説明

核酸の発現を改善するための新規配列

本発明は、ホスト細胞において核酸の発現を改善するのに有用な、新規な抗リプレッサー要素を提供するものである。関心のあるタンパク質を産生するための新規な抗リプレッサー要素の使用方法も提供される。本発明は抗リプレッサー要素を有する発現カセットの新たな構造も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子生物学及び生命工学の分野に関するものである。特に、本発明はホスト細胞においてタンパク質をコードしうる1つ以上の核酸の生成を改善する手段及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を様々なホスト細胞内において生成し、生物及び生命工学において、例えば生物薬剤として、幅広い範囲にわたって利用することができる。このような生成方法は十分に確立されており、関心のあるタンパク質をコードする核酸(「トランスジーン」とも呼ばれる)をホスト細胞において発現することが一般に必要となる。
【0003】
トランスジーンの発現に関連した問題の一つに、遺伝子サイレンシングによりトランスジーンが不活性化する頻度が高いために(McBurney et al., 2002)、トランスジーンの発現が予測不可能であり、このためトランスジーンを高度に発現するためには多くのホスト細胞クローンを試験する必要がある、ということがある。更に、そのようなクローンを一度確立しても、トランスジーンの発現はしばしば不安定であり、長期間ホスト細胞を培養する間にはトランスジーン発現のサイレンシングは一般的に観察される現象である。脊椎動物細胞において、このような現象はトランスジーン遺伝子座におけるヘテロクロマチン形成によって引き起こされうるものであり、トランスジーンの転写が阻害される(Whitelaw et al., 2001)。トランスジーンサイレンシングは確率論的なものである。即ち、トランスジーンがゲノムに組み込まれた直後、又は多数の細胞分裂後のみに生じうるものである。このことにより長期間培養した後に不均一な細胞集団が生じ、この細胞集団において、高レベルの組換えタンパク質を発現する細胞もあれば、低レベル又は検出不可能なレベルでタンパク質を発現する細胞もある(Martin & Whitelaw, 1996, McBurney et al., 2002)。不均一なタンパク質生成に用いる細胞株は単一の細胞に由来しているが、しばしば大規模化されており、長期間にわたって維持されており、1,000リットル以上の培地中でml当たり1000万細胞を超える細胞密度となっている。このような大きな細胞集団(1014−1016細胞)はトランスジーンサイレンシングにより生産性が大きく低下してしまいやすい(Migliaccio et al., 2000, Strutzenberger et al., 1999)。
【0004】
上記の問題を解決する可能性の一つに発現系においていわゆるSTAR配列を用いる、というものがある。このようなSTAR配列の様々なものがWO 03/004704に記載されている。これらの配列は、様々なホスト細胞における発現コンストラクトを用いたタンパク質生成の予測可能性、収率又は安定性のいずれか又は任意の組み合わせを改善することができる(WO 03/004704;Kwaks et al., 2003)。
【0005】
国際公開WO 03/106674には様々な細胞株において組換えタンパク質をコードする核酸を発現するためのSTAR配列の利用が記載されている。
【0006】
国際公開WO 03/106684には抗体のような多量体タンパク質をコードする核酸を発現するためのSTAR配列の利用が記載されている。
【0007】
本発明はタンパク質生成を改善するための別の手段及び方法を提供することを目的とするものである。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
ある実施態様において、本発明は、a)配列番号66,b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列を有する組換え核酸分子を提供し、前記組換え核酸分子は更に発現カセットを有しており、前記発現カセットは関心のある核酸と連結した異種プロモーターを有しており、関心のある前記核酸は好ましくは関心のあるタンパク質の全長又は一部をコードしている。好ましい実施態様において、抗リプレッサー活性を有する前記核酸配列は前記発現カセット内で前記プロモーターの上流に位置しており、特に好ましい実施態様において、抗リプレッサー活性を有する前記配列及び前記プロモーターは2kb未満離れている。特定の実施態様において、関心のあるタンパク質をコードする前記核酸は更に選択可能なマーカー遺伝子をコードする多シストロン遺伝子内に存在する。特定の実施態様において、前記分子は抗リプレッサー活性を有する少なくとも一つの他の配列を更に有しており、前記少なくとも一つの他の配列はa)配列番号1〜65のいずれか、b)配列番号1〜65のいずれかの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、から選択されたものである。本発明は又、5‘−抗リプレッサー配列A−プロモーター−関心のあるタンパク質の全長又は一部をコードする核酸−抗リプレッサー配列B−3’を含む発現カセットを有する核酸分子を提供するものであって、抗リプレッサー配列A及びBは同じものであっても異なるものであってもよく、(i)配列番号1〜65のいずれか、(ii)配列番号1〜65のいずれかの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、(iii)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにiv)(i)〜(iii)の任意の1つの相補体であって、前記発現カセットは更に前記抗リプレッサー配列AとBの間にa)配列番号66,b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する配列を有するという特徴を備えている。
【0009】
本発明は更に本発明に従う分子を有する細胞を提供する。好ましくは、前記細胞は哺乳類細胞であって、特定の実施態様において前記細胞はCHO細胞である。
【0010】
本発明は更に関心のあるタンパク質を生成する方法を提供するものであり、この方法は関心のあるタンパク質をコードする組換え核酸分子を有する細胞を培養して前記細胞内で関心のあるタンパク質をコードする前記核酸を発現させるステップを有しており、前記組換え核酸分子はa)配列番号66,b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列を有するという特徴を備えている。好ましい実施態様において、この方法は関心のある前記タンパク質を単離するステップを更に有する。好ましい実施態様において、抗リプレッサー活性を有する前記核酸配列は、関心のあるタンパク質の発現を制御するプロモータの上流に位置している。その好ましい実施態様において、抗リプレッサー活性を有する前記配列と前記プロモーターは2kb未満離れている。特定の実施態様において、関心のあるタンパク質をコードする前記核酸は更に選択可能マーカー遺伝子をコードする多シストロン遺伝子内に存在する。特定の実施態様において、前記細胞は哺乳類細胞、例えばCHO細胞である。
【0011】
本発明は又、a)配列番号66,b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列の使用方法を提供し、関心のある核酸の発現を増加させる。
【0012】
更に他の態様において、本発明は関心のある2種類のポリペプチドを発現するホスト細胞を生成する方法を提供する。この方法は、a)ホスト細胞内に1種類以上の核酸分子を導入するステップであって、この又はこれらの核酸分子はすべて、(i)第1の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第1の選択可能マーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、(ii)第2の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第2の選択可能マーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、並びに(iii)a)配列番号1〜66,b)配列番号1〜66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された少なくとも1つの抗リプレッサー活性を有する配列、を有している上記ステップ、及びb)前記第1及び第2の選択可能マーカー遺伝子についてほぼ同時に選択することによりホスト細胞を選択するステップを有する。本発明は又、関心のある2種類のポリペプチドを発現する方法を提供するものであり、この方法は本発明のこの観点に従う方法により得られたホスト細胞を培養して前記第1及び第2のポリペプチドを発現させるステップと、任意で前記ポリペプチドを単離するステップとを有する。ある実施態様において、抗リプレッサー活性を有する前記配列は、a)配列番号66、b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、c)a)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択される。特定の実施態様において、前記2種類のポリペプチドは多量体タンパク質の一部である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
抗リプレッサー配列
本明細書に用いる抗リプレッサー活性を有する配列とは、HP1又はHPC2タンパク質の抑制効果を、これらのタンパク質をDNAに結合させた際に少なくとも部分的に拮抗することができる配列である。本発明に好適な抗リプレッサー活性を有する配列(本明細書において抗リプレッサー配列又は抗リプレッサー要素と称することもある)は本明細書に参考として組み込んだWO 03/004704に開示されており、ここでは「STAR」配列という新しい言葉が作られている。(本明細書内においてある配列がSTAR配列と呼ばれる場合には必ず、この配列は本明細書に従う抗リプレッサー活性を有する)限定されない具体例として、STAR1〜65(WO 03/004704参照)と名付けられた65種類の抗リプレッサー要素の配列は本明細書においてはそれぞれ配列番号1〜65として示されている。
【0014】
本明細書に従って、所与の抗リプレッサー要素の機能的断片又は誘導体は、まだ抗リプレッサー活性を有している場合には、前記抗リプレッサー要素に相当すると考えられる。このような抗リプレッサー活性の有無は当業者により、例えば以下に記載した分析により容易に確認することができる。機能的断片又は誘導体は、分子生物学の当業者により、所与の抗リプレッサー配列から始め、欠失、付加、置換、転座などを行うことにより容易に得られる(例えば、WO 03/004704参照)。機能的断片又は誘導体は又、他の生物種からのオルソログを有しており、これは既知の抗リプレッサー配列を用いて当業者により知られている方法により見いだすことができる(例えば、WO 03/004704参照)。従って、本発明は抗リプレッサー配列の断片も含むものであって、前記断片はまだ抗リプレッサー活性を有している。所与の配列の断片について、相同率とは断片中に存在する参照とする元々の配列の割合のことを示す。ヌクレオチド配列について抗リプレッサー活性を有する前記配列に対して又は抗リプレッサー活性を有する配列の機能的断片に対して少なくとも70%相同な配列についても、少なくとも70%が相同なこれらの配列が本発明に従う抗リプレッサー活性を有する限り、本発明に含まれるものである。好ましくは、前記配列は参照とする元々の配列又はその機能的断片に対して少なくとも80%が相同であり、更に好ましくは、少なくとも90%が相同であり、より一層好ましくは少なくとも95%が相同である。
【0015】
本発明に従う抗リプレッサー活性を有する配列は様々な方法により得ることができるものであり、そのような方法にはヒトゲノム又は他の生物のゲノムからクローニングする、又は例えば配列がわかっていることを利用して既知の抗リプレッサー配列を直接そのようなゲノムから例えばPCRにより増幅する、という方法が含まれるがこれらに限定されるものではなく、又は部分的に又は全長を化学的に合成することができる。
【0016】
抗リプレッサー活性を有する配列並びにその機能的断片又は誘導体は本明細書においてその配列により構造的に定義され、加えて抗リプレッサー活性を有する配列として機能的に定義され、このような抗リプレッサー活性は以下に記載する分析により測定することができる。
【0017】
本発明に従う抗リプレッサー活性を有するいかなる配列も少なくとも以下の機能的分析を通過することができなければならない(本明細書に参考として示したO 03/004704実施例1を参照)。ヒトU−2 OS細胞(ATCC HTB−96)には、Tet−Off転写制御システムの制御下で、pTet−Offプラスミド(Clontech K1620−A)並びに、LexA DNA結合ドメイン及びHP1又はHPC2(DNAに結合した際に遺伝子発現を抑制するショウジョウバエポリコームグループタンパク質;いずれかの融合タンパク質により分析がうまくいく)のいずれかのコード領域を含むLexA−リプレッサー融合タンパク質をコードする核酸を安定してトランスフェクションされる(Gossen and Bujard, 1992)。これらの細胞は以下で抗リプレッサー活性分析のレポーター細胞として称される。レポータープラスミドは、ハイグロマイシン抵抗性を提供するものであって、4つのLexA作用部位とゼオシン抵抗性遺伝子を制御するSV40プロモーターとの間にポリリンカー配列を有する。抗リプレッサー活性を試験する配列は前記ポリリンカー内にクローン化することができる。pSelectのような好適なレポータープラスミドの作製は実施例1及びWO 00/004704の図1に記載されている。レポータープラスミドをレポーター細胞にトランスフェクションし、細胞をハイグロマイシン選択(25μg/ml;レポータープラスミドの存在を選択する)及びテトラサイクリン抑制(ドキシサイクリン、10ng/ml;LexA−リプレッサー融合タンパク質の発現を阻害する)下で培養する。これらの条件下で1週間成長させた後、ドキシサイクリン濃度を0.1ng/ml(又は未満)まで下げてLexA−リプレッサー遺伝子を誘導し、2日後にゼオシンを250μg/mlになるように加える。細胞を5週間、コントロール培養物(空レポータープラスミド、即ち、クローン化した抗リプレッサー配列をポリリンカー内に欠いたものでトランスフェクトされた)がゼオシンにより死滅するまで培養する(このコントロールプラスミドにおいて、SV40プロモーターはLexA作用部位に結合するLexA−リプレッサー融合タンパク質により抑制されており、そのような細胞においてはゼオシン発現が不十分でありゼオシン選択で生存することができる)。配列が本発明に従う抗リプレッサー活性を有するとするのは、前記配列をレポータープラスミド内にクローン化した際に、レポーター細胞がゼオシン存在下の5週間の選択後も生存した場合である。このようなコロニーからの細胞は5週間のゼオシン選択後にゼオシンを含有する新たな培地でもまだ増殖することができるが、抗リプレッサー配列を持たないレポータープラスミドをトランスフェクションした細胞はゼオシンを含有する新たな培地では増殖することはできない。この分析においてゼオシン下において5週間後のこのような成長をさせることができない配列はいずれも、本発明に従う抗リプレッサー活性を有する配列、又はその機能的断片若しくは機能的誘導体としては認められない。例えば、ショウジョウバエscs(Kellum and Schedl, 1991)、トリβ−グロブリン遺伝子座の5‘−HS4(Chung et al, 1993, 1997)又は基質接着領域(MARs)(Phi-Van et al.,1990)といった、Van der Vlagら(2000)により試験された既知の境界配列は、この分析では生存しない。
【0018】
加えて、前記レポーター遺伝子が抗リプレッサー配列に隣接していない、又はショウジョウバエscsのようなより弱い抑制ブロッキング配列に隣接していない場合と比べ、U−2 OS又はCHO細胞のゲノムに組み込まれているレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、GFP)に隣接している場合には、抗リプレッサー配列又はその機能的断片若しくは誘導体がクローンを過剰発現しているレポーターがより高い割合を示すのが好ましい。このことはWO 03/004704の実施例1及び図2に記載されているように、例えばpSDHベクター又は同様のベクターを用いることにより確認することができる。
【0019】
本発明の抗リプレッサー要素はタンパク質の産生について、(1)ホスト細胞株が工業的に許容可能なレベルのタンパク質を発現していると同定できる予測可能性を向上させる、(2)ホスト細胞株のタンパク質収量を増加させる、および/または(3)ホスト細胞株が長期間の培養中により安定してタンパク質を産生する、の3つのうち少なくとも1つの結果を有することができる。各特性については以下に詳細を記す。
【0020】
(1)予測可能性の向上:トランス遺伝子発現カセットの組込みはホスト細胞ゲノム内でランダムな位置で起こりうる。しかし、ゲノムの多くは転写されないヘテロクロマチンである。発現カセットがトランス遺伝子に隣接する抗リプレッサー要素を有している場合、その位置に組み込むことにより発現に対する効果が減弱される。抗リプレッサー要素は隣接するヘテロクロマチンがトランス遺伝子を不活化できなくさせる。結果として、許容可能な発現レベルを有しているトランス遺伝子を含んでいるホスト細胞の割合が増える。実際抗リプレッサー配列を組み込むことにより、等量のDNAをトランスフェクションした場合、抗リプレッサー配列を有していない同一のトランス遺伝子と比べて、最大10倍のコロニーが確立された。
【0021】
(2)収量:組換えホスト細胞のはじめの集団におけるタンパク質の発現レベルを、トランス遺伝子を組み込んだ直後に調べた。集団における個々のクローンの発現レベルは様々である。しかし、トランス遺伝子が抗リプレッサー要素により保護されている場合には、そのばらつきは小さくなっている。このようなばらつきの減少は、発現レベルの低いより少ないクローンを回収した際に最も顕著となる。更に、抗リプレッサー要素を有する集団では一般に個々のクローンが顕著に高い発現を示していた。これらの高い収量のクローンは、タンパク質を回収する目的で、又は細胞又はそのような細胞を有する生物体の表現型を変える目的でタンパク質を産生するのに好ましい。
【0022】
(3)安定性の向上:抗リプレッサー要素は、トランス遺伝子が長期間の培養中に転写が抑制されないようにすることにより、組換えホスト細胞株におけるトランス遺伝子の安定性を向上する。比較試験において、抗リプレッサー要素により保護されていないトランス遺伝子が徐々に抑制されていく条件下(培養中、5〜25回継代)では、抗リプレッサー要素に保護されたトランス遺伝子は高いレベルで発現を維持した。このことは、細胞培養が数週間から何ヶ月という長期間にわたるたんぱく性分子の工業生産においては利点となる。同様に、長期間にわたる発現の安定性は、抗リプレッサー保護トランス遺伝子の組み換え発現により表現型が変化した植物又は動物において利点となりうる。
【0023】
STAR67
本発明は抗リプレッサー活性を有し、STAR67(配列番号66)と新たに命名された新規配列を提供する。この抗リプレッサー配列は、本明細書に示した実施例より明らかなように、関心のある遺伝子の発現を誘導するプロモーターの上流におかれた場合にのみ発現を顕著に向上させる。これに対し、STAR6又はSTAR7といったこれまで知られた抗リプレッサー配列はこの点において有利ではない(これらはトランス遺伝子に隣接している場合、即ち、トランス遺伝子の上流及び下流の両方に存在する場合に、特によく機能する)。従って、STAR67はすでに知られている抗リプレッサー配列の代わりとなり、このような既知の抗リプレッサー配列と比べてプロモーターの上流においた場合には利点を増強するように思われる。STAR67はエンハンサーブロッカーではなく、このことはこの特性について試験した他の抗リプレッサー配列とは対照的であり(Kwaks et al, 2003)、STAR67とこれまで開示された他の抗リプレッサー配列とのもう一つの違いとなる。或いは又、STAR67は実施例7に示すとおり両方向性に作用することができる。本発明に従って、STAR67配列が発現カセット内に存在することにより、発現の予想可能性および/または収量および/または安定性が改善する。本明細書において、STARは様々なプロモーターとの組み合わせにおいて、様々な細胞株において機能を有することが示されている。
【0024】
発現カセット
本発明に記載のSTAR67を有する核酸分子は任意の形態をとることが可能であり、例えばDNA断片として、必要に応じてプラスミドのような、好ましくは発現ベクターのようなクローニングベクター上に存在しており、例えば標準的な組換えDNA技術を用いてクローニングする目的で用いることができる。本発明の好ましい実施態様において、核酸は発現カセットを有しており、これは例えばホスト細胞において関心のある配列を発現するのに有用である。
【0025】
本明細書において用いる発現カセットとは、発現を期待する配列に機能的に連結したプロモーターを少なくとも有する核酸配列であり、この発現を期待する配列は好ましくは関心のあるタンパク質の全長又は一部をコードするオープンリーディングフレームである。プロモーターは関心のある前記核酸について異種のプロモーターであり、これによりこの異種のプロモーターは関心のある前記配列の天然のプロモーターではないプロモーターとして定義される。言い換えれば、例えば分子クローニングのようなある形での人間の介入をいずれかの時点で関心のある核酸と異種のプロモーターとの機能的な組み合わせをなすために用いるものであり、この関連から、異種のプロモーターを関心のある配列と同じ又は異なる生物体から得られるということが容易に理解されるであろう。好ましくは、発現カセットは更に転写集結及びポリアデニル化配列を有する。エンハンサーのような他の制御配列も含むことができる。本発明に従う発現単位は更に、STAR67のような抗リプレッサー配列を少なくとも1つ有する。特定の好ましい実施態様において、前記抗リプレッサー配列、好ましくはSTAR67は前記プロモーターの上流に位置しており、好ましくは抗リプレッサー配列の3‘末端とプロモーター配列の開始点の間には2kb未満存在するようになっている。好ましい実施態様において、1kb未満、より好ましくは500ヌクレオチド(nt)未満、更により好ましくは約200、100、50又は30nt未満が、好ましくは抗リプレッサー配列の3‘末端とプロモーター配列の開始点の間に存在する。特定の好ましい実施態様において、抗リプレッサー配列はプロモーターの上流に直接クローニングされており、好ましくは抗リプレッサー配列の3‘末端とプロモーター配列の開始点の間には約0〜20ntしか存在しない。
【0026】
組換えタンパク質をコードする核酸配列の発現を得るために、そのような発現を誘導することのできる配列を、タンパク質をコードする核酸配列に機能的に連結することができ、これにより組換えタンパク質をコードする組換え核酸配列が発現可能な形態となる、ということが当業者に周知されている。一般に、プロモーター配列は関心のあるタンパク質の上流に位置している。有用な発現ベクターは当該技術分野にて入手可能であり、例えばInvitrogen社のpcDNA及びpEF、BD Sciences社のpMSCV及びpTK−Hyg、Stratagene社のpCMV−Scriptなどがある。
【0027】
関心のあるポリペプチドをコードする配列がコードするポリペプチドの転写及び翻訳を制御する配列に関して適切に挿入されている場合、できあがる発現カセットは、発現に関して、関心のあるタンパク質を産生するのに有用なものとなる。発現を誘導する配列には、プロモーター、エンハンサーなど、及びこれらの組み合わせが含まれうる。これらはホスト細胞内で機能し、それによって機能的に連結した核酸配列の発現を誘導することができる。当業者であれば、様々なプロモーターをホスト細胞において関心のあるタンパク質の発現を得るために用いることができる、ということを知っている。プロモーターは構成性であっても調節性であってもよく、ウイルス、原核生物、真核生物を含む様々なものに由来するものであっても、人工的に設計されたものであっても良い。関心のある核酸の発現は本来のプロモーター又はその誘導体に由来しても、完全に異種のプロモーターに由来してもよい(Kaufman, 2000)。よく知られており、真核細胞における発現のためによく用いられるプロモーターには、例えばEIAプロモーターなどのアデノウイルスのようなウイルスに由来するプロモーター、CMV極早期(IE)プロモーター(本明細書においてCMVプロモーターと称する)(例えば、pcDNAとしてInvitrogen社から入手可能)のようなサイトメガロウイルス(CMV)由来のプロモーター、Simianウイルス40(SV40)由来のプロモーター(Das et al, 1985)などがある。好適なプロモーターはメタロチオネイン(MT)プロモーター、伸長因子1a(EF−1α)プロモーター(Gill et al.、 2001)、ユビキチンC又はUB6プロモーター(Gill et al.、 2001; Schorpp et al.、 1996)、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、熱ショックプロモーターなどのような、真核生物に由来するものであっても良い。真核細胞における発現を得るのに好ましいプロモーターには、これらは本発明に好適なプロモーターであるのだが、CMVプロモーター、哺乳動物EF1−αプロモーター、ユビキチンCプロモーターのような哺乳動物ユビキチンプロモーター、又はSV40プロモーター(例えば、pIRESとしてカタログ番号631605にてBD Sciences社より入手可能)である。プロモーターとしての機能及びプロモーターの強さの試験は当業者にとっては日常的な事柄であり、一般には例えば、LacZ、ルシフェラーゼ、GFPといった試験遺伝子をプロモーター配列の後部にクローニングする手順を含んでおり、テスト遺伝子の発現を試験する。もちろん、プロモーターを配列内で欠失、付加、変異により変化させ、機能を試験し、新規の減弱した、又は強化したプロモーター配列を見いだすことができる。
【0028】
本発明に従う発現カセットは、単シストロンであっても、2シストロンであっても、又は多シストロンであっても良い。用語「2シストロン遺伝子」とは、2種類のタンパク質/ポリペプチドをコードするRNA分子を提供することができる遺伝子として定義される。用語「単シストロン遺伝子」とは、1種類のタンパク質/ポリペプチドをコードするRNA分子を提供することができる遺伝子として定義される。用語「多シストロン遺伝子」とは、2種類以上のタンパク質/ポリペプチドをコードするRNA分子を提供することができる遺伝子として定義され、2シストロン遺伝子は従って多シストロン遺伝子の定義に含まれる。本発明において用いる「遺伝子」とは染色体DNA、cDNA、人工DNA、これらの組み合わせなどを含みうるものであり、例えばRNAのような他の核酸の形態もとりうるものである。ある実施態様において、タンパク質発現単位は多シストロン遺伝子を有している。いくつかのシストロンを有する単位は1つのmRNAとして転写される。このRNA上に存在する2番目以降のコード領域は様々なやり方で翻訳されるが、そのやり方には翻訳再開部位又は内部リボソーム侵入部位を用いるやり方があるが、後者が好まれる。2又は多シストロン単位の一つの利点は、関心のあるタンパク質又はポリペプチドをコードする核酸の下流に選択可能なマーカータンパク質をコードする核酸を配置することにより、関心のあるタンパク質を発現するクローンを簡単に選択できることである。
【0029】
多シストロンタンパク質の産生のために、2つ以上の発現カセットを用いることができる。この実施態様は、例えば抗体の重鎖及び軽鎖の発現について良好な結果が得られることが示されている。本発明に従い、これらの発現カセットのうち少なくとも1つが、好ましくはそれぞれがSTAR配列を有する必要がある。他の実施態様において、多シストロンタンパク質の多種のサブユニット又は部分が単一の発現カセット上に存在する。
【0030】
発現カセット内においてプロモーターの上流に配置された抗リプレッサー配列が存在する代わりに、又はそれに加えて、抗リプレッサー配列を発現カセットの両側に配置し、トランス遺伝子を有する発現カセットに2つの抗リプレッサー配列が隣接しているようにすることは非常に有用であることが証明されている。ここで、ある実施態様において、2つのリプレッサー配列は互いにほぼ同一のものである。もちろん、このことはSTAR67を用いて、発現カセットが2つのSTAR67配列に隣接するようにすることも可能である。発現カセット内において単一のSTAR67配列が他の位置をとること、例えば、トランス遺伝子の後ろ、好ましくは転写終止点及びポリアデニル化シグナルの後ろであって、STAR67配列の3‘末端がトランス遺伝子に接するようにする位置をとることも可能である。
【0031】
本発明に従う発現カセットは任意で選択マーカー遺伝子を有することができる。用語「選択マーカー又は選択可能なマーカー」とは一般に、細胞内で直接的又は間接的に存在が検出できる遺伝子および/またはタンパク質、例えば、選択薬剤を不活性化し、ホスト細胞を薬剤の致死的又は成長抑制作用から保護する遺伝子および/またはタンパク質(例えば、抗生物質抵抗性遺伝子および/またはタンパク質)のことを指すために用いられる。他の可能性として、前記選択マーカーは蛍光物質又は色素沈着(例えば、緑色蛍光タンパク質及び誘導体、ルシフェラーゼ、lacZ、アルカリフォスファターゼなど)を誘導する。ある実施態様において、本発明に用いる選択マーカーはゼオシンであり、第2発現カセットを選択するための選択マーカーにはピューロマイシンを用いる。当業者であれば、ネオマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、dhfrなどの他の選択マーカーも入手可能であり利用することができる、ということを知っているであろう。
【0032】
用語「選択」とは一般に選択マーカー又は選択可能なマーカー、及び選択薬剤を用いて特定の遺伝的性質を有するホスト細胞(例えば、ホスト細胞がゲノムに組み込まれたトランス遺伝子を有していること)を同定する過程として定義される。選択マーカーの多様な組み合わせが可能であることが当業者には明らかである。使用可能な抗生剤の具体例は上に記した。特に有能な抗生剤の一つはゼオシンであり、これはゼオシン抵抗性タンパク質(ゼオシン−R)が薬剤に結合することにより作用し、ゼオシンを無毒化するからである。これにより、ゼオシン−Rの発現が低いレベルでの細胞を殺すが、発現量の多い細胞を生存させる薬剤の量を容易に測定することができる。他の抗生物質抵抗性タンパク質はすべて一般に酵素であり、従って触媒として作用する(薬剤と1:1ではない)。2段階の選択を行う際には従って、作用がこのような1:1で結合する型の抗生物質抵抗性タンパク質を用いるのが有用である。従って、抗生物質ゼオシンは好適な選択マーカーである。簡便にするために、例えば単シストロン遺伝子で存在しうる、例えばピューロマイシン、ブラストサイジン又はハイグロマイシンと組み合わせた2段階の選択方法においてゼオシン抗生物質を用いることができる。
【0033】
抗生物質の選択マーカーと、蛍光物質の誘導を生じる又は色素沈着を生じる選択マーカーを組み合わせることも可能である。用いる細胞で機能するならば、様々なプロモーターを用いることが可能である。
【0034】
ある実施態様において、発現カセットに、翻訳効率が低下したタンパク翻訳開始部位の具体例として(弱い)内部リボソーム結合部位(IRES)を、例えば関心のあるタンパク質のオープンリーディングフレームと選択マーカーのオープンリーディングフレームとの間に入れる。IRES要素からのタンパク質の翻訳はキャップ依存的翻訳と比べて効率が低い。IRES依存的オープンリーディングフレーム(ORF)に由来するタンパク質量は第1のORFに由来する量の20〜50%未満である。更に、IRES要素の変異によりその活性を弱め、IRES依存的ORFからの発現を第1のORFの10%未満に減らすことができる(Lopez de Quinto & Martinez−Salas, 1998, Rees et al., 1996)。IRES依存的ORFが選択可能マーカータンパク質をコードしている場合、翻訳の相対的レベルが低いということは、組換えホスト細胞が選択されるためには絶対的レベルで高い転写が起こっていなければならない、ということを意味している。従って、選択された組換えホスト細胞の分離株は必ず多量のトランス遺伝子mRNAを発現していることになる。組換えタンパク質はキャップ依存的ORFから翻訳されるので、組換えタンパク質は大量に翻訳され高収量となる。
【0035】
従来の発現システムは、組換えプラスミド又は組換えウイルスゲノムの形態のDNA分子であった。プラスミド又はウイルスゲノムは(真核ホスト)細胞に導入され、好ましくは当該技術分野で知られる方法によりこれらのゲノムに組み込まれる。好ましい実施態様において、本発明はこのような種類のDNA分子を用いて改善されたトランス遺伝子発現システムを運ぶこともある。本発明の好ましい実施態様は、プラスミドDNAを用いて発現システムを運ぶというものである。プラスミドには多くの要素が含まれ:当業者に知られている従来の要素は、プラスミドが細菌細胞内で増殖するための複製開始点及び選択可能なマーカー;真核細胞内で機能し、組み込まれたトランス遺伝子発現システムを有するホスト細胞を同定し単離する選択可能なマーカー;関心のあるタンパク質をコードしている核酸であって、その高レベルの転写が真核細胞において機能するプロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス主要極早期プロモーター又はエンハンサー、pCMV(Boshart et al., 1985))によりもたらされるもの;並びに関心のあるトランス遺伝子及び選択可能マーカーの転写終止点(例えば、SV40ポリアデニル化部位(Kaufman & Sharp, 1982))などである。用いるベクターは、DNAのクローニングに好適で関心のある核酸の転写に用いることのできるものであればいかなるベクターであっても良い。ホスト細胞をもちいる場合には、ベクターを組み込みベクターとすることが好ましい。或いは又、ベクターはエピソームとして複製するベクターとすることができる。
【0036】
発現カセットの可能な構造の概略図を図1に示すが、これに制限されるものではない。これはプラスミドにおける発現カセットのDNA要素の構造であるとともに、ゲノムに組み込まれた後のものでもある。コンストラクトAはタンパク質をコードする発現ユニット(遺伝子)を有する。これは弱められたEMCV IRES(Martinez-Salas et al 1999; Mizuguchi et al)及び、ゼオシン抵抗性選択可能なマーカータンパク質(zeo)をコードするオープンリーディングフレームの上流にある。遺伝子カセットはSV40転写終止点を3‘末端に有する(t)。この2シストロンのトランス遺伝子はCMVプロモーターから高いレベルで転写される。コンストラクトBはコンストラクトAに由来するものであるが、ここではSTAR67がCMVプロモーターの上流にクローニングされている。コンストラクトCはコンストラクトBに由来するが、ここでは2つの抗リプレッサー要素(この場合にはSTAR7)が全カセットに隣接してクローニングされている。
【0037】
発現カセットにおける抗リプレッサー配列の組み合わせ
本明細書において、プロモーターの上流の第1の抗リプレッサー配列を配置することと発現カセットに2つの他の抗リプレッサー配列を隣接させることとを組み合わせることにより、最上の結果が得られることが示されている。特に、CHO細胞においてSV40プロモーターを用いる場合には、抗リプレッサー配列がない場合であっても発現はすでに非常に高いものとなっているが、STAR67を前記プロモーターの上流に配置し、発現カセット全体を例えばSTARβ、STAR7又はSTAR40のような2つの抗リプレッサー配列により隣接させた場合には、発現は大幅に増加する。
【0038】
従って本発明の目的は、(5‘から3’へ)抗リプレッサー配列A−プロモーター−関心のあるタンパク質をコードする核酸−抗リプレッサー配列B、を有する発現カセットを有する組換え核酸分子を提供することであって、前記発現カセットは更に前記抗リプレッサー配列A及びBの間に抗リプレッサー配列Cを有することを特徴とするものである。好ましい実施態様において、前記抗リプレッサー配列Cは前記プロモーターの上流に存在しており、上記のように「発現カセット」の頭に位置する構造となっている。抗リプレッサー配列A及びBの間の発現カセットは更に上記のような発現カセットのための配列、例えば転写終止配列、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー遺伝子、エンハンサーなどを有することができ、又上記の通り単シストロンであっても、2シストロンであっても、又は多シストロンであっても良い。
【0039】
抗リプレッサー配列A、B及びCの内2又は3つすべてが同じものであってもよく、3つすべてが異なるものであっても良い。抗リプレッサー配列A及びBは抗リプレッサー配列Cと同じものであっても異なるものであっても良い。ある実施態様において、抗リプレッサー配列A及びBは互いに(実質的に)同一である。ある実施態様において、抗リプレッサー配列CはSTAR67、又はその機能的断片若しくは誘導体である。抗リプレッサー配列A及びBはいかなる抗リプレッサー配列であってもよく、ある実施態様においては、配列番号1〜65のうちの一つ、又はその機能的断片若しくは誘導体を含む。ある実施態様において、発現カセットは多シストロン遺伝子を含んでおり、なかでもその好ましい実施態様において、前記多シストロン遺伝子は関心のあるタンパク質をコードする配列及び選択マーカー遺伝子を有する。或いは又、選択マーカー遺伝子は分離したプロモーターの制御下に存在する。
【0040】
ある実施態様において、第4の抗リプレッサー配列DがSTAR配列AとBの間に存在することも可能である。このような実施態様において、前記抗リプレッサー配列Dは好ましくは関心のあるタンパク質をコードする核酸の下流に位置する。更に、この抗リプレッサー配列Dは組換え核酸分子における他の抗リプレッサー配列と同じものであっても異なるものであってもよく、それはいかなる抗リプレッサー配列であってもよく、ある実施態様においては配列番号1〜66の任意の1つ、又はその機能的断片若しくは誘導体から選択される。
【0041】
少なくともいくつかの抗リプレッサー配列は方向性を有している可能性があるので(WO 00/004704)、発現カセットに隣接する抗リプレッサー配列(抗リプレッサー配列A及びB)は互いに反対方向に配置されており、これらの抗リプレッサー配列の各々の3‘末端が発現カセットの内側に(そして、互いの方向に)面するようになっているのが有益であろう。従って、好ましい実施態様において、抗リプレッサー要素の5’側はDNA又はクロマチンに面しており、そのトランス遺伝子への影響は前記抗リプレッサー要素により減少している。発現カセットにおいてプロモーターの上流にある抗リプレッサー要素については、3‘末端はプロモーターに面している。配列表における抗リプレッサー要素(配列番号1〜66)の配列は特に記載がない場合には5’から3‘方向に示されている。
【0042】
本発明に従う細胞
STAR配列および/または本発明に従う発現カセットの核酸分子を、好ましくはホスト細胞において核酸の発現を改善するために用いることができる。「細胞」’V’「ホスト細胞」と「細胞株」’V’「ホスト細胞株」はそれぞれ、典型的には、当該技術分野において知られる方法により細胞培養において維持することが可能であり、異種の又は同種のタンパク質を発現する能力を有する細胞及びその均一な集団として定義される。本発明に従うホスト細胞は好ましくは真核細胞であり、より好ましくは哺乳類細胞であって、齧歯類細胞又はヒト細胞又は異なる種類の細胞を融合したものなどである。ある非限定的な実施態様において前記ホスト細胞は、U−2 OS骨肉腫、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)、HEK293、HuNS−I骨髄腫、WERI−Rb−I網膜芽細胞腫、BHK、Vero、非分泌型マウス骨髄腫Sp2/0−Ag14、非分泌型マウス骨髄腫NSO、NCI−H295R副腎癌又はPER.C6(登録商標)細胞である。
【0043】
本発明のある実施態様において、ホスト細胞は少なくともアデノウイルスのE1Aを、好ましくはE1Bも発現している細胞である。非限定的な具体例として、そのような細胞は例えばヒト細胞から、例えば腎臓から(例えば、HEK293細胞、Graham et al, 1977参照)、肺から(例えば、A549、例えば、WO 98/39411参照)若しくは網膜から(例えば、登録商標PER.C6で市販されているHER細胞、米国特許第5,994,128号参照)、又は臍帯細胞から(例えば、米国特許第6,558,948号に記載のN52.E6)、及び同様に他の細胞から得ることができる。このような細胞を得る方法は例えば米国特許第5,994,128号及び米国特許第6,558,948号に記載されている。本出願の目的においてPER.C6(登録商標)細胞は、ECACC第96022940号として寄託されている細胞の上流若しくは下流の継代由来の細胞、又は上流若しくは下流の継代由来の子孫であることを意味する。このような細胞はタンパク質を高いレベルで発現することができると言うことが以前に示されている(例えば、WO 00/63403、及びJones et al, 2003)。
【0044】
本発明に従う所望のタンパク質を発現しているこのようなホスト細胞は、核酸分子、好ましくは本発明に従う発現カセットの形態をとっている核酸分子を細胞に導入することにより得られる。他の実施態様において、STAR67配列を標的して染色体領域に組み込むことにより、すでにゲノムに組み込まれた関心のある遺伝子、例えば天然由来の遺伝子を、必要に応じて前記遺伝子の発現を制御するために前記遺伝子の上流に標的化した異種プロモーターの制御のもとに、発現を改善させる。
【0045】
好ましくは、ホスト細胞は当業者に知られた標準的手順に従って選択し増殖することのできる安定なクローンに由来する。このようなクローンの培養物は、関心のある組換えタンパク質を生成することが可能である。本発明に従う細胞は好ましくは無血清培地中で懸濁培養により成長することができる。
【0046】
本発明に従う関心のあるタンパク質はいかなるタンパク質であってもよく、単量体タンパク質であっても多量体タンパク質であっても良い。多量体タンパク質は少なくとも2種類のポリペプチド鎖を有するものである。本発明に従う関心のあるタンパク質の具体例は、それに限定されるものではないが、酵素、ホルモン、免疫グロブリン鎖、抗癌タンパク質のような治療タンパク質、第8因子のような血液凝固タンパク質、エリスロポイエチンのような多機能タンパク質、診断用タンパク質、又はワクチン用途に有用なタンパク質若しくはその断片であり、これらはすべて当業者に知られているものである。
【0047】
ある実施態様において、本発明の発現カセットは免疫グロブリンの重鎖又は軽鎖又は抗原結合部位、これらの誘導体及び類似体のいずれか又は任意の組み合わせをコードしている。好ましい実施態様において、本発明に従うタンパク質発現ユニットが提供され、ここで前記関心のあるタンパク質は免疫グロブリン重鎖である、更に他の好ましい実施態様において、本発明に従うタンパク質発現ユニットが提供され、ここで前記関心のあるタンパク質は免疫グロブリン軽鎖である。これら2種類のタンパク質発現ユニットが同一(ホスト)細胞内に存在する場合、多量体タンパク質、より特異的には抗体が構成される。従ってある実施態様において、関心のあるタンパク質は抗体のような免疫グロブリンであり、これは多量体タンパク質である。好ましくは、このような抗体はヒトの抗体又はヒト化された抗体である。ある実施態様において、それはIgG、IgA又はIgM抗体である。免疫グロブリンは別々の発現カセット上で重鎖と軽鎖によりコードされてもよく、又は単一の発現カセットにコードされていてもよい。ここで個々の鎖をコードする遺伝子は単シストロン転写ユニット内の別々のプロモーターにより制御されていてもよく、或いは又両方の鎖が多シストロン遺伝子上にコードされていても良い。
【0048】
関心のあるタンパク質はいかなるものに由来するものであってもよく、ある実施態様においては、哺乳動物のタンパク質、人工タンパク質(例えば、融合タンパク質又は変異タンパク質)であり、好ましくはヒトタンパク質である。
【0049】
明らかに、本発明の抗リプレッサー配列及び発現カセットの構造は、最終目標がタンパク質の生産ではなく、RNAそのものである場合にも用いることができる。それは例えば発現カセットからより多くのRNAを生成するためであって、他の遺伝子を制御するために(例えば、RNAi、アンチセンスRNA)、遺伝子治療のために、試験管内でのタンパク質生成などのために使うことができる。
【0050】
関心のあるタンパク質を生成する方法
ある態様において、本発明は関心のある配列、好ましくは関心のあるタンパク質をコードする配列を、本発明に従う核酸分子又は発現カセットをホスト細胞に提供し、この細胞を培養してこの関心のある配列を発現させることにより、発現させるための方法を提供する。
【0051】
用語「発現」は典型的には、特定のRNA産物又は特定のタンパク質を細胞内において生成することを意味する。RNA産物の場合には、これは転写する過程を意味する。タンパク質産物の場合には、これは転写、翻訳及び必要に応じて翻訳後修飾(例えば、糖鎖付加、ジスルフィド結合形成など)の過程を意味する。分泌タンパク質の場合には、転写、翻訳、及び必要に応じて翻訳後修飾をし、その後に分泌することを意味する。
【0052】
細胞内で発現させる核酸の導入は、いくつかの方法のうち一つを用いて行うことができるが、この方法は当業者には知られているものであって、導入するべき核酸の形態にも依存するものである。前記方法には、トランスフェクション、感染、インジェクション、形質転換などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
細胞を培養することにより、細胞は代謝、および/または成長、および/または分裂、および/または関心のある組換えタンパク質の生成を行うことができるようになる。これは当業者によく知られた方法で達成できるものであり、細胞に栄養を与えることが含まれるが、これに限定されるものではない。この方法には表面に接着した成長、懸濁液中での成長、又はこの組み合わせが含まれる。培養は例えばディッシュ、回転ボトル又は生物反応器内で、バッチ、栄養バッチ、還流システムのような持続的システムなどを用いて行うことができる。組換えタンパク質を細胞培養により大規模な(持続的に)生成を達成するためには、当該技術分野においては懸濁液中で成長することのできる細胞であるのが好ましく、動物若しくはヒト由来の血清、又は動物若しくはヒト由来の血清成分なしに細胞を培養できることが好ましい。
【0054】
細胞を成長又は増殖させる条件(例えば、Tissue Culture, Academic Press, Kruse and Paterons, editors (1973)参照)及び組換え産物を発現させる条件は当業者によく知られている。一般に、哺乳類細胞培養の生産性を最大化するための原理、プロトコール、及び実際の技術は、Mammalian Cell biotechonology: a Practical Approach (M. Butler, ed., IRL Press, 1991)に見いだすことができる。
【0055】
好ましい実施態様において、発現したタンパク質を細胞又は培養液又は両者から回収(単離)する。このタンパク質は次に、フィルター、カラムクロマトグラフィーなどの既知の方法を用いて、当業者に一般的に知られている方法により更に精製される。
【0056】
新規選択方法
本発明は、関心のある2種類のポリペプチドを発現しているホスト細胞を生成する新規方法を開示するものであり、この方法は、抗リプレッサー配列を用いなければほとんど又は全くコロニーが現れないのに対し、抗リプレッサー配列が存在すればコロニーは選択を生き延び、これらのコロニーは一般に2種類の関心のあるポリペプチドを高いレベルで発現している、という点で驚くべき良好な結果をもたらす(実施例7、図11)。従って本発明は、2種類の関心のあるポリペプチドを発現しているホスト細胞を生成する方法を提供するものであって、この方法は a)ホスト細胞内に1種類以上の核酸分子を導入するステップであって、この又はこれらの核酸分子はすべて(i)第1の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第1の選択可能マーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、(ii)第2の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第2の選択可能マーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、並びに(iii)a)配列番号1〜66のいずれか1つ、b)配列番号1〜66のいずれか1つの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)a)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する配列、並びにd)a)〜c)のいずれか1つの相補体、よりなるグループから選択された少なくとも1つの抗リプレッサー活性を有する配列、を有している上記ステップ;並びにb)前記第1及び第2の選択可能なマーカー遺伝子についてほぼ同時に選択することによりホスト細胞を選択するステップを有する。選択されたホスト細胞は、前記選択されたホスト細胞を培養することにより、前記2種類のポリペプチドを発現するために便利に用いることができる。ひとつの実施態様において、1つが(i)を有しており、他方が(ii)を有している2つの核酸分子を、ホスト細胞内に導入するために用いることができる。この実施態様において、各核酸分子は好ましくは少なくとも1つの前記抗リプレッサー配列を含んでいる。他の実施態様において、(i)及び(ii)の両方を有する単一の核酸分子を用いるが、この核酸分子はこの場合は前記抗リプレッサー配列を少なくとも1つ有していなければならない。単一核酸分子上に両者のポリペプチドをコードする領域が存在する利点の一つは、核酸を細胞に導入する前に1種類の核酸だけを調製すればよい、ということである。更にこのような実施態様においては、1回の組換え事象で両ポリペプチドのコード領域について十分であるので、これにより、第1のポリペプチドをコードする核酸が組み込まれる場所又はコピー数が第2のポリペプチドと異なっている、という可能性がなくなる。好ましい実施態様において、前記2つのポリペプチドは免疫グロブリンのような多量体タンパク質の部分を形成する。従ってこの方法は抗体の発現に特に適している。2つのプロモーターは同じものであっても異なるものであってもよく、上記のいかなるプロモーターであっても良い。1つの核酸分子が(i)及び(ii)の両方を含んでいる実施態様を用いる場合には、単一の核酸分子上における2つの転写ユニットの方向は、例えば両者が同じであっても、互いに向き合う反対方向であっても、互いに外側を向いている反対方向であってもよい。後者のばあいには、抗リプレッサー配列は2つのプロモーターの間に配置することができる(例えば、図HB参照)。本発明のこの態様について1つの好適な抗リプレッサー配列は配列番号66(実施例7参照)であるが、他の抗リプレッサー配列も同様に機能しうる。このことは当業者により本明細書の開示を用いることで容易に確かめられるものであり、従ってこの本発明のこの観点に従う他の抗リプレッサー配列を使用することも、本発明に含まれるものである。更に、抗リプレッサー配列を1つ又は両方の転写ユニットに隣接するように付加することができる。マーカー遺伝子は互いに異なるものでなくてはならず、例えば上記のマーカー遺伝子から選択することができる。ある実施態様において、一方の選択可能マーカーはゼオシンであり、他方の選択可能なマーカー例えばピューロマイシンである。しかし、他の組み合わせを用いることができることは明らかであり、それも本発明のこの観点の範囲内に含まれる。マーカーの発現は好ましくは関心のあるポリペプチドの発現に依存しているべきである。これは、マーカー遺伝子の発現を関心のあるポリペプチドの発現と連結させることにより達成でき、これは、例えば他シストロン遺伝子を用いて、例えば上記で議論したようにIRES配列により達成できる。「ほぼ同時に」選択するとは、少なくとも一部の時間に、好ましくは少なくとも1日間、より好ましくは2日間、更により好ましくは5日間、両選択薬剤が存在することを意味し、これは、両選択薬剤を同時に培地に加えるか、又は両選択薬剤を含む培養培地を加えることによってなされる(たとえば、実施例7)。第1の選択薬剤がすでに存在する培地に、第2の選択薬剤をほんの数時間又は数日後に加える場合にも、本発明の意味におけるほぼ同時に選択することになるということは明らかであろう。このような状態は細胞をまず第1の選択薬剤で選択し、一度コロニーを形成してから、第2の選択薬剤を加えて第1の選択薬剤を加えなかった新しい培地で選択する、という状況とは区別される(連続選択、例えば、実施例5及びWO 03/106684)。両選択可能マーカーによりほぼ同時に選択することにより、驚くべきことに、迅速で強力な選択が行われ、多数の低生産性コロニーが除去されることで、所望の発現特性を有するコロニーを見つけるための仕事量が非常に少なくすむ、ということが本明細書に開示されている。このことは特に、高い発現レベルを有する所望のクローンが同定されるまでに、多くの、通常は何百更には何千ものコロニーをスクリーニングしなくてはならない生物技術産業において有用である。
【0057】
更に本システムは、この状況で機能する場合には、抗リプレッサー要素の部分について、少なくともSTAR67の、さらには他の抗リプレッサー配列の部分について、機能性について試験することを可能にしている。この簡便なスクリーニング法は、多くの場合にほぼ又はむしろ完全に白黒のはっきりした差異を与えるものであり、従って、抗リプレッサー配列からの機能的部分又は誘導体を同定するのに貢献するか、および/または新たな抗リプレッサー配列の特徴を明らかにするのに役立つであろう。このスクリーニング法は、新たな抗リプレッサー配列、および/または発現促進配列を見出すのにも使用できるであろう(この種のスクリーニング法は文字通り抗リプレッサー活性により選択するのではなく、発現強化活性について選択するものであるので、後者の活性を有し前者の活性を有していない配列を見いだす可能性もある)。従って本発明の他の観点は、抗リプレッサーおよび/または発現強化配列、またはその断片または誘導体を同定する方法であって、a)ホスト細胞内に1種類以上の核酸分子を導入するステップであって、この又はこれらの核酸分子はすべて(i)第1の選択可能マーカー遺伝子をコードする配列に機能的に連結したプロモーター、(ii)第2の選択可能マーカー遺伝子をコードする配列に機能的に連結したプロモーター、並びに(iii)抗リプレッサー活性および/または発現強化活性について試験する少なくとも1つの配列、を有している上記ステップ、並びにb)前記第1及び第2の選択可能なマーカー遺伝子の発現についてほぼ同時に選択することによりホスト細胞を選択するステップ、を有する方法を提供する。このスクリーニング法で生存したホスト細胞は、機能的な抗リプレッサーおよび/または発現強化要素を有していると思われるであろう。これは更に、例えば配列を決定すること、および/または上記で述べたように抗リプレッサー活性について他の機能的試験を行うことにより、更に容易に分析することができる。本発明の1つの実施態様において、(i)及び(ii)の両者は一つの核酸分子上にあって、例えば分かれているプロモーターを有し(第1及び第2の選択可能なマーカーは外側に面している)、その間に試験するべき配列を解析するためにクローニングできるようにしてある。例えば選択可能なマーカー遺伝子を直接促進する比較的に弱いプロモーターを用いることにより(この比較的弱いプロモーターは当業者に知られているもの、および/または当業者により通常の分析によって同定しうるものである)、又は例えばマーカー遺伝子の転写には強いプロモーター、及び翻訳には上記のIRES、好ましくは比較的弱いIRESを用いることにより、好ましくは、前記選択可能マーカー遺伝子の発現は高くない。またマーカー遺伝子を簡便に、ポリペプチドをコードする核酸配列の下流に配置し、多シストロン遺伝子内において、例えばIRESにより、その発現に結びつけることもできる(例えば、実施例7、可能な構造は図11)。このようなポリペプチドを更に、関心のあるポリペプチドとして、関心のある前記ポリペプチドを発現する有用なクローンが直接得られるようにすることもできるが、スクリーニングの目的のために、例えばGFP又はその誘導体、SEAP、lacZ、ルシフェラーゼのような発現を容易に定量できるようなマーカーとすることもできる。このような組み合わせでは、ポリペプチドの発現を直接定量することができ、同時選択において十分なクローンを提供し、かつ高い転写レベルを提供する抗リプレッサー要素および/または発現強化要素、若しくはその断片を選び出すことができる。「ランダム」核酸(即ち、抗リプレッサー活性又は発現強化活性を有しているかまだ知られていない核酸)を、例えばゲノム断片の形態で抗リプレッサー活性および/または発現強化活性について試験する配列として用いれば、新たな抗リプレッサー配列および/または発現強化配列を見いだしうる。既知の抗リプレッサー配列を試験する場合には、この分析法をこれらの特徴をより明らかにするのに使用できる。既知の抗リプレッサー配列の断片を試験する場合には、この分析法はこのような既知の抗リプレッサー配列の機能的断片を提供するであろう。
【0058】
本発明を実施するに当たって、そのように記載した場合以外では、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学及び組換えDNAの従来の技術を用いるが、これらは当該技術分野の技術の範囲内である。例えば、Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, 1989; Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel FM, et al, eds, 1987; the series Methods in Enzymology (Academic Press, Inc.); PCR2: A Practical Aprroach, MacPherson MJ, Hams BD, Taylor GR, eds, 1995; Antibodies: A Laboratory Manual, Harlow and Lane, eds, 1988を参照されたい。
【0059】
本発明を以下の実施例により詳しく説明する。これらの実施例は本発明をいかなる形においても制限するものではない。これらは本発明を明確にするためだけに使われる。
【実施例】
【0060】
実施例
実施例1:STAR67ベクターの作成
新規抗リプレッサー配列はWO 03/004704に記載の遺伝子スクリーニング法を用いて単離され、この新規配列はSTAR67(配列番号66)と新たに命名された。STAR67の哺乳類細胞株におけるトランス遺伝子の発現に対する効果を調べた。ここでは様々なコンストラクトの作成について説明する。
【0061】
材料及び方法
以下の3種類のプラスミドを作成した(図1)。
A) CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CMV コントロール)
B) STAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CNV−STAR67)
C) STAR7−STAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo−STAR7 (CMV−STAR67 7/7)
【0062】
コンストラクトAの構築方法を以下に説明する。プラスミドpd2EGFP(Clontech 6010−1)を、BsiWI部位にリンカーを挿入して修飾し、pd2EGFP−linkを得た。リンカーは、オリゴヌクレオチドGTACGGATATCAGATCTTTAATTAAG(配列番号67)及びGTACCTTAATTAAAGATCTGATAT(配列番号68)をアニーリングして作成し、Pad、BglII及びEcoRV制限エンドヌクレアーゼのための部位を導入した。これによりSTAR要素を挿入するためのマルチクローニングサイトMCSIIが作製された。次に、プライマーGATCAGATCTGGCGCGCCATTTAAATCGTCTCGCGCGTTTCGGTGATGACGG(配列番号69)及びAGGCGGATCCGAATGTATTTAGAAAAATAAACAAATAGGGG(配列番号70)を用いてpd2EGFPから0.37kbの領域を増幅し、これをpIRES(Clontech 6028−1)のBglII部位に挿入してpIRES−stufを作成した。これによりMCSIにAscI及びSwaI制限エンドヌクレアーゼのための部位を挿入し、「詰込み断片(stuffer fragment)」として機能することでSTAR要素と近接するプロモーターとの間の起こりうる相互作用をさける。pIRES−stufをBglII及びFspIで消化し、詰め込み断片、CMVプロモーター、IRES要素(マルチクローニング部位MCSA及びMCSBが隣接している)、及びSV40ポリアデニル化シグナルを有するDNA断片が遊離する。この断片を、BamRI及びStuIで消化して生成したベクターバックボーンに結合させ、pIRE−linkを作成した。
【0063】
ゼオシン抵抗性遺伝子のオープンリーディングフレームをpIRESの下流のBamHI/NotI部位に以下のように挿入した。ゼオシン抵抗性ORFを、プライマーGATCGGATCCTTCGAAATGGCCAAGTTGACCAGTGC(配列番号71)及びAGGCGCGGCCGCAATTCTCAGTCCTGCTCCTC(配列番号72)を用いてプラスミドpCMV/zeo(Invitrogen、カタログ番号V50120)からPCRにより増幅し、BamWI及びNotIにより消化し、BaMH/NotI消化pIRES−linkに結合させてpIRES−link−zeoを作成した。pd2EGFP(Clontech 6010−1)をプライマーGATCGAATTCTCGCGAATGGTGAGCAAGCAGATCCTGAAG(配列番号73)及びAGGCGAATTCACCGGTGTTTAAACTTACACCCACTCGTGCAGGCTGCCCAGG(配列番号74)により増幅し、EcoRI消化d2EGFPカセットをpIRES−link−zeoプラスミドのEcoRI部位に挿入することにより、d2EGFPレポーターORFをpIRES−link−zeoに導入した。これによりコンストラクトA、CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CMV コントロール)を作成した。
【0064】
STAR67をCMVプロモーターの上流に、AscI部位(STAR67とプロモーターの間に残された約15nt)にクローニングした。これによりコンストラクトB、STAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CNV−STAR67)を作成した。
【0065】
STAR67を、5‘SaiI及びXabaI部位並びに3’BglII及びPad部位に方向性を有してクローニングし、全カセットにSTAR7に隣接するようにしてあるSTAR7(配列番号1)もまた含んでいるカセットとの関連においても試験した。これがコンストラクトC(CMV−STAR67 7/7)である。
【0066】
実施例2:STAR67は安定にトランスフェクションされたβdCHO細胞においてCMV、EF1α及びUB6プロモーター由来の発現レベルを増加させる。
STAR67がCMV、EF1α及びUB6プロモーターに隣接して存在することによりCHO細胞におけるこれらのプロモーターの発現レベルに影響があるかを調べた。実施例1に記載のコンストラクトA及びB(図1)を各プロモーターに関して以下のように修飾してこの目的で使用した。
1 CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CVM コントロール)
2 STAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo (CVM−STAR67)
3 EF1α−d2EGFP−ires−Zeo (EF1α コントロール)
4 STAR67−EF1α−d2EGFP−ires−Zeo (EF1α−STAR67)
5 UB6−d2EGFP−ires−Zeo (UB6 コントロール)
6 STAR67−UB6−d2EGFP−ires−Zeo (UB6−STAR67)
【0067】
材料及び方法
UB6及びEF1αプロモーターを図1に記載のプラスミドにおいてCMVプロモーターと入れ替えた。UB6プロモーターを以下のようにクローニングした。実施例1に記載したように、pd2EGFPプラスミド由来の詰込みDNA0.37kbを、配列番号69及び70により認識されるプライマーを用いてPCRにより増幅した。得られた詰込みDNAをpUB6−V5−His(Invitrogen V250−20)のBglII部位にクローニングし、pUB6−stufを作製した。pUB6−stufからAscI−SacI断片をCMV−d2EGFP−IRES−Zeo内にクローニングし、ここからCMVプロモーターを除去した。
【0068】
EF1αプロモーターをPCRによりpEF1α/V5−His(Invitrogen V920−20)を鋳型として、プライマーGATCGGCGCGCCATTTAAATCCGAAAAGTGCCACCTGACG(配列番号79)及びAGGCGGGACCCCCGCACGACACCTGAAATGGAAG(配列番号80)を用いて増幅した。このPCR断片をCMV−d2EGFP−IRES−ZeoのAscI及びPpuMI部位にクローニングし、ここからCMVプロモーターを除去した。
【0069】
チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO−K1(ATCC CLL−61)を2mMグルタミン、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するHAMS−F12培地+10%ウシ胎児血清中で、37℃/5%COにて培養した。細胞にプラスミドをSuperFect(QIAGEN)を用いて製造者の記載の通りにトランスフェクションした。簡単にいうと、細胞を培養容器にまき、一晩培養して70〜90%コンフルエントにする。SuperFect薬剤をプラスミドDNAとμgあたり6μlの比で組み合わせ(例えば、10cmペトリ皿では、20μgDNAと120μlSuperFect)、そして細胞に加える。一晩培養した後、トランスフェクション混合液を新しい培地に置換し、トランスフェクションされた細胞を更に培養する。一晩培養した後、細胞をトリプシン処理して新たな培地の入った新しい培養容器にまく。更に一晩培養した後、ゼオシンが50μg/mlの濃度になるまで加え、細胞を更に培養する。更に3日間後、培地をゼオシン(100μg/ml)を含有する新しい培地に置換し、更に培養する。個々のコロニーが見えるようになったら(トランスフェクションしてから約10日)、培地を除き、ゼオシンを含有していない新しい培地に置換する。個々のコロニーを単離し、24ウェルプレートへゼオシンを含有していない培地に移す。コロニーを単離してから1日後にゼオシンを培地に加える。d2EGFPレポーター遺伝子の発現をトランスフェクションしてから約3週間後に調べる。コロニーにおけるd2EGFP発現レベルを2週間後に調べる。トランスフェクションして初めの2週間で1回目のd2EGFPの測定を行った後、コロニーをゼオシン及び他の抗生物質を含有しない培地中で培養する。これを残りの実験でも継続した。
【0070】
結果
図2はCMVプロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を含有するコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるCMVコントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するCHOコロニーが多く得られたことを示している。CMVコントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定したところ、34であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は13に減少しており、長期にわたると発現が安定でないことを示している。これに対して、STAR67−CMVプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定すると42であり、60日で測定すると32であった。従って、トランスフェクションしてから60日後では、安定にトランスフェクションされたクローンにおいて、STAR6を有するCMVコンストラクトはCMVプロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルを2.5倍高めることになる。重要なことは、トランスフェクションして25日後は、1回目の測定後であり、ゼオシンを含有しない培地でコロニーを培養することにより選択圧はなくなっている。従ってSTAR67を有するコロニーは、STAR67コンストラクトを有していないコロニーと比較して、選択圧非存在下で長期にわたってより安定である。
【0071】
図3はEF1CC−プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を有するコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるEF1αコントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するCHOコロニーが多く得られたことを示している。EF1αコントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定したところ、31であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は26であった。これに対して、EF1α−STAR67プラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定すると60であり、60日で測定すると76であった。従って、トランスフェクションしてから25日後及び60日後の両方において、安定にトランスフェクションされたクローンにおいてSTAR6を有するEF1αコンストラクトは、EF1αプロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルを2.9倍高めることになる。
【0072】
図4は、UB6プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を有するコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるUB6コントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するCHOコロニーが多く得られたことを示している。UB6コントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定したところ、51であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は29であり、長期にわたると発現が安定でないことを示している。これに対して、UB6−STAR67プラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後25日で測定すると218であり、60日で測定すると224であった。従って、トランスフェクションしてから25日後では、安定にトランスフェクションされたクローンにおいてSTAR6を有するUB6コンストラクトは、UB6プロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルを4.3倍高めることになる。60日後にはこの倍率は7.7になっており、これはコントロールコロニーにおける発現の不安定性及びUB6−STAR67コロニーにおける安定性によるものである。重要なことは、トランスフェクションして25日後は、1回目の測定後であり、ゼオシンを含有しない培地でコロニーを培養することにより選択圧はなくなっている。従って、STAR67を有するコロニーはSTAR67コンストラクトを有していないコロニーと比較して選択圧非存在下で長期にわたってより安定である。
【0073】
結論として、STAR67は3つの異なった関連のないプロモーター由来の発現を増加させる。
【0074】
実施例3:STAR67は安定にトランスフェクションしたPER.C6細胞においてCMV、EF1α及びUB6プロモーター由来の発現レベルを増加させる。
STAR67がCMV、EF1α及びUB6プロモーターに隣接して存在することにより、CHO以外の細胞種、即ちヒトPER.C6細胞におけるこれらのプロモーターの発現レベルに影響があるかを調べた。実施例1と同じコンストラクトを用いた
【0075】
材料及び方法
PER.C6細胞のトランスフェクション、培養及び分析
PER.Cβ細胞(登録商標)を、8.9mM MgCl、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含有するDMEM培地+ピリドキシン+9%ウシ胎児血清(熱不活性化していない)中で37℃/5%COにて培養した。Lipofekutamine 2000(Invitrogen)製造者の記載の通りに用いて、細胞にプラスミドでトランスフェクションした。簡単にいうと、細胞を6ウェルプレートにまき、一晩培養して70〜90%コンフルエントにした。Lipofekutamine薬剤をプラスミドDNAと、3μgあたり15μlの比で組み合わせ(例えば、10cmペトリ皿では、20μgDNAと120μl Lipofekutamine)、30分間インキュベーションした後に細胞に加えた。β時間培養した後、トランスフェクション混合液を新しい培地に置換し、トランスフェクションされた細胞を更にインキュベートした。一晩培養した後、細胞をトリプシン処理して、ゼオシンを100μg/mlの濃度になるまで加えた新しい培地の入った新しいペトリ皿(90mm)にまき(1:15、1:30、1:60、1:120希釈)、細胞を更に培養した。コロニーが見えるようになったら、個々のコロニーを剥がして単離し、24ウェルプレートのゼオシンを含有していない培地の中に移す。〜70%コンフルエントまで成長したら、細胞を6ウェルプレートに移した。安定なコロニーを6ウェルプレートで2週間増殖させた後、d2EGFPシグナルをXL−MCL Beckman Coulter flowcytometerで測定した。d2EGFPシグナルの平均値をd2EGFP発現レベルの指標とした。2週間後にコロニーの2回目の測定した。その後、ゼオシン非存在下でコロニーを更に培養した。
【0076】
結果
図5はCMVプロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を含むコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるCMVコントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するPER.C6コロニーが多く得られたことを示している。CMVコントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定したところ、37であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は14に減少しており、長期にわたると発現が安定でないことを示している。これに対して、STAR67−CMVプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定すると101あり、60日で測定すると45であった。従って、トランスフェクションしてから60日後では、安定にトランスフェクションされたクローンにおいてSTAR6を有するCMVコンストラクトは、CMVプロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルが3.2倍高くなる。
【0077】
図6はEF1OC−プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を含むコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるEF1αコントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するPER.C6コロニーが多く得られたことを示している。EF1αコントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定したところ、5であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーにおけるd2EGFPシグナルの平均は6であった。これに対して、EF1Ct−STAR67プラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定すると25であり、60日で測定すると20であった。従って、トランスフェクションしてから30日後及び60日後の両方において、安定にトランスフェクションされたクローンにおいて、STAR67を有するEF1αコンストラクトはEF1αプロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルが4倍高くなる。
【0078】
図7はUB6プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を含むコンストラクトをトランスフェクションすると、STAR67を有していない「空」コントロールであるUB6コントロールと比べて、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するPER.C6コロニーが多く得られたことを示している。UB6コントロールプラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定したところ、4であった。トランスフェクション後60日では、これら10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は2であった。これに対して、UB6−STAR67プラスミドをトランスフェクションした10コロニーのd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクション後30日で測定すると27であり、60日で測定すると18であった。従って、トランスフェクションしてから30日後及び60日後の両方において、安定にトランスフェクションされたクローンにおいて、STAR67を有するUB6コンストラクトはUB6プロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルが7〜9倍高くなる。
【0079】
従って、PER.C6細胞においても、STAR67をプロモーターの上流に配置することにより、STAR67を有さないコンストラクトに比べて有意に高いタンパク質発現レベルが得られる。従って、STAR67は異なった関連のない細胞種において機能する。
【0080】
実施例4:他の抗リプレッサー要素と組み合わせてCHO細胞においてSV40プロモーターを強化するSTAR67の新しい構造
STAR67がSV40プロモーターに隣接して存在する際に、単独で又は他の抗リプレッサー要素(この実施例ではSTAR7)と組み合わせた際に、このプロモーターの発現レベルに影響を与えるかを調べた。この目的で用いたコンストラクトは以下の通りである。
1 SV40−d2EGFP−ires−Zeo (SV40 コントロール)
2 STAR67−SV40−d2EGFP−ires−Zeo (SV40−STAR67)
3 STAR7−SV40−d2EGFP−ires−Zeo−STAR7 (SV40−STAR7/7)
4 STAR7−STAR67−SV40−d2EGFP−ires−Zeo−STAR7 (SV40−STAR67 7/7)
【0081】
材料及び方法
SV40プロモーターは、pIRESを鋳型として、プライマーTTGGTTGGGGCGCGCCGCATCACCATGGCCTGAAATAACCTCTGAAAGAGG(配列番号81)及びTTGGTTGGGAGCTCAAGCTTTTTGCAAAAGCCTAGGCCTCCAAAAAAGCCTCCTC(配列番号82)を用いて増幅した。PCR断片をCVM−d2EGFP−IRES−ZeoのAscI及びSad部位にクローニングし、ここからCMVプロモーターを取り除いた。実施例2と同様に、CHO細胞にトランスフェクションし、コロニーを単離し、増殖し、分析した。
【0082】
結果
図8は、抗リプレッサー要素を有していない「空」コントロール(SV40コントロール)と比較して、SV40プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67を有するコンストラクト(SV40−STAR67)又は全コンストラクトに隣接してクローニングしたSTAR7を含むコンストラクト(SV40−STAR 7/7)をトランスフェクションしても、有意に高いレベルのd2EGFPタンパク質を発現するCHOコロニーが得られなかったことを示している。SV40コントロールプラスミドをトランスフェクションした18コロニーにおけるd2EGFPシグナルの平均は、トランスフェクションしてから40日で測定したところ86であった。これに対して、トランスフェクション後40日で測定したSV40−STAR67プラスミドをトランスフェクションした18コロニーにおけるd2EGFPシグナルの平均は82であり、トランスフェクション後40日で測定したSV40−STAR 7/7プラスミドをトランスフェクション下18コロニーにおけるd2EGFPシグナルの平均は91であった。従って、これらの抗リプレッサー要素のCHO細胞におけるSV40プロモーターにおける有意な影響は観察されなかった。
【0083】
これらの細胞におけるSV40プロモーターからの発現レベルはすでに極めて高く、非常に強力なプロモーターとして考えられているCMVプロモーターで見られたよりも遙かに高いものですらあるように思われる。抗リプレッサー要素の非存在下でSV40プロモーターをCHO細胞において用いた際のバックグラウンド発現がこのように高いということは、STAR67単独又はトランス遺伝子に隣接したSTAR7の有意な影響が観察されなかった理由を説明しうるものである。
【0084】
しかし、SV40−STAR67 7/7プラスミドをトランスフェクションした18コロニーにおけるd2EGFPシグナルの平均は、40日後に測定したところ209であり、これは18コントロールコロニーの平均(86)に対して2.4倍高い。従って、他の抗リプレッサー要素と組み合わせてSTAR67要素を用いると、有意に高いd2EGFP発現レベルを示し、安定してトランスフェクションされたCHOコロニーが多く得られる。
【0085】
従って、この様な新しい構造(5‘−STAR配列A−STAR配列C−プロモーター−関心のあるタンパクをコードする核酸−STAR配列B−3’、なお本実施例においてはSTAR配列A及びBはSTAR7であり、STAR配列CはSTAR67である)において、STAR要素はこれまで開示されていた構造よりも遙かによく機能するように思われる。
【0086】
隣接するSTAR7要素を、隣接するSTAR6(配列番号6)要素又は隣接するSTAR4(配列番号4)要素により置換して、SV40プロモーターの上流のSTAR67と組み合わせて(それぞれSV40−STAR67 6/6及びSV40−STAR67 4/4であり、上記と同じ命名法を用いた)実験を行い、これらの組み合わせによっても発現が改善することが観察された。このことは、隣接するSTAR7要素は他のSTAR配列と交換することが可能であることが示し、さらにSTAR配列を有する発現カセットの新しい構造の改善が観察された。
【0087】
実施例5:STAR67とSTAR7とを組み合わせることにより安定してトランスフェクションされたCHO細胞においてUB6に促進された抗体発現レベルの促進
実施例4において、STAR67とSTAR7を組み合わせることによりCHO細胞におけるd2EGFPタンパク質の発現レベルが高められることを示した。ここでは、STAR67とSTAR7の組み合わせを抗体の産生に用いることができるかを調べた。EpCAM分子に対する抗体(Huls et al., 1999)を試験タンパク質として選択し、UB6プロモーターを用いた。
【0088】
材料及び方法
プラスミド
重鎖cDNA(HC−EpCAM)を、UB6プロモーターを有するコンストラクト内にクローニングした。HC−EpCAMはIRES配列によりゼオシン抵抗性遺伝子に連結している。軽鎖cDNA(LC−EpCAM)もまたUB6プロモーターを有するコンストラクト内にクローニングした。LC−EpCAMはIRES配列によりピューロマイシン抵抗性遺伝子に連結している。これら2種類のプラスミドはともにUB6(HC+LC)コントロールを表す(図9)。
【0089】
STAR67及びSTAR7の効果を試験するために、STAR67をHC+LCの両者のコンストラクトのUB6プロモーターの上流にクローニングした。STAR7を全カセットに隣接するように、5‘末端及び3’末端の両方にクローニングした(図9)。これら2種類のプラスミドはSTAR7−STAR67−UB6(HC+LC) STAR7を表す。
【0090】
CHO細胞のトランスフェクション及び培養
チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO−K1(ATCC CCL−61)を実施例2と同様にトランスフェクションして培養し、ここで選択のためにゼオシン(100μg/ml)及びピューロマイシン(2.5μg/ml)を用いた。トランスフェクションの1日後、ゼオシンを培地に加えた。第1のコロニーが見えるようになったとき(ゼオシンを加えて約7日後)、培地を除いてピューロマイシンを含有する培地に置換した。約7日後にコロニーを単離して24ウェルプレートのゼオシンのみを含有する培地に移した。
【0091】
結果
図9は、UB6プロモーターの上流にクローニングしたSTAR67要素及び全カセットに隣接するようにクローニングした2つのSTAR7要素を有する抗体コンストラクトをトランスフェクションすることにより、STAR67及びSTAR7を有していない「空」コントロールであるUB6(HC+LC)コントロールと比較して、有意に高いレベルのEpCAM抗体を発現している(抗ヒトIgG抗体を用いてELISA法により測定)CHOコロニーが多く得られた、ということを示している。UB6(HC+LC)コントロールプラスミドをトランスフェクションした18コロニーにおけるEpCAM産生の平均は、トランスフェクション後25日で測定したところ、2.7pg/細胞/日であった。選択薬剤であるゼオシン及びピューロマイシンは25日後に除去した。トランスフェクション後45日では、これら18コロニーにおけるEpCAM産生の平均は2.7pg/細胞/日であった。これに対して、STAR7−STAR67−UB6(HC+LC)−STAR7をトランスフェクションした18コロニーにおけるEpCAM産生シグナルの平均を27日後に測定したところ、6.7pg/細胞/日であり、トランスフェクション後45日に測定したところ7.7pg/細胞/日であった。従って、トランスフェクション後30日及び45日の両方において、安定にトランスフェクションされたクローンにおいて、STAR67/STAR7を有するUB6コンストラクトは、UB6プロモーターに促進され、レポータータンパク質の発現レベルが2.5〜2.9倍高くなる。
【0092】
従って、STAR67をプロモーターの上流に、2つのSTAR7要素をカセットに隣接するように配置することにより、STAR67/STAR7を有していないコンストラクトに比較して、CHO細胞において有意に高いEpCAM抗体発現レベルが得られた。
【0093】
実施例6:STAR6及びSTAR7がエンハンサーブロッカーであるのに対して、STAR67はエンハンサーブロッカーではない。
特性が調べられたこれまで既知のSTAR配列はすべて、STAR6及びSTAR7を含め、エンハンサーブロッカーである(WO 03/004704、Kwaks et al, 2003)。エンハンサーブロッカー活性は、STAR要素を強力なエンハンサーとプロモーターとの間に配置することにより試験される。ここでは、STAR67もまたエンハンサーブロッカーであるかどうかを調べた。
【0094】
材料及び方法
d2EGFP遺伝子をプライマーTTGGTTGGTCATGAATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTC(配列番号75)及びATTCTCTAGACTACACATTGATCCTAGCAGAAGCAG(配列番号76)用いてPCRで増幅し、Nco1及びXbaI制限酵素部位を用いてプラスミドpGL3−プロモーター(Promega)にクローニングし、ルシフェラーゼ遺伝子を置換してプラスミドpGL3−プロモーター−GFPを作製した。リンカー(オリゴCGATATCTTGGAGATCTACTAGTGGCGCGCCTTGGGCTAGCT(配列番号77)及びGATCAGCTAGCCCAAGGCGCGCCACTAGTAGATCTCCAAGATATCGAGCT(配列番号78)をアニーリングして作成した)をSad及びBglII部位にクローニングしてマルチクローニング部位を作製した。リンカーのライゲーションにより元々のBglII部位を破壊し、リンカーDNA内に固有のBglII部位を作製した。BsaBI及びBamHIを用いて、SV40エンハンサーをプラスミドpGL3−basic(Promega)から切り出し、EcoRV及びBglII部位を用いてpGL3−リンカー−プロモーター−GFPにクローニングし、プラスミドpGL3−エンハンサー−プロモーター−GFPを作製した。STAR40要素(配列番号40)をKpnI及びSad部位を用いてSV40エンハンサーの上流に配置し、エンハンサーの上流配列に対する作用を阻害した。最後に、抗リプレッサー要素STAR6、STAR7及びSTAR67を、SV40エンハンサーとSV40最小プロモーターとの間にSpeI及びAscI制限酵素部位を用いて配置した。
【0095】
CHO細胞のトランスフェクション及び培養
チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO−K1(ATCC CCL−61)に実施例2と同様にトランスフェクションした。トランスフェクションの1日後に、d2EGFPレベルをEpics XLフローサイトメーター(Beckman Coulter社製)にて測定した。
【0096】
結果
図10は、STAR6及びSTAR7が同じ分析法においてエンハンサーブロッカーとして作用するのに対し、STAR67がエンハンサーブロッカーではないことを示している。STAR6、STAR7及びSTAR67はd2EGFP遺伝子の上流にあるSV40エンハンサーと最小SV40プロモーターの間にクローニングした。STAR要素をエンハンサーとプロモーターの間にクローニングしなかった場合には、強力な転写活性化がおきた(これを任意に100%と設定した)。STAR6又はSTAR67をエンハンサーとプロモーターの間に配置した場合には、転写はバックグラウンドレベルまで低下し、このことはSTAR6及びSTAR7が強力なエンハンサーブロッカーであることを示している。これに対して、STAR67をエンハンサーとプロモーターの間にクローニングした場合には、相対的転写レベルはまだコントロールに対して80パーセントであり、このことはSTAR67が良いエンハンサーブロッカーではないことを示しており、これはSTAR6及びSTAR7だけでなく、以前に記載されている(WO 03/004704、Kwaks et al, 2003)他の抗リプレッサー要素と対照的である。
【0097】
実施例7:STAR67は安定にトランスフェクションされたCHO細胞においてUB6及びCMVに促進された抗体発現レベルを増加させる
実施例5において、STAR67及びSTAR7を組み合わせることによりCHO細胞におけるEpCAM抗体の発現レベルが強化されることを、重鎖と軽鎖を含む2つの異なるプラスミドの関係において示した。本実施例では、STAR67が、重鎖及び軽鎖が1つのプラスミド上にある場合にEpCAM抗体の産生に用いることができるかどうかを調べた。各選択可能なマーカーについて同時選択法を用いた。
【0098】
材料及び方法
重鎖cDNA(HC−EpCAM)をUB6プロモーターの制御下におき、IRES配列によりゼオシン抵抗性遺伝子に連結した。軽鎖cDNA(LC−EpCAM)をCMVプロモーターの制御下におき、IRES配列によりピューロマイシン抵抗性遺伝子に連結した。基本的に、これらは実施例5において用いたコンストラクトである。これら2つの発現カセットを1つのプラスミド上に、2つの発現ユニットの転写が反対方向になるように配置した。コントロールプラスミドにおいて、UB6とCMVプロモーターは500bpの詰めもの(stuffer)で分離した(EpCAMコントロール)(図10)。他のプラスミドにおいて、STAR67をUBβプロモーターとCMVプロモーターの間に配置した(EpCAM STAR67)(図10)。
【0099】
CHO細胞の転写及び培養
チャイニーズハムスター卵巣細胞株CHO−K1(ATCC CCL−61)を実施例2と同様にトランスフェクションして培養し、選択にはゼオシン(100μg/ml)及びピューロマイシン(2.5μg/ml)を用いた。実施例5において、両方の選択マーカーについて連続選択を用いた。これに対して本実施例においては、両方の選択薬剤を同時に培地中に存在させた。トランスフェクション後1日で、ゼオシン及びピューロマイシンを培地中に加えた。選択培地はコロニーを単離する(トランスフェクション後約14日)まで存在させた。コロニーを単離し24ウェルプレートに移した後、細胞をゼオシン及びピューロマイシン存在下で培養した。
【0100】
結果
図11はUBβプロモーターとCMVプロモーターの間にクローニングしたSTAR67を有する抗体コンストラクトをトランスフェクションすると、EpCAM抗体を発現する(抗ヒトIgG抗体を用いてELISA法により測定)CHOコロニーが多く得られるということを示している。EpCAM STAR67プラスミドをトランスフェクションした19コロニーにおいてEpCAM産生の平均は、トランスフェクション後25日において測定すると9.8pg/細胞/日であった。
【0101】
これに対して、驚くべきことにEpCAMコントロールプラスミドをトランスフェクションするとコロニーは全く生存しなかった。ゼオシン又はピューロマイシン一方のみで選択を行った場合、EpCAMコントロールコロニーは生存した。しかし、選択圧を重鎖及び軽鎖の両方にかけることによって選択圧を強めた場合、このような条件ではトランスフェクションしたプラスミド中に存在するSTAR67を有するコロニーしか生き残ることができなくなった。
【0102】
この結果は、STAR67の導入が1つのSTAR67要素の上流及び下流に配置された2つのプロモーター、UB6プロモーター及びCMVプロモーターに有益な影響を与える、ということも示している。このことはSTAR67が両方向性に作用しうるということを示している。
【0103】
EpCAMコントロールとEpCAM STAR67プラスミドとの違いは、選択圧を高くした場合にEpCAM STAR67のトランスフェクションだけがコロニーの形成をもたらす、という点においてはっきりしている。これにより、このプラスミドの構造を、この効果を媒介する責任を担っている領域をSTAR67内に同定するために用いる機会が開かれる。STAR67のより小さな重複部分を、EpCAM分子を促進するUB6プロモーターとCMVプロモーターとの間に配置する。STAR67の部分が機能を有するならば、ゼオシン及びピューロマイシンの両方を同時に選択薬剤として用いた際にコロニーは生存するであろう。STAR67の部分が機能を有さないないならば、同様の選択条件下ではコロニーは生存しないはずである。
【0104】
従って、プロモーターの上流にSTAR37を配置することにより、そのような抗リプレッサー要素を有していないコンストラクトと比較して、CHO細胞において有意に高いEpCAM抗体発現レベルがもたらされた。同様の実験を、抗EpCAM抗体の重鎖及び軽鎖の発現を促進するSV40プロモーターについても行った。他の実験において、STAR67を他のSTAR配列に交換した。更なる実験において、重鎖及び軽鎖をコードする2つの発現単位の方向を、両方が同じ方向になるように改変した。他の実験において、重鎖及び軽鎖の発現ユニットをそれぞれ異なる核酸分子上に配置し(実施例5のように)、得られたクローンを両者の選択可能マーカーについて同時に選択した。他の実験において、ホスト細胞の種類を変更した。これらの変更の組み合わせを実行した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】発明の概略図である。A)トランス遺伝子(例えばd2EGFP遺伝子をコードする)、IRES、及び選択可能なマーカー(zeo、ゼオシン耐性を与える)をCMVプロモーターの制御下に有する(5‘から3’方向)2シストロン遺伝子。発現ユニットはSV40転写終結部位を3‘末端に有する(t)。コンストラクト名はCMV−d2EGFP−ires−Zeo(CVMコントロール)である。 B)Aと同様のコンストラクトであるが、STAR67がCMVプロモーターの上流にクローニングされている。コンストラクト名はSTAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo(CMV−STAR67)である。 C)Bと同様のコンストラクトであるが、上流及び下流のSTAR7要素が全コンストラクトに隣接するようにクローニングされている。コンストラクト名はSTAR7−STAR67−CMV−d2EGFP−ires−Zeo−STAR7(CMV−STAR67 7/7)である。
【図2】STAR67はCHO細胞においてCMVに促進されたd2EGFPの発現を改善する。10個の独立で安定なコロニーについてd2EGFPシグナルの平均をCHO細胞において示されたコンストラクトについてプロットした。A)CMVコントロール;B)STAR67−CMV、X(IO);10個のコロニーのd2EGFP発現レベルの平均。詳細は実施例2を参照されたい。
【図3】STAR67はCHO細胞においてEF1αに促進されたd2EGFP発現を改善する。図2と同様であるが、これはEF1αについてである。A)EF1αコントロール;B)STAR67−EF1α。
【図4】STAR67はCHO細胞においてUB6に促進されたd2EGFP発現を改善する。図2と同様であるが、これはUB6についてである。A)UB6コントロール;B)STAR67−UB6。
【図5】STAR67はPER.C6細胞においてCMVに促進されたd2EGFP発現を改善する。図2と同様であるが、これはPER.C6細胞についてである。A)CMVコントロール;B)STAR67−CMV。
【図6】STAR67はPER.C6細胞においてEF1αに促進されたd2EGFP発現を改善する。図3と同様であるが、これはPER.C6細胞についてである。A)EF1αコントロール;B)STAR67−EF1α。
【図7】STAR67はPER.Cβ細胞におけるUB6に促進されたd2EGFP発現を改善する。図4と同様であるが、これはPER.C6細胞についてである。A)UBβコントロール;B)STAR67−UB6。
【図8】STAR67はCHO−K1細胞において他のSTAR要素と組み合わせてSV40に促進されたd2EGFP発現を改善する。図2と同様であるが、ここではCHO細胞においてSV40プロモーターと、示したコンストラクトを使用した。d2EGFPシグナルの平均をトランスフェクションして60日後に、18〜20個の独立で安定したコロニーについてプロットした。A)SV40コントロール、SV40−STAR67、SV40−STAR7/7;B)SV40コントロール及びSV40−STAR67 7/7。詳細は実施例4を参照されたい。
【図9】STAR67はCHO−K1細胞においてUB6に促進されたEpCAM抗体の発現を改善する。詳細は実施例5を参照されたい。A)STAR要素を有していないコンストラクト;B)プロモーターの上流にあるSTAR67及び隣接するSTAR7要素を有するコンストラクト。抗EpCAM抗体の濃度はpg/細胞/日で示した。X(18):18コロニーの平均産生レベル。
【図10】STAR6及び7がエンハンサーブロッカーであるのに対して、STAR67はエンハンサーブロッカーではない。詳細は実施例6を参照されたい。
【図11】STAR67は安定にトランスフェクションしたCHO細胞においてUB6及びCMVに促進された抗体発現レベルを増加させる。詳細は実施例7を参照されたい。A)抗EpCAM重鎖(HC)及び軽鎖(LC)をそれぞれプロモーターの後ろに含んでおり、それぞれが異なった選択可能なマーカー遺伝子に連結している単一DNA分子()両者のマーカーについて同時選択を使用した):STAR要素を有していないコンストラクト。コロニーは全く見いだされなかった;B)STAR67を2つのプロモーターの間に有する同じコンストラクト。抗EpCAM抗体の濃度はpg/細胞/日で示した。X(19):19コロニーの平均産生レベル。
【0106】
参考文献
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号66、
b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体;
よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列を有する組換え核酸分子であって、
前記組換え核酸分子は更に発現カセットを有しており、前記発現カセットは関心のある核酸と連結した異種プロモーターを有しており、関心のある前記核酸は好ましくは関心のあるタンパク質の全長又は一部をコードしている、上記組換え核酸分子。
【請求項2】
抗リプレッサー活性を有する前記核酸配列が前記発現カセット内において前記プロモーターの上流に位置している請求項1に記載の分子。
【請求項3】
抗リプレッサー活性を有する前記配列と前記プロモーターとが2kb未満離れている請求項2に記載の分子。
【請求項4】
関心のあるタンパク質をコードする前記核酸が更に選択可能なマーカー遺伝子をコードする多シストロン遺伝子内に存在する、請求項1から請求項3のいずれか1つの請求項に記載の分子。
【請求項5】
抗リプレッサー活性を有する少なくとも一つの他の配列を更に有しており、前記少なくとも一つの他の配列が
a)配列番号1〜65のいずれか、
b)配列番号1〜65のいずれかの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体、
から選択されたものである、請求項1から請求項4のいずれか1つの請求項に記載の分子。
【請求項6】
発現カセットを有する組換え核酸分子であって、
前記発現カセットは5‘−抗リプレッサー配列A−プロモーター−関心のあるタンパク質の全長又は一部をコードする核酸−抗リプレッサー配列B−3’を有しており、抗リプレッサー配列A及びBは同じものであっても異なるものであってもよく、
(i)配列番号1〜65のいずれか、
(ii)配列番号1〜65のいずれかの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
(iii)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
(iv)(i)〜(iii)の任意の1つの相補体
からなるグループより選択されており、
前記発現カセットは更に前記抗リプレッサー配列AとBの間に
a)配列番号66、
b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体、
よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する配列を有しているという特徴を備えている組換え核酸分子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の分子を有する細胞。
【請求項8】
哺乳類細胞である請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
CHO細胞である請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
関心のあるタンパク質を生成する方法であって、関心のあるタンパク質をコードする組換え核酸分子を有する細胞を培養して前記細胞内で関心のあるタンパク質をコードする前記核酸を発現させるステップを有しており、
前記組換え核酸分子が
a)配列番号66、
b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列を有しているという特徴を備える、前記方法。
【請求項11】
更に関心のある前記タンパク質を単離するステップを有する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗リプレッサー活性を有する前記核酸配列が関心のあるタンパク質の発現を制御するプロモーターの上流に位置している請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
抗リプレッサー活性を有する前記配列と前記プロモーターとが2kb未満離れている請求項12に記載の方法。
【請求項14】
関心のあるタンパク質をコードする前記核酸が更に選択可能なマーカー遺伝子をコードする多シストロン遺伝子内に存在する請求項10〜13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が哺乳類細胞である請求項10〜14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
前記細胞がCHO細胞である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
a)配列番号66、
b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体、
からなるグループから選択された抗リプレッサー活性を有する核酸配列を、関心のある核酸の発現を上昇させるために使用する方法。
【請求項18】
関心のある2種類のポリペプチドを発現するホスト細胞を生成する方法であって、
a)ホスト細胞内に1種類以上の核酸分子を導入するステップであって、この又はこれらの核酸分子はすべて
(i)第1の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第1の選択可能なマーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、
(ii)第2の関心のあるポリペプチドをコードする配列及び第2の選択可能なマーカー遺伝子に機能的に連結したプロモーター、並びに
(iii)a)配列番号1〜66のいずれか1つ、b)配列番号1〜66のいずれか1つの断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、c)a)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する配列、並びにd)a)〜c)の任意の1つの相補体、よりなるグループから選択された少なくとも1つの抗リプレッサー活性を有する配列、
を有している上記ステップ、並びに
b)前記第1及び第2の選択可能なマーカー遺伝子の発現についてほぼ同時に選択することによりホスト細胞を選択するステップ
を有する上記方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法により得られたホスト細胞を培養して前記第1及び第2のポリペプチドを発現させるステップと、任意で前記ポリペプチドを単離するステップとを有する、関心のある2種類のポリペプチドを発現させる方法。
【請求項20】
抗リプレッサー活性を有する前記配列が、
a)配列番号66、
b)配列番号66の断片であって、抗リプレッサー活性を有する前記断片、
c)ヌクレオチド配列についてa)又はb)に少なくとも70%相同な配列であって、抗リプレッサー活性を有する前記配列、並びに
d)a)〜c)の任意の1つの相補体;
よりなるグループから選択された請求項18または請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項18から20のいずれか1つの請求項に記載に方法であって、前記2種類のポリペプチドが多量体タンパク質の一部である方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−505626(P2008−505626A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519805(P2007−519805)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/053251
【国際公開番号】WO2006/005718
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(507006282)
【Fターム(参考)】