説明

果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減方法

【課題】従来の果面及び/又は葉面保護剤に代えて、安全で経済的な果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減方法を提供する。
【解決手段】ゼオライトを主剤とする固形剤を水で希釈した液剤であって、0.3重量%以上のゼオライトを含む液剤を、果実及び/又は葉面に散布することにより、果面及び/又は葉面に保護膜を形成することができる。該保護膜が冷気から果面及び/又は葉面を保護するため、各種の果皮障害を予防、軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は果樹の果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減方法に関する。特にゼオライトを主剤とする固形剤及び該固形剤を水で希釈した液剤を散布して葉面及び果面に保護膜を形成し、果樹の凍霜害を予防し軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サビ果や日焼けといった果面障害により果実の商品価値が損なわれるため、その予防及び軽減が必要とされている。
【0003】
果面障害は凍霜害、過剰な日光への露出、及び農薬による薬害といった原因から生じると考えられている。例えば、果面の日焼けやサビ果は、過剰な太陽光への露出や朝露、雨滴、散布液等の水滴によるプリズム現象により発生する。また、肥料や農薬散布によるサビ果の発生や果面及び/又は葉面における薬害の発生は、肥料や農薬の特性による直接的な薬害と、散布液の乾きが悪いために起きる長期接触タイプの薬害とがある。さらに、着果後に気温が低下すると、葉面や果皮の温度が低下して植物組織内の水分が凍結することによって果面障害が起き、葉面や果面に凝縮した水が凍結することによっても引き起こされる。
【0004】
従来、果面障害を防止するため、果実の袋がけや炭酸カルシウムの被膜形成も用いられている。しかし、袋がけ作業及びそれに伴う除袋作業では作業者の負担が大きい。炭酸カルシウム剤は除去し難く、残存して果面を白くするため、農薬が残存しているかのような外観を与えるという理由から敬遠されやすい。また残存炭酸カルシウムを摂取すると、人体に有害な作用を及ぼす場合がある。
【0005】
可溶性アルミニウム又は鉄化合物の成分とケイ酸系微粉末又はアルミナ系微粉末の成分とを含有する保護剤(例えば、特許文献1参照)も報告されている。この剤では、両者の成分が特異的かつ相乗的に作用し、植物の損傷が生じた部分を覆って病原菌の感染等を防止できるとされている。しかし、果樹の果面障害の発生そのものを予防することは困難である。さらに、可溶性アルミニウム及び鉄化合物が作物に残留すると、人体に有害な影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
以上のように、従来の果面保護剤及び果面保護方法は満足のいくものとはいえないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−44414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のように経済的な側面や効果の点で問題のあった従来の果面及び/又は葉面保護剤及び保護法に代え、安全で経済的な果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記実状に鑑み、本発明者は鋭意研究を進めた結果、多孔質粉体を果面及び/又は葉面の広範囲に渡って散布して保護膜を形成することにより、果面障害及び/又は葉面損傷を予防、軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、多孔質粉体のみによっても果面障害や葉面損傷を予防しうるという新たな知見に基づいている。
【0010】
即ち上記課題は、多孔質粉体、特にゼオライトからなる果面及び/又は葉面保護用固形剤を水で希釈した液剤により解決する。これらの剤を果樹の果面及び/又は葉面に散布することにより、果面及び葉面を保護することができ、果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減を図ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の果面及び/又は葉面保護剤はゼオライトといった多孔質粉体を含み、果面及び/又は葉面上に保護膜を形成することができる。本発明の保護剤を用いることにより、凍霜害による果面障害を効果的に防止することができ、商品価値の高い果実の生産が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明では、果面及び/又は葉面に多孔質保護膜を形成することにより、正常な果皮や葉面を凍霜害による各種の果面障害や葉面損傷から予防し軽減することができる。
【0014】
本発明の剤に含有される多孔質粉末は散水によって容易に除去することができるため、果実の外観を損なわないという利点を有する。そして、気孔率の高い被膜が形成されるため保温性が向上し、水分の凍結による果面障害を防止していると考えられる。散布した粉末の吸水性が高いため、果面や葉面上の広い範囲が水滴に覆われることを防ぎ、水滴の凍結による植物組織の損傷が起きる範囲を狭めることができるとも考えられる。
【0015】
散布する剤としては、外気との熱伝導を抑制し保温性を高めるという観点から、多孔質粉末が好ましい。使用される粉末の細孔容積としては、0.2ml/g以上、好ましくは0.5ml/g以上であり、10ml/g以下、好ましくは5ml/g以下である。細孔容積が小さすぎると保温性が低下して本発明の効果が得られにくく、大きすぎると嵩密度が小さくなり取り扱いが困難になりやすい。
【0016】
使用される粉末の比表面積としては、10m2/g以上、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは100m2/g以上、さらに好ましくは150m2/g以上である。また、10000m2/g以下、好ましくは5000m2/g以下、さらに好ましくは2000m2/g以下である。比表面積が小さすぎると本発明の効果が得られず、大きすぎると取り扱いが難しくなる。なお上記の比表面積は、BET法により窒素吸着を用いて測定される比表面積の値である。
【0017】
使用される粉末の吸油量としては、20ml/100g以上、好ましくは50ml/100g以上、より好ましくは100ml/100g以上であり、1000ml/100g以下、好ましくは700ml/100g以下である。吸油量が小さすぎると本発明の効果が得られず、大きすぎると取り扱いが困難になりやすい。
【0018】
使用される粉末の平均粒径としては、0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、また20μm以下、好ましくは10μ以下である。細かすぎると取り扱いに問題が生じ、粗すぎると緻密な保護膜が生成せず、果面及び/又は葉面を充分に保護することが難しくなる。
【0019】
本発明の多孔質材料としては、ゼオライトを用いることができる。また、植物性の粉体、例えば木質粉、籾殻、オガクズ等を併せて使用することもできる。
【0020】
ゼオライトを使用する場合、その種類に特に制限はなく、X型、Y型、A型、モルデナイト、ZSM−5等の各種のゼオライトを使用することができ、一部をTiなどの遷移金属で置換することもできる。また、H+がNa+やK+といったカチオンで交換された材料を使用することもできる。さらに、アルミノリン酸塩(ALPO)やシリカアルミノリン酸塩(SAPO)といったゼオライト類縁体も用いることができる。
【0021】
多孔質材料の細孔構造に特に制限はなく、均一な細孔構造を有するマイクロポーラス及びメソポーラス材料であってもよい。また、1次元、2次元、又は3次元のチャンネルを持つゼオライトであってもよい。少量の粉末で効果的な保護膜を形成するためには、均質な細孔分布を有するゼオライトが好ましい。
【0022】
本発明の多孔質粉末としては、天然鉱物由来の粉末も合成品由来の粉末も使用することができる。経済的な観点からは、ゼオライトは天然鉱物由来が好ましいが、合成ゼオライトを用いることもできる。経済的な観点からは、市販の粉体を利用することもできる。
【0023】
本発明で使用する多孔質粉体は、各種の材料を従来公知の方法で粉砕することによって得ることができる。例えば、乾式粉砕ではボールミルやジェットミルを使用することができ、湿式粉砕ではダイノーミルを使用することができる。また、市販の粉砕粉末を使用することもできる。
【0024】
本発明の固形剤はさらに別の成分を含んでもよく、他の農薬有効成分と混合して使用することもできる。ただし、安全性、毒性、及び環境保護の観点からは、人体に有害な成分や環境に悪影響を及ぼす成分を配合することは好ましくない。
【0025】
本発明の固形剤は、取り扱いの容易さや散布時の均一性を考慮して、水で希釈した液剤として散布することが好ましい。正常な果面や葉面を広い範囲で被覆し、保護膜を形成することが好ましい。希釈倍率は散布する果樹、用途、気候等に依存するが、凍霜害による果面障害の発生を防止するために用いる際には、固形剤の量は水の0.3重量%以上であり、3重量%、好ましくは1重量%以下である。
【0026】
本発明の対象となる果樹は特に制限はないが、例えばリンゴ、各種の柑橘類、モモ、ナシ、ブドウ、アンズ等が挙げられる。
【0027】
本発明の固形剤又は液剤を散布する時期は、該剤の濃度、果樹、用途等に依存するが、リンゴ、各種の柑橘類、モモ、ナシ、ブドウ、アンズ等の凍霜害による果面障害を防止する場合には、開花期から幼果期に散布すると効果的である。散布する回数に特に制限はなく、晩霜の被害を受けやすい時期に適宜散布することが好ましい。例えば、被害を受けるおそれのある危険限界温度以下となることが予想される場合、予め散布しておくことができる。必要に応じて複数回散布することもできる。
【0028】
該剤の保護膜の状態に依存して、複数回散布することもできる。降雨により保護膜が流亡した場合には、再度散布することができる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明が以下の実施例によって限定される物ではない。
<実施例1> 晩霜害による果面障害の予防・軽減:リンゴ「ふじ」
ゼオライト粉末(日東粉化工業株式会社製:粒子径1.92μ、福島県飯坂町産鉱石使用)、モンモリロナイト粉末(ソフトシリカ社製:粒子径2.0μ、秋田県産の鉱石使用)、ケイソウ土粉末(クニミネ工業社製:粒子径2.0μ、福島県産の鉱石使用)、シリカゲル粉末(粒子径2.0μに粉砕したもの)をそれぞれ水で200倍(重量比)に希釈し(水の0.5重量%に当たる粉末を混合)、液剤とした。これらの液剤各々を、それぞれ異なる試験区において、落花直後の晩霜到来前の5月10日に散布した。散布量は、10a当たり液剤500Lであった。散布した4日後の5月14日に晩霜があり、被害の調査を5月25日に行なった。結果は以下の通りである。なお、具体的な被害としては、受粉障害による不稔、サビ果の発生、果皮及び葉の黒変、並びに黒変した果実及び葉の落果及び落葉であった。
【0030】
【表1】

【0031】
上記の表1に示すように、本発明の剤を用いることにより、凍霜害を効果的に抑制することができる。本発明の剤は人体や環境に有害な影響を及ぼす成分を含まないため、残存しても問題となることがない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトを主剤とする果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減用固形剤を水で希釈して得た液剤であって、0.3重量%以上のゼオライトを含む液剤を果樹の果面及び葉面に散布することを含む、果樹の凍霜害の予防及び/又は軽減方法。
【請求項2】
液剤が、0.5重量%以上のゼオライトを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液剤を、果樹の開花期から幼果期の間に散布する、請求項1又は2に記載の方法。

【公開番号】特開2009−167192(P2009−167192A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53535(P2009−53535)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【分割の表示】特願2003−110082(P2003−110082)の分割
【原出願日】平成15年4月15日(2003.4.15)
【出願人】(300012826)ロイヤルインダストリーズ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】