説明

核医学診断装置

【課題】放射線を利用した医学診断を高精度に行うための補正用線源を備えた核医学診断装置に関し、被検体の断層画像の画質を向上させる核医学診断装置を提供する。
【解決手段】被検体Dの体内に取り込まれた核種から放射される放射線を検出する放射線検出器21と、補正用線源31から放射される補正線Tを被検体Dに透過させて放射線検出器21に検出させる補正線放射機構部30と、補正線放射機構部30を被検体Dの体軸Zの周りに周回転させるとともに、補正用線源31を収納する線源収納室45が設けられている周回転機構部40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を利用する核医学診断装置に関し、特に、医学診断を高精度に行うための補正用線源を備える核医学診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を利用して医学診断を行う核医学診断装置のうち、陽電子放出型断層画像装置(以下、PET:Positron Emission computed Tomographyという)、単光子放出型断層画像装置(以下、SPECT:Single Photon Emission Computed Tomographyという)は、放射性薬剤を被検体(患者)に投与し、この投与された放射性薬剤の体内における分布を計測して断層画像を得る手法である。このような手法を採用することにより、分子レベルでの機能や代謝の検出が可能となり身体機能に基づく断層画像を提供することが可能になる。
投与される放射性薬剤として、PETでは陽電子放出核種(18F,15O,11C等)を含むものが、SPECTでは単光子放出核種(99Tc,67Ga,201Tl等)を含むものが用いられる。
【0003】
ここで、PETについて代表して説明すると、被検体の体内に取り込まれた陽電子放出核種を含む放射性薬剤(例えば、フルオロデオキシグルコース(2-[F-18]fluoro-2-deoxy-D-glucose、FDG))は、糖代謝により被検体の腫瘍組織に集積する性質を有している。
そして集積した位置で陽電子放出核種が崩壊すると陽電子(ポジトロン:β)を放出し、付近の細胞の電子と結合して消滅する。このように陽電子が消滅する際、互いに反対方向(180度±0.6度)に、それぞれ511keVのエネルギーを有する一対のγ線(放射線)が放出される。
このように放出された一対のγ線は、被検体の周囲に配置された多数の放射線検出器のうち二箇所で同時に検出される。そして、このように検出されたデータを蓄積して放射位置(つまり、放射性薬剤の集積位置)を同定して画像化し被検体における腫瘍部位を特定することができる。
【0004】
ところで、このような核医学診断装置では、被検体の体内に取り込まれた核種(陽電子放出核種又は単光子放出核種)から放出される放射線は、被検体の体内を進行する過程で、吸収されたり散乱したりして減衰するものである。このような放射線の減衰は、撮像される被検体の断層画像の画質を低下させるものである。
このため、そのような画質の低下を補正するために、被検体の体内に取り込まれた核種から放射される放射線を検出して断層画像を得る撮像工程とは別個に、補正工程を設けている。この補正工程とは、補正用線源を被検体の体軸の周りに回転させて補正線を被検体に照射して、放射線の減衰補正及び装置感度の補正を行う補正データを得る工程である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−338874号公報(段落番号0002〜0003、図1,図6参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、核医学診断装置による診断が遅延しないために、補正工程、及びこの補正工程と撮像工程との切り替えが迅速であることが要求される。一方で、核医学診断装置が撮像工程にあるとき、補正用放射線から漏洩する補正線が誤って放射線検出器に計数されないように補正用線源を放射線検出器から十分離れた位置に退避させる必要がある。
また、補正用線源の一連の動作は、核医学診断装置の操作性の観点から自動で行われる必要があるとともにその動作が安定していることが要求される。
このような要求を充足させて補正工程と撮像工程とを切り替えて連続的に実施をするとなると補正用線源の動作機構は複雑化し核医学診断装置の大型化が避けられない問題がある。
このように、核医学診断装置が大型化すると、スペース的な制約の多い病院等の建屋に核医学診断装置を導入することが困難になる。さらに、核医学診断装置が大型化して被験者が挿入される計測空間の内径が広がると、被験者から放射線検出器までの距離が離れて体内から放射される放射線の検出感度が低下し、得られる断層画像の画質の低下を招く問題がある。
【0006】
本発明は、前記した問題を解決することを課題として創案されたものであり、装置を大型化させることなく、自動的な動作で補正工程及びこの補正工程と撮像工程との切り替えを迅速に安定して実行する核医学診断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために本発明は、核医学診断装置において、被検体の体内に取り込まれた核種から放射される放射線を検出する放射線検出器と、補正用線源から放射される補正線を前記被検体に透過させて前記放射線検出器に検出させる補正線放射機構部と、前記補正線放射機構部を前記被検体の体軸の周りに周回転させるとともに、前記補正用線源を収納する線源収納室が設けられている周回転機構部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このように発明が構成されることにより、補正用線源を被検体の体軸周りに周回させて補正用放射線を照射させて補正工程を実行することができる。そして、この補正工程が終了すると補正用線源は、周回転機構部に設けられている線源収納室に収納されて、すぐに撮像工程に移行することができる。そして、この線源収納室は、周回転機構部に設けられているので、別個に空間を占有することがない。さらに、周回転する補正線放射機構部の周軌道を、放射線検出器に近接させてとることができるので、被験者が挿入される計測空間の内径を狭めて構成させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により次のような効果が得られる。すなわち、装置が大型化することがない簡素化した構成で、補正工程及び補正工程から撮像工程への切り替えを迅速に安定して実行するとともに、被験者の断層画像を高画質で得ることができる核医学診断装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の核医学診断装置として好適なPET装置の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態のPET装置10は、図1に示すように、ベッド11と、データ処理装置12と、表示装置13と、撮像装置20と、から構成されている。
このように構成されるPET装置10は、ベッド11に載置された被検体を計測空間Rに挿入して、腫瘍組織から放射されるγ線(放射線)を撮像装置20で検出し、この検出した信号をデータ処理装置12でデータ処理して放射線が発生する座標空間上の点を特定し、表示装置13でこの点の集合体を画像化して断層画像として表示するものである。このようにして、PET装置10は、被検体の体内における腫瘍部位を特定するものである。
ところで、PET装置10を用いて医学診断を行う場合、腫瘍部位を特定するための断層画像を得るための撮像工程と、この断層画像の画質向上に必要な補正データを得るための補正工程とを経る必要がある。そして、ベッド11に載置された被検体は、計測空間Rに挿入された状態で、この撮像工程及び補正工程が実行されることになる。
【0011】
図2を参照して説明を続ける。
ベッド11は、その上に被検体Dを載置して、放射線検出器21が円筒状に配列して形成される計測空間Rの中心軸と、被検体Dの体軸とが一致するように、被検体Dを固定するものである。
被検体Dには、例えば半減期が110分のフッ素18(18F)を含むFDGが投与されており、糖代謝により被検体Dの腫瘍組織に集積したFDGに含まれるフッ素18(18F)から陽電子が放出され、この放出された陽電子と付近の電子とが対で消滅した際に生起したγ線(放射線)が放射されるようになっている。
【0012】
データ処理装置12は、γ線(放射線)が検出される放射線検出器21の位置、γ線の波高値及び検出時刻のデータを蓄積できるようになっている。
そして、補正工程においてデータ処理装置12は、補正用線源31(図3参照)から被検体Dを透過して各放射線検出器21で検出される補正線Tの波高値を補正データとして蓄積する。この補正工程で得られた補正線Tの波高値は、被検体Dを透過する際の放射線の減衰特性に関する情報を含んでいるものである。
また、撮像工程においてデータ処理装置12は、被検体Dの体内から放射されて放射線検出器21で検出されるγ線(放射線)を、内蔵する同時計測装置12aによって所定の時間間隔で検出する。このようにして撮像工程で得られた撮像データに対して前記した補正データに基づき所定の補正演算処理を行うとともに、同時に計測される放射線検出器21上の二箇所の位置から、511keVのγ線の発生する空間座標上の点が特定される。
【0013】
表示装置13は、特定された前記空間座標上の点を断層画像化して被検体Dの腫瘍部位を特定するとともに、所定の医学診断を行うための各種オペレーションを実施するものである。
【0014】
図3を参照して説明を続ける。
撮像装置20は、放射線検出器21と、前面エンドシールド22と、筐体23と、線源シールド24,25と、補正線放射機構部30と、周回転機構部40と、直動機構部50とから構成される。
このように構成される撮像装置20は、ベッド11に載置された被検体Dを計測空間Rに挿入して、撮像工程において被検体Dの体内から放出されるγ線(放射線)を検出して断層画像を作成するのに必要な、前記した撮像データをデータ処理装置12(図1参照)に出力するものである。
また撮像装置20は、補正工程において、このγ線が被検体Dを透過する際に生じる減衰により生じる断層画像の画質低下を回復させるのに必要な、前記した補正データをデータ処理装置12(図1参照)に出力するものである。
【0015】
放射線検出器21は、被検体Dの体内に取り込まれた核種から放射される放射線を検出するものである。この放射線検出器21は、円周状にその複数個が配列して形成される円筒形状の中空部分が、計測空間Rとなるように構成されている。この放射線検出器21は、計測空間Rに接する面はもとよりその奥行き方向にいたるまで、放射線を検出するための検出器が多数(例えば、数万個から数十万個)稠密に配置されている。
このように構成される放射線検出器21は、撮像工程において、被検体Dの体内から互いに反対方向(180度±0.6度)に放射される一対のγ線が、計測空間Rの外周面に入射する位置を、高い精度で検出するものである。
さらに放射線検出器21は、補正工程において、被検体Dにおけるγ線の減衰特性を知るために、被検体Dを透過する補正線Tの波高値を検出するものである。
【0016】
前面エンドシールド22は、γ線の遮蔽性に優れる鉛材料などによって構成され、放射線検出器21が円周状に配列してなる円筒形状の被験者Dが挿入される側に筐体23に固定して設けられている。
このように構成される前面エンドシールド22は計測空間Rの外部から外乱(例えば、被験者Dの脚部あたりから放射されるγ線)が放射線検出器21に侵入するのを遮蔽するものである。
【0017】
筐体23は、撮像装置20の接地面に接するとともに、ベッド11及び被検体Dに対して、撮像装置20を構成するその他の構成部品が、相対的に適正な位置に配置されるように機械的に支持するものである。
【0018】
線源シールド24,25は、図面上、簡略化されて記載されているが、筐体23に直接支持されて配置されるものである。そして、体軸Zの周りを回転する線源収納室45が最下点に位置するところで、この線源収納室45の上側に上面線源シールド25が位置して、その開口部分に側面線源シールド24が位置するように配置される。
【0019】
この側面線源シールド24は、図4(a)に示されるように、線源収納室45が最下点以外の位置に配置しているときは略水平な傾きを示し、図5(a)に示されるように、線源収納室45が最下点に配置して補正用線源31が収納されているときは略垂直な傾きを示し線源収納室45の開口を閉じるものである。
このように、線源シールド24,25は、補正用線源31が線源収納室45に収納されている状態で、補正用線源31の近傍に配置されることとなり、計測空間Rに向けて放射される補正線を遮蔽する。
【0020】
図3(a)に戻って説明を続ける。
補正線放射機構部30は、補正用線源31と、線源支持軸32と、保持片33とから構成されるものである。このように構成される補正線放射機構部30は、補正工程において補正用線源31から放射される補正線Tを被検体Dに透過させて放射線検出器21に検出させるものである。
また補正線放射機構部30は、撮像工程において、補正用線源31を計測空間Rの外に退避させて、補正線Tが被検体D及び放射線検出器21に照射されないようにするものである。
【0021】
このように補正線放射機構部30を用いてγ線の減衰特性を調べる必要があるのは、被検体Dの表面部から放射されるγ線と深層部から放射されるγ線とでは、放射線検出器21において検出されるγ線検出効率が相違することによる。これは、被検体Dの体内から放射されるγ線は、体内を進行する過程で吸収されたり散乱されたりして減衰するからである。このような放射線の減衰は、撮像される被検体の断層画像の画質を低下させるものである。
そこで、撮像工程で被検体Dから放射されるγ線を放射線検出器21で検出して得た撮像データに対し、補正工程で被検体Dを透過させた補正線Tを放射線検出器21で検出して得た補正データを適用して断層画像の画質を向上させるわけである。
【0022】
補正用線源31は、例えば、エネルギーが511keVのゲルマニウム68−ガリウム68(68Ge−68Ga)やエネルギーが662keVのセシウム137(137Cs)である。
このように構成される補正用線源31は、被検体Dに向けて補正線Tを照射して、放射線検出器21により検出されるγ線が被検体Dを透過する際の減衰特性を明らかにするものである。
【0023】
線源支持軸32は、被検体Dの体軸Zと略平行に配置される長尺の棒状のものであって、その先端に補正用線源31が固定され、終端には後記する保持片33が設けられている。
そして、線源支持軸32は、後記する軸支部材46により、周回転機構部40の一部に長手方向へ変位自在に支持されるものである。
保持片33は、補正線放射機構部30の末端に設けられて、周回転する補正線放射機構部30が最下点に位置するときに案内片51に保持されて、直動機構部50の動作に応じて補正線放射機構部30をその長手方向に変位させるものである。そして、保持片33は、補正線放射機構部30が周回転して最下点から位置を替えると後記する案内片51の保持が解除されるように構成されている。
【0024】
周回転機構部40は、後面エンドシールド41と、転動部材42と、回転部材43と、歯合部材44と、線源収納室45と、軸支部材46と、駆動手段47とから構成されるものである。このように構成される周回転機構部40は、補正工程において、補正線放射機構部30を被検体Dの体軸Zの周りに周回転させるとともに、撮像工程において、線源収納室45に補正用線源31を収納するものである。このように周回転機構部40が動作することにより、被検体Dに対して補正線Tを全方位から照射させるとともに、その透過した補正線Tは、体軸Zに対して補正用線源31と対称に位置する放射線検出器21に入射することになる。このようにして、補正工程が実行されることになる。
【0025】
後面エンドシールド41は、体軸Zに対して軸対称な円環状を有し、さらに計測空間Rを挟んで前面エンドシールド22に対称な位置に配置されている。そして、後面エンドシールド41は、後記する回転部材43に対して同軸に固定され、この回転部材43とともに体軸Zを中心に回転するものである。そして、後面エンドシールド41は、計測空間Rの外部から外乱が放射線検出器21に侵入するのを防ぐものである。
また後面エンドシールド41には、線源収納室45に収納される補正用線源31が通過するための切欠部位41aが設けられている。
【0026】
転動部材42は、後記する回転部材43が体軸Zを中心として回転するように、筐体23に連結するものである。転動部材42は、剛性が高く回転の際に発生する振動の少ないベアリング等で構成されることが望ましい。
回転部材43は、体軸Zに対して軸対称な円環状を有し、その外周に設けられた歯合部材44に駆動手段47の歯車に噛み合わせて、この歯車が回転駆動するのに同期して体軸Zを中心に回転するものである。
そして、回転部材43の一部には、補正線放射機構部30が軸支部材46を介して支持されている。
このように構成される回転部材43は、筐体23側に固定されている駆動手段47(例えばモータ)が駆動すると、図4(b)に示されるように周軌道Mで補正線放射機構部30を周回転させる。これにあわせて補正線放射機構部30の先端に支持される補正用線源31も、体軸Zの周りで周軌道Mの周回転を行うことになる。
【0027】
線源収納室45は、回転部材43の内部に設けられ、計測空間Rから退避してきた補正用線源31が収納される空間である。なお、線源収納室45の計測空間Rに通じる開口には、後面エンドシールド41の切欠部位41aが位置しているとともに、この線源収納室45が体軸Zの周りに周回転して最下位に位置している状態で、この開口を開閉するように側面線源シールド24が動作できるようになっている。
【0028】
軸支部材46は、線源収納室45の前記した開口とは反対側の回転部材43の側面に設けられているものである。そして、軸支部材46は、周回転機構部40に対して補正線放射機構部30を支持するものであって、補正用線源31が体軸Zと略平行に変位するように線源支持軸32を支持するものである。
【0029】
直動機構部50は、案内片51と、直線軌道52とから構成される。このように構成される直動機構部50は、補正線放射機構部30を体軸Zと略平行に変位させるものである。
案内片51は、体軸Zの周りに周回転して最下点に位置する補正線放射機構部30の保持片33を保持して、この補正線放射機構部30を体軸Zと略平行に変位させるものである。そして、案内片51は、最下点に位置する補正線放射機構部30が周回転を開始すると、保持片33を保持するのを解除して、周回転し終わった補正線放射機構部30の保持片33を再び保持するものである。
【0030】
直線軌道52は、筐体23に固定されており、案内片51の変位する方向を体軸Zと同じ方向に規定するものである。そして、直線軌道52は、案内片51を変位させるとともに、所定の位置に停止させる機能も有している。これにより、補正用線源31は、計測空間Rの内部に正確に位置付けされるとともに、線源収納室45に正確に収納されることとなる。
【0031】
図6を参照して説明を続ける。
補正線放射機構部30(適宜図3参照)は、図6(a)に示されるように、すでに前記した補正用線源31と、線源支持軸32と、保持片33とに加え、係止ピン34と、線源保持部材35と、放射口36とが設けられている。
係止ピン34は、軸支部材46(図6(c)参照)に設けられている後記する係入部位76に係入して、線源保持部材35の放射口36が被験者D(図1参照)を向く方向に固定されるよう、補正線放射機構部30の軸回転を防止するものである。
【0032】
線源保持部材35は、鉛やタングステン材料から構成され、その内部に補正用線源31を収納するものである。そして、線源保持部材35は、補正用線源31が収納されている部分から外部に通じる放射口36が、計測空間Rの体軸Zを向くように線源支持軸32の先端に固定されている。
このように構成される線源保持部材35は、補正用線源31を保持して出力される補正線Tの進行方向を所定方向に規定するとともに規定方向以外の放射線の漏洩を抑える役割を果たすものである。
【0033】
軸支部材46(適宜図3参照)は、体軸Zから見た上面図(図6(b))、及び側面図(図6(c))に示されるように、摺接面71と、円筒部材72と、固定フランジ73と、係合部材75、係入部位76とが設けられていて、回転部材43に孔を穿つ形で固定されている。
摺接面71は、円筒形状の円筒部材72の内周面であって、軸支部材46に支持される補正線放射機構部30の外周面に摺接する部分である。
円筒部材72は、長手方向に変位する補正線放射機構部30を案内するとともに回転部材43に対してこの補正線放射機構部30を支持するものである。そして、円筒部材72の末端には、補正線放射機構部30に設けられる係止ピン34が係入する係入部位76の切欠が設けられている。
【0034】
固定フランジ73は、締結孔74に挿入される締結部材により回転部材43と軸支部材46とを固定するものである。
係合部材75は、係入部位76に係入した係止ピン34に係合して補正線放射機構部30の長手方向の変位を係止するものである。
係入部位76は、補正線放射機構部30に設けられている係止ピン34を係入してこの補正線放射機構部30の軸回転を止めるものである。
【0035】
(動作説明)
【0036】
次に、図3、図4、図5、図7を参照して本発明の実施形態に係る核医学診断装置の動作説明を行う。ここでは、断層画像の画質を向上させるための補正データを取得する補正工程を実施してから被検体Dの断層画像を撮像する撮像工程を実施する手順で説明を行う。なお、実際のPET診断の工程において、この撮像工程、補正工程の実施順序、あるいは、補正工程、被検体Dへの放射性薬剤の投与の実施順序等は、任意であるとする。
【0037】
まず、補正工程では、図3(a)に示されるように、被検体Dを載置したベッド11を計測空間Rに挿入する。そして、直動機構部50を駆動させて、補正用線源31を線源収納室45から計測空間Rに配置させる。このとき、補正線放射機構部30は、補正線Tの進行方向が被検体Dに向いている。
【0038】
このときの直動機構部50の動作を図7を参照して説明する。補正工程に移行する直前の補正用線源31は、図7(a)に示されるように、放射口36を上方に向けて線源収納室45の内部に収納されている。この状態から、直動機構部50を動作させて、案内片51を計測空間Rの方向に向けて変位させると、案内片51の押入面51bが保持片33の外端面33bを押して、補正用線源31を線源収納室45から出庫させる。
そして、図7(b)に示されるように補正用線源31が計測空間Rの所定の位置に配置したところで案内片51は停止する。次に、案内片51は図7(c)に示されるように、反対方向にΔLだけ変位して、保持片33の外端面33bと案内片51の押入面51bとの接触を解除する。さらに、図示略されている係合部材75(図6(c)参照)が係止ピン34に係合して、補正線放射機構部30の軸回転及び長手方向の変位が固定される。
【0039】
そして、図4に示されるように、周回転機構部40を動作させて、放射される補正線Tが被検体Dに向いている状態で、補正用線源31を体軸Zの周りの周軌道Mに沿って周回させる。これにより、補正線Tが被検体Dに対して全方位から照射されることになる。そして、この全方位から照射された補正線Tは被検体Dを透過して放射線検出器21で検出されることとなり、被検体Dにおけるγ線の減衰特性を補正する補正データが得られる。
【0040】
なお、周回転機構部40の周回運動は、補正線Tが図の破線で示されるように拡散して三次元的に補正データを取得するものであれば一回転でよいが、補正線Tが拡散せずに二次元的に補正データを取得するものであれば、補正用線源31を体軸Zと略平行に変位させながら数回回転させる必要がある。もしくは、補正用線源31の体軸Z方向の変位はそのままで、被検体Dを載置したままベッド11を体軸Z方向に変位さることもあり得る。
【0041】
周回転機構部40が周回転して補正工程を終了し最下点の位置に戻ると、図7(c)に示すように再び保持片33が案内片51に保持される。そして、係合部材75(図6(c)参照)と係止ピン34との係合を解除し、今度は図7(d)に示されるように、案内片51を、計測空間Rとは反対方向に変位させる。すると、案内片51の引出面51aが保持片33の内端面33aを押して、補正用線源31を線源収納室45に移動させる。そして、補正用線源31が線源収納室45に収納されたところで案内片51は停止する。
【0042】
さらに、図7(e)に示されるように、補正線放射機構部30が180°軸回転すれば、補正線Tの進行方向が反転して、被検体Dや放射線検出器21とは逆方向に配向することとなり、補正線Tは放射線検出器21により入射しにくくなる。このように、補正線放射機構部30を180°軸回転させる機構としては、例えば、図5(b)に示されるような、反転機構部60を、直動機構部50の終端に設け、補正用線源31が線源収納室45に収納される位置で、保持片33に当接するように配置することが考えられる。このような、反転機構部60を備える場合は、上面線源シールド25を設ける必要がないか又は薄くすることができる点において好適である。
【0043】
以上で補正工程を終了し、撮像工程に移行する。
図5(a)に示されるように、補正線Tが計測空間Rに放射されない状態になったところで、連続的に撮像工程に移ることとなる。撮像工程では、被検体Dから放出されるγ線を放射線検出器21が計数することによって、被検体Dの断層画像を得るのに必要な撮像データを取得する。この撮像工程においては、補正用線源31から放出される補正線が誤って放射線検出器21に計数(コンタミネーション)されることがないので高画質の被検体の断層画像が得られることになる。
【0044】
以上説明したとおり本発明に係る核医学診断装置10では、補正用線源31を収納する線源収納室45が周回転機構部40に設けられているので、補正工程、及びこの補正工程と撮像工程との切り替えを迅速に実施することが可能である。このため、補正工程と撮像工程が繰り返されても核医学診断装置10による診断が遅延することがない。
また、核医学診断装置10が撮像工程にあるとき、補正用線源31は、周りが線源シールド24,25に囲まれている線源収納室45に収納されるので、補正線が漏洩して誤って放射線検出器に計数される可能性が低減する。
また、補正工程及びこの補正工程と撮像工程との切り替えに伴う、補正用線源31の一連の動作は自動で行われるので、核医学診断装置10を操作する者の負担が減る。
【0045】
さらに、補正用線源31を動作させる機構は簡素化されているので核医学診断装置の大型化が回避される。特に、周回転機構部40とともに回転する後面エンドシールド41に切欠部位41aが設けられていることにより、補正線放射機構部30を放射線検出器21に近接させて配置することができる。これにより、被験者Dが挿入される円筒形状の計測空間Rの内径を小さくすることができるので、被験者Dから放射線検出器21までの距離が近くなり体内から放射される放射線の検出感度を高めて、得られる断層画像の画質を向上させることができる。
【0046】
なお以上の本発明に係る核医学診断装置としてPET装置を実施形態に挙げて説明を行ったが、本発明の核医学診断装置は、PET装置に限定されるものではなく補正用線源を備えた核医学診断装置の全般に適用することが可能である。例えばSPECT装置にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の核医学診断装置の実施形態を示すPET装置の全体構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態に係る核医学診断装置の撮像装置の周方向断面を模式的に示す概念図である。
【図3】実施形態に係る核医学診断装置の補正工程の一工程を示す図であって(a)は撮像装置の被検体の体軸に沿った縦断面図であり、(b)は体軸に直交する縦断面図である。
【図4】実施形態に係る核医学診断装置の補正工程の一工程を示す図であって(a)は撮像装置の被検体の体軸に沿った縦断面図であり、(b)は体軸に直交する縦断面図である。
【図5】(a)は実施形態に係る核医学診断装置の撮像工程を示す図であって、撮像装置の被検体の体軸に沿った縦断面図であり、(b)は他の実施形態に係る核医学診断装置の撮像工程を示す図である。
【図6】(a)は本発明に適用される補正線放射機構部の実施形態を示す斜視図であり、(b)は本発明に適用される軸支部材を被検体の体軸から見た上面図であり、(c)はこの軸支部材の側面図である。
【図7】(a)〜(e)は本発明に適用される補正線放射機構部及び直動機構部の動作を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0048】
10 PET装置(核医学診断装置)
20 撮像装置
21 放射線検出器
30 補正線放射機構部
31 補正用線源
32 線源支持軸
33 保持片
34 係止ピン
40 周回転機構部
41 後面エンドシールド(エンドシールド)
41a 切欠部位
43 回転部材
45 線源収納室
46 軸支部材
50 直動機構部
51 案内片
60 反転機構部
75 係合部材
76 係入部位
D 被検体
M 周軌道
R 計測空間
T 補正線
Z 体軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体内に取り込まれた核種から放射される放射線を検出する放射線検出器と、
補正用線源から放射される補正線を前記被検体に透過させて前記放射線検出器に検出させる補正線放射機構部と、
前記補正線放射機構部を前記被検体の体軸の周りに周回転させるとともに、前記補正用線源を収納する線源収納室が設けられている周回転機構部と、を備えることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
前記周回転機構部には、
前記補正用線源が前記体軸と略平行に変位するようにこの補正用線源が固定される線源支持軸を支持する軸支部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の核医学診断装置。
【請求項3】
前記軸支部材には、前記補正線放射機構部に設けられている係止ピンを係入して前記補正線放射機構部の軸回転を止める係入部位が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の核医学診断装置。
【請求項4】
前記軸支部材には、前記係入部位に係入した前記係止ピンに係合して前記補正線放射機構部の前記体軸と略平行な変位を係止する係合部材が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の核医学診断装置。
【請求項5】
前記周回転機構部には、
前記放射線検出器に外乱が侵入するのを防ぐエンドシールドが設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項6】
前記エンドシールドには、前記線源収納室に収納される前記補正用線源が通過する切欠部位が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の核医学診断装置。
【請求項7】
前記補正線放射機構部を前記体軸と略平行に変位させる直動機構部を、備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項8】
前記直動機構部は、前記補正線放射機構部に設けられている保持片を保持して変位するとともに前記補正線放射機構部が周回転すると前記保持片の保持を解除する案内片が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の核医学診断装置。
【請求項9】
前記案内片は、
一方向に変位して前記線源収納室より前記補正用線源を出庫させて停止した後、前記周回転機構部が周回転する前に、反対方向に変位して前記保持片と前記案内片との接触を解除する動作を行うことを特徴とする請求項8に記載の核医学診断装置。
【請求項10】
前記補正用線源が前記線源収納室に収納された後、前記補正線の放射される方向が反転するように前記補正線放射機構部を軸回転させる反転機構部を備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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