説明

柔軟性ポリエステル組成物

【課題】 耐ピンホール性、柔軟性、耐衝撃性に優れた安価なポリエステル組成物およびシートを提供すること。
【解決手段】 全カルボン酸成分に対しテレフタル酸成分が50〜99モル%であり、モノカルボン酸成分1〜5重量%、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分70〜89重量%、トリカルボン酸成分10〜25重量%からなる平均として炭素数30以上のカルボン酸成分(カルボン酸成分A)が1〜50モル%であり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールであるポリエステル組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柔軟性ポリエステル組成物およびシートに関するものである。特に、耐ピンホール特性、耐熱性、耐衝撃性に優れる成形物を容易に形成し得るポリエステル組成物、および、それからなるポリエステルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは優れた物理的、化学的特性を有しており、フィルム、繊維、シートなどに広く使用されている。特に、ポリエステルフィルムは耐熱性、耐溶剤性、機械的特性において優れた性質を有するために、磁気記録材料、各種写真材料、包装材料、電気絶縁材料、一般工業材料等、多くの用途に用いられている。
【0003】
しかしながら、低温や常温での柔軟性、耐衝撃性に欠けており、用途拡大に限界があった。このような欠点を改善するために、ポリエステルにソフトセグメントを共重合する方法が考えられている。
【0004】
例えば特許文献1は、ソフトセグメントとして二量体化脂肪酸またはエステル誘導体を共重合することで柔軟性を付与している。
【0005】
このような二量体化脂肪酸(ダイマー酸)の原料となっている不飽和脂肪酸は菜種・大豆・トール油などの植物由来の原料を使用することが多いため、不純物を多く含有している。この原料に含まれる不純物は二量体化の際に一量体、三量体、脂環族化合物、芳香族化合物などの多く副生物を生成することが一般に知られている。通常、ポリエステル用途においては、これを蒸留や分子蒸留することによって一量体、三量体を除去し、高純度のダイマー酸を精製して用いられている。
【0006】
また、不飽和結合が残存していると耐熱性、色調、耐候性などが低下することがあるため、触媒の存在下で水素添加することでヨウ素価を下げるなどの工夫を行っている。
【0007】
しかしながら、脂環族ダイマー酸、芳香族ダイマー酸を完全に除去してしまうことは困難であるため、高純度のダイマー酸とはいっても、多くの副生物が残存しているのが実情である。
【0008】
特許文献1に記載されている二量体化脂肪酸は一量体、三量体をほとんど含まない高純度の二量体化脂肪酸で、実施例ではユニケマ社製の高純度のダイマー酸を使用しているため、分子蒸留・水素添加などの精製工程を経ており、その分原料価格が高く、壁紙など安価な用途には不向きである。さらに、比較実施例において、三量体を多く含む安価なダイマー酸を用いたところ、ゲル化によって評価に耐えうるポリマーを得ることができなかったとの記載もある。
【0009】
また、特許文献2はダイマー酸またはエステル誘導体を共重合することで柔軟性を付与し、さらにトリアジン化合物を配合することで難燃性をも付与しているが、特許文献1と同様に、高純度のダイマー酸を使用しているため、安価な用途には不向きである。
【0010】
特許文献3ではポリエステル樹脂Bに脂環族ダイマー酸および/または芳香族ダイマー酸またはこれらのエステル誘導体を共重合することで柔軟性を付与しているが、一量体、三量体などの副生物を除去した後に得られるダイマー酸を使用するとの記載があり、例示されているユニケマ社製ダイマー酸はいずれも高純度品で高価な原料である。さらに、特許文献1および2で使用されているユニケマ社製のダイマー酸にも脂環族ダイマー酸および芳香族ダイマー酸が含まれており、本文中に例示されているユニケマ社製のダイマー酸と一致することから、ポリエステル樹脂Bを多く含むフィルムは安価な用途には不向きである。
【特許文献1】特許第3151875号
【特許文献2】特開2000−290480号
【特許文献3】特開2001−347621号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、これら従来技術の欠点を解消せしめ、耐ピンホール性、柔軟性、耐衝撃性に優れた安価なポリエステル組成物およびシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、全カルボン酸成分に対しテレフタル酸成分が50〜99モル%であり、モノカルボン酸成分1〜5重量%、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分70〜89重量%、トリカルボン酸成分10〜25重量%からなる平均として炭素数30以上のカルボン酸成分(カルボン酸成分A)が1〜50モル%であり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールであるポリエステル組成物により達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐ピンホール性、柔軟性、耐衝撃性に優れ、安価であるため、包装材料、壁紙などの建材用途、鋼板貼り合わせ用途、保護フィルムやキャリアテープなどの工程フィルム用途、ワッペンなどのアパレル用途、シーリング材などに適したポリエステル組成物およびシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の柔軟性ポリエステル組成物は、全カルボン酸成分に対しテレフタル酸成分が50〜99モル%であり、モノカルボン酸成分1〜5重量%、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分70〜89重量%、トリカルボン酸成分10〜25重量%からなる平均として炭素数30以上のカルボン酸成分(カルボン酸成分A)が1〜50モル%であり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールであるポリエステル組成物である。
【0015】
本発明のテレフタル酸成分としては全カルボン酸成分に対して50〜99モル%共重合することが重要であり、さらには柔軟性、耐熱性などの点から60〜90モル%、特に反応性、ハンドリング性などの点から80〜90モル%であることが好ましい。テレフタル成分が50モル%未満であると、製膜時にホッパーでブロッキングしたり、キャスティングドラムに粘着することがあるためハンドリング性が悪く、99モル%を超えると十分な柔軟性が得られない。
【0016】
本発明のモノカルボン酸1〜5重量%、テレフタル酸以外のジカルボン酸70〜89重量%、トリカルボン酸10〜25重量%からなるカルボン酸成分Aとは、炭素数16以上の不飽和脂肪酸を二量体化したものであることが好ましい。このようなカルボン酸成分の炭素数は、平均として30以上であることが重要であり、さらには34以上とすることが柔軟性の点から好ましい。
【0017】
上記のカルボン酸成分Aは、植物由来の原料から合成されたものであることが好ましく、より具体的には二量体化に用いられる炭素数16以上の不飽和脂肪酸は植物から抽出したものを使用することが環境面で好ましい。
【0018】
また、植物から抽出する際には単一の不飽和脂肪酸として抽出することは困難であり、混合物として抽出することになる。従って、カルボン酸成分Aの色調などの品質向上の点から炭素数16〜20の不飽和脂肪酸の混合物として抽出することが好ましく、好適な植物由来の原料として、大豆油、菜種油、松ヤニなどが挙げられる。
【0019】
炭素数が16未満の脂肪酸が混入した場合、未反応物としてカルボン酸成分Aに残存したときにブリードアウトしやすく、炭素数20を超える脂肪酸が混入した場合、未反応物とカルボン酸成分Aとを蒸留により分離する際に未反応物が混入しやすく、モノカルボン酸成分が増加することがある。
【0020】
また、植物から抽出する際に、微量の飽和脂肪酸が混入しても構わない。
【0021】
カルボン酸成分A中のモノカルボン酸含有量は、反応性、ブリードアウト性などの点から少ないほどよいが、1〜5重量%であれば十分であり、より好ましくは1〜3重量%である。モノカルボン酸の含有量を1重量%未満にするためにはそれなりの蒸留工程を経なければいけないため、コスト的に不利である。また、5重量%を超えると重縮合反応性の低下や、成型後のブリードアウト、経時で結晶化して白化することがある。このようなモノカルボン酸成分のほとんどは、二量体化の際の未反応物であるため、原料となる不飽和脂肪酸および/または飽和脂肪酸の成分に依存する。従って、カルボン酸成分Aの色調などの品質向上の点から、モノカルボン酸が炭素数16〜20の不飽和脂肪酸および/または飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0022】
カルボン酸成分A中のジカルボン酸成分の含有量としては70〜89重量%であることが必要である。ジカルボン酸成分はポリエステル中でソフトセグメントとして最も効果的に機能する成分であるため、その含有量は多いほどよいが、反応性、色調、耐候性、柔軟性などの点から70重量%以上含有することが必要であり、さらには75重量%であることが反応性、柔軟性の点から好ましい。その含有量が70重量%未満である場合、十分な反応性と柔軟性を得ることができないことがある。また、ジカルボン酸成分の含有量を89重量%より多くするためには分子蒸留・精製などの工程を経る必要があり、コスト的に不利である。
【0023】
カルボン酸成分A中のジカルボン酸成分の炭素数は30以上とすることが柔軟性の点から好ましい。また、色調などの品質向上の点から、炭素数30〜40、さらには34〜40とすることが好ましい。炭素数が30未満では十分な柔軟性が得られないことがあり、炭素数40を超えると色調などの品質が低下する可能性がある。
【0024】
カルボン酸成分A中のトリカルボン酸成分の含有量としては、10〜25重量%であることが必要であり、より好ましくは10〜20重量%であることが反応性、シートの弾性回復率の点から好ましい。トリカルボン酸成分の含有量が10重量%未満では十分な弾性回復率を得られないことがあり、さらには10重量%未満とするためには分子蒸留などの工程を経ることが必要であることから、コスト的にも不利である。また、トリカルボン酸成分が25重量%を超えると、重縮合反応中にゲル化することがある。
【0025】
トリカルボン酸成分の炭素数は50〜60であることが好ましい。炭素数50未満では重合反応後半にゲル化しやすく、炭素数60を超えると色調、耐熱性などの品質が低下する可能性がある。
【0026】
カルボン酸成分Aの共重合量としては、全カルボン酸成分に対して、1〜50モル%であることが必要であり、反応性、耐候性、ハンドリング性、熱寸法安定性などの点から1〜40モル%、特に1〜25モル%であることが好ましい。1モル%未満の場合、十分な柔軟性が得られないことがあり、50モル%を超えると、製膜時にホッパーでブロッキングしたり、キャスティングドラムに粘着したりすることがあり、ハンドリング性が低下することがある。
【0027】
このようなカルボン酸成分Aは、色調の点から水素添加し、残存している不飽和二重結合を飽和化することが好ましい。水素添加の有無でポリエステル組成物、およびシートを比較すると、水素添加を行ったカルボン酸成分Aを共重合した方が黄味が少なく、透明性においても良好であるため、用途展開しやすく、好ましい。
【0028】
カルボン酸成分Aの添加時期はエステル化反応から重縮合反応初期までの任意の時期、またはエステル交換反応が実質的に終了後から重縮合反応開始までの時期に添加することが反応性の点から好ましい。特に、ゲル化抑制の点からエステル化反応またはエステル交換反応が実質的に終了した後に添加することが好ましい。カルボン酸成分Aの添加時期を遅らせて、受ける熱履歴を軽減することによってゲル化抑制、色調改善することができる。また、添加後に水の留出を行った後に移行することで重縮合反応をより安定に進めることができる。
【0029】
カルボン酸成分Aの添加方法としては、50〜80℃に加熱して添加することがハンドリング性の点から好ましい。トリマー酸を多く含むカルボン酸成分Aは粘度が高く、添加に時間がかかり、さらに、添加口、配管などへの残存量が無視できなくなるため、加熱して粘度を下げることによりハンドリング性を改善することが好ましく、粘度の目安は2000mPa・s以下である。加熱以外にも、エチレングリコール、1,4ブタンジオールと混合することで粘度を下げることができ、その混合比はカルボン酸成分Aに対して0.8〜1.2モル倍であることが好ましく、さらには貯留槽内において相分離しないように攪拌することが好ましい。エチレングリコール、1,4ブタンジオールを多量に混合すると減粘効果は期待できるが、多量の留出物が発生すること、エチレングリコールの場合はDEGが副生し、1,4ブタンジオールの場合はTHFが副生するなどのデメリットもある。
【0030】
本発明のグリコール成分としては、結晶性制御、柔軟性の点から炭素数2〜4のアルキレングリコールである必要がある。さらに、柔軟性、透明性の点から、全グリコール成分に対してエチレングリコール成分が0〜50モル%、1,4ブタンジオール成分が50〜100モル%であることが好ましい。エチレングリコールの共重合量が50モル%を超えると、結晶化による白化、柔軟性の低下の原因となることがある。さらには、エチレングリコールの共重合量が10〜40モル%であることが透明性、柔軟性の点から好ましい。
【0031】
また、カルボン酸成分A起因のゲル化抑制、および柔軟性向上の目的で他の化合物を併用することもできる。
【0032】
好ましくは用いることのできる併用成分の一つとして炭素数5〜10のアルキレングリコールが挙げられる。炭素数5〜10のアルキレングリコールであれば特に限定はなく、より好ましくは柔軟性の点から炭素数6〜10のアルキレングリコールである。また、構造的には鎖状であることが柔軟性の点から好ましく、鎖状であれば分岐鎖を有していても構わない。
【0033】
さらに好適に併用できる化合物の一つとして、炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸であれば特に限定はなく、色調、耐熱性のてんから飽和脂肪酸であることが好ましく、さらには炭素数6〜10であることが柔軟性の点から好ましい。
【0034】
このような炭素数5〜10アルキレングリコール、炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸の含有量としては、合計量として3〜25モル%であることが柔軟性、ゲル化抑制の点から好ましい。
【0035】
また、炭素数5〜10のアルキレングリコール、炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸の添加時期としては、エステル化反応またはエステル交換反応から重縮合反応初期までの任意の時期に添加することが可能であるが、カルボン酸成分A添加の前後30分以内に添加することが反応性の点から好ましい。
【0036】
炭素数5〜10のアルキレングリコール、炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸の添加方法としては、あらかじめ該アルキレングリコールと該脂肪族ジカルボン酸を反応させたエステル化合物として添加してもよく、柔軟性の点から該脂肪族ジカルボン酸の両末端に該アルキレングリコールを反応させた化合物として添加することが柔軟性、ゲル化抑制の点から好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル組成物中の金属含有量としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属以外の金属種として、チタン元素のみを含有することが、ポリエステルの回収性の点から好ましく、その含有量としてはポリエステル組成物に対して、50〜130ppm(重量)であることが重縮合反応性の点から好ましい。さらには50〜100ppm(重量)とすることが色調の点から好ましい。
【0038】
また、ポリエステル組成物中のリン元素の含有量としては、ポリエステル組成物に対してリン元素として1〜50ppm(重量)であることが、耐熱性、色調の点から好ましい。
【0039】
このようなポリエステル組成物を製造する際には、耐熱性、色調などの品質改善のためにヒンダートフェノール系やリン系の抗酸化剤を用いることができ、具体的には、IRGANOX1010FP(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)やアデカスタブPEP36(旭電化製)などが好適である。
【0040】
このようなポリエステル組成物の製造方法としては、種々の方法により製造することができる。例えば、エステル交換反応、またはエステル化反応を行い、次いで重縮合反応を行うことで得られる。この時、本発明のポリエステル組成物は融点が通常のPETに比べ低いため、PETの重縮合温度よりも低い温度で重縮合することが好ましく、特に240〜260℃とすることで色調が改善されるため好ましい。
【0041】
このようにして得られたポリエステル組成物は、種々の方法によりシート化することができる。但し、本発明のポリエステル組成物は柔軟であるため、原料ペレットがホッパー内でブリッジを形成したり、融点、結晶性、ガラス転移点などが低く、融着しやすいため、ペレットの表面に、結晶化したポリエチレンテレフタレート、またはポリブチレンテレフタレートの粉をまぶして供給することが好ましい。
【0042】
また、押出機として二軸押出機を用い、他の原料と混合してアロイ化してもよいし、さらに相溶化剤、鎖連結剤、触媒などを加えて二軸押出機内で反応させてもよく、耐熱性の点からベント式二軸押出機を用いることがより好ましい。
【0043】
本願のポリエステル組成物、及びシートはキャリアテープ、カバーテープ、保護フィルムなどの工程用、包装用、ワッペンなどのアパレル用、鋼板ラミネート用、熱接着用、壁紙などの建材用などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下本発明を実施例により、さらに詳細に説明する。実施例中の特性は次のようにして測定した。
【0045】
A.固有粘度
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
【0046】
B.触媒金属の含有量
蛍光X線分析法(FLX)にて測定した。
【0047】
C.色調(b値)の測定
ポリマー0.6gをHFIP30mlに室温で溶解し、NDR−2000(日本電色社製)にて測定した。この時、セルは30mlのセルを使用した。
【0048】
D.弾性回復率
ポリエステルを240℃で溶融し、厚み100μmのプレスシートを作成し、幅10mmにサンプリングする。
【0049】
引張試験機に試長が50mmになるように装着し、引張速度10mm/分で、試長の50%の引張変形を与えて、直ちに同速度で収縮させてて、引張応力が0になったときのサンプル長(L)を下式により算出して求めた。
【0050】
弾性回復率(%)=((75−L)/25)×100
E.カルボン酸成分Aの分析
高速液体クロマトグラフィーにより分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。
【0051】
測定条件は既知の方法で実施することができるが、以下に一例を示す。
【0052】
カラム :Interstil ODS−3 2.0mmφ×250mm
移動相 :H3PO4水溶液/メタノール=80/20−(20min)
20/80−(40min)
流速 :0.4mL/min
カラム温度:45℃
検出器 :フォトダイオードアレイ(200〜400nm)
クロマトグラムは21512を使用
F.ポリエステルの組成分析
ポリエステルをアルカリにより加水分解し、各成分をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーにより分析し、各成分のピーク面積より組成比を求めた。
【0053】
カルボン酸成分Aの定量は高速液体クロマトグラフィーによる分析することができ、本実施例においては、上記Fの条件で行った(カルボン酸成分Aの分析)。
その他のカルボン酸成分は、1mol/Lの濃度のナトリウムメチラート、及び酢酸メチルを加えて環流加熱で2時間処理した後、高速液体クロマトグラフィーにて測定を行った。測定条件は既知の方法で分析することができる。例えば以下に一例を示す。
【0054】
装置:島津LC−10A
カラム:YMC−Pack ODS−A 150×4.6mm S−5μm
120A
カラム温度:40℃
流量:1.2ml/min
検出器:UV 240nm
グリコール成分の定量はガスクロマトグラフィーを用いて既知の方法で分析することができる。例えば以下に一例を示す。
【0055】
装置 :島津9A(島津製作所製)
カラム:SUPELCOWAX−10 キャピラリーカラム30m
カラム温度:140℃〜250℃(昇温速度5℃/min)
流量 :窒素 25ml/min
検出器:FID
その他のカルボン酸成分は高速液体クロマトグラフィーにて測定を行った。
【0056】
(実施例1)
テレフタル酸ジメチル58.9重量部、1,4ブタンジオール49.1重量部、テトラブチルチタネート0.04重量部、IRGANOX1010FP0.016重量部を仕込み、150℃から210℃まで昇温しながら常法に従いエステル交換反応せしめた後、トリメチルリン酸0.042重量部を添加し、その10分後にテトラブチルチタネートを0.055重量部、IRGANOX1010FP0.022重量部、あらかじめ50℃に加熱したカルボン酸成分A(PRIPOL1025:ユニケマ社製)30.3重量部/1.4ブタンジオール4.8重量部混合スラリーを添加した。缶内温度が210℃に復帰後、30分間攪拌してから重縮合反応釜へ移行し、常法に従って重縮合反応を行った。最終的には245℃、1Torr以下で重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。
【0057】
(実施例2)
テレフタル酸50.4重量部、1,4ブタンジオール42.1重量部、テトラブチルチタネート0.041重量部、IRGANOX1010FP0.016重量部を添加し、260Torrの圧力でエステル化反応を開始した。最終的には210℃まで昇温しエステル化反応を終了した。トリメチルリン酸0.042重量部を添加し、さらに10分後テトラブチルチタネート0.055重量部、IRGANOX1010FP0.055重量部、あらかじめ50℃に加熱したカルボン酸成分A(PRIPOL1025)30.3重量部/1.4ブタンジオール4.8重量部を添加し、缶内温度が210℃に回復後30分間攪拌した。重縮合缶に移行し、常法に従い重縮合反応を行った。最終的には245℃、1Torr以下で重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。
【0058】
(実施例3)
テレフタル酸ジメチル58.9重量部、1,4ブタンジオール29.5重量部、エチレングリコール13.6重量部、テトラブチルチタネート0.04重量部、IRGANOX1010FP0.016重量部を仕込み、150℃から210℃まで昇温しながら常法に従いエステル交換反応せしめた後、トリメチルリン酸0.042重量部を添加し、その10分後にテトラブチルチタネートを0.055重量部、IRGANOX1010FP0.022重量部、あらかじめ50℃に加熱したカルボン酸成分A(PRIPOL1025:ユニケマ社製)30.3重量部/1.4ブタンジオール2.9重量部/エチレングリコール1.3重量部混合スラリーを添加した。缶内温度が210℃に復帰後、30分間攪拌してから重縮合反応釜へ移行し、常法に従って重縮合反応を行った。最終的には245℃、1Torr以下で重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。
【0059】
(実施例4、5)
カルボン酸成分Aの共重合量を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。
【0060】
(実施例6)
テトラブトキシチタネート、IRGANOX1010FPと同時にアデカスタブPEP36を0.01重量部添加する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。
【0061】
(実施例7)
テレフタル酸ジメチル49.1重量部、1,4ブタンジオール24.6重量部、エチレングリコール8.5重量部、1,6ヘキサンジオール−セバシン酸−1,6ヘキサンジオール縮合物6.8重量部、テトラブチルチタネート0.04重量部、IRGANOX1010FP0.016重量部を仕込み、150℃から210℃まで昇温しながら常法に従いエステル交換反応せしめた後、トリメチルリン酸0.042重量部を添加し、その10分後にテトラブチルチタネートを0.055重量部、IRGANOX1010FP0.022重量部、あらかじめ50℃に加熱したカルボン酸成分A(PRIPOL1025:ユニケマ社製)38.2重量部/1.4ブタンジオール3.6重量部/エチレングリコール1.3重量部混合スラリーを添加した。缶内温度が210℃に復帰後、30分間攪拌してから重縮合反応釜へ移行し、常法に従って重縮合反応を行った。最終的には245℃、1Torr以下で重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。
【0062】
(比較例1、2)
カルボン酸成分Aの種類を変更する以外は実施例1と同様にしてエステル交換反応、重縮合反応を行った。
【0063】
比較例1は実施例1に比べ、高コストであるとともに、弾性回復率も劣るものであった。
【0064】
比較例2は重縮合反応中にトルクが急上昇し、ガット化が困難であった。
【0065】
(比較例3)
カルボン酸成分Aの共重合量を変更する以外は実施例1と同様にエステル交換反応、重縮合反応を行った。しかしながら、重縮合反応中にトルクが急上昇し、ガット化が困難であった。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全カルボン酸成分に対しテレフタル酸成分が50〜99モル%であり、モノカルボン酸成分1〜5重量%、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分70〜89重量%、トリカルボン酸成分10〜25重量%からなる平均として炭素数30以上のカルボン酸成分(カルボン酸成分A)が1〜50モル%であり、グリコール成分が炭素数2〜4のアルキレングリコールであるポリエステル組成物。
【請求項2】
カルボン酸成分Aを構成するモノカルボン酸成分が炭素数16〜20の不飽和脂肪酸および/または飽和脂肪酸であり、ジカルボン酸成分の炭素数が30〜40であり、トリカルボン酸成分の炭素数が50〜60である、請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
カルボン酸成分Aが植物由来の原料から合成されたものである、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
全ジオール成分に対してエチレングリコール成分の含有量が0〜50モル%であり、1,4ブタンジオール成分の含有量が50〜100モル%である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
全ジオール成分に対して1,4ブタンジオール成分の含有量が75〜100モル%である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
カルボン酸成分Aが水素添加ダイマー酸である、請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項7】
カルボン酸成分Aの含有量が全カルボン酸成分に対して10〜50モル%、炭素数5〜10のアルキレングリコール及び/または炭素数5〜10の直鎖状脂肪族ジカルボン酸の含有量が全カルボン酸成分に対して3〜25モル%である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
触媒金属化合物としてチタン化合物を含有し、チタン元素の含有量がポリエステル組成物に対して50〜130ppm(重量)、リン元素の含有量がポリエステル組成物に対して1〜50ppm(重量)である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項9】
エステル交換反応またはエステル化反応が終了した後にカルボン酸成分Aを添加する、請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項10】
カルボン酸成分Aの添加と同時期に、アルキレングリコールをアルキレングリコール/カルボン酸成分Aのモル比で0.8〜1.2となるように添加する、請求項9に記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項11】
カルボン酸成分Aを50〜80℃の任意の温度に加熱して添加する、請求項9または10に記載のポリエステル組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル組成物を含む未延伸シート。

【公開番号】特開2006−219514(P2006−219514A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31436(P2005−31436)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】