説明

柔軟性薄葉紙

【課題】柔軟性を維持しつつ、紙力低下を抑制する。
【解決手段】パルプスラリーをpH7.5〜10のアルカリ条件下に所定時間保持するアルカリ処理を行うとともに、このアルカリ処理中またはアルカリ処理後のパルプスラリーに柔軟剤を添加し、この柔軟剤を添加して得られるパルプスラリーを用いて抄紙してなる柔軟性薄葉紙とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟剤の内添により柔軟化した柔軟性薄葉紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーやティッシュペーパー等の家庭用衛生薄葉紙においては、柔軟剤をパルプスラリーに添加し、パルプ相互の滑りにより柔軟性を向上させる方法が各種提案されている。柔軟剤としては、たとえば脂肪酸エステル系柔軟化剤(特許文献1)、第4級アンモニウム塩型カチオン活性剤(特許文献2)、ウレタンアルコール、その塩、またはカチオン化物(特許文献3)、非陽イオン系界面活性剤(特許文献4)等が知られている。
【特許文献1】米国特許第3,296,065号明細書
【特許文献2】特開昭48−22701号
【特許文献3】特開昭60−139897号
【特許文献4】特開平2−99690号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、単に柔軟剤を使用した場合、柔軟性が向上する一方で、紙力が低下するという問題点があった。
そこで、本発明の主たる課題は、柔軟性を維持しつつ、紙力低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
パルプスラリーをpH7.5〜10のアルカリ条件下に所定時間保持するアルカリ処理を行うとともに、このアルカリ処理中またはアルカリ処理後のパルプスラリーに柔軟剤を添加し、この柔軟剤を添加して得られるパルプスラリーを用いて抄紙してなる、ことを特徴とする柔軟性薄葉紙。
【0005】
(作用効果)
本発明の特徴は、柔軟剤の添加と同時または添加に先立ってパルプをアルカリ処理することにある。このような処理を経て薄葉紙を抄造すると、柔軟性を維持しつつ、紙力低下を抑制できるのである。この理由は定かではないが、実験において柔軟剤の定着量が増加する傾向が現れていることから、柔軟剤が繊維のルーメン(空孔)内に入り込むことによって、繊維自体の柔軟性が向上するとともに、繊維外面に付着する柔軟剤の減少により、紙力低下をもたらすような繊維相互の滑りが抑制されるためではないかと考えられる。
【0006】
<請求項2記載の発明>
前記パルプスラリーの温度を45〜75℃とした状態で前記アルカリ処理を行う、請求項1記載の柔軟性薄葉紙。
【0007】
(作用効果)
パルプスラリーのアルカリ処理を行う温度は、45〜75℃とすることで柔軟性が向上する。加熱をしない場合と比較して多少紙力強度が低下するが、常温でアルカリ処理を行わず柔軟剤を添加する場合と同等の強度である。この理由は定かではないが、加熱によりセルロースの膨潤が進み、ヘミセルロースの溶出が多くなり強度は低下する一方、セルロースの純度が高くなったので柔軟剤の効果が十分に発現したものと考えられる。実施例でも示すが、柔軟剤の定着率は大きく変化しないが柔軟性は向上している。
【0008】
<請求項3記載の発明>
前記アルカリ条件下にするために前記パルプスラリーに水酸化ナトリウムを添加する、請求項1及び2記載の柔軟性薄葉紙。
【0009】
(作用効果)
アルカリ処理を行う薬品として、水酸化ナトリウムを用いることでpHの調整を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のとおり、本発明の柔軟性薄葉紙によれば、柔軟性を維持しつつ、紙力低下を抑制できる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳説する。
原料のパルプとしては、公知のものを限定無く用いることができ、具体的には、グランドウッドパルプ(GP)・プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)・サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、セミケミカルパルプ(CP)、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP)・針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)・広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)・広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ、ならびにデインキングパルプ(DIP)・ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプのうち、一種または二種以上を選択して用いることができる。特に、パルプ原料におけるNBKP配合率(JIS P 8120)を30.0〜80.0%、特に40.0〜70.0%とするのが好ましい。
【0012】
本発明では、パルプ原料を水に懸濁して得られるパルプスラリーを、pH7.5〜10のアルカリ条件下に所定時間保持するアルカリ処理を行い、パルプを膨潤させる。pHのより好ましい範囲は8〜9である。pHが高過ぎるとマーセル化パルプとなり、シート強度を発現する低分子量のヘミセルロースが溶出すること、セルロースの結晶構造がセルロースIからセルロースIIに変化しパルプの単繊維強度が低下することから、紙力が低下する。反対にpHが低過ぎるとパルプの膨潤が少なく本発明の効果が低い。アルカリ処理の時間は適宜定めれば良く、1分以上であれば効果が十分に発現することが判明しているが、確実性及び処理効率の観点から5分〜1時間の範囲で選択するのが好ましい。
【0013】
pHの調整は適宜の薬剤を用いて行うことができる。例えばパルプスラリーが酸性乃至中性の場合には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を用いることがでるが水酸化ナトリウムが好ましい。またパルプスラリーが強塩基性の場合には硫酸、硝酸、酢酸等の酸を用いることができるが、硫酸が好ましい。
【0014】
アルカリ処理を行う時のパルプスラリーの温度は、室温でも良いが、45〜75℃が良く、さらに好ましくは55〜65℃である。アルカリ処理を55〜65℃に加熱して行うと柔軟性が更に向上する。加熱をしない場合と比較して少し強度が低下するが、常温でアルカリ処理を行わず柔軟剤を添加する場合と同等の強度である。推測であるが、この理由としては、加熱によりセルロースの膨潤が進み、ヘミセルロースの溶出が多くなり強度は低下する一方、セルロースの純度が高くなったので柔軟剤の効果が十分に発現したものと考えられる。実施例でも示すが、柔軟剤の定着率は大きく変化しないが柔軟性は向上している。
【0015】
アルカリ処理は、パルプの叩解・パルプの混合・染料や薬品の添加等を行う調成工程や、抄紙工程におけるパルプスラリーの調製工程等で行うことができる。アルカリ処理は、パルプスラリーを流しながら処理を行う連続式でも良いが、pH調整および処理時間の確保が容易である点でタンク等の貯留手段を用いてバッチ式で行うのが好ましい。この貯留手段として既存設備を用いることもできる。
【0016】
そして、このアルカリ処理中またはアルカリ処理後のパルプスラリーに柔軟剤が添加される。柔軟剤としては、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性のいずれかであれば良いが、その中でもカチオン性が好ましい。カチオン性柔軟剤としては、公知のものを適宜選択して用いることができるが、特に脂肪酸エステル、脂肪酸アミド等が好適である。カチオン性柔軟剤の使用量は適宜定めることができるが、パルプに対して0.1〜3.0重量%程度混合するのが好ましい。カチオン性柔軟剤の使用量が少な過ぎると、嵩高効果・柔軟効果が少なくなり、反対に多過ぎると紙力低下が著しい。
【0017】
カチオン性柔軟剤を添加したパルプスラリーは抄紙工程に供給され、本発明に係る薄葉紙が製造される。抄紙工程は特に限定されず、公知のものを用いることができる。薄葉紙の坪量(JIS P 8124)は適宜選択すれば良いが、1プライ当たり10.0〜35.0g/m2が望ましい。 また、薄葉紙の紙力は適宜調整することができるが、JIS P 8113に規定される乾燥引張強度(以下、乾燥紙力ともいう)が、1プライ当たり縦方向100cN/25mm以上、特に150〜300cN/25mm、横方向40cN/25mm以上、特に60〜100cN/25mmのものを用いるのが好ましい。基材紙の乾燥紙力が低過ぎると、製造時に断紙や伸び等のトラブルが発生し易くなり、高過ぎると使用時にごわごわした肌触りとなる。
【0018】
本発明では、公知の紙力剤を内添または外添することができる。乾燥紙力剤としては、カチオンデンプン、ポリアクリルアミド、CMC(カルボキシメチルセルロース)若しくはその塩であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース亜鉛等を用いることができる。湿潤紙力剤としては、ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、尿素樹脂、酸コロイド・メラミン樹脂、熱架橋性付与PAM等を用いることができる。
【実施例】
【0019】
(比較例1)
パルプ(LBKP:NBKP=6:4)を水(pH7.5)で懸濁してパルプスラリーを製造し、JIS P 8222に準じて坪量42.9g/m2の手抄きシートを作製した。この手抄きシートについて、表1に示す各種物性の測定・算出を行った。
物性の測定は、JIS P 8111に規定される条件下で行った。裂断長はJIS P 8113に準じて測定した。ヤング率は、超音波伝播速度を測定し、その測定結果を下記式(1)に代入して算出した。
E ∝ ρ・C2 ・・・(1)
ここで、Eはヤング率、ρは紙の密度、Cは超音波伝播速度である。
なお、表中のヤング率は、比較例1の値を100として指数表記したものであり、比容積の向上度は、比較例1の比容積を0%としたときの値であり、裂断長比較値は比較例1の裂断長を100%としたときの値である。
【0020】
(比較例2)
パルプスラリーにカチオン性柔軟剤(T−FS301、星光PMC製)を、対パルプ重量比で0.5重量%添加した以外は、比較例1と同様にして手抄きシートを製造し、各種物性の測定・算出を行った。なお、本比較例2を含め、柔軟剤を添加した例については、柔軟剤定着率を抽出法により測定した。
【0021】
(実施例1)
パルプスラリーに水酸化ナトリウム(以下NaOHで表記)を添加してpH8に調整した後、直ちにカチオン性柔軟剤(T−FS301)を対パルプ重量比で0.5重量%添加して1時間攪拌し、次に硫酸を添加してpH7に戻し、10分間攪拌した後に抄造するようにした以外は、比較例1と同様にして手抄きシートを製造し、各種物性の測定・算出を行い、その結果を表1に示した。
【0022】
(実施例2)
NaOHの添加によるpH調整をpH10とした以外は、実施例1と同様にして手抄きシートを製造し、各種物性の測定・算出を行った。
【0023】
(実施例3)
パルプスラリーにNaOHを添加してpH8に調整した後、1時間攪拌し、次に硫酸を添加してpH7に戻した後、直ちにカチオン性柔軟剤(T−FS301)を対パルプ重量比で0.5重量%添加して10分間攪拌し、しかる後に抄造するようにした以外は、比較例1と同様にして手抄きシートを製造し、各種物性の測定・算出を行い、その結果を表1に示した。
【0024】
(実施例4)
NaOHの添加によるpH調整をpH10とした以外は、実施例3と同様にして手抄きシートを製造し、各種物性の測定・算出を行い、その結果を表1に示した。
【0025】
(比較例3)
パルプ(NBKP100%)を水(pH7.5)で懸濁してパルプスラリーを製造し、比較例1と同様にして手抄きシートを作製した。この手抄きシートについて、各種物性の測定・算出を行い、その結果を表2に示した。
【0026】
(実施例5)
パルプ(NBKP100%)を水(pH7.5)で懸濁してパルプスラリーを製造し、NaOHを添加してpH10に調整した直後に柔軟剤(T−FS301)を添加し、5分間攪拌した以外は比較例1と同様にして手抄きシートを作製した。この手抄きシートについて、各種物性の測定・算出を行い、その結果を表2に示した。なお、ヤング率、比容積の向上度、裂断長比較値は比較例3を100%として算出した。
【0027】
(実施例6)
アルカリ処理時にパルプスラリーを60℃に加熱した以外は実施例5と同様にして手抄きシートを作製した。この手抄きシートについて、実施例5と同様に各種物性の測定・算出を行い、その結果を表2に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1からも判るように、本発明に係る実施例では、十分な柔軟性が発現しているにもかかわらず、紙力の低下が抑制されている。
【0030】
【表2】

【0031】
表2からも判るように、60℃に加熱してアルカリ処理し柔軟剤を添加することで、柔軟性が向上している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ティシューペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー、クレープ紙等の薄葉紙に適用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプスラリーをpH7.5〜10のアルカリ条件下に所定時間保持するアルカリ処理を行うとともに、このアルカリ処理中またはアルカリ処理後のパルプスラリーに柔軟剤を添加し、この柔軟剤を添加して得られるパルプスラリーを用いて抄紙してなる、ことを特徴とする柔軟性薄葉紙。
【請求項2】
前記パルプスラリーの温度を45〜75℃とした状態で前記アルカリ処理を行う、請求項1記載の柔軟性薄葉紙。
【請求項3】
前記アルカリ条件下にするために前記パルプスラリーに水酸化ナトリウムを添加する、請求項1及び2記載の柔軟性薄葉紙。

【公開番号】特開2008−57084(P2008−57084A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237017(P2006−237017)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】