説明

核燃料組成物、原子炉および核燃料を固有の亜臨界状態にする方法

【課題】核燃料を固有の亜臨界状態にする核燃料組成物を提供する。
【解決手段】
核燃料20は、核分裂性物質22と、核分裂性物質に接する中性子吸収物質24と、を含む。中性子吸収物質は、サマリウムを含む。核燃料組成物は、熱中性子炉などの原子炉において用いられる。例えば、中性子吸収物質は、25重量%〜75重量%のサマリウムおよび残余の希土類元素を含み、希土類元素はガドリニウムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料を固有の亜臨界状態にする核燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙車両などの車両には、車両を推進させ、あるいは車両運転システムを作動させる動力装置として小型の原子炉が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
車両の故障時には、原子炉は冷媒を失い、水、砂や他の物質などの異物に露出する。そのような状態では、熱中性子炉および熱外中性子炉用の核分裂性燃料は核臨界状態に達する。そのため、車両における熱中性子炉および熱外中性子炉の利用が制限される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
例示的な核燃料組成物は、核分裂性物質と、核分裂性物質に接する中性子吸収物質と、を含む。核燃料組成物は熱中性子炉などの原子炉で用いられる。
【0005】
核燃料を固有の亜臨界状態(inherently subcritical)にする例示的な方法は、核分裂性物質および核分裂性物質に接する中性子吸収物質から核燃料を生成するステップを含む。中性子吸収物質は、中性子の熱エネルギーの範囲(レンジ)と重なる(オーバラップする)中性子吸収エネルギーの範囲を有し、核燃料を固有の亜臨界状態にする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】中性子吸収物質と混合される核分裂性物質を含む例示的な核燃料を示す図。
【図1B】中性子エネルギー分布毎の吸収断面積と、例示的な中性子吸収物質の中性子エネルギーとの図。
【図2】コーティングとして適用される中性子吸収物質と混合される核分裂性物質を含む例示的な他の核燃料を示す図。
【図3】クラッディング上でコーティングとして適用される中性子吸収物質と混合される核分裂性物質を含む例示的な他の核燃料を示す図。
【図4】例示的な原子炉を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1Aは、例示的な核燃料20を概略的に示しており、核燃料は、車両又は航空宇宙用途や他の用途に用いるため、原子炉(リアクタ)、例えば、小型の熱外中性子炉や熱中性子炉で使用される。原子炉のコアを外部の物質(水や砂など)に露出することとなった場合に、核燃料20の組成物は燃料を固有の亜臨界状態にする。一例として、現在の米国航空宇宙原子力安全方針は、事故の際に、原子炉を亜臨界に留めることを要求するが、これは、熱外中性子炉や熱中性子炉でなく、高速中性子炉に対して実現されてきた。
【0008】
核燃料20の組成物には、核分裂性物質22と、燃料を固有の亜臨界状態にするように核分裂性物質22に接する中性子吸収物質24と、が含まれる。すなわち、中性子吸収物質24は、核分裂性物質22と接触つまり直接的に連続し、これにより、核分裂性物質22からの中性子の吸収が促進する。
【0009】
核分裂性物質は、種々の異なるタイプの核分裂性物質としてもよい。例えば、核分裂性物質22は、ウランベースの物質、例えば、水素化ウランや酸化ウランとし得る。一実施例では、核分裂性物質22は、ウラン−ジルコニウム−水酸化物(UZrHx)であり、該物質は、ナトリウム−カリウム冷媒(例えば、NaK−78)とともに用いられる。この場合、中性子吸収物質24を水酸化物とし得る。
【0010】
核分裂性物質22の反応性の毒作用を回避するように、核燃料20の組成物には、少ない効果的な量の中性子吸収物質24が含まれる。例えば、核分裂性物質22および核分裂性物質22の総重量を基準として、核燃料20は、0.5重量%(wt%)以下の中性子吸収物質24を含む。一実施例では、固有の亜臨界を実現するため、0.1重量%以下の中性子吸収物質24が効果的であり、他の実施例では、固有の亜臨界を実現するため、0.05重量%以下の中性子吸収物質24が効果的である。水酸化ウランタイプの核分裂性物質では、0.05重量%以下が効果的である。
【0011】
中性子吸収物質24は、いくつかの元素からなる複合物としてもよい。例えば、中性子吸収物質24は、サマリウムやガドリニウムなどの希土類元素を含んでいてもよい。サマリウムやガドリニウムは、中性子吸収材として機能する。しかし、多量が含有すると、ガドリニウムは核分裂性物質22の反応性の負の温度係数を破壊してしまう。したがって、サマリウムによりガドリニウムの一部を置換する。すなわち、サマリウムは、中性子吸収エネルギーピーク(断面)を有し、該ピークは、中性子の熱エネルギーの範囲(例えば、約0.025eVの範囲)と少なくとも部分的に重なる(図1B参照)。したがって、サマリウムは、ガドリニウムに加えて、効果的な中性子吸収材として機能して、核分裂性物質22の反応性の負の温度係数を破壊することを回避する。
【0012】
中性子吸収物質24の組成物には、25重量%〜75重量%のサマリウムおよび残余の希土類元素が含まれる。ガドリニウムについて開示しているが、他の希土類元素であっても同様に有益である。他の実施例では、中性子吸収物質24の組成物には、30重量%〜40重量%のサマリウムおよび残余の希土類元素、または35重量%〜38重量%のサマリウムおよび残余の希土類元素が含まれる。35重量%〜38重量%のサマリウムにより、分裂反応性を破壊する高レベルのガドリニウムを含むことなく、望ましいバランスのサマリウムの中性子吸収特性がもたらされる。
【0013】
図示した実施例では、中性子吸収物質24は、核分裂性物質22と混合され、核燃料20として複合物を形成する。この場合、中性子吸収物質24は、核分裂性物質22に亘って相対的に均一に分散される。減速材など他の添加剤と核分裂性物質を混合する技術と同様の技術を用いて、中性子吸収物質24と核分裂性物質22を混合してもよい。次いで、核燃料20は、原子炉で使用するように、周知の方法でペレットの形態で付与される。
【0014】
図2に核燃料120の例示的な変更形態を示す。本開示において、同様の参照符号は、同様のエレメントを示し、100を加えた参照符号は、変更したエレメントを示す。変更したエレメントは、対応する基本となるエレメントと同様の特徴および利点を有する。本実施例では、中性子吸収物質124は、核分裂性物質122上のコーティングとして付与される。例えば、核分裂性物質122は、該物質の外周面の一部又は全体に亘り中性子吸収物質124によってコーティングされるペレットとしてもよい。
【0015】
中性子吸収物質124は、蒸着又は他の適正な方法により付着する。中性子吸収物質124のコーティングの厚さは調整可能であり、該調節は、重量パーセントに基づき、核燃料120が図1を参照して説明した量の中性子吸収物質124を含むようになされる。
【0016】
図3は、図2の実施例と若干類似する核燃料220の他の実施例を示す。本実施例では、核分裂性物質222は、中空被覆(hollow cladding)226内でコーティングされる。中性子吸収物質224は、核分裂性物質222の外周面に接するように、中空被覆226の内側面228に被覆される。核分裂性物質222は、ペレットとして中空被覆226内に付与され得る。例えば、中性子吸収物質224は、中空被覆226の内側面228に蒸着により付着し、つまり、中性子吸収物質224を残して蒸発する担体(キャリア)溶媒とともに「ペイント」される。
【0017】
図4は、核燃料20,120,220を用いる例示的な原子炉340の実施例を示す。原子炉340は核燃料20とともに図示しているが、別の実施例として核燃料120,220を用いてもよいことを理解されたい。例えば、原子炉340は、航空宇宙車両に用いられる熱中性子炉である。核燃料20は、減速材342内に位置する。核燃料20および減速材342は、放射能の漏出を防ぐ容器344に包含される。冷却システム346は、下流での使用(例えば、発電)のため冷媒を加熱するように容器344内のコアを通して、水やNaK−78などの冷媒を循環させる。制御棒348を用いて周知の方法で出力を減速させてもよい。さらに、特定の実施態様に応じて、反射体(リフレクタ)などの他の構成要素を用いてもよい。
【0018】
図示した実施例において特徴部分を組み合わせて説明したが、開示した種々の実施例の利益を得るために、全ての特徴部分を組み合わせる必要はない。換言すると、本開示の実施例により設計されたシステムは、必ずしも全ての図示した特徴部分を具備する必要はない。さらに、一実施例における特定の特徴部分と、他の実施例における特定の特徴部分とを組み合わせてもよい。
【0019】
上記説明は例示的なものであり、限定的なものではない。当業者であれば、本開示の本質から逸脱することなく、開示した実施例に対して種々の変更や修正がされ得ることを理解されるであろう。本開示に付与される法的保護の範囲は、以下の特許請求の範囲を検討することによって判断され得る。
【符号の説明】
【0020】
20,120,220 核燃料
22,122,222 核分裂性物質
24,124,224 中性子吸収物質
226 中空被覆
228 内側面
340 原子炉
342 減速材
344 容器
346 冷却システム
348 制御棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核分裂性物質と、
核分裂性物質に接する中性子吸収物質と、
を含むことを特徴とする核燃料組成物。
【請求項2】
中性子吸収物質はサマリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の核燃料組成物。
【請求項3】
中性子吸収物質は、25重量%〜75重量%のサマリウムおよび残余の希土類元素を含むことを特徴とする請求項2に記載の核燃料組成物。
【請求項4】
希土類元素はガドリニウムであることを特徴とする請求項3に記載の核燃料組成物。
【請求項5】
中性子吸収物質は、30重量%〜40重量%のサマリウムを含むことを特徴とする請求項3に記載の核燃料組成物。
【請求項6】
中性子吸収物質は、35重量%〜38重量%のサマリウムを含むことを特徴とする請求項3に記載の核燃料組成物。
【請求項7】
核分裂性物質および中性子吸収物質の総重量の0.5重量%以下の中性子吸収物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の核燃料組成物。
【請求項8】
前記総重量の0.1重量%以下の中性子吸収物質を含むことを特徴とする請求項7に記載の核燃料組成物。
【請求項9】
前記総重量の0.05重量%以下の中性子吸収物質を含むことを特徴とする請求項7に記載の核燃料組成物。
【請求項10】
中性子吸収物質は、核分裂性物質内で分散することを特徴とする請求項1に記載の核燃料組成物。
【請求項11】
中性子吸収物質は、核分裂性物質のペレット上に施されるコーティングであることを特徴とする請求項1に記載の核燃料組成物。
【請求項12】
核分裂性物質は、ウラン−ジルコニウム−水酸化物(UZrHx)を含み、中性子吸収物質は、サマリウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の核燃料組成物。
【請求項13】
核分裂性物質と、
核分裂性物質に接する中性子吸収物質と、
を含むことを特徴とする原子炉。
【請求項14】
中性子吸収物質は、核分裂性物質内で分散することを特徴とする請求項13に記載の原子炉。
【請求項15】
中性子吸収物質は、核分裂性物質のペレット上に施されるコーティングであることを特徴とする請求項13に記載の原子炉。
【請求項16】
核分裂性物質を含有する中空被覆をさらに含み、中性子吸収物質は、中空被覆の内側面に施されるコーティングであることを特徴とする請求項13に記載の原子炉。
【請求項17】
核燃料を固有の亜臨界状態にする方法であって、
核分裂性物質および核分裂性物質に接する中性子吸収物質から核燃料を形成するステップを含み、
中性子吸収物質は、中性子の熱エネルギーの範囲と重なる中性子吸収エネルギーの範囲を有し、これにより、核燃料を固有の亜臨界状態にすることを特徴とする方法。
【請求項18】
核分裂性物質内で中性子吸収物質を分散させるステップを含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
核分裂性物質および中性子吸収物質の総重量に対して、0.5重量%以下の中性子吸収物質を核分裂性物質内で分散させるステップを含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
コーティングとして中性子吸収物質を付着させるステップを含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−8128(P2012−8128A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138011(P2011−138011)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.