説明

架空送電線

【課題】環境上問題となる風騒音とコロナ騒音を低減し、台風などの強風時に受ける風圧荷重を低減するとともに、CO削減の観点から、耐腐食性能に優れ、低ロス化が図れ、ひいては環境面で総合的に優れた架空送電線を提供する。
【解決手段】架空送電線10は、複数のアルミ覆鋼線11による鋼心部11Aと、その外周にセグメント形状の複数本のアルミニウム素子をスパイラル状に撚り合わせた内層及び最外層の導体部14とから構成され、導体部14は突起部と平滑部からなり、突起部は隣り合う2本の突起部素線130A、130Bで形成され、その間に溝部13aを備え、突起部は最外層に1箇所、平滑部素線の角の曲率半径Rは1.5〜2.3mm、導体部は内層及び最外層の全て異型成型導体、最外層の素線の数は9〜12本、突起部の平滑部素線の外周面からの突起高さhは1〜2mm、溝部の溝深さdは2〜3mm、溝部の開き角αは12°〜20°、導体部の表面は親水性処理を施した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風騒音とコロナ騒音と風圧荷重を抑制し、さらにCO削減の観点から低ロス化や耐腐食特性向上にも配慮した環境対応型の架空送電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空送電線路は、近年の超高圧化による大型化や市街地への接近に伴い、その線路に布設された架空送電線(電線)から発生する強風時における風騒音のレベルが高くなるため、環境対策の観点から電線から生じる風騒音を低減することが望まれている。また、我国の主要な幹線系送電網である500kV級架空送電線路に代表される超高圧架空送電線では、降雨時に電線表面に形成される水滴からコロナ放電が発生し、これに伴ってコロナ騒音(Audible Noise)が発生し、特にコロナハム音についての騒音対策が必要である。さらには、架空送電線路を構成する鉄塔などの支持物が、最近の地球温暖化に伴い大型化する台風に耐えるためにも、環境対策と合わせて電線が受ける風圧荷重の低減が重要な課題である。
【0003】
図12は、風騒音レベルを低減させるための従来の電線の断面を示す(例えば、特許文献1参照。)。同図に示す特許文献1第3図の電線100は、内部を構成する鋼心部の素線101、異型成型形状からなる導体部の内層素線102、中層素線103、及びそれらの周囲に、最外層110として、厚肉素線111及び薄肉素線112を上下に対称配置したものである。また、厚肉素線111の表面111aと薄肉素線112の表面112aとの間に段差を形成し、その段差を長手方向にスパイラル状に電線表面に形成することで、電線の外周にスパイラル素線を巻回したのと同等以上の風騒音防止効果を発揮するとされている。
【0004】
しかしながら、図12の電線100では、コロナ騒音が高くなってしまうことが判明したことから、風騒音レベルとコロナ騒音レベルの両者を低減できる図13に示すような架空送電線が提案されるに至った(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
図13は、特許文献2第1図の電線断面を示し、電線200は、内部を構成する鋼心部の素線201、導体部の円形形状の内層素線202、及びその周囲に、最外層210として、異型成型形状の高い段差面211aを有する素線211、及び低い段差面212aを有する異型成型形状の素線212を、素線211が上下となるように配置したものである。さらに、高い段差面211aを有する3本の素線211の外周側を略扇形状に形成し、この素線211同士を密着することで素線211間に窪みを形成する。この窪みの深さ及び幅を最適な値とすることにより、風騒音とコロナ騒音が低くなるとされている。
【0006】
さらに、電線の超高圧化に伴い、コロナ騒音特性のさらなる改善が必要となり、コロナ騒音特性の改善を図った電線が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
図14は、特許文献3第1図の電線断面を示し、電線300は、内部を構成する鋼心部の素線301、導体部の円形形状の内層素線302、及びその周囲に、最外層310として、異型成型形状の厚肉素線311、薄肉素線312、及び介在素線313を配置したものである。2本の厚肉素線311の間に2本の介在素線313を設けることにより、その厚肉素線311間に凹部(溝部)が形成される。この溝部を1つ又は上下に2つ設けることにより、降雨時の雨滴の水切れ性が改善し、コロナ騒音が低くなるとされている。
【0008】
以上述べたような低風騒音、低コロナ騒音の両特性を満足する上記の対策電線について、発明者らは、低風圧特性をも満足する電線であるか否かを検討したところ、風速40m/s時以上の大型台風にも耐えられるような十分な低風圧特性を有しておらず、電線の支持物である鉄塔の強度計算においては、標準電線と同様の扱いにとどまっている。
【0009】
また、コロナ騒音は、上述したように降雨時に電線表面に形成される水滴を音源とするものであり、雨水が電線内部に浸入、長時間かけて排出されるためにコロナ騒音が持続することも問題となる。そこで、そのようなコロナ騒音を低減させる方法として、電線内部の素線間を充填材で埋めてしまう方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。電線内部の素線間の隙間に充填材を充填することで、雨上がりの後、水滴部分にそれ以上の水が供給されなくなり、早期にコロナ放電が停止し、コロナ騒音特性が向上するとされている。
【0010】
また、風騒音やコロナ騒音を低減し、なおかつ電線の風圧荷重の低減に主眼をおいた低風圧架空送電線が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0011】
図15は、特許文献5図1の電線断面を示し、電線400は、内部を構成する鋼心部の素線401、導体部の円形形状の内層素線402、中層素線403、及びその周囲に、最外層410として、素線寸法の異なる同じく円形形状の素線411、412、413、414を並べて電線の断面形状を楕円形状として所定のピッチで捻れた特殊な形状としたものである。この断面の流線形状により電線周りの風の流れを抑制し、かつ電線の投影面積が小さくなることで風圧荷重を少なくすることができ、しかも風騒音とコロナ騒音を低減することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭59−96603号公報
【特許文献2】特開昭63−116310号公報
【特許文献3】特公平6−97572号公報
【特許文献4】特開平10−255554号公報
【特許文献5】特開平9−330617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
風騒音、コロナ騒音、風圧荷重の3つの特性に関して、従来、おおよそ以下の知見によって、各目的別の架空送電線がこれまでに数多く開発、実用化されてきている。
【0014】
低騒音(風音)電線としては、最外層素線を平滑部と突起部とで構成して段差を設けたことにより、電線まわりの渦の定常性を乱し、風騒音の低減を図るというものである。
【0015】
低風圧電線としては、最外層素線の素線形状や溝形状の工夫により、電線表面の流れや剥離の制御により、電線後方の渦や負圧領域を制御して、低風圧効果を得る方法などが検討されている。
【0016】
電線のコロナ騒音レベルを低減させるためには、アーマロッド巻き付けや、電線の大サイズ化又は多導体化によって、電線の最大表面電位傾度を減少させ、低コロナ騒音特性を得る。または、電線自体に風騒音低減効果を持たせる低風音電線(開発当初は風騒音低減が主体で、コロナ騒音に関する認識が低かった)の突起部を改良し低コロナ騒音特性を得る。あるいは電線内部への雨水の浸水/流出を抑制して低コロナ騒音特性を得るというものである。
【0017】
以上述べた各目的別の電線は実用化されているが、風騒音、コロナ騒音、風圧荷重の3つのレベルを低減させる特性を同時に併せ持つ電線の実用化はされていない。これは、上述した各開発要素(課題)が必ずしも同一方向の手段となっていないからである。
【0018】
すなわち、低風騒音効果を得るために、突起部を設ける構造が必要であるが、突起部を形成することで、電線の受風面積(電線の投影面積)が標準電線より見かけ上増加するため、突起部の流れの制御による風圧低減効果が不十分な場合には、風圧荷重の増加に繋がる可能性がある。また、電線に突起部を形成すると、突起部分の最大表面電位傾度は、突起が無かった場合の最大表面電位傾度より高くなるため、この部分に水滴が付着し続けるとコロナ騒音レベルの上昇に繋がる。コロナ騒音レベルの上昇を抑止するには、水滴が付着し続けないように、水切れ特性(水滴が早く落ち易い構造)の向上が必要になる。
したがって、低コロナ騒音特性、低風圧特性及び低風騒音特性を同時に合わせ持つ、即ち満足させるには、電線表面に突起部を設け、かつ、電線表面に素線形状の工夫を行い、風圧荷重及びコロナ騒音面でも良好な特性を得るための構造検討が必要であった。
【0019】
また、風騒音とコロナ騒音を協調して低減させる方法としては、例えば素線2本を並べて突起部を形成し、その素線の間に2本の素線によって窪みの溝部を形成し、水切れ性を改善する方法が一般的であった(例えば、特許文献3参照。)。
【0020】
しかしながら、この方法では、最外層の素線数が少なくなり、突起部と溝部を形成する素線の合計本数が最外層素線に占める割合が大きくなり、電線断面で見た場合の溝部を含めた突起部の開き角(実線路に適用された低騒音電線の開き角はサイズによらず45度程度)が大きくなり、風騒音低減効果が不十分になる。
また、突起部開き角を45度程度にするため、突起部の素線幅を細くすると、重角度鉄塔などの水平角度の大きい場所での施工時に、電線が金車を通過する時に突起部素線に横方向の荷重が作用し、突起部形状が崩れて風騒音特性に影響する可能性がある。ACSR(鋼心アルミニウム撚線)410mmの場合には、最外層素線数が16本であり、突起部に溝部と突起部で4本使用すると、突起部開き角は90度になる。
【0021】
我国の主要幹線では500kVを採用しており、送電ロス(電圧の2乗に反比例)は、275kV送電に比較して4分の1で効率的である。また、送電ロスは電気抵抗に反比例するため、電線サイズを太くすれば良いが、電線サイズを太くすると、電線に作用する風圧荷重が増大し、電線を支持する鉄塔も大型化し、大幅なコスト増加になるため、大電流容量送電が必要な線路で、太いサイズのACSR810mmなどが使用されているが、主要幹線では経済性や台風が考慮され、ACSR410mmが多く使用されている。
コロナ騒音面からは、ACSR810mmであれば電線表面電位傾度は低くなるため問題が発生しにくいが建設コスト増加し、ACSR330mmの場合には表面電位傾度が高くコロナ騒音レベルが高くなりすぎるなどの問題があるため、主要幹線では結果的にACSR410mmが多く使用されており、このサイズの電線をターゲットとした最適な環境対策電線の開発が求められている。
【0022】
さらに、架空送電線路は昭和30〜40年代に多くが建設され、建設後40〜50年経過している。このため、海岸に近い場所では海塩粒子が架空送電線内部に滞留するとともに、目ざましい経済産業の発展による酸性雨の影響もあり、鋼線とアルミニウムの異種金属接触による内部腐食が見つかる場合がある。このことから、電線張替時には内部腐食の発生し難い電線が求められている。
【0023】
500kVを代表とする超高圧架空送電線路には、ACSR410mmなどの大サイズ架空送電線が4導体などの多導体送電線として架線されており、腐食による強度低下などから張替時期を迎える線路設備が多くなっているが、鉄塔などの支持物を含めての張替には膨大な費用が掛かること、また、コロナ騒音対策面から電線外径を増加することは風圧荷重の増加にともなう鉄塔強度不足からそのままの電線張替は難しく、現状架線されている電線外径の範囲内で、環境面を配慮した電線が求められている。
【0024】
上述したように、従来の架空送電線では、風騒音、コロナ騒音、風圧荷重の3つの特性を同時に低減させることができていない。また、近年ではCO削減の観点から、線路設備を長期間に亘って使用するために、電線の内部腐食が問題となってきており、耐腐食性能に優れることが要求されている。さらに世界的な温暖化対策として、送電の効率化が挙げられるが、電線張替時には、電線の電気抵抗を下げて電気抵抗による発熱ロスを少なくできる低ロス化の電線が求められている。
【0025】
したがって、本発明の目的は、環境上問題となる風騒音とコロナ騒音を低減し、台風などの強風時に受ける風圧荷重を低減するとともに、CO削減の観点から、耐腐食性能に優れ、低ロス化が図れ、ひいては環境面で総合的に優れた架空送電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、アルミニウム被覆鋼線の鋼心部と、その鋼心部の外周にセグメント形状の複数本のアルミニウム素線をスパイラル状に撚り合せた内層及び最外層の導体部とから構成され、その導体部の最外層は外側に突出した突起部及び平滑部から形成され、その突起部は隣り合う2本の素線により形成されてその突起部間に溝部を備え、
前記突起部は、最外層に1箇所のみ設けるものとし、
前記平滑部の素線の角は、丸く形成され、その曲率半径Rを、1.5〜2.3mmとし、
前記導体部は、内層及び最外層の全てを異型成型導体とし、
前記最外層の素線の数は、9〜12本とし、
前記突起部の前記平滑部の素線の外周面からの突起高さhは、1〜2mmとし、
前記溝部の溝深さdは、2〜3mmとし、
前記溝部の開き角αは、12°〜20°とし、
前記導体部の表面は、親水性処理が施されたことにより、
低風騒音・低コロナ騒音・低風圧荷重・低ロス・耐腐食などの各特性を有していることを特徴とする架空送電線を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、環境上問題となる風騒音とコロナ騒音を低減し、台風などの強風時に受ける風圧荷重を低減するとともに、CO削減の観点から、耐腐食性能に優れ、低ロス化が図れ、ひいては環境面で総合的に優れた架空送電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図2】図2は、図1に示す架空送電線の突起部素線を拡大した断面図である。
【図3】図3は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(風速20m/s時の突起高さhと風音低減量の関係)を示す図である。
【図4】図4は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(風速40m/s時の突起高さと風圧低減量の関係)を示す図である。
【図5】図5は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(溝深さと水滴落下時間の関係)を示す図である。
【図6】図6は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(突起部の数とコロナハム音の関係)を示す図である。
【図7】図7は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(平滑部素線131の角の形状と水滴落下回数の関係)を示す図である。
【図8】図8は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(電線の風圧(抗力係数CD)と電線表面の粗さ(形状係数R/Dw)との関係)を示す図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図10】図10は、本発明の第3の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。
【図11】図11(a)〜(m)は、図1、図2に示す架空送電線の溝部の変形例を示す図である。
【図12】図12は、従来の架空送電線の断面図である。
【図13】図13は、従来の架空送電線の断面図である。
【図14】図14は、従来の架空送電線の断面図である。
【図15】図15は、従来の架空送電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、各図中、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複説明を省略する。
【0030】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。この架空送電線10は、複数の断面円形形状のアルミニウム被覆鋼線(アルミ覆鋼線)11による鋼心部11Aと、その鋼心部11Aの周囲に配置された断面略扇形状の異型成型導体とした複数の内層素線12(内層)と、その内層素線12の周囲に配置された断面略扇形状の異型成型導体の素線を撚り合わせて分割形状(セグメント形状)にした最外層13とからなるアルミニウム導体部(導体部)14から構成されたものであり、例えば外径(Dh)20〜40mm程度の電線に適用される。
【0031】
鋼心部11Aは、テンションメンバーとして機能するように鋼線11aの周囲をアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム被覆部11bで被覆したアルミ覆鋼線11を複数本撚り合わせたものであり、アルミニウム導体部(導体部)14は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなり鋼心部11Aの外周に内層素線12及び最外層13を順次スパイラル状に撚り合わせて形成したものである。
【0032】
そして、最外層13の1箇所には、隣り合う2本の素線130A,130Bにより外側に突出した突起部132A,132Bが形成され、その突起部132A,132Bの間に溝部13aが設けられる。突起部132A,132B以外の複数の素線は、平滑部を構成する平滑部素線131である。
【0033】
内層素線12は、鋼心部11Aの周囲を複数本(本実施の形態では8本)撚り合わせて配置される。内層素線12のサイズは、例えば幅8mm、厚さ(高さ)4mmを有する。なお、内層素線12のサイズや本数は、上記のものに限定されない。
【0034】
最外層13は、上述した一対の突起部素線130A,130Bと、複数の平滑部素線131とから構成されている。突起部素線130A,130B及び平滑部素線131は、例えばアルミニウム合金からなる。最外層13を構成する素線の数は、9〜12本が好ましい。
【0035】
内層素線12、突起部素線130A,130B及び平滑部素線131は、異型成型ダイスを用いて異型伸線され、略扇形の異型素線になっている。これにより、電線内部に水滴の溜まる空間を削減し、内部から染み出す水滴によるコロナ騒音を低減することが可能になる。
【0036】
最外層13の表面は、親水性処理が施されている。親水性処理としては、例えば酸化チタン等を含有する親水性材料を塗布してもよい。ここで「親水性」とは、表面に水が付着した場合に、当該水が水滴を形成せず一様に表面に広がり、例えば接触角(液滴の接線と固体面とのなす角)が20度以下又は30度以下となる特性をいう。この親水性処理により、架空送電線10の表面に雨水が付着した場合、雨水は水滴とならずにあるいは水滴をほとんど形成せずに最下点まで滑るように移動し、最後にはそこから滑落するので、コロナ騒音を低減することが可能になる。
【0037】
一対の突起部素線130A、130Bは、線対称の形状を有し、平滑部素線131の外周面131aよりも高さが高い突起部132A,132Bと、平滑部素線131の外周面131aよりも高さが低い溝部133A,133Bとを有する。一対の突起部素線130A、130Bは、溝部133A,133Bが連続するように隣り合って配置されて1つの溝部13aを構成する。そして、突起部132A,132B及び溝部13aは、長手方向に対してスパイラル状に形成されている。
【0038】
図2は、図1に示す架空送電線10の突起部132A、132Bを拡大した断面図である。突起部132A、132Bの平滑部素線131の外周面131aからの高さ(突起高さ)hは、1〜2mmが好ましく、1.5〜2mmがより好ましい。
【0039】
溝部13aの開き角αは、12〜20°が好ましく、16〜20°がより好ましい。溝部13aの溝深さdは、1〜3mmが好ましく、1.5〜2.5mmがより好ましい。ただし、d>hが好ましい。
【0040】
平滑部素線131は、外周面131aの角を丸く形成している。丸く形成された角の曲率半径Rは、1.5〜2.5mmが好ましく、1.8〜2.0mmがより好ましい。また、電線外径(突起部を除く)をDwとしたとき、RとDwの比(形状指数)は、0.05〜0.08が好ましい。
【0041】
(突起高さhの数値範囲の意義)
架空送電線10の断面形状は、円形に近い方が風圧荷重面で有利であるから、突起部132A、132Bの箇所を1箇所としている。一方、突起部132A、132Bの箇所を減らすことは風騒音低減の面からは不利に働くため、突起高さhは、風圧荷重、風騒音、コロナ騒音の全ての特性を評価して決定される。
【0042】
図3は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(風速20m/s時の突起高さhと風音低減量の関係)を示す図である。なお、図3の縦軸は、普通電線比の風音低減量である。図3から、10dB(A)程度以上の低風音効果を発揮するためには、突起高さhは、1mm以上必要であることが分かる。
【0043】
図4は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(風速40m/s時の突起高さと風圧低減量の関係)を示す図である。なお、図4の縦軸は、普通電線比の風圧荷重低減量である。突起高さhは、風圧荷重面からは必要以上の高さは好ましくない。図4から、普通電線比で約20%以上の低風圧特性を得るためには、突起高さhは2mm以下に抑える必要があることが分かる。
【0044】
従って、図3の低風騒音及び図4の低風圧を考慮すると、突起高さhの適正範囲は1〜2mmとなる。
【0045】
(溝部の開き角αと溝深さdの数値範囲の意義)
図5は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(溝深さと水滴落下時間の関係)を示す図である。具体的には、図5は、溝部13aの開き角αと溝深さdをパラメータとして降雨時に電線の突起部132A、132Bから落下する水滴を観察した結果を示す。水滴が10回落下する所要時間を測定しており、コロナ騒音面では早期に水滴が落下すること(落下時間が短いこと)が特性面で良好である。図5から、溝部13aの開き角度αは12〜20°が好ましく、溝深さdは1〜3mmが好ましい。
【0046】
(溝付突起部を1つとした理由)
コロナ騒音の低減のため、溝部13aを有する突起部の数は、従来の低騒音電線のように対角2箇所ではなく1箇所とした。したがって、突起部132A、132Bを含む高さ(垂直)方向の電線外径Dhは、幅(水平)方向の電線外径Dwに1箇所の突起高さh×1を加えたものとなり、外径の増加を抑制することができ、コロナ騒音の低減だけでなく、風圧荷重面、低風騒音面においても有利となる。
【0047】
図6は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(溝部の数とコロナハム音の関係)を示す図である。図6から、コロナハム音が約20dB(A)以下の電線表面最大電位傾度Gmaxが10〜13kV/cmまではコロナ騒音より周囲環境の騒音レベル(暗騒音レベル)が高いため、溝付突起部が1箇所と2箇所とで同様にコロナハム音(コロナ騒音のうち電源周波数の2倍の周波数の音)に有意差は無いが、13kV/cmを超えた後は、突起部が1箇所の方が2箇所の方よりも7dB以上コロナハム音を小さくできることが分かる。
【0048】
(平滑部素線の角の曲率半径Rの数値範囲の意義)
図7は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(平滑部素線131の角の形状と水滴落下回数の関係)を示す図である。同図は、平滑部素線131について、図6と同様に降雨時の雨滴を観察した結果を示す。また、同図は、コロナケージにおいて、電線表面最大電位傾度Gmax=14kV/cmの課電中に、注水停止後の累積水滴落下回数を測定したものである。コロナ騒音面では、時間経過とともに特性図の傾きがなだらか(落下回数が時間経過とともに減少)になるのが良好である。図7から例えば、R0.5mmと電線表面がほとんど平滑な場合に対し、R=2.5mmまで増大するに従い累積回数が半減しコロナ騒音面で有利であることが分かる。曲率半径Rを極度に大きくすると、風圧荷重面で不利に働くためR=1.5mm程度以上が適正範囲である。
【0049】
(形状指数R/Dwの数値範囲の意義)
図8は、第1の実施の形態に係る架空送電線の性能試験結果(電線の風圧荷重(抗力係数CD)と電線表面の粗さ(形状係数R/Dw)との関係)を示す図である。電線表面の粗さは、最外層13の素線1本当たりの分割開き角β(素線の本数、または、溝の数)と溝部13aの形状指数R/Dw(Rは角の曲率半径、Dwは電線外径)により決まる。図8から形状指数R/Dw=0.03〜0.04付近を境として、抗力係数CDが大きく変化する急峻形型とそれ以外の中間・平坦型とに分かれる。これら抗力係数の実線路への適用を考えると表1のようになる。
【0050】


抗力係数の最小値を目指すのであれば、抗力係数CD特性図は急峻型となる。しかし、実環境で風速は変動するため、風速の変動に伴って抗力係数が大きく変化すると、電線の水平方向や上下方向の振動が大きくなり、回線間短絡や相間短絡を起こす場合が懸念される。そこで、抗力係数CDが風速の変動で大きく変化しないように、抗力係数CDの風速依存性は風速の増加に伴い、抗力係数も徐々に低下する中間・平坦型が好ましい。表1において、送電線への適用を考えて抗力係数CDの範囲を0.6〜0.8とすると、図8において形状指数R/Dwは0.05〜0.08が適正な範囲となる。
【0051】
(最外層の素線数の数値範囲の意義)
βを30°として分割すると、最外層13の素線間の溝数は12となり、標準電線の溝数16よりも少なくなるため、電線内部への雨水の進入経路の軽減につながりコロナ騒音で有利である。また、最外層の平滑部素線131の等価外径を大きくしたことにより、隣接する平滑部素線131との接触面積が広くなり、水分が入り難く、コロナ騒音も発生しにくくなる。
【0052】
但し、最外層13の平滑部素線131の等価外径を大きくし過ぎると、電線振動時の素線の曲げ歪が大きくなり、振動疲労寿命に影響するため、電気設備基準で定められたアルミニウム素線の等価外径6.6mmより小さくする必要がある。平滑部素線131の幅を8mm、高さを4mm程度とすると、最外層13の素線数は9本となる。異型成型導体である平滑部素線131の幅と高さの比を大きくし過ぎると、素線130A、130B、131の異型伸線ダイスでの素線の変形抵抗が増大し伸線加工が難しくなるため、素線数は9〜12本程度が好ましい。平滑部素線131にも水滴が形成されるとした場合には、素線本数が9本と標準の16本では、音源の数が9/16になるため、コロナ騒音レベルは計算上で、10log(9/16)=−2.5(dB)の低減となる。
【0053】
(実施の形態の効果)
本発明の第1実施の形態の架空送電線によれば、以下の効果を奏する。
(1)突起部の溝部を一箇所とし、その溝部の形状を工夫し、さらに平滑部の平滑部素線の角の曲率半径を適正化し、セグメント形状の素線を採用したので、コロナ騒音、特にコロナハム音を低減できたことから、低コロナ騒音化を図ることができる。
(2)突起部の溝部(深さと開き角度)の形状、突起部の高さ、電線表面での1箇所の突起部、及び電線表面の粗さ、並びに平滑部の角の曲率半径などを定めることで、風騒音とコロナ騒音を低減できるとともに、低風圧化を図ることができた。
(3)電線の水滴落下箇所が突起部に集中するが、一対の突起部間に溝部を設けたので、突起部の水切れ性が向上する。
(4)テンションメンバーとして、耐腐食性能に優れるアルミ覆鋼線を採用したので、異種金属接触に伴う内部腐食を抑止し、電線の張替インターバルを長くすることができ、環境面でも配慮した構造である。
(5)電線を構成する突起部の最外層、内層の全てに異型成型導体を用いることで、同一の電線外径でも電気抵抗を下げることができ、さらに鋼心部にアルミ覆電線を用いることで、鋼線部分にも電流が流れて、電流損失を制御することにより、低ロス化を促進することができる。
(6)標準電線と同じ外径であっても、電力需要の増大に伴う大電流容量の送電が可能となり、鉄塔などの支持物の張替えが不要となり、経済的負担を軽減できる。
(7)最外層を親水性処理したことにより、電線表面に雨水が付着することなく滑落するので、コロナ騒音を低減することができる。
【0054】
[第2の実施の形態]
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。本実施の形態は、第1の実施の形態において、鋼心部11Aを構成する7本のアルミ覆鋼線11のうち、中心を除く6本のアルミ覆鋼線11をセグメント形状、すなわち断面円形形状の鋼線11aの周囲に断面略扇形状のアルミニウム被覆部11cで被覆した異型成型導体の鋼線11aを撚り合わせたものである。
【0055】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態よりも電線内部の空隙をさらに減少させることができ、雨水が溜まり難い構造のため、コロナ騒音の更なる改善が可能になる。
【0056】
[第3の実施の形態]
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る架空送電線の断面図である。本実施の形態は、第2の実施の形態において、アルミニウム導体部を構成する内層素線12B,及び最外層13の素線130A、130B、131Cを隣接する素線同士を噛合い構造としたものである。すなわち、内層素線12Bは、凸部12aと凹部12bとを有し、凹部12bには隣の内層素線12Bの凸部12aが嵌まり込む形状になっている。最外層13の素線130A、130B、131Cは、凸部13bと凹部13cを有し、凹部13cには隣の素線130A、130B、131Cの凸部13bが嵌まり込む形状になっている。
【0057】
この第3の実施の形態によれば、電線の型崩れが防止でき、より安定して電線性能を発揮できるとともに、外部から素線間を通り、電線内部への水の進入防止に有効となり、コロナ騒音の低減に効果的である。
【0058】
(変形例)
図11(a)〜(m)は、図1で示した突起部の溝部13aの変形例を示す図である。図1で説明した突起部素線130A、130Bの溝部133A、133Bによって形成される溝部13aの開き角度α、溝深さdを、上記の数値範囲で変化させてもよく、溝部13aの溝幅も変形可能である。
【0059】
なお、本発明は、上記実施の形態及び上記実施例に限定されず、発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10 架空送電線
11A 鋼心部
11 アルミ覆鋼線
11a 鋼線
11b、11c アルミニウム被覆部
12、12B 内層素線
112a 凸部
12b 凹部
13 最外層
13a 溝部
13b 凸部
13c 凹部
100 架空送電線
101〜103 素線
110 最外層
111 厚肉素線
111a 表面
112 薄肉素線
130A,130B 突起部素線
131C 平滑部素線
131a 外周面
132A,132B 突起部
133A,133B 溝部
14 導体部
200 架空送電線
201、202 素線
210 最外層
211 素線
211a 高い段差面
212 素線
212a 低い段差面
300 架空送電線
301、302 素線
310 最外層
311 厚肉素線
312 薄肉素線
313 介在素線
400 架空送電線
401、402 素線
410 最外層
411 素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム被覆鋼線の鋼心部と、その鋼心部の外周にセグメント形状の複数本のアルミニウム素線をスパイラル状に撚り合せた内層及び最外層の導体部とから構成され、その導体部の最外層は外側に突出した突起部及び平滑部から形成され、その突起部は隣り合う2本の素線により形成されてその突起部間に溝部を備え、
前記突起部は、最外層に1箇所のみ設けるものとし、
前記平滑部の素線の角は、丸く形成され、その曲率半径Rを、1.5〜2.3mmとし、
前記導体部は、内層及び最外層の全てを異型成型導体とし、
前記最外層の素線の数は、9〜12本とし、
前記突起部の前記平滑部の素線の外周面からの突起高さhは、1〜2mmとし、
前記溝部の溝深さdは、2〜3mmとし、
前記溝部の開き角αは、12°〜20°とし、
前記導体部の表面は、親水性処理が施されたことにより、
低風騒音・低コロナ騒音・低風圧荷重・低ロス・耐腐食などの各特性を有していることを特徴とする架空送電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−256454(P2012−256454A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127743(P2011−127743)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(501304803)株式会社ジェイ・パワーシステムズ (89)
【Fターム(参考)】