説明

染色特性の低下された殺菌組成物及び染色特性の低下方法

【課題】 オルトフタルアルデヒド(以下、OPAという)の染色特性を低下する方法と共に、還元性物質が存在する環境でも優れた殺菌防腐効力を発揮するOPA含有殺菌組成物を提供する。
【解決手段】 OPAと、グリオキシル酸、その塩及びメチルグリオキサールから選ばれるアルデヒド系化合物とを含有する殺菌組成物。OPAに前記アルデヒド系化合物を添加する、OPAの染色特性の低下方法。
【効果】 OPAの使用分野を拡大し、安全に使用することができる。また、製紙白水のような還元物質を多量に含有する場面でも、より少ない添加量で殺菌効力を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌組成物及び染色特性の低下方法に関するものであり、詳しくは、オルトフタルアルデヒド(以下、OPAという)を含有し、染色特性の低下された殺菌組成物の提供、及びOPAの染色特性の低下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OPAは、その優れた殺菌防腐効力のみならず、揮発性や刺激性が低く、実質的に無臭で発癌性の懸念もなく安全に使用できることから、医療分野の消毒及び殺菌剤(特許文献1)として知られ、病院や療養所等の医療装置を殺菌、消毒、滅菌するために使用されている。また、製紙用スライム防除剤(特許文献2)として知られ、工業用殺菌剤として使用されている。しかし、OPAは、アミノ酸や蛋白質とふれるとシッフ塩基を形成し、アミノ酸等の種類や濃度によって黄色、緑色や黒色に変色させる。皮膚や蛋白質の付着した被服等の表面に対しても黒く染色させる特性を有している。染色の程度によっては1日〜2日で消失する。この染色現象は、医療器具の残留蛋白等の不適切、不十分な洗浄を確認する目安ともなり得るが、一般には、医療従事者にとって好ましくなく、回避することが求められている。回避方法として、OPAとイソフタルアルデヒド(以下、IPAという)、テレフタルアルデヒド、又はこれらの混合物とを組合せて使用する方法(特許文献3)やOPAの類似化合物各種を使用する方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−313705号公報
【特許文献2】特開平6−264397号公報
【特許文献3】特開2005−247831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法等では、OPA使用時における染色特性低下の要求を満足しているとは言い難く、染色特性を低下する方法が望まれている。また、製紙工場における白水循環水系等においては、パルプの漂白工程で使用した還元漂白剤が残留したり、古紙パルプ等などを原料とした製紙白水等には還元性物質が存在する。このような状態では、OPAの殺菌効果が低下するきらいがある。本発明は、このような事情にかんがみ、OPAの染色特性を低下する方法と共に、還元性物質が存在する環境でも優れた殺菌防腐効力を発揮するOPA含有殺菌組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明を概説すれば、
(1)OPAと、グリオキシル酸(以下、GOAという)、その塩及びメチルグリオキサール(以下、MGAという)から選ばれるアルデヒド系化合物とを、含有することを特徴とする殺菌組成物、(2)OPA1質量部に対しアルデヒド系化合物0.1〜20質量部を含有する(1)項記載の殺菌組成物、及び(3)OPAに、GOA、その塩及びMGAから選ばれるアルデヒド系化合物を添加することを特徴とするOPAの染色特性の低下方法を提供するものである。
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、OPAに、殺菌力が極めて弱く、硫黄系悪臭に対する消臭剤として知られているGOAや医薬品、農薬中間体として知られているMGA等のアルデヒド系化合物を配合することによりOPAの染色特性を低減し、更に、殺菌効果の増強することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、OPAの染色特性を低減させることができ、望ましくない染色によって限定的であったOPAの使用分野を拡大し、安全に使用することができる。また、製紙白水のような還元物質を多量に含有する場面でも、より少ない添加量で殺菌効力を発揮することにより環境負荷の低減や低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の殺菌組成物は、OPAと該アルデヒド系化合物の少なくとも1種を含有してなる。OPAは、o−フタルアルデヒドともいわれ、相当するテトラハロゲン化キシレンを加水分解する方法等で製造できるが、既に、市販されており容易に入手できる。また、GOAや2−オキソプロパナール、ピルビンアルデヒドとも称されるMGAも市販されており、GOA水和物又は40〜50%水溶液やMGA40%水溶液を使用することができる。GOAの塩は、GOAをアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物や炭酸塩で中和することによって得られる。
【0009】
OPAと該アルデヒド化合物とを組合せて殺菌組成物として使用する場合、両者を一液製剤化して同時に用いるのが好ましいが、別々に添加して用いてもよい。一液製剤化する場合には、通常両者を溶媒に溶解して製剤するか、又は水懸濁剤として用いることが好ましい。更に、本発明の殺菌組成物は、OPAと該アルデヒド化合物に、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、ベントナイト、カルボキシルメチルセルロース等の固体希釈剤で希釈し、粉剤の組成物として調製することもできる。これらの製剤には、必要に応じて界面活性剤、防錆剤、増粘剤、緩衝剤、その他の補助剤を配合して使用することができる。また、他の殺菌剤を混合して使用することもできる。
【0010】
溶媒としては、水又は有機溶媒を挙げることができる。有機溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、乳酸エチル、フタル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル等の非プロトン性極性溶媒、その他アルコール類が挙げられる。これらは単独のみならず、液剤の安定性や水への溶解性を考慮して2種類以上を混合して使用することもできる。これら溶剤の配合は、OPA1質量部に対して、好ましくは0.2〜20質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部配合する。また、OPAの溶解性、水への分散性を考慮して溶媒に、必要であれば界面活性剤等を用いて調製することもできる。
【0011】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、高級アルコールエチレンオキシド付加物、高級アルキルアミン付加物、アルキルフェノール付加物、多価アルコール脂肪酸エステル付加物、プロピレンオキシド共重合体、多価アルコールアルキルエステル等のノニオン性界面活性剤、脂肪族アミン塩、芳香族4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、又はカルボキシベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリウムベタイン等の両性界面活性剤が使用できるが、製剤の安定性の点ではノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0012】
本発明において、OPAと該アルデヒド系化合物との配合は、前者1質量部に対して、好ましくは、後者0.1〜20質量部、特に好ましくは、0.5〜10質量部配合する。0.1質量部未満の配合では染色特性低下の効力が乏しくなる。また、20質量部超の配合では、配合に比例した染色特性の低下効果が得られなく経済的でない。
【0013】
また、本発明の殺菌組成物は、必要に応じて、pHを調整する。pHを調整する方法としては特に制限されないが、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム又はリンゴ酸、コハク酸、マレイン酸若しくはクエン酸等の有機酸のアルカリ金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩を使用することができる。また、必要に応じ、pHを適当な範囲に調整する緩衝剤を使用することができる。緩衝剤としては、リン酸二水素カリウムとリン酸水素二ナトリウムとの混合溶液、リン酸二水素カリウムと水酸化ナトリウムの混合溶液、クエン酸と水酸化ナトリウムの混合溶液、酢酸と水酸化ナトリウムの混合溶液、クエン酸とリン酸水素二ナトリウムとの混合溶液等を挙げることができる。
【0014】
本発明のOPAの染色特性の低下方法において、OPA及び該アルデヒド系化合物を同時に又は別々に添加し、共存させることによりOPAの染色特性を低減することができるが、別々に添加する場合には、該アルデヒド系化合物をOPAよりも先に添加することが好ましい。
【0015】
本発明の殺菌組成物は、医療用機器や施設の殺菌、消毒剤として、また工業用殺菌剤として、例えば、製紙工業における白水、各種工業用の冷却水や洗浄水、重油スラッジ、金属加工油、繊維油剤、ペイント、紙用塗工液、ラテックス、糊剤等のスライム防除及び殺菌に使用できる。
【実施例】
【0016】
以下に、製剤例及び試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。なお、製剤例中、部とは、質量部を意味する。
【0017】
製剤例1
OPA(5部)、GOA又はMGA(2.5部)、N,N−ジメチルアセトアミド(30部)、及び蒸留水(62.5部)を混合撹拌して液剤を得る。
製剤例2
OPA(5部)、GOA又はMGA(5部)、N,N−ジメチルアセトアミド(30部)、及び蒸留水(60部)を混合撹拌して液剤を得る。
製剤例3
OPA(5部)、GOA(5部)、N,N−ジメチルアセトアミド(30部)、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(0.5部)及び蒸留水(59.5部)を混合撹拌して液剤を得る。
製剤例4
OPA(5部)、GOA又はMGA(25部)、N,N−ジメチルアセトアミド(30部)、及び蒸留水(40部)を混合撹拌して液剤を得る。
製剤例5
OPA(0.5部)、GOA又はMGA(5部)、N,N−ジメチルアセトアミド(3部)、及び蒸留水(91.5部)を混合撹拌して液剤を得る。
製剤例6
40%GOA(6.25部)に10%水酸化ナトリウム水溶液(14.8部)を加えて中和し、GOAナトリウム塩を調製し、OPA(0.5部)を蒸留水(78.45部)に溶解したものと混合撹拌して液剤を得る。この製剤のpHは10.3であった。
製剤例7
OPA(0.5部)と40%GOA(6.25部)を混合し、蒸留水(50部)に溶解させた後、10%水酸化ナトリウム水溶液加えpHを7.6(25℃)に調整し、リン酸緩衝液(M/30リン酸水素二カリウム、M/30リン酸二水素カリウムを混合しpH7.6に調整したもの)を加えて液剤(100部)を得る。
【0018】
比較例1
OPA(5部)、N,N−ジメチルアセトアミド(30部)、蒸留水(65部)を混合撹拌して液剤を得る。
比較例2
OPA(0.55部)を蒸留水(50部)に溶解させ、リン酸緩衝液(M/30リン酸水素二カリウム、M/30リン酸二水素カリウム混合しpH7.6に調整したもの)を加えて液剤(100部)を得る。
比較例3
GOA又はMGA(25部)を蒸留水(75部)に溶解して液剤を得る。
【0019】
試験例1
製剤例に従って調製された各薬剤を蒸留水で希釈してOPA0.05%含有溶液とし、鶏肉の笹身を水洗した後、1cm間隔に切り分けて該溶液に浸漬した。室温に24時間放置後、肉表面の着色を観察した。これらの結果を表1に示す。なお、IPAは、製剤例2及び製剤例4のGOAをIPAに換えたものである。
【0020】
【表1】

【0021】
表1より、試験例1の試験において、OPA単独では黒色であるが、GOA又はMGAを配合すると染色特性を低下させることがわかる。GOA又はMGAは配合量の増加に伴ってより強い染色特性低下の特性を示しており、OPAに対して過剰量配合されることは染色特性の低下に好ましいと言える。
【0022】
試験例2
鶏肉の笹身を水洗し切り分けて、OPA0.55%を含有する製剤例又は比較例の各溶液中に5分間浸漬し、肉表面の着色を観察した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2により、GOA配合製剤のpHを中性域に調整した際にも、染色特性低下作用を有することがわかる。また、GOAナトリウム塩を配合することによって染色特性は低下するが、pHを中性〜酸性に調整した方がより高い染色特性低下効果を得られる。
【0025】
試験例3
ハイドロサルファイトナトリウム(以下、HSNという)を含有するpH7のリン酸−クエン酸緩衝液に、ブイヨン培地で前培養したエンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)菌を約107CFU/mlになるように加え、L字管に投入した。これに所定量の薬液を加え、30℃で90分の振とう培養を行った。培養終了後、生菌数測定を容易にするため、培養液を滅菌蒸留水で100倍又は10000倍に希釈し、普通寒天培地に接種した。30℃で72時間培養した後、生菌数(CFU/ml)を測定し、緩衝液1ml当りの生菌数を求めた。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3から、還元性物質の存在下において、OPAの殺菌効果が低下するが、GOA又はMGAを配合することにより、この状態でも優れた殺菌効果が得られること分かる。
【0028】
試験例4
某製紙工場より採取した白水10mlを三角フラスコに採り、薬剤をこの白水に対してOPAとして5ppmになるように添加して、30℃、振とう培養した後、生菌数を測定した。結果を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
表4より、本発明の殺菌組成物は、工業用殺菌剤として優れた殺菌効果を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトフタルアルデヒドと、グリオキシル酸、その塩及びメチルグリオキサールから選ばれるアルデヒド系化合物とを、含有することを特徴とする殺菌組成物。
【請求項2】
オルトフタルアルデヒド1質量部に対しアルデヒド系化合物0.1〜20質量部を含有する請求項1に記載の殺菌組成物。
【請求項3】
オルトフタルアルデヒドに、グリオキシル酸、その塩及びメチルグリオキサールから選ばれるアルデヒド系化合物を添加することを特徴とするオルトフタルアルデヒドの染色特性の低下方法。

【公開番号】特開2008−7408(P2008−7408A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176022(P2006−176022)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(390034348)ケイ・アイ化成株式会社 (19)
【Fターム(参考)】