説明

枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造及び補強工法

【目的】騒音や振動が発生せず、建物を利用しながら施工する補強工事が可能であり、短期間に低コストで施工でき、しかも、枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との密着度がより向上した枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造及び補強工法を提供する。
【構成】並立する既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁とで形成される空間に配設される枠付き鉄骨ブレースと、該枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との間に形成される空隙に配設される通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブと、を備えており、且つ該接合部押圧用チューブに充填する方法で該接合部押圧用チューブ内の残存空気を排出しながらモルタルを配設し、余剰水が排出されて硬化した前記モルタルにより前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行う構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造或いは鉄骨鉄筋コンクリート造の既存建物などの耐震補強として枠付き鉄骨ブレースを増設する、耐震補強構造及び補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存のコンクリート造建物の耐震強度を高める技術として、既存建物の柱及び梁に対して枠付き鉄骨ブレースを増設する工法が知られている(特許文献1、2及び非特許文献1参照)。
【0003】
既存の工法は、一般的に、既存建物の柱及び梁へのアンカーボルトの打設、スパイラル筋の敷設、型枠設置、モルタルの注入、モルタルの養生をまっての脱型枠などの工程により行われるが、枠付き鉄骨ブレースの具体的構成や、枠付き鉄骨ブレースを既存建物の柱及び梁に対してどのように取り付けるかの構成の点に違いがある。
【0004】
非特許文献1に示す従来工法では、図10に示すように、枠付き鉄骨ブレースを既存建物の柱及び梁に固定するのに、アンカーを利用している。
【0005】
特許文献3に記載の枠付き鉄骨ブレース増設工法では、既存の柱梁フレームとその面内へ組み入れた枠付き鉄骨ブレースとの各接触面の間を接着材で接着する工法が行われる。この工法は、上記特許文献1及び2、非特許文献1に記載の従来工法を施工する上で指摘されていた騒音や振動の発生を避けて「建物を利用しながらの補強工事」を可能にすると共に、工期の短縮を図り、コストの低減を可能ならしめることを課題としている。
【0006】
また、特許文献4に記載の工法では、図11に示すように、建物架構と鉄骨ブレースとの間に、グラウト材(モルタル)を充填して、このグラウト材によって両者間の応力の伝達が行われる技術も知られている。
【0007】
上記したように、従来の枠付き鉄骨ブレース増設による耐震補強工法では、既存建物の柱及び梁へのアンカーボルトの打設、スパイラル筋の敷設、型枠設置、モルタルの注入、モルタルの養生をまっての脱型枠などの工程を必要としているため、騒音や振動が伴い、また、粉塵の発生もあるので、建物を利用しながら施工する補強工事には不向きであったし、工期やコストの面にも改善すべき点があった。特許文献3に記載の工法は、コストが高く、また、専門職による施工が必要である、という難点があり、また、特許文献4に記載の工法は、型枠設置、モルタル養生、脱型などといった工程があり、工期が長くなるという問題を残している。
【0008】
アンカーにより枠付き鉄骨ブレースの枠体を固定する従来工法では、既存の柱梁のコンクリート強度が小さい場合、打設されたアンカーが所定の強度を発揮できなくなり、充分な耐震補強を行うことができない。更に、従来の工法では、アンカーを打設するためのスペースを確保するために、枠付き鉄骨ブレースの枠体のウエブ面を柱の内側面や梁の上下面に並行に配置する必要があるが、充填するモルタルの量が多くなると共に、H形鋼の強軸を柱梁フレームの構面と並行に配置することになるので、構面内耐力の小さい耐震壁として力学的にも不利なものとなってしまう、という難点がある。
【0009】
本発明者らは、上記した従来の課題を解決するために、間の空隙に、接合部押圧用チューブに充填する方法でモルタルを配設することで、硬化したモルタルにより前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行う構成によって、騒音や振動が発生せず、建物を利用しながら施工する補強工事が可能であり、短期間に低コストで施工できる枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造及び補強工法を先に提案した(特許文献5参照)。
【0010】
【特許文献1】特公昭62−31143号公報
【特許文献2】特公平7−51803号公報
【特許文献3】特開平11−71906号公報
【特許文献4】特開2000−303701号公報
【特許文献5】特開2004−211315 号公報
【非特許文献1】「2001年改定版 既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震改修設計指針・同解説」第179〜211頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、先提案技術について更に研究を続けた結果、補強強度向上のためには、枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との密着度を向上させることが重要であるが、この密着度の点で改良の余地があることが判った。
【0012】
そこで本発明の課題は、騒音や振動が発生せず、建物を利用しながら施工する補強工事が可能であり、短期間に低コストで施工でき、しかも、枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との密着度がより向上した枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造及び補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、下記構成を有する。
【0014】
1.並立する既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁とで形成される空間に配設される枠付き鉄骨ブレースと、該枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との間に形成される空隙に配設される通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブと、を備えており、且つ該接合部押圧用チューブに充填する方法で該接合部押圧用チューブ内の残存空気を排出しながらモルタルを配設し、余剰水が排出されて硬化した前記モルタルにより前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行う構成であることを特徴とする枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【0015】
2.接合部押圧用チューブが織布から形成されており、該織布の外面及び/又は内面が樹脂コーティングされていることを特徴とする上記1に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【0016】
3.接合部押圧用チューブの任意の箇所に、非通気性及び非通水性を有すると共に逆止弁が取付けられた充填用チューブ体を接続し、該充填用チューブ体からモルタルを注入して前記接合部押圧用チューブへのモルタル充填を行う構成であることを特徴とする上記1又は2に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【0017】
4.接合部押圧用チューブが、分割された複数の部材であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の耐震補強構造。
【0018】
5.接合部押圧用チューブが、連続した単一の部材であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の耐震補強構造。
【0019】
6.接合部押圧用チューブが、既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁との各接点である各隅角部に跨って配設される構成であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【0020】
7.既存コンクリート躯体と枠付き鉄骨ブレースの枠体との間に、連結補助機構が配置されていることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の耐震補強構造。
【0021】
8.並立する既存コンクリート柱と上下の梁とで形成される空間に枠付き鉄骨ブレースを配設し、次いで、この枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との間に形成される空隙に通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブを配設し、該接合部押圧用チューブ内の残存空気を排出させながら該接合部押圧用チューブ内にモルタルを圧力充填し、前記モルタル内の余剰水の排出及び該モルタルの硬化をまって前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行うことを特徴とする枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0022】
9.織布から形成され、該織布の外面及び/又は内面が樹脂コーティングされている構成の接合部押圧用チューブを用いることを特徴とする上記8に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0023】
10.接合部押圧用チューブの任意の箇所に接続されている非通気性及び非通水性を有すると共に逆止弁が取付けられた充填用チューブ体からモルタルを注入して前記接合部押圧用チューブへのモルタル充填が行われることを特徴とする上記8又は9に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0024】
11.モルタルの充填が、分割された複数の接合部押圧用チューブに対して行われることを特徴とする上記8〜10のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0025】
12.モルタルの充填が、連続した単一の部材である接合部押圧用チューブに対して行われることを特徴とする上記8〜10のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0026】
13.既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁との各接点である各隅角部に跨って接合部押圧用チューブが配設されることを特徴とする上記8〜12のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【0027】
14.既存コンクリート躯体と枠付き鉄骨ブレースの枠体との間に、連結補助機構が配置されていることを特徴とする上記8〜13のいずれかに記載の耐震補強工法。
【0028】
尚、本明細書において、モルタルとは狭義のモルタルに限らず、流動性があり乍ら硬化固形化する硬化性流動体又はその硬化固形体を意味する。
【発明の効果】
【0029】
請求項1又は8に示す発明によれば、既存のコンクリート造建築物の壁空間(並立する柱と上下の梁とで形成される空間)に配置する枠付き鉄骨ブレースを、接合部押圧用チューブ内に充填したモルタルによって保持させ、躯体からの応力の伝達が行われるので、既存躯体の耐震力の補強が可能であり、しかも、騒音や振動の発生を極力抑えて施工することができるので所謂「利用しながらの補強工事の施工」が可能であり、更に、既存柱梁の仕上げモルタル強度が十分であることが確認できれば、この仕上げモルタルを除去する必要がないので、「利用しながらの補強工事の施工」はより確実なものとなり、また工期短縮・コスト低減にも効果がある。
【0030】
工期短縮については、例えば、特許文献1及び2、非特許文献1に記載の従来工法が14日、特許文献3に記載の工法が10日、そして特許文献4に記載の工法が13日であるのに対し、本発明工法によれば8日で済むという工程日数の点において大巾な改善が見られ、顕著な効果がある。
【0031】
また、従来のように建物架構に多数のアンカー鉄筋を打設する必要がないので、補強骨組を建物架構に装着する際に騒音、振動、粉塵が発生することがなく、特に建物を使用しながら行う耐震改修に有利である。また、建物架構のコンクリート強度が小さい場合にも適用可能であり、建物架構を傷めることもないため、耐震補強を行う対象建物の拡大を図ることができる。
【0032】
更に、建物に水平外力が作用し、建物架構が変形した場合であっても、補強骨組と建物架構との一体性が確保され、応力伝達が確実になされる、という顕著な効果も発揮する。
【0033】
特に、接合部押圧用チューブとして、通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブを用いることにより、モルタル充填時の注入に伴って接合部押圧用チューブ内に残存している空気が該接合部押圧用チューブ表面から押し出されて排出されることにより、該接合部押圧用チューブにモルタルを空隙のない状態で充填することが可能となる。
【0034】
しかも、接合部押圧用チューブに充填したモルタルから該モルタルに含まれる水和反応に必要な水以外の余剰水が脱水されて該接合部押圧用チューブ表面から排出されて密実となるので、現場封かん養生に比して著しく強度発現が早くなり高強度となる。また、残存空気及びモルタル内の余剰水が排出された後は、モルタル粒子が接合部押圧用チューブの織布の織目に目詰まりすることで圧入力を確保することができる。
【0035】
従って、既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁との各接点である各隅角部まで隙間無くモルタルを充填させることができ、モルタルが充填した接合部押圧用チューブを前記隅角部に馴染むように密着させることが可能となる。
【0036】
請求項2又は9に示す発明によれば、織布の布目から残存空気と余剰水の排出を行うことができ、樹脂コーティングにより織布を補強することができる。特に、織布の外面に樹脂コーティングを施した態様では、滑り止めの作用により既存躯体と枠付き鉄骨ブレースとの一体性を高めることができる。
【0037】
請求項3又は10に示す発明によれば、接合部押圧用チューブへのモルタルの充填が容易となる。特に逆止弁によって注入したモルタルの逆流を防止することができるので、モルタルの所定の圧入力を確保することができると共に、接合部押圧用チューブ内へモルタルを空隙のない状態で充填することが容易となる。
【0038】
請求項4又は5、並びに11又は12に示す発明によれば、適用する既存躯体の状況、例えば、柱と柱との間隔(スパン)や柱・梁の太さ等の諸条件に応じて適した接合部押圧用チューブを用いることができる。
【0039】
請求項6又は13に示す発明によれば、補強骨組と建物架構との一体性の確保、及び応力伝達性の点で最も重要である隅角部の強度をより向上させることができる。
【0040】
請求項7又は14に示す発明によれば、補助補強として機械的強度を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明に係る枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造及び補強工法を詳細に説明する。
【0042】
図1は本発明に係る工法を施工した壁空間の正面図、図2は図1の断面図、図3は要部拡大図、図4は要部拡大断面図、図5は他の実施例を示す要部拡大図、図6は連結補助機構を示す概略図、図7は連結補助機構の他の実施態様を示す概略図、図8は連結補助機構の他の実施態様を示す概略図、図9は接合部押圧用チューブの平面図である。
【0043】
図1に示すように、既存コンクリート建造物の柱10と梁11・12とで囲まれた壁面空間の1コマに、枠付き鉄骨ブレース20を配設する。枠付き鉄骨ブレース20それ自体の構成は、従来工法(前記非特許文献1第195頁「解図3、4、4−1ブレース架構の形状」参照)と基本的に異なることがなく、例えばH型鋼により形成される。この枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外形寸法は、柱10と梁11・12とで囲まれた壁面空間の内径より小となるように設定されており、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面と柱10及び梁11・12との間の空隙に、接合部押圧用チューブ30が配設される。従って、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外形寸法は、この接合部押圧用チューブ30の配設を考慮して規定されるということもできる。
【0044】
接合部押圧用チューブ30は、通気性及び通水性を有するものである。また、該接合部押圧用チューブ30は、可撓性を有し、充填したモルタルの圧力に対して十分な強度を有する材料、例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等の合成樹脂繊維、天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等で平織された織布であることが好ましく、該織布の外面又は内面が塩化ビニル樹脂やアクリル樹脂やウレタン樹脂等の合成樹脂ないしは天然又は合成ゴム等によって樹脂コーティングされていることが好ましい。織布に用いられる繊維糸としては、例えば、1100dtex程度の糸を2本撚りしたものを縦糸に、4本撚りしたものを横糸に用いることが好ましく、これを、例えば折幅230mmの接合部押圧用チューブ30を得る場合、縦糸を768本使い、横糸は50本/10cm使うことになる。また、樹脂コーティング厚みとしては、塗付量80〜120g/m、好ましくは90〜110g/mで得られる厚みであることが好ましい。
【0045】
この接合部押圧用チューブ30は、充填されたモルタルの圧力で膨出し、柱10乃至梁11・12の内周面と枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面との間の間隙(本明細書において、接合部という。概ね20〜60mm程度であることが一般的である。)を埋めながら、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aを支持するよう機能するので、所定の強度が必要である。接合部押圧用チューブ30の具体例としては、例えば、芦森工業社製「表面被覆加工筒状シームレス織物(両端縫製、注入口付き。織布:ポリエステル繊維、織布本体重量:約560g/m。被覆材:塩化ビニル樹脂コーティング、被覆重量:約110g/m、耐圧0.23MPa以上[注入圧力:0.1〜0.2MPa]、引張強度[JIS L 1096に準拠]:軸方向2000N/cm以上、周方向1500N/cm以上。筒直径150mm、200mm、250mm)」が挙げられる。
【0046】
従って、特に壁の面内方向(図2の矢符A方向)にチューブが変形して加圧することが有効であり、壁の面外方向(図2の矢符B方向)への変形は、基本的には不必要である。むしろ、壁の面外方向への変形によって、壁の面内方向に変形して働く力が弱まる(逃げる)場合には、好ましくない変形である。
【0047】
このため、接合部押圧用チューブ30としては、主として矢符A方向に変形するよう、例えば肉厚を調整する、変形方向を規制する被覆材で被覆する、一部又は全部に繊維補強合成樹脂材を利用するなどして変形方向を規制する、などの対応を行うことができる。
【0048】
接合部押圧用チューブ30の配設位置としては、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面と柱10及び梁11・12との間の空隙の全域に配設することが好ましく、少なくとも柱10と梁11・12との各接点である各隅角部13・13・13・13に配設することが好ましい。特に、図1に示す本実施例のように、各隅角部13・13・13・13に跨って配設することにより、補強骨組と建物架構との一体性の確保、及び応力伝達性の点で最も重要である隅角部13・13・13・13の強度をより向上させることができる。
【0049】
尚、モルタル充填前の接合部押圧用チューブ30は、素材構成によっては形状維持が困難であることから、空隙への配設に際しては縦方向部分が自立できずにだれてしまう場合があるので、紐・接着ないしは粘着テープ等の係止手段により、枠付き鉄骨ブレース20及び/又は柱10或いは梁11・12に縛り付けたり貼り付ける等によって支持させておくことが好ましい。
【0050】
接合部押圧用チューブ30内に注入されて充填されるモルタルとしては、無収縮モルタルであることが好ましく、例えば、市販のプレミックス型のもので、圧縮強度がコンクリートの設計基準強度又は既存躯体の実強度を下回らないものを用いることが好ましい。膨張率としては0.1%以上であることが好ましい。
【0051】
図4に示すように、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面にコッター22を配設する構成により、耐震補強の強度を高めることができる。
【0052】
尚、柱10と梁11乃至12の内周面側にもコッター22を配設する構成も採用できるが、この場合、騒音や振動が発生する工法でのコッター22の配設工法は避ける必要がある。このため、例えば接着剤による接着によってもよい。
【0053】
上記したコッター22を配設する態様に代えて、或いはこれと併用して、少なくとも枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面、並びに柱10と梁11・12の内周面に接触する部位の接合部押圧用チューブ30の表面を摩擦係数の高い粗面に構成するか、或いは摩擦係数の高い素材(例えば、前述した樹脂コーティング等)又は表面形状のもので形成した板状或いは薄葉状の部材を貼付するなどの態様を行うことができる。
【0054】
接合部押圧用チューブ30の配設は、枠付き鉄骨ブレース20の配設に連携して行うが、その際、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周面か、或いは柱10、梁11・12の内周面のどちらか一方の側に接着剤を利用して張り付ける工程が行われることが好ましい。
【0055】
図5に示すように、接合部押圧用チューブ30が、壁の面外方向(図2の矢符B方向)に変形するのを規制するために、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周に、例えば溝形鋼などで形成したチューブ変形規制部材21を配設する構成も好ましい。このような構成によれば、接合部押圧用チューブ30が予め枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの外周に配設された状態で施工することができ、使い勝手がよいだけでなく、工期の短縮にも有効である。
【0056】
接合部押圧用チューブ30は、空隙の全周にわたって連続した1本構成とすることもできるし、空隙の方向に対応させて縦用と横用とに分割された複数の構成とする等、任意の構成とすることができる。複数の構成では、モルタルの充填が1回で行われるように、分割されたチューブ相互間を、コーナー部分で連続させるモルタル案内管を配設する構成としてもよい。分割された複数の構成とする場合、柱10と梁11・12との各接点である各隅角部13・13・13・13で複数の接合部押圧用チューブ30・30の端部同士が当接するように配設してもよいが、好ましくは、前述したように各隅角部13・13・13・13を跨って配設することである。図1では、4本に分割された接合部押圧用チューブ30・30・30・30を各隅角部13・13・13・13に跨った状態で配設した状態の実施例を示している・
【0057】
図6〜図8に従って、上記した連結補助機構の具体例を示す。
【0058】
図6に示す連結補助機構の態様は、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aを構成するH形鋼の端部に挟み込む形で取り付ける連結補助部材23と、梁12の側に配設する連結補助部材24とから成り、両者の間をボルト25とナット26とで連結する。ボルトナットは、矢符方向に力が加わるように取り付ける。図示の如き連結補助部材を枠付き鉄骨ブレース20の四周に配設することにより、1種のスぺーサーとしても機能し、施工工程の途中では、枠付き鉄骨ブレース20は取り付け空間に宙吊りの形で保持させることができ、接合部押圧用チューブ30の配設及びモルタルの充填工程を確実且つ迅速に行うことができる。
【0059】
また、上記したように、図示の連結補助部材23・24を、モルタルの充填・硬化の後も残置させておく態様とすることにより、モルタルのみによる枠付き鉄骨ブレース20の固定と比較して強い機械的強度が得られる。
【0060】
尚、連結補助部材23は、図示の如く、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aに対して着脱自在に構成する外、ボルト25のための孔を有する板材を枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aの端部に溶接しておく構成とすることもできる。
【0061】
図7に示す連結補助機構の態様は、枠付き鉄骨ブレース20の枠体20Aを構成するH型鋼に穿ったボルト孔27にナット26を溶接により固着して、ボルト25を配した構成である。
【0062】
図8に示す連結補助機構の態様は、帯状金属材などで形成した連結補助機構のフレーム28を、所定の間隔で、互いに反対方向に配設して、枠付き鉄骨ブレース20の位置ぎめ・支持を行う構成である。
【0063】
上記態様の連結補助機構のフレーム28は、配設する接合部押圧用チューブ30の壁の面外方向移動規制部材としても機能する。
【0064】
本発明に係る工法を実施するに当たって用いられる接合部押圧用チューブ30は、通気性及び通水性を有し、更に、可撓性(易変形性)を有し、内部へのモルタルの注入に伴って膨出すると共に、内部の残存空気を排出し、モルタル内の余剰水を脱水して排出する構成のチューブ(袋体)が使用されるが、素材としてはゴムのように高い弾性伸びを示す場合には、内部にモルタルを注入しても非拘束側、この場合は左右面側を膨らましながら圧力が逃げてしまい加圧効率が悪いため、弾性伸びの小さくかつ所定の引張強度を有する素材からなる織布(例えば、合成繊維織物またはガラス繊維織物等)にコーティング(好ましくは樹脂コーティング)を施したものが好適に使用される。また断面形状は、円断面の他、縦長の方形断面等、膨出状態で接合部を効率よく加圧できれば任意の断面形状とすることができる。
【0065】
接合部押圧用チューブ30には、図9に示されるように、一端に非通気性及び非通水性を有すると共に逆止弁32が取付けられた充填用チューブ体31が接続されている。充填用チューブ体31は、接合部押圧用チューブ30の端部部分に設けた開口部に挿入され、該端部部分に縫合及び/又はホットメルトにて接合される。接合方法としては、例えば、特開平9−72196号公報に記載の方法を採ることができる。
【0066】
充填用チューブ体31の入口からモルタルを注入することで、接合部押圧用チューブ30内にモルタルが充填されることになる。所定量のモルタルが接合部押圧用チューブ30に充填されて所定の圧入力まで加圧されることにより、該接合部押圧用チューブ30内の残存空気は該接合部押圧用チューブ30を構成する織布の織目間を通って外部に排出され、モルタル内の余剰水は前記圧入力による圧力によって脱水されて該接合部押圧用チューブ30を構成する織布の織目間を通って外部に排出される。所定量のモルタルを注入し、所定の加圧力まで加圧した後は、モルタルの逆流及び減圧を防止するために逆止弁32を閉鎖する。
【0067】
接合部押圧用チューブ30は通気性及び通水性を有するものであるが、残存空気及びモルタル内の余剰水が排出された後は、モルタル粒子が接合部押圧用チューブ30の織布の織目に目詰まりすることで圧入力を確保することができる。
【0068】
以上の要領により、モルタルの充填及び加圧とを完了すると、水和反応に必要な水以外の余剰水が脱水されたモルタルは密実となるので、現場封かん養生に比して著しく強度発現が早くなり高強度となる。余剰水の脱水を行わない構成、即ち、通気性及び通水性を有していない織布を用いた以外は本発明の接合部押圧用チューブ30と同様の構成を有するチューブ体に同様の条件でモルタルを充填したものに比して、本発明では2倍程度のモルタル強度を得ることが可能となる。
【0069】
尚、モルタル硬化後、逆止弁32は充填用チューブ体31から取外すことにより再使用することができる。
【0070】
本発明に係る枠付き鉄骨ブレースによる補強工法を行うに際し、既存コンクリート躯体と枠付き鉄骨ブレース20とを連結する連結補助機構として、既存コンクリート躯体に対して何らの加工工程を必要としない部材を介在させることができる。また、この補助部材は、モルタルの硬化をまって取り外してしまう態様と、そのまま残置させておく態様とがある。
【0071】
本発明に係る工法では、枠付き鉄骨ブレース20の支持固定及び躯体からの応力伝達が、接合部押圧用チューブ30内に充填したモルタルにより行われるので、接合部押圧用チューブ30を配設する部位における既存柱梁の仕上げモルタル強度に耐震上問題がある場合には、この仕上げモルタルを剥離除去してから本発明の工法を施工する必要がある。逆に、既存仕上げモルタル強度が十分であれば、仕上げモルタルを除去することなくそのまま本発明に係る工法を施工することが可能である。
【0072】
本発明は、既存建物架構がRC造である態様に限定されるものではなく、例えば、既存建物架構がSRC造やS造、木造等であっても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係る工法を施工した壁空間の正面図
【図2】図1の断面図
【図3】要部拡大図
【図4】要部拡大断面図
【図5】他の実施例を示す要部拡大図
【図6】連結補助機構を示す概略図
【図7】連結補助機構の他の実施態様を示す概略図
【図8】連結補助機構の他の実施態様を示す概略図
【図9】接合部押圧用チューブの平面図
【図10】従来工法を示す要部概略図
【図11】別の従来工法を示す要部概略図
【符号の説明】
【0074】
10−柱
11−梁
12−スラブ
13−隅角部
20−枠付き鉄骨ブレース
20A−(鉄骨ブレース)の枠体
21−チューブ変形規制部材
22−コッター
23−連結補助部材
24−連結補助部材
25−ボルト
26−ナット
27−ボルト孔
28−連結補助部材
30−接合部押圧用チューブ
31−充填用チューブ体
32−逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並立する既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁とで形成される空間に配設される枠付き鉄骨ブレースと、該枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との間に形成される空隙に配設される通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブと、を備えており、且つ該接合部押圧用チューブに充填する方法で該接合部押圧用チューブ内の残存空気を排出しながらモルタルを配設し、余剰水が排出されて硬化した前記モルタルにより前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行う構成であることを特徴とする枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【請求項2】
接合部押圧用チューブが織布から形成されており、該織布の外面及び/又は内面が樹脂コーティングされていることを特徴とする請求項1に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【請求項3】
接合部押圧用チューブの任意の箇所に、非通気性及び非通水性を有すると共に逆止弁が取付けられた充填用チューブ体を接続し、該充填用チューブ体からモルタルを注入して前記接合部押圧用チューブへのモルタル充填を行う構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【請求項4】
接合部押圧用チューブが、分割された複数の部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐震補強構造。
【請求項5】
接合部押圧用チューブが、連続した単一の部材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐震補強構造。
【請求項6】
接合部押圧用チューブが、既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁との各接点である各隅角部に跨って配設される構成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強構造。
【請求項7】
既存コンクリート躯体と枠付き鉄骨ブレースの枠体との間に、連結補助機構が配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐震補強構造。
【請求項8】
並立する既存コンクリート柱と上下の梁とで形成される空間に枠付き鉄骨ブレースを配設し、次いで、この枠付き鉄骨ブレースの枠体の外周面と既存コンクリート柱及び上下のコンクリート梁との間に形成される空隙に通気性及び通水性を有する接合部押圧用チューブを配設し、該接合部押圧用チューブ内の残存空気を排出させながら該接合部押圧用チューブ内にモルタルを圧力充填し、前記モルタル内の余剰水の排出及び該モルタルの硬化をまって前記枠付き鉄骨ブレースの支持固定並びに既存コンクリート躯体からの応力伝達を行うことを特徴とする枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項9】
織布から形成され、該織布の外面及び/又は内面が樹脂コーティングされている構成の接合部押圧用チューブを用いることを特徴とする請求項8に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項10】
接合部押圧用チューブの任意の箇所に接続されている非通気性及び非通水性を有すると共に逆止弁が取付けられた充填用チューブ体からモルタルを注入して前記接合部押圧用チューブへのモルタル充填が行われることを特徴とする請求項8又は9に記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項11】
モルタルの充填が、分割された複数の接合部押圧用チューブに対して行われることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項12】
モルタルの充填が、連続した単一の部材である接合部押圧用チューブに対して行われることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項13】
既存コンクリート柱と上下のコンクリート梁との各接点である各隅角部に跨って接合部押圧用チューブが配設されることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の枠付き鉄骨ブレースによる耐震補強工法。
【請求項14】
既存コンクリート躯体と枠付き鉄骨ブレースの枠体との間に、連結補助機構が配置されていることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−121237(P2008−121237A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304860(P2006−304860)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年8月30日 財団法人日本建築防災協会建築物等防災技術評価委員会発行(建防災発第2007号)の「鉄骨ブレース簡易接合工法(SCUF) 設計施工指針(抜粋) 平成18年8月 佐藤工業株式会社」に発表、平成18年8月30日 財団法人日本建築防災協会発行(建防災発第2007号)の「技術評価書」に発表、建設通信新聞 平成18年9月28日発行に発表
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【出願人】(000117135)芦森工業株式会社 (447)
【Fターム(参考)】