説明

染料含有マイクロカプセルの製造方法

【課題】可逆熱変色性染料として汎用ポリマーと親和性の低い染料を用いたときにおいても、高い効率でカプセル化でき、カプセル化した染料の温度応答性が発現される、新規の染料含有マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】シリコーン溶液に染料溶液を注入して染料を析出させ(S/O)分散系を調製する工程と、この(S/O)分散系のO相にシリコーン硬化剤を添加する工程と、この(S/O)分散系に界面活性剤水溶液を注入してW/(S/O)分散系を得る工程と、このW/(S/O)分散系にさらに界面活性剤水溶液を注入して転相させ(S/O)/W分散系を得る工程と、この(S/O)/W分散系のO相の溶媒を蒸発させながらシリコーンを硬化させる工程とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料含有マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芯物質として温度変化により可逆的に消色、着色する可逆熱変色性染料を含有するマイクロカプセルが知られている(例えば、特許文献1)。また、マイクロカプセルの壁材を形成するカプセルマトリックスとしては、エポキシ樹脂などの汎用ポリマーが一般的に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−307102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、可逆熱変色性染料として汎用ポリマーとは親和性が低い染料を用いた場合、汎用ポリマーでカプセル化しようとしても、カプセル化効率が極めて低く効率良くカプセル化することは困難であり、かつ、たとえカプセル化できたとしても染料の温度応答性、すなわち加熱時に消色、冷却時に着色、が発現されないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、可逆熱変色性染料として汎用ポリマーと親和性の低い染料を用いたときにおいても、高い効率でカプセル化でき、カプセル化した染料の温度応答性が発現される、新規の染料含有マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため種々検討した結果、カプセルマトリックスにシリコーンを採用し、相分離工程、転相乳化工程、液中乾燥工程、ゲル化工程という一連のプロセスを順番に連続して行うことにより、可逆熱変色性染料として汎用ポリマーとは親和性が低い染料を用いた場合においても、高い効率でカプセル化でき、カプセル化した染料の温度応答性が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法は、染料溶液にシリコーン溶液を注入して染料を析出させ(S/O)分散系を調製する工程と、この(S/O)分散系のO相にシリコーン硬化剤を添加する工程と、この(S/O)分散系に界面活性剤水溶液を注入してW/(S/O)分散系を得る工程と、このW/(S/O)分散系にさらに界面活性剤水溶液を注入して転相させ(S/O)/W分散系を得る工程と、この(S/O)/W分散系のO相の溶媒を蒸発させながらシリコーンを硬化させる工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法によれば、可逆熱変色性染料として汎用ポリマーと親和性の低い染料を用いたときにおいても、高い効率でカプセル化でき、カプセル化した染料の温度応答性が発現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1における染料含有マイクロカプセルの製造フローを示すチャートである。
【図2】実施例1における染料含有マイクロカプセルのSEM写真である。
【図3】実施例1における染料含有マイクロカプセルの温度応答性を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法について説明する。
【0011】
本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法は、染料溶液にシリコーン溶液を注入して染料を析出させ(S/O)分散系を調製する工程と、この(S/O)分散系のO相にシリコーン硬化剤を添加する工程と、この(S/O)分散系に界面活性剤水溶液を注入してW/(S/O)分散系を得る工程と、このW/(S/O)分散系にさらに界面活性剤水溶液を注入して転相させ(S/O)/W分散系を得る工程と、この(S/O)/W分散系のO相の溶媒を蒸発させながらシリコーンを硬化させる工程とを備えたものである。
【0012】
はじめに、シリコーン溶液に染料溶液を注入して染料を析出させ(S/O)分散系を調製する。より詳細には、染料溶液を撹拌しながら、染料溶液にシリコーン溶液を、例えば滴下により注入していくと、染料に対して貧溶媒であるシリコーンの濃度が高くなり、微細な染料が析出してきて、その結果、(S/O)分散系が生成される。このように、微細な染料を析出させることにより、染料のカプセル化効率を著しく向上させることが可能となる。
【0013】
ここで、シリコーン溶液とは、シリコーンのモノマーを溶媒に溶解したものである。シリコーンのモノマーとしては、種々のものを用いることができるが、室温硬化型ゴム(RTVゴム)のモノマーが特に好適に用いられる。各種の室温硬化型ゴムのモノマーは、信越化学工業株式会社などから入手できる。また、室温硬化型ゴムのモノマーには一液型と二液型があり、反応の種類により付加反応型と縮合反応型があるが、いずれも使用することができる。また、シリコーン溶液の溶媒としては、シリコーンのモノマーを溶解することのできるものであれば、特定のものに限定されるものではないが、例えば、酢酸エチルが好適に用いられる。染料溶液の溶媒としては、染料を溶解することのできるものであれば、特定のものに限定されるものではないが、例えば、エタノールと酢酸エチルの混合溶媒が好適に用いられる。
【0014】
また、染料としては、特定のものに限定することなく用いられるが、温度応答性染料が好適に用いられる。温度応答性染料としては、酸性染料、塩基性染料のいずれであっても用いることができる。染料の一例としては、ラウロフェノンを用いて調製した染料が挙げられる。
【0015】
つぎに、この(S/O)分散系のO相にシリコーン硬化剤を添加する。
【0016】
続いて、この(S/O)分散系に界面活性剤水溶液を注入してW/(S/O)分散系を得て、このW/(S/O)分散系にさらに界面活性剤水溶液を注入して転相させ(S/O)/W分散系を得る。界面活性剤水溶液を注入するときの注入速度と攪拌速度を調整することにより、染料含有マイクロカプセルの粒径を容易に制御することができる。
【0017】
ここで、界面活性剤としては、特定のものに限定されるものではなく、種々のものを用いることができるが、例えば、ドデシル硫酸ナトリウムが工程に用いられる。
【0018】
そして、この(S/O)/W分散系のO相の溶媒を蒸発させながらシリコーンを硬化させる。このとき、(S/O)/W分散系を撹拌しながら加熱することにより、シリコーンのゲル化と溶媒の蒸発を促進させることができる。
【0019】
最後に水相から分離、乾燥することにより、染料包含マイクロカプセルが得られる。
【0020】
本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法によれば、シリコーンをカプセルマトリックスとすることで、汎用ポリマーとの親和性が低い染料であっても、高いカプセル化効率で染料含有マイクロカプセルを製造することができる。
【0021】
また、相分離法(染料とカプセルマトリックスとの複合化)、転相乳化法(染料を複合化したカプセルマトリックスのエマルション化)、液中乾燥・ゲル化(カプセルマトリックス液滴からの溶媒の除却とマトリックスの硬化)を連続で実施することにより、染料を高含有率で含み粒径の揃ったマイクロカプセルを製造することができる。
【0022】
本発明により得られた染料含有マイクロカプセルは、染料の種類に応じて、情報記録材料、文房具材料、染料、建築材分野に応用可能である。
【0023】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に示す製造フローに従って、染料含有マイクロカプセルを製造した。なお、染料として、可逆熱変色性染料であるラウロフェノン着色体を用いた。このラウロフェノン着色体は、ラウロフェノン(東京化成工業株式会社製)、クリスタルバイオレットラクトン、ビスフェノールAの所定量を加熱、溶融、混合して均一にしてから冷却して調製した。また、シリコーンとして、信越化学工業株式会社製 KE−106(二液型RTVゴム)を用いた。
【0025】
ラウロフェノン(Lf)着色体3.0gを酢酸エチル7.0mlに溶解し、エタノールを加えて10.0ml、50.0ml、又は100mlとした。一方、シリコーン16gを酢酸エチル4mlに溶解した。そして、染料溶液を室温にて100rpmの速度で撹拌しながら、染料溶液にシリコーン溶液を20ml/hの速度で滴下した。滴下終了後、シリコーン硬化剤1.6gを添加し、室温にて100rpmの速度で60分間撹拌した。その後、1.0質量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液200mlを60ml/hの速度で滴下した。そして、70℃に加温して400rpm又は700rpmの速度で7時間撹拌し、溶媒を蒸発させて除去した。
【0026】
得られた染料含有マイクロカプセルのSEM写真を図2に示す。
【0027】
つぎに、得られた染料含有マイクロカプセルの温度応答性を確認した。図3に示すように、常温(左)で青色であったものが、高温(中)では無色になり、再び低温(右)では青色になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料溶液にシリコーン溶液を注入して染料を析出させ(S/O)分散系を調製する工程と、この(S/O)分散系のO相にシリコーン硬化剤を添加する工程と、この(S/O)分散系に界面活性剤水溶液を注入してW/(S/O)分散系を得る工程と、このW/(S/O)分散系にさらに界面活性剤水溶液を注入して転相させ(S/O)/W分散系を得る工程と、この(S/O)/W分散系のO相の溶媒を蒸発させながらシリコーンを硬化させる工程とを備えたことを特徴とする本発明の染料含有マイクロカプセルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−139658(P2012−139658A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−487(P2011−487)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】