説明

柱構造及び施工方法

【課題】短期間で精度よく施工できる柱構造、及び、該柱構造を含む構造体の施工方法を提供すること。
【解決手段】複数の斜柱と、前記複数の斜柱の各柱脚が接続される接続部と、を備えた柱構造において、前記接続部は、前記複数の斜柱毎に設けられ、前記斜柱の柱脚をピン支持する軸孔を有する板状支承部であって、放射状に配置された複数の支承部と、隣接する前記支承部間にそれぞれ配設されると共に隣接する前記支承部にそれぞれ接合され、隣接する前記支承部間の角度を規定する補強部と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の斜柱を備えた柱構造、及び、該柱構造を含む構造体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大屋根等を支持する柱構造として、複数の斜柱を多叉状に接続した柱構造が提案されている(例えば非特許文献1)。このような柱構造は、周囲の見通しを良好にし、景観にすぐれるという利点がある。非特許文献1に記載の柱構造では、複数の斜柱の柱脚をピン支持とするために、球座に支持された球体から、斜柱毎の連結部が突出した鋳鋼ジョイントが用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】川口 衛 他、「JR旭川駅の構造設計」、鉄構技術、2011年5月号、株式会社鋼構造出版、P38−44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の柱構造で利用されている鋳鋼ジョイントは、斜柱を一本ずつ連結部に溶接して接合することが必要であり、施工に時間を要する。特に、駅舎の改良工事において上記の柱構造を採用するような場合、電車が運行していない時間帯しか工事ができないので、工期的に問題となる。
【0005】
一方、鋳鋼ジョイントに代わる柱脚のピン支持構造として、ピンと軸孔との組み合わせによる支持構造の採用が挙げられるが、現場で柱脚部にピンを挿入する方法をとると、施工性向上の点で斜柱の施工誤差の許容範囲を大きくする方が有利である。しかし、許容範囲を大きくすると、風荷重や地震荷重等の外力が作用した場合に、ピンと軸孔とのクリアランスが大きいため、構造体がガタついて音鳴りがし易くなる。
【0006】
本発明の目的は、短期間で精度よく施工できる柱構造、及び、該柱構造を含む構造体の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、複数の斜柱と、前記複数の斜柱の各柱脚が接続される接続部と、を備えた柱構造において、前記接続部は、前記複数の斜柱毎に設けられ、前記斜柱の柱脚をピン支持する軸孔を有する板状支承部であって、放射状に配置された複数の支承部と、隣接する前記支承部間にそれぞれ配設されると共に隣接する前記支承部にそれぞれ接合され、隣接する前記支承部間の角度を規定する補強部と、を備えたことを特徴とする柱構造が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、上記柱構造と、前記柱構造により支持された、梁部材の組立体と、を含む構造物の施工方法であって、前記組立体を地組みする工程と、地組みした前記組立体を仮置き架台上に載置し、その位置決めを行う工程と、前記複数の斜柱のうちの一部の斜柱と、これらの柱脚が接続された前記接続部とを吊り上げ、前記仮置き架台内に配置する工程と、前記一部の斜柱の柱頭を、前記組立体にピン接続する工程と、前記複数の斜柱のうちの残りの前記斜柱の柱頭を前記組立体にピン接続すると共に柱脚を前記接続部に接続する工程と、前記複数の斜柱、前記接続部及び前記組立体を含むユニットの建て方を行う工程と、を含む施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短期間で精度よく施工できる柱構造、及び、該柱構造を含む構造体の施工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る柱構造を採用した構造物の概略図及び部分拡大図。
【図2】(A)は接続部の平面図、(B)は接続部の正面図、(C)は接続部の組立例を示す説明図。
【図3】(A)及び(B)は上記構造物の施工方法の説明図。
【図4】(A)及び(B)は上記構造物の施工方法の説明図。
【図5】(A)及び(B)は上記構造物の施工方法の説明図。
【図6】(A)及び(B)は上記構造物の施工方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る柱構造2を採用した構造物Aの概略図及び柱構造2の部分拡大図である。構造物Aは2階建ての建築物であって、2階部分の床スラブ3上に柱構造2が立設されている。柱構造2は大屋根1を構成する梁部材の組立体11に連結されて、大屋根1を支持する柱の一部を構成している。
【0012】
<柱構造>
柱構造2は、その下部を構成する垂直な柱部材23と、その上部を構成する複数の鉄骨の斜柱21と、これらを接続する接続部22と、を備える。本実施形態の場合、斜柱21は4本設けられており、柱部材23から四叉状にこれらが立ち上がっている。しかし、斜柱21の数はこれに限られず、二叉状、三叉状或いは五叉状にしてもよい。接続部22は柱部材23の上部に固定されると共に、複数の斜柱21の各柱脚が接続されている。なお、本実施形態では、柱部材23上に接続部22を固定する構成としたが、柱部材23を省略し、床スラブ3に接続部22を直接固定する構成も採用可能である。
【0013】
図2(A)は接続部22の平面図、(B)は接続部22の正面図である。接続部22は、斜柱毎に設けられた合計4つの支承部221と、ベース部222と、隣接する支承部221間にそれぞれ配置された合計4つの補強部223と、を備える。
【0014】
各支承部221は一枚の板状をなしており、その厚み方向に貫通した軸孔221aを有している。各支承部221は、図2(A)に示すように、平面視で放射状で、かつ、等角度ピッチ(90度ピッチ)で配置されている。本実施形態の場合、各支承部221がその中心部で接合されて十字状をなしているが、その中心部で分離していてもよい。また、各支承部221を等角度ピッチで配置したが、不等角度ピッチとすることも可能である。
【0015】
図2(A)に示すように斜柱21の柱脚側端部には一対の板状の連結部221が設けられており、各連結部221にはその厚み方向に貫通した軸孔211aが形成されている。斜柱21は、その連結部221間に支承部221を挿入し、軸孔221a及び軸孔211aにピン24を挿通することで接続部22に接続され、かつ、ピン支持される。
【0016】
本実施形態の場合、斜柱21側を一対の板状の連結部221とし、接続部22側を一枚の板状の支承部221としたが、斜柱21側を一枚の板状の連結部とし、接続部22側を一対の板状の支承部としてもよい。
【0017】
なお、図2(B)に示すように斜柱21の柱頭側端部にも、一対の板状の連結部221及び軸孔211aが形成されており、梁部材の組立体11に設けた連結部112にピン支持される。
【0018】
ベース部222は、本実施形態の場合、円板状をなし、各支承部221の下面が溶接等によって固着されている。ベース部222には、その厚み方向に貫通した取付孔222aが設けられている。図2(B)に示すように、取付孔222aには柱部材23の上端部に設けたベースプレート231(図1参照)に植設したボルト231aが挿通し、ボルト231aにはナット231bが螺着される。
【0019】
取付孔222aはボルト231aの直径よりも十分大きな直径を有しており、ベースプレート231に対する接続部22の水平方向の位置を調整可能としている。更に、ベース部222とベースプレート231との間に、高さ調整プレートを挟み込むことにより、接続部22の鉛直方向の位置調整も可能としている。接続部22はこれらの位置調整ののち、ナット231bを締結して仮固定し、ベース部222とベースプレート231とを溶接することで、最終的に固定することができる。
【0020】
各補強部223は、隣接する支承部221にそれぞれ接合され、隣接する支承部221間の角度を規定している。本実施形態の場合、各補強部223は扇型をなしており、その端面間の角度が、支承部221の配設ピッチに合わせて90度となっている。本実施形態では、補強部223の形状を扇型としているが、例えば三角形等、他の形状であってもよい。
【0021】
補強部223を設けたことで、支承部221を補強でき、座屈防止を図れる。特に図2(B)に示すように、各斜柱21の軸線Lの交点Pと同じ高さに補強部223の位置を設定することにより、支承部221の補強効果を高めることができる。
【0022】
補強部223は、また、支承部221の配置精度を向上することができる。図2(C)は接続部22の組立例を示す説明図である。同図の例では、4つの支承部221を、1つの部材221Aに2つの部材221Bを溶接すること構成する場合を例示している。部材221Aは2つの支承部221を形成し、各部材221Bは1つの支承部221を形成することになる。
【0023】
部材221Aには部材221Bが溶接されるが、その際、これらの一方に補強部223を溶接しておく。そうすると、補強部223を定規(分度器)として利用して、部材間の溶接作業を行える。この結果、支承部221の配置精度を向上できる。
【0024】
本実施形態では、このように、接続部223を鉄鋼の板材の組合せで構成できるので、その製造コストを抑制できる。また、斜柱21との接続作業に溶接は不要であり、ピン24の挿入によるので、施工期間の短縮化を図れる。
【0025】
<施工方法>
次に、組立体1と柱構造2との施工方法の例について図3乃至図6を参照して説明する。構造物Aが駅舎等の建築物である場合には、建て方時間が夜間等に限られる。そこで、本実施形態では、下記に述べるように、組立体1と柱構造2の一部をユニット化しておき、建て方時間を短縮する。また、構造体Aがガタついて音鳴りすることを抑制するため、施工誤差をより小さくする。上述した補強部223の定規(分度器)としての利用による支承部221の配置精度と、これから説明する施工方法による施工精度とにより、例えば、軸孔211a、221aの直径が70mmの場合に、ピン24との許容誤差を0.5mm程度に抑えることができる。
【0026】
図3(A)を参照して、まず、組立体1をバックヤードで地組みする。組立体1は鉄骨の梁部材111を正方形の格子状に組み付けて構成されており、四隅部分には斜柱21が接続される支承部112が設けられる。この段階では組立体1は仮締めされる。
【0027】
次に図3(B)に示すように、組立体1を不図示のクレーンのクレーンフックFで吊って、仮置き架台4上にセットする。仮置き架台4はバックヤードで事前に組み立てられる。仮置き架台4はH型鋼材や仮設材等から構築され、その上部には組立体1がセットされるジャッキ41が設けられる。なお、仮置き架台4には転倒防止ワイヤ等が組み付けられると共に枠組足場等が配設されるが、図示を省略している。
【0028】
組立体1がジャッキ41上に載置されると、組立体1の測量とジャッキ41の昇降によって、組立体1が構造部Aに設置されたときの姿勢となるように、その位置決めを行う。位置決めが完了すると、組立体1を本締めする。
【0029】
組立体1のこれらの作業に並行して、或いは前後して、柱構造2の準備を行う。まず、図4(A)に示すように、複数の斜柱21のうちの一部の斜柱21と、接続部22とを地組みする。同図の例では、同一直線状に位置することになる2本の斜柱21の柱脚を接続部22に接続している。次に、図4(B)に示すように、地組みした2本の斜柱21と接続部22とを不図示のクレーンで吊り上げ、仮置き架台4内に配置する。このとき、組立体1の梁部材111と斜柱21とが干渉しないように、地組みした2本の斜柱21と接続部22とをV字型に吊って降下させる。接続部22の着地地点には事前にジャッキ5を配置しておく。その後、2本の斜柱21の一方の柱頭の連結部211を組立体11側の支承部112にピン接続する。次に、2本の斜柱21の他方の柱頭の連結部211を組立体11側の支承部112にピン接続する。その際、接続部22をジャッキ5上に着座させ、ジャッキ5の昇降により連結部211と支承部112との高さ合わせを行うことができる。
【0030】
次に、残り2本の斜柱21の接続作業に移る。図5(A)に示すように、残り2本の斜柱21は一本ずつ不図示のクレーンで吊り上げ、組立体1の梁部材111と斜柱21とが干渉しないように仮置き架台4内に配置する。そして、柱頭の連結部211を組立体11側の支承部112にピン接続する。必要に応じてジャッキ5の昇降により連結部211と支承部112との高さ合わせを行う。残り2本の斜柱21の接続作業が完了すると、図5(B)に示すように、4本全部の斜柱21、接続部22及び組立体1とが互いに組み付けられ、かつ、構造物Aに設置されたときの姿勢とされたユニットUが完成する。ユニットUには必要に応じて更に小梁等を組み付ける。
【0031】
次に、図6に示すように、ユニットUの建て方を行う。まず、図6(A)に示すように仮置き架台4から、不図示のクレーンによってユニットUを吊り上げる。次に、図6(B)に示すように、ユニットUを床スラブ3に設置した仮置き架台6上にセットする。仮置き架台6の上部にはユニットUがセットされるジャッキ61が設けられる。ジャッキ61の昇降によりユニットUの高さ方向の位置が調整される。
【0032】
床スラブ3上には柱部材23が事前に施工されており、柱部材23のベースプレート231上にユニットUの接続部22が着座される。ベースプレート231と接続部22との位置決めを行った後、両者が固定される。また、組立体1は、隣接する不図示の組立体1と接続され、溶接にて固定される。こうした施工作業が完了した後、仮置き架台6が撤去される。
【0033】
本実施形態では、このようにバックヤードにてユニットUの組立てを行い、かつ、その位置決めも行っているので、柱構造2やユニットUを短期間で精度よく施工できる。
【符号の説明】
【0034】
2 柱構造
21 斜柱
22 接続部
221 支承部
223 補強部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の斜柱と、前記複数の斜柱の各柱脚が接続される接続部と、を備えた柱構造において、
前記接続部は、
前記複数の斜柱毎に設けられ、前記斜柱の柱脚をピン支持する軸孔を有する板状支承部であって、放射状に配置された複数の支承部と、
隣接する前記支承部間にそれぞれ配設されると共に隣接する前記支承部にそれぞれ接合され、隣接する前記支承部間の角度を規定する補強部と、
を備えたことを特徴とする柱構造。
【請求項2】
請求項1に記載の柱構造と、前記柱構造により支持された、梁部材の組立体と、を含む構造物の施工方法であって、
前記組立体を地組みする工程と、
地組みした前記組立体を仮置き架台上に載置し、その位置決めを行う工程と、
前記複数の斜柱のうちの一部の斜柱と、これらの柱脚が接続された前記接続部とを吊り上げ、前記仮置き架台内に配置する工程と、
前記一部の斜柱の柱頭を、前記組立体にピン接続する工程と、
前記複数の斜柱のうちの残りの前記斜柱の柱頭を前記組立体にピン接続すると共に柱脚を前記接続部に接続する工程と、
前記複数の斜柱、前記接続部及び前記組立体を含むユニットの建て方を行う工程と、を含む施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96128(P2013−96128A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239451(P2011−239451)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)