説明

板金部材の結合構造および自動取引装置

【課題】防錆効果を有するとともに、結合部における良好な電気的導通を確保できる板金部品の結合構造を提供する。
【解決手段】防錆のために絶縁性被膜3に被覆された板金部材1と、同様に絶縁性被膜3に被覆された板金部材2とを結合する場合に、両板金部材1、2の結合面に打ち出しにより凹部7、8を形成する。凹部7、8を形成することによりその周囲に形成された凸部の頂部は前記絶縁性被膜が剥がされ、この凸部の頂部同士が接触するように板金部材1と板金部材2とを重ね合わせて結合する。これにより電気的導通を確保できるとともに、防錆効果を保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性被膜に被覆された板金部材を他の部材と結合する結合構造および該結合構造を備えた自動取引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーソナルコンピュータなどの情報処理装置や自動取引装置などのエレクトロニクス機器は、金属構造体に各種の部品やユニットを組み付けた構造を有している。金属構造体への部品やユニットの組み込みは、金属板金同士を重ね合わせてネジやリベットで結合したり、あるいは溶接により結合したりしている。この場合、静電気やEMI(electro magnetic interference:電磁障害)の対策用の、金属構造体を接地する手段として、重ね合わせた金属板金同士で電気的導通を確保することが重要である。
【0003】
従来の板金部品は、防錆効果を有する6価クロム膜を備えた亜鉛処理鋼板が利用されているが、6価クロムは環境悪化の原因となることから、世界規模でその利用の見直しが進められている。そこで現在では、6価クロムを使用しない防錆用の有機被膜を施した板金部品(クロムフリー鋼板)が利用されるようになってきている。
【0004】
この有機被膜は数μm程度の薄い被膜であるが、従来の防錆用被膜に較べて高い絶縁性を有するので、板金部品同士を結合させた場合、両板金部品の有機被膜同士が接触し、電気的な導通不良を起こす。そのためEMI対策や静電気対策で問題となっていた。
【0005】
そこで、(1)有機被膜に被覆されていない板金部品の切断面を利用して電気的導通を確保する方法や、(2)板金部品の結合部を特別なローレット構造としてネジ止め時にかかる圧力で有機被膜に食い込ませることで導通を取る方法、あるいは(3)板金部品の結合部をヤスリ掛けして有機被膜を除去する方法などが考えられてきた。(2)の板金部品の結合部を特別なローレット構造としてネジ止め時にかかる圧力で有機被膜に食い込ませることで導通を取る方法は、例えば特開2003−283154号公報に開示されている。
【特許文献1】特開2003−283154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記(1)の板金部品の切断面を利用して電気的導通を確保する方法や、上記(2)の結合部をローレット構造としてネジ止め時の圧力で有機被膜に食い込ませる方法では、切断面の当たり方や、ローレット構造の有機被膜への食い込み具合などにより導通状態が変化してしまう。また上記(3)のヤスリ掛けの方法では、防錆被膜が必要以上に除去され、金属表面が錆びるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、防錆効果を有するとともに、結合部における良好な電気的導通を確保できる板金部品の結合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、絶縁性被膜に被覆された板金部材を他の部材と結合する結合構造を有する板金部材の結合構造において、前記板金部材の結合面に打ち出しにより凹部を形成し、前記凹部を形成することによりその周囲に形成された凸部の頂部は前記絶縁性被膜が剥がされ、前記凸部の頂部が前記他の部材と接触するように該他の部材と結合されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、板金部材の凹部の周囲に形成された凸部の頂部は絶縁性被膜が剥がされ、この頂部が他の部材に接触するように結合されるので、板金部材と他の部材との電気的導通を確保することが可能である。また、凸部の頂部以外の部分は絶縁性被膜が剥がれることはないので、防錆効果を良好に保つことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。各図面に共通する要素には同一の符号を付す。図1は本発明の実施の形態の板金部材の結合構造を示す断面図、図2は図1のA部を示す拡大断面図である。
【0011】
図1、図2において、板金部材1と板金部材2は互いに結合される部材である。板金部材1の表面には有機被膜3が被覆され、板金部材2の表面にも有機被膜3が被覆されている。板金部材1と板金部材2は、結合面4と結合面5が向かい合う状態でネジ6により結合される。板金部材1の結合面4には、図2に示すように、複数の凹部7が形成され、反対側の板金部材2の結合面5にも複数の凹部8が形成されている。
【0012】
図2において、凹部7、8はNCT(NC制御タレットパンチプレス)加工により打ち出すことにより形成され、凹部7と凹部8は互いに対向する位置に設けられる。凹部7、8を形成する際にプレスによる打ち出しで金属が周囲に押し出され、周囲に山状の凸部9、10が形成される。この凸部9、10の頂部9a、10aは、有機被膜3が剥げ落ち、金属部分が露出する。この状態を図3に示す。図3は凹部の周囲を示す写真である。
【0013】
図3において、右側の黒い部分は凹部7、8の内側を示し、その左側の円弧状の白っぽい部分は凸部9、10の頂部9a、10aを示す。黒い部分は有機被膜3が残っていることを示し、白っぽくなっているのは、有機被膜3が剥げ落ちていることを示す。凸部9、10の頂部9a、10aは、ほぼ全面に渡って有機被膜3が剥げ落ちている。
【0014】
板金部材1と板金部材2とを結合する場合、板金部材1の凸部9の頂部9aと板金部材2の凸部10の頂部10aとが接触するように重ね合わせてネジ6により結合される。図2においては頂部9aと頂部10aは接触していないが、これは説明のために離しているのであって、実際には両者は接触する。頂部9aと頂部10aが接触することにより、板金部材1と板金部材2との電気的導通が確保される。有機被膜3は、凹部7、8の内側および凸部9、10の周囲においては剥げ落とされておらず、したがってこれらの部分において防錆効果を保つことができる。
【0015】
凹部7、8の直径および深さを変えることにより、凸部9、10の大きさを変えることができる。凸部9、10の大きさを変えることにより、頂部9a、10aの面積を変えることができる。頂部9a、10aの面積を大きくすることにより、板金部材1と板金部材2との電気的導通性を向上させることができる。本発明者らの実験によれば、凹部7、8の直径が約0.8mmで、凹部7、8の深さが約0.2mm程度の大きさであれば十分な導通性を確保することができることが確認された。
【0016】
また結合する一方の板金部材(例えば板金部材2)の表面が、電気的導通性のよい部材である場合、この板金部材には凹部を形成せずに、他方の板金部材1にのみ凹部7を形成し、この凹部7の周囲の凸部9の頂部9aを、表面が電気的導通性のよい板金部材の表面に接触させて両板金部材を結合することで、両板金部材間の電気的導通を確保することができる。
【0017】
図1には両板金部材1、2に対して、共に複数の凹部7、8が示してあるが、凹部7、8同士の間隔は密になるほど両板金部材1、2間の電気的導通性が向上することは間違いない。しかしあまりに多くの凹部7、8を打ち出すことは、加工時間の増加に繋がる。他方、凹部7、8の数をあまりに少なくすると、十分な電気的導通性を確保することができない。
【0018】
そこで一定数の凹部を形成するための冶具(ポンチセット)を作製し、これを使用して凹部を形成するようにした。図4にポンチセットの例を示す。図4において、(a)のポンチセット11は、中央にネジ穴12を有し、ネジ穴12の周囲に6個のポンチ13を配置したもので、ネジで結合する板金部材に使用する。隣接するポンチ13の間隔は等間隔である。
【0019】
(b)のポンチセット14は、6個のポンチ13を横二列に規則的に配置したもので、板金部材を結合する部材を有しない部分で重ね合わせる場合に使用する。各列において隣接するポンチ13の間隔は等間隔である。(c)のポンチセット15は、6個のポンチ13を横一列に配置したもので、(b)と同様に板金部材を結合する部材を有しない部分で重ね合わせる場合に使用し、比較的細長い板金部材に使用する。この場合も隣接するポンチ13の間隔は等間隔である。
【0020】
ポンチ13により形成される凹部の個数と抵抗値との関係については、個数が増加するにしたがって抵抗値が下がる。凹部の個数と抵抗値との関係を図5に示す。図5において、電気的導通性のよい板金部材同士を結合した場合の導通抵抗値が符号20で示してある。凹部により導通をとった場合の抵抗値は、凹部の個数が増加するにしたがって、電気的導通性のよい板金部材同士の導通抵抗値20に指数関数的に近づいていくことが符号21で示されている。
【0021】
ここで、凹部の個数を6個にすると、ほぼ導通性のよい板金部材同士の抵抗値と同等の抵抗値になるので、凹部を形成するポンチ13の数は6個以上必要であることになる。このため図4に示すポンチセット11、14、15は何れも6個のポンチ13を配置している。6個以上のポンチ13を一定間隔に配置することにより、板金部材全体の導通性を向上させることができる。なお図5に示す抵抗値は、凹部直径が約0.8mmで、深さが約0.2mmの大きさに設定した場合の値である。
【0022】
次に凹部7、8間の間隔について説明する。凹部7、8の間隔は、耐性を向上させたいノイズの周波数によって変化する。例えば、EMIを抑制しようと考えた場合、日本では現在、1GHzまでの対応が必要となる。これは、板金部材上で問題となる周波数以下にて共振を起こさせない必要があることから、凹部の間隔は目標周波数の波長の1/4以下である必要がある。
【0023】
そこで凹部の間隔をLとすると、間隔Lは次に計算式により求めることができる。即ち、
【0024】
L=λ/4=c/(4×f)(m)
ここで、λ:波長(m)、c:光速=3×108(m/s)、f=周波数(Hz)である。一例として、1GHzまでの抑制を図る場合は、つぎのようになる。即ち、
L=λ/4=c/(4×f)=(3×108)/(4×109)=0.075(m)=7.5(cm)
【0025】
したがって、7.5cm以下の間隔で凹部を設けることにより、1GHzまでのノイズの抑制に効果を奏する。図4に示す各ポンチセット11、14、15においては、隣接するポンチ13間の間隔はいずれも7.5cm以下となっている。
【0026】
このようにして作製したポンチセット11、14、15により板金部材1または2に対して凹部7または8を形成し、ネジ6等で互いに結合することにより、効率のよい凹部7または8が形成できるとともに、これらの板金部材1、2が組み込まれる装置の接地性を高め、耐EMI性および静電気ノイズ耐性を向上させることが可能となる。なお種類の異なるポンチセットを複数用意しておくことにより、板金部材の結合形態の相違に応じて容易に凹部を形成することができる。
【0027】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態では板金部材同士の結合における凹部について説明したが、本発明における凹部の周囲の凸部による導電効果は、ネジ止め等による強力な応力を特に必要とはしない。即ち、ある程度の力で凸部同士が接触すれば導電効果が確保できるので、例えば、板バネと板金部材との結合、あるいはEMIガスケットと板金部材との結合等にも適用可能である。またネジ止めによる結合を必要としない板金部材同士の結合にも勿論適用可能である。
【0028】
図6は本発明の板金部材の結合構造が適用される装置としての自動取引装置を示す。図6において、自動取引装置30は金融機関等に設置され、顧客の操作により取引を実行する装置である。自動取引装置30のキャビネット31内には、図示しないカードリーダ、紙幣入出金機、制御部、電源部等のユニットが実装されており、また外部前面には保守、点検等を行うための開閉可能なフロントパネル32およびフロント扉33が設けられている。フロント扉33は表面に小扉34を有する二重扉になっている。
【0029】
図7はフロント扉の開閉構造を示す斜視図である。図7において、フロント扉33は蝶番34により回転可能にキャビネット31に取付けられている。フロント扉33の内側には回転シャフト35が設けられており、回転シャフト35の上下に爪36、37が取付けられている。図示しない回転手段を操作してフロント扉33を閉めた際に、キャビネット31の内側に設けられた係止部38、39に爪36、37を引っ掛けることによりフロント扉33がロックされる。
【0030】
蝶番34はフロント扉33の側壁33aに固定されている。蝶番34と側壁33aとはともに防錆のために絶縁性の被膜が被覆されているが、両者の間で接地のために電気的導通を取る必要があり、そのため蝶番34と側壁33aとの間に本発明の結合構造が適用される。即ち、蝶番34の結合面に図2に示す凹部7または8を形成すると共に、側壁33aの結合面にも同様に凹部8または7を形成して両者を重ね合わせ、ネジ等で固定する。本発明の結合構造が、自動取引装置30のこれ以外の箇所にも適用可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施の形態の板金部材の結合構造を示す断面図である。
【図2】図1のA部を示す拡大断面図である。
【図3】凹部の周囲を示す写真である。
【図4】ポンチセットの例を示す図である。
【図5】凹部の個数と抵抗値との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の板金部材の結合構造が適用される自動取引装置を示す斜視図である。
【図7】フロント扉の開閉構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1、2 板金部品
3 有機被膜
7、8 凹部
9、10 凸部
9a、10a 頂部
11、14、15 ポンチセット
13 ポンチ
30 自動取引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性被膜に被覆された板金部材を他の部材と結合する板金部材の結合構造において、
前記板金部材の結合面に打ち出しにより凹部を形成し、
前記凹部を形成することによりその周囲に形成された凸部の頂部は前記絶縁性被膜が剥がされ、
前記凸部の頂部が前記他の部材と接触するように該他の部材と結合されることを特徴とする板金部材の結合構造。
【請求項2】
前記他の部材は、絶縁性被膜に被覆され、前記板金部材との結合面に打ち出しにより凹部を形成し、該凹部を形成することによりその周囲に形成された凸部の頂部は前記絶縁性被膜が剥がされ、該凸部の頂部が前記板金部材の凸部の頂部に接触するように結合される請求項1記載の板金部材の結合構造。
【請求項3】
前記凹部は複数形成され、凹部間の間隔は、ノイズの周波数の波長の1/4以下とした請求項1または2記載の板金部材の結合構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の板金部材の結合構造を備えた自動取引装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−173740(P2007−173740A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−372954(P2005−372954)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】