説明

果皮粉砕物による苦味を付与した容器詰め果汁飲料

【課題】柑橘系の果汁或いはその他の果汁に、飲用後に持続して苦味を感じる“後苦味”を安定的に付与して、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな果汁飲料を提供すること。
【解決手段】果汁に、苦味付与成分として、柑橘類の果皮を粉砕物の形で配合することにより、果汁飲料を容器詰め果汁飲料として加工した後でも、飲用後に持続して苦味を感じる“後苦味”を安定的に保持し、その苦味を果汁に有効に付与することが可能であり、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな果汁飲料を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、柑橘類の果皮粉砕物を、苦味付与成分として果汁に配合し、優れた後苦味を保持する容器詰め果汁飲料及びその製造方法に関する。
【0002】
一般的に、飲食品においては、「苦味」は好ましくない味質としてとらえられており、飲食品の製造に際しては、「苦味」を有する飲食品成分の除去や軽減を図るための多くの技術が開示されている。例えば、果汁や野菜汁、或いは茶抽出物からなる飲料で、その苦味、渋味、収斂味を改善するために水溶性酸性多糖類を添加する方法が開示されている(特開2003−116496号公報)。しかし、一方では、ある飲食品においては、ほのかな「苦味」が、香味のインパクトとして重要な意味を持つものもあり、これらの苦味を利用しようとすることも知られている。例えば、グレープフルーツ、レモン或いはゆずなどの柑橘類のもつ苦味や香味を、種々の食品の香味付けに利用することもその一つである。
【0003】
苦味成分を飲食品等の製造に際して積極的に用いようとする技術も開示されている。例えば、特開2004−357596号公報には、清涼飲料の製造に際して、苦味剤として、カフェイン、ニガヨモギ抽出物、カッシア抽出物或いはゲンチアナ抽出物を添加することが開示されている。また、特開平6−287591号公報には、柑橘類のジュース及び果皮に特有な苦味成分である2−(4−メトキシフェニル)エタノールを、果汁飲料類や果実酒類のような各種飲料、冷菓類や菓子類、或いは嗜好品類のような各種食品類、又は、洗剤、芳香剤、保険・衛生・医薬品類等の各種製剤に配合する香気香味成分として用いることについて開示されている。しかしながら、従来知られている苦味材料で、果汁飲料等に用いて、果汁に調和したほのかな「苦味」を効果的に付与する苦味材料は知られていない。
【0004】
他方で、柑橘類の果皮は、種々の用途に利用されている。例えば、特開2005−198642号公報には、柑橘類の果皮を原材料とした、血圧調整、貧血防止、及び動脈硬化防止作用を目的とした液状飲用物が開示されている。また、特開平11−178537号公報には、柑橘類の破砕物或いは果皮を植物組織崩壊酵素溶液で処理した後、濾過したものを柑橘フレーバー剤として用いることが開示されている。これらは、いずれも活性成分やフレーバー成分を濾過や抽出によって、調製した形態で利用されているものである。
【0005】
また、特開2002−300866号公報には、果皮を含む柑橘類の全果を摩砕し、75〜250μmの粒度画分の割合が50W/W%以上である摩砕物を含む果実飲料を製造することについて記載されており、香味良好で、果実本来が持つ栄養成分の豊富な果実飲料を製造することについて開示されている。しかし、この技術は、果実を細かくすりつぶすことによって、コク味のある果実飲料を製造することを狙ったもので、飲料に苦味付与を行なうことを目的とするものではない。したがって、従来、柑橘類の果皮は、種々の用途に利用されているが、果皮自体を飲料等の苦味付与に用いることはなされていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平6−287591号公報。
【特許文献2】特開平11−178537号公報。
【特許文献3】特開2002−300866号公報。
【特許文献4】特開2003−116496号公報。
【特許文献5】特開2004−357596号公報。
【特許文献6】特開2005−198642号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
柑橘類の果汁は、ほのかな「苦味」を有する爽やかな香味の果汁として知られ、清涼飲料の原料として従来から用いられている。しかし、柑橘類の果汁を清涼飲料に加工し、容器詰め果汁飲料等にした段階で、その特徴ある苦味のうち、飲用後に持続して感じる苦味(以降、後苦味とよぶ)の部分が感じにくくなっており、そのほのかな「苦味」を生かした香味的に豊かな果汁飲料とする点では十分満足がいくものではなかった。その理由は使用する果汁分が少なく、また、苦味成分の持続効果が小さいことで、その後苦味不足を感じることによるものであった。そのため、この香味を改良するために、通常、香料や苦味料等を添加することで対応してきたが、これらの問題を完全に解決するまでには至らなかった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、柑橘系の果汁或いはその他の果汁に、飲用後に持続して苦味を感じる“後苦味”を安定的に付与して、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな果汁飲料を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、果汁に、苦味付与成分として、柑橘類の果皮を粉砕物の形で配合することにより、果汁飲料を容器詰め果汁飲料として加工した後でも、飲用後に持続して苦味を感じる“後苦味”を安定的に保持し、その苦味を果汁に有効に付与することが可能であり、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな果汁飲料を製造することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明において、柑橘類の果皮粉砕物は、“後苦味”を安定的に保持し、ほのかな「苦味」成分として果汁にマイルドな苦味を付与するために、0.5〜10mm角の粉砕物を主要画分とする果皮粉砕物の形で配合することが好ましい。用いる柑橘類の果皮としては、グレープフルーツ又はレモンが特に好ましい。本発明の柑橘類の果皮粉砕物からなる苦味付与成分の配合により、優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料を製造することができる。
【0011】
すなわち具体的には本発明は、(1)果汁に、苦味付与成分として柑橘類の果皮粉砕物を配合したことを特徴とする優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料の製造方法や、(2)柑橘類の果皮粉砕物が、0.5〜10mm角の粉砕物を主要画分とする果皮粉砕物であることを特徴とする上記(1)記載の容器詰め果汁飲料の製造方法や、(3)柑橘類が、グレープフルーツ又はレモンであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の容器詰め果汁飲料の製造方法や、(4)上記(1)〜(3)のいずれか記載の容器詰め果汁飲料の製造方法によって製造された優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、柑橘系の果汁或いはその他の果汁に、飲用後に持続して苦味を感じる“後苦味”を安定的に付与して、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな果汁飲料を提供することができる。本発明の後苦味を付与した果汁飲料は、果汁飲料を容器詰め果汁飲料として加工した後でも、後苦味を安定的に保持し、果汁飲料に有効な「苦味」を付与することが可能であり、ほのかな「苦味」を生かした香味豊かな容器詰め果汁飲料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、果汁に、苦味付与成分として柑橘類の果皮粉砕物を配合することにより、優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料を製造することからなる。
【0014】
(対象とする果汁飲料)
本発明で対象とする果汁飲料としては、果汁を含む飲料であれば特に限定されない。果汁飲料としては、例えば、オレンジ、レモン、グループフルーツ、ゆず、ライム、夏みかん等の柑橘類の果汁飲料;もも、ぶどう、りんご等の果汁飲料を挙げることができる。また、果汁飲料の果汁の種類としては、ストレート或いは、濃縮果汁でもよく、透明或いは混濁のいずれの果汁でもよい。果汁配合量としては、1重量%〜100重量%であればよく、ほのかな「苦味」を生かす面では1重量%〜30重量%が好ましく、特に1重量%〜10重量%が最も好ましい。
【0015】
(配合原料)
本発明の果汁飲料の調製に際しては、果汁飲料の調製に通常配合される原料を配合することができる。例えば、異性化糖、砂糖、果糖などの糖類や、アセスルファムK、スクラロース、アスパルテームなどの高甘味度甘味料、クエン酸、りんご酸などの酸味料、香料、着色料、炭酸ガス、場合によってはアルコール(チューハイ)を配合することができる。
【0016】
(添加する果皮粉砕物)
本発明においては、柑橘類の果皮の粉砕物が添加される。柑橘類としては、特に限定されないが、爽やかな苦味を付与するという面からは、グレープフルーツやレモンが好ましく、特にレモンが好ましい。柑橘類の果皮の粉砕物の大きさとしては、その主要画分が0.5〜10mm角の粉砕物とすることが好ましく、特に、1〜3mm角とすることが好ましい。
【0017】
(果皮の粉砕)
本発明において用いる柑橘類の果皮の粉砕は、例えば、次のようにして行なうことができる:果実から果皮を剥き、洗浄する。その果皮のみを破砕する。破砕方法は通常のものでよく、具体的には通常用いられるハンマーミル、カッターミル、高速回転衝撃式粉砕機、チョッパーコロイドミルなどの粉砕機が使用できる。粉砕の際には、アルベドと呼ばれる果皮の内側の白い部分の厚さを1mm以下、好ましくは0.5mm以下にする方が、飲料の製造において果皮の形態が維持されるので望ましい。
【0018】
(果皮の粉砕物の配合量)
本発明において、果汁飲料への果皮粉砕物の配合量は、0.01〜10重量%が好ましく、ほのかな「苦味」を付与するための果汁飲料への果皮粉砕物の配合量としては、0.1〜1重量%が特に好ましい。配合する際には、粉砕物をそのまま添加すればよいが、一旦ハチミツなどのシロップ類に浸漬してから添加してもよい。
【0019】
(果汁飲料の製造)
柑橘類の果皮の粉砕物を添加する点を除いて、本発明において、果汁飲料の製造は、通常の果汁(酸性)飲料の製造方法に従って行われる(「最新ソフトドリンクス」株式会社光琳参照)。果皮粉砕物は、他の原料と調合段階で混合するか、或いは、調合液を充填する前又は後に、別途容器に充填してもよい。果皮は崩れやすいので、ポンプや撹拌条件を、調整する必要がある。
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
[果皮粉砕物の調製]
本発明の実施例において、次のようにして果皮粉砕物を調製した:レモンの果皮から果肉や種部分を除いたあと、チョッパーコロイドミルを用いて粉砕した。該方法で調製されたレモン果皮粉砕物の大きさは、その主要画分が1〜2mm角の粉砕物であった。また、同様にして、グループフルーツの果皮粉砕物を調製した。その大きさは、その主要画分が1〜3mm角の粉砕物であった。このときいずれのアルベドの厚さも平均して0.5mm程度であった。これらの果皮粉砕物を使用して、以下の実施例の飲料を調製した。
【0022】
[実施例1;比較例1]
表1の原料を混合して調合液を調製した。これを90℃で30秒殺菌して、PET容器にホットパック充填した。比較例として、レモン果皮を除いたものを同様に調製した。
【0023】
【表1】

【0024】
<評価>
実施例と比較例の試作品を熟練したパネリストにより官能評価した。その結果、実施例品は比較例品に比べて飲用後に感じる苦味が長く続き、香味的に大変優れたものであった。
【0025】
[実施例2−3]
表2に示す配合で実施例2の果汁飲料を、表3に示す配合で実施例3の果汁飲料を、実施例1の方法に従って調製した。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
<評価>
実施例1と同様に、試作品を熟練したパネリストにより官能評価した。その結果、いずれも後苦味がよく、非常に香味が優れた飲料であった。
【0029】
[実施例4]
実施例1の方法に従って、表4に示す配合で、実施例4の炭酸果汁飲料を調製した。
【0030】
【表4】

【0031】
<評価>
実施例1と同様に、試作品を熟練したパネリストにより官能評価した。その結果、いずれも後苦味がよく、非常に香味が優れた飲料であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
果汁に、苦味付与成分として柑橘類の果皮粉砕物を配合したことを特徴とする優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料の製造方法。
【請求項2】
柑橘類の果皮粉砕物が、0.5〜10mm角の粉砕物を主要画分とする果皮粉砕物であることを特徴とする請求項1記載の容器詰め果汁飲料の製造方法。
【請求項3】
柑橘類が、グレープフルーツ又はレモンであることを特徴とする請求項1又は2記載の容器詰め果汁飲料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の容器詰め果汁飲料の製造方法によって製造された優れた後苦味を有する容器詰め果汁飲料。