説明

枝打レシプロソー

【課題】 枝打ち作業にいわゆる「動力式レシプロソー」を用いる場合、しなりやすい枝の場合、鋸刃の前後動に枝のたわみが同調して切断不可能になる場合がある。しかし従来これを効果的に防止することができなかった。
【解決手段】 往復動体を具備する工具本体と、該往復動体に後端側が固定された鋸刃により構成されるレシプロソーであって、該鋸刃の刃面に接触せずこれと平行して配置される支承部材が工具本体に可回動に設けられており、該支承部材は、該鋸刃の歯と対向する側に枝支承部を有し、また該支承部材の回動は、バネ部材によって該支承部材の背から枝支承部に向かう方向に付勢されており、且つこの付勢力に抗して該支承部材の枝支承部から背に向かう方向に該支承部材を回動させるためのハンドル部材が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枝打ち作業に適したレシプロソーの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
果樹・庭木などの枝打ち作業用として、鋸刃が工具本体に対して往復動することで木材等の切断を行なういわゆる「動力式レシプロソー」が用いられることがある。手挽き式のものに比して労力が少なくて済み、切断に要する時間も短くなるため今時その需要は増しつつある。
【0003】
この枝打ち作業は、製材された木材を切断する通常の鋸挽き作業とは異なり、作業台というものがなくしかも切断対象が「枝」であって太さも様々である。従って、単にレシプロソーの鋸歯を枝に当てただけでは、例えば柔軟な小枝の切断作業の場合、鋸刃の前後動に枝のたわみが同調してしまって切断不能となることがある。
【0004】
そこで通常は、レシプロソーを利き手で持った状態で、他方の手で切断対象である枝を掴み、枝が同調しないようにして鋸刃を駆動させる。しかし枝を掴む位置が鋸刃から離れていては同調阻止効果は小さくなるし、動力によって前後動する鋸刃の近くを掴むことは危険である。
【0005】
この枝打ち時の同調動作を、手を添えるという方法以外で阻止する工夫も提案されている。例えば特開2000−236747公報では、高い所の枝を切り落とすために使用される枝切断具及びこの切断具を備えた往復動枝切断機として、枝を引っかけることができるフックを具備することで枝を保持するという発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−236747公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところがこのフック構造の切断具の場合、枝に対して鋸刃とフック主体部とはどちらも同じ側にあり、枝を鋸刃の反対側から支持する可能性があるのはフックの先端部のみである。一方、鋸刃往復動において実際に切断するのは通常「引き動作」の時である。
即ち、柔軟で容易にたわむ小枝を一般的なレシプロソーで切断する場合、当該小枝は手前側に引かれる傾向にあると言える。
【0008】
しかるにこのフック構造の切断具の場合、フック先端の構造は、小枝が離れるのを規制するのには適しているが、小枝が手前に移動するのを防止する効果はほとんどない。
従って、この切断具を用いて枝打ち作業をする場合には、フック先端で枝を捕捉したらこの枝を手前側に出来るだけたわませた状態、即ち枝が自身の復元力によってフック内面の刃側に付勢されるようにした状態で、鋸刃を駆動させる必要がある。
当然このような作業は、枝に不必要な負荷をかけることになるし、場合によっては思いもしない箇所で枝が折れてしまい、収穫に支障を来してしまうということにもなりかねない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、この点に鑑み鋭意研究の結果遂に本発明を成したものであり、その特徴とするところは、往復動体を具備する工具本体と、該往復動体に後端側が固定された鋸刃により構成されるレシプロソーであって、該鋸刃の刃面に接触せずこれと平行して配置される支承部材が工具本体に可回動に設けられており、該支承部材は、該鋸刃の歯と対向する側に枝支承部を有し、また該支承部材の回動は、バネ部材によって該支承部材の背から枝支承部に向かう方向に付勢されており、且つこの付勢力に抗して該支承部材の枝支承部から背に向かう方向に該支承部材を回動させるためのハンドル部材が設けられている点にある。
【0010】
即ち本発明の最大の特徴は、支承部材の存在とその機能にあり、切断対象の枝を鋸刃と支承部材で挟むようにして掴み、その後鋸刃を駆動させて切断するものである。支承部材の切断対象(枝)に接当する部分を「枝支承部」と呼ぶ。枝支承部は、鋸刃による切断動作の際に、枝がずれることがないよう構成されるがその詳細については特に限定しないものとする。枝支承部の「ずれ防止」のための典型的な構造は歯構造である。歯構造とすることで、枝にジグザグ先端(歯)が食い込み、ズレが防止できる。
【0011】
歯以外の構造としては、紙ヤスリ状の粗面とする構造、枝支承部を凹湾させる構造、先端側に立ち上がり部を設ける構造、多数の溝を設ける構造、等が考えられる。
【0012】
切断対象(枝)は、鳥がクチバシでくわえるような形で保持されることになり、その時のクチバシの片方が鋸刃、他方が支承部材ということになる。クチバシを開閉する動作は支承部材が担当し、枝切断は、枝保持状態で鋸刃が前後動することで成される。なお切断時枝は、鋸刃によってその軸芯を中心に回転する方向の力を受けるが、枝の一端は樹木幹と一体となっているので大きく回転することはなく円滑に作業できる。
【0013】
支承部材は可回動であって、その回動の中心は工具本体側にある(即ち、往復動体や鋸刃といったレシプロ運動をしない部分側にある)。そして支承部材の刃面は鋸刃の刃面と接触せず平行に配置されるので、回動しても鋸刃との距離は変わらない。また支承部材の歯は鋸刃の歯と対向するように設けられている。
【0014】
支承部材の回動は、バネ部材によってその背から枝支承部に向かう方向に常時付勢されている。このバネ部材は、一端は支承部材に、他端は工具本体側に固定される。支承部材の回動軸位置から離れた位置にバネ部材を固定した方が大きな付勢力を得るには効率的であるので、支承部材の後端側に折曲部分を設けそこに固定すると好適である。また、支承部材の回動域は、45度程度あれば十分であるので、回動を規制するようにしても良い。規制のための機構は特に限定するものではないが、工具本体が元来有している部材を利用するなどして簡単にストッパーを設けることができる。
【0015】
枝切断に際してはまず枝把持のため、バネ部材のバネ力に抗する方向に力を加え、支承部材を開いてやる必要がある。本発明においてはこれを手動で行なうものとし、支承部材に設けたハンドル部材で行なう。ハンドル部材の取り付け位置によって、押して開く場合と引いて開く場合とがある。いずれにせよ一旦枝を保持した後は、切断完了までこれを把持し続けることになる。
【0016】
また支承部材は、鋸刃の両側に設けるようにすると安定的に枝の保持が図れるが、片側のみに設けるようにしても良い。また、支承部材、バネ部材、ハンドル部材等を、工具本体に着脱自在にしておけば、これを外しておくことで枝打ち以外の目的でレシプロソーを使用することもできるし、市販のレシプロソーを簡単に枝打ち用に変えることもできて便利である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る枝打レシプロソーは、以下述べる如き効果を有する極めて高度な発明である。
(1) 枝をくわえるように挟んでから鋸挽きするので、枝を下から支えることになり、枝に負荷を与えることなく確実に切断作業を行うことができる。
(2) 従来のレシプロソーをそのまま利用し、これに支承部材等を着脱自在に取り付けるようにすれば、通常使用、枝打ち作業いずれにも対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る枝打レシプロソーの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る枝打レシプロソーの一例を示す側面図である。
【図3】本発明に係る枝打レシプロソーの一例の部品分解側面図である。
【図4】本発明に係る枝打レシプロソーの一例を用いて実際に枝を切断しようとしている状態を示す概略側面図である。
【図5】(a)乃至(d)はいずれも、本発明に係る枝打レシプロソーの枝支承部についての他の例を示す部分側面図である。
【図6】本発明に係る枝打レシプロソーの他の例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1乃至図3は、本発明に係る枝打レシプロソー1(以下「本発明レシプロソー1」という)の一例を示すものであり、図1は斜視図、図2は側面図、図3は部品分解側面図である。これらの図より明らかなように、本例の本発明レシプロソー1は、交流電源による電動鋸であり、工具本体2と鋸刃3とにより構成される通常のレシプロソーに、一対の支承部材4・4、同じく一対のコイルバネ5・5、ハンドル部材6を付帯させた構造のものである。工具本体2は、従来品をそのまま利用しており、採番はしないが、電源コード、モータ、スイッチ類、グリップ部、等々を具備している。
【0020】
また鋸刃3は、工具本体2に設けられた往復動体21に着脱自在に取設されており、折曲させた鋼線より成るガイドアーム22が形成する隙間に嵌り込んだ状態で前後動する。このガイドアーム22は本来、切削作業時に鋸刃が木材内に入り込み過ぎて往復動体21が木材表面を打撃し損傷させてしまうのを防止することを目的に工具本体2に取設される部材である。
【0021】
本例の本発明レシプロソー1においては、二枚の支承部材4・4をまず二本のスペーサーリベット41と一本の回動軸リベット42で一体化し、この回動軸リベット42をガイドアーム22の下端部上面に嵌め込んで後、ボルト43で固定するという順序で取り付けている。
【0022】
支承部材4と鋸刃3の歯列とで枝を挟むように把持するわけであるが、この把持を確実にするため、支承部材4の枝側部には枝支承部としてジグザグ歯44が刻設されている。また、支承部材4の手元側はこのジグザグ歯44の歯列とほぼ直交する形でL字状に折曲しており、この折曲部分にバネ取設リベット45が設けられ、先端近傍にはハンドル部材6が取り付けられている。バネ取設リベット45を取り付けた後にその両端それぞれに、コイルバネ5の一端を係止し、その他端側は工具本体2側に係止する。
このように本例ではこのガイドアーム22を利用して、支承部材4、コイルバネ5等を取り付けているが、これ以外の取り付け方を採用しても良い(図示省略)。
【0023】
またこれら支承部材4、コイルバネ5等の部材は、逆の順序で簡単に取り外すこともできる。従って普段は通常の鋸として使用しながら、枝打ち作業時には上記部材を付帯させて枝打ち専用鋸として用いることができる。但し、取り付けに際しては工具本体の構造・形状を利用するものであるため汎用性が高いとは言えないので、レシプロソー毎にデザインされたものが必要となる可能性がある。
【0024】
支承部材4は、回動軸リベット42位置を中心に可回動となっている。そしてこの回動域θは、バネ取設リベット45が、ガイドアーム22の内部を移動できる部分に相当し、支承部材4のジグザグ歯44の歯列がp位置とq位置の間で回動可能である。またコイルバネ5は、支承部材4をq位置からp位置に向かう方向に常時付勢することになるので、外力を受けていない状態で支承部材4はその歯列がp位置にある図の状態となる。なおこの回動域θの設定は、バネ取設リベット45の取り付け位置の設計を変更することによって、ある程度可能である。
【0025】
図4は、本発明レシプロソー1を用いて枝Bを切断しようとしている状態を示すものである。切断に際しては、工具本体2を片手で把持したまま、他方の手でハンドル部材6を前方(図の矢印方向)に押して支承部材4を広げてやる。適当な位置でハンドル部材6から手を離し枝Bを把持する(本図は、支承部材4を最も開いた状態、即ちq位置で枝Bを把持した状態を描出しているが、最大位置まで開く必要はない)。そして往復動体21を駆動させれば、鋸刃3は前後動を開始し枝切断となる。
【0026】
次に図5(a)乃至(d)は、支承部材4の枝支承部構造についての他の例を示すものである。これまで図示してきたジグザグ歯44の代わりに、紙ヤスリのような粗面46としたもの〔同図(a)〕、凹湾部分47を設けたもの〔同図(b)〕、先端付近に突起48を設けたもの〔同図(c)〕、凹凸溝49を設けたもの〔同図(d)〕、としても把持機能を発揮する。
ジグザグ歯44の場合には、歯が枝表面に刺さり食い込むことで枝がズレることを阻止するわけであり、また歯列のどの部分に枝Bがあっても十分な効果があるのに比して、同図(a)(d)の場合にはズレ防止能力がやや欠けるという欠点、同図(b)(c)の場合には枝をどこで把持しても良いわけではないという欠点、更に同図(c)の場合には切断作業が進むにつれて突起48が鋸刃3の歯列を越える可能性があるため破損してしまう危険性がある、といった問題はある。しかし本発明者が実験した範囲では、いずれの構造であっても枝を把持し続けることができる。
【0027】
なおここまで、支承部材4を鋸刃3の両側に刃位置した二枚構造のもので本発明を説明してきた。しかし本発明はこれに限定するものではなく、鋸刃3の片側に一枚だけ設けるタイプのものでも十分効果を発揮する(図示省略)。
【0028】
最後に図6は、枝打ち対象となる枝が離れている場合用のレシプロソー(通常、高枝用と呼ばれるもの)を用いる場合の本発明の一例を示すものである。この種のレシプロソーの場合、鋸刃駆動スイッチ23は手元ハンドル24位置にあるものの鋸刃位置自体は離れているので、支承部材4の回動を前述の構造では行ない難い。そこで図の如く、支承部材4の手元側のL字状の折曲をこれまで図示してきたものとは逆側にも設けてT字状とし、該逆側部分に遠隔操作ワイヤ61の一端を取り付け、手元のレバー62でこの遠隔操作ワイヤ61を引き、支承部材4を開くようにしている。本例の遠隔操作ワイヤ61やレバー62は、自転車のブレーキ用ワイヤー周辺構造と同様のものであるが、これに限定するものではない。
【符号の説明】
【0029】
1 本発明に係る枝打レシプロソー
2 工具本体
21 往復動体
22 ガイドアーム
23 鋸刃駆動スイッチ
24 手元ハンドル
3 鋸刃
4 支承部材
41 スペーサーリベット
42 回動軸リベット
43 ボルト
44 ジグザグ歯
45 バネ取設リベット
46 粗面
47 凹湾部分
48 突起
49 凹凸溝
5 コイルバネ
6 ハンドル部材
61 遠隔操作ワイヤ
62 レバー
B 枝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動体を具備する工具本体と、該往復動体に後端側が固定された鋸刃により構成されるレシプロソーであって、該鋸刃の刃面に接触せずこれと平行して配置される支承部材が工具本体に可回動に設けられており、該支承部材は、該鋸刃の歯と対向する側に枝支承部を有し、また該支承部材の回動は、バネ部材によって該支承部材の背から枝支承部に向かう方向に付勢されており、且つこの付勢力に抗して該支承部材の枝支承部から背に向かう方向に該支承部材を回動させるためのハンドル部材が設けられていることを特徴とする枝打レシプロソー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−85557(P2012−85557A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233558(P2010−233558)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(591043673)株式会社岡田金属工業所 (13)