説明

果汁の沈殿抑制方法並びに果汁の沈殿が抑制された飲料

【課題】製造時や保存時、特には5℃以下といったといった低温条件で長期間保存された場合であっても果汁の沈殿発生が顕著に抑制された果汁含有飲食品を提供する。
【解決手段】果汁含有飲食品中にモルトエキスを添加することにより、製造時や保存時に生じる果汁の沈殿を抑制する。好ましくは、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、果汁1%に対するモルトエキスの添加量が0.002質量%以上となるようにモルトエキスを添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルトエキスを用いた果汁の沈殿抑制方法に関する。詳細には、果汁を含有した飲食品の製造時や保存時、特には5℃以下といった低温条件で長期間保存した場合であっても果汁の沈殿を抑制する方法に関する。更に本発明は、果汁の沈殿が抑制された果汁含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ブドウ果汁、リンゴ果汁やレモン果汁等の各種果汁を含有した飲料は、製造した製品中で、特に低温条件での長期保存によって果汁の難溶性、不溶性成分(繊維質、タンパク質、タンニンやペクチン等のガム質等)の沈降、沈殿が顕著に起こり、商品価値が下がるといった問題を抱えている。果汁含有飲料の沈殿を防止する従来技術としては、混濁していない透明な状態の果汁(清澄果汁)を使用する方法や、果汁中の不溶性成分の中でもパルプ分を低減した果汁を使用する方法(特許文献1)、ショ糖を添加して糖濃度を調整し、果実由来の難溶性成分の不溶化を抑制する方法(特許文献2)等の各種方法が用いられてきた。
【0003】
しかし、清澄果汁は酵素処理や限外ろ過膜等の膜処理などによって処理され、天然の果実成分が分解、除去されるため、天然の果実本来の優れた風味が損なわれてしまうといった課題を抱えている。更に、清澄化処理を施した果汁であっても、製造条件や保存条件によっては果汁の沈殿が発生し、かかる沈殿を抑制する技術が求められていた。また、特許文献2に記載されている技術も、糖濃度を210g/L以上に設定しなければならず、低い糖濃度を求められる飲料では当該果汁含有希釈用飲料の添加量が制限され、果汁含量を高められない等の製品処方に制限がある、未だ沈殿防止効果が不十分であるなどの課題を抱えていた。
【0004】
一方、特許文献3にはビールと果実飲料の双方の香料、及びビール様の発泡性を有するアルコールをほとんど含まない炭酸飲料として、麦芽エキス及びクランベリー果汁を含有した飲料が記載されているが、麦芽エキスによって果汁の沈殿を防止できることについて何ら教えるところはない。特許文献3に係る技術は、果汁およびサポニンが配合された糖液に加熱処理を施すことにより沈殿成分を加水分解後、分解後の処理液を冷却して沈殿成分を析出、ろ過することを特徴とする技術である。つまり、特許文献3は予め不溶性、難溶性成分といった沈殿成分を析出、ろ過して除去する技術が開示されているに過ぎず、不溶性、難溶性成分の沈殿を抑制する方法については何ら教えるところはない。むしろ、糖液を冷却することにより混濁物の沈殿凝集が効果的に促進されることが明記されているに過ぎない。
【0005】
同様にして、特許文献4には高いギャバ含量を有する麦芽エキスを添加できる飲料の一種として果実飲料が記載されているが、モルトエキスによって果汁含有飲料の沈殿を防止できることはおろか、実施例の記載を鑑みても、モルトエキスを含有した果汁含有飲料について何ら具体的な記載はない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−238513号公報
【特許文献2】特開2002−17317号公報
【特許文献3】特公平03−22141号公報
【特許文献4】特開2004−350570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかるように、本願発明は、果汁含有飲料といった果汁含有飲食品の製造時や保存時に生じる沈殿の発生を抑制することを目的とする。特には、5℃以下といった低温条件で長期間保存した場合であっても、果汁含有飲食品中の沈殿の発生を顕著に抑制する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、沈殿の発生が抑制された果汁含有飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、果汁含有飲食品にモルトエキスを添加することにより、製造時や保存時、特には低温条件で長期間保存された場合であっても、果汁の沈殿を顕著に抑制できることを見出して本発明に至った。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する果汁の沈殿抑制方法、及び果汁含有飲料に関する;
項1.モルトエキスを添加することを特徴とする、果汁含有飲食品中での果汁の沈殿抑制方法。
項2.果汁1%に対するモルトエキスの添加量が、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002質量%以上である、項1に記載の果汁の沈殿抑制方法。
項3.果汁及びモルトエキスを含有し、果汁1%に対するモルトエキスの添加量が色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002〜0.15質量%である、果汁含有飲料。
項4.果汁含量が10%以上である、項3に記載の果汁含有飲料。
項5.モルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合、モルトエキスを0.0002〜1.2質量%含有する、果汁含量が0.1%以上10%未満である果汁含有飲料。
項6.モルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合、モルトエキスを0.02〜15質量%含有する、果汁含量が10%以上である果汁含有飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、果汁含有飲料といった果汁含有飲食品の製造時や保存時に生じる沈殿の発生を抑制することが可能である。また、本発明によれば、製造時や保存時、特には5℃以下といった低温条件で長期間保存した場合であっても沈殿の発生が顕著に抑制された果汁含有飲料を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実験例1において1週間保存後の果汁含有飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の結果を示す。
【図2】実験例3において、モルトエキスの添加量を変化させて調製した果汁含有飲料を5℃で1週間保存後、メンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の結果を示す。
【図3】実験例4において、高い果汁含量(60%、80%、100%)を有する果汁含有飲料を5℃で1週間保存後、メンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の結果を示す。
【図4】実験例5において、モルトエキスの代わりにモルトエキスの一成分である麦芽糖を用いて果汁含有飲料を調製し、当該飲料を5℃で1週間保存後、メンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の果汁の沈殿抑制方法は、果汁含有飲食品にモルトエキスを添加することを特徴とする。本発明で使用するモルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものを抽出した麦芽汁を糖化することにより得られるモルトエキスであれば特に限定されることなく使用することができる。好ましくは、麦芽又はこれを焙煎したものを水で抽出した麦芽汁を糖化したものを使用することができる。具体的には、麦芽又はこれを焙煎したものに対して、0.5〜100倍量、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、室温〜100℃で30分間〜15時間、麦芽を浸漬し、必要に応じて攪拌することにより抽出、糖化されたモルトエキスを用いることができる。尚、かかるモルトエキスは液体、固体、ペースト品など使用形態は問わない。
【0013】
当該モルトエキスを果汁含有飲食品、特に果汁含有飲料に添加することにより、製造時や保存時に果汁の不溶性、難溶性物質が不溶化、沈降して生じる沈殿を顕著に抑制することが可能である。また、果汁含有飲料は、5℃以下といった低温条件下、また長期保存下で、沈殿の発生がより顕著となるが、かかる低温条件下や長期間での保存であっても、当該モルトエキスを添加することにより、果汁の沈殿を抑制することが可能となった。
【0014】
果汁含有飲食品へのモルトエキスの添加方法は、最終食品中にモルトエキスが含まれていれば特に限定されず、各種方法を用いることができる。例えば、果汁含有飲料であれば、果汁の原料段階で添加してもよく、飲料の製造工程の最終段階で添加してもよい。例えば、果汁、糖類、酸味料等を含有した溶液を調製後、モルトエキスを添加し、当該溶液を殺菌、冷却することにより果汁含有飲料を調製することができる。また、果汁を含有した溶液を調製する際にモルトエキスを添加しても良く、本発明の効果は、調製後の果汁含有飲料にモルトエキスを添加することによっても実現することが可能である。
【0015】
本発明で用いる果汁の種類は特に限定されず、ブドウ果汁、ホワイトグレープ果汁、リンゴ果汁、ピーチ果汁、柑橘果汁(レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ミカン果汁、ライム果汁等)、熱帯果実果汁(パイナップル、バナナ、グァバ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ)、その他果実の果汁(イチゴ果汁、ベリー果汁、カシス果汁、ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、キウイフルーツ果汁、メロン果汁)や、トマト果汁、ニンジン果汁等の野菜汁も含む、各種果汁を使用することができる。
中でも、ブドウ果汁は他の果汁に比して特に、製造時や保存時に顕著に沈殿が発生することが問題視されていたが、かかる果汁を使用した場合であっても、モルトエキスを添加することにより、果汁含有飲食品中の果汁の沈殿を顕著に抑制することが可能となった。なお、本発明において使用する果汁は、混濁果汁であっても清澄化された果汁であっても構わない。本発明の効果は、混濁果汁を使用した果汁含有飲料においても顕著な効果を発揮する一方で、透明な飲料等には清澄果汁が多用されるが、例え清澄果汁を使用した場合であっても、飲料の保存時に沈殿が発生するといった現象が生じるためである。
【0016】
果汁に対するモルトエキスの添加量は、飲料中の果汁の種類や含量によって適宜調整することが可能であるが、具体的には果汁1%に対するモルトエキスの添加量が、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002質量%以上、好ましくは0.003質量%以上となるように添加することが好ましい。例えば、果汁30%の果汁含有飲料であれば、果汁含有飲料中に色価E(10%/1cm)=20のモルトエキスを0.06質量%以上添加する、もしくはモルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合の添加量が0.06質量%以上となるように、各種色価を有するモルトエキスを添加することが好ましい。果汁1%に対するモルトエキスの添加量が0.002質量%未満となると、果汁含量によっては果汁の沈殿抑制効果が不十分となる場合がある。
【0017】
なお、本発明ではモルトエキスの添加量の指標として、モルトエキスの色濃度を示す「色価」を用いた。本発明において、色価E(10%/1cm)とは、モルトエキスを溶解した溶液を1cmのセルに入れて吸光度を測定した際の500nmの波長における値(吸光度)を、10w/v%溶液の吸光度に換算した数値を示す。
例えば、色価E(10%/1cm)=20とは、モルトエキスを溶解した10w/v%溶液を1cmのセルに入れて吸光度を測定した際の波長500nmにおける吸光度が20を示すもの、若しくはモルトエキスを溶解した溶液の波長500nmにおける吸光度を測定し、当該測定溶液の希釈倍率を乗じた値の1/10の値が20となるものをいう。
なお、色価の指標である吸光度は溶液の濃度に比例するため、使用するモルトエキスの色価を測定することにより、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合のモルトエキスの添加量を算出することができる。例えば、色価E(10%/1cm)=50であるモルトエキスを使用する際は、使用添加量に色価の比率2.5(色価50/20)を乗じることにより、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合のモルトエキスの添加量を算出できる。
【0018】
モルトエキス添加量の上限値は特に限定されないが、モルトエキスの色調や風味が果汁含有飲料へ与える影響を考慮すると、好ましくは果汁1%に対し、0.15質量%を例示することができる(モルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合の添加量である)。
【0019】
また、本発明で使用するモルトエキスの添加量として、例えば果汁が10%未満の果汁含有飲料では、0.0002〜1.2質量%、果汁が10%以上の果汁含有飲料では0.02〜15質量%を好適な添加量として挙げることもできる(モルトエキスの添加量は、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合の添加量である)。
【0020】
本発明はまた、果汁及びモルトエキスを含有し、果汁1%に対するモルトエキスの添加量が色価(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002〜0.15%質量、好ましくは0.003〜0.15質量%、更に好ましくは0.01〜0.15%質量含有する、果汁含有飲料を提供する。
【0021】
もしくは本発明は、モルトエキスを0.0002〜1.2質量%含有する果汁含量が0.1%以上10%未満である果汁含有飲料、及びモルトエキスを0.02〜15質量%含有する果汁含量が10%以上である果汁含有飲料を提供する(モルトエキスの添加量は、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合の添加量である)。
【0022】
本発明でいう果汁含有飲料は上記に例示したような各種果汁が含まれた飲料であれば特に限定されない。具体的には、果汁入り清涼飲料(スポーツ飲料、炭酸飲料、栄養飲料)、果汁入り乳飲料、果汁入り嗜好飲料(紅茶、コーヒー、ココア)、果実入り飲料、果実ジュース、果汁入りニアウォーター、果汁入りアルコール飲料等を例示することができる。果汁の飲料中の配合割合としては、果汁の沈殿が問題となる量であれば特に制限はないが、果汁がごく少量(例えば0.1%)でも入ると沈殿の原因となる可能性があるため、果汁の沈殿が課題とされる飲料に広く適用可能である。中でも、果汁含量が10%以上100%未満である果汁含有飲料(JAS法で定義されている果汁入り飲料中の果汁含量)では特に、果汁の沈殿発生が問題となる。しかし、本発明ではかかる高い果汁含量を有する飲料であっても、製造時や保存時における沈殿の発生を顕著に抑制することができる。なお、本発明でいう果汁含有飲料には、希釈飲料(家庭飲料用の希釈飲料、自動販売機内の希釈飲料)も含み、果汁の上限は特になく、果汁を100%含有する飲料であっても本発明の効果を発揮する。
【0023】
本発明の果汁含有飲料は、モルトエキスを添加する以外は従来公知の果汁含有飲料の製造方法に沿って製造することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下に、実験例及び実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0025】
調製例1:試験溶液の調製
果汁の沈殿抑制効果を試験するために、試験溶液(果汁30%、60%、80%及び100%含有溶液)を調製した。詳細には、果糖ブドウ糖液糖(Brix.75)800gにクエン酸10gを添加し、イオン交換水にて2500mlに全量調整して、2倍コンクシロップ(糖溶液)を調製した。用意した各々の容器に5倍濃縮果汁(コンコード(ブドウ)5倍濃縮、清澄果汁)を42g、84g、112g及び140g量りとり、調製した2倍コンクシロップ350mlを添加後、水にて全量を700mlに補正した。次いでクエン酸、クエン酸三ナトリウムにてpHを3.0に調整し、果汁30%、60%、80%及び100%含有溶液を調製した。なお、実験に供するため、果汁30%含有試験溶液は複数調製した。
【0026】
実験例1:果汁含有飲料の調製(1)
調製例1で調製した果汁30%試験溶液に、モルトエキス注1)を0.5質量%添加し、93℃達温によりホットパック充填し、殺菌、冷却して果汁含有飲料を調製した。調製した果汁含有飲料を冷蔵(5℃)、常温(25℃)、高温(38℃)にて1週間並びに2ヶ月保存後、果汁の沈殿について評価した。沈殿は目視で確認し、沈殿が多いものから+++>++>+>−の4段階で評価した。結果を表1に示す。また、果汁含有飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の状態を確認した。結果を図1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
注1)製品名:モルトブラウンHQ*:色価E(10%/1cm)=20のモルトエキスを使用
【0029】
表1の比較例1から、清澄果汁を使用した場合であっても、1週間や2ヶ月間の保存時において沈殿が発生し、特に5℃や25℃の低温条件下で沈殿が増大した。しかし、かかる果汁含有飲料にモルトエキスを添加することにより、低温での長期保存下であっても、顕著に沈殿の発生を抑制し、商品価値の高い果汁含有飲料が得られた(実施例1)。沈殿抑制効果は図1からも明らかであり、モルトエキス無添加区の果汁含有飲料をろ過した後のろ紙に多量の果汁の沈殿物が残っていたが、モルトエキス添加区の果汁含有飲料は、ろ紙に果汁の沈殿物が残存することなく、顕著に果汁の沈殿が抑制されていた。なお、モルトエキス添加区のろ紙は薄い茶色に着色されているが、これはモルトエキスに由来するものであり、目視で確認しても沈殿はろ紙上に残っていなかった。
【0030】
実験例2:果汁含有飲料の調製(2)
実施例1で使用したモルトエキスと色価の異なるモルトエキスを用いて果汁含有飲料を調製した。詳細には、調製例1で調製した果汁30%試験溶液に、モルトエキス注2)を0.2質量%添加し、93℃達温によりホットパック充填し、殺菌、冷却して果汁含有飲料を調製した。調製した果汁含有飲料を冷蔵(5℃)、常温(25℃)、高温(38℃)にて1週間保存後、果汁の沈殿について目視で評価した。結果を表2に示す。なお、評価は実験例1の評価基準に準じて行った。
【0031】
【表2】

【0032】
注2)製品名:モルトブラウンパウダー*:色価E(10%/1cm)=50のモルトエキスを使用、色価20に換算した場合の実施例2のモルトエキスの添加量が0.5質量%となるように添加した。
【0033】
実験例1と同様にして、モルトエキスを添加することにより、果汁含有飲料の沈殿を顕著に抑制することができた。
【0034】
実験例3:果汁含有飲料の調製(3)
果汁に対するモルトエキスの添加量を検討するため、以下の実験を行った。調製例1で調製した果汁30%試験溶液に対し、表3に示すモルトエキスを添加し、93℃達温によりホットパック充填し、殺菌、冷却して各種果汁含有飲料を調製した。調製した果汁含有飲料を冷蔵(5℃)にて1週間保存後、果汁の沈殿について評価した。沈殿は目視で確認し、沈殿が多いものから+++>++>+>−の4段階で評価した。結果を表3に示す。また、果汁含有飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の状態を確認した。結果を図2に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表3及び図2より、モルトエキス0.1質量%添加区より果汁の沈殿抑制効果が見られた。
【0037】
実験例4:果汁含有飲料の調製(4)
果汁含量が高い飲料に対するモルトエキス添加の効果を見るため、以下の実験を行った。調製例1で調製した60%、80%及び100%の果汁含有試験溶液に対し、モルトエキスを各々1質量%、1.33質量%及び1.67質量%添加し、93℃達温によりホットパック充填し、殺菌、冷却して果汁含有飲料を調製した(果汁1%に対し、モルトエキスの添加量が0.0167%となるよう添加した)。調製した果汁含有飲料を冷蔵(5℃)にて1週間保存後、果汁の沈殿について評価した。沈殿は目視で確認し、沈殿が多いものから+++++>++++>+++>++>+>−の6段階で評価した。結果を表4に示す。また、実施例5〜7及び比較例4〜6の果汁含有飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の状態を確認した。結果を図3に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4及び図3より、果汁含量が高くなるにつれ、沈殿量が増大したが、かかる果汁含有量であっても、モルトエキスを添加することにより顕著に果汁の沈殿が抑制された。このように、モルトエキスを用いることにより、果汁が60〜100%といった高い果汁含量を有する果汁含有飲料であっても、顕著に果汁の沈殿を抑制できることが分かる。
【0040】
実験例5:果汁含有飲料の調製(5)
モルトエキスの中の一成分である麦芽糖を用いて果汁の沈殿抑制効果を確認した。詳細には、調製例1で調製した果汁30%試験溶液に麦芽糖を0.2質量%添加し、93℃達温によりホットパック充填し、殺菌、冷却して果汁含有飲料を調製した。調製した果汁含有飲料を冷蔵(5℃)、常温(25℃)、高温(38℃)にて1週間保存後、果汁の沈殿について評価した。沈殿は目視で確認し、沈殿が多いものから+++>++>+>−の4段階で評価した。結果を表5に示す。また、果汁含有飲料をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過し、ろ紙に残った沈殿の状態を確認した。結果を図4に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5及び図4より、モルトエキスに含まれる麦芽糖を使用した場合であっても、果汁の沈殿を抑制することはできなかった。
【0043】
実施例8 果汁含有炭酸飲料
下記表6に従って果汁入り炭酸飲料を調製した。水に砂糖、レモン果汁、ライム果汁及びモルトエキスを加え、攪拌溶解後、水で全量が20Lとなるように補正し、70℃で20分間加熱殺菌後、冷却してシロップ(糖溶液)を調製した。当該シロップ20部と炭酸水80部を容器に充填し、果汁含有炭酸飲料を調製した。調製した果汁含有炭酸飲料は、製造時及び5℃で5ヶ月間保存後も果汁の沈殿が顕著に抑制された果汁含有飲料であった。
【0044】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、果汁含有飲料といった果汁含有飲食品の製造時や保存時に生じる沈殿の発生を抑制することが可能である。また、本発明によれば、製造時や保存時、特には5℃以下といったといった低温条件で長期間保存された場合であっても、沈殿の発生が顕著に抑制された果汁含有飲料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルトエキスを添加することを特徴とする、果汁含有飲食品中での果汁の沈殿抑制方法。
【請求項2】
果汁1%に対するモルトエキスの添加量が、色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002質量%以上である、請求項1に記載の果汁の沈殿抑制方法。
【請求項3】
果汁及びモルトエキスを含有し、果汁1%に対するモルトエキスの添加量が色価E(10%/1cm)=20に設定した場合、0.002〜0.15質量%である、果汁含有飲料。
【請求項4】
果汁含量が10%以上である、請求項3に記載の果汁含有飲料。
【請求項5】
モルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合、モルトエキスを0.0002〜1.2質量%含有する、果汁含量が0.1%以上10%未満である果汁含有飲料。
【請求項6】
モルトエキスの色価をE(10%/1cm)=20に設定した場合、モルトエキスを0.02〜15質量%含有する、果汁含量が10%以上である果汁含有飲料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−279318(P2010−279318A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136993(P2009−136993)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】