説明

柔軟体衝突の特性描写

【課題】ガスタービンエンジンの設計に関し、このようなエンジンが航空機に用いられるときに特に問題になる鳥衝突の特性描写に関する設計の方法を提供する。
【解決手段】所定角度でターゲットプレートに衝突した後の、鳥または鳥類似の柔軟体の破断片がモデル化され、柔軟体は、破断片とスラリーとの組み合わせにより表される。それらの相対的な比率は、衝突の厳しさおよび衝突角度に依存する。本方法は、特に、ガスタービンエンジンの隠れた吸気部の鳥衝突の挙動をモデル化するのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービンエンジンの設計に関し、より詳細にはこのようなエンジンが航空機に用いられるときに特に問題になる鳥衝突の特性描写に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥衝突はガスタービンエンジンに損傷を与え得る。そして、衝突の後、一定期間安全に運転できるように、または、少なくとも航空機や乗客を危険にさらすことなく安全に運転停止できるように設計する必要がある。
【0003】
ガスタービンエンジンにおいて鳥吸い込み試験を実施するための基本的な技術はよく知られており、ここで詳細に説明する必要はない。
【0004】
このような試験において、柔軟体が、エンジンの入口上の既知の位置に投げ込まれる。柔軟体は死んだ鳥でもよいし、実際の鳥の衝突時の反応に類似するように設計された人工的な柔軟体でもよい。このような人工的な柔軟体はよく知られている。以下の説明において、「鳥」との語は、概ね、実際の鳥または実際の鳥の代わりに試験で用いられる人工的な柔軟体を参照するために用いられる。衝突する鳥が最初にエンジンの構造(静的構造または回転構造)に当たった後、これは破断する。損傷は、これらの破断片によりエンジンの下流部分で生じ得る。そして、破断片の寸法および軌道がこの損傷の程度を決定する。通常、破断は、最初の衝突の写真やビデオを観察することにより評価される。観察される破断は、エンジンの異なる部分の衝突の後の振る舞いをモデル化するために用いることができる。それにより、鳥衝突による損傷を最小化するたにエンジンを設計する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エンジンが覆われた吸気部を備えるときに問題がある。このような吸気部は、軍事用のエンジンに一般に用いられ、吸気部の構造がエンジンの熱い部品を保護し、レーダやその他のシステムによる検出を防止する。問題は、入ってくる鳥が吸気部の表面を打ち破断するが、この破断片が吸気部内に隠れ、そのサイズや軌道を評価することができない、ということである。解析のための鳥の初期条件を得るために、各衝突条件のために別々の衝突試験をする必要がある。これは時間を消費しまたコスト高である。
【0006】
以前は、衝突解析は、無傷の鳥、鳥の破片、または非確認スラリー(non-validated slurry)を用いて行われていた。
【0007】
覆われた吸気部により保護されるエンジンの鳥衝突の解析のためには、解析に用いられる鳥の初期条件が現実を反映していることが重要である。吸気部への鳥の軽い衝突の後は、鳥は単一の破断片としてモデル化でき、その質量は最も大きい鳥の破断片の質量に対応する。厳しい衝突の後は、鳥はスラリーとしてモデル化できる。これらの2つの極端な衝突の間においては、鳥は破断片(1つまたは複数)およびスラリーの組み合わせとしてモデル化できる。
【0008】
以前は、解析に用いる鳥の破断片の寸法、または、初期条件およびスラリーの状態を予測するには、実際に試験する以外に方法がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、特許請求の範囲に記載されているように、表面に衝突の後の鳥の破断片の特性を表すための方法を提供する。この方法は、異なる条件下でどれだけの量の鳥が破断するかを予測することを可能にし、エンジンのモデル化が実行される前に、実際の鳥衝突試験をより少なくし、または完全に無くす。
【0010】
本発明の実施形態が一例として以下に添付図面とともに説明される。添付図面は以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】試験装置を示す概略図である。
【図2】鳥の質量に対する、最大破断片の寸法を示すグラフである。
【図3】衝突角に対する、最大破断片の寸法を示すグラフである。
【図4】衝突速度に対する、最大破断片の寸法を示すグラフである。
【図5a】スラリーの計算モデルにおける球体の構成を示す概略図である。
【図5b】スラリーの計算モデルにおける球体の構成を示す概略図である。
【図6】スラリーの初期計算モデルを示す図である。
【図7】スラリーの修正された計算モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
鳥衝突試験は、以前は、ターゲットプレート上への所定角度における衝突の後の鳥の挙動を表現するために行われていた。これらの試験およびその後のモデル化において、衝突の後、鳥はスラリーでモデル化できることが想定されていた。このアプローチは、ターゲットプレートに垂直な鳥の速度成分が大きい場合における、高速度での衝突の試験をモデル化するのに成功した。しかし、これらの試験の高速度ビデオ解析は、ターゲットプレートに垂直な鳥の速度が減少すると、鳥はますます無傷のままであることを示した。この鳥の挙動に対するスラリーモデルは明らかに十分でない。
【0013】
そこで発明者らは、多数の鳥衝突試験を実施し、異なる条件下での破断の程度を決定した。破断片を損傷していない状態に回復できるように特別な装置が用いられた。そして、破断片の質量を決定できた。
【0014】
図1は、試験装置12の概略図である。公知の銃14は、鳥(図示せず)を軌道16に沿ってターゲット20の表面18に衝突させるように発射する。表面18上での鳥の衝突角度はθである。鳥の破断片は表面18で、柔軟体回収システム22に向かって向きを変える。これは、2つの平行なロープ26(1つだけ示す)に自由に吊り下がった多数の大きなプラスチック袋24を有する。ロープ26は端部が構造体28に堅固に固定されている。この実施形態においては、10個の袋10が用いられているが、任意の数の袋を採用できる。袋24は、鳥の破断片を損傷させることなく鳥の破断片のエネルギーを吸収し、それにより、床の上のシート30上に鳥の破断片が落ちるようにし、これらを収集および解析することができる。
【0015】
各試験を記録するのに高速度ビデオが用いられ、ターゲット20の画像が各試験の後に撮影された。ターゲット上のはねかすの広がりは、衝突領域からの破断した鳥の破片の広がりの指標を与える。
【0016】
各試験の後、鳥の破断片は集められて測定のために積まれた。最大破断片は、計量および測定され、破断片の数が数えられ、集められた総質量が測定された。
【0017】
以下のパラメータを試験の間に変更し、鳥の破断片への効果を評価した。パラメータは、衝突角度(θは4度から55度の間);鳥の質量(約3.5oz(0.1kg)から約8lb(3.6kgk)の間);表面の剛性;および衝突速度(約50knots(25.7m/s)から500knots(257.4m/s)の間)である。
【0018】
これらの試験で2つの標準ターゲットプレートが用いられた。「可撓性」のプレートは、グレード316のステンレス鋼プレートであり、約4mmの厚さ、支持部の間の寸法は500mmの幅および700mmの長さである。このプレートは、頂部32および底部34の縁だけで拘束され、側部の縁は拘束されないようにした。「剛性」のプレートは可鍛性鋼鉄であり、25mmの厚さ、1000mmの長さ、800mmの幅を備えるものとした。このプレートは、全体の周囲が重い支持部に堅固にクランプされた。
【0019】
これらの異なるパラメータを、入力条件に対する破断片の特性をグラフ化することで、発明者らは、鳥の衝突後の破断を予測する数学的な関係を導き出した。
【0020】
図2は、鳥の質量と、衝突後の最大破断片の寸法との関係を示している。試験は、質量が約3.5oz(0.1kg)から約8lb(3.6kg)までの鳥で行われ、鳥の質量に対する最大破断片の寸法(鳥の質量に対する百分率として)がグラフ化された。これらの試験は、衝突速度が約78knots(40m/s)から約486knots(250m/s)の間で行われた。鳥の質量の増加に対して、最大破断片の寸法が比例して増加するという一般的な傾向が観察された。
【0021】
図3は、衝突角度と、衝突後の最大破断片の寸法との関係を示している。試験は、剛性ターゲットと可撓性ターゲットの両方で行われ、衝突角度は約5度から約55度の間で行われ、衝突角度に対する最大破断片の寸法(鳥の質量の百分率として)がグラフ化された。これらの試験は、衝突速度が40m/sから250m/sの間で行われた。可撓性ターゲットの場合は剛性ターゲットのときよりも鳥が破断しにくいという一般的な傾向があることが観察された。
【0022】
図4は、衝突速度と、衝突後の最大破断片の寸法との間の関係を示している。試験は、異なる重量の鳥で行われ、異なる衝突角度および可撓性ターゲットと剛性ターゲットとの両方で行われた。試験は、衝突速度が約40m/sから約250m/sまでの間で行われた。鳥は速度が大きくなるにつれて破断しやすいという一般的な傾向があることが観察された(つまり、衝突速度の増加とともに、最大破断片の比例寸法は減少することが観察された)。
【0023】
これまでに示された情報は鳥の破断のモデル化に関係する。上記で概略を示したように、相対的に軽い衝突のためには、鳥の破断を、破断片に関して純粋にモデル化することが適切である。厳しい衝突のためには、スラリーの挙動をモデル化することが必要であり、これは以下でより詳細に説明される。
【0024】
衝突試験は、鳥が所定角度のプレートに発射されるように行われた。このターゲットプレートは、側方にスライドするローラーレール上に搭載され、これにより、ターゲットプレートをほとんど摩擦なしに移動させることができる。使用に際して、鳥がターゲットプレートに衝突するとき、運動量の伝達によりターゲットプレートがローラーレールに沿って移動する。この移動距離およびターゲットプレートの運動の速度を測定することにより、伝達された運動量を測定できる。
【0025】
この装置はまた、スプリッタ、およびエンジンのファンブレードを模すように設計された垂直プレートを含む。このスプリッタは、側方にスライドするローラーレールに搭載され、それにより、スプリッタを打つ任意の残骸の運動量の伝達を計算できる。同様に側方にスライドするローラーレールに搭載される捕獲ボックスが、各鳥の破断片を受け取るために提供された。
【0026】
鳥がターゲットプレートに衝突した後、スラリーは、円錐形状の軌道で発散するようにプレートを離れる傾向がある。このスラリーは、ターゲットプレート上で、概ね、三角形の跡を残す。ターゲットプレートのビデオ映像が解析され、スラリーがプレートを離れるときのスラリーの発散角を計算するために三角法が用いられた。
【0027】
この計算結果は、スプリッタおよび捕獲ボックスの計算モデルの境界条件を設定するために用いられた。商業的に入手可能な有限要素解析プログラムが計算モデルのために用いられた。このモデル化の意図は、実際の試験のときに観察されるスプリッタおよび捕獲ボックスの変位および速度を再現するスラリーモデルのための定義を見つけることである。
【0028】
まず、スラリーモデルは、それぞれ約0.5gの多数の球体を有し、これらは、四角のマトリクスのいくつかの領域に配置される。図5aはこのモデルの一部を示している。このモデルは、実際の試験において観察されるものよりも非常に小さいスプリッタ速度を与える。スプリッタが、2つの隣接するボールの行の間を通過することが可能であることが観察され、このモデルは、連続するボールの行が、図5bに示すように、オフセットするように調整された。これは、スプリッタの速度を増加させるが、実験で測定されたレベルまでは増加させなかった。
【0029】
このモデルは、試験で観察されたスプリッタ速度を再現できるようにいくつかの方法で修正された。スラリーを小型にし、ボールを大きくし、中空でなく中実のボールが用いられた。
【0030】
数値解析で観察された捕獲ボックス速度は、最初は、実際の試験で観察されたものよりもかなり大きかった。これは、2つの効果が原因であると結論付けられた。1つ目は、スプリッタ速度への適切な運動量の伝達を達成するスラリーの条件は、捕獲ボックスに、より大きな運動量を伝達する傾向があるということである。2つ目は、実際のスラリーは発散するが、一方、モデル化されているスラリーは発散せず、多くのスラリーが捕獲ボックスを打っていた、ということである。この問題を克服するため、まず、スラリーは、中心において8mmからスラリーの縁で1mmになるように、徐々に球体の直径を小さくするように修正された。
【0031】
図6は、均一の寸法の球体72によりモデル化されたスラリーを示しており、また、モデル化されたスプリッタ74、捕獲ボックス76を示している。
【0032】
図7は、修正されたスラリーを示しており、スラリーの中心部88から周辺部90まで徐々に減少する寸法の球体82でモデル化されている。
【0033】
この修正は、捕獲ボックスの速度の精度を改善し、さらに、球体に発散軌道を与えることによりさらなる改善が得られた。
【0034】
以上に述べられたものとは別に、本発明の代替実施形態が可能であることを理解されたい。
【0035】
特に、本発明は、鳥または他の小さな柔軟体が静止表面に衝突し、衝突後のシステムの挙動を理解することが望まれるような任意の応用に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面との衝突後の柔軟体の破断片の特性を表す方法であって、前記方法は、
前記柔軟体の質量および速度の値を得るステップと、
前記柔軟体の前記表面との衝突角度の値を得るステップと、
前記表面の剛性の値を得るステップと、
前記柔軟体の破断片の特性を表すパラメータを生成するために、得られた前記値を処理するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記生成されたパラメータは、破断片の質量および少なくとも1つ破断片の初期軌道を有する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記生成されたパラメータは、少なくとも1つの破断片および少なくとも1つのスラリーを画定する、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記表面はガスタービンエンジの一部である、方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記表面は、隠された吸気部の一部である、方法。
【請求項6】
請求項3に記載の方法であって、前記スラリーは複数の球体により画定される、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、前記スラリーの前記質量は、スラリー中心部付近に集中している、方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、前記スラリーを画定する前記球体は、スラリーの中心部付近において大きく、スラリーの周辺部付近において小さい、方法。
【請求項9】
請求項6に記載の方法であって、前記スラリーを画定する前記球体は、異なる寸法の球体の層内に配置される、方法。
【請求項10】
請求項6に記載の方法であって、前記スラリーを画定する前記球体は、発散する軌道を備える、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5a】
image rotate

【図5b】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−264376(P2009−264376A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−90810(P2009−90810)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY