説明

栓塞物質捕捉用フィルターデバイス

【課題】逆行性にフィルターを設置することができる栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを提供すること。
【解決手段】栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100は、血管内の目的位置までフィルター部材40を移動させるためのコアワイヤ20と、このコアワイヤ20の遠位先端側に形成され、血管内のコアワイヤ20を誘導するガイド部30と、コアワイヤ20に設けられた血栓やデブリスを捕捉するためのフィルター部材40と、コアワイヤ20を貫通可能なシース50と、を主として備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栓塞物質捕捉用フィルターデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冠動脈、頸動脈、静脈グラフト等の血管狭窄部において、インターベンション術によるステントグラフト留置による経皮的血管形成手術が行われている。しかし、インターベンション術の最中に、術中に遊離したデブリスや血栓等が血管末梢に流れて、血管等を梗塞させる場合がある。
【0003】
フィルターデバイスは、こうしたインターベンション術において、血管などの栓塞物質が末梢側に流出することを防止するために、治療部位より末梢側に設置されて栓塞物質を捕捉するためのデバイスである。このフィルターデバイスとして、袋状の開口部をガイドワイヤの近位後端側に配置し、袋部を遠位先端側に配置した袋状のフィルターが取り付けられたデバイスが使用されている(特許文献1)。
【0004】
こうした従来のフィルターデバイスは、頸動脈ステント術の末端保護用に開発されたものであり、順行性に血管内に挿入し、留置して使用されるためのものである。こうしたフィルターデバイスは、腹部大動脈や下肢動脈等のインターベンション術にも有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−537856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、大動脈弓部など頭頸部や腕に分岐する部分にステントグラフトを留置するインターベンション術を行う場合、ステンドグラフト留置時に留置箇所や心臓弁についている血栓を、末梢側に飛散させてしまうおそれがある。この飛散を防止するためには、腕頭動脈等にフィルターデバイスを設置する必要がある。かかる場合に、従来のフィルターデバイスを設置しようとすると、大腿部より順行性に挿入しなければならない。そのため、大動脈弓部にステントグラフトを留置するカテーテルと、フィルターデバイスを設置するガイドワイヤがいずれも大腿部等から並行して挿入しなければならないことになる。そのため、フィルターデバイスは、治療部位を通過させて配置することとなり、挿入時に血栓等を飛散させてします恐れがある。また、フィルターデバイスがステントグラフト外側に位置することになるため回収が困難になるという課題があった。そのため、現実にはフィルターデバイスを設置することは不可能であるため、上記のような手術においてフィルターデバイスを設置することはできなかった。また、下肢インターベンション術においては、順行性にフィルターデバイスを配置しようとすると、血管の狭窄がはげしく、また、狭窄領域が長くなっていることも多いためその狭窄させている部分を通過させて配置することが困難であるという課題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記課題を鑑みてなされたもので、逆行性にフィルターを設置して、ステントグラフト留置するためのカテーテルとは、全く異なる血管を通過させることにより、目的位置に配置できる栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスは、
コアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位先端に設けられるガイド部と、
開口部が遠位先端側に形成され、かつ底部が開口の近位後端側に配置されるように、前記ガイド部近位後端側のコアワイヤに取り付けられている袋状のフィルター部材と、
前記コアワイヤと前記フィルター部材とを内部に収容可能なシースと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
かかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイスによれば、コアワイヤを血管内に導入する際に、進行方向側に開口部を有し、進行方向反対側に袋部底部を有する袋状に形成されている。そのため、例えば、大動脈弓部にステントグラフトを留置するインターベンション術を行う際に、栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを腕頭動脈、左層頸動脈等に設置する必要がある場合、頸動脈側から栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを挿入することが可能になる。そのため、手術部である大動脈弓部を経由することなく、塞物質捕捉用フィルターデバイスを設置することが可能になる。従って、従来、フィルターデバイスを設置することができなかった上記手術の場合でも、塞物質捕捉用フィルターデバイスを逆行性で挿入することができるため、治療部位を通り越して設置する必要がないため、容易に治療部位の末梢側に栓塞物質用フィルターデバイスを設置することができる。このように、治療部位を通過しないため、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス挿入時やステントグラフト留置時に大動脈弓部の血栓やデブリスを挿入時に飛散させることを防止することができる。また、本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスによれば、フィルター部材に捕捉したデブリスや血栓等を回収する際に、フィルター部材をシース内に収容可能であるので、栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを回収するときに、フィルター部材をシース内に収容した状態で回収することができる。そのため、捕捉したデブリスや血栓等を脱落させることを防止することができる。また、回収の際には、ステントグラフト留置領域を経由して回収する必要がないため、容易に回収することが可能である。また、下肢動脈拡張術等においては、狭窄部位の末梢側からフィルターデバイスを挿入することができ、狭窄部位を通過させる必要がないため、フィルターデバイスを容易に配置させることができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「遠位先端側」とは、栓塞捕捉用フィルターデバイスを差し込む側をいい。「近位後端側」とは、栓塞捕捉用フィルターデバイス操作時に術者の手元側に配置される側をいう。
【0011】
また、本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスにおいて、前記フィルター部材の底部は、前記コアワイヤと連結されていなくてもよい。一般にフィルターの袋部の底部は、コアワイヤに取り付けられ固定されることが多いが、本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスにおいては、フィルター部材の底部がコアワイヤに固定されていなくてもよい。かかる構成を採用することによって、フィルター部材をシース内に収容するときに、フィルターの開口部をフィルターの底部より先にシース内に収容することができる。そのため、開口部を袋状のフィルターより先に閉塞させることができ、開口からデブリスや血栓等の栓塞物質を脱落させる危険性を防止することができる。
【0012】
また、本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスにおいて、前記開口部には、開口部の周囲に沿って前記フィルター部材を保持する開口部保持ワイヤが前記コアワイヤに取り付けられていてもよい。かかる構成を採用することにより、栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを目的位置に配置した後、シースからフィルター部材を開放した際に、フィルターデバイスの開口部が開口し易くなり、また、開口状態を維持し易くなる。そのため、血管内で開口部が完全に開口しないという状態が発生する可能性を低く抑えることができる。また、血管内で開口部が血管壁を押圧することにより、血管と開口部との間に隙間が発生するのを防止することができるため、血栓やデブリス等の栓塞物質がこの隙間から末梢側へ流れる可能性を低く抑えることができる。
【0013】
また、本発明の栓塞物質用捕捉用フィルターデバイスにおいて、前記開口部は、前記コアワイヤとの付け根からコアワイヤの遠位先端方向へ傾いて設置されていてもよい。かかる構成を採用することによって、開口部がシースの遠位先端側に押し倒されやすくなるため、コアワイヤを引き込むか又はシースを押し出すことによって、開口部が垂直である場合や開口部が近位後端側に傾いている場合と比較して、弱い力で容易に開口部をシース内に収容することができる。
【0014】
また、本発明の栓塞物質用捕捉用フィルターデバイスにおいて、前記開口部には、梁部材が前記開口部保持ワイヤと前記コアワイヤとの間に懸架されていてもよい。すなわち、前記開口部に、開口部の起立状態を保持するためのいわゆる梁部材が前記開口部保持ワイヤと前記コアワイヤとの間に懸架されている。そのため、開口部が血流により不意に倒れて、血管との間に隙間が発生することを防止することができる。
【0015】
また、本発明の栓塞物質用捕捉用フィルターデバイスにおいて、前記梁部材と前記コアワイヤとを連結する連結部を備えており、前記連結部は、前記コアワイヤ上をスライド自在に形成されてなり、前記連結部が一定の位置より前記コアワイヤの近位後端側へのスライドするのを防止する移動防止部材が設けられていてもよい。かかる構成を採用することによって、開口部は遠位先端方向へは倒れることが可能であるが、近位後端側方向へは倒れることができなくなる。そのため、手術中に血流によって、フィルター部材の開口部が近位後端側方向へ倒れるのを防止することができる一方で、開口部をシース内に収容する際に、開口部が倒れるのに応じて連結部がスライドするため、梁部材が設けられていても開口部をシース内に収容することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイスによれば、例えば、大動脈弓部など頭頸部や腕に分岐する部分にステントグラフトを留置するインターベンション術を行う際に腕頭動脈等にフィルターデバイスを設置する必要がある場合であっても、大動脈を通過させることなく、容易にフィルターデバイスを腕頭動脈に設置することができる。また、フィルターデバイスの回収時に、ステンドグラフトを経由することなく回収可能な栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを提供することができる。また、下肢動脈拡張術等においては、狭窄部位の末梢側からフィルターデバイスを挿入することができ、狭窄部位を通過させる必要がない栓塞物質捕捉用フィルターデバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100の構成の概略を示す図である。
【図2】図2は、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100の主たる構成を拡大した図である。
【図3】図3は、実施形態にかかるコアワイヤ20及び開口部保持ワイヤ43のみを示した斜視図である。
【図4】図4は、実施形態にかかる開口部保持ワイヤ43と梁部材44との連結部を示す拡大図である
【図5】図5は、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100の使用前の状態を示す一部透視断面図である。
【図6】図6は、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を回収する方法を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態)
以下、図面を用いて、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100について詳細に説明する。
【0019】
図1は、実施形態にかかる栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100の概略図である。実施形態の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100は、血管内の目的位置までフィルター部材40を移動させるためのコアワイヤ20と、このコアワイヤ20の遠位先端側に形成され、血管内のコアワイヤ20を誘導するガイド部30と、コアワイヤ20に設けられた血栓やデブリスを捕捉するためのフィルター部材40と、コアワイヤ20を及びフィルター部材を内部に収容可能なシース50と、を主として備えている。
【0020】
コアワイヤ20は、主として、手元側のコアワイヤを操作することによって、フィルター部材40を所望の血管内(例えば、腕頭動脈)に配置する目的、及びインターベンション術においてステンドグラフトを留置した後に、フィルター部材40を回収する目的に使用されるものである。
【0021】
コアワイヤ20は、テフロン(登録商標)コーティングされたステンレス鋼からなり、図1に示すように遠位先端にいく程、太さが細くなるようにテーパー状に形成されている。これは、遠位先端側をより柔軟に形成して血管の追従性を高めるためである。
【0022】
ガイド部30は、図2に示すように、コアワイヤの遠位先端に設けられる遠位先端チップ31と、コアワイヤ20の遠位先端側にコアワイヤ20を取り囲むように取り付けられているマーカー部材32と、を備えている。遠位先端チップ31は、銀ロウでロウ付けされたものであり、遠位先端は曲面を有している。コアワイヤ20が血管内を進行する際に、血管を傷つけないようにしたものである。
【0023】
マーカー部材32は、ガイド部30の周囲を放射線不透過材料であるプラチナ−イリジウム合金からなるワイヤを巻き付けてなる。このマーカー部材32によって、治療中にX線透視画面でマーカー部材32の位置を確認することができ、術者にコアワイヤ20の遠位先端の位置の理解の補助をする。
【0024】
フィルター部材40は、袋状のフィルター41と、このフィルター41の開口部42に設けられ、開口部42の開口状態を維持する開口部保持ワイヤ43と、この開口部保持ワイヤ43の起立状態を保持する梁部材44と、を備えている。
【0025】
フィルター41は、生体適合材料であるポリウレタンからなり、血液は通過可能であるが、血栓、デブリス等は捕捉可能となるように、100μmの小孔が多数形成されている。フィルター41は、一方が開口された開口部42を有する袋状に形成されてなり、この開口部42から血栓やデブリス等の栓塞物質を捕捉する。
【0026】
開口部保持ワイヤ43は、図3に示すように、1本のワイヤを折り返して遠位先端を円形状にした後、根元の直線部43aの軸と円形部43bの平面とがなす角度α(図2参照)が、約45°から80°でとなるように折り曲げて形成されている。すなわち、根元の直線部43aはコアワイヤ20と平行に取り付けられており、開口部保持ワイヤ43の円形部43bはコアワイヤ20に対して約60°の角度を保持するように配置される。開口部保持ワイヤ43は、ある程度の可撓性を有しており、根元の直線部43aの軸と円形部43bの平面とがなす角度αは、ある程度力を与えることで倒すころができ、また、円形部43bを楕円状、ひいてはきわめて直線に近い楕円状に変形させることができるが、力を解放することによって、図3に示す形態に復帰することができる。この開口部保持ワイヤ43に沿って、フィルター41の開口部42は取り付けられており、開口部保持ワイヤの形態の変化に応じてフィルター41の開口の形態も変化することになる。開口部保持ワイヤ43の円形部43bには、図2に示すように、マーカーコイル45がらせん状に巻き付けられており、このマーカーコイル45によって、治療中にX線透視画面で開口部保持ワイヤ43、ひいてはフィルター部材40の開口部42の位置を確認することができる。
【0027】
梁部材44は、開口部保持ワイヤ43の円形部43bのうち、コアワイヤ20から最も遠い位置、つまり、図2でいう一番高い位置(「遠隔位置」という。)と開口部42より遠位先端側のコアワイヤ20との間を懸架するように設けられる。梁部材44と開口部保持ワイヤ43との連結部46は、開口部保持ワイヤ43の遠隔位置に取り付けられ、開口部保持ワイヤ43に対して回動可能に設けられている。なお、梁部材44と回動保持ワイヤ43との連結部46は、開口保持ワイヤ43と回動可能に設けられていれば、その連結方法は特に限定するものではない。例えば、図4Aに示すように、梁部材44の先端を回動保持ワイヤに巻き付けてもよいし、図4Bに示すように、連結部46の梁部材44の先端を開口保持ワイヤ43に対してクリアランスを有する管状にして、この管内に開口保持ワイヤ43を通すことによって、回動可能にしてもよい。一方、コアワイヤ20と梁部材44との連結部47は、図2に示すように、コアワイヤ20の軸に対してスライド可能となるように巻き付けて取り付けられる。勿論、コアワイヤ20と梁部材44との連結部47はスライド可能であればよく、その構造は特に限定するものではない。梁部材のまき付け部を管にしてコアワイヤ20に対してスライド可能にしてもよい。そのため、開口部保持ワイヤ43の円形部43bが遠位先端側(βの方向)に倒れる場合には、連結部47は前端側にスライドして円形部43bが倒れる動きを妨げることはない。連結部47の近位後端側には、連結部47が近位後端側にスライドしないようにストッパー48が設けられている。そのため、円形部43bが近位後端側(γの方向)に倒れようとする場合は、梁部材の連結部47は、ストッパー48によって妨げられるため、一定以上近位後端側に倒れることが防止される。これにより、開口部保持ワイヤ43が血管内に設置された際に、血流によってコアワイヤ20の近位後端側に倒れることを防止することができる。
【0028】
シース50は、ポリウレタンによって、柔軟性を有する管状体に形成されていて、全長に渡って貫通したルーメンが形成されている。シース50遠位先端側のルーメンは、コアワイヤ20及びフィルター部材40が収容可能な大きさに形成され、コアワイヤ20はシース50内を相対的に移動可能である。シース50は、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を体内に挿入する際と、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を回収する際とで、異なる太さのシース50を使用してもよい。具体的には、挿入時には細いシースを使用してより血管内を通過しやすくするため、比較的細いシースを使用し、回収時には、一旦開いている開口部保持ワイヤ等をシース内に回収する必要があるため、比較的太いシースが使用される。
【0029】
以上のようにして形成された本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100の使用方法について、大動脈弓部など頭頸部や腕に分岐する部分にステントグラフトを留置するインターベンション術において、腕頭動脈にフィルター部材40を設置する場合を例として説明する。
【0030】
まず、あらかじめ、図5に示すように、シース50内にコアワイヤ20及びフィルター部材40を収納した状態の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を用意する。そして、穿刺針を頸動脈に刺す。その後、ガイド部30を遠位先端にしてコアワイヤ20を血管内に挿入する。ガイド部30を血管に沿わせつつ移動させながら、コアワイヤ20を血管内に滑らせつつ挿入していく。そして、X線透視画面でガイド部30及び開口部42の位置を確認しつつ、腕頭動脈の目的位置にフィルター部材40を移動させる。その後、シース50を所定距離引き出して、フィルター部材40をシース50遠位先端から押し出す。これにより、フィルター部材40の開口部保持ワイヤ43が開放され、開口部保持ワイヤ43の円形部42bが拡開し、フィルター部材40の開口部42が円形に開く。こうして、フィルター部材40は、腕頭動脈内の目的位置に図1の状態で配置されることになる。こうして配置されたフィルター部材40は、頸動脈から挿入しているにもかかわらず、大動脈弓部側に開口を有し、反対側にフィルター部材40の底部が存在するように配置される。そして、シース50は回収される。
【0031】
その後、ステントグラフトを留置するためのカテーテルを腿の動脈表在部より挿入し、ステントグラフトを留置する処置を行う。こうした処置の際に血栓やデブリスが遊離した場合であっても、配置されたフィルター41によって捕捉されることになる。
【0032】
ステントグラフトの留置が終了し、ステントグラフト留置用のカテーテルを除去した後、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を以下の要領で回収する。栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を回収するためには、まず、回収用のシース51を体外に露出しているコアワイヤの近位後端側部から挿入し、図6に示すように、フィルター部材40の存在部位までシース51を挿入する。この回収用のシース51は、挿入時のシース51より遠位先端の開口52が若干大きく作成されている。そして、体外へ露出している近位後端側のコアワイヤ20を引き込むか又はシース51を押し出すことにより、図6Aから図6Dに示すように、シース51の遠位先端の開口52は、開口部42の付け根部分まで移動し、開口部保持ワイヤ43の直線部43aがシース50内に引き込まれていく(図6B)。このとき、フィルター41の底部がコアワイヤ20に取り付けられていないので、フィルター41はシース51内に収容させることはない。この状態でさらに引き込むと、開口部保持ワイヤ43の円形部43bが倒れながら、開口面積を減じつつ、シース51内に引き込まれていく(図6B、図6C)。そして、最終的には、開口部保持ワイヤ43全体がシース51内に引き込まれる(図6D)。開口部保持ワイヤ43が倒れ込む際には、梁部材44は、コアワイヤ20と梁部材44との連結部において、遠位先端方向へスライドしていくため、開口部保持ワイヤ43が倒れる動作を妨げることはない。こうして開口部保持ワイヤ43がすべてシース50内に収納された段階で、開口部42は完全に閉じられてフィルター41内から血栓やデブリが漏出することが防止される。この状態で栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を体外に回収する。さらに、コアワイヤ20を引き込んでフィルター41全体をシース50内に引き込んだ後に栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を回収してもよい。こうしてインターベンション術は終了する。
【0033】
本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100によれば、フィルター41を腕頭動脈内の目的位置に配置する際に、大動脈弓部を経由することがないため、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100によって、大動脈弓部のステントグラフト留置領域の血栓やデブリスを飛散させるおそれを防止することができる。一方、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を除去する際にも治療部位を経由することがないため、設置されたステントグラフトによって除去が妨げられることがなく容易に回収することが可能になる。
【0034】
なお、本発明は上述した各実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0035】
例えば、上述した実施形態では、コアワイヤ20の材料として、ステンレス鋼を使用したが、これに限定するものではなく、ニッケル−チタン合金、ニッケル−チタン−コバルト合金等他の金属を使用することもできる。また、コアワイヤ20は、必ずしも同一材料である必要はなく、部分に応じて異なる剛性、可撓性を付与するために、部位に応じて異なる材料を用いてもよい。
【0036】
また、上述した実施形態では、コアワイヤ20の形態として、遠位先端側ほど細くなるテーパー状のものを使用したが、これに限定するものではなく、均一の太さのワイヤであってもよい。
【0037】
また、上述した実施形態では、マーカー部材32の材料として、プラチナ−イリジウム合金を使用したが、これに限定されるものではなく、金、プラチナ、その他放射線不透過性の材料を用いることもできる。また、マーカー部材は全体が放射線不透過性の材料である必要はなく、部分的不透過性であってもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、シース50として、ポリウレタンを使用したが、これに限定するものではない。例えば、フッ素系樹脂、ナイロン等を使用することができる。
【0039】
また、上述した実施形態では、フィルターの材料として、ポリウレタンを使用したが、これに限定されるものではなく、シリコン等であってもよい。
【0040】
また、上述した実施形態では、大動脈弓部など頭頸部や腕に分岐する部分にステントグラフトを留置するインターベンション術において、腕頭動脈にフィルター部材40を設置する場合を例として説明したが、大腿部の血管狭窄に対する治療の際に、栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100を膝や足首の動脈表在部より逆行性に挿入することも可能である。順行性で挿入しようとすると、治療部位を通り越して設置する必要があり、狭窄部位にフィルターデバイス自体が通過させることが困難となるが、本発明の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス100であれば、治療部位を通り越す必要なく設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上述した実施の形態で示すように、インターベンション術、特に、血栓やデブリスの飛散を防止するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
20…コアワイヤ、30…ガイド部、31…遠位先端チップ、32…マーカー部材、40…フィルター部材、41…フィルター、42…開口部、42b…円形部、43…開口部保持ワイヤ、43a…直線部、43b…円形部、44…梁部材、45…マーカーコイル、46…連結部、47…連結部、48…ストッパー、50…シース、51…シース、52…開口、100…栓塞物質捕捉用フィルターデバイス




【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアワイヤと、
前記コアワイヤの遠位先端に設けられるガイド部と、
開口部が遠位先端側に形成され、かつ底部が開口の近位後端側に配置されるように、前記ガイド部近位後端側のコアワイヤに取り付けられている袋状のフィルター部材と、
前記コアワイヤと前記フィルター部材とを内部に収容可能なシースと、
を備えたことを特徴とする栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項2】
前記フィルター部材の底部は、前記コアワイヤと連結されていないことを特徴とする請求項1に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項3】
前記開口部には、開口部の周囲に沿って前記フィルター部材を保持する開口部保持ワイヤが前記コアワイヤに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項4】
前記開口部は、前記コアワイヤとの付け根からコアワイヤの遠位先端方向へ傾いて設置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項5】
前記開口部には、梁部材が前記開口部保持ワイヤと前記コアワイヤとの間に懸架されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項6】
前記梁部材と前記コアワイヤとを連結する連結部を備えており、
前記連結部は、前記コアワイヤ上をスライド自在に形成されてなり、
前記連結部が一定の位置より前記コアワイヤの近位後端側へのスライドするのを防止する移動防止部材が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の栓塞物質捕捉用フィルターデバイスにおいて、
回収に使用する回収用シースを有することを特徴とする栓塞物質捕捉用フィルターデバイス。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−85657(P2013−85657A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228194(P2011−228194)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(591245624)株式会社東海メディカルプロダクツ (6)
【Fターム(参考)】