説明

染料受容層用樹脂組成物

【課題】生産性が良好で、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性、耐熱保存性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用樹脂組成物の実現。
【解決手段】被熱転写シートの染料受容層用樹脂組成物であって、芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃の重合体(A)と、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の重合体(B)と、シリコーン化合物とを含有することを特徴とする染料受容層用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料受容層用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオ装置等に入力された画像情報などを印画紙等の被熱転写シート上に現像する方法としては、昇華性染料や熱溶融染料を用いる熱転写法が知られている。
熱転写法では、昇華性染料や熱溶融染料を有する染料層が形成された熱転写シート(インクリボンなど)と、染料を受容する染料受容層が形成された被熱転写シート(例えば印画紙など)とを、染料層と染料受容層とが対向するように重ね合わせ、サーマルヘッド等により画像信号に応じて点状に熱を印加することで、染料層の染料が昇華または溶融して被熱転写シートの染料受容層に移行し、該染料受容層に画像が形成される。
【0003】
被熱転写シートは、基材と、該基材上に形成された染料受容層とを備える。染料受容層は、熱転写シートから移行する染料の画像を受容し、この受容により形成された画像を維持する層である。
染料受容層は、通常、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などから形成される。また、染料受容層に、形成された画像の耐熱保存性の向上を目的としてポリイソシアネートなどを添加したり、染料の転写感度や画像の耐光保存性の向上を目的として可塑剤を添加したり、熱転写シートの染料層に対する剥離性(走行性)の向上を目的としてシリコーンオイルなどを添加したりする場合もある。なお、耐熱保存性および耐光保存性とは、画像が転写された被熱転写シートに、熱が加わったり光が照射されたりしても画像が劣化しにくく、所定の画像濃度や色合等を維持できる性能のことである。
【0004】
このように、被熱転写シートは耐熱保存性、耐光保存性、走行性の向上を求められる場合が多い。これらに加え、被熱転写シートには、高印画濃度が求められている。
しかし、高印画濃度や耐光保存性を向上させると、耐熱保存性や走行性が低下しやすく、これとは逆に耐熱保存性や走行性を向上させると、高印画濃度や耐光保存性が低下しやすく、全ての要求を満たすことが困難であった。
【0005】
そこで、これらの要求を満たした被熱転写シートとして、例えば特許文献1には、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、1種以上のポリエステルとのグラフト重合体を含有する染料受容層を備えた被熱転写シートが開示されている。
【特許文献1】国際公開第2006/057192号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の被熱転写シートでは、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとポリエステルとのグラフト重合体がゲル化しやすく、必ずしも染料受容層を形成する樹脂の生産性を満足するものではなかった。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、生産性が良好で、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性、耐熱保存性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用樹脂組成物の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、染料受容層を構成する樹脂(重合体)のガラス転移温度(Tg)が低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性が向上する傾向にある一方、耐熱保存性や走行性が低下する傾向にあり、さらにこのような傾向はTgを高くするほど、逆転することを見出した。そこで、染料受容層用樹脂組成物にTgの高い重合体と、Tgの低い重合体を含有させることで、被熱転写シートに要求される性能、すなわち高印画濃度の維持、並びに耐光保存性、耐熱保存性、および走行性の向上を満足できる染料受容層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の染料受容層用樹脂組成物は、被熱転写シートの染料受容層用樹脂組成物であって、芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃の重合体(A)と、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の重合体(B)と、シリコーン化合物とを含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の染料受容層用樹脂組成物は、被熱転写シートの染料受容層用樹脂組成物であって、芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃の重合体(A)と、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の重合体(B)とを含有し、かつ、前記混合物(A)および/または混合物(B)が、反応性シリコーンを含むことを特徴とする。
【0011】
さらに、前記シリコーン化合物の含有量が、当該染料受容層用樹脂組成物100質量%中、0.1〜5質量%であることが好ましい。
また、前記混合物(A)100質量%中の反応性シリコーンの含有量と、前記混合物(B)100質量%中の反応性シリコーンの含有量の合計が、0.1〜5質量%であることが好ましい。
さらに、前記重合体(A)と重合体(B)の質量比が、重合体(A)/重合体(B)=25/75〜75/25であることが好ましい。
また、前記芳香族環を有する単量体が、スチレン単量体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産性が良好で、高印画濃度を維持でき、かつ、耐光保存性、耐熱保存性、および走行性に優れた被熱転写シートの染料受容層を形成できる染料受容層用樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[第一の実施形態]
本発明の染料受容層用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」という場合がある。)の第一の実施形態について説明する。
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)と重合体(B)とシリコーン化合物を含有する。
なお、樹脂組成物より形成される染料受容層は、インクリボンなどの熱転写シートに形成された染料層が選択的に転写され、転写された染料の画像を受容し、この受容により形成された画像を維持する層である。
【0014】
重合体(A)は、芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる重合体である。
本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0015】
芳香族環を有する単量体の含有量は、混合物(A)100質量%中、30〜85質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。含有量が30質量%以上であれば、印画濃度を高めることができる。ただし、含有量が必要以上に多くなると、重合体(A)のガラス転移温度(Tg)が高くなる傾向にあり、耐光保存性を維持しにくくなる。従って、含有量の上限は85質量%以下が好ましい。
【0016】
芳香族環を有する単量体としては、スチレン単量体、ビニルトルエン単量体、p−tert−ブチルスチレン単量体、ビニル安息香酸単量体、α−メチルスチレン単量体、p−クロロスチレン単量体、ビニルナフタレン単量体、ベンジル(メタ)アクリレート単量体、フェノキシエチル(メタ)アクリレート単量体などが挙げられる。中でも、安価であり、製造コストを軽減できる観点からスチレン単量体が好ましい。
【0017】
アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、混合物(A)100質量%中、15〜70質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。含有量が15質量%以上であれば、耐光保存性を維持できる。一方、含有量が70質量%以下であれば、高印画濃度を維持できる。
【0018】
アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基などが挙げられる。
このようなアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート単量体、エチル(メタ)アクリレート単量体、ブチル(メタ)アクリレート単量体、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート単量体、ラウリル(メタ)アクリレート単量体、ステアリル(メタ)アクリレート単量体などが挙げられる。
【0019】
ポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば末端がアルキル基または水酸基であるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート単量体、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単量体、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単量体、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単量体、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単量体、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート単量体、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート単量体、メトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート単量体、エトキシポリブチレングリコール(メタ)アクリレート単量体などが挙げられる。中でも、末端がアルキル基または水酸基であるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく、具体的にはメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)クリレート等が挙げられる。
【0020】
また、このようなポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、市販のものを用いてもよく、例えば日本油脂社製の「PME−100」、「PME−200」、「PE−350」、「PME−400」、「PME−550」、「PLE−200」、「PSE−200」、「PSE−400」、「ALE−200」、「AME−400」、「AEE−100」、「PP−500」、「PP−800」、「AP−150」、「AP−400」などが挙げられる。
【0021】
重合体(A)は、上述した単量体を含む混合物(A)を共重合することで得られる。共重合の方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などが挙げられる。
このようにして得られる重合体(A)は、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃である。Tgが0℃以上であれば、得られる染料受容層を備えた被熱転写シートを熱転写シートに重ねて画像を転写する際に、熱転写シートが融着するのを抑制できる。一方、Tgが50℃以下であれば、高印画濃度および耐光保存性を維持できる。重合体(A)のTgは、20〜40℃が好ましい。
【0022】
上述したように、本発明者らは、染料受容層を構成する樹脂(重合体)のTgが低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性が向上する傾向にあることを見出した。これは、Tgが低くなると、重合体の運動性が高まり、染料の拡散が容易となるので印画濃度が高くなるものと考えられる。
本発明の樹脂組成物は、染料受容層が、Tgが0〜50℃の重合体(A)を含むので、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性に優れた染料受容層を形成できる。
【0023】
ところで、染料受容層は、構成する重合体のTgが低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性を向上できるが、その一方で耐熱保存性や走行性が低下する傾向にある。これはTgが低くなると、耐熱性が低下し、熱転写シートとの熱融着が起こりやすくなることによるものと考えられる。このような傾向は重合体のTgが高くなるほど逆転する。
従って、樹脂組成物は重合体(A)を含むことで、高印画濃度を維持し、かつ耐光保存性を向上させる効果を発揮できるものの、耐熱保存性や走行性を低下させる傾向にある。
そこで、本発明者らは、以下に示す重合体(B)およびシリコーン化合物をさらに樹脂組成物に含有させることで、耐熱保存性および走行性を補うことを見出した。
【0024】
重合体(B)は、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる重合体である。
スチレン単量体の含有量は、混合物(B)100質量%中、30〜95質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。含有量が30質量%以上であれば、耐熱保存性を維持できる。一方、含有量が95質量%以下であれば、高印画濃度を維持できる。
【0025】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有量は、混合物(B)100質量%中、5〜70質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。含有量が5質量%以上であれば、高印画濃度を維持できる。一方、含有量が70質量%以下であれば、耐熱保存性を維持できる。
【0026】
芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、印画濃度を高める観点からベンジル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
重合体(B)は、上述した単量体を含む混合物(B)を共重合することで得られる。共重合の方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば懸濁重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合などが挙げられる。
このようにして得られる重合体(B)は、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃である。Tgが60℃以上であれば、本発明の樹脂組成物より形成される染料受容層の表面に転写される染料が、染料受容層の内部まで拡散し、その拡散された染料が熱的環境で染料受容層の表面へ再拡散して、画像がにじむのを抑制できるため、耐熱保存性を向上できる。一方、Tgが100℃以下であれば、染料受容層が過剰に硬くなるのを抑制できるので、クラックの発生等を防止でき、外観を良好に維持できる。重合体(B)のTgは、60〜80℃が好ましい。
【0028】
上述したように、本発明者らは、染料受容層を構成する重合体のTgが高くなるほど、耐熱熱存性および走行性が向上する傾向にあることを見出した。これは、染料の熱拡散および熱転写シートの熱融着が抑制されることによるものと考えられる。
本発明の被熱転写シートは、染料受容層が、Tgが60〜100℃の重合体(B)を含むので、耐光熱存性および走行性に優れる。
【0029】
重合体(A)と重合体(B)の質量比は、重合体(A)/重合体(B)=25/75〜75/25であることが好ましく、より好ましくは30/70〜50/50である。質量比が25/75以上であれば、耐光保存性および高印画濃度を維持できる。一方、質量比が75/25以下であれば、耐熱保存性を維持できる。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、シリコーン化合物を含有する。シリコーン化合物を含有することで、得られる染料受容層に剥離性を付与することができる。
シリコーン化合物は、反応性シリコーンと、非反応性シリコーンに大別できる。なお、「反応性シリコーン」とは、「分子内に二重結合やメルカプト基を有し、ラジカル反応が可能なシリコーン」、または「水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基等の官能基を有し、例えばイソシアネート基含有(メタ)アクリレート単量体、若しくは共重合体との付加反応が可能なシリコーン」のことである。
【0031】
反応性シリコーンとしては、例えばメルカプト変性ポリオルガノシロキサン、メタクリロイル変性ポリオルガノシロキサン、アミノ変性ポリオルガノシロキサン、エポキシ変性ポリオルガノシロキサン、アルコール変性ポリオルガノシロキサン、カルボキシ変性オルガノシロキサンなどが挙げられる。
また、このような反応性シリコーンとしては、市販のものを用いてもよく、例えば信越シリコーン社製の「X22−167B」、「X22−164」、「X22−162C」、「KF−868」、「KF−105」、「KF−2004」、「KF−6001」;チッソ社製の「FM0725」、「FM−0425」、「FM−7725」、「FM−3325」などが挙げられる。
【0032】
非反応性シリコーンとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
また、このような非反応性シリコーンとしては、市販のものを用いてもよく、例えば信越シリコーン社製の「KF−96−100CS」、「KF−965」、「KF−54」;東レ・ダウコーニング社製の「SH−200」、「SH−203」、「FZ−7001」、「FS−1265−300CS」などが挙げられる。
【0033】
従来、染料受容層の剥離性が悪いと、熱転写シートから被熱転写シートが円滑に剥がれにくく(すなわち、走行性に劣る。)、剥がれる際に印画音と呼ばれる音がして、不愉快に感じる場合があった。なお、印画音の有無は走行性の指標となる。
しかし、本発明の樹脂組成物であれば、シリコーン化合物を構成成分として用いるので、剥離性が付与される。従って、画像の転写の際に印画音が聞こえにくい。
【0034】
シリコーン化合物の含有量は、樹脂組成物100質量%中、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%がより好ましい。
シリコーン化合物の含有量が0.1質量%以上であれば、得られる染料受容層に剥離性を付与できる。従って、熱転写シートの染料層と被熱転写シートの染料受容層とが対向するように重ねて画像を転写した後、被熱転写シートが熱転写シートから円滑に剥がれるので、被熱転写シートの走行性を維持できる。含有量が5質量%以下であれば、はじきが抑制され、染料を転写して画像を形成した後に、画像の保護を目的として必要に応じて染料受容層上にオーバーコート層などの保護層を設ける場合、該保護層の付着性を維持できる。
【0035】
樹脂組成物には、重合体(A)や重合体(B)以外の他の重合体や添加剤が含まれていてもよい。他の重合体としては、例えばポリエステル樹脂、繊維素系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。他の重合体を含有させる場合、その含有量は、重合体(A)と重合体(B)の合計100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましい。
また、添加剤としては、例えばレベリング剤、消泡剤などが挙げられる。添加剤を含有させる場合、その含有量は、重合体(A)と重合体(B)の合計100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましい。
【0036】
樹脂組成物は、上述した重合体(A)、重合体(B)およびシリコーン化合物と、必要に応じて他の重合体や添加剤を溶媒に溶解することで調製できる。
溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、ブタノール、水などが挙げられる。
【0037】
樹脂組成物を用いて染料受容層を形成する際には、乾燥後の膜厚が1〜20μmになるように樹脂組成物を塗布するのが好ましく、より好ましくは2〜10μmである。膜厚が1μm以上であれば、高印画濃度および耐光保存性を維持できる。一方、厚さが20μm以下であれば、走行性および耐熱保存性の低下を抑制できる。
なお、樹脂組成物の塗布方法としては、ロールコート法、バーコート法、グラビアコート法、グラビアリバース法などが挙げられる。
【0038】
なお、本発明で用いる重合体(A)および重合体(B)のTgは、JIS K7121に準拠して測定される。具体的には、まず測定する試料を、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC−60A」)を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理する。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとする。
【0039】
以上説明した、本発明の樹脂組成物は、特定の重合体(A)と、特定の重合体(B)と、シリコーン化合物とを含有する。染料受容層を構成する重合体のTgが低くなるほど、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性が向上する傾向にある一方、耐熱保存性や走行性が低下する傾向にあり、さらにこのような傾向はTgを高くするほど逆転する。
本発明の樹脂組成物より得られる染料受容層は、Tgの低い重合体(A)と、Tgの高い重合体(B)を含有することになる。従って、染料受容層が海島構造となり、重合体(A)は重合体(B)の短所(すなわち、印画濃度や耐光保存性の低下)を補い、重合体(B)は重合体(A)の短所(すなわち、耐熱保存性や走行性の低下)を補いつつ、上述したそれぞれの長所を発現できる。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物は、シリコーン化合物を含有するので、染料受容層に剥離性を付与でき、Tgの高い重合体(B)の効果と相乗して走行性がより向上する。従って、本発明によれば、被熱転写シートに要求される性能、すなわち高印画濃度の維持、および耐光保存性、耐熱保存性、および走行性の向上を満足できる染料受容層を形成できる。
【0041】
さらに、重合体(A)および重合体(B)は、特許文献1に記載のようなグラフト重合法を用いることなく、懸濁重合などの公知の重合法で混合物(A)と混合物(B)をそれぞれ共重合することで得られる。従って、本発明であれば、重合が容易であるので、生産性を良好に維持しつつ、樹脂組成物を製造できる。
なお、混合物(A)と混合物(B)を混合して共重合すると、重合体(A)および重合体(B)がそれぞれ有する特性の両立が困難となる。従って、本発明では、混合物(A)と混合物(B)はそれぞれ共重合するものとする。
【0042】
[第二の実施形態]
本発明の樹脂組成物の第二の実施形態について説明する。
本実施形態が上述した第一の実施形態と異なる点は、樹脂組成物は重合体(A)と重合体(B)とを含有し、かつ、混合物(A)および/または混合物(B)が、反応性シリコーンを含む点である。
以下では、異なる点のみを説明する。
【0043】
混合物(A)および/または混合物(B)に含まれる反応性シリコーンとしては、第一の実施形態の説明で例示した反応性シリコーンが挙げられる。
反応性シリコーンは、混合物(A)100質量%中における含有量と、混合物(B)100質量%中における含有量の合計が、0.1〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%である。含有量が0.1質量%以上であれば、得られる染料受容層に剥離性を付与できる。従って、熱転写シートの染料層と被熱転写シートの染料受容層とが対向するように重ねて画像を転写した後、被熱転写シートが熱転写シートから円滑に剥がれるので、被熱転写シートの走行性を維持できる。含有量が5質量%以下であれば、はじきが抑制され、染料を転写して画像を形成した後に、画像の保護を目的として必要に応じて染料受容層上にオーバーコート層などの保護層を設ける場合、該保護層の付着性を維持できる。
【0044】
反応性シリコーンは、剥離性を付与する目的で用いられるが、該反応性シリコーンを混合物(A)および/または混合物(B)に含まれる単量体と共重合させることで、未反応の反応性シリコーンがブリードするのを効果的に抑制でき、その結果、染料のブリードが起こりにくくなり、画像の退色をより抑制できる。従って、反応性シリコーンを共重合させることで、画像の退色を抑制しつつ、剥離性を付与できるので、走行性を向上できる。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、特定の重合体(A)と、特定の重合体(B)とを含有する。
本発明の樹脂組成物より得られる染料受容層は、Tgの低い重合体(A)と、Tgの高い重合体(B)を含有することになるので海島構造となる。従って、重合体(A)は重合体(B)の短所(すなわち、印画濃度や耐光保存性の低下)を補い、重合体(B)は重合体(A)の短所(すなわち、耐熱保存性や走行性の低下)を補いつつ、上述したそれぞれの長所を発現できる。
【0046】
また、重合体(A)および重合体(B)の少なくとも一方は、反応性シリコーンを混合物に含有させて、上述した特定の単量体と共重合させてなるので、染料受容層に剥離性を付与でき、Tgの高い重合体(B)の効果と相乗して走行性がより向上する。従って、本発明によれば、被熱転写シートに要求される性能、すなわち高印画濃度の維持、および耐光保存性、耐熱保存性、および走行性の向上を満足できる染料受容層を形成できる。
【実施例】
【0047】
<重合体の調製>
(重合体R1)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、0.7質量%ポリアクリル酸ナトリウム(東亞合成社製、「T−50」)の水溶液505gを仕込み、撹拌しながらスチレン(St)79gと、n−ブチルアクリレート(BA)120gと、反応性シリコーン(信越シリコーン社製、「X22−167B」)1gの混合物、および重合開始剤(日本油脂社製、「ナイパーBW」)1.05gを加え、75℃×12時間の条件、さらに90℃×2時間の条件で懸濁重合を行った。重合が完了した後、冷却、洗浄、脱水、乾燥の各工程を経て、Tg=5℃、質量平均分子量30万の重合体R1を得た。
なお、重合体R1のTgは、JIS K7121に準拠して測定した値である。具体的には、まず重合体R1を、示差走査熱量計(島津製作所社製、「DSC−60A」)を用い、予測される試料のTg(予測温度)より約50℃高い温度で10分加熱した後、予測温度より50℃低い温度まで冷却して前処理した。その後、窒素雰囲気下において、昇温速度10℃/分にて昇温して吸熱開始温度を測定し、これをTgとした。
【0048】
(重合体R2〜R18)
混合物中の各単量体の種類およびその含有量(質量部)が、表1に示す値になるように変更した以外は、重合体R1と同様にして重合体R2〜R18を調製した。各重合体のTgを表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1中の略号は、下記化合物を示す。
「St」:スチレン、
「BA」:n−ブチルアクリレート、
「BzA」:ベンジルアクリレート、
「MMA」:メチルメタクリレート、
「PE−350」:ポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレングリコール単位が8個、末端が水酸基)、日本油脂社製、
「X22−167B」:両末端型メルカプト変性ポリオルガノシロキサン、信越シリコーン社製、
「FM0725」:片末端メタクリロイル変性ポリオルガノシロキサン、チッソ社製、
「KF−2004」:側鎖型メルカプト変性ポリオルガノシロキサン、信越シリコーン社製。
【0051】
[実施例1]
<被熱転写シートの製造>
基材として合成紙(東レ社製、「ルミラーE22」、厚さ:188μm)を用いた。
重合体(A)として重合体R1(40g)と、重合体(B)として重合体R13(60g)とをトルエン(400g)に溶解して、染料受容層用塗布液を調製した。
基材上に、乾燥後の染料受容層の厚さが5μmになるように、染料受容層用塗布液をバーコーダーで塗布し、120℃で5分間乾燥して染料受容層を形成した。
【0052】
<評価>
(印画濃度の測定)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて16階調のグレースケールを印刷し、最高濃度をマクベス濃度計(GretagMacbeth社製、「SpectroEye UV」)にて測定し、以下の評価基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:最高濃度が2.00以上。
△:最高濃度が1.80以上、2.00未満。
×:最高濃度が1.80未満。
【0053】
(耐光保存性の評価)
16階調のグレースケールを印刷し、キセノンランプ(スガ試験機社製、「テーブルサン XT750L」)を用いて、照度20000lx、照射時間72時間の条件で耐候試験を行った。照射前後の色差をマクベス濃度計(GretagMacbeth社製、「SpectroEye UV」)にて測定し、以下の評価基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:ΔE≦1.00。
△:1.00<ΔE≦2.00。
×:2.00<ΔE。
【0054】
(耐熱保存性の評価)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて16階調のグレースケールを印刷し、40℃、または60℃の暗室に24時間静置した。静置前後の色差をマクベス濃度計(GretagMacbeth社製、「SpectroEye UV」)にて測定し、以下の評価基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:40℃および60℃のいずれの場合も、ΔE≦1.20。
△:40℃の場合のみΔE≦1.20。
×:40℃および60℃のいずれの場合も、1.20<ΔE。
【0055】
(走行性の評価)
得られた被熱転写シートに対し、熱転写プリンタ(ソニー社製、「デジタルフォトプリンター DPP−EP30」)を使用し、付属のインキリボンを用いて、はがきサイズの黒ベタを印刷した。その際に発せられる印画音について、5人のモニター(被験者)による官能試験を行い、下記の評価基準にて評価した。結果を表2に示す。
○:5人中4人以上が、印画音が気にならない。
△:5人中2〜3人が、印画音が気にならない。
×:5人中4人以上が、印画音が気になる。
【0056】
[実施例2〜14、比較例1〜9]
染料受容層を構成する重合体(A)および重合体(B)として表2に示す重合体を用い、重合体(A)と重合体(B)の質量比が表2に示す値になるように変更した以外は、実施例1と同様にして被熱転写シートを製造し、各評価を行った。結果を表2に示す。
なお、実施例14では、重合体(A)と重合体(B)と反応性シリコーンとを混合して染料受容層用塗布液を調製し、染料受容層を形成した。重合体(A)と重合体(B)と反応性シリコーンの質量比は、重合体(A):重合体(B):反応性シリコーン=40:59.5:0.5とした。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、各実施例で得られた被熱転写シートは、高印画濃度を維持でき、かつ耐光保存性、耐熱保存性、および走行性に優れていた。
【0059】
一方、比較例1で得られた被熱転写シートは、染料受容層がTgの高い重合体(B)を含んでいなかったので、耐熱保存性が各実施例に比べて劣っていた。ただし、反応性シリコーンをスチレンおよびn−ブチルアクリレートと共重合させた重合体R2を重合体(A)として用いたので、剥離性が付与され、実施例1、6と同程度の走行性を維持できた。
比較例2で得られた被熱転写シートは、染料受容層がTgの低い重合体(A)を含んでいなかったので、耐光保存性が各実施例に比べて劣っていた。
比較例3で得られた被熱転写シートは、重合体(B)として用いた重合体R15が、スチレンとn−ブチルアクリレートの共重合体であったため、特に耐光保存性が低下した。
【0060】
比較例4で得られた被熱転写シートは、重合体(B)として用いた重合体R11のTgが39℃と低かったため、耐熱保存性が低下した。
比較例5で得られた被熱転写シートは、スチレン、n−ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、および反応性シリコーンを共重合させた重合体R18を用いて染料受容層を形成したので(すなわち、混合物(A)と混合物(B)を混合して共重合したので)、特に耐熱保存性が低下した。
【0061】
比較例6で得られた被熱転写シートは、重合体(A)として用いた重合体R4、および重合体(B)として用いた重合体R12のいずれも、反応性シリコーンを共重合させなかったので、走行性が低下した。
比較例7で得られた被熱転写シートは、重合体(A)として、芳香族環を有する単量体(スチレン)を用いずに共重合して得られた重合体7を用い、かつ、重合体(B)としてスチレンを用いずに共重合して得られた重合体14を用いたので、印画濃度が低下した。
【0062】
比較例8で得られた被熱転写シートは、重合体(A)として用いた重合体R15のTgが64℃と高く、重合体(B)として用いた重合体R9のTgが29℃と低かったため、特に耐光保存性が低下した。
比較例9で得られた被熱転写シートは、重合体(A)として用いた重合体R9がスチレンとベンジルアクリレートの共重合体であったため、耐光保存性が低下した。また、重合体(A)として用いた重合体R9、および重合体(B)として用いた重合体R12のいずれも、反応性シリコーンを共重合させなかったので、走行性が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被熱転写シートの染料受容層用樹脂組成物であって、
芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃の重合体(A)と、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の重合体(B)と、シリコーン化合物とを含有することを特徴とする染料受容層用樹脂組成物。
【請求項2】
被熱転写シートの染料受容層用樹脂組成物であって、
芳香族環を有する単量体と、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体および/またはポリアルキレンオキサイド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(A)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が0〜50℃の重合体(A)と、スチレン単量体と芳香族環を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体とを含む混合物(B)を共重合してなる、ガラス転移温度(Tg)が60〜100℃の重合体(B)とを含有し、
かつ、前記混合物(A)および/または混合物(B)が、反応性シリコーンを含むことを特徴とする染料受容層用樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン化合物の含有量が、当該染料受容層用樹脂組成物100質量%中、0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の染料受容層用樹脂組成物。
【請求項4】
前記混合物(A)100質量%中の反応性シリコーンの含有量と、前記混合物(B)100質量%中の反応性シリコーンの含有量の合計が、0.1〜5質量%であることを特徴とする請求項2に記載の染料受容層用樹脂組成物。
【請求項5】
前記重合体(A)と重合体(B)の質量比が、重合体(A)/重合体(B)=25/75〜75/25であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の染料受容層用樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族環を有する単量体が、スチレン単量体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の染料受容層用樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−149342(P2010−149342A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328630(P2008−328630)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】