説明

板ガラス用樹脂スペーサー

【課題】板ガラスの表面を傷つけることの無い、適正な柔軟さ(硬さ)である、板ガラスの積層に用いるスペーサーを提供する。
【解決手段】複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位1〜20質量%と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含み、ガラス転移温度(Tg)が35〜120℃である板ガラス用樹脂スペーサー。なお、該板ガラス用樹脂スペーサーは、粒子状であり、耐つぶれ性、塗装板ガラスの耐傷付き性を有し、しかも粒子の割れが極めて少なく、板ガラスの積層に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板ガラスの積層に際し用いるのに好適な重合体製のスペーサーに関する。
【背景技術】
【0002】
板ガラスは、古くより透明性・硬度が高く、安価な材料として、建築構造物部材として広く使用されている。一般的にフロート法などで製造された板ガラスは、保管や運搬は複数枚単位で行われる。そして、その保管には、水平に平置きしたものを順次垂直方向に積み重ねる「積層」や、斜めに順次重ねて立て掛ける方法が一般的である。いずれにしても板ガラスは積層状態で保管される。また、運搬に際しても、複数の板ガラスがまとめて梱包される。
【0003】
このとき板ガラス同士が擦れ、ガラス表面に傷(擦傷)が発生するので、この擦傷の発生を防止するため、また、積層品から必要量を取り出す際に剥離を容易にするため、重なった板ガラス間に紙、マスキングフィルム、粉砕した椰子殻や樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)のビーズ等をスペーサーとして挿入することが行われている。
【0004】
紙、マスキングフィルムは、再利用が難しく、また嵩が高いため、廃棄のコストが高くなる問題がある。粉砕した椰子殻や樹脂は、形状が不均一であるため、各層に使用するスペーサー量を多くする必要があり、取り扱い時には付着微粉の飛散の防止や微粉の回収も必要となる。ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)のビーズは硬いため、近年、種類が増加し、需要量も急増しているポリマー皮膜や金属化合物含有ポリマー皮膜を有する板ガラス(以下、塗装板ガラス)にスペーサーとして用いると、塗装面を傷付ける場合がある。このように従来から板ガラスを積層した際に用いられているスペーサーは、必ずしも満足できるものではなかった。
【0005】
2つの板材料の面間隔が一定に保たれる必要がある技術として、近年その発展が目覚しい液晶があり、その面間隔を一定に保つために液晶表示素子用スペーサーが種々開発されている。例えば、特許文献1には、液晶パネル、プリント配線基盤用IC、その他の電子部品の芯材として、導通不良を引き起こさず、経時安定性に優れた合成樹脂微粒子が提案されている。特許文献2には、液晶パネル用スペーサー等に好適な高弾性率の架橋重合体微粒子の製造方法が提案されている。特許文献3には、液晶表示素子用球状スペーサー及び導電性微球体などに使用される微球体が提案されている。
【特許文献1】特開2003−45230号公報
【特許文献2】特開平4−314704号公報
【特許文献3】特公平7−95165号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら特許文献1〜3に記載の微粒子、微球体は、高度に架橋された樹脂であり、粒子の硬度が高く、高弾性体であることから、液晶スペーサーとしては優れているものの、板ガラス積層に用いた場合は、粒子が小さいために積層した板ガラス間の隙間が狭くなり、ガラス板製造時等に混入した小さなガラス屑を挟み込んで異物傷が付くなどの問題が出てくる場合があり、また、硬過ぎるため塗装板ガラスを傷付ける問題がある。
【0007】
したがって、本発明は、板ガラスの表面を傷つけることの無い、適正な柔軟さ(硬さ)である、板ガラスの積層に用いるスペーサーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、板ガラスの積層に用いるスペーサーとして、特定の粒状重合体が最適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位1〜20質量%と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含み、そのガラス転移温度(Tg)が35〜120℃である板ガラス用樹脂スペーサーである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、板ガラスの積層に好適な、耐つぶれ性、塗装板ガラスの耐傷付き性を有し、しかも粒子の割れが極めて少ない板ガラス用樹脂スペーサーが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、複数枚単位で板ガラスを保管または運搬する際に、板ガラス間に挟んで用いるものである。
【0012】
上記「積層」は、水平に平置きし垂直方向に積み重ねる場合、斜めに立て掛けて積み重ねる場合、垂直に置き並べる場合など、2枚以上の板ガラスをあらゆる方向に向けて重ねる場合を含んでいる。
【0013】
板ガラスの形状は、複数を重ねて置いた時に密着する形状のものであり、平面の板ガラス、曲面を有する板ガラス、真空や空気層を内部に有する板ガラス等が挙げられる。
【0014】
板ガラスの材質は、特に限定されないが、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、その他酸化物ガラス類などが挙げられる。
【0015】
表面を処理した板ガラスとしては、特に限定されないが、無電解メッキ処理、CVD(化学的気相成長法)処理、スパッタリング処理、ゾルゲル法等の方法を用いて金属酸化物皮膜を有した板ガラス、常温硬化、湿気硬化、光硬化、熱硬化、加熱乾燥等の方法を用いて、ポリマー皮膜や金属化合物含有ポリマー皮膜を形成した板ガラス(塗装板ガラス)等が挙げられる。これらは必要に応じてプライマー処理を行なっても良い。
【0016】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーの散布方法は、特に限定されないが、コンベア搬送中の板ガラス上に散布しローラーやハケ等で均一に広げる方式、載置後の板ガラス上に散布しローラーやハケ等で均一に広げる方式、板ガラス又はスペーサーを帯電させ散布する方式などが挙げられる。
【0017】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位1〜20質量%を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体単位との粒状重合体である。なお、ここで粒状重合体とは、真球に近い形状の重合体を指す。
【0018】
粒状重合体の個々の粒子は、この形状を有することにより、荷重がかかって粒子形状を保つことができる強度を超えた場合においても、変形することにより効率良く荷重を分散することができる。また、良好な転がり性を有することから、スペーサー供給装置内や供給口などでの閉塞トラブルを起こし難くなるなどの利点も有する。
【0019】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサー(粒状重合体)は、複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体組成物(必要により、その他の単量体を含む)をラジカル重合することで得られる。
【0020】
複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン、1,4−ジビニロキシブタン、ジビニルスルホン等のビニル化合物;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルアクリルアミド、トリアリル(イソ)シアヌレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)オキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。中でも、(メタ)アクリル酸エステル単量体との反応性、すなわち共重合性の点で、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体の含有量が1質量%以上の場合に、粒状重合体中に網目構造が形成され、荷重がかかった際の耐つぶれ性や耐割れ性が良好となる。好ましくは1.5質量%以上であり、更に好ましくは2質量%以上である。
【0022】
また、複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体の含有量が、20質量%以下の場合に、耐傷付き性が良好となる。好ましくは15質量%以下であり、更に好ましくは10質量%以下である。
【0023】
「耐つぶれ性」とは、つぶれ難さを表現するものである。本発明の架橋性単量体添加範囲で発現する良好な耐つぶれ性は、圧縮により粒子の変形が進むにつれ、網目構造によってよりつぶれ難くなる性質であり、重い板ガラスを積層する層間に用いるスペーサー用重合体として特に好ましい性質である。
【0024】
また、「耐割れ性」とは、割れ難さを表現するものである。本発明の架橋性単量体添加範囲で発現する良好な耐割れ性は、圧縮により粒子の変形が進んでも、網目構造によってより割れ難くなる性質であり、重い板ガラスを積層する層間に用いるスペーサー用重合体として特に好ましい性質である。
【0025】
また、「耐傷付き性」とは、傷付き難さを表現するものである。本発明の架橋性単量体添加範囲で発現する良好な耐傷付き性は、積層荷重がかかる塗装板ガラスの塗装面よりも柔らかく傷を付けない性質であり、塗装板ガラス用樹脂スペーサーとして特に好ましい性質である。
【0026】
本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ラジカル重合可能な不飽和二重結合が単数である、つまり複数有さない単量体であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等が付加した単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の二量体又は三量体となった単量体などが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。中でも架橋性単量体との共重合性、ガラス転移温度調整の容易さ、コストの点から、メチル(メタ)アクリレート、(メタ)エチルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル単量体を構成成分として含むことにより、粒子に荷重をかけた際の耐割れ性が良好となる。(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、特に限定されないが、耐割れ性の点から、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。また、好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは98.5質量%以下であり、更に好ましくは98質量%以下である。
【0028】
本発明では、複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の他に、必要により、その他の単量体単位を有していても良い。このために用いられるその他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル基含有単量体;アクリロニトリル等のニトリル基含有単量体;ブタジエン等のオレフィン系ビニル基含有単量体;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロフタル酸、5−メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルシュウ酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルシュウ酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等の酸基含有単量体等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。中でも吸水性抑制の点でスチレン、α―メチルスチレンが好ましい。
【0029】
なお、上述の重合体を構成する各単量体は、積層する板ガラスの散布方法、種類に応じて良好な性能を発現する場合がある。例えば、板ガラス又はスペーサーを含む配合物を帯電させ散布する方式においては、芳香族ビニル基を含有する架橋性又は非架橋性単量体を構成単位として含む重合体は、帯電性能が良好となる傾向にある。また、表面処理を施していない板ガラスの積層に酸基含有単量体を含む重合体を用いた場合は、積層しての貯蔵時に水分の介在によってガラスから発生する水酸化ナトリウムに起因するヤケを抑止する性質が発揮される傾向にあり、特に好ましい。
【0030】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、ガラス転移温度(Tg)が35〜120℃の範囲であることが必須である。
【0031】
Tgが35℃以上である場合に、夏場の倉庫保管時、炎天下の出荷作業時でも板ガラス用樹脂スペーサーの耐くっつき性及び耐つぶれ性が良好となる。好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは45℃以上である。また、Tgが120℃以下である場合に、板ガラス用樹脂スペーサーの耐割れ性が良好となる。好ましくは110℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0032】
「耐くっつき性」とは、くっつき難さを表現するものである。本発明の架橋性単量体添加範囲で発現する良好な耐くっつき性は、積層荷重を取り除き、エアー、ハケなどを用いてスペーサーを除去する際に、容易にスペーサーを除去できる性質であり、板ガラス用樹脂スペーサーとして特に好ましい性質である。
【0033】
また、板ガラス用樹脂スペーサーのTgは、以下に示すS10値に影響し、Tgを上げることによってS10値が高くなる傾向にある。
【0034】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、体積基準のメジアン径(D50)が75〜350μmの範囲であることが好ましい。
【0035】
メジアン径が75μm以上である場合に、板ガラス積層により荷重が掛かってスペーサーが潰れても、一定の隙間を確保でき、ガラス板製造時等に混入した小さなガラス屑を挟み込むことによるガラスの異物傷防止性が良好となる。好ましくは85μm以上である。一方、メジアン径が350μm以下である場合に、スペーサー散布時の板ガラス上の残存性が良好となる。好ましくは300μm以下である。
【0036】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、下記(式1)で定義される分散度Dが2以下であることが好ましい。
D=(D90−D10)/D50 (式1)
(式1中、D50は体積基準のメジアン径(μm)、D10は10%粒子径(μm)、D90は90%粒子径(μm)である。)
【0037】
「分散度」とは、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、株式会社堀場製作所製)、コールターカウンターTAII(商品名、ベックマン・コールター株式会社製)、コールターマルチサイザーII(商品名、ベックマン・コールター株式会社製)等の測定器で測定される粒度分布を基にして分割された粒度範囲に対し、測定全体を100%として小径側から累積分布を描いて、累積10%となる粒径をD10(10%粒子径)、累積50%となる粒径をD50(体積基準のメジアン径)、累積90%となる粒径をD90(90%粒子径)と定義する。
【0038】
分散度Dが2以下である場合、積層板ガラスを搬送する時や積層した板ガラスを斜め置きした場合に、板ガラス用樹脂スペーサーの板ガラス上残存率が良好となる傾向にある。好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1以下である。
【0039】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、20℃において、下記(式2)で定義されるS10値が10〜24MPaであることが好ましい。
10=2.8F/(πd2) (式2)
(式2中、Fは粒状重合体の10%圧縮変形における荷重値(N)、dは粒状重合体の直径(mm)である。)
【0040】
ここで「S10値」とは、例えば、破壊強度計算式:平松、岡、木山:日本鉱業会誌、vol.81、No.932、1024頁(1965)などに記載されている球体の硬さを普遍的かつ定量的に表す値であって、硬い球体ほど大きな値となる。
【0041】
このS10値が10MPa以上である粒状重合体を、板ガラス用樹脂スペーサー用重合体として使用した場合、耐割れ性、耐くっつき性、耐傷付き性が良好となる傾向にある。より好ましくは、11MPa以上であり、更に好ましくは12MPa以上である。
【0042】
また、S10値が24MPa以下である粒状重合体を、塗装板ガラス用樹脂スペーサー用重合体として使用した場合、塗装板ガラスの塗装面の傷付き防止性が良好となる傾向にある。好ましくは23MPa以下であり、更に好ましくは22MPa以下である。
【0043】
粒状重合体のS10値は、次のようにして求められる。
【0044】
まず、微小圧縮試験機を使用して、1つの粒状重合体に対して圧縮荷重を加えていくとともにその際の圧縮変位を検出して、圧縮荷重−圧縮変位曲線を作製する。ついで、この曲線から10%圧縮変形における荷重値Fを求める。そして、この値と、粒状重合体の直径dとを(式2)に代入することにより、S10値が求められる。
【0045】
微小圧縮試験機では、圧縮荷重を電磁力として、圧縮変位を作動トランスによる変位として電気的に検出することができる。このような微小圧縮試験機としては、例えば株式会社島津製作所製のMCTE−500型(商品名)などがあり、この試験機は、対象物を圧縮する手段として、直径500μmのダイヤモンド製の円柱を備えている。なお、圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、荷重を増加させる割合は毎秒69.1mNとし、試験荷重は最大で1.96Nとした。
【0046】
板ガラス用樹脂スペーサーの散布量は、特に限定されないが、0.1g/m2〜5.0g/m2の範囲が好ましい。板ガラスの厚み、積載量、板ガラスの種類などに応じて散布量は調整することができるが、0.1g/m2以上であれば、耐割れ性、耐くっつき性が良好となる傾向にある。好ましくは0.2g/m2以上であり、より好ましくは0.3g/m2以上である。散布量が5.0g/m2以下であれば、積層板ガラス上の残存性が良好となる傾向にある。好ましくは4.0g/m2以下であり、より好ましくは3.0g/m2以下である。
【0047】
板ガラス用樹脂スペーサーと併せて散布する配合物については、特に限定されないが、アジピン酸、ほう酸、クエン酸などの酸成分や各種可塑剤が挙げられる。
【0048】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーは、特に限定されないが、公知の方法により製造することができる。例えば、乳化重合の場合は、重合後に凝固、洗浄、脱水、乾燥を行った後に、造粒工程を経て粒状重合体を得ることができる。溶液重合においては、重合後に脱揮、粉砕、造粒工程を経て粒状重合体を得ることができる。塊状重合法の場合は、溶融押出、造粒工程を経て粒状重合体を得ることができる。懸濁重合法の場合は、重合後に洗浄、脱水、乾燥工程を経て粒状重合体を得ることができる。中でも、重合工程で目的の粒状の形状を得ることができ、また必要に応じて、気体による流動床式の分級、気流又は真空を用いたサイクロン方式の分級、振動式篩いによる分級、水中での遠心分離による分級を単独で又は併用して行なうことにより、容易に分散度が小さい粒状重合体を得ることができるため、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0049】
本発明の板ガラス用樹脂スペーサーを懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤は、特に限定されないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルの共重合物のアルカリ金属塩、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。中でも(メタ)アクリル酸エステル単量体の分散安定性の点で、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸メチルの共重合物のアルカリ金属塩が好ましい。
【0050】
懸濁重合の際に使用する分散剤の量も、特に限定されるものではないが、水性懸濁液に対し0.005〜5質量%の範囲であることが好ましい。これは、分散剤の量を0.005質量%以上とすることによって、懸濁重合時の分散安定性が良好となる傾向にあり、5質量%以下とすることによって、粒状重合体の洗浄性、脱水性、乾燥性、及び重合体粒子の流動性が良好となる傾向にあるためである。より好ましくは、0.01〜1質量%の範囲である。
【0051】
また、懸濁重合時の分散安定性向上を目的として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン等の電解質を使用することもできる。
【0052】
懸濁重合における重合温度は、特に限定されるものではないが、50〜130℃の範囲であることが好ましい。これは、50℃以上とすることにより、比較的短時間で重合体を製造することが可能となるためであり、130℃以下とすることによって、懸濁重合時の分散安定性が良好となるためである。より好ましくは、60〜100℃の範囲である。
【0053】
懸濁重合の際に使用する重合開始剤は、特に限定されるものではないが、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【0054】
また、粒状重合体のS10値を調整するため、連鎖移動剤を使用することができる。使用する連鎖移動剤は特に限定されるものではないが、例えば、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル等のチオグリコール酸エステル類、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン等が挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。連鎖移動剤の添加量を増やすことによって、S10値は低くなる傾向にある。
【0055】
懸濁重合の際に板ガラス用樹脂スペーサーの機能付与を目的として、添加剤を使用することができる。使用することができる添加剤は特に限定されるものではないが、例えば、アジピン酸、ホウ酸、クエン酸、紫外線吸収剤、離型剤、表面機能付与剤として低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンなどが挙げられる。これらは、1種以上を適宜選択して使用することができる。
【実施例】
【0056】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例においては、以下の測定方法を用いた。また、合成例、実施例、比較例中の「部」は「質量部」を表す。
【0057】
(1)ガラス転移温度(Tg)
150℃に加熱した後急冷した試料を、示差走査熱量計を用いて、昇温速度5℃/分で測定し、温度に対する熱量に関する曲線において、ガラス転移の開始前後の2つの接線の交点の温度とした。
【0058】
(2)体積基準のメジアン径及び分散度
株式会社堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名)を用いて体積基準のメジアン径(D50;μm)、10%粒子径(D10;μm)及び90%粒子径(D90;μm)を測定した。また、これらの測定値を用いて、分散度Dを算出した。
【0059】
(3)板ガラス用樹脂スペーサーの圧縮試験
(3−1)最大圧縮変形率及びS10
室温20℃の環境下において、平滑表面を有する微小圧縮試験機MCTE−500型(商品名、株式会社島津製作所製)の下部加圧板上に粒状重合体を散布し、その中から1個の粒状重合体を選び、粒子径を測定する。次に直径500μmを有する平板状のダイヤモンド製の上部加圧圧子を用いて選んだ粒状重合体を圧縮する。
【0060】
なお、測定は、散布した粒状重合体の中から直径130±5μmの粒子を1サンプルあたり5粒選び出して行い、得られた測定値を平均して当該サンプルの測定値とした。試験条件としては、圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、荷重を増加させる割合は毎秒69.1mNとし、試験荷重は最大で1.96Nとした。
【0061】
最大圧縮荷重1.96Nをかけた時の圧縮変形率、すなわち最大圧縮変形率[%]((1−圧縮後の粒子高さ/測定前粒子直径)×100)を算出した。また、10%変形時の負荷荷重よりS10値を算出した。
【0062】
(3−2)耐つぶれ性
耐つぶれ性は、最大圧縮変形率の平均値を下記基準で評価した。
○:70%未満である。
△:70%以上80%未満である。
×:80%以上である。
【0063】
(3−3)耐割れ性
室温20℃の環境下において、予め塗装した塗装板ガラス(120mm角×3mm厚、塗膜硬度5H(JIS K−5600の鉛筆硬度))を用い、塗装板ガラスの面上に、板ガラス用樹脂スペーサー(粒状重合体)20粒をできるだけ均一になる様に散布し、更に同じサイズのガラス板を載せ、スペーサー入りガラス板サンプルを準備した。このサンプルに2kgのおもりを乗せ、おもりを乗せた状態のまま上部のガラス板を3cmスライドさせた。その後、ガラス板サンプルを100倍の顕微鏡にて観察し、重合体の粒子の割れの有無を下記基準で評価した。
○:割れた粒子が1個以下。
×:割れた粒子が2個以上。
【0064】
(3−4)耐くっつき性
上記耐割れ性評価後、スペーサー入りガラス板サンプルを垂直に立てて開き、塗装板ガラス面への粒子の付着の状態を観察し、下記基準で評価した。
○:塗装板ガラス面へ付着した粒子が1個以下。
×:塗装板ガラス面へ付着した粒子が2個以上。
【0065】
(3−5)耐傷付き性
耐くっつき性評価後、塗装ガラス面上の粒子を加圧エアーで除去し、塗装ガラス面を観察し、下記基準で評価した。
○:塗膜に傷が認められない。
△:塗膜に僅かな傷が認められる。
×:塗膜に著しい傷が認められる。
【0066】
[実施例1]
攪拌機、温度計及び還流凝縮器を備え、加温及び冷却がいずれも可能な重合装置中に、脱イオン水200部に、(メタ)アクリル酸とメチル(メタ)アクリレートの共重合物のアルカリ金属塩0.01部を入れ、撹拌して、分散剤水溶液を得た。撹拌を停止して、この分散剤水溶液に、メチルメタクリレート57部、n−ブチルメタクリレート38部及びジビニルベンゼン5部を入れた。攪拌を再開してから、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.2部及びn−ドデシルメルカプタン0.1部を添加し、75℃に加温し、反応温度を75〜80℃に維持しながら2時間反応させ、次いで95℃に昇温して1時間反応させて、重合体スラリーを得た。重合体スラリーを、目開き63μm(250メッシュ)のナイロン製ろ布を用いて、ろ過し、洗浄、脱水後、乾燥を行って、板ガラス用樹脂スペーサー(粒状重合体)を得た。
【0067】
得られた板ガラス用樹脂スペーサーの平均粒子径(体積基準のメジアン径)は131μm、分散度Dは1.1、Tgは87℃、S10値は17.6MPaであった。また、圧縮試験では、最大圧縮変形率57.5%であり、耐つぶれ性○、耐割れ性○(割れ0個)、耐くっつき性○(付着した粒子0個)、耐傷付き性○(傷付きなし)の良好な結果であった。
【0068】
[実施例2〜6、比較例1〜4]
仕込んだ単量体混合物の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして板ガラス用樹脂スペーサーを得、各種評価を行った。
【0069】
実施例及び比較例で得た板ガラス用樹脂スペーサーの評価結果を一括して表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1より、以下のことが分かる。
【0072】
(1)実施例1〜3の板ガラス用樹脂スペーサーは、最大圧縮変形率、耐つぶれ性、耐割れ性、耐くっつき性及び耐傷付き性に優れ、一般的な板ガラスだけでなく、塗装板ガラスの積層にも優れたスペーサーとして使用できる。
【0073】
(2)実施例4の板ガラス用樹脂スペーサーは、圧縮試験において、最大圧縮変形率がやや悪いものの、耐割れ性、耐くっつき性及び耐傷付き性に優れ、一般的な板ガラスだけでなく、塗装板ガラスの積層にも優れたスペーサーとして使用できる。
【0074】
(3)実施例5及び実施例6の板ガラス用樹脂スペーサーは、最大圧縮変形率、耐つぶれ性、耐割れ性及び耐くっつき性のバランスが優れ、一般的な板ガラスの積層に優れたスペーサーとして使用できる。
【0075】
(4)比較例1では、架橋性単量体単位の量が1質量%を下回るため、最大圧縮変形率が72.5%、耐つぶれ性△であり、また、耐割れ性×であった。このように耐割れ性が低位である粒状重合体をスペーサーに用いた場合は、配合量を多くする必要があり、また、品質安定性が低位であるため工業的利用価値が低い。
【0076】
(5)比較例2では、架橋性単量体単位の量が20質量%を超えるため、耐傷付き性×であった。このように耐傷付き性が低位である粒状重合体は、塗装板ガラスではその積層用スペーサーとしての使用は不可であり、工業的利用価値が低い。
【0077】
(6)比較例3では、Tgが35℃を下回るため、最大圧縮変形率が81.5%で、耐つぶれ性×となり、耐くっつき性×であった。このように最大圧縮変形率が高く、耐つぶれ性が低位である粒状重合体を板ガラス積層の際のスペーサーに用いた場合は、板ガラス間に必要な一定の隙間を確保できないため、ガラス板製造時等に混入した小さなガラス屑を挟み込み、ガラスが傷付く場合がある。また、このように耐くっつき性が低位である粒状重合体は、出荷などの搬送時に多くの板ガラスを積層した状態から板ガラスを取り出す際にスペーサーの除去が困難であるため、板ガラス用樹脂スペーサーとしての使用は望ましくない。
【0078】
(7)比較例4では、Tgが120℃を上回るため、耐傷付き性×であった。このように耐傷付き性が低位である粒状重合体は、塗装板ガラス用樹脂スペーサーとしての使用は不可であり、工業的利用価値が低い。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、特定量のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を構成単位として含む粒状重合体であって、特定のガラス転移温度(Tg)を有する板ガラス用樹脂スペーサーに関するものであり、また、好ましくは、特定の体積基準のメジアン径、特定の分散度、特定のS10値を有する板ガラス用樹脂スペーサーに関するものであり、該板ガラス用樹脂スペーサーは、好適な、耐つぶれ性、塗装板ガラスの傷付き防止性を有し、しかも粒子の割れが極めて少ないので、板ガラスを積層して保管や輸送するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する架橋性単量体単位1〜20質量%と(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含み、ガラス転移温度(Tg)が35〜120℃である板ガラス用樹脂スペーサー。

【公開番号】特開2009−275106(P2009−275106A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127317(P2008−127317)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】