説明

架橋ポリエチレン電線・ケーブル及び絶縁体用樹脂組成物

【課題】シュリンクバックの抑制を図ることと、材料選定の自由度を高めることの両方を可能とした架橋ポリエチレン電線・ケーブル及び絶縁体用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】架橋ポリエチレンケーブル1は、導体2を被覆する絶縁体3が複数層からなるとともに、導体2に接する絶縁体3の下層5がポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなる絶縁体用樹脂組成物からなり、ポリオレフィンが低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%であり、さらに、下層5の厚みが0.05〜0.3mmとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレン電線・ケーブルと、この架橋ポリエチレン電線・ケーブルの絶縁体として用いる絶縁体用樹脂組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンケーブル(や架橋ポリエチレン電線)は、電気的特性、機械的特性、化学的特性、耐熱性、布設工事性等が優れることが知られている。従って、高電圧用電力ケーブルとして従来より広く用いられている。架橋ポリエチレンケーブルは、高価な架橋設備を必要としないという利点から、水架橋による架橋ポリエチレン絶縁被覆層(絶縁体)の架橋方法が採用されている。
【0003】
水架橋法で問題となることは、押出及び冷却過程で発生するポリエチレン絶縁被覆層の大きな収縮の問題である。具体的に説明すると、シラン架橋性ポリエチレン組成物を押出機により厚肉の未架橋ポリエチレン絶縁被覆層として押し出し被覆すると、この押し出し被覆の後に未架橋ポリエチレン絶縁被覆層が長さ方向に大きく収縮してしまう現象(シュリンクバックと言われる)が発生する。これが押出及び冷却過程で発生するポリエチレン絶縁被覆層の大きな収縮の問題である。
【0004】
厚肉の架橋ポリエチレンケーブルは、収縮量が大きくなることから、使用中にヒートサイクルを受けた場合に、端末に突き出し現象が起きてしまうことになる。この突き出し現象が起きると、端末においては浸水が生じ易い状態になり、これが問題となってしまう。
【0005】
尚、上記問題等に関しては、下記特許文献1に、結晶化温度が異なる二種類の低密度ポリエチレンをブレンドしてなるシラン架橋性ポリエチレン組成物を絶縁被覆層に用いる架橋ポリエチレン電線・ケーブルの技術として開示されている。特許文献1の従来技術は、上記二種類の低密度ポリエチレンのブレンド量を調節してシュリンクバックを抑制することができるようになっている。
【特許文献1】特開2001−126536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の従来技術にあっては、シュリンクバックを抑制することができるものの、使用可能な絶縁体用樹脂組成物が限定されてしまうという問題点を有している。言い換えれば、シュリンクバックを抑制するために材料選定の自由度が低くなってしまうという問題点を有している。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、シュリンクバックの抑制を図ることと、材料選定の自由度を高めることの両方を可能とした架橋ポリエチレン電線・ケーブル及び絶縁体用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の架橋ポリエチレン電線・ケーブルは、導体を被覆する絶縁体が複数層からなるとともに、前記導体に接する前記絶縁体の下層がポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなる絶縁体用樹脂組成物からなり、前記ポリオレフィンが低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%であり、さらに、前記下層の厚みが0.05〜0.3mmとなることを特徴としている。
【0009】
このような特徴を有する本発明によれば、絶縁体を複数層で構成し、そして、絶縁体の下層の樹脂組成物によってシュリンクバックの抑制を図ることが可能になる。また、絶縁体を複数層で構成することで、絶縁体の上層は、例えば耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレンのものでも形成することが可能になる。本発明によれば、導体との滑り抵抗が大きくなるような樹脂組成物によって絶縁体の下層が形成される。また、加熱変形にも配慮した樹脂組成物によって絶縁体の下層が形成される。
【0010】
本発明において、絶縁体は二層構造、又は三層構造となる。尚、三層構造の場合であって中間層に例えば外観の悪い樹脂等を使用すれば、安価設計をすることが可能になる。ポリオレフィンは上記の四つの樹脂が対象であり、これらは横並びでどれを選んでも変わりがない。
【0011】
本発明においてポリオレフィンの融点を90〜110℃に設定したのは、導体との滑り抵抗を大きくするためである。また、融点は低い方が良く、使用時(上限90℃:電気用品法で使用温度は90℃の設計となる。架橋ポリエチレンケーブルは、加熱変形試験温度が120℃と規定されており、実際の使用温度にかかわらず融点90℃未満は不可となる)の安全性(樹脂の変形等)を配慮したためである。
【0012】
本発明においてポリオレフィンのゲル分率を10〜40%に設定したのは、下層に接する外層との滑り抵抗を大きくするため(上限値)である。また、耐熱性に配慮したため(下限値)である。
【0013】
本発明において外層に適用可能な樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)の中の一つ又は二つ以上の混合物が挙げられるものとする。上記樹脂の中では、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)が耐熱性の面で良好であり、これが好ましい樹脂であるものとする。この他、特に限定するものではないが、密度0.930g/mm以下が好ましいものとする。
【0014】
本発明において下層の厚みを0.05〜0.3mmに設定したのは、0.05mmを下回ると導体との滑り抵抗に影響を来たし、これによってシュリンクバックの発生可能性があるからである。また、0.3mmを超えるとケーブルとしての耐熱性に影響を来す恐れがあるからである。
【0015】
上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明の絶縁体用樹脂組成物は、ポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなり、導体に接触する絶縁体の下層として用いられる絶縁体用樹脂組成物であって、前記ポリオレフィンは、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%であることを特徴としている。
【0016】
このような特徴を有する本発明によれば、導体に接触する絶縁体の下層として好適な絶縁体用樹脂組成物になる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載された本発明によれば、シュリンクバックの抑制を図ることと、材料選定の自由度を高めることの両方を可能とした架橋ポリエチレン電線・ケーブルを提供することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項2に記載された本発明によれば、架橋ポリエチレン電線・ケーブルのシュリンクバック抑制を図ることと、材料選定の自由度を高めることの両方を可能とした絶縁体用樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施の形態を示す架橋ポリエチレンケーブルの断面図である。
【0020】
図1において、本発明の架橋ポリエチレンケーブル1は、導体2と、この導体2の外側に押し出されて被覆をする絶縁体3と、さらに絶縁体3の外側に押し出されて被覆をするシース4とを備えて構成されている。絶縁体3は、導体2に接するように形成される下層5と、この下層5の外側となる上層6との二層構造となっている。
【0021】
下層5は、本発明の絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を用いてこれを押し出しすることにより形成されている。下層5は、0.05〜0.3mmの厚みで形成されている(この厚みは本発明の特徴の一つであるものとする)。上層6は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレンの絶縁層となっている(詳細な説明は省略する)。絶縁体3は、従来同様に、電気的特性、機械的特性、化学的特性、耐熱性、布設工事性等を確保することができるようになっている。
【0022】
下層5となる絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)は、ポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなるものであって、上記のポリオレフィンが低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%となっている(融点及びゲル分率は本発明の特徴の一つであるものとする)。
【0023】
融点を90〜110℃に設定したのは、導体2との滑り抵抗を大きくするためであり、また、使用時の安全性(樹脂の変形等)を配慮したためである。ゲル分率を10〜40%に設定したのは、下層5に接する外層6との滑り抵抗を大きくするため(上限値)であり、また、耐熱性に配慮したため(下限値)である。
【0024】
下層5の厚みを0.05〜0.3mmに設定したのは、0.05mmを下回ると導体2との滑り抵抗に影響を来たすからであり、また、0.3mmを超えるとケーブルとしての耐熱性に影響を来す恐れがあるからである。
【0025】
このような本発明の架橋ポリエチレンケーブル1にあっては、耐熱性を損なわずにシュリンクバックを良好に抑制することができるようになっている。また、架橋ポリエチレンケーブル1にあっては、絶縁体3を二層構造(下層5を備えれば三層構造でも可能)にすることによって、上層6の方で材料選定の自由度を従来よりも格段に高めることができるようになっている。
【0026】
以下、下層5となる絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)について詳細に説明する。
【実施例】
【0027】
下層5となる絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)の配合例を挙げると、表1に示す如く、ポリオレフィンとしての低密度ポリエチレンが100重量部(phr)に対して、シラン化合物としてのビニルトリメトキシシランが0.5〜1.5重量部、ラジカル発生剤としてのジクミルパーオキサイドが0.02〜0.15重量部、シラノール縮合触媒としてのジブチル錫ジウラレートが0.05〜0.3重量部、酸化防止剤としてのテトラキス[メチレン−3(3.5−ジ−第3ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート]メタンが0.05〜0.3重量部となる配合になっている。
【0028】
上記低密度ポリエチレンとしては、三井化学(株)製のウルトゼックスが例えば用いられるものとする。また、上記ビニルトリメトキシシランとしては、信越化学(株)製のKBM1003が例えば用いられるものとする。また、上記ジクミルパーオキサイドとしては、三井石油化学(株)製の三井DCPが例えば用いられるものとする。また、上記ジブチル錫ジラウレートとしては、旭電化工業(株)製のBT−11が例えば用いられるものとする。また、上記テトラキス〔メチレン−3(3.5−ジ−第3ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート〕メタンとしては、チバスペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガノックス1010が例えば用いられるものとする。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明の具体的な実施例を説明するとともに、実施例と比較例とを比較する。実施例1〜3、比較例1〜4とも上記架橋ポリエチレンケーブル1の構成で製造し、これを比較するものとする。下層5となる絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)の配合に関しては、表1の配合に基づくものとする。先ず、表1及び表2を参照する。
【0031】
実施例1
実施例1は、融点が95℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0032】
実施例2
実施例2は、融点が95℃でゲル分率が25%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0033】
実施例3
実施例3は、融点が105℃でゲル分率が35%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0034】
比較例1
比較例1は、融点が85℃でゲル分率が25%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0035】
比較例2
比較例2は、融点が125℃でゲル分率が25%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0036】
比較例3
比較例3は、融点が125℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0037】
比較例4
比較例4は、融点が115℃でゲル分率が45%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0038】
実施例1〜3と比較例1〜4との比較評価として、シュリンクバック、耐熱性(加熱変形)に係る各試験を実施して評価をする。
【0039】
シュリンクバックに係る試験は、IEC60811−1−3に規定があり、試験としては、130℃×1時間加熱前後での標線間距離を測定して収縮率を算出するものである。尚、収縮率はシュリンクバック(シュリンクバック量)と同じであり、算出式は、シュリンクバック量=(加熱前の標線間距離−加熱後の標線間距離)/加熱前の標線間距離*100(%)で表される。シュリンクバックは、この規格が4%以下であるが、ここでは2%以下の場合に合格で『○』、これ以外の2%を超える場合に不合格で『×』の判定をするものとする。
【0040】
耐熱性(加熱変形)に係る試験は、日本工業規格JIS C 3005を行うものとする(120℃で1時間加熱前後の変形率で規定)。耐熱性(加熱変形)は、加熱変形率の規格が40%以下であるが、ここでは30%以下の場合に合格で『○』、これ以外の30%を超える場合に不合格で『×』の判定をするものとする。
【0041】
評価は、上記のシュリンクバック、耐熱性(加熱変形)に係る試験の両方が合格の場合に良好な結果であるとして『○』、これ以外の場合に『×』の評価をするものとする。
【0042】
【表2】

【0043】
表2の評価結果によれば、本発明に関する実施例1〜3は、シュリンクバック、耐熱性(加熱変形)の判定が全て合格で、評価が『○』という良好な結果が得られている。これに対して比較例1〜4は、耐熱性(加熱変形)の判定が不合格、若しくはシュリンクバックの判定が不合格で、結果、『×』の評価となっている。
【0044】
比較例1〜4の分析をすると、先ず比較例1は、融点が本発明の特徴とする90〜110℃の範囲に入らない85℃であることから、耐熱性(加熱変形)の判定が不合格であり、結果、『×』の評価となっている。次に、比較例2及び比較例3は、融点が本発明の特徴とする90〜110℃の範囲に入らない125℃であることから、シュリンクバックの判定が不合格であり、結果、『×』の評価となっている。最後に、比較例4は、融点が本発明の特徴とする90〜110℃の範囲に入らない115℃であるとともに、ゲル分率が本発明の特徴とする10〜40%の範囲に入らない45%であることから、シュリンクバックの判定が不合格であり、結果、『×』の評価となっている。
【0045】
続いて表3を参照しながら更に実施例と比較例とを比較する。実施例4及び5、比較例5及び6とも上記架橋ポリエチレンケーブル1の構成で製造し、下層5の厚みを変えてこれを比較するものとする。下層5となる絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)の配合に関しては、表1の配合に基づくものとする。
【0046】
実施例4
実施例4は、融点が95℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。下層の厚みは0.10mmである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0047】
実施例5
実施例5は、融点が95℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。下層の厚みは0.25mmである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0048】
比較例5
比較例5は、融点が95℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。下層の厚みは0.03mmである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0049】
比較例6
比較例6は、融点が95℃でゲル分率が15%の低密度ポリエチレンを上記の如く配合した絶縁体用樹脂組成物(下層樹脂組成物)を導体に押し出した後に水架橋してなる絶縁体の下層を有する架橋ポリエチレンケーブルである。下層の厚みは0.35mmである。絶縁体の上層は、耐熱性の高い一般的な架橋ポリエチレン製である。
【0050】
下層の厚みを変えた実施例4及び5と比較例5及び6との比較評価として、上記のシュリンクバック、耐熱性(加熱変形)に係る各試験を実施して評価をする。
【0051】
【表3】

【0052】
表3の評価結果によれば、本発明に関する実施例4及び5は、シュリンクバック、耐熱性(加熱変形)の判定が全て合格で、評価が『○』という良好な結果が得られている。これに対して比較例5及び6は、シュリンクバックの判定が不合格、若しくは耐熱性(加熱変形)の判定が不合格で、結果、『×』の評価となっている。
【0053】
比較例5及び6の分析をすると、融点が本発明の特徴とする90〜110℃の範囲に入り、ゲル分率も本発明の特徴とする10〜40%の範囲に入っているが、『×』の評価となっている。これは下層の厚みの影響によるもので、下層の厚みが0.05mmを下回ると導体との滑り抵抗に影響を来たし、これによってシュリンクバックの判定が不合格になるからである。また、下層の厚みが0.3mmを超えるとケーブルとしての耐熱性に影響を来す恐れがあり、これによって耐熱性(加熱変形)の判定が不合格になるからである。従って、このような分析から融点やゲル分率の他に下層の厚みも本発明の重要な特徴であることが分かる。
【0054】
以上、本発明の架橋ポリエチレンケーブル1は、導体2を被覆する絶縁体3が複数層からなるとともに、導体2に接する絶縁体3の下層5がポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなる絶縁体用樹脂組成物からなり、ポリオレフィンが低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%であり、さらに、下層5の厚みが0.05〜0.3mmとなる特徴を有することから、シュリンクバックの抑制を図ることができるとともに、材料選定の自由度を高めることができるという効果を奏する(尚、以上の説明は、シース4を含む架橋ポリエチレンケーブル1の説明であったが、シース4を含まない絶縁電線、すなわち架橋ポリエチレン電線(図示省略)であっても上記と同じ効果を奏するのは言うまでもない)。
【0055】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施の形態を示す架橋ポリエチレンケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 架橋ポリエチレンケーブル
2 導体
3 絶縁体
4 シース
5 下層
6 上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を被覆する絶縁体が複数層からなるとともに、前記導体に接する前記絶縁体の下層がポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなる絶縁体用樹脂組成物からなり、前記ポリオレフィンが低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%であり、さらに、前記下層の厚みが0.05〜0.3mmとなる
ことを特徴とする架橋ポリエチレン電線・ケーブル。
【請求項2】
ポリオレフィン、シラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒を配合してなり、導体に接触する絶縁体の下層として用いられる絶縁体用樹脂組成物であって、
前記ポリオレフィンは、低密度ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体の中の一つ又は二成分以上の混合物で融点が90〜110℃、ゲル分率が10〜40%である
ことを特徴とする絶縁体用樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−234883(P2008−234883A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69893(P2007−69893)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】