説明

杭頭の接合構造

【課題】杭体の水平抵抗に見合った、適切な水平力だけを杭頭へ伝達できるので、新規に施工する杭頭のみならず、既存杭の水平抵抗能力に応じた適切な水平力を既存杭頭部に作用させることができる。
【解決手段】杭頭に鋼管3を配置し、この鋼管3を側面拘束として、油等の粘性流体を詰めた袋4を杭頭に置き、該袋4を介してパイルキャップ2と、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートと杭頭の力の伝達を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の上部(杭頭)とパイルキャップと、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートとの接合部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献にもあるように、杭頭の接合構造は、剛結(固定)からピン接合までさまざまな方法があるが、既製杭を対象としたものが多い。場所打ち杭の場合、同非特許文献の表1(下記に表1として表示)に示されているように、杭体主筋をパイルキャップ等へ定着させる接合構造が一般的である。
【0003】
また、場所打ち杭の杭頭に鋼管を設置した杭(場所打ち鋼管コンクリート杭)の場合、杭体主筋の定着に加えて、鋼管外周にアンカー筋を溶接することが行われる。
【非特許文献1】「杭頭を固定しない接合方法と設計」 建築技術、2000年9月、 松尾雅夫著 PP.150-157
【表1】

【0004】
この非特許文献1では、「現状で考えられる杭を結合しない接合方法としては,次のような方法が提案されている」として、下記(1)〜(4)の方法が説明されている。
(1)従来の小口径杭による地盤改良を意図して、杭頭と基礎スラブの間に砕石や砂層を10cm程度はさみ、杭と基礎スラブの縁を切る方法。
(2)杭頭と基礎スラブの間にすべり材を介在させて、ピンあるいはローラーとする接合方法。
(3)杭頭部に鉄板やゴムを介在させる方法、あるいは,小径の鋼管と芯鉄筋を組み合わせて断面欠損部をつくる方法により回転を許容し、半固定とする接合方法)。
(4)杭頭部に種々のダンパーを設置して、回転自由度を上げるとともに地震エネルギーを吸収させ、杭頭免震を指向する接合方法。
【0005】
杭頭を剛結しない半剛接合(半固定)については下記非特許文献2にまとめられている。
【非特許文献2】「杭頭半剛接合構法」の調査報告、建築コスト研究、2008WINTER、pp.64-72、(財)建築コスト管理システム研究所新技術調査検討会
【0006】
さらに、下記特許文献に示すように、地盤に打設された既製杭の杭頭部周囲側面および杭体内部の孔の側面に沿って若干の立ち上がり面を設け、立ち上がり面で囲われた内側の杭体上部に自己流動性を有する液体状固結材料を流し込み、固結材料の硬化固結後に立ち上がり面を除去し、水平面となった固結材料の上部に杭頭接合装置を設置する方法も提案されている。
【特許文献1】特許第3256201号公報
【0007】
この特許文献1では、杭頭部周囲側面および杭体内部孔の側面に沿って設ける立ち上がり面は、プラスチック製フィルム等の膜状体を側面に沿って巻き付ける方法、もしくは粘土状塑性物質を杭体上部の周縁部に土手状に接着配置する方法によって設けることとしている。
【0008】
また、自己流動性を有する液体状固結材料には、石膏系セルフレベリング材料、セメント系モルタル材料、もしくはエポキシ系樹脂等の高分子材料を用いる。
【0009】
前記特許文献1における杭頭接合装置の代表例は、杭頭部に若干の水平変位と主として回転性能を付与する「回転型接合装置」として、杭体頭部に連結用鋼管をかぶせ、その上部にある2枚の鋼板に挟まれたゴム体の水平せん断変形と回転変形により杭頭固定度をかなり自由に設定できるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
杭の耐震設計が法令上義務付けられた2000年より前では、超高層建築物や重要建築物などの場合を除き、ほとんどの杭は耐震設計されていない。
【0011】
また、今日においても稀に発生する地震動に対して杭を耐震設計しているのであって、1981年から実施されている極めて稀に発生する地震動に対する耐震設計は上部建物に対してのみ義務になっている。したがって、一般的に言えば、既存杭の耐震性能すなわち水平抵抗力は低い。
【0012】
既存建物を建替える時には、杭を全て新規に施工する場合と既存杭を利用する場合がある。水平抵抗力が低い既存杭を利用する場合は、既存杭を補強するか、地震による水平力の入力を低減するか、のどちらかの対策を取る。既存杭の補強は地盤掘削を伴うため工期・コストがかかるので、水平力低減の方が適している。
【0013】
また、水平力をほぼ完全に伝達させない杭頭免震はコストが高く、杭頭上面の水平性など高い施工性を要求される。前記非特許文献1や非特許文献2でも、水平力低減の目的を有するものがほとんどであるが、コスト的に高価なものである。
【0014】
さらに、前記特許文献1も水平力低減は杭頭接合装置により行うものであり、この杭頭接合装置自体が高価であり、しかも、特許文献1の発明の主な狙いは、杭頭接合装置が所要の性能を発揮できるように、上面に不陸があったり、傾斜している杭頭上部に滑らかな水平面を形成することにあるに過ぎない。
【0015】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、杭体の水平抵抗に見合った、適切な水平力だけを杭頭へ伝達できるので、新規に施工する杭頭のみならず、既存杭の水平抵抗能力に応じた適切な水平力を既存杭頭部に作用させることができる施工しやすい杭頭接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するため請求項1記載の本発明は、杭頭に鋼管を配置し、この鋼管を側面拘束として、油等の粘性流体を詰めた袋を杭頭に置き、該袋を介してパイルキャップともしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートと杭頭の力の伝達を行うことを要旨とするものである。
【0017】
請求項1記載の本発明によれば、常時では、作用する鉛直力(軸力)は、粘性流体の圧力でパイルキャップ−杭頭間、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリート−杭頭間を伝達する。粘性流体の圧力は水平方向にも同じ圧力が作用するが、袋体側面を拘束する鋼管の周方向引張力で抵抗する。
【0018】
また、地震時には、建物の振動によって、パイルキャップから杭頭へ、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートから杭頭へ作用する軸力が変動する。そして、軸力変動に対応して粘性流体の圧力が変化するので、パイルキャップ−杭頭間もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリート−杭頭間の軸力は地震時も確実に伝達可能である。
【0019】
この地震時では、パイルキャップもしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートに作用する地震時水平力は粘性流体の粘性抵抗に対応した大きさだけがパイルキャップ−杭頭間もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリート−杭頭間に作用する。
【0020】
そして、粘性流体を変えることで粘性抵抗を変えることができるので、杭の水平抵抗能力に応じた粘性抵抗を有する粘性流体を用いることで、適切な水平力を杭頭に作用させることが可能になる。
【0021】
請求項2記載の本発明は、鋼管にはゴム膜を貼り付け、このゴム膜が杭頭上面を覆うように置くことを要旨とするものである。
【0022】
請求項2記載の本発明によれば、前記作用に加えて、鋼管設置の際にゴム膜が杭頭上面を覆うので、油等の粘性流体を詰めた袋が破れた場合、地盤中に流れ出すことを防止できる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べたように本発明の杭頭接合構造は、常時は、建物自重等によって生じるパイルキャップから杭頭へ、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートに向かう鉛直力に対して、粘性流体の圧力で杭頭に伝達することができ、地震時には、地震によって変動する鉛直力に対して、粘性流体の圧力が変動して抵抗し、地震によって作用する水平力は、粘性流体の粘性抵抗分だけを杭頭に伝達することができる。
【0024】
すなわち、杭体の水平抵抗に見合った、適切な水平力だけを杭頭へ伝達できる。この結果、水平抵抗力の小さい既存杭であっても水平抵抗力以下の水平力を分担させることができ、新設する杭を減じることが可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の杭頭接合構造の第1実施形態を示す縦断側面図で、図中1は杭を示す。杭1は種類は場所打ち杭、既製杭を問わない。また、杭1は建替える前の建物で利用していた杭(既存杭)を対象とするが、新規施工する杭にも適用可能である。
【0026】
また、本実施形態は、杭1の上部(杭頭)とパイルキャップ2とが接合する場合を示したが、パイルキャップ2のない構造の場合、基礎はり又は基礎スラブのコンクリートが杭1の上部(杭頭)との接合部となる。
【0027】
図2に示すように、鋼管3にその開口面を塞ぐようにゴム膜6を貼り付け、このゴム膜6が杭頭上面を覆うように鋼管3を置く。鋼管3は、杭頭周囲の地盤又は捨てコンクリート上の杭頭外周面にモルタル5を練りつけ、このモルタル5で支承する。
【0028】
このようにして、鋼管3を側面拘束材として、鋼管3内に油等の粘性流体を詰めた袋4を配設し、この杭頭に置いた袋4を介してパイルキャップ2ともしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートと杭頭の力の伝達を行うようにした。粘性流体としては、油が好適であるが、油以外では、水、高分子溶液等が利用できる。
【0029】
前記ゴム膜6は、地震時に、粘性流体の入った袋が動き、杭と鋼管の隙間に挟まれた場合、袋4が破れる可能性があるが、油等の粘性流体が地盤中に流出してしまわないためのものである。
【0030】
次に施工手順について説明する。場所打ち杭1に適用する場合の基本的な実施手順)であるが、下記(1)〜(6)の手順を取る。
(1)杭頭コンクリートの上面で凹凸が著しい場合、凸部をはつる。
(2)杭頭に均しモルタルを敷く。
(3)杭頭周囲の地盤又は捨てコンクリート上の杭頭外周面にモルタル5を練りつける。
(4)ゴム膜6を貼り付けた鋼管3を(3)のモルタル5の上に置く。この時にゴム膜6は杭頭上面を覆っている。
(5)油等の粘性流体を入れた袋4を杭頭上面に置く。(鋼管3内)
(6)パイルキャップ2の部分のコンクリートを打設する。パイルキャップ2のない構造の場合、基礎はり又は基礎スラブのコンクリートを打設する。
【0031】
また、他の実施形態として、図3に示すように、油等の粘性流体を詰めた袋4は、杭頭上面全体を覆う大きな袋だけでなく、規定量が入る袋を多数用意し、それを杭頭上面に敷き詰めても良い。
【0032】
図4は本発明の第3実施形態を示すもので、地盤又は捨てコンクリートから杭頭レベルまで離れている場合、鋼管3を置くモルタル5の代用として、杭体側面に山形鋼7をアンカーで固定し、この山形鋼7の上に鋼管を載せるようにした。
【0033】
また、既製杭のように杭頭上面が平滑な場合、第4実施形態として、図5に示すように、杭頭に円形の鋼板8を載せ、ボルト若しくはアンカーで固定する。この鋼板8の上に鋼管3を載せるようにした。ただし、既製杭では杭体中心が空洞になっているので、中空部にコンクリート等を詰めた後、鋼板を載せる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の杭頭の接合構造の第1実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】鋼管の縦断側面図である。
【図3】本発明の杭頭の接合構造の第2実施形態を示す縦断側面図である。
【図4】本発明の杭頭の接合構造の第3実施形態を示す縦断側面図である。
【図5】本発明の杭頭の接合構造の第4実施形態を示す縦断側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1…杭 2…パイルキャップ
3…鋼管 4…油等の粘性流体を詰めた袋
5…モルタル 6…ゴム膜
7…山形鋼 8…鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭頭に鋼管を配置し、この鋼管を側面拘束として、油等の粘性流体を詰めた袋を杭頭に置き、該袋を介してパイルキャップと、もしくは基礎はり又は基礎スラブのコンクリートと杭頭の力の伝達を行うことを特徴とした杭頭の接合構造。
【請求項2】
鋼管にはゴム膜を貼り付け、このゴム膜が杭頭上面を覆うように置く請求項1記載の杭頭の接合構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−44213(P2013−44213A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184592(P2011−184592)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】