説明

架橋性ゼラチン

【課題】優れた安全性と優れた加熱耐性とを有する架橋性ゼラチンを提供し、さらにこれを効率よく製造する方法を提供すること、および前記のような加熱耐性を有する架橋性ゼラチンを効率よく得ることができる新規のゼラチン用架橋促進剤を提供すること。
【解決手段】フェルラ酸および/またはリモネンを架橋促進剤として含有するゼラチン水溶液に、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られることを特徴とする架橋性ゼラチン。前記架橋性ゼラチンは、フェルラ酸および/またはリモネンを含有するゼラチン水溶液をポリフェノールオキシダーゼにより作用させることで製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱耐性を備えた架橋性ゼラチン、その製造方法および新規のゼラチン用架橋促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは脊椎動物の骨や皮に含まれるコラーゲンを抽出・精製した動物性タンパク質である。その抽出には塩酸を用いた酸性処理後に温水で抽出する酸性法、石灰液などを用いたアルカリ処理後に温水で抽出するアルカリ法、原料の皮などを酵素処理する酵素法が用いられている。
【0003】
抽出されたゼラチンは加水・加熱することで溶解し、冷却することで弾力性・保水性に優れた透明なゲルとなる。このゼラチンゲルはその物性に加え、無毒で低免疫原性という性質から、医薬品、化粧品、食品など幅広い分野で用いられている。医療用としては、例えば、ソフトカプセルおよびハードカプセルなどが挙げられる。化粧品としては、例えば、保湿剤などが挙げられる。食品としては、例えば、グミキャンディーやゼリーなどが挙げられる。またこの他にも芳香剤や写真フィルムの保護材などにも用いられており、産業的ニーズの大きい素材である。
【0004】
近年、人体への安全性、嗜好性の多様化といったニーズを反映して、安全性の高い技術を用いたゼラチンの物性改変が課題となっている。一般的に、ゲル化したゼラチンゲルはゼラチンの種類や濃度により多少異なるが、30℃前後での加熱によって溶解する。この性質は、加工し易い反面、製品となったとき30℃前後の気温下で溶解してしまうことがあるため、平均気温の高い夏場や温暖な地域では粘つきや製品同士の接着といった品質劣化の問題が発生する場合がある。そのため、流通手段や保管方法には注意が必要であり、チルド輸送といったコストの高い流通手段を選択しなければならないこともある。従って、ゼラチンにはこれら問題に対応した加熱耐性の改善が望まれている。加熱耐性の改善技術に関する先行技術としていくつか報告されているが、各々に欠点もある。例えば、トランスグルタミナーゼによる酵素的ゼラチン架橋法(特許文献1、非特許文献1)は、トランスグルタミナーゼの作用するpHがおおよそ5〜9のため、pHが5未満の場合に反応しづらいという制約があり、またトランスグルタミナーゼにより架橋されたゼラチンによるセラチンゲルにおいて、物性や食感において適さない場合がある。例えば、ゼリーやグミキャンディーにおいては、「こし」や「粘り」、場合によっては「チューイング性」の食感が求められるが、ゼラチンにトランスグルタミナーゼを作用させると蒲鉾や肉練り製品のようにコシの無い、いわゆる「さくい」食感となり、ゼリーやグミキャンディーにおいての所望の食感実現は困難である。また、ポリアミドエポキシ樹脂を架橋剤とするゼラチン架橋法(特許文献2)は、人が摂取できないポリアミドエポキシ樹脂を使用しており、経口摂取する食品には使用できず、用途面での制約が大きい。ポリフェノールとポリフェノールオキシダーゼを用いたゼラチン架橋法(特許文献3)では、ゼラチンとポリフェノールの配合割合(ゼラチン:ポリフェノール)が重量比基準で4:1〜2:3と高濃度のポリフェノールを用いる必要がある。ここではフェノール性水酸基を2つ以上有するポリフェノールやポリフェノールの重合体であるタンニンが有効成分として記載されているが、高濃度ポリフェノールまたは酸化ポリフェノール、およびタンニン類は、それらの苦味が経口摂取の弊害となる。カフェ酸とチロシナーゼを用いたゼラチン架橋法(非特許文献2)でも、ポリフェノールと同様に6mM以上という高濃度のカフェ酸を必要とするため、風味面や原材料供給面においての課題が大きい。また、その他にも硫酸セルロースナトリウム、カラギーナン、寒天、アルギン酸ナトリウムなどの多糖類を添加する方法が知られているが、これらは食感などの物性改変には寄与するものの、加熱耐性を劇的に改善するには至っていない。
なお、フェルラ酸に関しては、ポリフェノールオキシダーゼの阻害剤として報告されている(特許文献4)が、これはバナナの黒変防止法としての技術であり、ゼラチンの架橋技術には関連していないものである。
【0005】
以上のように、ゼラチンの加熱耐性を向上させる方法についてはいくつか開示されているが、物性や食感制御、風味、安全性になお多くの問題を抱えている。特に食品分野では、ゼラチンゲルに関し、従来のゼラチンゲル固有の食感や風味から大きく変化させることなく、ゼラチンゲルの加熱耐性を強化することができるゼラチン素材の開発が望まれている。
したがって新規素材の開発や用途拡大のために、安全性と加熱耐性に優れた架橋性ゼラチンの開発が望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2619933号公報
【特許文献2】特開2002−293875号公報
【特許文献3】特開2007−89579号公報
【特許文献4】特許第3222419号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.S.Eissa,S.Bisram,S.A.Khan, J. Agric. Food Chem., 52, 4456(2004)
【非特許文献2】化学と工業, 82(3), 127−132(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、前記の状況を鑑みて、安全性と加熱耐性に優れたゼラチンの製造方法を確立すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、食経験の豊富な化合物であるフェルラ酸やリモネンをゼラチンの架橋促進剤としてゼラチン水溶液中に含有させ、これらをポリフェノールオキシダーゼにより酵素処理することで、架橋反応が進行してゼラチンの加熱耐性が改善されることを初めて見出した。さらに驚くべきことに、フェルラ酸やリモネンを架橋促進剤として用いた場合には、チロシナーゼでは架橋反応が進行せず、ラッカーゼでのみ架橋反応が進行することを初めて見出した。
【0009】
したがって、本発明は、優れた安全性と優れた加熱耐性とを有する架橋性ゼラチンを提供し、さらにこれを効率よく製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記のような加熱耐性を有する架橋性ゼラチンを効率よく得ることができる新規のゼラチン用架橋促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、
〔1〕フェルラ酸および/またはリモネンを架橋促進剤として含有するゼラチン水溶液に、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られることを特徴とする架橋性ゼラチン、
〔2〕ポリフェノールオキシダーゼがラッカーゼである前記〔1〕記載の架橋性ゼラチン、
〔3〕フェルラ酸および/またはリモネンを含有するゼラチン用架橋促進剤、
〔4〕フェルラ酸および/またはリモネンをゼラチンと混合して得られるゼラチン水溶液にポリフェノールオキシダーゼを作用させる工程からなる前記〔1〕または〔2〕記載の架橋性ゼラチンの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の架橋性ゼラチンは、優れた安全性と加熱耐性とを有するものであるため、工業製品、食品、医薬品、化粧品などあらゆる加工品に原料として好適に配合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の架橋性ゼラチンは、フェルラ酸および/またはリモネンを含有するゼラチン水溶液にポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られる。
【0014】
フェルラ酸は、植物の二次代謝産物の一つであり、例えば樹木の主成分であるリグニンやリグナンの前駆体となり、天然界に比較的多く存在するフェニルプロパノイド系の成分である。米糠やジャガイモの皮層部に多く含まれている。
リモネンはフェルラ酸同様に植物の二次代謝産物の一つであり、柑橘系の果皮に多く含まれている香り成分である。柑橘系果汁にも含まれており、香料の成分として一般的に使用されることも多い。
すなわち、フェルラ酸およびリモネンのいずれも食経験が豊富であり、安全性の高い成分である。しかしながら、ゼラチンの架橋促進効果については知られていなかった。
【0015】
これに対して、本発明では、ゼラチンをポリフェノールオキシダーゼで作用させる際の架橋促進剤として前記のフェルラ酸および/またはリモネンを用いる点に一つの特徴がある。
【0016】
本発明の架橋性ゼラチンの製造には、架橋促進剤としてフェルラ酸および/またはリモネンが必要となる。フェルラ酸および/またはリモネンとしては化学合成された化成品であっても天然由来の物であってもよい。また、これらを含有するエキスなどの混合品でもあってもよく、フェルラ酸またはリモネンの濃度にも特に制限はなく、所望の反応が進むものであれば良い。ただし、フェルラ酸またはリモネンの濃度が高いほど、反応効率、風味上の品質面、反応の安定性の面から好ましい。濃度としては、フェルラ酸またはリモネンがそれぞれ0.1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。具体的に、フェルラ酸としては、例えば、高純度のものとしては、食品添加物であるフェルラ酸(築野ライスファインケミカルズ社製)、混合物としては、米糠、米糠エキス、穀類、穀類エキスなどが挙げえられる。リモネンとしては、例えば、高純度のものとしては、食品添加物であるD−リモネン(長岡香料(株)製)、混合物としては、レモンフレーバー、精油、果皮抽出物、果汁濃縮物、果汁などが挙げられる。
【0017】
中でも、架橋促進剤としては、高純度の化合物を用いたほうが品質にばらつきが生じにくく、その反応効率も良い。前述の先行技術にあるトランスグルタミナーゼによる酵素法にくらべ、本発明では架橋促進剤を一定量消費することで反応が停止するため、融点が過剰に上昇したことによる弾力性低下の問題は発生しない。また、ポリフェノールやカフェ酸のように高濃度での添加は必要なく、味への影響はない。
【0018】
架橋促進剤としてフェルラ酸を用いる場合には、フェルラ酸の純品、あるいはフェルラ酸を含有する混合物を適切な溶媒に溶解させてもよい。この際、溶媒が水のみであればフェルラ酸の溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみにフェルラ酸を溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類に特に制限はなく、フェルラ酸の効果が発現される程度に溶解すれば良い。望ましくは、エタノールのみか、水とエタノールの混合液を使用することが、安全性やコスト面から望ましい。フェルラ酸混合物をゼラチン水溶液に添加する際も、添加方法に限りはなく、フェルラ酸の効果が発現される程度に溶解すれば良い。また、乳化剤などをさらに添加し、安定性を高めることもできる。
また、架橋促進剤としてリモネンを用いる場合には、リモネンの純品、あるいはリモネンを含有する混合物を適切な溶媒に溶解させてもよい。リモネンの純品は液状であるため、そのままゼラチン水溶液に混合させてもよい。リモネンの純品を希釈してゼラチン水溶液に添加する際は、溶媒が水のみであればリモネンの溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみにリモネンを溶解させてから添加すればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類に特に制限はなく、リモネンの効果が発現される程度に溶解すれば良い。望ましくは、エタノールのみか、水とエタノールの混合液を使用することが、安全性やコスト面から望ましい。リモネン混合物をゼラチン水溶液に添加する際も、添加方法に限りはなく、リモネンの効果が発現される程度に溶解すれば良い。また、乳化剤などをさらに添加し、安定性を高めることもできる。
【0019】
本発明で使用するゼラチンとしては、豚皮ゼラチン、豚骨ゼラチン、牛皮ゼラチン、牛骨ゼラチン、フィッシュゼラチンなどが挙げられるが、特に限定はない。また、原料のゼラチンには、加熱処理前に酸処理やアルカリ処理などの別の処理が施されたものでもよい。
原料のゼラチンのブルーム値は、市販の150〜320のものを用いることができるが、食感や引き裂き性を考慮した場合に、180〜300であることが好ましい。
なお、前記ブルーム値とは、ゼリー強度を示すもので、ゼラチンの6.67重量%水溶液を規定のカップに入れ10±0.1℃の恒温槽で16〜18時間冷却ゼリー化して、ブルーム式ゼリー強度計のプランジャー(直径12.7mm)を4mmだけゼリー中に押し込むのに要する散弾の重さ(g)を測り、この重量をブルーム値として表したものである。
【0020】
前記ゼラチン水溶液は、フェルラ酸および/またはリモネンを含有し、ゼラチンが溶解されている溶液である。ここで、ゼラチンは予め適当な溶媒と混合し、加熱して溶解させてもよいし、フェルラ酸および/またはリモネンと混合したのち、加熱して溶解させてもよい。前記ゼラチン水溶液の溶媒としては、水、各種緩衝液などが挙げられるが特に限定はない。
【0021】
前記ゼラチン水溶液中のゼラチンの含有量としては、1〜50重量%が好ましく、前記フェルラ酸の含有量としては、0.0001〜10重量%が好ましく、リモネンの含有量としては、0.0001〜10重量%が好ましい。
【0022】
前記ポリフェノールオキシダーゼとしては、所望の反応が進行するものであれば特に制限はないが、本発明ではラッカーゼが入手しやすい上に反応効率も高く、望ましい。また、ラッカーゼとしては、精製酵素でもよく、これらの酵素を含む粗タンパク質溶液であってもよい。中でも、安全性の面からは食経験のある素材由来の酵素溶液が良い。例えば、食材由来の粗タンパク質溶液としては、きのこ類の水抽出液や菌糸体発酵液が挙げられる。また、効率面の高さや工業化しやすい点からは、すでに食品添加物として認可されている酵素製剤が用いられる。例えば、食品添加物としては、ラッカーゼY120(天野エンザイム(株)製)が挙げられる。
【0023】
前記ゼラチン水溶液中に添加するポリフェノールオキシダーゼの量としては、特に限定はないが、反応効率の観点からは、0.01〜1重量%が好ましい。
【0024】
本発明において、フェルラ酸および/またはリモネンを混合したゼラチン水溶液を撹拌しながらポリフェノールオキシダーゼを作用させる。ここで作用とは、ポリフェノールオキシダーゼの酵素処理により、ゼラチン水溶液の粘度を上昇させる、あるいはゲル化させることをいう。
酵素処理時の温度について特に制限は無く、所望の反応が進む温度であればよい。好ましくはゼラチンの溶解温度から考えて40℃〜80℃であり、さらに好ましくは酵素の最適反応温度から50℃〜60℃である。
また、酵素処理時の加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度と酵素活性の兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、50℃付近であれば、20時間程度でもよいし、60℃付近であれば10〜30分間程度でもよい。
【0025】
フェルラ酸および/またはリモネンとポリフェノールオキシダーゼを混合したゼラチン水溶液(以下、反応溶液ともいう)中にポリフェノールオキシダーゼを追加で供給する必要は必ずしもなく、所望の反応が進めばそれでよいが、酵素による酸化反応を効率的に進行させゼラチンにおける架橋を促進するために、前記反応溶液中に空気を供給させてもよいし、また、高純度の酸素ガスを供給することによって酸化反応を更に効率的に進めることもできる。前記反応液中への空気や酸素の供給は、所望の反応速度と、コストや加工の手間などの要素を総合的に判断し、適用の有無を判断することができる。
【0026】
また、本発明では、前記反応溶液のpHは、2.8〜9.0の範囲に調整することが好ましく、酵素の最適pHからpH4.5〜5.5に調製するのがより好ましい。本発明では、前記反応溶液のpHを2.8〜9.0付近の範囲に調整することで安定して架橋性ゼラチンを製造することができる。
【0027】
反応後には、水や、場合によっては微量の有機溶剤を含有する加熱耐性の強化された架橋性ゼラチンをゲル状物として得ることができる。ゲル状の架橋性ゼラチンをそのまま使用することが可能である。あるいは、ゲル状の架橋性ゼラチンを80℃付近で30分間程度以上の加熱処理に供してポリフェノールオキシダーゼを失活させても良い。これにより、その後に経時的に架橋化反応が進むことを防止できる。
【0028】
また、ゲル状の架橋性ゼラチンを乾燥させて、架橋性ゼラチンパウダーとしてもよい。架橋性ゼラチンパウダーを水で膨潤させるなどして再度ゲルにしても加熱耐性は保持される。架橋性ゼラチンパウダーは容積が少なくなるために保管面や加工面で優れており、また水分を殆ど含有しないために微生物汚染リスクが低下するなどの保存性にも優れている。これを原料として使用する際には、目的に応じて再度水などの溶媒で溶解させて使用すればよい。
【0029】
なお、前記酵素処理による工業スケールでの架橋性ゼラチンの反応制御は、実験室スケールで加熱耐性上昇条件を設定し、これをスケールアップし、諸条件を調節することで可能となる。
【0030】
次に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(実施例1:ゼラチンの融点上昇効果)
ゼラチンをポリフェノールオキシダーゼで架橋反応させた場合の架橋促進剤を探索するために、種々の化合物を添加したゼラチン水溶液にポリフェノールオキシダーゼを作用させた。用いた化合物は、フェルラ酸、p−クマル酸、m−クマル酸、o−クマル酸、イソオイゲノール、カフェイン、クマリン、コウジ酸、リモネン、バニリン、没食子酸、(+)カテキン、(−)カテキン、サリチル酸、L−カルニチン、グリシン、バリン、トリプトファン、アルギニン、リジン、グルタミン酸、アスコルビン酸、ステアリン酸とした。
探索方法は、ゼラチン(250ブルーム、ヴァイスハルトインターナショナル(株)製)20gにクエン酸(和光純薬工業(株)製)緩衝液(pH4.6)180gを添加し、50℃に加熱することでゼラチン水溶液(10重量%)を得た。
各化合物を20mg/mLとなるように70容量%エタノール水溶液に溶解し、これをサンプル溶液とした。「ラッカーゼY120」(天野エンザイム(株)製)30mg/mLとなるように上記と同様のクエン酸緩衝液に溶解させ、これを酵素溶液とした。
ゼラチン水溶液9mL、サンプル溶液1mL、酵素溶液1mLをスクリューキャップ付試験管内で混合し、酸素雰囲気下で50℃、20時間反応させた。反応後、ゼラチンのゲル化を目視で評価した(表1)。ゲル化評価は、3段階で行い、ゲル化しなかったものを「−」、緩くゲル化したものを「±」、強固にゲル化したものを「+」とした。これらの結果を表1に示す。前記の化合物の中でも、フェルラ酸、リモネンがゼラチン用の架橋促進剤として有用であることを見出した。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例2:ポリフェノールオキシダーゼの検討)
方法は、ゼラチン(250ブルーム、ヴァイスハルトインターナショナル(株)製)20gにクエン酸(和光純薬工業(株)製)緩衝液(pH4.6)180gを添加し、50℃に加熱することでゼラチン溶解液(10重量%)を得た。
フェルラ酸を10mg/mLとなるように70容量%エタノール水溶液に溶解し、これをフェルラ酸溶液とした。「ラッカーゼY120」(天野エンザイム(株)製)10mg/mLとなるように上記と同様のクエン酸緩衝液に溶解させ、これをラッカーゼ溶液とした。マッシュルーム由来チロシナーゼ(Sigma社製)10mg/mLとなるように上記と同様のクエン酸緩衝液に溶解させ、これをチロシナーゼ溶液とした。
ゼラチン溶解液9mL、フェルラ酸溶液1mL、ラッカーゼまたはチロシナーゼ溶液1mLをスクリューキャップ付試験管内で混合した。また、ゼラチン溶解液9mL、リモネン10mg、70容量%エタノール水溶液1mL、ラッカーゼまたはチロシナーゼ溶液1mLをスクリューキャップ付試験管内で混合した。別の試験管には酸素雰囲気下で50℃、20時間反応させた。反応後、ゼラチンのゲル化を目視で評価した(表2)。ゲル化評価は2段階評価で行い、ゲル化しなかったものを「−」、ゲル化したものを「+」とした。その結果、ラッカーゼにのみ架橋進行反応を見出した。
【0034】
【表2】

【0035】
(実施例3:架橋性ゼラチンゲルの作製)
〔原料の調製〕
ゼラチン(250ブルーム、ヴァイスハルトインターナショナル(株)製)20gにクエン酸(和光純薬工業(株)製)緩衝液(pH4.6)180gを添加し、50℃に加熱することでゼラチン水溶液(10重量%)を得た。
フェルラ酸(和光純薬工業(株)製)105mgまたは210mgを70容量%エタノール水溶液14mlに溶解させて2種類のフェルラ酸溶液を得て、これをゼラチン水溶液に添加することとした。
リモネン(和光純薬工業(株)製)200mgは直接ゼラチン水溶液に添加することとした。
「ラッカーゼY120」(天野エンザイム(株)社製)239mgをクエン酸緩衝液(pH4.6)8mlに溶解させ酵素溶液とし、これをゼラチン水溶液に添加することとした。
【0036】
〔作製〕
ゼラチン水溶液180mlに2種類のフェルラ酸溶液13.3mlをそれぞれ添加した(それぞれ終濃度0.5mg/ml、1.0mg/ml)。
リモネン210mgをゼラチン水溶液に添加し、70容量%エタノール水溶液を13.3ml添加して終濃度1.0mg/mlに調整した。
【0037】
前記3種類の混合液それぞれに対して酵素溶液6.7ml(終濃度1.0mg/ml)を添加し、pHが約4.6であることを確認したのち、酸素ガスを注入しながら60℃で撹拌・反応を30分間行った後、融点測定用のガラス管に充填して40℃で24時間反応させることで3種類の架橋性ゼラチンのゲル状物を得た。
【0038】
(実施例4:架橋性ゼラチンの融点測定)
ゼラチンの融点測定法はJIS規格に沿った方法にて行った。つまり、ウォーターバスに蒸留水と撹拌棒を入れたビーカーを入れた。ビーカー中に実施例2で得られたゼラチンのゲル状物を充填させたガラス管を所定の高さまで水没させ、スターラーで撹拌しながら水温を上昇させた(1℃/分)。融点はガラス管下方に入った気泡が所定の高さまで来たところを融点とした。またコントロールとして架橋促進剤未添加(コントロール1)、架橋促進剤・ラッカーゼY120未添加(コントロール2)、ゼラチンの融点上昇に使用されるトランスグルタミナーゼ(味の素(株)社製)のみを終濃度1mg/ml添加したものを作製し、同様の方法にてそれぞれの融点を測定した。
【0039】
その結果、フェルラ酸またはリモネンを添加したゼラチンにて融点上昇が確認された(表3)。ラッカーゼY120のみを添加して得られたゼラチン(コントロール1)においても融点の上昇が確認されたが、前記のフェルラ酸やリモネン化合物を添加したものの方が、融点がさらに上昇したことから、フェルラ酸およびリモネンの架橋促進剤としての効果が明らかになった。また、架橋促進剤・ラッカーゼY120未添加のゼラチンゲル(コントロール2)では融点は上昇しなかった。トランスグルタミナーゼのみを添加したゼラチンでは、pHが4.6の条件下では融点の上昇は認められなかった。
【0040】
【表3】

【0041】
(実施例5:架橋性ゼラチンパウダーの作製)
実施例3において、フェルラ酸またはリモネンを用いて得られた架橋性ゼラチンのゲル状物を、80℃で30分程度の加熱処理に供して酵素を失活させた後、凍結乾燥させることで、パウダー状物とした。
この架橋性ゼラチンパウダーは、ゲル状のときと比べて、容積が90%程度低減されていた。
また、架橋性ゼラチンパウダー100gに水140gを混合し加熱して膨潤させることで、再度ゲル化させることも可能であった。
この再度ゲル化した架橋性ゼラチンの融点を実施例3と同様にして測定したところ、表2に示すような融点を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸および/またはリモネンを架橋促進剤として含有するゼラチン水溶液に、ポリフェノールオキシダーゼを作用させて得られることを特徴とする架橋性ゼラチン。
【請求項2】
ポリフェノールオキシダーゼがラッカーゼである請求項1記載の架橋性ゼラチン。
【請求項3】
フェルラ酸および/またはリモネンを含有するゼラチン用架橋促進剤。
【請求項4】
フェルラ酸および/またはリモネンをゼラチンと混合して得られるゼラチン水溶液にポリフェノールオキシダーゼを作用させる工程からなる請求項1または2記載の架橋性ゼラチンの製造方法。

【公開番号】特開2012−175916(P2012−175916A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40281(P2011−40281)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)