説明

架構構造

【課題】空間の利用効率が低下するのを防止しつつ、中間柱にかかる大きな軸力を簡易かつ合理的に下階の柱に伝達できる架構構造を提供すること。
【解決手段】建物1の架構構造は、6階の一対の柱13、14と、この一対の柱13、14間に架設された7階床梁33と、この7階床梁33の中間部の上に立設される7階の中間柱15と、7階床梁33の下面に接しかつ一対の柱13、14間に亘って設けられた壁51と、を備える。この壁51は、中間柱15にかかる鉛直荷重を一対の柱13、14に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架構構造に関する。詳しくは、例えばオフィスやマンションなどの高層建物の架構構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オフィスやマンションなどの高層建物において、中間階で室の用途に応じてスパンを変更したり、最下階をロビーやホール等の大空間にするために無柱空間を設けたりする場合がある。
この場合、上階の柱の直下に下階の柱を設けることができず、この上階の柱は梁の中間部に立設される中間柱となる。
【0003】
この中間柱にかかる軸力を下階の柱に合理的に伝達するために、梁せいを大きくしたり、梁をトラス構造やアーチ構造としたりすることが提案されている。あるいは、建物の構造として、フィーレンディール構造や緊張材を用いた吊構造などの特殊な構造を採用することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−303209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、以上の提案では、中間柱の支持構造が複雑になるため、戸境壁や間仕切壁が多く設けられるマンション等の集合住宅では、壁と梁との接合部分の施工に多くの手間がかかってしまい、施工コストが上昇する、という問題がある。
また、梁をトラス構造やアーチ構造にすると、梁せいに相当する上弦材と下弦材との間隔やライズを大きくする必要があり、その階の空間の利用効率が低下する。
また、フィーレンディール構造や吊構造を採用した場合には、建物の構造とともに施工が複雑化するため工期が長期化し、コストがさらに上昇する。
【0006】
本発明は、空間の利用効率が低下するのを防止しつつ、中間柱にかかる大きな軸力を簡易な構造で下階の柱に伝達できる架構構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の架構構造は、柱および梁を備える構造物の架構構造であって、n(nは自然数)階の一対の柱(例えば、後述の柱13、14)と、当該一対の柱間に架設された(n+1)階床の梁(例えば、後述の7階床梁33)と、当該梁の中間部の上に立設される(n+1)階の中間柱(例えば、後述の中間柱15)と、前記梁の下面に接しかつ前記一対の柱間に亘って設けられた壁(例えば、後述の壁51)と、を備え、当該壁は、前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記一対の柱に伝達することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、壁が梁とともに中間柱の軸力を鉛直せん断力として負担するため、中間柱にかかる軸力は、(n+1)階床の梁および壁を介して、n階の一対の柱に伝達され、さらに下層階の柱を経て、基礎から地盤に伝達される。言い換えると、壁がその上下の梁と一体になって一層分のせいを有するメガ梁を構成し、一対の柱間に作用する上層階の鉛直荷重を壁のせん断抵抗によって負担する。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱の軸力が増加しても、この増加した軸力を一対の柱に壁の鉛直せん断力として伝達し、さらに下層階の柱へ伝達することができる。
一般的に、壁は地震時の水平せん断力を伝達する構造体として設計され、設計せん断力に対して壁厚、コンクリート強度、壁筋量を定める。ここでは、中間柱の直下の階に壁を設けることで、この壁が上下階の梁と協働して1層分の高さを有するメガ梁の役割を果たし、中間柱の軸力が壁のせん断抵抗によって両側の一対の柱に伝達される。
【0009】
よって、従来のように中間柱の軸力を下層階に伝達するための支持構造が複雑にならないので、マンション等の集合住宅の場合でも、戸境壁や中間柱と梁との接合部分が通常の鉄筋コンクリート造や鉄骨造の架構と同様の納まりとなるので、簡易な構造である。
また、梁せい自体を従来のように大きくする必要がないので、梁をトラス構造やアーチ構造にした場合に比べて、空間の利用効率が低下するのを防止できる。
また、建物の構造としてフィーレンディール構造や吊構造などの特殊な構造を採用した場合に比べて施工が容易になるので、コストがさらに上昇するのを抑制できる。
【0010】
請求項2に記載の架構構造は、前記中間柱は、n階床の梁(例えば、後述の6階床梁23)まで延びることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、中間柱をn階床の梁まで延ばすことで、中間柱が壁の内部に定着されて力の伝達領域が拡がるとともに、壁自体の剛性も高められて、中間柱の軸力をより円滑に一対の柱に伝達できる。
【0012】
請求項3に記載の架構構造は、柱および梁を備える構造物の架構構造であって、少なくともm(mは自然数)階床から(m+2)階床まで延びる第1の柱(例えば、後述の柱13)と、少なくともm階床から(m+1)階床まで延びる第2の柱(例えば、後述の柱14)と、当該柱間に架設された(m+1)階床の梁(例えば、後述の7階床梁33)と、当該梁の中間部の上に立設される(m+1)階の中間柱(例えば、後述の中間柱15)と、当該中間柱と前記第1の柱の(m+1)階の部分との間に亘って設けられた第1の壁(例えば、後述の壁52)と、を備え、当該第1の壁は、前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記柱に伝達することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、(m+1)階の中間柱にかかる軸力は、第1の壁を介して同じ階の隣の第1の柱に鉛直せん断力として伝達される。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱の軸力が増加した場合でも、軸力を壁の鉛直せん断力として隣の第1の柱に伝達し、さらに下層階の柱へ伝達することができる。
一般的に、壁は、地震時の水平力を伝達する構造体として設計されるが、中間柱と隣の第1の柱とを鉄筋コンクリートや鋼板の壁で接合することで、壁のせん断抵抗を利用して、同じ階の第1の柱に中間柱の軸力を鉛直せん断力として伝達する。
【0014】
よって、上述の請求項1と同様の効果を奏するとともに、中間柱の直下に位置する梁が負担する軸力を軽減できる。
【0015】
請求項4に記載の架構構造は、前記第1の柱を挟んで前記中間柱の反対側に設けられた第3の柱(例えば、後述の柱12)と、当該第3の柱と前記中間柱との間に架設されて前記柱の柱頭部が接合される(m+2)階の梁(例えば、後述の8階床梁42)と、前記第3の柱と前記第1の柱との間に亘って設けられた第2の壁(例えば、後述の壁53)と、を備え、当該第2の壁は、前記第1の壁とともに前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記第3の柱に伝達することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、中間柱にかかる軸力は、第2の壁を介して同じ階の第3の柱にも鉛直せん断力として伝達される。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱の軸力が増加した場合でも、壁の鉛直せん断抵抗を利用して、中間柱の軸力を第1の柱と第3の柱に合理的に伝達することができる。
また、中間柱にかかる鉛直荷重を柱に伝達させると、この柱に曲げモーメントが発生するが、第3の柱を第2の壁で柱に接合することで、この柱に作用する曲げモーメントを打ち消すことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のように中間柱の軸力を下層階に伝達するための支持構造が複雑にならず、戸境壁や中間柱と梁との接合部分が通常の鉄筋コンクリート造や鉄骨造の架構と同様の納まりとなる。また、梁せい自体を従来のように大きくする必要がないので、梁をトラス構造やアーチ構造にした場合に比べて、空間の利用効率が低下するのを防止できる。また、建物の構造としてフィーレンディール構造や吊構造などの特殊な構造を採用した場合に比べて施工が容易になるので、コストがさらに上昇するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る架構構造が適用された建物の骨組図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る架構構造が適用された建物の骨組図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る架構構造が適用された構造物としての建物1の骨組図である。
具体的には、図1は、建物1の5階立上がりから8階立上がりまでの骨組図である。以降、4階以下を下層階、9階以上を上層階と呼ぶ。
【0020】
建物1は、複数の柱11〜15および複数の梁21〜23、31〜33、41、42を備えている。
具体的には、建物1は、下層階から上層階まで連続して延びる柱11、12、下層階から8階床レベルまで延びる柱13、下層階から7階床レベルまで延びる柱14、および、7階床レベルから上層階まで延びる中間柱15を有する。
【0021】
柱11と柱12との間には、6階床梁21、7階床梁31、8階床梁41が架設されている。
柱12と柱13との間には、6階床梁22、7階床梁32が架設されている。
柱13と柱14との間には、6階床梁23、7階床梁33が架設されている。つまり、7階床梁33は、柱13、14に接合している。
【0022】
中間柱15は、柱13と柱14との間に架設された7階床梁33の中間部に立設されている。この中間柱15と柱12との間には、8階床梁42が架設されており、柱13は、下層階からこの8階床梁42まで延びている。
【0023】
また、この建物1には、7階床梁33の下面に接しかつ柱13、14間に亘って、壁51が設けられている。この壁51は、中間柱15にかかる鉛直荷重を6階の柱13、14に伝達するものである。
【0024】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)壁51が7階床梁33とともに中間柱15の軸力を鉛直せん断力として負担するため、中間柱15にかかる軸力は、7階床梁33および壁51を介して、6階の一対の柱13、14に伝達され、さらに下層階の柱を経て、基礎から地盤に伝達される。言い換えると、壁51が上下の梁33、23と一体になって一層分のせいを有するメガ梁を構成し、一対の柱13、14間に作用する上層階の鉛直荷重を壁のせん断抵抗によって負担する。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱15の軸力が増加しても、この増加した軸力を一対の柱13、14に壁の鉛直せん断力として伝達し、さらに下層階の柱へ伝達することができる。
【0025】
よって、従来のように中間柱の軸力を下層階に伝達するための支持構造が複雑にならないので、マンション等の集合住宅の場合でも、戸境壁や中間柱と梁との接合部分が通常の鉄筋コンクリート造や鉄骨造の架構と同様の納まりとなるので、簡易な構造である。
また、梁せい自体を従来のように大きくする必要がないので、梁をトラス構造やアーチ構造にした場合に比べて、空間の利用効率が低下するのを防止できる。
また、建物の構造としてフィーレンディール構造や吊構造などの特殊な構造を採用した場合に比べて施工が容易になるので、コストがさらに上昇するのを抑制できる。
【0026】
(2)6階の一対の柱13、14を7階床梁33に接合したので、柱13、14と梁33が一体となったラーメン構造により、架構としての剛性を向上できるから、中間柱15にかかる軸力を6階の一対の柱13、14により確実に伝達できる。
【0027】
〔第2実施形態〕
図2は、本発明の第1実施形態に係る架構構造が適用された構造物としての建物1Aの骨組図である。
本実施形態では、壁51が設けられておらず、壁52、53が設けられている点が、第1実施形態と異なり、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0028】
すなわち、この建物1Aには、7階の中間柱15と7階の第1の柱としての柱13との間に亘って、第1の壁としての壁52が設けられている。この壁52は、中間柱15にかかる鉛直荷重を7階の柱13に伝達するものである。
また、柱13を挟んで7階の中間柱15の反対側には、第3の柱としての柱12が位置しており、建物1Aには、この7階の柱12と7階の柱13との間に亘って、第2の壁としての壁53が設けられている。
【0029】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(3)7階の中間柱15にかかる軸力は、壁52を介して同じ7階の隣の柱13に鉛直せん断力として伝達される。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱15の軸力が増加した場合でも、軸力を壁の鉛直せん断力として隣の柱13に伝達し、さらに下層階の柱へ伝達することができる。また、中間柱15の直下に位置する7階床梁33が負担する軸力を軽減できる。
【0030】
(4)中間柱15にかかる軸力は、壁53を介して同じ7階の柱12に合理的に伝達される。よって、長期荷重はもちろんのこと、地震時に中間柱15の軸力が増加した場合でも、壁の鉛直せん断抵抗を利用して、中間柱15の軸力を柱13と柱12に合理的に伝達することができる。
また、中間柱15にかかる鉛直荷重を柱13に伝達させると、この柱13に曲げモーメントが発生するが、柱12を壁53で柱13に接合することで、この柱13に作用する曲げモーメントを打ち消すことができる。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態では、中間柱15を7階床梁33の中間部に立設したが、さらに、図1中破線で示すように、この中間柱15を下方に向かって6階床梁23まで延ばしてもよい。
【0032】
このようにすれば、壁51に加えて、中間柱15が接合された6階床梁23も、中間柱15の軸力を6階の一対の柱13、14に伝達するので、中間柱15の軸力をより円滑に一対の柱13、14に伝達できる。
【符号の説明】
【0033】
1、1A…建物(構造物)
11、12、13、14…柱
15…中間柱
21、22、23…6階床梁
31、32、33…7階床梁
41、42…8階床梁
51、52、53…壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱および梁を備える構造物の架構構造であって、
n(nは自然数)階の一対の柱と、
当該一対の柱間に架設された(n+1)階床の梁と、
当該梁の中間部の上に立設される(n+1)階の中間柱と、
前記梁の下面に接しかつ前記一対の柱間に亘って設けられた壁と、を備え、
当該壁は、前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記一対の柱に伝達することを特徴とする架構構造。
【請求項2】
前記中間柱は、n階床の梁まで延びることを特徴とする請求項1に記載の架構構造。
【請求項3】
柱および梁を備える構造物の架構構造であって、
少なくともm(mは自然数)階床から(m+2)階床まで延びる第1の柱と、
少なくともm階床から(m+1)階床まで延びる第2の柱と、
当該柱間に架設された(m+1)階床の梁と、
当該梁の中間部の上に立設される(m+1)階の中間柱と、
当該中間柱と前記第1の柱の(m+1)階の部分との間に亘って設けられた第1の壁と、を備え、
当該第1の壁は、前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記第1の柱に伝達することを特徴とする架構構造。
【請求項4】
前記第1の柱を挟んで前記中間柱の反対側に設けられた第3の柱と、
当該第3の柱と前記中間柱との間に架設されて前記第1の柱の柱頭部が接合される(m+2)階の梁と、
前記第3の柱と前記第1の柱との間に亘って設けられた第2の壁と、を備え、
当該第2の壁は、前記第1の壁とともに前記中間柱にかかる鉛直荷重を前記第3の柱に伝達することを特徴とする請求項3に記載の架構構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−197641(P2012−197641A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63669(P2011−63669)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)