮可能に構成され、第1走行部31と第1保持部32との離間距離を調整可能に構成されている。
このため、第1保持部32は、台船本体2の外縁部2aからの離間距離を調整することができる。
なお、第1連結部33は、第1レール51,51と交差する方向に延在していればよく、第1レール51,51と直交していなくてもよい。
【0021】
既設杭体保持部4は、第2レール61,61上を走行する第2走行部41と、既設杭体12を保持可能な第2保持部42と、第2走行部41と第2保持部42とを連結する第2連結部43とを備えている。
第2連結部43に連結された第2保持部42は、台船本体2の外縁部2aよりも外方に位置するように構成されている。
【0022】
第2走行部41は、走行の駆動源となる油圧ユニット45を備えている。
【0023】
第2保持部42は、既設杭体12を側方から囲繞することで既設杭体12を保持している。なお、第2保持部42は、囲繞した既設杭体12の上下方向の移動を拘束しないように構成されている。
そして、第2保持部42は、既存杭体12に装着されることで、杭打ち台船1の水平方向の位置を固定している。
本実施形態では、第2保持部42は、一対の回転囲繞部材46,46と、第2連結部43に固定され両端部にそれぞれ回転囲繞部材46が接続された固定囲繞部材47と、を備えている。
【0024】
この一対の回転囲繞部材46,46は、それぞれ固定囲繞部材47側となる一方の端部46aまたは一方の端部46a近傍を中心として水平面内において回転可能に構成されている。
そして、一対の回転囲繞部材46,46は、回転して他方の端部46bどうしが近づくことで、固定囲繞部材47とともに既設杭体12を囲繞し、他方の端部46bが互いに離間することで既設杭体12から離れるように構成されている。
また、第2保持部42には、一対の回転囲繞部材46,46を回転させるためのシリンダ48が取り付けられている。
【0025】
第2連結部43は、第2レール61,61と直交する方向に延在する部材で、一方の端部43a側が第2保持部42と連結され、他方の端部43b側が第2走行部41と連結されている。そして、第2連結部43は、延在方向に伸縮可能に構成され、第2走行部41と第2保持部42との離間距離を調整可能に構成されている。
このため、第2保持部42は、台船本体2の外縁部2aからの離間距離を調整することができる。
なお、第2連結部43は、第2レール61,61と交差する方向に延在していればよく、第2レール61,61と直交していなくてもよい。
【0026】
上述した杭打台船1を用いた杭体11の打設方法について説明する。
まず、杭体11の打設場所近傍に杭打台船1を移動させる。
このとき、複数の杭体11を水平方向に直線状に配列する場合は、複数の杭体11の配列の方向と、第1レール51,51の延在方向とを一致させる。
【0027】
続いて、既設杭体保持部4を既設杭体12に装着する。
このとき、既設杭体12と既設杭体保持部4の第2保持部42との位置が一致するように、第2レール61,61上の第2走行部41を走行させるとともに、第2連結部43をその延在方向に伸縮させて、第2保持部42の位置を調整する。
そして、シリンダ48を作動させて回転囲繞部材46を回転させ、一対の回転囲繞部材46,46と固定囲繞部材47で既設杭体12を囲繞し、既設杭体保持部4を既設杭体12に装着する。このとき、2台の第2保持部42をともに既設杭体12に保持する。
これにより、杭打台船1の水平方向の位置が固定される。
【0028】
続いて、杭体11を打設する位置と杭体保持部3の第1保持部32との位置が一致するように、第1レール51,51上の第1走行部31を走行させるとともに、第1連結部33をその延在方向に伸縮させて、第1保持部32の位置を調整する。
そして、シリンダ38を作動させて回転囲繞部材36を回転させ、一対の回転囲繞部材36,36と固定囲繞部材37で杭体11を囲繞し、杭体保持部3で打設する杭体11の水平方向の位置を所定の位置に保持する。
【0029】
続いて、杭体11を水底地盤に打設する。杭体11の打設を行う杭打装置(不図示)は、別の台船に設置されていてもよく、また、本実施形態の杭打台船1に設置されていてもよい。ここで、杭体保持部3は、杭体11が水平方向に移動しないように保持するとともに、杭体11を上下方向に移動可能に保持しているため、杭体11を水底地盤に打設する際に杭体11はスムーズに所望の位置に打設される。
そして、杭体11が水底地盤に打設されたら、シリンダ38を作動させて回転囲繞部材36を回転させ、杭体保持部3を杭体11から離間させる。
このようにして杭体11が打設される。
【0030】
続いて、第1走行部31を走行させて、杭体保持部3を次に杭体11を打設する位置に移動させる。
そして、移動した位置において、杭体保持部3で打設する杭体11の水平方向の位置を保持し、この杭体11を水底地盤に打設する。このように、杭体保持部3を移動させながら杭体11を順次打設する。
【0031】
そして、杭体11の打設が終了したら、図4に示すように、杭体保持部3の一対の回転囲繞部材36,36を互いに離間した状態とするとともに、第1連結部33を収縮させて第1保持部32が台船本体2側に近づいた状態とする。
また、既設杭体保持部4の一対の回転囲繞部材46,46を互いに離間した状態とするとともに、第2連結部43を収縮させて第2保持部42が台船本体2側に近づいた状態とする。
このようにして杭打台船1が移動可能な状態となる。
そして、台船本体2を別の杭体11を設置する場所に移動させて、同様に杭体11の打設を行う。
【0032】
次に、上述した杭打台船1の作用効果について説明する。
本実施形態による杭打台船1は、打設する杭体11を水平面内における所定の位置に保持する杭体保持部3が、水平方向に移動可能に構成されているため、杭体11の打設位置にあわせて台船本体2を移動させずに、杭体11の打設位置を調整することができ、効率よく杭体11の打設を行うことができる。
また、本実施形態による杭打台船1は、既設杭体保持部4が既設杭体12に装着されることで、その台船本体2水平方向の位置が固定されるため、台船本体2の固定を容易に行うことができる。
【0033】
以上、本発明による杭打台船1の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、杭打台船1には既設杭体保持部4が設けられて、既設杭体保持部4を既設杭体12に装着することで杭打台船1の水平方向の位置を固定しているが、既設杭体保持部4を設けずにスパッドやアンカーを用いて杭打台船1の位置を固定してもよい。
また、上述した実施形態では、既設杭体保持部4は、既設杭体12に装着されたときに、既設杭体12と上下方向に相対移動可能に構成されているが、例えば、水位変動のほとんどない水上に杭打台船1が設置されるときなどは、既設杭体12に対して上下方向の位置も固定されてもよい。また、既設杭体保持部4と既設杭体12とが相対移動可能な構成に代わって、既設杭体保持部4と既設杭体12とは上下方向の相対移動が固定され、既設杭体保持部4と台船本体2とが相対移動可能な構成であってもよい。
また、上述した本実施形態では、既設杭体保持部4は2つ設けられているが、既設杭体保持部4が設置される数は任意に設定されてよい。なお、既設杭体保持部4は1つよりも複数設けられているほうが台船本体2の位置が安定する。
【符号の説明】
【0034】
1 杭打台船
2 台船本体
3 杭体保持部
4 既設杭体保持部
5 第1ガイド部
6 第2ガイド部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上を移動可能な台船本体と、
該台船本体に設けられて杭体を水底地盤に打設するときに前記杭体の水平方向の位置を所定の位置に保持するとともに、該杭体を上下方向に相対移動可能に保持する杭体保持部と、を備える杭打台船において、
前記台船本体は、前記杭体保持部を水平方向にガイド可能な第1ガイド部を備えていることを特徴とする杭打台船。
【請求項2】
前記第1ガイド部は、前記杭体保持部を一の水平方向にガイド可能に構成され、
前記杭体保持部は、前記一の水平方向に交差する他の水平方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の杭打台船。
【請求項3】
既に打設された既設杭体に着脱可能に構成され、該既設杭体に装着されたときに該既設杭体に対して水平方向の相対移動が拘束されるとともに、該既設杭体を上下方向に相対移動可能に保持する既設杭体保持部を備え、
前記台船本体は、前記既設杭体保持部を水平方向にガイド可能な第2ガイド部を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の杭打台船。
【請求項4】
前記第2ガイド部は、前記既設杭体保持部を一の水平方向にガイド可能に構成され、
前記既設杭体保持部は、前記一の水平方向に交差する他の水平方向に移動可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の杭打台船。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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