説明

柚子種子由来の精油及び固形物

【課題】柚子の種子から抽出した良質の精油及び水溶性固形物及びその製法を提供する。【解決手段】凍結乾燥し、次いで蒸煮した柚子の種子から得られた精油であって、ノミリン100質量部に対しリモニン60〜140質量部、デアセチルノミリン50〜130質量部、イチャゲンシン0.5〜15質量部を含有する。精油を採取した後の残渣を、水で抽出して得られたリモノイド配糖体を含有する粉体状固形物を得る。製造にあたっては、凍結乾燥させ、蒸煮して柚子種子を膨潤させた後粉砕し、油溶性溶媒で精油分を抽出し、油溶性溶媒に溶解しなかった残渣を100%エタノールで抽出し、エタノールを蒸散させ精油分を得る。100%エタノールに溶解しなかった残渣を水抽出し、水溶液を分離し凍結乾燥し、該凍結乾燥物の水分を減圧下に加熱して除去して柚子の種子からリモノイド配糖体を含有する固形物の製法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柚子の種子から抽出した良質の精油及び水溶性固形物に関し、更に、この精油及び固形物を効率よく抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柚子は、古来季節の嗜好品として広く親しまれてきた。柚子から飲料、嗜好品に使用する果汁を搾汁した残渣は大量廃棄されていた。特に種子は強い苦味を伴うため、一部伝承的な漢方材料として用いられていたに過ぎない。
近時、この苦味成分が柑橘系植物に特有なリモノイドであることが判明し、このリモノイドに関し、種々の報告がなされている。
【0003】
リモノイドには抗酸化作用、抗炎症作用及び抗アレルギー作用、美肌効果があることが確認されている。本発明者らは柚子の種子からリモノイドアグリコンを含む精油を採取した後の、残渣からリモノイド配糖体を含有する水溶性固形物を採取することに成功した。そして水溶性の配糖体は、油性のリモノイドアグリコンと同様、又はそれ以上の生理活性を示すことが判明した。特に、固形物には肉芽の増殖促進効果や菌の繁殖阻害効果が認められ、火傷や切り傷の患部に塗布すると著しい治癒促進効果が期待できる。
【0004】
特許文献1には柚子の種子を乾燥粉砕後、エーテル、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、クロロホルム等の油溶性溶媒を抽出した油分を化粧品に配合することが開示されている。 しかしながら、この文献にはリモノイドに言及するところがなく、この方法を採用しても精油は採取できるが、その中に含有されるリモノイドは極めて少量であった。
【0005】
特許文献2には、柚子種子又はその抽出物を含有することを特徴とする美肌用組成物なる発明が開示され、リモニン、ノミリン等の成分の記載もある。しかしながら、実施例では粉砕した種子をn−ヘキサンを用いて60℃で1時間抽出した液を廃棄している。そしてその残渣を70%エタノールで70℃、4時間抽出し、バウダー状抽出物を得ている。この抽出物の収量やリモニンやノミリンの含有比率に関しても何ら記載がない。
【特許文献1】特公平成4−52248号公報
【特許文献2】特開2006−83150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、廃棄されていた柚子の種子から主たる有効成分であるリモノイドを効率よく抽出し、柚子の種子の有効利用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の構成は、柚子の種子から得られた精油であって、ノミリン100質量部に対しリモニン60〜140質量部、デアセチルノミリン50〜130質量部、イチャゲンシン0.5〜15質量部を含有し、柚子の種子が凍結乾燥し、次いで蒸煮した種子であることを特徴とする精油であり、精油を採取した後の残渣を、水で抽出して得られたリモノイド配糖体を含有する粉体状固形物であることを特徴とする。製造にあたっては、柚子の種子を凍結乾燥させ、蒸煮して乾燥種子を膨潤させた後粉砕し、油溶性溶媒で抽出して得られた液から油溶性溶媒を蒸散させることを特徴とし、油溶性溶媒に溶解しなかった残渣を100%エタノールで抽出し、得られた抽出物からエタノールを蒸散させることを特徴とする柚子種子由来の精油の製法であり、100%エタノールに溶解しなかった残渣を水抽出し、水溶液を分離し凍結乾燥し、該凍結乾燥物の水分を減圧下に加熱して除去することを特徴とする柚子の種子からリモノイド配糖体を含有する固形物の製法である。
【0008】
すなわち、本発明者らは柚子の種子に極めて大量のリモノイドが含有されることを見出し、それを効率的に抽出する手段を提供するものである。
本発明は柚子の種子からリモノイドを抽出するにあたり、リモノイドの分解を防ぐべく凍結乾燥している。更に、組織の結合を緩め、リモノイドを放出し易くするために蒸煮を行っている。この結果、油溶性溶媒で抽出すると、リモノイドアグリコンを多く含む精油を高濃度で抽出することができる。
抽出残渣はリモノイド配糖体を含み、水で抽出することができ、水分を蒸発させると綿状のふわふわした固形分としてリモノイド配糖体を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、極めて簡単な方法で純度の高いリモノイドアグリコン精油と粉状のリモノイド配糖体固形物を効率よく採取することができ、工業的にも容易に採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の原料は柚子種子であれば、特に限定はない。リモノイドの含有量は産地によって異なり、原種に近いほどリモノイドの含有量が多くなる傾向がある。
乾燥種子であっても結合水等の水分が含まれているため、リモノイドの抽出を容易にすべく抽出に先立って凍結乾燥を行う。凍結乾燥により50%近く重量が減少する。
【0011】
本発明の特徴は抽出に先立ち凍結乾燥物を蒸煮することである。水蒸気を通すことにより一度収縮した組織が緩み、この操作で有効成分と組織との結合状態も緩和され、抽出し易い状態になる。現に、蒸煮することなく粉砕し、抽出した場合には1/7〜1/10量のリモノイドしか得られなかった。蒸煮にあたっては、当然ながら液状の水と接触させてはならない。蒸煮するにしたがって種子は水分を吸って膨潤する。容積で1.5倍〜2倍に近づき、容積の更なる膨張が止まったところで蒸煮を終了する。一般に30〜45分を要する。
【0012】
蒸煮が終了した後、直ちにミキサーで粉砕し、油溶性溶媒を用いて精油分を抽出する。油溶性溶媒としては、n−ヘキサン、i−ヘキサン、エーテル、トルエン、キシレン、ベンゼン、クロロホルム等公知の油溶性溶媒は全て使用できるが、環境に配慮してヘキサンが好ましい。抽出温度は常温から溶媒の沸点近くの温度までを選択でき、温度依存的に抽出時間は短縮できるが、安全のためには低温が好ましい。溶媒中に生柚子種子の約16〜36質量%の精油が移行している。溶媒を留去すれば精油が高収率で得られる。生柚子100質量部に対し10〜25質量部、一般には15〜20質量部の精油が得られる。
【0013】
得られた精油の主たるアグリコンであるノミリン、リモニン、デアセチルノミリン、イチャゲンシンの濃度を逆層カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略称することがある。)で測定した。
本発明においては、ノミリンとリモニンの含有量に関し、ノミリン100質量部に対して、リモニンが60〜140質量部、好ましくは70〜130質量部である。ノミリンとデアセチルノミリンの含有量に関しては、ノミリン100質量部に対してデアセチルノミリン50〜130質量部、より好ましくは60〜120質量部の関係にある。ノミリンと柚子に固有なイチャゲンシンに関しては、ノミリン100質量部に対してイチャゲンシン0.5〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部を含有する。
【0014】
油溶性溶媒で抽出されなかった残渣及び残留する油溶性溶媒は100%のエタノールで抽出する。このエタノール抽出液の溶媒を蒸散すると、油溶性溶媒で抽出し残した粘性の高い精油が得られ、その量は生柚子種子100質量部に対し、15〜20質量部、一般には10〜15質量部である。
エタノール抽出残渣を水で抽出し、抽出液を凍結乾燥する。この抽出液をエタノールで再度洗浄してもよい。洗浄したエタノールを蒸散すると1%前後の精油が得られる。得られた凍結乾燥物はふわふわした粉状の固形物である。収量は生柚子種子100質量部に対し、15〜25質量部、一般には19〜22質量部である。
【0015】
ヘキサン抽出精油も100%エタノール抽出精油も含有される各アグリコンの量比は余り変動しないが、100%エタノール抽出精油の方がよりアグリコン濃度が高い。
以下、実施例を挙げて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
実施例1(リモノイドの抽出)
和歌山県龍神村産の生柚子種子を洗浄し、水分を拭き取り或いは蒸散させた、種子500gを凍結乾燥した。この乾燥種子を100℃の水蒸気中で40分蒸煮した。蒸煮終了直後にミキサーで粉砕し、常温で500mlのヘキサンを加えて激しく撹拌し、ヘキサン層と固形分層を分離し、固形分層に再度500mlのヘキサンを加えて分離する操作を3回繰返した。3回のヘキサン抽出液からヘキサンを減圧除去し、90gの精油を得た。
【0017】
ヘキサン抽出残渣を100%エタノールで洗浄した。200mlの100%エタノールと激しく振盪してエタノール層を分離する作業を3回繰返した。得られたエタノールを減圧除去すると69gの精油が得られた。この精油をヘキサン抽出の精油と混合した。
ヘキサン抽出及びエタノール抽出後の残渣を200mlの水で3回抽出した。得られた水溶液を凍結乾燥して108gのふわふわした粉状の固形物を得た。
【0018】
比較例1
実施例1と同一の凍結乾燥した柚子種子500gを凍結乾燥した後、蒸煮しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られたヘキサン抽出精油は19g、エタノール抽出精油は4.5g、水抽出物は32gであった。
この比較例から、凍結乾燥後の蒸煮工程がリモノイド成分の抽出に大きく貢献していることが明らかである。
【0019】
実施例2(リモノイドアグリコンの同定、定量)
実施例1で得られた精油中のリモノイドを、高速液体クロマトグラフィーにより分析した。機器は津製作所製のHPLCを用い、LC−10ASポンプとSPD−10A、UV−VIS検出器、CTO−10A、カラムオーブン(40℃)より構成されたシステムを用いた。逆層カラムは、西尾工業社製、neo−pack ODS−2(4.6mmID×150mm)を使用した。リモノイド測定に関するHPLC分析は、溶離液にアセトニトリル:メタノール:水=10:40:50を使用し、流速1.0ml/分、波長210nmの条件でアグリコンの測定を行った。
【0020】
高速液体クロマトグラブィーによる測定の結果、乾燥柚子種子100gから得られた精油中には下記のリモノイドが下記の量で含まれていた。
デアセチルノミリン 483mg/100g乾燥柚子種子
ノミリン 584mg/100g乾燥柚子種子
リモニン 540mg/100g乾燥柚子種子
イチャゲンシン 11mg/100g乾燥柚子種子
合計1618mgのアグリコンが得られた。すなわち、1.618%リモノイド/乾燥柚子種子である。ちなみに、現在注目されているグレープフルーツ種子には0.309%リモノイド/乾燥種子のアグリコンが検出されたのみである。
【0021】
柚子の皮及びジュースについても測定したが、リモノイドの含有量は種子のほぼ1/10程度であった。但し、イチャゲンシンのみは種子より皮、ジュースの方が多かった。
逆層HPLCの保持時間は、デアセチルノミリン16分、リモニン19分、ノミリン27分、イチャゲンシン30分であった。
【0022】
精油に含まれる脂肪酸及び脂肪酸グリセリドをガスクロマトグラフィーで測定した。その結果、全脂肪酸を100とすると、パルミチン酸18.8g/100g、バルミトレイン酸0.5g/100g、ステアリン酸3.6g/100g、オレイン酸33.5g/100g、リノール酸34.0g/100g、リノレン酸1.8g/100gであり、不飽和酸であるオレイン酸、リノール酸の含有比率が極端に高いことも判明した。
【0023】
なお、ガスクロマトグラフィーは、島津製、GC−14AとFID検出器より構成されたシステムを用いた。カラムはDB−130m×0.25mmキャピラリーカラム、又はφ3mm×2.1mガラス製充填剤、OV−17を用いた。カラム温度300℃で定温分析し、精油の組成及び含有量を決定した。
【0024】
実施例3(リモノイドの抽出)
外国産(例えば韓国産)の柚子種子を用いた以外は、実施例1と同様にして実験を行った。その結果、ヘキサンで抽出された精油は81g、100%エタノールの抽出された精油は59g、固形分は98gであった。本実施例においては、エタノール抽出後の残渣を凍結乾燥した後、再度100%エタノールで洗浄した。このエタノールを蒸散させた後に約1gの精油が残り、この精油をエタノール抽出精油に混ぜて59gであった。
【0025】
実施例4
45歳の女性が、揚げ物中に油がはぜて腕の内側に火傷を負った。そのまま水冷して3日間放置した。3日目には赤く糜爛した中央部が化膿していた。この時点で、実施例1で得られたリモノイド配糖体の10倍水溶液を塗布し、1日1回塗布を続けた。翌日には化膿が収まり糜爛の赤い色もやや褪色していた。塗布4日後には薄い真皮が形成していた。塗布7日後多少赤いが真皮が形成しているため治療を終了した。
【0026】
実施例5
50歳の女性が天ぷら油がはぜて右腕の内側に4か所の点状の火傷を生じた。直ちに火傷箇所を流水で冷やした。比較のために中央の1か所のみに1日1回、本発明の実施例1で得られた精油を塗布し治療した。他は重症でないので放置した。10日後において治療した火傷箇所は皮膚と同色となり完治していたが、放置した箇所は明らかに赤い火傷痕が残っていた。
【0027】
本発明によりリモニン、ノミリン、デアセチルノミリン等のアグリコンを精油と共に分離し、配糖体を粉末状の固形分として分離することに成功した。精油も粉末も共に傷の治癒効果が大きく、抗酸化作用が大きいことは文献にも記載され、化粧品の配合料として期待される。更に、抗癌作用がある旨の記載もある。しかも乾燥柚子種子からの精油の収率は25〜35質量%であり、粉末は20〜35質量%である。精油には脂肪酸及び脂肪酸グリセリドも含まれるが、脂肪酸の中でも不飽和度の高いオレイン酸、リノール酸が大半を占めていることも大きく貢献している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柚子の種子から得られた精油であって、ノミリン100質量部に対しリモニン60〜140質量部を含有することを特徴とする精油。
【請求項2】
柚子の種子が凍結乾燥し、次いで蒸煮した種子であることを特徴とする請求項1に記載する精油。
【請求項3】
柚子の種子から得られた精油であって、ノミリン100質量部に対しデアセチルノミリン50〜130質量部を含有することを特徴とする精油。
【請求項4】
柚子の種子が凍結乾燥し、次いで蒸煮した種子であることを特徴とする請求項3に記載する精油。
【請求項5】
柚子の種子から得られた精油であって、ノミリン100質量部に対しイチャゲンシン0.5〜15質量部を含有することを特徴とする精油。
【請求項6】
柚子の種子から精油を採取した後の残渣を、水で抽出して得られたリモノイド配糖体を含有する粉体状固形物。
【請求項7】
柚子の種子を凍結乾燥させ、蒸煮して乾燥種子を膨潤させた後、粉砕し、油溶性溶媒で抽出して得られた液から油溶性溶媒を蒸散させることを特徴とする柚子種子由来の精油の製法。
【請求項8】
請求項7において、油溶性溶媒に溶解しなかった残渣を100%エタノールで抽出し、得られた抽出物からエタノールを蒸散させることを特徴とする柚子種子由来の精油の製法。
【請求項9】
請求項7で得られた精油と、請求項8で得られた精油を混合することを特徴とする柚子種子由来の精油の製法。
【請求項10】
請求項8において、100%エタノールに溶解しなかった残渣を水抽出し、水溶液を分離し凍結乾燥し、該凍結乾燥物の水分を減圧下に加熱して除去することを特徴とする柚子の種子からリモノイド配糖体を含有する固形物の製法。

【公開番号】特開2009−13194(P2009−13194A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173226(P2007−173226)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(507221151)株式会社自然治癒力研究所 (1)
【Fターム(参考)】